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平成24年8月24日判決言渡
平成23年第284号代議員会議決無効確認請求事件
判決
主文
1原告が,平成23年1月18日をもって被告の設立事業
所でないことを確認する。
2被告は,原告のために,A厚生年金基金規約別表第1か
ら「株式会社B」,「長野県諏訪郡C村」の記載を削除し
た上で,厚生労働大臣に対し,その旨の厚生年金保険法1
15条3項所定の手続をせよ。
3訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
主文同旨(なお,原告は,被告に対し,A厚生年金基金規約別表第1か
ら原告を削除する旨について厚生労働大臣の認可を得ることを請求してい
るが,これは,要するに上記規約別表第1から原告の名称等を削除するた
めに必要な手続をとることを求めるものであると解されるので,主文と原
告の請求の趣旨は,同趣旨をいうものであると解される。)
第2事案の概要
1本件は,厚生年金基金(以下,単に「基金」という。)である被告に設
立事業所(基金が設立された適用事業所をいう。以下同じ。)として加盟
している原告が,被告に対して任意脱退を申し出たことにより,被告を脱
退しており,被告は原告の脱退のための所定の手続を行う義務があるとし
て,被告に対し,原告が被告の設立事業所でないことの確認を求めるとと
もに,A厚生年金基金規約(以下「本件規約」という。)別表第1から原
告の名称及び住所を削除し,厚生労働大臣からその認可を受けるための手
続を行うよう求めた事案である。
2前提事実(証拠を付さない事実は争いがないものである。)
被告は,厚生年金保険法(以下,単に「法」ということがある。)に
基づいて,設立事業所の従業員である加入員及びその遺族の生活の安定
と福祉の向上を目的として,昭和62年11月1日に発足した組織であ
る。
原告は,平成11年5月1日に被告に設立事業所として加入した事業
所である。
被告では,平成22年ころ,23億8700万円の使途不明金がある
ことが発覚し,これとともに当時の被告事務長であるDが行方不明とな
り,長野県警察本部が,同人に対して,平成23年1月25日に業務上
横領の疑いで逮捕状を取り,同人を指名手配するに至った(以下「本件
事件」という。)。また,長野県では,本件事件を契機として,被告が
多額の積立金不足に陥っているなど,被告の運営が困難になっている状
態であることについて盛んに報道されるようになった。
(乙2,弁論の全趣旨)
原告は,平成23年1月18日,被告に対し,①近年被告の資産運用
による財政赤字が増加しており,また,②平成22年には,被告におい
て23億円を超える使途不明金が発覚していることから,被告の基金と
しての将来に全く期待ができなくなったということを理由として,設立
事業所の事業主としての原告代表者の同意及び原告に使用される被保険
者の全員の同意があったことの証明書を添えて被告からの脱退を申し出
た(甲1,甲5の1,2)。
被告は,これに対し,平成23年1月19日付けで,原告の脱退につ
いては,脱退に伴う特別掛金の納付が確認された上で,被告の常任理事
会において承認されることになるとして,特別掛金の金額が1393万
9496円,納付期限が平成23年1月31日である旨の納入告知書を
原告に対して送付し,原告は,これを受けて,特別掛金の納入の準備を
行ったが,その後,被告が,平成23年1月21日付けで,原告が脱退
するためには,先に代議員会の議決が必要であり,上記納入通知は手続
及び手順の確認の誤りであった旨を原告に対して通知し,特別掛金の納
入留保を依頼したため,原告は,納入を留保した(甲3,甲6の1ない
し3,甲7,弁論の全趣旨)。
被告は,原告の上記脱退の申出について,被告における規約の変更に
該当するものであり,代議員会の3分の2以上の多数による議決(同意)
が必要であるとし,平成23年2月16日に開催した代議員会において
出席31名(委任状提出者5名を含む。)のうち29名が原告の脱退承
認に反対したことから不承認との議決結果となった旨を原告に通知した
(甲2,乙2)。
基金に関する法令の定めについて
ア基金は,加入員の老齢について給付を行い,加入員の生活の安定と
福祉の向上を図ることを目的として,適用事業所の事業主及びその適
用事業所に使用される被保険者で組織される特別法人であり,適用事
業所の事業主によって任意で設立され,厚生労働大臣から設立の認可
を受けた時点で成立する(法106条,107条,108条1項,1
10条1項,111条1項,113条,122条,)。
基金の具体的役割は,加入員の老齢厚生年金のうち,物価スライド
部分及び標準報酬月額の再評価に伴う増額相当部分を除く年金を国に
