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平成17年(行ケ)第10071号 特許取消決定取消請求事件
(旧事件番号 東京高裁平成16年(行ケ)第236号)
口頭弁論終結日 平成17年6月16日
判決
原告         X
被告   特許庁長官小川 洋
指定代理人   田中久直
同    鵜飼 健
同    一色 由美子
同    伊藤三男
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
 特許庁が異議2000-70493号事件について平成16年4月23日に
した決定を取り消す。
第2 事案の概要
 本件訴訟は,発明の名称を「フコイダンを添加した食品」とする原告の特許
について,Aより特許異議の申立てがあったところ,特許庁が平成16年4月23
日付けで前記特許を取り消す旨の決定をしたため,特許権者である原告がその取消
しを求めた事案である。
第3 当事者の主張
1 請求の原因
(1) 特許庁における手続の経緯
 原告は,平成8年12月6日,発明の名称を「フコイダンを添加した食
品」とする発明につき特許出願をし,これを受けた特許庁は,特許をすべき旨の査
定をし,平成11年5月28日,特許第2932170号として原告のため特許権
の設定登録がなされた(以下,この特許を「本件特許」という。)。
 その後平成12年2月3日付けで,本件特許に対しAから特許異議の申立
てがされたため,特許庁は,これを異議2000-70493号事件として審理し
た上,平成16年4月23日付けで,「特許第2932170号の請求項1に係る
特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,その謄本は同年
5月12日原告に送達された。
(2) 発明の内容
 本件特許に係る発明(以下「本件発明」という。)は,請求項1から成
り,その内容は下記のとおりである。

「褐藻から分離精製したフコイダンを食品に添加することを特徴とする食味
改良方法。」
(3) 決定の内容
ア 本件決定の内容の詳細は,別紙「異議の決定」のとおりである。その理
由の要旨は,本件発明は,特許協力条約(PCT)に基づき,優先権の主張を伴う
国際出願(国際出願日・1997年(平成9年)5月15日,国際公開日・同年1
2月18日。以下「本件国際出願」という。)の優先権主張の基礎とされた先の出
願(特願平8-171666号。出願日及び優先権主張日・1996年(平成8
年)6月12日)の願書に最初に添付した明細書(以下「先願明細書」という。)
に記載された発明(以下「先願発明」という。)と同一であるから,特許法29条
の2により特許を受けることができない等としたものである。
イ なお,本件決定は,本件発明と先願発明とでは,次のような一致点と一
応の相違点があるとした。
(一致点)
「褐藻から分離精製したフコイダンを食品に添加する点」
(一応の相違点)
「本件発明は,該フコイダンを添加することにより食品の食味を改良する
のに対して,先願発明は,該フコイダンを添加することにより食品の舌ざわり感,
味のバランス,味切れ,のどごし感を改良し,特にアルコール含有飲料において
は,前記の改良に加えて,酸味をマイルドにし,完熟みかんのような風味に仕上げ
る点」
(4) 本件決定の取消事由
 しかしながら,本件決定には,以下に述べるとおり,手続の法令違反と認
定判断の誤りがあるから,違法なものとして取り消されるべきである。本件決定が
取り消されるべき理由の詳細は,別紙「原告準備書面(第2回)」のとおりである
が,訴状等も含めたその要旨は次のとおりである。
ア 取消事由1(手続の法令違反)
(ア) 異議理由と関連性のない決定
 本件決定は,本件発明と先願発明は,効果は同じだが有効成分を異に
する(同一発明に当たらない)とした合議体の認識をひるがえし,平成16年1月
1日に異議制度が廃止された後の同年4月23日に,上記廃止前に特許異議申立人
が主張した異議理由と関連性の全くない理由で,本件特許を取り消したものである
から,重大な違法がある。
(イ) 平成15年法律第47号による改正前の特許法120条の4第1項
違反
 審判長は,原告に取消理由通知に対する意見書を提出する機会を与え
るべきであったのに,その機会を与えなかったから,本件決定には,平成15年法
律第47号による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)120条の4第1
項の規定に違反した違法がある。
(ウ) 弁論主義違反,判断遺脱
 本件決定には,特許異議申立人の特許異議申立書(本訴甲3)の申立
理由,取消理由通知書(本訴甲6)の取消理由,原告の意見書(本訴甲7)の内容
及びその提出後の手続経緯等についての摘示がなく,上記申立理由及び上記意見書
についての判断をしておらず,重要な認定事項(褐藻,分離精製,フコイダン,食
味改良)の理由が付されていないから,弁論主義に違反し,判断遺脱の違法があ
る。
イ 取消事由2(優先権主張の効果を認めたことの誤り)
(ア) 本件決定は本訴甲5(異議甲2)中の明細書(先願明細書)が本件
国際出願の優先権主張の基礎となる先の出願の願書に最初に添付した明細書に当た
