弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人の本訴請求のうち、別紙(一)記載の部分につき、本件を東京高
等裁判所に差し戻す。
     その余の部分につき被上告人の控訴を棄却する。
     前項の部分に関する控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人鈴木重信、同中津俊雄、同高橋正智、同阿部浩志の上告理由及び上告
補助参加代理人豊川義明、同津留崎直美、同斎藤浩、同森信雄、同飯高輝の上告理
由について
一 事実関係
 原審の適法に確定したところによれば、本件の事実関係の概要は、次のとおりで
ある。
 1 H地方労働委員会は、上告補助参加人を申立人、被上告人を被申立人とする
大阪地労委昭和五一年(不)第四号不当労働行為救済申立事件について、昭和五三
年五月二六日付けで、別紙(二)のとおりの命令(以下「初審命令」という。)を発
した。被上告人及び上告補助参加人の再審査申立て(中労委昭和五三年(不再)第
二五号、第二六号事件)に対し、上告人は、昭和六一年九月一七日付けで、別紙(
三)のとおりの命令(以下「本件命令」という。)を発した。
 2 被上告人は、大阪市に本社を置いてテレビの放送事業等を営む会社であり、
本件初審審問終結当時(昭和五二年五月一三日)の従業員は約八〇〇名であった。
上告補助参加人は、近畿地方所在の民間放送会社等の下請事業を営む企業の従業員
で組織された労働組合である。
 株式会社Iは、被上告人など近畿地方所在の民間放送会社からテレビ番組制作の
ための映像撮影、照明、フィルム撮影、音響効果等の業務を請け負う等の事業を目
的とする会社であり、本件初審審問終結当時の従業員は約一六〇名であった。右従
業員のうち約五〇名は、後記請負契約に基づき、被上告人の番組制作の現場におい
てアシスタント・ディレクター、音響効果等の業務に従事し、このうち上告補助参
加人の組合員は三名であった。株式会社Jは、Iのほか、近畿地方所在の民間放送
会社等からの照明業務の請負の事業を目的とする会社であり、本件初審審問終結当
時の従業員は約三〇名であった。右従業員のうち約一〇名は、後記請負契約に基づ
き、被上告人の番組制作の現場において照明業務に従事し、このうち上告補助参加
人の組合員は二名であった。K株式会社(以下、I、Jと併せて「請負三社」とい
う。)は、被上告人など近畿地方所在の民間放送会社、ホール、劇場等における照
明業務の請負の事業を目的とする会社であり、本件初審審問終結当時の従業員は約
七〇名であった。右従業員のうち約一〇名は、後記請負契約に基づき、被上告人の
番組制作の現場において照明業務に従事し、このうち上告補助参加人の組合員は二
名であった。
 3 被上告人は、I及びKとの間で、それぞれ、テレビの番組制作の業務につき
請負契約を締結して、継続的に業務の提供を受け、JはIと請負契約を締結し、こ
れにより、Iが被上告人から請け負った業務のうち照明業務の下請をしていた。請
負三社は、右各請負契約に基づきその従業員を被上告人の下に派遣して番組制作の
業務に従事させ、右各請負契約においては、作業内容及び派遣人員により一定額の
割合をもって算出される請負料を支払う旨の定めがされていた。
 番組制作に当たって、被上告人は、毎月、一箇月間の番組制作の順序を示す編成
日程表を作成して請負三社に交付し、右編成日程表には、日別に、制作番組名、作
業時間(開始・終了時刻)、作業場所等が記載されていた。請負三社は、右編成日
程表に基づいて、一週間から一〇日ごとに番組制作連絡書を作成し、これによりだ
れをどの番組制作業務に従事させるかを決定することとしていたが、実際には、被
上告人の番組制作業務に派遣される従業員はほぼ同一の者に固定されていた。請負
三社の従業員は、その担当する番組制作業務につき、右編成日程表に従うほか、被
上告人が作成交付する台本及び制作進行表による作業内容、作業手順等の指示に従
い、被上告人から支給ないし貸与される器材等を使用し、被上告人の作業秩序に組
み込まれて、被上告人の従業員と共に番組制作業務に従事していた。請負三社の従
業員の業務の遂行に当たっては、実際の作業の進行はすべて被上告人の従業員であ
るディレクターの指揮監督の下に行われ、ディレクターは、作業時間帯を変更した
り予定時間を超えて作業をしたりする必要がある場合には、その判断で請負三社の
従業員に指示をし、どの段階でどの程度の休憩時間を取るかについても、作業の進
展状況に応じその判断で右従業員に指示をするなどしていた。
 請負三社の従業員の被上告人における勤務の結果は当該従業員の申告により出勤
簿に記載され、請負三社はこれに基づいて残業時間の計算をした上、毎月の賃金を
支払っていた。
 4 請負三社は、それぞれ独自の就業規則を持ち、労働組合との間で賃上げ、夏
季一時金、年末一時金等について団体交渉を行い、妥結した事項について労働協約
を締結していた。
 5 上告補助参加人は、被上告人に対して、昭和四九年九月二四日以降、賃上げ、
一時金の支給、下請会社の従業員の社員化、休憩室の設置を含む労働条件の改善等
を議題として団体交渉を申し入れたが、被上告人は、使用者でないことを理由とし
て、交渉事項のいかんにかかわらず、いずれもこれを拒否した。
二 原審の判断
 右事実関係の下において、原審は、上告補助参加人の組合員である請負三社の従
業員との関係では、被上告人は労働組合法七条の「使用者」に当たらず、したがっ
て、被上告人と上告補助参加人との間では同条二号の不当労働行為が成立する余地
はなく、同条三号の支配介入による不当労働行為について判断を加えるまでもない
として、本件命令を取り消すべきものとした。
三 当裁判所の判断
 1 労働組合法七条にいう「使用者」の意義について検討するに、一般に使用者
とは労働契約上の雇用主をいうものであるが、同条が団結権の侵害に当たる一定の
行為を不当労働行為として排除、是正として正常な労使関係を回復することを目的
としていることにかんがみると、雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働
