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平成12年(ワ)第3545号 不正競争行為差止等請求事件
(口頭弁論終結の日 平成13年1月30日)
  判      決
原        告      ジェイフォン東日本株式会社
               (旧商号 ジェイフォン東京株式会社)
    原告訴訟代理人弁護士      田 中 克 郎
 同               宮 川 美津子
    同               柏 尾 哲 哉
同               加 畑 直 之
    同       高 橋   聖
被        告      株式会社大行通商
    被告訴訟代理人弁護士      岸 田   功
同       中 田 敦 久
同               小 池 律 子
    同               田 村   明
    同               野 嶋   直
    同               渋 谷 麻衣子
主      文
1 被告は,その営業に関し,別紙目録記載の表示及び「j-phone.co.jp」のドメ
イン名を使用してはならない。
2 被告は,インターネット上のアドレス「http://www.j-phone.co.jp」におい
て開設するウェブサイトから,別紙目録記載の表示を抹消せよ。
3 被告は,原告に対し,300万円及びこれに対する平成12年4月24日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は,これを4分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の負担
とする。
6 この判決のうち第1項ないし第3項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 原告の請求
1 主文1,2項と同旨
 2 被告は,原告に対し,950万円及びこれに対する平成12年4月24日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,「J-PHONE」等の表示を用いて営業活動を行っている原告が,被告に
対し,被告のインターネット上で「j-phone.co.jp」のドメイン名を使用し,そのウ
ェブサイトにおいて「J-PHONE」等の表示を用いて商品の宣伝等をする行為が不正競
争防止法2条1項1号,2号所定の不正競争行為に該当するとして,上記ドメイン
名及び「J-PHONE」,「ジェイフォン」,「J-フォン」を横書きにした別紙目録1な
いし5の各表示(以下,全体を「本件表示」といい,個別の表示を指すときは「本
件表示1」などという。)の使用差止め,ウェブサイトからの本件表示の抹消並び
に損害賠償を求めている事案である。
1 当事者間に争いのない事実等(証拠等により認定したものについては,末尾
にその証拠等を掲げた。)
 (1) 当事者
  原告は,移動体通信事業,すなわち携帯電話による通信サービスを主たる
目的とする株式会社である(なお,原告は,当初「株式会社東京デジタルホン」の
商号を用いていたが,平成11年10月1日付けで「ジェイフォン東京株式会社」
に商号変更し,更に平成12年10月2日付けでこれを現在の商号である「ジェイ
フォン東日本株式会社」に変更した。)。
  被告は,水産物,海産物及び食品等の輸出入販売を主たる目的とする株式
会社である。
 (2) 原告の業務内容等
  原告は,平成6年4月1日から携帯電話に関する通信サービスを消費者に
提供している。
原告は,サービス開始当初は,その関連会社であるジェイフォン関西株式
会社(旧商号「株式会社関西デジタルホン」)及びジェイフォン東海株式会社(旧
商号「株式会社東海デジタルホン」)との提携により,関東圏,中部圏及び関西圏
を通話エリアとして通信サービスを提供し,原告の当初の商号である「東京デジタ
ルホン」あるいはその一部である「デジタルホン」をそのままサービス名称として
使用し,広告宣伝活動を行っていた。
  原告は,平成9年2月7日からは,上記2社に加え,ジェイフォン北海道
(旧商号「株式会社デジタルツーカー北海道」),ジェイフォン東北(旧商号「株
式会社デジタルツーカー東北」),ジェイフォン北陸(旧商号「株式会社デジタル
ツーカー北陸」),ジェイフォン中国(旧商号「株式会社デジタルツーカー中
国」),ジェイフォン四国(旧商号「株式会社デジタルツーカー四国」)及びジェ
イフォン九州(旧商号「株式会社デジタルツーカー九州」)の各社(以下,上記の
8社を併せて「原告関連会社」といい,これらと原告とを併せて「『J-PHONE』グル
ープ各社」という。)と提携して通話エリアを日本全国に拡大し,そのころか
ら「J-PHONE」というサービス名称(以下「本件サービス名称」という。)の使用を
開始した。(本件サービス名称の使用開始につき,弁論の全趣旨)
(3)被告によるドメイン名の登録
被告は,日本におけるドメイン名の割当てを統括している社団法人日本ネ
ットワークインフォメーションセンター(以下「JPNIC」という。)から,平
成9年8月29日に「j-phone.co.jp」のドメイン名(以下「本件ドメイン名」とい
う。)の割当てを受け,遅くとも同年10月ころか
ら「http://www.j-phone.co.jp」というインターネット上のアドレスにおいて,イ
ンターネットのウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)を開設してい
る。
 (4) 本件ウェブサイトの内容
  被告が開設する本件ウェブサイトの内容の変遷は,概ね次のとおりであ
る。
 ア 平成11年7月ころ
トップページの最上段には「J-PHONEのホームページへようこそ!」という
フレーズが横スクロール表示され,その他にも「J-PHONEをご利用頂きましてありが
とうございます」「J-PHONEへのご意見・ご質問をお寄せください」「ホームページ
にてご回答させていただきます」といった表示がされていた。
 イ 平成11年8月ころ
  トップページの最上段には「J-フォン」という文字がひときわ大きなフ
ォントで表示され,しばらく時間が経過すると「J-フォン」の表示が本件表示3
に入れ替わるという仕掛けが施されていた。また,ウェブページ中には「J-PHONE」
の表示が見られたが,その文字は本件表示5と同じように斜体で表記されていた。
 ウ 平成11年11月ころ
  前記「J-PHONE」グループ各社のウェブサイトにリンクする仕掛けになって
いた。
 エ 平成11年12月ころ
  トップページに「皇太子殿下,皇太子妃殿下雅子さまおめでとうございま
す」や「2000年ミレニアム記念イベント近日公開予定!!」等原告の営業とは
関係のないトピックを表示しながら,画面を下にスクロールさせると「J-PHONE」グ