るとして,優先権主張の効果を認めているが,本訴甲5は,特願番号は手書きで,
特許庁の受理印がなく,その14頁には「シリカ・ろ過」なるメモの記入があり,
書証として認められない。
(イ) 先願明細書(本訴甲5)の請求項1の記載は「フコイダン含有天然
物由来のフコイダンを添加してなることを特徴とする食品又は飲料。」であるが,
本件国際出願(本訴甲4,異議甲1)の請求の範囲1項の記載(61頁)は「フコ
イダン含有物由来のフコイダンを含有することを特徴とする食品又は飲料。」とな
っている。
 このように「フコイダン含有天然物」なる記載を「フコイダン含有
物」と変更することは,権利内容が大幅に増加することになるから,要旨の変更に
当たり,また,「フコイダンを添加してなる食品又は飲料」を「フコイダンを含有
する食品又は飲料」と変更することにより,添加技術によらない元来食品に含まれ
ているフコイダンをも包含することになり,権利内容の増加につながり,技術内容
の変更も伴い,要旨の変更に当たるというべきであるから,本件国際出願の請求の
範囲1記載の技術と優先権主張の基礎となった先願明細書の請求項1記載の技術と
は同一とはいえない。
 したがって,先願明細書の請求項1の発明(先願発明)は,本件国際
出願に係る発明に含まれないから,本件決定が,本件国際出願に係る発明につい
て,先願発明に基づいて優先権主張の効果を認めたことは誤りである。
ウ 取消事由3(一致点の認定の誤り)
(ア) 本件発明の褐藻は,その明細書(本訴甲2。以下「本件明細書」と
いう。)の段落【0002】に記載されているように,褐藻類(コンブ・アラメ・
カジメ等)を示しているが,先願明細書記載の「ガゴメ昆布」と称する海藻は,存
在しない物質で,コンブの一種ではなく,本件発明の褐藻に該当しないから,本件
決定がガゴメ昆布は,本件発明の「褐藻」に該当すると認定したことは誤りであ
る。
(イ) 本件発明に係るフコイダンは,褐藻由来のフコースを主成分(主構
成糖)とする硫酸化多糖であって,構造粘性(フコイダンの網目構造に由来する粘
性)を有するもので,フコースを従構成糖とするものは含まれていない。本件発明
に係る構造粘性を有する精製フコイダンの製法は,本件明細書記載の分離精製法に
限られており,他の方法は未だ開発されていない。
 一方,先願発明のフコイダンは,先願明細書の請求項2に「フコイダ
ン含有天然物由来のアルギン類が低減又は除去されたフコイダンを含有することを
特徴とする食品又は飲料。」と記載されているように,フコイダン含有物由来のア
ルギンを除去したフコイダンであり,しかも,フコースを主構成糖とするものとフ
コースを従構成糖とするものとの両者を含むものであるから,本件発明に係るフコ
イダンと先願発明のフコイダンとは別物質である。先願明細書の実施例1に記載の
フコイダンⅠ及びⅡの調製法は,化学技術上分離精製法に属するものではなく,抽
出液をダイセル社製の分子分画装置にかけてフコイダンを濃縮する方法であり,装
置の性質上,抽出液中のフコイダン分も60%程度に止まり,色素や臭気の除去も
不十分のため2%という膨大な量の活性炭処理を必要とし,それでもなおかつ褐色
の粉末が得られるのみの通常粗製フコイダンの調整法であり,また,フコイダンⅠ
及びⅡについては「抽出物溶液のpHは約6.5,酸度は0.06ml,糖度は
0.8Brix%,Ca濃度は1200ppmであった。該溶液1リットルを凍結
乾燥し,乾燥物13gを得た。凍結乾燥物中に,フコイダンは65%,
フコイダン-Uは33%含有されていた。」(本訴甲4の16頁11行~14行。
本訴甲5の14頁7行~10行と同じ。)とのデータがあるように,フコイダン分
が65%の粗製品であり,更に該フコイダンはCa含有量が9.2%を示し,天然
物とはいえない物質となっており,フコイダンⅠ及びⅡは,その製造方法からみて
粘性が皆無である。本件発明に係る精製フコイダンは,Ca含量が極少量又は痕跡
程度であって,構造粘性を有する高粘性の多糖であるから,フコイダンⅠ及びⅡと
は成分組成を異にし物性をも異にする異なる物質であることが明白である。
 さらに,本件発明に係るフコイダンは,褐藻から分離精製したフコイ
ダンに限定されているのに対し,先願発明のフコイダンは,褐藻,紅藻,緑藻,ナ
マコ等からも調整できるとする物質であり,明らかに異なる物質である。
 したがって,本件決定が,先願明細書の実施例1に記載の処理方法で
調製されたフコイダンⅠあるいはフコイダンⅡは,本件発明に係る分離精製したフ
コイダンに該当すると認定したことは誤りである。
(ウ) 本件決定は,先願明細書に記載の「アルコール含有飲料」及び「均
質牛乳」は「清酒・みりん・発酵調味料」とは成分組成を異にする全く別の飲食物
であると認定しており(本訴甲1の7頁17行~19行),上記「アルコール含有
飲料」及び「均質牛乳」は本件発明の「食品」に該当しないから,先願発明は,フ
コイダンを食品に添加する発明ではない。
(エ) 以上によれば,本件決定が,本件発明と先願発明とが,褐藻から分
離精製したフコイダンを食品に添加する点で一致すると認定したことは誤りであ
る。
エ 取消事由4(先願発明と本件発明の同一性の判断の誤り)
 本件決定は,先願発明と本件発明とは同一発明であると判断している
が,以下のとおり,先願明細書には,本件発明の食味改良方法の記載はなく,上記