者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件当につい
て、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定する
ことができる地位にある場合には、その限りにおいて、右事業主は同条の「使用者」
に当たるものと解するのが相当である。
 これを本件についてみるに、請負三社は、被上告人とは別個独立の事業主体とし
て、テレビの番組制作の業務につき被上告人との間の請負契約に基づき、その雇用
する従業員を被上告人の下に派遣してその業務に従事させていたものであり、もと
より、被上告人は右従業員に対する関係で労働契約上の雇用主に当たるものではな
い。しかしながら、前記の事実関係によれば、被上告人は、請負三社から派遣され
る従業員が従事すべき業務の全般につき、編成日程表、台本及び制作進行表の作成
を通じて、作業日時、作業時間、作業場所、作業内容等その細部に至るまで自ら決
定していたこと、請負三社は、単に、ほぼ固定している一定の従業員のうちのだれ
をどの番組制作業務に従事させるかを決定していたにすぎないものであること、被
上告人の下に派遣される請負三社の従業員は、このようにして決定されたことに従
い、被上告人から支給ないし貸与される器材等を使用し、被上告人の作業秩序に組
み込まれて被上告人の従業員と共に番組制作業務に従事していたこと、請負三社の
従業員の作業の進行は、作業時間帯の変更、作業時間の延長、休憩等の点について
も、すべて被上告人の従業員であるディレクターの指揮監督下に置かれていたこと
が明らかである。これらの事実を総合すれば、被上告人は、実質的にみて、請負三
社から派遣される従業員の勤務時間の割り振り、労務提供の態様、作業環境等を決
定していたのであり、右従業員の基本的な労働条件等について、雇用主である請負
三社と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することが
できる地位にあったものというべきであるから、その限りにおいて、労働組合法七
条にいう「使用者」に当たるものと解するのが相当である。
 そうすると、被上告人は、自ら決定することができる勤務時間の割り振り、労務
提供の態様、作業環境等に関する限り、正当な理由がなければ請負三社の従業員が
組織する上告補助参加人との団体交渉を拒否することができないものというべきで
ある。ところが、被上告人は、昭和四九年九月二四日以降、賃上げ、一時金の支給、
下請会社の従業員の社員化、休憩室の設置を含む労働条件の改善等の交渉事項につ
いて団体交渉を求める上告補助参加人の要求について、使用者でないことを理由と
してこれを拒否したというのであり、右交渉事項のうち、被上告人が自ら決定する
ことのできる労働条件(本件命令中の「番組制作業務に関する勤務の割り付けなど
就労に係る諸条件」はこれに含まれる。)の改善を求める部分については、被上告
人が正当な理由がなく団体交渉を拒否することは許されず、これを拒否した被上告
人の行為は、労働組合法七条二号の不当労働行為を構成するものというべきである。
 2 以上のとおりであるから、原判決には労働組合法七条の解釈適用を誤った違
法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を
免れない。原判決中、本件命令の主文第一項に関する部分については、取消請求を
棄却した第一審判決は正当であるから、被上告人の控訴を棄却すべきであるが、本
件命令主文第二項の維持した初審命令主文第二項に関する部分(別紙(一)記載の部
分)については、被上告人が同条の「使用者」に当たることを前提とした上で、同
条三号の不当労働行為の成否につき更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し
戻すこととする。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、四〇七条
一項、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    大   野   正   男
            裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    尾   崎   行   信
(別紙(一))
 上告人が、中労委昭和五三年(不再)第二五号、第二六号事件につき、昭和六一
年九月一七日付け命令において、大阪地労委昭和五一年(不)第四号事件につきH
地方労働委員会が昭和五三年五月二六日付けでした命令の主文第二項を維持した部

(別紙(二))
 一 被申立人は、申立人の組合員らの勤務内容等被申立人の関与する事項につい
て、同人らの使用者ではないとの理由で、申立人との団体交渉を拒否してはならな
い。
 二 被申立人は、速やかに左記文書を申立人に手交しなければならない。
              記
                     年 月 日
  申立人代表者あて           被申立人代表者名
  当社が、昭和四九年一一月から同五〇年二月ころまでの間、貴組合員らに貴組
合からの脱退を求めたこと、同五〇年七月七日、貴組合員に暴行を働いたことは、
労働組合法第七条第三号に該当する不当労働行為であることを認め、今後このよう
な行為を繰り返さないことを誓約します。
 三 被申立人の関与する事項以外についての団体交渉に関する申立て、ステイ・
イン中の組合員の排除に関する申立て、無通告ストの批判に関する申立て、横山育
郎に対する就労妨害に関する申立て及び配置転換に関する申立ては、いずれも却下
する。
 四 申立人のその他の申立ては、棄却する。
(別紙(三))
 一 初審命令主文第一項を次のとおり変更する。
 被申立人は、申立人の組合員らの番組制作業務に関する勤務の割り付けなど就労
に係る諸条件について、同人らの使用者ではないとの理由で申立人との団体交渉を
拒否してはならない。
 二 その余の本件各再審査申立てを棄却する。

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