ループ各社のウェブサイトへのリンク集が現れるという体裁のページになってい
た。
 オ 平成12年12月7日以降
  被告は本件ウェブサイトの運営を一時的に停止しており,トップページに
は本件ドメイン名が表示されるほかは,「ページを表示できません」旨の表示がさ
れるようになっている。(乙4)
  運営が停止される直前の本件ウェブサイトにおいては,被告は本件表示を
いずれも用いていた。
 (5) 本件サービス名称の周知性
  現時点(当審口頭弁論終結時)において,本件サービス名称は,原告の営
業を示す表示として,少なくとも原告のサービス提供地域内で,利用者に広く認識
されている。
 2 争点及びこれに関する当事者の主張
(1)被告が本件ドメイン名を使用することは,不正競争防止法2条1項1号,
2号にいう「商品等表示」の「使用」に該当するかどうか。
  (原告の主張)
  ドメイン名は,インターネット内で特定のコンピュータを一意に識別する
ための記号であるIPアドレス(IPは,インターネット・プロトコル,すなわち
インターネット通信規約を表す。)が単なる数字の羅列で覚えにくいため,人間に
分かりやすい形でコンピュータを特定するために利用される,IPアドレスとほぼ
1対1で対応するアルファベットの文字列である。
  ドメイン名は,利用者の記憶に残りやすく,反復利用等に便利であること
から,このような特性を生かして自己の名称,社名,商標等をドメイン名として登
録するということが通常行われており,我が国では「www.(企業名).co.jp」とい
う構成のドメイン名が数多く登録され,企業名の他にも,商標その他の著名な呼称
をドメイン名に採用している例は多い。したがって,ドメイン名によって特定され
るホームページを見る者は,ドメイン名に含まれる企業名や商標によってウェブサ
イトの開設者を識別するようになっている。
  このように,ドメイン名が,単なるインターネット上の住所表示たる機能
のみならず,商品や役務に関する情報の発信人を示す識別標識として機能している
ことからすれば,ドメイン名が,当該ウェブサイトの提供する商品を個別化する認
識手段,あるいは特定の営業主体を表示し,他の営業と区別する機能を有する標章
であるところの不正競争防止法にいう「商品等表示」に該当することは明らかであ
る。
そして,被告は,本件サービス名称を含む本件ドメイン名を本件ウェブサ
イトのアドレスに使用し,しかも本件ウェブサイトにおいて携帯電話関連情報の提
供や携帯電話関連商品の販売等を行っているのであるから,不正競争防止法上の
「商品等表示」を使用したものと評価することができる。
  (被告の主張)
ドメイン名は,IPアドレスに代わるものとして考案された記号で,コン
ピュータ内部で処理されるときは,数字で構成されたIPアドレスに変換される。
ドメイン名を統括するJPNICにおいても,ドメイン名はインターネット上での
識別子であり,識別子以外のいかなる意味も有さないものとして扱われている。ド
メイン名は,ドメイン・アドレスという別名のとおり,一般の住所に相当するネッ
トワーク上の単なる識別符号にすぎない。
  実際にも,原告のウェブサイトにアクセスしようとする者がそのドメイン
名を知らない場合には,検索エンジンを利用するか,又は原告の出版物等を参照し
てアクセスするのが通常であり,推量で本件ドメイン名を入力して原告のウェブサ
イトにアクセスすることは極めてまれであろう。また,ドメイン名は,構造的に,
トップレベルドメイン(本件では「.jp」),第2ドメイン(本件では「.co」),
第3ドメイン(本件では「j-phone」)からなっており,トップレベルドメインと第
2ドメインの組合せを考えると,本件ドメイン名が直ちに原告の商品等表示と誤認
される可能性は低い。
  以上のように,ウェブサイトのアドレス上のドメイン名は,数字の羅列で
あるIPアドレスに代わる単なる識別符号であるから,本件ドメイン名は不正競争
防止法上の「商品等表示」に該当しない。
  ドメイン名は,前述のとおりウェブサイトの宛名ないし住所であるから,
当該ウェブサイトの利用者(閲覧者)に対しアクセス先を表示するため,また,そ
の利用者からEメール等を送ってもらうため(通常,ウェブページ上にそのドメイ
ン名を付したEメールアドレス先を表示する。),ドメイン名の登録者が自己のウ
ェブページ上に当該ドメイン名を表示することは,ウェブページ上に自己の住所を
表示する行為であり,ドメイン名の使用に付随する行為として当然に許容される。
  よって,本件ドメイン名を必要な範囲において本件ウェブサイト上で使用
する場合も,不正競争防止法上の「商品等表示」の「使用」に該当しないというべ
きである。
  実質的にみても,ドメイン名は,商品や役務等の出所を表示するものでは
なく,商品の識別化や顧客吸引,企業の信用の維持向上につながるものではない。
例えば,仮にある消費者が,サーチエンジン検索結果あるいは推量で別の会社のド
メイン名を入力し,当初意図したウェブサイトとは別のウェブサイトに間違ってア
クセスした場合,そのドメイン名だけで商品や役務について出所表示を判断するか
疑問である。すなわち,事業者の場合,自己のウェブページ中に自分の営業等の名
称を別に記載するのが通常であるから,その消費者が当該ウェブページの内容から
出所表示を識別することはあっても,当該ドメイン名から出所を識別することはな
い。例を挙げれば,① ドメイン名は「○○.co.jp」であるが,ウェブページの内
容に「○○」と出所が表示されている場合,消費者は,ドメイン名ではなく「○
○」とのページの内容から「○○」を出所と考えるのであり,② ドメイン名は
「○○.co.jp」であるが,ウェブページの内容に「△△」と出所が表示されている
場合には,消費者は「△△」を出所と考えるであろう。さらに,③ ドメイン名は
「○○.co.jp」であるが,ウェブページが白地の場合を考えると,この場合に消費
者が「○○」を出所と考えるかどうかは,かなり疑問である。
  ドメイン名は種々の法的問題を含むものであり,それらの解決が必要なこ
とは否定しないが,それは今後の立法等にゆだねられるべきであり,本件におい
て,ドメイン名それ自体を「商品等表示」に当たると解することは現行法の解釈の
枠を超えると言わざるを得ない。
 (2) 本件サービス名称等は原告の営業表示として「周知」ないし「著名」なも
のかどうか。
(原告の主張)
  原告は,平成9年2月ころ本件サービス名称の使用を開始したものである
が,その直後から数か月間本件サービス名称及び本件表示を用いて,全国で集中的
に新聞,雑誌,テレビ,ラジオの各媒体にて大々的な広告宣伝を行った。その結
果,本件サービス名称及び本件表示は,遅くとも平成9年夏ころまでには,原告の
営業を示す表示として周知かつ著名なものとなった。その後も,原告は,一貫し
て,本件サービス名称及び本件表示を使用して,広告宣伝活動を行い,特に平成1