判断は誤りである。
(ア) 本件発明の食味改良方法は,フコイダンの構造粘性による除臭・凝
集・増粘・保水・食味向上・乳化の諸活性を「個別或は総合的に活用させ,食品の
味を美味で風味豊かなものに改良すること」であり(本件明細書の段落【001
6】),その諸活性の一つである食味向上活性は,「食品の甘味をおさえ,酸味・
塩味を際立たせ,味のバランスを取り,風味を向上させる効果」である。
 そして,食味向上活性は,酸味・塩味を際立たせるものではあるが,
酸味をマイルドにするものではないから,先願明細書の実施例8記載の(アルコー
ル含有飲料の)「酸味がマイルドになり,完熟みかんのような風味に仕上がった」
との点は,本件発明に係るフコイダンの効果とは異なり,また,完熟みかんのよう
な風味に仕上がったからといって,味が良くなったともいえない。
 また,先願明細書の実施例11には,「牛乳が舌にまとわりつくよう
な食感,すなわち味切れの悪さに関して,味切れが良くなり,牛乳が飲みやすくな
った」との記載があるが,牛乳の味が良くなったとする記載はなく,飲みやすくな
ったのは,味が良くなったためではなく,味切れが良くなったにすぎない。
(イ) 本件発明はフコイダンの構造粘性による諸活性を活用した食味改良
方法であり,先願発明のフコイダンⅠ及びⅡには構造粘性が皆無であり,本件発明
に係る構造粘性を有する精製フコイダンと同一の効果(食味改良)をあげることは
不可能である。
2 請求の原因に対する認否
 請求の原因(1)ないし(3)の各事実は認める。同(4)は争う。
3 被告の反論
 以下に述べるとおり,本件決定には,原告主張の違法はない。
(1) 取消事由1について
ア (ア)に対して
 本件決定は,特許異議申立ての理由(特許法29条の2違反)及び特許
異議申立人が提出した証拠に基づいてされたものであり,特許異議申立ての理由と
関連性の全くない理由で本件特許を取り消したものではない。
イ (イ)に対して
 原告は,本件特許が特許法29条の2第1項の規定に違反してされた旨
の取消理由を記載した平成12年7月10日付け取消理由通知書(本訴甲6)に対
して,同年9月25日付けで意見書(本訴甲7)を提出し,先願明細書の記載内容
を検討した上で反論をしているから,取消理由通知に対する反論の機会が与えられ
ており,何ら不利益を受けていない。
ウ (ウ)に対して
 本件決定においては,「1.手続の経緯」,「2.本件発明」,「3.
引用刊行物記載の発明」,「4.対比・判断」及び「5.むすび」の見出しの下
に,必要な事項はすべて記載しているから,原告主張の摘示不備及び判断遺脱はな
い。
(2) 取消事由2について
 本件決定は,本件国際出願(本訴甲4)に記載された発明を本件決定4頁
2行~10行に記載のとおり認定し,その発明がそのまま特願平8-171666
号の当初明細書(本訴甲5,乙8)にも記載されていると判断した上で,上記当初
明細書を先願明細書と認定したもので(本件決定4頁2行~26行),この認定に
誤りはない。
(3) 取消事由3について
ア 乙1に「ガゴメコンブ・・・・・表皮にの目状の模様があり,葉の縁
部にひだがある。北海道の函館・室蘭付近でとれる。独特の強い粘りがあり,トロ
ロコンブ・オボロコンブ・松前漬けなどに加工される。」と記載されているよう
に,「ガゴメ昆布」はコンブの一種として当業者において周知のものであり,先願
明細書に記載の「ガゴメ昆布」は本件発明の「褐藻」に該当すると認定した本件決
定に誤りはない。
イ 「フコイダン」とは,フコースを主成分とする硫酸化多糖の総称であ
り,本件特許の出願前において技術用語として確立していたものであるところ,本
件明細書の特許請求の範囲の請求項1には,フコイダンについて「褐藻から分離精
製したフコイダン」と記載されているのみで,フコイダンを「構造粘性を有する」
なる用語でもって特定する記載はないし,また,フコイダンの処理方法を明細書の
発明の詳細な説明に具体的に記載されている方法に限定する記載もないから,本件
決定が先願明細書の実施例1に記載の処理方法で調製されたフコイダンⅠあるいは
フコイダンⅡは,本件発明に係る分離精製したフコイダンに該当すると判断したこ
とに誤りはない。
(4) 取消事由4について
 本件決定が,「食味」についての一般的な定義,本件明細書の段落【00
09】及び【0012】の記載事項を根拠に,「先願明細書に記載の「味のバラン
ス・・・・・が改善され」と「酸味がマイルドになり,完熟みかんのような風味に
仕上がった」(先願明細書の実施例8参照。)及び「味のバランスが改善され」
(実施例11参照。)は,まさに食味の改良に当たる」とし,先願明細書には,フ
コイダンⅡをアルコール含有飲料に添加することにより,フコイダンⅠを均質牛乳
に添加することにより,それぞれアルコール含有飲料及び牛乳の食味を改良するこ
とが記載されていると判断したことに誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 請求の原因(1)ないし(3)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
 そこで,原告主張に係る本件決定の取消事由(請求の原因(4))について,以
下において判断する
2 取消事由1(手続の法令違反)について
