弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件再上告を棄却する。
         理    由
 弁護人松尾菊太郎、川野豊上告趣意第一点について。
 しかし、被告人の公判廷における自白は、憲法第三八条刑訴応急措置法第一〇条
各第三項にいわゆる「本人の自白」に含まれないことは、当裁判所の判例とすると
ころである。(昭和二三年(れ)第一六八号同年七月二九日宣告大法廷判決参照)。
そして、その判例は今なおこれを変更する必要を認めない。それ故右と同趣旨に出
た原上告判決は正当であるから本論旨はその理由なきものである。
 同第二点について。
 所論憲法第三二条は、何人も裁判所において裁判を受ける権利あることを規定し
たに過ぎないもので、如何なる裁判所において、裁判を受くべきかの裁判所の組織、
権限等については、すべて法律において諸般の事情を勘案して決定すべき立法政策
の問題であつて、憲法には第八一条を除くの外特にこれを制限する何等の規定も存
しない。従つて三審制を採用する裁判制度において、上告審を純然たる法律審すな
わち法令違反を理由とするときに限り上告を為すことを得るものとするか、又は法
令違反の外に量刑不当乃至事実誤認の上告理由をも認めて事実審理をも行うものと
するかは、立法を以て適当に決定すべき事項に属する。されば旧憲法時代の訴訟手
続において刑訴第四一二条の規定により量刑不当の上告理由を許していたにかかわ
らず、刑訴応急措置法第一三条第二項の規定において右刑訴の規定を適用しないも
のと規定したからと言つてその規定を目して右憲法規定の違反なりとする所論は当
を得ない。(昭和二二年(れ)第五六号同二三年二月六日宣告大法廷判決参照)。
また憲法第三六条にいわゆる「残虐な刑罰」とは刑罰そのものが人道上残酷と認め
られる刑罰を意味し、法定刑の種類の選択又は範囲の量定の不当を指すものではな
い(昭和二二年(れ)第三二三号同二三年六月二三日宣告大法廷判決参照)。それ
故前記措置法の規定が憲法第三六条の規定にも反するとの論も亦当らないから、本
論旨もその理田がない。
 同第三点について。
 所論の要旨は「憲法第二五条は、国民が健康で文化的な最低限度の生活を営む権
利を保障している。だが政府は、国民の生存に必要な食糧を配給していない。国民
は、政府を頼つて配給を当てにしていたのでは餓死する外ないので、国民は自らの
手によつてこれを確保しなければならぬ。然るに食糧管理法はこれを禁止している。
さりとてこの禁止を破らなければ国民は一人残らず餓死を免れない。されば、同法
はその内容において合理性を欠いて居り、社会の現実に合わない国民のひとしく守
り得ない法律であつて、結局人間の生存を否定する法律である。それ故国民の生存
権を保障している新憲法第一一条、第九七条の条規に反しその効力を有しないから
これが無効宣言を要求する次第である」というのである。
 しかし食糧管理法は、国民食糧の確保及び国民経済の安定を図るため食糧を管理
し、その需給及び価格の調整並びに配給の統制を行うため制定せられた法律である
ことは同法第一条によつて明白であるから、その制定の目的は、公共の福祉すなわ
ち国民全般の食生活その他一切の経済生活を安定確保するにある。そしてその目的
を達成する第一次的手段として、先づ政府の管理すべき国民食糧の範囲を勅令(政
令)を以て定めるいわゆる主要食糧に限定し、その限定された主要食糧を管理する
基本方針として政府において主要食糧の生産者からその保有食糧を差引きたる余剰
食糧を供出せしめ、これを一般消費者に対しでき得る限り多く配給せんとすること
を規定したる同法第九条、第一〇条において右基本方針を実施するための第二次手
段として政府において特に必要ありと認めるときは勅令(政令)の定めるところに
より主要食糧の配給、加工、製造、譲渡又は移動若しくは価格その他同法で特定限
定した事項に関し必要な命令を為し個人の行動の自由を一般的に制限又は禁止する
ことを得るものとし、同三一条においてこれが統制命令に違反した者を処罰するこ
とを得るものとしてその基本統制を強化しているに過ぎないものである。すなわち
同法はその主要な目的手段として国民全体の食生活を安定確保するため食糧生産者
から余剰食糧を供出せしめ一般消費者にでき得る限り多く分配せんとするものであ
るから、国民中食糧生産者は、この法律によつて直接その生命又は生活を害せられ
ることなく、また一般消費者はこの法律によつて寧ろその生命又は生活を保障せら
れるのであるから、所論のごとく憲法の保障する国民の生存権を否定するものでは
なく、寧ろこれを保護するものである。また、同法並びにその附属法令は、第二次
的手段として主要食糧の譲渡又は移動等を一般的に禁止又は制限し若しくは配給量
につき一定の限度を設け得るものとしたが同時にその譲渡、移動等については許可
を認め配給については増配給食等の特別配給の方法をも認めているからこの点から
しても、所論のごとく同法をもつて合理性を欠き又は社会の現実に合はない国民の
ひとしく守り得ない結局国民の生存権を否定する法令であると言うことはできない
(昭和二三年(れ)第二〇五号同年九月二九日宣告大法廷判決参照)。されば本論
旨もその理由がない。
 よつて、旧刑訴第四四六条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は、論旨第一点に対する裁判官斎藤悠輔の補足意見、裁判官塚崎直義、
同沢田竹治郎、同井上登、同栗山茂、同小谷勝重の各反対意見(同点引用の判決に
掲げた意見と同一)、また同第三点に対する裁判官井上登の補足意見、同栗山茂の
反対意見(同点末尾に引用した判決に掲げた意見と同一)を除く外、裁判官全員の
一致した意見によるものである
 裁判官庄野理一は退官につき合議に関与しない。
 検察官 安平政吉関与
  昭和二五年二月一日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
 裁判官栗山茂は差支えにつき署名押印することができない。
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義

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