弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
     被上告人らの請求を棄却する。
     訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人奥川貴弥、同高木裕康の上告理由一ないし三について
一 原審が適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 東村山市は、市民の利用に供するテニスコート、少年野球場及びゲートボール場
を設けるため、第一審判決別表第一の借用地欄記載の各土地(以下「本件各土地」
という。)をその所有者らから提供を受けて確保することを企図し、そのため、右
所有者らに対し、本件各土地の提供を受けた場合にはその固定資産税は非課税とす
る旨の見解を示し、また、本件各土地につき三・三平方メートル当たり一箇月五〇
円の割合の金員を報償費として支払う旨を提案して協力を求め、その結果、右所有
者らから右提案内容についての了解を得て本件各土地を借り受けた。
 同市の市長であった上告人は、右の合意に従い、本件各土地につき、昭和六〇年
度の固定資産税を賦課しない措置(以下「本件非課税措置」という。)を採り、そ
の後、その徴収権が時効により消滅するに至った。
 なお、通常の取引上本件各土地を建物所有以外の目的で賃借する場合の賃料額は、
三・三平方メートル当たり一箇月五〇〇円ないし一三七三円であり、また、本件各
土地に課される固定資産税額は、三・三平方メートル当たりに換算すると一箇月一
〇〇円ないし二〇〇円であって、本件各土地についての右賃料額は、右各固定資産
税額及び右各報償費の合計額よりもはるかに高額なものとなる。
二 原審は、右の事実を前提として、次のとおり判示した。
 1 本件において、同市は、本件各土地の所有者らに対し、土地の借受けの見返
りとして右報償費を支払っているので、地方税法(以下「法」という。)三四八条
二項ただし書及び東村山市税条例(昭和二五年条例第四号。以下「市税条例」とい
う。)四〇条の六にいう「固定資産を有料で借り受けた」場合に当たり、上告人は、
右各規定により、本件各土地に対し固定資産税を課すべき義務を負っているという
べきである。
 2 上告人は、法律上、固定資産税を課すべき義務を負っているのであるから、
同市が、本件各土地所有者らに対し、固定資産税を課さない旨の見解を示して土地
を借り受けたとしても、そのことにより本件非課税措置の違法性が阻却されるもの
ではない。
 3 地方自治法二四二条の二第一項四号に基づく住民訴訟における損害額の算定
に当たっては、普通地方公共団体の得た利益をもしんしゃくすべきであるが、右利
益は、問題とされた財務会計上の行為と法律上対価関係にあり、かつ、相当因果関
係にあることが必要であり、そのような関係にない事実上の利益はしんしゃくすべ
きではないところ、同市は、本件各土地の借受けによって、通常の賃貸借における
賃料額から右報償費を差し引いた額相当の利益(差引利益)を得ていることは明ら
かであるが、右利益は事実上のものにすぎず、本件非課税措置とは法律上対価関係
にはなく、また、相当因果関係もないので、これをしんしゃくすべきではない。し
たがって、同市は、本件各土地に対する固定資産税の合計額に相当する額の損害を
被ったことになる。
三 原審の右判断のうち、1及び2は是認することができるが、3は是認すること
ができない。その理由は、次のとおりである。
 1 法三四八条二項は、そのただし書において、固定資産を有料で借り受けた者
がこれを同項各号所定の固定資産として使用する場合には、本文の規定にかかわら
ず、固定資産税を右固定資産の所有者に課することができるとしているところ、こ
こでいう「固定資産を有料で借り受けた」とは、通常の取引上固定資産の貸借の対
価に相当する額に至らないとしても、その固定資産の使用に対する代償として金員
が支払われているときには、これに当たるものというべきである。
 また、市税条例四〇条の六にいう「固定資産を有料で借り受けた」も、これと同
趣旨であると解すべきである。
 ところで、同市が本件各土地の所有者らに対し、土地の借入れの見返りとして支
払っている報償費の金額は、一律に三・三平方メートル当たり月額五〇円であり、
これは、本件各土地を賃借した場合の賃料の一〇分の一以下であるけれども、面積
に応じて報償費が支払われていること、前記の使用目的からみて本件各土地の所在
場所等によってその利用価値に大きな差があるとは考えられないことからすると、