(1) 前記争いのない事実と証拠(本訴甲1,3ないし7,乙8)及び弁論の全
趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
ア Aは,平成12年2月7日,特許異議申立書(本訴甲3)に基づいて,
本件特許について特許異議の申立てをし(以下「本件異議事件」という。),「甲
第1号証」としてWO 97/47208号公報(本訴甲4),「甲第2号証」と
して特願平8-171666号明細書(本訴甲5,乙8)及び「甲第3号証」とし
て特願平8-318598号明細書を提出した。
 特許異議申立書には,「申立の根拠」として,本件発明は,「その出願
日前に出願された特願平8-171666号(1996年6月12日出願)・・・
及び特願平8-318598号(1996年11月15日出願)・・・を優先権主
張して国際出願されたPCT/JP 97/01664(国際公開WO 97/4
7208公報・・・)に記載された発明と実質的に同一であるから,特許法第29
条の2,同法第113条第2号により取り消されるべきものである。」との記載が
ある。
イ 特許庁は,特許権者である原告に対し,平成12年8月1日,同年7月
10日付け取消理由通知書(本訴甲6)を発し,同年8月2日原告に到達した。同
通知書には,「本件の,請求項1に係る発明の特許は,合議の結果,以下の理由に
よって取り消すべきものと認められます。これについて意見がありましたら,この
通知発送の日から60日以内に意見書の正本1通及びその副本2通を提出して下さ
い」とした上,その理由として,「第29条の2違反について」と題して,「特願
平8-171666号(1996年6月12日出願 異議申立人提出の甲第2号
証),特願平8-318598号(1996年11月15日出願 甲第3号証)を
優先権主張して国際出願されたPCT/JP 97/01664(国際公開WO 
97/47208公報)(甲第1号証)」,「本件請求項1に係る発明は,本願の
出願前の他の出願であって,その出願後に出願公開された上記出願の願書に最初に
添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり,しかも,本件発明の発
明者が上記先願明細書に記載された発明の発明の発明者と同一であるとも,又,本
願の出願時に,その出願人が上記他の出願人と同一であるとも認められ
ないので,本件請求項1に係る発明の特許は,特許法第29条の2第1項の規定に
違反してなされたものである。」というものであった。
ウ これに対し原告は,平成12年9月25日,特許庁に対し,意見書(本
訴甲7)を提出した。上記意見書には,「従って,本件特許発明は甲第2号証(判
決注,本訴甲5,乙8)を優先権主張する甲第1号証(判決注,本訴甲4)の発明
によって特許法第29条の2に該当しないと思考されますので,本件異議申立に理
由なしとの決定を賜りたい。」との記載(14頁20行~末行)がある。
エ その後,平成13年から平成14年にかけて,原告と特許庁の担当審判
官との間で,本件特許の訂正を巡る意見交換が何度か行われたが,意見の一致をみ
るところとならず,結局,平成16年4月23日付けで本件決定がなされるところ
となった。
オ 本件決定は,前述したとおり,原告の本件特許を取り消すものであった
が,その理由は,先願発明との関係で,本件発明は特許法29条の2により特許を
受けることのできない等というものであった。
(2) 異議理由と関連性のない決定との主張について
 原告は,本件決定は,本件発明と先願発明は,効果は同じだが有効成分を
異にする(同一発明に当たらない)とした合議体の認識をひるがえし,平成16年
1月1日に異議制度が廃止された後の同年4月23日に,上記廃止前に特許異議申
立人が主張した申立理由と関連性の全くない理由で,本件特許を取り消したもので
あるから,重大な違法がある旨主張する。
 しかしながら,前記認定事実によれば,特許庁は,特許異議申立人の特許
異議申立書(本訴甲3)記載の申立理由及び提出証拠(本訴甲4,5等)に基づい
て本件異議事件を審理し,本件発明と先願発明とは同一であり,本件特許は特許法
29条の2の規定に違反してされたことを理由に本件決定をしたこと,本件決定の
理由は,特許異議申立書記載の「申立の根拠」と同じであることが認められるか
ら,その余の点について判断するまでもなく,原告の上記主張は採用することがで
きない。
(3) 旧特許法120条の4第1項違反との主張について
 原告は,審判長は,原告に取消理由通知に対する意見書を提出する機会が
与えるべきであったのに,その機会を与えなかったから,本件決定には,旧特許法
120条の4の規定に違反した違法がある旨主張する。
 しかしながら,前記認定のとおり,特許庁は,平成12年7月10日付け
取消理由通知書(本訴甲6)に基づいて原告に対し本件決定の取消理由を通知し,
これに対し原告は,平成12年9月25日付けで,意見書(本訴甲7)を提出して
いるのであるから,原告に取消理由通知に対する意見書を提出する機会が与えられ
ていることは明らかであり,原告の上記主張は採用することができない。
(4) 弁論主義違反,判断遺脱について
 原告は,本件決定には,特許異議申立人の特許異議申立書(本訴甲3)の
申立理由,取消理由通知書(本訴甲6)の取消理由,原告の意見書(本訴甲7)の
