弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
原判決中,上告人敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,被上告人らの控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする。
理由
上告代理人水原清之ほかの上告受理申立て理由について
1本件は,北海道内の高速道路において,自動車の運転者が,キツネとの衝突
を避けようとして自損事故を起こし停車中,後続車に衝突されて死亡したことにつ
いて,上記運転者の相続人である被上告人らが,上記自損事故当時の上記高速道路
の管理者であった日本道路公団の訴訟承継人である上告人に対し,キツネの侵入防
止措置が不十分であった点で,上記高速道路の設置又は管理に瑕疵があったと主張
して,国家賠償法2条1項に基づく損害賠償を求める事案である。
2原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)Aは,平成13年10月8日午後7時51分ころ,北海道苫小牧市字糸井
282番地74付近の高速自動車国道である北海道縦貫自動車道函館名寄線におい
て,普通乗用自動車(以下「A車」という。)を運転して走行中,約100m前方
の中央分離帯付近から飛び出してきたキツネとの衝突を避けようとして急激にハン
ドルを切り,その結果,A車は,横滑りして中央分離帯に衝突し,車道上に停止し
た(以下,この事故を「本件事故」といい,上記自動車道のうち本件事故現場付近
の部分を「本件道路」という。)。そして,同日午後7時53分ころ,車道上に停
車中のA車に後続車が衝突し,Aは,これにより頭蓋底輪状骨折等の傷害を負い,
そのころ死亡した。
(2)本件事故現場は,北海道苫小牧市の郊外であり,上記自動車道の苫小牧西
インターチェンジと苫小牧東インターチェンジとの間の区間(以下「本件区間」と
いう。)にある。本件事故現場の周囲は原野であり,本件道路は,ほぼ直線で,見
通しを妨げるものはなかった。
本件区間においては,道路に侵入したキツネが走行中の自動車に接触して死ぬ事
故が,平成11年は25件,平成12年は34件,平成13年は本件事故日である
同年10月8日時点で46件発生していた。また,上記自動車道の別の区間で,道
路に侵入したキツネとの衝突を避けようとした自動車が中央分離帯に衝突しその運
転者が死亡する事故が,平成6年に1件発生していた。
(3)本件道路には,動物注意の標識が設置されており,また,動物の道路への
侵入を防止するため,有刺鉄線の柵と金網の柵が設置されていた。有刺鉄線の柵に
は鉄線相互間に20㎝の間隔があり,金網の柵と地面との間には約10㎝の透き間
があった。日本道路公団が平成元年に発行した「高速道路と野生生物」と題する資
料(以下「本件資料」という。)には,キツネ等の小動物の侵入を防止するための
対策として,金網の柵に変更した上,柵と地面との透き間を無くし,動物が地面を
掘って侵入しないように地面にコンクリートを敷くことが示されていた。
(4)本件事故当時の本件道路の管理者であった日本道路公団は,平成17年1
0月1日に解散し,上告人が同公団の訴訟上の地位を承継した。
被上告人らは,Aの両親であり,相続人である。
3原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,被上告人らの請
求を一部認容した。
高速道路の利用者は,一般道路に比較して高速でも安全に運転することができる
ものと信頼して走行していることからすれば,自動車の高速運転を危険にさらすこ
とになるキツネが前記2(2)のような頻度で本件区間に現れることは,そのこと自
体により,本件道路が営造物として通常有すべき安全性を欠いていることを意味す
る。動物注意の標識が設置されていることは,上記判断を左右するものではない。
本件資料には,キツネ等の小動物の侵入を防止するための対策が示されていたので
あり,それにより,かなりの程度キツネの侵入を防止することができた。以上によ
れば,本件道路には設置又は管理の瑕疵があったというべきである。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
国家賠償法2条1項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは,営造物が通常有す
べき安全性を欠いていることをいい,当該営造物の使用に関連して事故が発生し,
被害が生じた場合において,当該営造物の設置又は管理に瑕疵があったとみられる
かどうかは,その事故当時における当該営造物の構造,用法,場所的環境,利用状
況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきである(最高裁昭和42
年(オ)第921号同45年8月20日第一小法廷判決・民集24巻9号1268
頁,同昭和53年(オ)第76号同年7月4日第三小法廷判決・民集32巻5号8
09頁参照)。
前記事実関係によれば,本件道路には有刺鉄線の柵と金網の柵が設置されている
ものの,有刺鉄線の柵には鉄線相互間に20㎝の間隔があり,金網の柵と地面との
間には約10㎝の透き間があったため,このような柵を通り抜けることができるキ
ツネ等の小動物が本件道路に侵入することを防止することはできなかったものとい
うことができる。しかし,キツネ等の小動物が本件道路に侵入したとしても,走行
中の自動車がキツネ等の小動物と接触すること自体により自動車の運転者等が死傷
するような事故が発生する危険性は高いものではなく,通常は,自動車の運転者が
適切な運転操作を行うことにより死傷事故を回避することを期待することができる
ものというべきである。このことは,本件事故以前に,本件区間においては,道路
に侵入したキツネが走行中の自動車に接触して死ぬ事故が年間数十件も発生してい
ながら,その事故に起因して自動車の運転者等が死傷するような事故が発生してい
たことはうかがわれず,北海道縦貫自動車道函館名寄線の全体を通じても,道路に
侵入したキツネとの衝突を避けようとしたことに起因する死亡事故は平成6年に1
件あったにとどまることからも明らかである。
これに対し,本件資料に示されていたような対策が全国や北海道内の高速道路に
おいて広く採られていたという事情はうかがわれないし,そのような対策を講ずる
ためには多額の費用を要することは明らかであり,加えて,前記事実関係によれ
ば,本件道路には,動物注意の標識が設置されていたというのであって,自動車の
運転者に対しては,道路に侵入した動物についての適切な注意喚起がされていたと
いうことができる。
これらの事情を総合すると,上記のような対策が講じられていなかったからとい
って,本件道路が通常有すべき安全性を欠いていたということはできず,本件道路
に設置又は管理の瑕疵があったとみることはできない。
5以上と異なる原審の判断には,判決の結論に影響を及ぼすことが明らかな法
令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上告人の敗訴部分は破棄を免れ
ない。そして,被上告人らの上告人に対する請求は理由がなく,これを棄却した第
1審判決は正当であるから,被上告人らの控訴を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官那須弘平裁判官
田原睦夫裁判官近藤崇晴)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