0年3月からはタレントの藤原紀香を起用して,ストーリー仕立てのユニークな広
告宣伝を行っている。
このように,本件サービス名称及び本件表示が,原告の営業を示す表示と
して周知かつ著名になったことを受け,ジェイフォン東海株式会社及びジェイフォ
ン関西株式会社も,本件サービス名称及び本件表示の使用を開始して,大々的に広
告宣伝を行った。上記2社以外の原告関連会社も平成11年10月からその商号を
本件サービス名称のカタカナ表記である「ジェイフォン」を含む商号に変更したの
と同時に,本件サービス名称及び本件表示を使用した大々的な広告宣伝を開始し
た。このような原告関連会社の一連の広告宣伝により,現在では本件サービス名称
及び本件表示は,原告のみならず,原告関連会社の営業をも示す表示として,周知
かつ著名になっている。
  よって,原告は,被告に対し,不正競争防止法2条1項2号,3条1項に
基づき被告の営業に関して本件ドメイン名及び本件ウェブサイトにおける本件表示
の使用の差止めを,同条2項に基づき本件ウェブサイトからの本件表示の抹消を,
それぞれ求める。
  (被告の主張)
不正競争防止法2条1項2号による著名な商品等表示の保護は,広義の混
同さえ認められない全く無関係な分野にまで及ぶものと一般に解されている。そう
であるとすれば,その保護対象となる表示は,単に一地方において認識されている
にとどまらず,全国的に強く認識されていることが必要である。侵害行為者が類似
表示を使用している地域を含む一地域において著名であれば足りるという見解もあ
るが,本件のようにウェブページ上で表示を用いている場合には,全国どこからで
もアクセスできるのであるから,ごくわずかな一地域において著名であるだけで差
止め等の請求が認められると解するのは不当であり,このような見解は採り得ない
ものである。
  原告は,平成9年2月ころから本件サービス名称を使用し,宣伝に努めた
旨主張するが,原告が販売する携帯電話機に初めて本件サービス名称を付したのは
同年9月25日以降であり,この時点でも原告によるウェブサイトを用いた広報は
「デジタルホン」の名称で行われている。
  しかも,原告が「ジェイフォン」を含む商号に商号を変更したのは,平成
11年10月であり,仮に広告宣伝がされているとしても,一年足らずの期間で全
国的に本件サービス名称が強く認識されているとは到底思われない。また,現在に
おいても原告の携帯電話サービスの契約者が,同業他社と比較してそれほど多くな
いことを考慮すると,携帯電話の需要者の間でも,全国的に強く認識されていると
はいえない。
  以上により,原告の本件サービス名称は,現時点においても,全国的に強
く認識されておらず,著名なものとはいえない。
 (3) 本件サービス名称が,「著名」ではないが「周知」であると認められる場
合,被告の行為により原告の営業との間に「混同」が生じているかどうか。
(原告の主張)
  本件ウェブサイトの内容は,前記1(4)のとおりであるところ,これに加え
て平成12年2月4日からは,「プレミアム2000年 J-PHONE特別企画」と称し
て,「@j-phone.co.jp」を含む希望のメールアドレスを先着1万名に無料で提供す
るという内容のサービスが提供されていることからすれば,本件ウェブサイトは,
原告又は原告関連会社の運営するウェブサイトであるかのような誤解を与える内容
になっている。
  そして,本件ウェブサイトの各所に「J-PHONE特別企画」「J-PHONEをご利
用頂きましてありがとうございます」「J-PHONEへのご意見・ご質問をお寄せくださ
い」等,あたかも原告又は原告関連会社の運営するウェブサイトであるかのような
誤解を与える表示があること,本件サービス名称が原告及び原告関連会社の営業を
表示するものとして周知かつ著名であることを併せ考慮すると,一般の利用者は本
件ウェブサイトが原告により企画,運営されているものと誤認し,又は原告の関連
会社により企画,運営されているなど,原告と被告との間に業務上,経済上あるい
は組織上何らかの関係が存在すると誤認し,両者の営業について混同が生じるおそ
れは非常に高い。
  実際に,本件ウェブサイト上には「苦情情報窓口」という項目の下に,本
件ウェブサイトを原告の運営するサイトであると誤認して送信された,消費者から
の問い合わせのメールが数多く掲載されている。
  よって,原告は,被告に対し,不正競争防止法2条1項1号,3条1項に
基づき被告の営業に関して本件ドメイン名及び本件ウェブサイトにおける本件表示
の使用の差止めを,同条2項に基づき本件ウェブサイトからの本件表示の抹消を,
それぞれ求める。
(被告の主張)
 本件ウェブサイト上には,「http://www.j-phone.co.jp」というアドレス
名が表示されているだけであって,原告ないし原告関連会社の営業等と混同を生じ
させる文字,イラスト類は表示されていない。
  原告は,一般に会社名若しくはサービス名称等の英文表記に「co.jp」を付
加した構成のドメイン名が割り当てられる事例が多い旨をいうが,英文表示とドメ
イン名が一致しない会社が多いこともまた事実であり,ドメイン名が必ずしも法制
度によって保護されていないことに照らすと,本件ドメイン名が原告の営業等と混
同されるおそれは少ない。
  しかも,本件ウェブサイト上には「日本の総合通信サイト」との表示がさ
れているほか,「当サイトは日本テレコム株式会社ならびに携帯電話のジェイフォ
ン・グループとは無関係です」という表示が桃色でページの上段部に本文に比べて
大きな文字でされているから,本件ウェブサイトを原告の営業等と誤認するおそれ
はない。
また,多くの者による利用形態である検索エンジンを経由してのウェブサ
イトへの接続の場合,本件ウェブサイトと原告の営業等との混同は生じない。
  すなわち,我が国の代表的なサイト検索エンジンである「YAHOO」の
検索欄に「j-phone」と入力した場合には,原告についての案内が冒頭に表示され,
被告についての案内は「スケルフォン-透ける携帯電話のボディの販売等」としか
表示されない。また,「J-フォン」や「ジェイフォン」を入力した場合は,原告
についての案内のみが表示され,被告については何ら表示されない。そして,原告
は宣伝広告用の著作物等により,自己のドメイン名である「j-phone.com」の宣伝に
努めているから,混同のおそれはない。
  以上によれば,一般の利用者が本件ウェブサイトを原告により開設されて
いるものと誤認し,又は原告と被告との間に何らかの関係が存在するものと誤認す
ることはないので,営業主体の混同のおそれは生じない。
 (4) 本件サービス名称は,普通名称(不正競争防止法11条1項1号)に該当
するかどうか。
(被告の主張)  
「j-phone」あるいは「J-PHONE」という名称は,「j」と「phone」がハイ
フンでつながったものであるところ,「j」は,例えば「J-POP」にみられるよう