代行して支給すること(以下,この支給部分を単に「代行部分」とい
う。)及び基金独自の立場からの加算部分(以下,単に「加算部分」
という。)を支給することであり,基金は,本来国に納めるべき厚生
年金保険の保険料の一部を免除されている(法43条1項,44条の
2,81条の3,130条,132条)。
イ基金は,規約において法定事項を定める必要があり,この法定事項
には,設立事業所の名称及び所在地が含まれている(本件規約では5
条により,設立事業所の名称及び所在地について別表第1にまとめて
記載されている。)。法定事項の変更には,原則として厚生労働大臣
の認可を得る必要があり,認可を受けなければ効力を生じないものと
されているが,設立事業所の名称及び所在地の変更は,基金における
設立事業所の増加又は減少に係る場合を除いて,厚生労働大臣の認可
を受けることは要しないとされている(法115条1項3号,2項,
厚生年金基金令2条2号)。
ウ基金には,その管理及び運営のために,代議員会(設立事業所の事
業主及び設立事業所において使用される者並びに加入員の中から互選
された者によって構成される。)及び役員(理事,理事長及び監事)
が置かれ,基金の業務は,理事長が代表して業務執行を行うほか,理
事によって組織される理事会の過半数により決するものとされている
が,規約の変更を含む一定の重要事項については,代議員会の議決を
経る必要があるとされている(法117条,118条1項1号,11
9条,120条)。
エ厚生年金保険法上は,設立事業所の脱退について,基金が設立事業
所を減少させるには,減少に係る適用事業所の事業主の全部及びその
適用事業所に使用される被保険者の2分の1以上の同意が必要とされ
るが,その他には直接的に要件を定めた規定は存在せず,設立事業所
が減少する場合,当該減少に伴って他の設立事業所に係る掛金が増加
することになるときは,基金は,当該増加額に相当する一定額につい
て当該減少にかかる設立事業所の事業主から掛金として一括徴収する
(以下「一括徴収手続」という。)ものとされている(法138条5
項,144条1項)。
なお,基金から設立事業所が脱退する場合,当該設立事業所の加入
員についての代行部分は,企業年金連合会に引き継がれ,加算部分に
ついては,受給者である当該加入員が脱退一時金の受給か企業年金連
合会への移転かを選択することができるとされている(乙3)。
脱退に関する本件規約の定め(乙1)
本件規約上,被告の設立事業所の脱退についての要件を直接定めた規
定は存在しないが,厚生年金基金令2条各号の事項を除く本件規約の変
更についての議事は,代議員会の議決により代議員の定数の3分の2以
上の多数で決するものとされている(本件規約19条2項,23条1号)。
また,本件規約附則23条1項では,設立事業所が被告を同項1号ない
し3号に掲げる事由により脱退する場合において脱退により生じる当該
事業所に係る債務及び不足金の合計額を特別掛金として,当該事業所か
ら一括して徴収するものとするとして被告における一括徴収手続を定め
ており,同項1号において「設立事業所の事業主が被告あてに任意脱退
を申し入れ代議員会が認めた場合」が掲げられている。
3争点及び当事者の主張
本件における争点は,原告が被告を任意脱退するための要件が何であり,
原告はこの要件を満たしているかという点であり,これについての当事者
の主張は以下のとおりである。
(原告の主張)
厚生年金保険法は,基金の設立事業所が減少する場合において,他の
設立事業所に係る掛け金が増加することとなるときは,一括徴収手続を
行うものと定めており,基金がその設立事業所を減少させるには,その
減少に係る適用事業所の事業主の同意及びそこで使用される被保険者の
2分の1以上の同意を得なければならないと規定するほかは,明確な規
定をおいておらず,本件規約にも任意脱退に関する規定が存在しない。
したがって,被告における任意脱退の効力発生要件は,厚生年金保険法
144条1項に定められた①設立事業所の事業主の同意及び②同事業所
に使用される被保険者の2分の1以上の同意で足りるとすべきである。
なお,設立事業所の増減に係る規約の変更について厚生労働大臣の認可
が必要であるとされることについては,あくまで任意脱退後の規約の変
更手続であるにすぎず,任意脱退自体についての制限ではないというべ
きである。
被告は,設立事業所の名称と所在地が記載された本件規約別表第1が
規約の一部である旨主張するが,同別表は,単に設立事業所を掲示する
ものに過ぎないというべきであるし,仮に同別表が規約の一部であると
しても,同別表の加除は,脱退の事後的かつ事務的な事柄に過ぎないか
ら,これをもって規約の変更であると解することはできないというべき
である。また,被告は,本件規約附則23条1項1号の規定から,被告