報償費は土地使用の代償であって、同市が本件各土地を報償費を支払って借り受け
たことは、「固定資産を有料で借り受けた」場合に当たると解すべきである。前記
二の1のとおり原審の判断はこれと同旨であり、正当として是認することができ、
この点につき原判決に所論の違法はない。上告理由一は採用することができない。
 2 上告人が、法律上、固定資産税を課すべき義務を負っている以上、同市が、
本件各土地所有者らに対し、固定資産税を課さない旨の見解を示して土地を借り受
けたとしても、そのことにより本件非課税措置の違法性が阻却されるものではない。
前記二の2のとおり原審の判断はこれと同旨であり、正当として是認することがで
き、この点につき原判決に所論の違法はない。上告理由二は採用することができな
い。
 3 次に、本件非課税措置による損害の発生について検討する。
  (一) 地方自治法二四二条の二第一項四号に基づく住民訴訟において住民が代
位行使する損害賠償請求権は、民法その他の私法上の損害賠償請求権と異なるとこ
ろはないというべきであるから、損害の有無、その額については、損益相殺が問題
になる場合はこれを行った上で確定すべきものである。したがって、財務会計上の
行為により普通地方公共団体に損害が生じたとしても、他方、右行為の結果、その
地方公共団体が利益を得、あるいは支出を免れることによって利得をしている場合、
損益相殺の可否については、両者の間に相当因果関係があると認められる限りは、
これを行うことができる。
  (二) 本件においては、同市は、本件各土地を借り受けるに際し、土地所有者
らに対し、各土地の固定資産税は非課税とする旨の見解を示し、通常の賃貸借にお
ける賃料額よりかなり低額の右報償費を支払うことを約束して貸借の合意に至って
おり、上告人は、これに従って本件非課税措置を採ったものである。しかし、前示
のとおり、本件は固定資産税を非課税とすることができる場合ではないので、本件
非課税措置は違法というべきであり、同市は、これにより右税額相当の損害を受け
たものというべきである。しかしながら、同市は、同時に、本来なら支払わなけれ
ばならない土地使用の対価の支払を免れたものであり、右対価の額から右報償費を
差し引いた額相当の利益を得ていることも明らかである。そして、上告人が本件非
課税措置を採らずに固定資産税を賦課した場合には、それでもなお本件各土地の所
有者らが本件のような低額の金員を代償として土地の使用を許諾したはずであると
いう事情は認定されていないので、前記の原審認定事実によれば、同市があくまで
も本件各土地の借受けを希望するときは、土地使用の対価として、近隣の相場に従
った額又はそれに近い額の賃料を支払う必要が生じたことは、見やすいところであ
り、その額が固定資産税相当額に右報償費相当額を加えた額以上の金額になること
は、前記の原審の認定する各金額の差から明らかである。
 したがって、上告人が本件非課税措置を採ったことによる同市の損害と、右措置
を採らなかった場合に必要とされる本件各土地の使用の対価の支払をすることを免
れたという同市が得た前記の差引利益とは、対価関係があり、また、相当因果関係
があるというべきであるから、両者は損益相殺の対象となるものというべきである。
そうであれば、後者の額は前者の額を下回るものではないから、同市においては、
結局、上告人が本件非課税措置を採ったことによる損害はなかったということにな
る。
  (三) 以上によれば、上告人が本件非課税措置を採ったことにより同市が固定
資産税相当額の損害を被ったとする原判決及び第一審判決は、法令の解釈適用を誤
った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。この点の論旨
は理由があり、その余の上告理由につき判断するまでもなく、原判決は破棄を免れ
ず、第一審判決は取り消されるべきであり、右判示するところによれば、被上告人
らの本訴請求は、理由がなく、棄却されるべきものである。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、
八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    大   野   正   男
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    尾   崎   行   信

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