弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 弁護人海野普吉の上告趣意第一点ならびに同足立達夫および被告人本人の各上告
趣意について。
 第一審判決は、本件犯罪事実を認定する証拠として、被告人の司法警察員に対す
る自白を録取した第二回ないした第八回供述調書を挙示している。そして、原判決
もこれら自白の任意性を認めて、第一審判決が右自白調書七通を犯罪の証拠とした
ことを是認しているのであるが、右自白の任意性は弁護人等の極力争うところであ
る。
 よつて、この点につき、原判決の右判断に誤りがないかどうかを、以下に検討す
る。
 記録によれば、本件兇行は昭和二五年五月一〇日夜のことであるが、被告人が検
挙されたのは同年六月一九日であり、前記自白調書は同月二〇日から同年七月五日
までの間、七回にわたり、A警部補によつて、順次、作成されたものである。
 警察における取調の模様につき、被告人は第一、二審公判で、「警察では、殴る、
蹴るあるいは膝の上に乗つて足で踏みつける等の暴行を受け、ああだろう、こうだ
ろうと言われるので、私もそうですと返事をしただけで、私から進んで申し上げた
のではありません」、「一番酷く叩かれたのは六月二〇日、二二日、七月四日の三
回です」、「六月二〇日は午前八時半か九時頃から調べられました」、「刑事部屋
に行くとB主任とほかに二人の警察官がいた、私はB主任の前に坐つていたが、C
刑事は棒を突いておどしたりしていました」、「私は最初否認した」、「B主任は
少し調べて」、「この野郎に間違いないと言つて、席を立つて出て行つた、その後
でC刑事が代つて調べた」、「C刑事は、主任が怒つて帰つて了つたが、どうする
のだ、ずつと言わなければ駄目だ、僕が謝つてやるから主任に言え、主任に言つて
謝れと言つたが、私が言えねと言うと、これだけかばつてやつているのに言わねか」、
「俺達はよく知つているんだと言い、両方の頬を殴つた、そんな調べが午前一一時
か一一時半頃まで続いた、その時は坐らされていて、引張られたりして足の皮がむ
けた、その時Dを殺したことを言つた、一二時近かつたと思う」、「調べの時には、
Cのほかに刑事が二人いた、机を前にして、真中にCがおり、質問し、脇にいた部
長らしいのがメモを取つていた」、「それはE部長と思う」、「Cは私の穿いてい
たズボンの膝のところを掴んで座敷を引きずつた、長い間畏まつて坐つていると足
が痛くなるので、動くと、動くと言つて両方の股の外側を蹴つた、三回位引きずり
廻され、四、五回蹴られた」、「Cは、私を殴つたり、蹴つたりし、又鼻の中へ指
を入れたり、私が坐つている膝の上へ立つたり等して暴行をした、私は苦しかつた
ので、言うから主任を呼んで貰いたいと言つて、調書にあるとおり言つたのである、
そしてA司法主任が調書を取つた、B主任からA司法主任に紙を渡し、同人はそれ
を読みながら、私に聞いて調書を作つた」、「調べられる時はAはいず、調書は夕
方出来た、夕食は碌に食べなかつた」、「一日おいて二二日にまた調があつたが、
暴行を受けた」、「その時は、C、E、Fの三人であつたが、主としてCが調べた」、
「調べをしたのは午前中であるが、初めの時と同じような暴行を受けた、Cが酷し
くやつた、ほかの者は少しやつた、二〇日の最後に向うの言うのを認めたが、二二
日にはやらない、前に言つたのは嘘だと言つたので、暴行を受けたと思う、暴行さ
れてまに嘘の自白をした、午前中部長らしいのがメモを取つて、それをAにやつた、
そして昼食後、夕方と思うがAに呼ばれた」、「Cが、お前はやつたと言つている
が、本当のことがない、正直に言えと言うので、私がやつていないと言うと、この
野郎太い野郎だ、人を騙したと繰り返えし、この野郎ひどいことをしてやると言つ
て殴つたのである」、「三、四回引きずり廻され、三、四回蹴られ、五、六回以上
殴られた」、「それで、午後の取調を受けた時、私はまた自白した、午後は刑事部
屋で調を受けたが、初めは三人の警察官で、後でB主任も来たと思う、前に言つた
ように、余り殴られたり、蹴られたりして、暴行に耐えかねて嘘の自白をしたので
ある」、「その日、棒を見て驚いたことがある、それはB主任に調べられている時、
後ろの方でおどされたので、私が一寸後ろを見たら、後ろを見るではないと叱られ
たが、その時その棒を見たのである」、「その日、調室で私は足が痛み、血が出て
