弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を名古屋高等裁判所金沢支部に差し戻す。
         理    由
 上告代理人弁護士岡本梅次郎、同丁野暁春の上告理由第一点ないし第三点につい
て。
 原判決の確定したところによれば、被上告組合は、Dの斡旋の下に本件生あじ二
三〇箱を魚類問屋業である上告会社に販売を委託することとなり、昭和二七年五月
一〇日Eを代理人とし、右生あじを小浜市において貨物自動車一台に積載し岡山市
所在の上告会社店舗に運搬させ、翌一一日Eは上告会社との間に代金を二一万五九
七〇円とする販売委託の商談が成立し、上告会社は右代金の内金二万円を運賃引当
としてEに支払い、Eは残金の送金方を依頼し、宛名を小浜市F組合と記載した甲
第一号証の仕切書を受領して帰来したこと、一方上告会社の荷受帳(乙第一号証)
には荷主としてD名義が記載されていること、次いで上告会社は同月一三日Dに宛
て前示代金の内販売手数料を差引いた残代金一八万二八六一円八〇銭を送金したこ
と、の各事実が認められる。
 ところで、
 (一) 被上告組合が前叙のとおり、本件取引の委託者なりとせば、上告会社と
しては結局二重に支払うべき運命に陥るであろう前示弁済金を、Eの依頼を無視し
てまで何故にDにやすやすと送金したのであろうか。その理由については、原判決
は何ら言及するところがない。
 (二) 原判決は、前示甲第一号証の仕切書の宛名は被上告組合と表示すべきを
誤記したものであると判示するのであるが、これを受領したEは、本件証拠関係に
照せば、被上告組合の監査役であり、監査役とすれば右の如き仕切書は特に入念に
注意して受領すべき筈のものであつて、これが誤記であることを覚知したならば直
ちにこれを訂正さすべく、そして宛名の真正なるものを持ち帰るべき筋合なるに、
Eは何故に漫然と甲第一号証の如きものを受領して帰来したものであるか。原判決
は、この点について誤記なる旨を説示するが、その間の事情につき未だ理由をつく
しているものとは認められない。
 (三) 前示乙第一号証の荷受帳には、荷主としてD名義が記載されており、原
判示によれば同人は斡旋人なるが故にしかく記入されているというのである。しか
し、本件の如き魚類の大量取引をなす問屋たるものは、右の如き重要な帳面に荷主
でない単なる斡旋人を荷主として記入するが如きは、判示以上の何らかの特段の事
情がなくしては、到底考え得られない筋合である処、原判決はそれらの点について
も触るるところがない。
 (四) 本件商談は、Eが被上告組合の代理人となつて成立したものであるとい
う。然らば、Eはいつたい上告会社の如何なる責任の地位にある者と談合折衝した
ものであろうか。商談成立の過程は如何。元来被上告組合と上告会社との間には従
来も商談取引があつたものであるかどうか、また本件商談が突如としてなされかつ
成立したものであるか。一方Dについても、斡旋人というだけで如何なる斡旋行為
をなしたものであるか。従来Dと上告会社との間には本件に類した取引がなかつた
ものであるかどうか(本件証拠関係に徴すれば、Dは本件商談成立前に上告会社に
対し、あじをもつてゆくから高く売つてほしい旨電話連絡をした形跡が窺い得ない
でもなく、もしそうだとすれば右電話連絡はDの販売委託の申込と認め得られるや
も計り難いのである。)。それらの点について審究を重ねれば、本件商談の委託者
はいずれであるかが容易に把握できたであろうとも考えられるのであるが、原判決
はそれらの点に考慮を運らした形跡が認められない。
 以上を要するに、原判決は叙上の諸点において説明不十分であり、審理不尽延い
て理由不備のそしりを免れないものであつて、本上告理由は結局理由あるに帰し、
原判決は破棄を免れないものと認める。
 よつて、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    高   木   常   七

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