弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件控訴を棄却する。
     当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、被告人本人および弁護人能勢克男のそれぞれ作成した控訴趣
意書記載のとおりであるから、いずれもこれを引用する。
 控訴趣意中事実誤認の主張について。
 所論にかんがみ、本件記録および原審において取り調べた証拠を調査し、なお当
審における事実取調の結果を参酌して考察するに、原判示各事実は、原判決の挙示
する対応各証拠によつて証明十分であつて、その認定に誤があるとは認められな
い。
 原判示第一の事実についての所論は、要するに、被告人は、警察官が、Aに対し
逮捕状を示さないで同人を逮捕し、かつ、B組合の本拠であるC会館内の施設、掲
示、出入人物の顔写真を無差別に撮影する等の違法行為に出たことに抗議し、これ
を防止しよらとしたのにすぎず、警察官の公務執行を妨害する犯意も、右公務執行
を妨害した事実もないと主張する。
 しかし、原判決の挙示する証人D、同E、同Fの原審公判廷における各供述およ
びF撮影の写真一四枚に、原審において取り調べた証人A、同Gの原審公判廷にお
ける各供述の一部を加えて考察すれば、京都府警察本部警備部警備第三課勤務H警
部補が、C会館において、京都地方裁判所裁判官の発した逮捕状により、B組合高
校部副執行委員長Aを逮捕するにあたり、右逮捕状を同人に示してこれを閲読させ
た事実は明白であり、又、同警備第三課勤務E巡査部長は、上司であるI警部か
ら、右逮捕についてこれに協力する任務のほか、逮捕状執行状況の写真を撮影する
ように命ぜられ、写真機を携帯して前記C会館に行つたものであつて、同巡査部長
は、まず、J組合連合会書記局のある南側の建物にはいつてAを捜したが発見でき
ず、次に、K学校J組合書記局等のある北側の建物にはいつたところ、H警部補
が、同組合の廊下で、十数人のB組合員に取り囲まれながら、松木彦也に対し逮捕
状を示そうとしていたので、廊下の端にある階段から右逮捕状執行状況の写真を撮
影しようとしたが、人に押されそうになつたため一旦撮影を中止し、そのあと、H
警部補、Aらは、組合員らと共に右廊下を出て南側の中庭に移動し、同所におい
て、H警部補は、Aにあらためて逮捕状を読ませたうえ同人を逮捕しようとした
が、これに抗議する組合員らが、H警部補らを取り囲み、不当逮捕だ、逮捕状を見
せろ、などと、叫んで騒ぎ始め、逮捕状の執行が妨害されそうな形勢になつたの
で、E巡査部長は、逮捕状執行の状況や、逮捕が妨害されそうになつた状況につい
て、現場の状況の証拠を保全する目的をもつて、その集団の外から、H警部補がA
に逮捕状を示している状況を中心に、組合員らがこれを取り囲んで混乱している状
況を含めた現場の写真を撮影しようとしたところ、被告人は、同巡査部長の所にか
けよつて「何故に許可なしに写真をとるか」とどなりながら、原判示のように暴行
を加え、更に、これを制止しようとしたD巡査部長に対しても、同判示のような暴
行を加えて、両巡査部長の公務執行を妨害した事実が認められるのであつて、所論
のように、H警部補のした逮捕状執行手続が違法であるとは認められず、かつ、E
巡査部長その他の警察職員が、C会館内の施設、掲示、とりわけ、現場の状況保全
の目的を越えて出入人物の顔写真を無差別に撮影するような行為に出たものとは、
とうてい認めることができない。被告人は、原審および当審各公判廷において、
「E巡査部長に対しては、同人の着用しているレーンコートのすそ又はそで口を引
つ張つたにすぎない。D巡査部長に対しては、同人から胸倉をつかまれ、中央建物
の廊下に押し倒されたので、乱暴するなと抗議したのにすぎない。」と供述し、証
人L、同Mは、原審および当審各公判廷において、証人Nは、原審公判廷におい