内容及びその提出後の手続経緯等についての摘示がなく,上記申立理由及び上記意
見書についての判断をしておらず,重要な認定事項(褐藻,分離精製,フコイダ
ン,食味改良)の理由が付されていないから,弁論主義に違反し,判断遺脱の違法
がある旨主張する。
 しかしながら,特許異議の申立てがあった場合の審理方式等については,
旧特許法によれば,「特許異議の申立てについての審理は,書面審理による」(1
17条1項)として書面審理の原則が定められ(本件決定に至る手続は,弁論の全
趣旨によれば,書面審理であったことが認められる),また「特許異議の申立てに
ついての審理においては,特許権者,特許異議申立人又は参加人が申し立てない理
由についても,審理することができる」(120条1項)として職権による審理が
原則とされているのであるから,原告主張のいわゆる弁論主義の適用がないことは
明らかである(ただし,120条2項により,特許異議の申立てがされていない請
求項については,審理することができないという制限はある。)。のみならず,旧
特許法120条の5第1項4号は,特許異議の申立てについての決定には「決定の
理由及び結論」を記載すべきものと規定しているものの,原告の主張するように特
許異議申立書の申立理由,取消理由通知書の取消理由,これに対する意見書の内容
及びその提出後の手続経緯等についてそのまま摘示すべきものとは規定していない
こと,また,別紙記載の本件決定の記載内容からすれば,本件決定は
原告主張の重要な認定事項についての判断をしているものと認められる。したがっ
て,原告の上記主張はいずれも採用することができない。
3 取消事由2(優先権主張の効果を認めたことの誤り)について
(1) まず原告は,先願明細書である本訴甲5は,特願番号は手書きで,特許庁
の受理印がなく,その14頁には「シリカ・ろ過」なるメモの記入があり,書証と
しては認められない旨主張する。
 確かに,本訴甲5は,原告が主張するように特願番号が手書きで,「シリ
カ・ろ過」なるメモの記入があるが,前記メモ以外は特願平8-171666号の
当初明細書と認められる特許庁が正式に保管する書類である本訴乙8の明細書(特
許願)と記載内容が同一であるから,本件決定が本訴甲5を特願平8-17166
6号の当初明細書と判断したことに誤りがあるものとは認められない。
 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(2) 次に原告は,先願明細書(本訴甲5)の請求項1の記載は「フコイダン含
有天然物由来のフコイダンを添加してなることを特徴とする食品又は飲料。」であ
るが,本件国際出願(本訴甲4)の請求の範囲1項の記載は「フコイダン含有物由
来のフコイダンを含有することを特徴とする食品又は飲料。」となっており,この
ように「フコイダン含有天然物」を「フコイダン含有物」と,「フコイダンを添加
してなる食品又は飲料」を「フコイダンを含有する食品又は飲料」と変更すること
は,権利内容の増加につながり,要旨の変更に当たるから,本件決定が,本件国際
出願に係る発明について,先願明細書記載の発明(先願発明)に基づいて優先権主
張の効果を認めたことは誤りである旨主張する。
 しかしながら,特許法41条1項の規定による優先権主張の制度は,基本
的には,先の出願の願書に最初に添付した明細書に記載された発明を含み,かつ,
新規事項を取り込んだ発明について特許を受けようとする場合に,上記明細書に記
載された発明に優先権を主張する場合に用いられるものであり,原告の主張の点
は,優先権主張の妨げになるものではなく,また,前記認定事実及び本訴甲4,
5,乙8によれば,先願発明は,本件国際出願に係る発明に含まれるもの(なお,
本件国際出願の明細書記載の「実施例9」及び「実施例12」は,それぞれ先願明
細書に「実施例8」及び「実施例12」として記載されている。)と認められるか
ら,原告の主張は採用することができない。
4 取消事由3(一致点の認定の誤り)について
(1) 原告は,先願明細書の「ガゴメ昆布」と称する海藻は,存在しない物質
で,コンブの一種ではなく,本件発明の褐藻に該当しないから,本件決定が,ガゴ
メ昆布が褐藻に該当すると認定したことは誤りである旨主張する。
 しかしながら,本訴乙1(河野友美編「野菜・藻類 新・食品辞典5」)
及び弁論の全趣旨によれば,ガゴメコンブは,褐藻植物のコンブ目のトロロコンブ
属に属し,表皮にの目状の模様があり,葉の縁部にひだがある植物として存在す
ることが認められるから,原告の上記主張は採用することができない。
(2) 原告は,本件発明に係るフコイダンは,褐藻由来のフコースを主成分(主
構成糖)とする硫酸化多糖であり,フコースを従構成糖とするものは含まれず,構
造粘性を有し,その精製フコイダンの製法は,本件明細書記載の分離精製法に限ら
れているのに対し,先願発明のフコイダンは,フコイダン含有物由来のアルギンを
除去したもので,フコースを主構成糖とするものとフコースを従構成糖とするもの
との両者を含み,その製造方法からみて粘性が皆無であり,しかも,褐藻のほか,
紅藻,緑藻,ナマコ等からも調整できる物質であって,本件発明に係るフコイダン
と先願発明のフコイダンとは別物質であることが明らかであるから,本件決定が,