では任意脱退を代議員会の承認事項と定めている旨主張するが,同号は,
設立事業所の脱退に伴う特別掛金の徴収について規定するものであっ
て,任意脱退についての代議員会の議決の可否等の要件を規定している
ものでないことは明らかである。
仮に,原告が被告を脱退するにあたって,代議員会の議決又は承認が
必要であると解されるとしても,被告は,新聞報道によれば,すでに運
営困難な状態になっていたことに加えて,本件事件によって23億87
00万円もの使途不明金を出しており,当然役員の責任が問われるべき
状態になっているのであって,近時報道されているいわゆるAIJ投資
顧問問題の発生を考慮するまでもなく,原告の脱退にはやむを得ない事
由があるというべきである。しかし,原告の任意脱退の申出について行
われた代議員会の審議は,基金設立の趣旨も,法や本件規約の規定も十
分に理解せず,原告に対する意見聴取もしていない状況で行われたおよ
そ不十分なものであり,何らの留保もなく上記原告の申出に対して多数
決で不承認とした措置は,原告の脱退の自由を不当に制限するものであ
って,結社からの脱退の自由を認める憲法に反するもので,公序良俗に
反し無効であるというべきである。
(被告の主張)
厚生年金保険法118条は,代議員会の議決を必要とする事項につき,
1項1号において「規約の変更」を挙げているところ,本件規約では,
5条(設立事業所の名称及び所在地)において「この基金の設立事業所
の名称及び所在地は,別表第1のとおりとする。」と定め,別表第1と
して「設立事業所の所在地及び名称」が添付されている。被告から設立
事業所が脱退する場合,当該事業所の名称が同別表から削除されること
になるが,これは,本件規約と一体となる同別表の記載事項の変更であ
る以上,規約の変更に該当するから,厚生年金保険法118条1項によ
り代議員会の議決事項となるのであり,厚生年金基金令2条2号におい
ても,適用事業所の増減について厚生労働大臣の認可を効力発生要件と
していると解されるところである。そして,本件規約19条2項では規
約の変更の議事を代議員の定数の3分の2以上の多数で決するとされて
いる。したがって,原告が被告を脱退するには,規約の変更を伴うもの
として代議員会の議決により代議員の定数の3分の2以上が同意するこ
とが必要となる。
仮に上記別表の変更が規約の変更に該当しないとしても,厚生年金保
険法118条1項4号において「その他規約で定める事項」を代議員会
の議決事項としているところ,本件規約附則23条1項1号において設
立事業所の事業主が基金あてに任意脱退を申し入れ代議員会が認めた場
合に特別掛金を一括して徴収する旨規定されているのであるから,本件
規約では設立事業所の任意脱退の可否を代議員会の議決事項と定めてい
るものといえる。
原告は,被告からの脱退を認めないことが団体への加入及び脱退の自
由を認める憲法に反し,公序良俗違反である旨主張するが,基金は,本
来国が行う厚生年金制度の代行も担っており,多分に公的性格を持つも
のであって,給付が原則として終身であり,運営主体が母体企業とは独
立した公益法人であり,労使双方による民主的運営のための代議員会が
存在すること及び脱退者に対する通算制度や解散時の支払保証制度があ
るなど,年金としての実質が確保され,その給付の確実性を担保する措
置が講じられているのであり,加入事業所の任意脱退が相次ぎその運営
が破綻するという事態になることは許されるものではない。基金の適用
事業所の増減について,厚生労働大臣の認可事項とされているのもその
趣旨である。また,基金も保険であるところ,保険が成立するためには,
リスク発生確率が事前に予測可能である必要があるところ,これには一
定の母集団を確保する必要がある。
したがって,被告から設立事業所が任意脱退するにあたって,代議員
会の議決による民主的な意思決定に脱退の適否をかからせることは基金
にとって当然であり,合理的かつ適法な制限であるというべきである。
第3当裁判所の判断
1設立事業所が脱退する場合について,法144条1項において当該事業
所の事業主及び当該事業所における被保険者の同意が要件とされているほ
か,厚生年金保険法及び本件規約では直接的に定めた規定がないので,ま
ず,原告が被告を脱退するにあたって,代議員会の議決を経る必要がある
かを判断する前提として,①設立事業所の名称及び所在地が記載されてい
る本件規約別表第1から原告を削除することが,規約の変更に該当するの
かを検討した上で,規約の変更に該当するといえる場合には②設立事業所
が被告を脱退するのに代議員会の議決又は承認を得る必要があるのか,③
設立事業所が被告を脱退するのに,厚生労働大臣の認可を要するといえる
のかについて検討することとする。
設立事業所が記載されている本件規約別表第1から原告を削除するこ
とは,規約の変更に該当するか