て、いずれもおおむね同趣旨の供述をしているけれども、これらの供述は、前記F
撮影の写真、殊に被告人がE巡査部長の胸を引つ張り、それを誰かが引き離そらと
している状況を撮影した番号七の写真およびD巡査部長の胸倉をつかんでいる状況
を撮影した番号一〇の写真と対照して十分納得のできるものではないから、容易に
信用できない。そして、被告人が、E、D両巡査部長が警察職員であること、およ
び、これらの者の前記行為が警察職員の職務執行としてされるものであることを認
識しながら原判示暴行に及んだことは、前記の証拠および被告人の原審公判廷にお
ける供述によつて肯定できるから、被告人に公務執行妨害の犯意がないということ
もできない。論旨は理由がない。
 原判示第二の事実についての所論は、被告人とOとは、ともに写真機をかまえて
撮影のため場所を移動中、相互に身体を衝突させたのにすぎないから、公務執行妨
害の犯意がないと主張する。
 しかし、原判示の挙示する証人O、同P、同Q、同Rの原審公判廷における各供
述および医師S作成の診断書によれば、原判決の認定したとおり、被告人が、Oの
写真撮影を妨害し、Oがなかば撮影を断念し、入校を阻止されている受講者を誘導
するためその近くに寄ろうとする際に、同人の腹部附近を肘で押し、左手で同人の
顔面を突き、同人の写真撮影ならびに誘導の職務執行を妨害すると共に、同人に治
療五日を要する右顔面打撲傷兼口内裂傷を負わせた事実を十分に認めることがで
き、原審のした証拠の取捨選択にも格別違法の点があるとは認められない。被告人
の犯意を否定する前記の所論は、右の認定と異なる前提に立つもので、採用の限り
ではない。論旨は理由がない。
 控訴趣意中法令適用の誤の主張について。
 原判示第一の事実についての所論は、E巡査部長の写真撮影が公務の執行にあた
るとしても、被告人の容ぼうの個性的特徴を明確にとらえることができるような至
近距離から、承諾なしに被告人を撮影し、又は、撮影しようとしたので、被告人は
肖像権を主張してこれを制止したのであつて、その際、被告人の手足が右巡査部長
に触れたとしても、正当な権利行使の結果であつて、違法性が阻却されると主張す
る。
 所論のいわゆる肖像権について、人は、その意思に反しみだりに容ぼうを撮影さ
れない自由を有することは、憲法第一三条の保障する国民の自由の一内容であると
解し得られるが、その自由も公共の福祉による制限を受けることも、また、同条の
明定するところであつて、このことは、刑事訴訟法第二一八条第二項に定める「身
体の拘束を受けている被疑者の指紋若しくは足型を採取し、身長若しくは体重を測
定し又は写真を撮影する」行為に表現せられているが、その他のばあいにおいて
も、犯罪に関連し、(1)証拠を保全する必要性があり(2)撮影行為の相当性、
すなわち、社会通念上是認せられうる方法によるときは、警察官の適法な職務行為
といえると解する。けだし、警察官は、警察法第二条により「個人の生命、身体及
び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その
他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする」のであつて、逮捕
状が適正に執行せられるように務め、もし、妨害行為のあるときは、これを排除
し、かつ、妨害者を検挙すべき責務を有するのであるから、警察官の職務行為が犯
罪既遂後に限定せられるべき理由はない。犯行のおそれのある者に対する尾行や張
込が任意捜査の一態様として是認せられるのもその故であ<要旨>る。したがつて、
警察官が、逮捕状の執行に際し、それが適正に履行せられるかどうかという執行状
況および多数の者が逮捕状執行者を取り囲んで抗議し、混乱状態となり、公
務執行妨害罪に発展する可能性があると思料されるばあいにおいて、その状況につ
き証拠を保全する目的のために、かつ、被撮影者に対し強制を加、えることなし