に,日本を表わす「JAPAN」の略語として一般に慣用されている。また,「phone」
はその名のとおり電話を表わす英単語である。しかも,以前から「J-PHONE」の名称
を用いてオーストラリアを訪れる日本人観光客向けの電話機のレンタルサービスを
行っている会社が存在する。
一般に,普通名称が使用によりセカンダリー・ミーニングを生じ,これが
周知ないし著名な表示となる可能性は否定できないが,現実に主たる営業等に使用
されていない分野においては,普通名称の独占的かつ排他的な使用を認めることの
弊害が大きい。本件のような使用態様においては,本件サービス名称は,普通名称
と評価すべきである。
(原告の主張)
  被告の主張のうち,「j-phone」の名称が「j」と「phone」をハイフンで
つなげたものであること,「j」は日本を表わす「JAPAN」の略語として用いられる
場合があること,「phone」が電話を表わす英単語であることは認めるが,その余は
否認する。
  そもそも,商品の普通名称というためには,取引界において商品の一般的
名称として通用している必要があるが,我が国において,携帯電話又はその他の種
類の電話が「j-phone」との一般的な名称で取引されているという事実はない。
 (5) 本件サービス名称ないし本件表示につき,被告に先使用権(不正競争防止
法11条1項3号,4号)が認められるかどうか。
 (被告の主張)
  被告は,本件ドメイン名の割当てを受けた平成9年8月29日から,本件
ドメイン名及び本件サービス名称を使用している。
  そこで,この時点において,本件サービス名称等が周知ないし著名であっ
たかどうかが問題となる。一般に,先使用の抗弁との関係での周知性の判断は,抗
弁を主張する者の営業範囲において需要者に広く認識されているかどうかにより判
断されることになるが,本件のようなウェブサイトによる宣伝広告の場合には,イ
ンターネットという媒体の特殊性に照らし相当な範囲,地域において周知であるこ
とを要するというべきである。また,著名性については,一定の地域では足りず全
国的に著名であることを要するのは,いうまでもない。
  この観点から,具体的に検討するに,平成9年8月当時,原告は当初の商
号である「東京デジタルホン」の名称で移動体通信事業を営んでおり,原告を表わ
す表示としては「東京デジタルホン」「TDP」(TokyoDigitalPhoneの略称)が
一般的であった。また,原告関連会社も「デジタルホン」又は「デジタルツーカ
ー」という名称で営業を行っていた。したがって,原告が主張するように,原告が
自社を新聞等で宣伝広告していたとしても,「東京デジタルホン」又は「TDP」
という名称が知られただけであり,本件サービス名称が原告の営業等を表わすもの
として周知ないし著名になったということはできない。本件サービス名称が原告の
営業等を示すものとしてその営業の範囲内で周知になったのは,タレントの藤原紀
香を起用した広告宣伝を行うようになった平成10年3月から,数か月たった後で
ある。このことは,原告及び原告関連会社の携帯電話契約者が平成11年4月ころ
に急増したことからも,明らかである。さらに,原告及び原告関連会社の携帯電話
の契約者の累計は,平成9年5月当時で200万台であって,同業他社に比べてシ
ェアが低いこと,本件サービス名称等は原告の営業地域である関東周辺地区におい
てのみ広告されていたにすぎないことからすれば,本件サービス名称等が平成9年
8月当時周知ないし著名になっていたということはできない。
上記のとおり,被告が本件ドメイン名及び本件サービス名称の使用を開始
した当時,原告を表わす名称としては「東京デジタルホン」又は「TDP」が一般
的であり,被告としては,原告の商号,サービス名称の変更等を一切確認できず,
商標登録等も確認できない状態であった。
  被告は,携帯電話の部品であるジュエリー調スケルトン電話ケースの販売
に当たり,当時流行していたサッカーの「Jリーグ」などにあやかって,日本の電
話という意味合いから本件ドメイン名を申請し,その割当てを受けたものである。
決して,いわゆるサイバースクワッタ(サーバー不法占拠者)のように,原告に高
額で売りつける目的で本件ドメイン名を取得したわけではない。したがって,被告
は,本件ドメイン名及び本件サービス名称を用いて,不正に利益を得る目的ないし
原告に損害を与える目的は有していなかった。
  以上のとおり,本件サービス名称等の使用については,被告に先使用権が
認められるというべきである。
(原告の主張)
  原告は,平成9年2月から数か月間本件サービス名称及び本件表示を使用
して,関東全域で集中的に新聞,雑誌,テレビ及びラジオの各媒体により広告宣伝
を行った。この広告宣伝活動は,主として本件サービス名称及び本件表示を印象づ
ける方法で行われ,原告の当時の社名である「東京デジタルホン」は社名を表示す
る目的か,原告のサービス名称が変わったことを説明するという目的で用いられて
いるにとどまり,「TDP」については全く使用されていない。したがって,原告
の上記広告宣伝により,「東京デジタルホン」や「TDP」の名称が知られるよう
になったということはない。
  被告は,原告の移動体通信事業におけるシェアが低いことを周知性ないし
著名性が認められないことの一つの根拠とする。しかし,平成9年5月当時におけ
る原告の移動体通信事業におけるシェアは原告だけで約11%,本件サービス名称
及び本件表示を用いていた原告関連会社を含めると約13%であった。この数字は
我が国の自動車業界で著名な日産自動車株式会社の普通乗用車におけるシェア(1
1%)に匹敵する。
  本件サービス名称及び本件表示は,原告の前記広告宣伝活動により平成9
年夏ころには周知かつ著名なものになった。これに対し,被告が本件ドメイン名の
割当てを受けたのは同年8月29日であり,遅くとも同年10月ころから本件ウェ
ブサイト上において本件サービス名称及び本件表示の使用を開始した。このよう
に,本件サービス名称等が原告の営業等表示として周知かつ著名になった時期と,
被告による本件サービス名称等の使用開始時期が極めて近接していることは,不正
な目的の存在を推認させるに足りる事実である。
  これに加えて,本件ウェブサイトの管理者と思われる者がホームページの
掲示板で「TDPには因縁がある。インセンティブ未払600万円を払ってく
れ。」という趣旨の発言をしていること,本件ウェブサイトのサーバーの管理者と
称する者が原告代理人弁護士に「被告代表者は以前原告と代理店契約を締結した
が,その報酬金の支払についてトラブルがあった。」旨説明していることからすれ
ば,被告が本件サービス名称及び本件表示を不正の目的をもって使用していたこと
は明らかである。
 (6) 被告には,不正競争行為につき「故意又は過失」が認められるか。
(原告の主張)
  被告が本件ドメイン名を取得した平成9年8月末ころには,本件サービス
名称及び本件表示は,原告の営業を示すものとして,既に我が国において極めて周