先願明細書の実施例1に記載の処理方法で調製されたフコイダンⅠあるいはフコイ
ダンⅡは,本件発明に係る分離精製したフコイダンに該当すると認定したことは誤
りである旨主張する。
ア そこで検討するに,本訴乙2(社団法人日本水産学会編 水産学シリー
ズ[45]「海藻の生化学と利用」)には,「有効な生物活性をもつ褐藻硫酸多糖
(フコイダン類)」,「Laminaria dijitataやFucus vesiculosusなどから硫酸化
されたフコースのポリマーを分離し,フコイジンと名付けたのはKYLINであるが,最
近ではフコイダンと呼ばれる。」,「褐藻の硫酸多糖,いわゆるフコイダンといわ
れるものは,海藻の種類により,また,同じ種類でも組成の異なる画分があるな
ど,存在様式は多様である。またその生物活性には薬理的にも重要なものがある
が,構造との関係も明らかでない。そして多様さに伴う抽出精製の難しさから全体
像がつかみにくいが,今後の研究により,化学構造と生活活性との関係などが明ら
かにされることが期待される。」との記載があること,本訴乙3(宮崎利夫編「多
糖の構造と生理活性」)には,「f.フコイダンfucoidan 褐藻類の細胞間充填物
質として存在する粘質多糖で,藻類を熱水抽出後に酢酸鉛でアルギン酸を沈殿させ
て除き,水酸化バリウムを加えてフコイダン-水酸化鉛複合体を分離し,酸処理後
エタノールで沈殿させ精製する。第四級アンモニウム塩を用いる分別沈
殿精製法もある。共通的にL-フコース 4-硫酸エステルがα-1,2-結合で
連なる構造を有するが,一部の構成糖の3位にα-L-フコース4-硫酸の分枝が
結合したり,D-キシロース,D-グルクロン酸を含むもの,さらにD-ガラクト
ース,D-マンノースを含むものもあり,中にはフコース硫酸が側鎖として存在す
る多糖が見出された例もあって,構造上の多様性がみられる。」との記載があるこ
とからすれば,フコイダンとは,構成糖にフコースを含有する硫酸化多糖の総称で
あり,単一の化学物質ではなく多様な糖などを含むものもあり,原料や分離精製法
により構造上の多様性がみられることが認められる。
イ 次に,本件明細書(本訴甲2)記載の【特許請求の範囲】の【請求項
1】は「褐藻から分離精製したフコイダンを食品に添加することを特徴とする食味
改良方法。」というものであって,【特許請求の範囲】には,フコイダンがフコー
スを主成分(主構成糖)とするものに限定されフコースを従構成糖とするものは含
まれない旨の記載や,フコイダンが構造粘性を有しその精製フコイダンの製法は本
件明細書の実施例に記載の分離精製法に限られている旨の記載はないのであるか
ら,【請求項1】のフコイダンが,原告が主張するように褐藻由来のフコースを主
成分(主構成糖)とする硫酸化多糖であって,フコースを従構成糖とするものは含
まれず,構造粘性を有し,その精製フコイダンの製法は,本件明細書記載の分離精
製法に限られているものを意味するものに限定して解することはできないというべ
きである(因みに,本件決定も引用するように,特許出願に係る発明の要旨の認定
は,特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである
(最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁)。)。
 もっとも,本件明細書の段落【0002】の【従来の技術】には「本発
明のフコイダンは,褐藻類(コンブ・アラメ・カジメ等)の藻体中に存在する褐藻
特有の硫酸多糖で,水溶性で卵白様の粘性と曳糸性を示す粘質物であり,主な構成
糖はL-フコースから成り,エステル結合した硫酸基をもつ酸性多糖である。」と
の記載があるが,一方で,段落【0024】には「フコイダンの活性のうち,食味
向上活性は,粘性の有無に関わらず発揮されるが,除臭・凝集・増粘・保水・乳
化・の諸活性は,フコイダンがその粘性を保有している場合に示される活性である
から,本発明に用いられるフコイダンは粘性を有しているほうが応用範囲が広
い。」との記載があることに照らすと,【請求項1】のフコイダンには粘性を有す
るフコイダン以外のフコイダンが含まれることを前提としているというべきであ
り,本件明細書においても,【請求項1】のフコイダンが段落【0002】記載の
フコイダンに限定されていると読むことはできない。また,【請求項1】のフコイ
ダンの製法については,本件明細書の段落【0017】ないし【0021】に記載
があるが,これに限定される旨の記載はなく,かえって,段落【0017】の【課
題を解決するための手段】には「本発明に不可欠な要素であるフコイダンは,例え
ば,次の如くして製造される。」との記載があることに照らすと,段落【001
7】ないし【0021】に記載の製法は,例示である趣旨を読み取ることができ
る。したがって,本件発明に係る【請求項1】のフコイダンの製法は,本件明細書
記載の分離精製法に限られているものと認めることはできない。
 そして,分離とは「わかれること。わけはなすこと。」(広辞苑第五版
2388頁参照)を,精製とは「①念を入れて製造すること。②粗製品に手を加え
て精良な品物にすること。純度の高いものにすること」を意味すること(同147
1頁参照)からすると,【請求項1】の「褐藻から分離精製したフコイダン」と