いたので、持ち合せていた紙を切り、傷口にそれを貼つた、その傷は午前中暴行さ
れて出来たものである、二〇日の時は傷も小さく、血がにじんでいた程度で、紙を
貼つた程度であつた、両方の足である、二二日は傷が大きくなり、坐つた後、畳は
血に染まつていた」、「Aが用紙を取りに行つて戻つて来た時、私は傷にさわつて
いた、それで私にどうしたと言つた、椅子が二つあつて、私はその一つに腰をかけ、
一方の椅子に足をのせてさわつていた、傷があつて痛いというと、見せろと言うの
で、見せた、すると酷いな、おやじが一五〇〇円入れて行つたから薬を買つてやろ
うと言つた、それから調書を取つて、留置場え移つたら、間もなく、薬を持つて来
て呉れた、年寄りの看守であつたが、私は傷にそのマーキユロとペニシリンをつけ
た、両方の足の傷のところに、先きにマーキユロを塗り、その上にペニシリン軟膏
を貼つた、その後一週間後は朝晩毎日のようにつけていた、七月六日頃移監の時は
傷は治つて薬も使つていなかつた、薬は余つていた、医者には診て貰わなかつた、
傷跡は残つていた、今まで水虫にかかつたことはなかつた」、「一番酷く叩かれ痛
みが残つたのは二〇日の時だと思う、足の皮のむけたのも二〇日である」、「二〇
日、二二日の後も、調書の変る毎にやられた、金庫を鉈で開けたと言つていたのを、
たがねで開けたと言うと、お前の言うことは当てにはならないと言つて殴られた」、
「六月二九日頃と思う、検事に嘘を言つたと言つて、刑事室で二、三〇叩かれた」、
「七月五日は検事と現場検証に行つたが、前の晩七月四日に叩かれた、検事が一度
調に来てから一週間位経つて、四日の晩だつたと思う、B等いつもの人の調べがあ
り、その時新しい人が二人来た、Bは二人が後で聞くと言つて帰つた、私は二人の
前に坐らされた、Cは左側にいて二人から調べを受けた、調書にあることについて
聞かれたので、私はそうですと言つた、するとお前の言うのは嘘だ、一つも言つて
いない、本当のことを言わないと言つて殴られた、それで私は死刑志願書を書いた、
それからほかの人が替つて死刑志願を取消せと言い、また殴つた、それで私はひつ
くり返えつて了つた、そしてCに起されたのだが、その時今度検事が来たら本当の
ことを言えと言われて、死刑志願を取消した、その日は二人が殴つた、調べの度毎
に殴られたのだが、大体Cが殴つた、そして、その翌日に検証があつた」、「七月
四日の晩は、取調というより殴つたというべきである」、その晩は警察官も酒に酔
つていたようで、何処ということなく、めちやくちやに殴られたので、翌朝顔を洗
う時に顔など腫れていた」、「七月五日自動車に乗つている時、母と妹に対面した」、
「A警部補に買つて貰つた薬は、静岡の刑務所に入る時に、受附に預けて置き、そ
の後宅下げになつた」、というような供述をしている(第一審第九回、第一六回、
原審第一回、第七回、第一八回各公判調書)。
 これに対し、B、Aの両警部補、C巡査部長は第一、二審で、またE巡査部長、
F、Gの両巡査は第一審で、それぞれ、証人として、右のような拷問、脅迫、強制
等の事実はなかつた旨証言しているのであつて、被告人の言うところを、今、直ち
に、そのまま信用するわけにはいかない。
 しかし、この点に関し、証人H(収賄事件の被疑者として、庵原署で、被告人の
隣房にいた)は第一、二審で、「昭和二五年六月二〇日か二三日に房の横の看守の
部屋で、被告人が足に赤チンを塗つていた、そこに刑事が入つて来て、そんなにな
つたのかと言つていた、被告人は膝から下の前の方に塗つていた、私は調べの時、
坐らされて痛くなり、足をずらすと皮がむくれるのを経験したが、それだと思つた。」
旨(記録六四九丁裏以下、一七四七丁以下)、証人I(暴力行為等処罰ニ関スル法
律違反事件で、被疑者として、被告人と同房にいた)は第二審で、「Jの左か右の
頬に脹れたところがあつた、殴られたと聞いたので、そのように思つた。」旨(同
一八一九丁以下)証人K(若い巡査部長)は第二審で、「七月六日と思うが、被告
人が庵原地区署から静岡刑務所に送られる時、同人にマーキユロとペニシリンを買
つて渡した、午後二、三時頃同人がジープに乗ろうとする前、マーキユロとペニシ
リン軟膏を手渡したのである」旨(同一八四五丁以下)各証言しており、東京拘置
所長の収容者の領置品に関する件回答書(同一七九七丁以下)には、被告人が昭和