知かつ著名になっていたものであり,被告が本件サービス名称及び本件表示のもつ
顧客吸引力を利用する意図で本件ドメイン名を取得し,本件ドメイン名を含むアド
レスにおいて本件ウェブサイトを開設したことは明らかである。被告は,本件表示
と誤認混同を生じるような表示を避けるべきであり,これを行うことが可能であっ
たのに,これを怠ったものであるから,本件ウェブサイトにおいて,本件サービス
名称及び本件表示を使用した点において,故意又は過失が認められる。
  したがって,被告は,被告の行為により原告が被った損害につき損害賠償
義務を負うものである。
(被告の主張)
  被告が本件ドメイン名及び本件サービス名称の使用を開始した当時,原告
の名称としては「東京デジタルホン」又は「TDP」が一般的であり,被告として
は,原告の商号,サービス名称等の変更を一切確認できず,商標登録の有無等も確
認できない状態であった。
  このような状況の下で,被告は,携帯電話の部品(ジュエリー調スケルト
ン電話ケース)の販売に当たり,本件ドメイン名を申請し,その割当てを受けた上
で,本件ドメイン名及び本件サービス名称を使用し,現在に至ったのであるから,
仮に被告による本件ドメイン名等の使用が不正競争行為に該当するとしても,被告
に故意又は過失はない。
 (7) 原告の被った損害の額はいくらか。
(原告の主張)
  被告による前記不正競争行為により,原告はその営業上の信用を毀損され
たことが明らかであり,原告は少なくとも500万円の損害を被った。
  また,原告は,本訴の提起,追行を原告訴訟代理人弁護士に委任したが,
これに要する弁護士費用のうち450万円は被告による不正競争行為と相当因果関
係のある損害である。
  よって,原告は,被告に対し,不正競争防止法2条1項1号又は2号,4
条に基づき損害賠償として950万円及びこれに対する平成12年4月24日(訴
状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求め
る。
(被告の主張)
ア 信用毀損の主張について
  仮に,原告の主張する事実が認められるとしても,被告の行為により原告
の営業上の信用が毀損されたと評価することは困難である。
  被告は,かつて本件ウェブサイト上に「J-PHONE」グループ各社へのリンク
集を掲載したが,これは原告のウェブサイトにアクセスする者及び原告の便宜に供
するためである。また,携帯電話に関する意見等を掲載したのも携帯電話利用者の
交流を深めるとともに,携帯電話に関する情報を公開して,業界全体の活性化を図
るためのものである。特に「モバイル相談室」というサイトでは被告は利用者の質
問に親身に回答しているほか,被告の設置したリンク先もいわゆる優良企業であ
る。仮に,被告の行為が不正競争行為に当たるとしても,上記のとおり原告の信用
を毀損せず,むしろ信用を増進させている面も否定できない以上,営業上の信用が
毀損された旨の原告の主張は,失当である。
  百歩譲って,仮に原告に何らかの信用上の損害が発生したとしても,前述
のとおり混同のおそれがないこと,本件ウェブサイトにアクセスした者は平成12
年6月の時点で延べ約3万4400名であることに照らせば,原告主張の500万
円は損害額としてあまりにも過大である。
イ 弁護士費用について
  一般に,不法行為に基づく損害賠償請求訴訟において,弁護士費用は,事
案の難易,請求額,認容された額,その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる
範囲内のものに限り,不法行為と相当因果関係にある損害に当たると解釈されてい
る。
  本件訴訟が,専門的な内容であることは否定できないが,争点自体は整理
されており,立証の難易度を考慮しても事案として複雑困難とはいえないから,原
告主張の450万円は極めて過大な金額である。仮に,金銭請求の額である500
万円を基準にするとしても,日本弁護士連合会の報酬等基準規程をも参酌すると,
不法行為と相当因果関係のある損害として認められる額は,多くみても100万円
である。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(ドメイン名の「商品等表示」該当性)について
(1)証拠(甲13,14,乙1,6)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を
認めることができる。
ア インターネットにおいては,接続されたコンピュータを認識するためにI
Pアドレスと呼ばれる32ビットで構成された数字列を用いている。各番号はそれ
ぞれ単独の利用者に付与されるもので,それだけで接続された個別のコンピュータ
が特定される。しかし,この数字列だけでは利用者の記憶に残りにくく,電子メー
ルなどのやり取りに不便であることから,アルファベット,数字,ハイフン等によ
り構成された文字列であるドメイン名が考案された。
イ ドメイン名は,例えば,「courts.go.jp」のように表現される。ピリオド
で区切られた最初の部分は登録者を表し,この部分を最も狭い意味でのドメイン名
(第3ドメイン)ということが多い。次の部分(第2ドメイン)は登録者の属性を
表し,例えば「co」であれば企業,「ac」は研究機関,「go」は政府を意味する。
最後の「jp」の部分(トップレベルドメイン)は国を表している。
  このようにドメイン名にはアルファベット等の文字が使用され,利用者の
記憶に残りやすいことから,自己の名称,社名,商標等をドメイン名として登録す
ることが通常行われている。 
ウ ドメイン名を有する団体に所属する個人は,このドメイン名の下に付与さ
れたアドレスが割り当てられて電子メールのやり取りが可能になる。また,ドメイ
ン名はウェブサイトのアドレスにも用いられる。この場合には,例え
ば「http://www.asahi-net.or.jp」のように表記されるが「http://www.」の部分は
通信手段を示している。
エ 我が国において,インターネットのドメイン名の登録等の業務を行う団体
としてJPNICがある。JPNICは「ドメイン名登録等に関する規則」(乙
1)という規則を定めており,同規則2条で,ドメイン名の登録は「インターネッ
ト上での識別子として用いることを目的として行うもので,当センターが管理する
jpドメイン名空間におけるドメイン名の一意性を意味し,これ以外のいかなる意味
も有さない。」と規定されている。そして,ドメイン名の登録は,先願主義に基づ
き,申請者がドメイン名を自由に選択できるようになっているが,登録に際して既
存の商標や商品等表示などに関する権利と抵触するか否かについての審査は行われ
ていない。
(2)上記(1)に認定の事実によれば,本来ドメイン名は登録者の名称やその有
する商標等,登録者と結びつく何らかの意味のある文字列であることは予定されて
いないが,登録者の名称,社名,その有する商標等をドメイン名として登録するこ