は,褐藻からフコイダン含有物をわけはなし,その含有物におけるフコイダンの純
度を上げる処理で得られたフコースを含有する硫酸化多糖の総称であるものと認め
られる。
ウ 次に,先願明細書(本訴甲5,乙8)には,①【特許請求の範囲】の
【請求項1】として「フコイダン含有天然物由来のフコイダンを添加してなること
を特徴とする食品又は飲料。」,【請求項2】として「フコイダン含有天然物由来
のアルギン類が低減又は除去されたフコイダンを含有することを特徴とする食品又
は飲料。」との記載があること,②「フコイダンは海藻やナマコ等に含有されるフ
コース硫酸を含有する多糖である。」(段落【0002】),「本発明のフコイダ
ンとしては,純化されたもの及び/又はフコイダン含有物がある。フコイダン含有
物としては,例えばフコイダン含有抽出物がある。フコイダン含有抽出物として
は,フコイダン含有天然物由来の原材料からの抽出物,該抽出物の処理物が包含さ
れ,フコイダン高含有抽出物が好ましい。」(段落【0006】),「本発明にお
いて,フコイダンとは,分子中にフコース硫酸を含有する多糖及び/又はその分解
物であり,特に限定はない。なお褐藻植物由来のフコース含有多糖が通常フコイダ
ン,フコイジン,フカンと通称され,いくつかの分子種があることが知られている
が本発明のフコイダンはこれらを包含するものである。」(段落【0020】)と
の記載があること,③「実施例1」として「ガゴメ昆布を十分乾燥後,乾燥物20
kgを自由粉砕機(奈良機械製作所製)により粉砕した。水道水900リットルに
塩化カルシウム二水和物(日本曹達社製)7.3kgを溶解し,次にガゴメ昆布粉
砕物20kgを混合した。液温12℃から液温90℃となるまで水蒸気吹き込みに
より40分間昇温させ,次いでかくはん下90~95℃に1時間保温し,次いで冷
却し,冷却物1100リットルを得た。次いで固液分離装置(ウエストファリアセ
パレーター社製CNA型)を用い,冷却物の固液分離を行い,約900リットルの
固液分離上清液を調製した。固液分離上清液360リットルをダイセル社製FE1
0-FC-FUSO382(分画分子量3万)を用い,20リットルまで濃縮し
た。次いで水道水を20リットル加え,また20リットルまで濃縮するという操作
を5回行い,脱塩処理を行い,フコイダンを高含有する海藻由来抽出物溶液25リ
ットルを調製した。抽出物溶液のpHは約6.5,酸度は0.06ml,糖度は
0.8Brix%,Ca濃度は1200ppmであった。該溶液1リットルを凍結
乾燥し,乾燥物13gを得た。凍結乾燥物中にフコイダン-Uは33%含有されて
いた。」(段落【0029】),「次いでフコイダン高含有海藻由来抽出溶液に2
%活性炭(白鷺:食添用)を添加し30分間処理後,荒ろ過,0.8μmのフィル
ター処理を行い,フィルター処理ろ液(フコイダンⅠ)を調製した。次にそのろ液
の半量を120℃で60分間,加圧加熱処理し,熱処理液(フコイダンⅡ)を調製
した。フィルター処理ろ液を凍結乾燥し,その乾燥物10mgを1%Na2CO3,
100mM CaCl2の10mlにそれぞれ懸濁した。両溶液において乾燥物は
完全に溶解し,アルギン類の混入は認められなかった。」(段落【0033】)と
の記載があることを総合すれば,先願明細書に記載されたフコイダンⅠは,褐藻類
であるガゴメ昆布の塩化カルシウム抽出液から不溶成分を固液分離した上清液を脱
塩処理し,フコイダンを高含有する海藻由来抽出物溶液とし,この溶液に活性炭を
添加し,フィルター処理したろ液であり,フコイダンⅡは,フコイダンⅠを加圧加
熱処理した熱処理液であるものと認められる。
 そうすると,先願明細書に記載されたフコイダンⅠ及びフコイダンⅡは
褐藻からフコイダン含有物をわけはなし,その含有物におけるフコイダンの純度を
上げる処理で得られたフコースを含有する硫酸化多糖であるものと認められるか
ら,先願明細書に記載されたフコイダンI及びフコイダンIIは,本件発明に係る分離
精製したフコイダンに該当するものと認められる。
 したがって,原告の前記主張は採用することができない。
(3) さらに,原告は,先願明細書に記載の「アルコール含有飲料」及び「均質
牛乳」は,本件発明の「食品」に該当しないから,先願発明は,フコイダンを食品
に添加する発明ではない旨主張する。
 しかしながら,本件明細書には,「このフコイダンを添加して成る,美味
でしかも風味豊かな食品の例を挙げると,次のごとくなる。」(段落【002
7】)として「(加工飲料),(アルコール飲料)」が例示されていること(段落
【0028】)からすれば,本件発明の「食品」は飲料を含む飲食物を意味するも
のと認められ,先願明細書記載の実施例8の「アルコール含有飲料」(段落【00
63】)及び実施例11の「均質牛乳」(段落【0076】)は,本件発明の「食
品」に該当するというべきであるから,原告の上記主張は採用することができな
い。
(4) 以上によれば,本件決定が,本件発明と先願発明とが,褐藻から分離精製
したフコイダンを食品に添加する点で一致すると認定したことは正当であり,これ
が誤りであるとする原告の取消事由3の主張は,理由がない。
5 取消事由4(同一性の判断の誤り)について
 原告は,本件発明の食味改良方法は,フコイダンの構造粘性による除臭・凝
集・増粘・保水・食味向上・乳化の諸活性を「個別或は総合的に活用させ,食品の