に、現場の状況写真を撮影することは、適法な職務行為というべきである。
 E巡査部長が、上司から逮捕状の執行状況を撮影すべき命令を受け、逮捕状の執
行状況および組合員らから右逮捕状の執行が妨害されそうになつたばあいの状況を
証拠に保全する目的をもつて、その集団の外から、写真撮影しようとしたものであ
ることは、前認定のとおりであつて、同巡査部長が、右執行状況保全の目的を越
え、所論のように、至近距離から、被告人又はその他の組合員の容ぼうを目的とし
た顔写真を撮影し又は撮影しようとしたことを認めるに足る証拠はない。かよう
に、逮捕状の執行に際し組合員から抗議が行なわれ、しかも右執行が妨害ざれるお
それのあるばあい、叙上のように現場の状況を証拠として保全するために、かつ、
被撮影者に対し強制を加えることなしに、逮捕者と被逮捕者とを中心とした状況写
真を撮影することは、適法な職務行為とみるべきであつて、肖像権を主張してこれ
を阻止することは許されないと解すべきであるから、所論は採用できない。
 原判示第二の事実についての所論は、Oは、京都市教育委員会総務課企画労務係
としての職務とは別に、関係職員団体であるB組合等の組織について、情報収集す
なわちスパイ活動の目的をもつて、本件撮影行為に従事した疑が極めて濃厚であつ
て、右行為は、組合員の思想、表現の自由、B組合の団結権を侵害するもので、適
法な公務執行ではないから、被告人の行為の違法性は阻却されると主張する。
 原判示のOは、京都市教育委員会総務課企画労務係として、京都市教育委員会事
務局事務分掌細則第二条により、特命による調査、企画および立案、職員団体およ
び労働組合に関する事務、管理者の研修に関する事務その他の職務を担当する公務
員であること、京都市教育委員会が京都市小学校長会と共同で開催することを図つ
た本件講習会に対し、B組合が当初から反対し、右講習会の開催当日、組合員が、
いわゆるピケによつて会場の生祥小学校に受講者の入校することを阻止するような
事態の発生が予想される状況にあつたこと、Oが、上司のQ総務課長から、右講習
会受講者の入校を阻止することのないよう組合員を説得すること、受講者を校内に
誘導すること、および、組合側の講習会反対行動の実情を把握して、教育委員会に
対する報告資料として、ピケ等による阻止状況の写真を撮影することなどの命令を
受け、生祥小学校に行つたこと、Oは、受講者二名が教育委員会事務局職員に誘導
されて同校裏門附近に近づき組合員によつて入校を阻止されているのを目撃し、こ
の状況を裏門附近から写真撮影しようとしたことはいずれも原判決がその挙示する
証拠に基づき正当に認定したとおりであつて、所論のように、Oが、B組合の組織
について情報を収集する目的をもつて、写真撮影に従事したことを推測させるに足
りる証拠はない、ところで、教育委員会が教職員を対象とする講習会を開催してそ
の研修をはかることは、教育委員会の職務権限の一に属する(地方教育行政の組織
及び運営に関する法律第三二条第八号)から、教育委員会が講習会を開催するにあ
たつて、その開催のてんまつ、例えば、本件のように、J組合の反対行動によつ
て、講習会の円滑な運営が妨げられるばあい、その反対行動の実情を調査すること
も、教育委員会の前記職務権限に包含されるものと解されるのであつて、教育委員
会の職員が、上司の命令に基づき、右調査の必要上、講習会場において組合員の反
対行動の状況写真を撮影することは、なんら違法の職務執行ということはできな
い。所論は、独自の見解に立つて原判決を非難するものであつて、理由がない。
 よつて、刑事訴訟法第三九六条、第一八一条第一項を適用して主文のとおり判決
する。
 (裁判長裁判官 山崎薫 裁判官 竹沢喜代治 裁判官 浅野芳朗)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