とが通常行われていることに照らせば,ドメイン名の登録につき先願主義が採られ
ていること,登録に際して既存の商標等に関する権利との抵触の有無についての審
査は行われていないことなどから,利用者としてはドメイン名が必ずしも登録者の
名称等を示しているとは限らないことを認識しつつも,ドメイン名が特定の固有名
詞と同一の文字列である場合などには,当該固有名詞の主体がドメイン名の登録者
であると考えるのが通常と認められる。
そうすると,ドメイン名の登録者がその開設するウェブサイト上で商品の
販売や役務の提供について需要者たる閲覧者に対して広告等による情報を提供し,
あるいは注文を受け付けているような場合には,ドメイン名が当該ウェブサイトに
おいて表示されている商品や役務の出所を識別する機能をも有する場合があり得る
ことになり,そのような場合においては,ドメイン名が,不正競争防止法2条1項
1号,2号にいう「商品等表示」に該当することになる。
  そして,個別の具体的事案においてドメイン名の使用が「商品等表示」の
「使用」に該当するかどうかは,当該ドメイン名が使用されている状況やウェブサ
イトに表示されたページの内容等から,総合的に判断するのが相当である。
(3)これを本件についてみるに,本件ウェブサイトには「J-PHONEをご利用頂き
ましてありがとうございます」といった表示がされたウェブページと共に,「御注
文はここを今すぐクリック!!」という表示の下に「メディカス」,「スケルフォ
ン」,「ノナール」という項目があり,これをクリックすると,それぞれ,ゴルフ
のレッスンビデオ,いわゆるスケルトン仕様(半透明の樹脂により透けて見える構
造)の携帯電話機,アルコール消臭・酵母食品についての販売広告が表示される体
裁となっていた(甲3の1により認められる。)。また,「J-PHONEへのご意見・ご
質問をお寄せください」「ホームページにてご回答させていただきます」といった
表示もされていた(当事者間に争いがない。)。
上記によれば,本件ウェブサイトにおいては,レッスンビデオ,携帯電話
機,酵母食品等についての販売広告とともに注文の受付がされているところ,ウェ
ブページ上には前記のとおり「J-PHONE」の語を含む表示がされており,この表示に
おいては「J-PHONE」の語が本件ウェブサイトの開設者を示すものとして用いられて
いることが明らかである。そうすると,本件ウェブサイトにおいて,「J-PHONE」の
語は,本件ウェブサイトを開設し,ウェブサイト上で前記商品を販売する者を示す
ものとして用いられていると認められる。
 そこで,次に本件ドメイン名「j-phone.co.jp」と上記表示「J-PHONE」とを
比較すると,本件ドメイン名から第2ドメイン以下の「co.jp」を除いた,登録者を
示す第3ドメインである「j-phone.」は,「J-PHONE」のアルファベットが小文字に
なったにすぎないものである。
  なお,本件ドメイン名は,ウェブサイトへのアクセス手段として
は,「http://www.j-phone.co.jp」の形で用いられるものである
が,「http://www.」の部分は通信手段を示し,「co.jp」は,当該ドメインがJP
NIC管理のもので,かつ登録者が会社であることを示しているにすぎず,多くの
ドメイン名に共通する要素であるから,商品又は役務の出所を表示する機能は有し
ない。したがって,本件ドメイン名「j-phone」は,「http://www.」の部分及
び「co.jp」の部分と切り離して,それ自体で商品の出所表示となり得るものという
べきである。
  以上を総合すれば,本件ドメイン名は,本件ウェブサイト中の「J-PHONE」
の表示とあいまって,本件ウェブサイト中に表示された商品の出所を識別する機能
を有していると認めるのが相当である。したがって,被告の本件ドメイン名の使用
は,不正競争防止法2条1項1号,2号にいう「商品等表示」の使用に該当するも
のというべきである。
  また,被告が本件ウェブサイト上に表示した本件表示は,「J-PHONE」,
「ジェイフォン」,「J-フォン」を横書きにしたものであって,本件ウェブサイト
上の前記の「J-PHONE」と同一ないし類似するものであるから,被告がこれらの表示
を使用する行為も,不正競争防止法2条1項1号,2号にいう「商品等表示」の使
用に該当するものである。
 2 争点(2)(周知性・著名性)について
 (1)前記の当事者間に争いのない事実に,証拠(甲1)及び弁論の全趣旨を総
合すれば,次の事実を認めることができる。
ア 原告は,平成6年4月1日から,原告関連会社のうちジェイフォン関西株
式会社及びジェイフォン東海株式会社と提携して携帯電話に関する通信サービスを
提供するようになったが,その時点では原告の当初の商号である「東京デジタルホ
ン」あるいは上記の3社の当時の商号に共通する「デジタルホン」というサービス
名称を用いて広告宣伝を行っていた。
イ その後,原告は上記2社を除く原告関連会社と提携をすることとなり,そ
れに伴い原告の携帯電話の通話エリアが日本全国に拡大したことを契機に,平成9
年2月7日から本件サービス名称及び本件表示5(「J-PHONE」)の使用を開始し
た。
ウ 原告は,本件サービス名称及び本件表示5の使用に当たり,「J-PHONE=デ
ジタルホン」というイメージを定着させるため,次のとおり集中的な広告宣伝を行
った。
(ア)新聞広告
  原告は,平成9年2月6日に,関東地方で発行されている新聞14紙 
(朝日新聞東京本社版,毎日新聞東京本社版,読売新聞東京本社版,日本経済新聞
東京本社版,産経新聞東京本社版,茨城新聞,下野新聞,上毛新聞,山梨日々新
聞,東京新聞,スポーツニッポン,日刊スポーツ,サンケイスポーツ,報知新聞東
京版)の朝刊並びに日刊ゲンダイ東京版及び夕刊フジ東京版に別紙1の内容の全面
広告(上部に「東京デジタルホンは,J-フォンへ。」と記載され,下部に本件表示
5(「J-PHONE」)が大書されたもの)を掲載した。この広告を掲載した新聞の発行
部数は合計で2259万9730部であった。
  原告は,その後も同年6月にかけて本件表示4(「J-フォン」),同5
を含む全面広告を新聞に掲載した。原告は,同年7月以降も定期的に新しいバージ
ョンの広告を新聞に掲載したが,そのうち平成9年2月7日以降同年8月29日以
前の発行部数は合計約6900万部であった。前記各広告が掲載された新聞名,掲
載日,広告スペース,発行部数などは別表1のとおりである。
(イ)雑誌広告
  原告は,平成9年2月16日ころから4月初めころまでの約1か月半の
間発行された雑誌に本件表示5(「J-PHONE」)を含む別紙2の内容の広告(男性の
立姿の写真に大書された本件表示5を重ねたもの)を1頁又は2頁にわたり掲載
し,本件サービス名称のイメージの定着を図った。この広告が掲載された雑誌に
は,若者向けの情報誌「ぴあ」「TokyoWalker」「SPA!」や女性向けのファッショ