厚生年金保険法115条1項3号は,基金が規約によって定めなけれ
ばならない事項として「基金の設立に係る適用事業所の名称及び所在地」
を掲げており,本件規約5条において「この基金の設立事業所の名称及
び所在地は別表第1のとおりとする。」と規定され,これを受けて本件
規約別表第1が定められているから,別表第1は本件規約における法定
記載事項であり,この変更は規約の変更に該当すると解することが相当
である。
したがって本件規約別表第1から原告を削除することは,規約の変更
に該当するというべきである。
設立事業所が被告を脱退するにあたって,代議員会の議決又は承認を
得る必要があるか
ア上記前提事実及びのとおり,法上は,法144条1項以外には
設立事業所が基金を脱退するにあたっての要件が直接規定されておら
ず,また,本件規約上も,設立事業所の基金からの脱退について直接
規定していない。もっとも,上記で検討したとおり,本件規約別表
第1の変更が規約の変更に該当し,規約の変更に代議員会の議決が必
要であって(法118条1項1号,本件規約23条1号),本件規約
19条2項で規約の変更の議事については代議員の定数の3分の2以
上の多数による必要があると定めている以上,設立事業所の被告から
の脱退自体に代議員会の議決により代議員の定数の3分の2以上の承
認が必要であると解される。また,本件規約附則23条1項1号は,
設立事業所が脱退に際して納付する必要がある掛金の一括徴収手続に
ついて「代議員会が認めた場合」と規定しており,この規定からも脱
退について代議員会の承認が必要と解される。
イしかし,基金は,設立自体については任意で行われるものであり
(法110条1項),原則として基金を構成する設立事業所に脱退
の自由が保障されているというべきところ,上記規定によると,基
金から設立事業所が脱退するには,いかなる場合でも代議員会の議
決又は承認が必要であるということになり,設立事業所が任意で脱
退することが著しく困難になることから,代議員会の議決を要する
と規定することにより脱退の自由を制限することが許されるのかに
ついて以下検討する。
この点,基金は,加入員の老齢厚生年金のうち,物価スライド部
分及び標準報酬月額の再評価に伴う増額相当部分を除く年金を国に
代行して支給すること(代行部分の支給)も役割としており,この
意味では,被告が主張するとおり,多分に公的性格を併せ持つもの
である。また,基金の目的は,加入員の生活の安定と福祉の向上に
ある(法106条)から,基金の存続を図るために設立事業所の脱
退に一定の制限をすること自体には合理性があると考えられる。
しかし,代行部分の支給については,あくまで基金が存在する場
合に当該基金の加入員について国に代わって老齢厚生年金の支給を
行うというものであり,老齢厚生年金の支給自体について基金の存
在を前提としているものではない。そして,ある設立事業所が脱退
した場合には,当該事業所に所属している加入員についての代行部
分は,企業年金連合会に引き継がれるのであるから,老齢厚生年金
を支給するという公的側面からすると,必ずしも基金の存続は必須
ではないことになる。また,上記目的のとおり,基金からの設立事
業所の脱退について究極的に保護すべき対象は,当該設立事業所の
加入員及び基金に残される加入員ということになるが,厚生年金基
金法は,後者に関して一括徴収手続を定めることにより,設立事業
所の脱退によって直ちに基金の運営が困難にならないようにしてお
り,前者については当該設立事業所の加入員の2分の1以上の同意
が要件とされている上,代行部分については企業年金連合会に引き
継がれ,加算部分については同じく企業年金連合会に引き継ぐか脱
退一時金の受給かを選択できるようになっている。
そうすると,基金の上記公的性格及び目的からしても,基金を存
続させる必要があるにせよ,基金から設立事業所が任意に脱退する
ことを常に制限する合理的理由は存在しないというべきであり,少
なくとも「やむを得ない事由」がある場合には,基金からの任意脱
退を制限することは許されないというべきであって,やむを得ない
事由がある場合には,設立事業所の任意脱退自体には代議員会の議
決又は承認は不要であると解すべきである。
よって,この限りにおいて,厚生年金保険法を合憲的に限定解釈
し,脱退の申出に「やむを得ない事由」がある場合については,代
議員会の議決は不要であって,脱退の意思表示がされたときに脱退
の効力が生ずると解すべきであり,代議員会は,規約から当該脱退
する設立事業所の名称等の記載を削除する手続を行うことを義務付
けられるというべきである。また,本件規約19条2項,23条1
号及び本件規約附則23条は,「やむを得ない事由」がある場合に
おいても代議員会の承認が必要であると解される限度で公序良俗に