味を美味で風味豊かなものに改良すること」で,その諸活性の一つである食味向上
活性は,「食品の甘味をおさえ,酸味・塩味を際立たせ,味のバランスを取り,風
味を向上させる効果」であるところ,先願明細書の実施例8には(アルコール含有
飲料の)「酸味がマイルドになり,完熟みかんのような風味に仕上がった」との記
載及び先願明細書の実施例11には「牛乳が舌にまとわりつくような食感,すなは
ち味切れの悪さに関して,味切れが良くなり,牛乳が飲みやすくなった」との記載
があるが,これらは,いずれも食味向上活性に当たらないから,先願明細書に本件
発明の食味改良方法の記載があるということはできず,本件決定が,上記記載があ
ることを前提に先願発明と本件発明が同一であると判断したことは誤りである旨主
張する。
(1) そこで検討するに,本件明細書には,段落【0001】の【発明の属する
技術分野】に「本発明は,食品にフコイダンを添加することにより,食品の味を美
味で風味豊かなものに改良する方法に関する。」,段落【00016】の【発明が
解決しようとする課題】に「本発明の目的は,食品又はその材料に,フコイダンを
添加して調理加工することにより,前項で説明したフコイダンの諸活性を個別或は
総合的に活用させ,食品の味を美味で風味豊かなものに改良することにある。」と
の記載があり,「食味向上活性」については,「5食味向上活性 食品の甘味をお
さえ,酸味・塩味を際立たせ,味のバランスを取り,風味を向上させる効果があ
る。」(段落【0009】),「この活性の特徴は,極めて微量(ppm)の添加
量でその効果が現れる事,添加量を増しても味が損なわれない事,グルタミン酸ナ
トリウムやイノシン酸ナトリウムのごとき旨味を付加する作用ではなく,酸味や塩
味を際立たせたり,甘味をまろやかな,控えめにする等,味のバランスをとり,香
りを引き出し,その結果,食品に独特の風味をあたえる活性であって,風味向上活
性と称してもよい活性である。」(段落【0012】),「風味と言う
語句は,日本では,上品な味・味わい,を意味する場合に使用されており,外国で
はフレーバー(独特の味・風味と訳されている)と表現されている。風味とは,味
を越えた味わいとして感知されてはいたが,風味に関与する物質の存在について
は,まだその例をみない。」(段落【0015】)との記載がある。
 本件明細書の上記各記載によれば,食味改良とは,食品の味を「美味で風
味豊かなもの」に改良するというものであり,「風味」のみならず,「美味」にす
ることをも意味するものと読み取れるが,この「美味」と「風味」とは,本件明細
書記載の実施例-1ないし12(段落【0029】~【0041】)に照らして
も,明確な区別をつけ難いこと,食味向上活性とは,食品の甘味をおさえ,酸味・
塩味を際立たせ,味のバランスを取り,風味を向上させる効果があるとする一方
で,食品に独特の風味を与える活性であって,風味とは「日本では,上品な味・味
わい,」を意味する場合に使用されているというのであるから,風味の向上は,上
品な味・味わいを向上させるものであれば足り,酸味や塩味を際立たせることを必
須の要件としているものとは認め難い。
 加えて,食味とは,「食物の味。食べたときの味」のことであること(広
辞苑第五版1343頁参照),本件発明の「食品」は飲料を含む飲食物を意味する
ことを併せ考慮すると,本件発明の「食味改良方法」とは食べたとき又は飲んだと
きの飲食物の味を,フコイダンを添加することにより,これを添加しない場合に比
べて良好にすることを意味するものと解すべきである。
(2) そして,先願明細書には,フコイダンⅡが添加されたアルコール含有飲料
である「本発明品5」について,「舌ざわり感,味のバランス,味切れ,のどごし
感が改善されていることがわかった。特に,本発明品5は酸味がマイルドになり,
完熟みかんのような風味に仕上がった。」との記載があり(実施例8。段落【00
67】),また,フコイダンⅠが添加された均質牛乳である「本発明品11」につ
いて,「舌ざわり感,味のバランスが改善され,牛乳が舌にまとわりつくような食
感,すなはち味切れの悪さに関して,味切れが良くなり,牛乳が飲みやすくなっ
た。」との記載があり(実施例11。段落【0078】),上記各記載は,フコイ
ダンⅡを添加することによりアルコール含有飲料の飲んだときの味を良好にするこ
と及びフコイダンⅠを添加することにより均質牛乳の飲んだときの味を良好にする
ことを記載しているものと認められるから,先願明細書には,フコイダンⅡをアル
コール含有飲料に添加することにより,あるいはフコイダンⅠを均質牛乳に添加す
ることにより,アルコール含有飲料及び牛乳の食味を改良することが記載されてい
るものとした本件決定に誤りはないというべきである。
 したがって,原告の前記主張も,その前提を欠くものであって,採用する
ことができない。
6 結論
 以上によれば,原告の本訴請求は理由がないことに帰するから,これを棄却
することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官    中野哲弘
裁判官    大鷹一郎
裁判官    早田尚貴

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