二五年七月一〇日収容携入した品の中にマーキユロとペニシリン軟膏があつた旨の
記載がある。
 また、証人L(被告人の妹)は第一、二審で(記録七二一丁裏以下、一五八八丁
以下)、証人M(被告人の父)も第一、二審で(同二四八丁裏以下、一五五〇丁以
下)、それぞれ、同年七月五日被告人が検察官等と現場検証に来た際、左もみあげ
のところが黒ずんでいた旨証言し、証人N(被告人の母)は第二審で(同一五七八
丁以下)、同日被告人を見た時、肥えていると思つたが、今思えばむくんでいたの
である旨証言し、前示M証人は第二審で(同二三五五丁以下)、その翌日苦情をう
つたえにO巡査部長派出所に赴いた旨証言しているところ、第二審証人P(警察官)
の証言(同二三二六丁以下)によれば、同年七月六日被告人の父Mが同派出所を訪
ねていることが明らかである。
 その上、被告人の司法警察員に対する昭和二五年六月二二日附第三回供述調書(
記録五三五丁以下)によると、被告人は同日朝刑事に対しては自白を翻えしたが、
後また犯罪を認めるに至つたこと、その取調の時、刑事が長い棒を持つて来たこと
が窺われ、なお、被告人の司法警察員に対する各供述調書を仔細に点検すれば、被
告人は本件自白の重要部分であり且つ記憶違いをする由もないと考えられる犯行決
意の日時、手提金庫を開けようとして使用した道具の点につき供述を変更している
ことが明らかである。
 また、第一、二審における証人B、同A、同Cの各証言および第一審における証
人F、同Eの各証言等によれば、司法警察職員で被告人を取調べたのはB、A両警
部補、C、E両巡査部長、F巡査等で、B警部補が主として被告人の取調に当り、
調書はもつぱらA警部補が作成し、他はB警部補の取調を補助したものであること
が明らかであるにもかかわらず、第一審におけるA証言(記録三五三丁以下)、第
一、二審におけるC証言(同四一四丁以下、二一九九丁以下)、第二審におけるB
証言(同一八五二丁以下)によつても、B警部補が主として被告人を取調べておき
ながら、何ゆえ自らは調書を作成せず、わざわざA警部補をしてこれを作成せしめ
るに至つた(被告人の警察における供述調書は悉くA警部補が取調べこれを録取し
た形をとつている。)のか理由が判然としない。
 そして、第二審における証人Qの証言(記録一六九七丁以下)によれば、もと検
事で、本件発生に当つては、、自ら検察官としてその搜査に従事し、第一審公判で
はその立会検察官として公判に出席し、本件公訴の維持に努めた同人すら、被告人
の司法警察員に対する自白には、芝居じみたところもあつて、これを信用せず、疑
いを持つたことが明らかであり、また第一審第五回、第九回、第一〇回公判調書に
よれば、同検事がとかく右供述調書を公判に提出することを渋つたかの如き事実も
窺われるのである。
 以上のような諸般の事実を綜合すると、警察における被告人の取調は、司法警察
職員の第一、二審における弁明め証言にもかかわらず、被告人が第一審以来供述し
てやまない程、苛酷なものであつたかどうかは別としても、そこには可なり無理も
あつたのではないかと考えざるを得ない。この意味で、被告人の警察における自白
はその任意性に疑いがあると見るのが相当であるというべきである。
 しからば、原判決が被告人の司法警察員に対する本件供述調書に任意性ありとし、
第一審判決がこれを他の証拠と綜合して犯罪事実を認定したことを是認したのは、
右調書の証拠能力に対する判断を誤り、採証すべからざる証拠を証拠とした違法が
あるに帰し、しかも右調書は犯罪事実認定の有力な証拠となつているものと認めら
れるからこの違法は判決に影響を及ぼさないとはいえず、原判決はこれを破棄しな
ければ著しく正義に反するものと認める。
 よつて、その余の論旨に対する判断はこれを省略し、刑訴四一一条一号により原
判決を破棄の上、同四一三条本文に則り本件を原高等裁判所に差し戻すべきものと
し、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 本件公判出席検察官 松村禎彦
  昭和三三年六月一三日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一

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