ン雑誌である「JJ」「CanCam」「an-an」「FigaroJapon」のみならず,「日経
トレンディ」「ニューズウィーク」や「AERA」といったビジネスマン向けの雑
誌も含まれていた。原告は,同年5月以降も定期的に新しいバージョンの広告を各
種雑誌に掲載しており,同年8月29日以前の発行部数は合計約2300万部であ
った。前記各広告が掲載された雑誌名,発売日,広告スペース,発行部数などは別
表2のとおりである。
(ウ)テレビコマーシャル
  原告は,平成9年2月7日から関東全域において本件表示5
(「J-PHONE」)を含む別紙3のテレビコマーシャル(女性の映像の画面と中央に本
件表示5が大書された画面とが交互に現れるもの)を放送した。このテレビコマー
シャルは,2月7日から27日までの間,日本テレビ放送網,フジテレビジョン,
テレビ東京,山梨放送,テレビ山梨において,延べ338本放映され,GRP(出
稿したスポットの視聴率の総計)の合計は2562.6%にのぼる。原告は,その
後も関東全域において様々なバージョンのテレビコマーシャルを放映しているが,
いずれも映像中に本件表示5を含んでいる。
(エ)ラジオコマーシャル
  原告は,平成9年2月から,東京,神奈川,埼玉,千葉エリアのラジオ
局を中心に,ラジオコマーシャルを放送した。
  平成9年2月を例にとると,ラジオスポットの実績は次のとおりであ
る。
   ラジオ局           本数
   Inter FM12本
FM東京50本
J-WAVE56本
bay FM25本
文化放送30本
TBSラジオ22本
ニッポン放送38本
 NACK523本
エ 原告は,平成10年3月からは新しいCMキャラクターとしてタレントの
藤原紀香を起用し,ストーリー仕立てで原告及び原告関連会社のサービスを理解し
てもらうという方針で広告宣伝を行い,好評を博している。
オ 原告関連会社のうち,ジェイフォン東海株式会社及びジェイフォン関西株
式会社は,平成9年10月1日から本件サービス名称を使用して,原告と同様の広
告宣伝を行った。さらに,この2社を除く原告関連会社も,平成11年10月1日
から「デジタルツーカー」を含んだ旧商号を「ジェイフォン」を含んだ現商号に変
更し,同時に本件サービス名称及び本件表示5(「J-PHONE」)を用いた広告宣伝を
展開した。
以上のような広告宣伝に伴い,原告,ジェイフォン東海株式会社及びジェ
イフォン関西株式会社の3社の携帯電話サービスの累計契約数は平成9年5月の時
点で200万台であったのが,同11年4月には400万台を突破しており,同1
2年1月31日現在の原告及び原告関連会社の累計契約数は約800万台に達して
いる。
(2)上記(1)に認定の事実によれば,本件サービス名称は,全国的な広告宣伝
活動の結果により,現在においては原告及び原告関連関連会社の営業を示す表示と
して著名であり,不正競争防止法2条1項2号にいう「著名な商品等表示」に該当
するものと認められる(なお,本件サービス名称が現在関東周辺地区において周知
であることは,当事者間に争いがない。)。
  さらに進んで,本件サービス名称がどの時点で著名性を取得したかをみる
に,原告による新聞,テレビ,ラジオによる広告宣伝は関東周辺地区に限られてい
たが,前記のとおり短期間に極めて大規模に行われたものであり,首都圏を中心と
した関東地区は,人口の比重の点でも経済,文化の発信地という点でも我が国にお
いて枢要な部分を占めるものであり,かつ,雑誌については,「SPA!」「J
J」「an-an」「FigaroJapon」「日経トレンディ」「ニューズウィーク」「AER
A」など,広範な読者層を対象とする全国誌に広告が掲載され,その発行部数の累
計は膨大な部数に上ることからすれば,本件サービス名称は,被告が本件ドメイン
名の割当てを受けた平成9年8月29日の時点において既に全国規模で広く認識さ
れていたものであり,この時点において不正競争防止法2条1項2号にいう「著名
な商品等表示」に該当していたものと認められる。
 3争点(4)(普通名称)について
 不正競争防止法11条1項1号にいう「普通名称等」とは,取引界におい
て商品又は営業の一般的な名称,つまり普通名詞として使用されているものをい
い,商品固有の一般的名称のほか,その略称,俗称も含むものと解されている。
  なるほど,被告の指摘するように,「j-phone」のうち「j」の部分は日本
の国名の英語表記である「japan」の頭文字であり,「j-phone」の語が「japan」の
頭文字と電話を表す「phone」を組み合わせた略称として「日本の電話」という観念
を生じるという可能性も,直ちに否定することはできない。しかし,我が国の電話
利用者の間で,外国の電話と区別する趣旨で「日本の電話」という概念が存在し,
その意味で「j-phone」の語が用いられていたと認めるに足りる事情は,何ら証拠上
うかがえないところである。また,前記2(1)に認定のとおり,原告ないし原告関
連会社の広告宣伝により,本件サービス名称は著名性を取得し,原告又は原告関連
会社の携帯電話サービスという営業を表すものとして識別力を有するに至ったもの
であるから,このような状況の下において,これを小文字にした「j-phone」の語が
普通名称であったと認めることはできない。
  なお,証拠(乙10)によれば,「J-PHONE」の名称を用いて,オーストラ
リアとニュージーランドにおいて,日本人の在住者及び旅行者を対象に携帯電話の
レンタル等のサービスを提供している会社が存在することが認められるが,同社の
営業活動は外国におけるものであり,同社の存在が我が国において広く知られてい
たといった事情も証拠上認められないから,普通名称かどうかについての前記判断
には影響しない。
  以上によれば,「j-phone」の語が不正競争防止法11条1項1号にいう
「普通名称等」に該当する旨をいう被告の主張は,理由がない。
 4 争点(5)(先使用)について
(1)先使用の抗弁(不正競争防止法11条1項4号)が認められるためには,
抗弁を主張する者が他人の著名表示が著名となる以前よりこれを使用していること
が必要であるところ,前記2(2)に認定のとおり,本件サービス名称は,被告が本
件ドメイン名の割当てを受けた平成9年8月29日の時点において既に全国規模で
広く認識されていたものであり,この時点において不正競争防止法2条1項2号に
いう「著名な商品等表示」に該当していたものと認められるから,被告の先使用の
抗弁は理由がない。
(2)加えて,本件においては,平成11年8月にデジウェブ・コムの(BB
S)掲示板で,「J-PHONE本気?」という投稿に対するコメントとして,本件ウェブ
サイトの管理者と思われる「J-PHONE Master」と名乗る者が「TDPには因縁があ
るもんでして‥‥インセンティブ未払い600万円払ってくれ>TDP」という書
込みをしていること(甲12の1,2により認められる。),平成11年10月,
