弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を札幌高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 弁護人河野智達の上告趣意第一点について。
 記録によれば、第一審判決は、被告人に対する起訴状記載の第一の(一)ないし
(五)の各収賄の公訴事実中(三)の所為(被告人が昭和二七年五月下旬頃Aから
金八万円を職務に関して収受したとの点、被告人が公判廷において金員の授受自体
もその趣旨をも争つていたもの)については、犯罪の証明が十分でないとして主文
において無罪を言い渡したところ、右は事実を誤認したものであるとして検察官か
ら控訴の申立があり、原審は右控訴趣意を容れて第一審判決を破棄し、右金員授受
の点につきなんら事実の取調をすることなく、訴訟記録及び第一審で取り調べた証
拠である被告人の検察官に対する第二回供述調書、Aの検察官に対する第二、三回
供述調書、Bの検察官に対する供述調書、一審証人Cの供述及び被告人の職務関係
の事実のみを綜合して、被告人とAとの間に金八万円の授受のあつた事実を確定し
有罪の判断をしたものであることがわかる。(尤も、被告人の職務権限に関しては
原審において事実の取調が行われているけれども、事件の核心をなす右金員の授受
自体については、何ら事実の取調が行われていない。)かように、第一審が起訴に
かかる公訴事実を認めるに足る証明がないとして、被告人に対し無罪を言い渡した
ばあいに、控訴審が右判決は事実を誤認したものとしてこれを破棄し、自ら事実の
取調をすることなく、訴訟記録及び第一審で取り調べた証拠のみによつて直ちに被
告事件について犯罪事実の存在を確定し有罪の判決をするのは刑訴四〇〇条但書の
許さないところであることは、当裁判所大法廷判決(昭和二六年(あ)第二四三六
号同三一年七月一八日言渡、昭和二七年(あ)第五八七七号同三一年九月二六日言
渡)の示すところである。(なお、昭和三〇年(あ)第四五六号、同三二年一二月
二七日第二小法廷判決、昭和三一年(あ)第一七六一号同三四年二月一三日第二小
法廷判決各参照)。
 よつて、その余の上告趣意に対する判断をするまでもなく、刑訴四一一条一号、
四一三条により原判決を破棄して本件を原裁判所である札幌高等裁判所に差し戻す
べきものとし、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
 検察官 高橋一郎出席
  昭和三四年五月二二日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一

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