弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告はこれを棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 本件上告理由は上告人の提出した末尾添付の上告理由書謄本記載の通りであるか
ら、これに対し左の如く判断をする。
 上告理由第一点に対する判断。
 民法第五百四十条、第五百四十一条の規定はすべての契約解除に関する一般的原
則規定であり、農地調整法第九条の規定は農地の賃貸借契約解除に関する例外的特
別規定であるから農地の賃貸借契約を有効に解除せんとするにはこれ等民法の規定
に従うことは勿論であると同時に右農地調整法の規定をも無視することはできぬ。
而して農地調整法第九条、昭和二十一年法律第四十二号により改正せられた同法附
則第三項、同年勅令第五百五十六号により改正せられた同法施行令附則第六項によ
ると「農地ノ賃貸人ハ賃借人ガ宥恕サルベキ事情ナキニ拘ラズ小作料ヲ滞納スル等
信義ニ反シタル行為ナキ限リ 賃貸借ノ解除ヲ為スコトヲ得ズ」「農地ノ賃貸借ノ
当事者賃貸借ノ解除ヲ為サントスルトキハ命令ノ定ムル所ニ依り昭和二十三年十二
月三十一日マデハ知事ノ許可ヲ受クベシ」「知事ノ許可ヲ受ケズシテ為シタル解除
ハ其ノ効カヲ及セズ」との旨を規定しているから、いやしくも農地の賃貸借契約を
有効に解除せんとするには必ず昭和二十三年十二月三十一日までは知事の許可を受
けることが必要であつて、たとえ所論のように賃借人の信義に反する行為を解除の
原因とし且つ民法第五百四十条第五百四十一条の定める要件を備へた解除の意思表
示をしても知事の許可がない限りその意思表示は何等の効力を生じないことは右法
規の解釈上一点疑のないところである。これと同一見解のもとに上告人の主張を排
斥した所論原判示は相当であつて何等違法の点はない。所論は前示農地調整法の規
定を無視した独自の見解にもとづき原判決を論難するもので採るに足らぬ。
 上告理由第二点に対する判断。
 たとえ農地の賃借人が宥恕すべき事情がないに拘らず小作料を滞納する等の信義
に反する行為があつて賃貸人がこれを原因として賃貸借を解除せんとする場合であ
つても、必ず知事の許可を必要とすることは上告理由第一点において述べた通りで
ある。上告人はかかる見解に従うときは賃借人に絶対的権能を与え、賃貸人の私有
権を否認するに等しい結果となり、賃貸人は法定解除を行うことが不能となり農地
なる財産権を侵害せらるる<要旨>ことに帰着し憲法第二十九条に違反する旨論ずる
けれども農地調整法第九条の規定が農地の賃貸借契約の解除に知事の許可を
必要としたわけは、これによつて地主の不当な小作地取上げを制限する目的にでた
ものであつて正当な事由ある小作地取上げをも制限するものでないこと、いい換え
ると知事は行政処分により耕作者の地位の安定及び農業生産力の維持増進を図るこ
とを妨げるかような土地取上げは制限するけれども事情全く止を得ない土地取上げ
は決して制限するものでないことは同法の立法趣旨に照し明瞭であるから農地の賃
貸借契約解除に知事の許可を必要とすることが所論のように当然賃貸人の私有権を
否認することにもならぬし、また地主の財産権を侵害することにもならぬことは言
をまたぬところであつて、憲法第二十九条の規定に違反するわけはない。所論は独
自の見解の下に原判決を非難攻撃するに帰し採用の価値はない。
 上告理由第三点に対する判断。
 原判決は有効な弁済のための供託のあつた事実を確定し、これにより只上告人の
請求する滞納小作料債務の消滅したことを認定してその請求を棄却したのに止ま
り、所論のように右供託によつて上告人の主張する賃貸借契約の解除権をも消滅し
たものであると認定したものでないことは判文上明白である。所論は畢竟原判決の
認定しない事実をとらえて原判決を非難するに属し採用する限りでない。
 以上説明するところにより本件上告は理由がないからこれを棄却すべきものと認
め、民事訴訟法第四百一条第九十五条第八十九条の規定により主文の通り判決をす
る。
 (裁判長判事 小山慶作 判事 井上開了 判事 和田邦康)

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