原告代理人弁護士に対し,本件ウェブサイトのサーバーの管理者と称するアドバン
ステクノロジーのAが,「被告代表者は以前原告と代理店契約を締結したが,その報
酬金の支払についてトラブルがあった。」旨説明していること(当事者間に争いが
ない。),後記のとおり,被告は,本件ウェブサイト上において,いわゆる大人の
玩具の販売広告や特定の企業を誹謗中傷する文章など原告の信用を毀損する内容の
表示をしていたことに照らせば,被告が本件ドメイン名及び本件表示を不正の目的
なくして使用していると認めることはできない。
(3)以上によれば,被告の先使用の抗弁の主張は,理由がない。
5 差止め請求について
(1)本件ドメイン名と本件サービス名称との同一又は類似性
  本件ドメイン名「j-phone」と本件サービス名称「J-PHONE」とを対比する
と,アルファベットが大文字か小文字かの違いがあるほかは,全く同一であるか
ら,本件ドメイン名は本件サービス表示と類似するというべきである。
(2)差止めの必要性
  証拠(甲3の1ないし3,4,10,同5の1,2,同6)及び弁論の全
趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 平成10年10月ころの本件ウェブサイトには,「おとなのJ-PHONE」と
題するウェブページがあり,そのページは,「セクシーランジェリー」「ソフトS
Mグッズ」などの見出しのもとに,いわゆる大人の玩具をカタログ形式で販売する
体裁になっており,カタログの画像には女性の裸体写真も含まれていた。
イ 平成11年6月ころの本件ウェブサイトには,「三和銀行を斬る!!」
と題するウェブページがあり,そのページには,「ついに悪の三和銀行に行政処分
の鉄槌くだる」「三和銀行の極悪経営方針について」といった見出しの下,三和銀
行を激しい論調で非難した内容のメールが掲載されているほか,末尾に
は「J-PHONE.CO.JPは三和銀行のこれ以上の関東進出と悪徳営業方針を絶対許しませ
ん。」という文章が掲載されていた。
ウ 被告は,平成11年5月12日,原告あてに「弊社への問い合わせ電子
メールについて」と題するメールを送信し,本件ウェブサイトのサーバーに原告あ
てと思われる間違いメールが多数送られているので,その対応等について原告と被
告とで話合いをしたい旨を申し入れた。
しかし,被告は原告代理人弁護士から話合いに応じる旨の回答がされた
後も自ら対応することはなく,本件ウェブサイトには少なくとも同年11月ころま
では「ツナガラナイ・ツカエナイ・ケイタイ」と題するウェブページが存在し,原
告の携帯電話サービスについて主として夜間に電話がつながらないことを述べる苦
情が全国各地の利用者から多数寄せられていた。
エ 本件ウェブサイトは現在ではページが表示されない状態になっている
が,被告は,この措置を採った理由について,あくまでも一時的に停止したもので
あって,本件ドメイン名の使用が不正競争行為に該当するという原告の主張を認め
た趣旨ではないと説明している。
 上記認定の事実によれば,平成12年6月ころに本件ウェブサイトに「当
サイトは日本テレコム株式会社ならびに携帯電話のジェイフォン・グループとは無
関係です」との表示が付け加えられ(乙2により認められる。),現在はその運営
を一時的に停止しているという事情を考慮しても,被告が本件ドメイン名の使用が
不正競争行為に当たることを争っていることに照らせば,今後,被告が本件ドメイ
ン名を使用し,本件ウェブサイト上に本件表示を掲げるおそれがあると認められる
ものであって,それにより本件ウェブサイトを開設しているのが原告であるとの誤
解を受け,本件ウェブサイトの内容により一般需要者が本件サービス表示から受け
る印象が損なわれることが十分考えられるところであるから,原告の営業上の利益
を侵害されるおそれがあるものと認められる。
  よって,被告に対し本件ドメイン名及び本件表示の使用の差止めを求め,
本件ウェブサイトからの本件表示の抹消を求める請求は,理由がある。
 6損害賠償請求について(争点(6),同(7)に関して)
(1)被告の故意・過失
前記2に認定したとおり,被告が本件ドメイン名を取得した平成9年8月
末ころには,本件サービス名称は,原告の営業を示すものとして,既に著名になっ
ていたものであるところ,被告は本件サービス名称と類似する本件ドメイン名を使
用して本件ウェブサイトを開設し,本件ウェブサイト上に本件サービス名称と類似
する本件表示を表示し,また,前記のとおり,本件ウェブサイト上において,いわ
ゆる大人の玩具の販売広告や特定の企業を誹謗中傷する文章など原告の信用を毀損
する内容の表示をしていたことに照らせば,被告は,原告の営業上の利益を侵害す
ることを認識しながら,あえて上記のような行為を行ったものと認められるもので
あって,故意により不正競争行為を行ったものというべきである。
(2)原告の損害額
 ア 営業上の信用毀損
  前記5に認定したとおり,被告は本件サービス名称と類似する本件ドメイ
ン名を使用して本件ウェブサイトを開設し,本件ウェブサイト上に本件サービス名
称と類似する本件表示を表示し,また,前記のとおり,本件ウェブサイト上におい
て,いわゆる大人の玩具の販売広告や特定の企業を誹謗中傷する文章など原告の信
用を毀損する内容の表示をしていたものであり,このような被告の行為によって,
原告は,一般需要者に誤った企業イメージを持たれ,本件サービス名称の一般需要
者に与える印象を害されたものであるところ,原告が移動通信事業という新しい技
術分野を扱う会社であり,広告宣伝の上でも企業イメージが重要であることを考慮
すれば,上記のような営業上の信用毀損による損害賠償の額としては200万円を
相当と認める。
イ 弁護士費用
  原告が本訴の提起,追行を原告代理人に委任したことは当裁判所に顕著で
あるところ,本件訴訟における訴額,原告の請求の内容,訴訟手続の経緯,訴訟追
行の難易度等の事情を総合考慮すると,弁護士費用のうちの100万円をもって,
被告の不正競争行為と相当因果関係のある損害と認める。
 7 結論
  以上によれば,原告の本訴請求のうち,本件ドメイン名及び本件表示の使用
の差止め,本件ウェブサイトからの本件表示の抹消を求める請求は理由があり,損
害賠償請求については,営業上の信用毀損による損害として200万円,弁護士費
用として100万円の合計300万円及びこれに対する平成12年4月24日(訴
状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求め
る限度で,理由がある。
  東京地方裁判所民事第46部
  裁判長裁判官  三  村  量  一
              裁判官  村  越  啓  悦
              裁判官  和久田 道 雄
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