反し無効であるというべきである。
設立事業所が被告を脱退するにあたって,厚生労働大臣の認可が必
要といえるか
上記で検討したとおり,やむを得ない事由がある場合には,設立
事業所の脱退自体に代議員会の決議又は承認は不要であるというべき
であるが,設立事業所が基金からの脱退の意思表示をしただけでは,
規約に当該脱退した設立事業所の名称等の記載が残る状態となり,規
約から当該設立事業所の名称等の記載の削除を基金に義務付けたとし
ても,規約の変更の効力が原則として厚生労働大臣の認可にかかるも
のであり,設立事業所が増減する場合の設立事業所の名称及び所在地
の変更が,厚生労働大臣の認可を不要とする事項となっていない(厚
生年金基金令2条2号)ことからすると,結局,設立事業所が基金を
脱退するにあたっては,厚生労働大臣の認可が必要であるとも解釈で
きる。
しかし,設立事業所の増減について厚生労働大臣の認可にかからし
めている趣旨は,代行部分があることから,基金の財政基盤の変更に
ついて厚生労働大臣の監督に服させることにあると考えられることか
らすれば,上記のとおり,代行部分の支給という公的性格については,
基金の存続は必須のものでない以上,やはり「やむを得ない事由」が
ある場合にも認可を必要であると解することは,設立事業所の脱退の
自由を著しく制限するものであり相当ではないから,厚生年金基金令
2条2号を合憲的に解釈し,「やむを得ない事由」がある場合には,
設立事業所が増減する場合であっても,設立事業所の名称及び所在地
の変更は厚生年金基金令2条2号の厚生労働大臣の認可を不要とする
事由に該当するというべきであって,法115条3項に基づき,当該
設立事業所の名称及び所在地を削除したことを厚生労働大臣に届け出
れば足りるというべきである。
2以上によれば,原告が被告を脱退するにあたって「やむを得ない事由」
がある場合には,代議員会の議決又は承認は不要であり,厚生労働大臣の
認可も不要であると解すべきであるから,原告について,被告を脱退する
について「やむを得ない事由」があるかを以下検討する。
脱退についての「やむを得ない事由」とは,基本的には原告の主観的
事情によるというべきであるが,被告事業の不振や他の構成員の不誠実
など,被告についての事情もこれに当たると解すべきであり,被告との
信頼関係の破壊が重要な要素となるものというべきである。
そこで検討するに,原告が設立事業所として被告に加入した基本的な
目的は,代行部分については被告に加入していない場合は国から原告の
従業員に対して支払われるのであるから,原告の従業員に対して福祉の
向上を図るために加算部分を支給することにあったことは明らかであ
る。そして,原告は,被告を脱退する事由として,①近年被告の資産運
用による財政赤字が増加しており,また,②平成22年には,被告にお
いて23億円を超える使途不明金が発覚していることから,被告の基金
としての将来に全く期待ができなくなったことを挙げているところ,本
件事件によって23億8700万円の使途不明金を出し,事務長が行方
をくらまし,指名手配されているなど,被告の運営方法について重大な
疑義があり,被告の存続が危ぶまれている状況にあるといわざるを得な
い。そうすると,もはや原告が被告に対して信を置くことができないと
判断したのも無理はない状態にあり,原告が被告を脱退するについて「や
むを得ない事由」があるというべきである。
なお,一括徴収手続を定めることにより,設立事業所の脱退によって
直ちに基金の運営が困難にならないようにしていることからすれば,一
括徴収手続(被告においては,特別掛金の納付)が行われることは,被
告から設立事業所が任意脱退することの要件であり,一括徴収手続が履
行されることによって,脱退の効力が脱退の意思表示の時点に遡って生
ずるというべきであるところ,原告は,すでに,被告からの特別掛金の
納入通知書を受けて,特別掛金納付の準備を行ったが,被告から納付の
留保を依頼されて納付を留保しているというのであり,特別掛金納付の
履行の提供は行われているというべきであるから,原告が被告を任意脱
退するにあたって,この点は問題とならないというべきである。
3以上によれば,原告が被告に対して事業主である原告代表者の同意及び
原告に使用される被保険者の全員の同意を添えて脱退の申出を行い,特別
掛金の納付について履行の提供を行ったことにより,原告は,被告を脱退
しており,被告は,原告の名称等の記載を本件規約別表第1から削除して
厚生労働大臣に届け出る必要があるというべきであるから,原告の請求を
認容することとし,主文のとおり判決する。
長野地方裁判所民事部
裁判長裁判官山本剛史
裁判官松本有紀子
裁判官大野元春

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