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○ 主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が控訴人に対してした次の各処分をいずれも取り消す。
(一) 控訴人の昭和三六年分の所得税について昭和四二年三月九日付けでした更
正及び重加算税賦課決走
(二) 控訴人の昭和三七年分の所得税について昭和四三年三月五日付けでした更
正及び重加算税賦課決定
(三) 控訴人の昭和三八年分ないし昭和四〇年分の各所得税について昭和四三年
三月五日付けでした各更正並びに重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
控訴棄却
第二 当事者の主張
当事者双方の主張は、当審における主張を次のとおり付加するほかは、原判決事実
摘示の「第二 原告の請求原因」ないし「第七 原告の反論に対する被告の主張」
記載のとおりである(原判決二枚目表一行目から同二三枚目表一五行目まで。ただ
し、原判決六枚目表八行目「符合」を「符号」に訂正し、同二〇枚目裏一行目「合
理性」の前に「個別的」を加える。)から、これをここに引用する。
一 控訴人
被控訴人は、控訴人の昭和三六年分ないし昭和四〇年分の各所得税について推計の
方法により各事業所得の金額を算出して本件各更正処分を行ったが、その際、被控
訴人は、比率法等の方法をとることなく、一般的合理性の点で最も後れた資産増減
法により控訴人の所得を推計した。しかも右推計の基礎とされた事実には次のとお
り誤りがあって、期首及び期末の資産の認定には事実誤認があり、本件推計方法に
合理性は認められないから、本件各更正処分は違法であり取り消されるべきであ
る。
1 普通預金及び定期預金並びに預金利子
被控訴人が控訴人の預金であると主張するA(原判決別表三番号5)、B(同表番
号6)、C(同表番号7)、D(同表番号15)、E(同表番号16)、F(同表
番号17)、東洋貴金属株式会社(同表番号22)名義の各預金は、いずれも他人
のものであり、控訴人に帰属するものではない。なお控訴人は昭和三五年末に当時
の上野信用金庫広小路支店(現朝日信用金庫上野支店)に対し預金四〇〇〇万円を
有していた。
2 売掛金
被控訴人は、控訴人が小林分析所及び佐藤分析所名義で合資会社白金に対し金地金
を売り上げていたと主張するが、これらの取引は、控訴人が店舗を賃貸していたG
が行ったものであり、控訴人の売掛金ではない。
3 貸付金
控訴人は昭和三五年末に丸一物産株式会社に対し三〇〇万円、土田商会(土田商事
株式会社又はH)に対し五〇二万円、Iに対し二〇〇万円、東産業株式会社に対し
二〇〇万円の各貸付金があった。また控訴人のJに対する三五〇万円の貸付金は昭
和三七年中に回収された。(原判決別表六関係)
4 事業主貸
被控訴人は、昭和三八年八月鎌倉市<地名略>に建築された別荘の代金一〇六万〇
八一〇円は、控訴人の薄外資金から支払われたとして同年分の事業主貸に計上する
が、右代金は控訴人の妻Kが自己の資金で支払ったものであり、控訴人は無関係で
ある。
二 被控訴人
控訴人の右主張事実はすべて否認する。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 当裁判所も、控訴人の本件各更正決定取消請求はいずれも理由がないと判断す
る。その理由は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決「理由」記載のとおりで
あるから、これをここに引用する。
1 原判決二七枚目裏一〇行目末尾に次のとおり加える。
「控訴人は、被控訴人の調査に対し控訴人は事実を隠し立てることなく備付けの帳
簿書類を提供して協力したから推計の必要性はない、また比率法等の方法をとるこ
となく、一般的合理性の点で最も後れた資産憎減法による本件推計方法に合理性は
ないと主張する。しかしながら前記のとおり控訴人が多額の所得を申告せず、控訴
人の取り扱う金地金の中には密輸品も含まれていたこと、及び被控訴人が資産増減
法による推計計算を行うに際しては、東京国税局の強制調査によって押収、検査さ
れた簿外資産を基礎にしたことなどに徴すると、本件においては、資産増減法によ
る推計の必要性及び合理性を認めることができ、控訴人の右主張は理由がない。」
2 原判決二八枚目表八行目末尾に次のとおり付加する。
「右認定に反する控訴人本人の供述部分(原審及び当審)及び甲第八、第一七、第
七七号証(控訴人作成の各上申書)の記載部分は、後記各証拠と対比して採用でき
ない。」
3 原判決二八枚目裏二行目末尾に次のとおり付加する。
「。すなわちA名義の普通預金元帳(乙第七号証)は、東京国税局が、三和銀行上
野支店において同行支店長から控訴人の所得税法違反事件につき任意提出を受けた
(乙第一三七号証)ものであるが、右預金の出し入れに使用していた印鑑及び右預
金元帳に押されていた「東京都中央区<地名略>A」のゴム印は、控訴人が東洋信
託銀行日本橋支店で「L」名義で利用していた貸金庫の中から押収された(乙第六
六号証)ものであるところ、控訴人は右貸金庫から押収された株券、社債等数多の
簿外資産については自分のものであることを認める上申書を提出している(乙第一
〇八号証)こと、他方、Aは右印鑑及びゴム印は自分のものでない旨供述している
(乙第七、第一三〇号証)ことから、A名義の右預金は控訴人に帰属すると認める
ことができる。」
4 原判決二八枚目裏四行目末尾に次のとおり付加する。
「。すなわちB名義の普通預金元帳(乙第八号証)は、東京国税局が、前同様に三
和銀行上野支店長から控訴人の所得税法違反事件につき任意提出を受けた(乙第一
三七号証)ものであるが、右預金口座には、控訴人の簿外取引先の一つであるMか
らの金地金の売上げに係る入金額が振り込まれている(乙第一二七、第一三一号
証、梅崎証言)ことから、B名義の右預金は控訴人に帰属すると認めることができ
る。」
5 原判決二八枚目裏七行目末尾に次のとおり付加する。
「。すなわちC名義の普通預金元帳(乙第九号証)は、東京国税局が、前同様に三
和銀行上野支店長から控訴人の所得税法違反事件につき任意提出を受けた(乙第一
三七号証)ものであるが、同支店の行員Nが控訴人のための架空名義預金として設
定したことを認めている(乙第一一五号証)から、C名義の右預金は控訴人に帰属
すると認めることができる。」
6 原判決二九枚目表六行目末尾に次のとおり付加する。
「。すなわちD名義の普通預金(元帳は乙第九〇号証)は、右預金口座に控訴人の
簿外取引先の一つであるMからの金地金の売上げに係る入金額が振り込まれている
(梅崎証言)ことから、控訴人に帰属すると認めることができる。」
7 原判決二九枚目表七行目末尾に次のとおり付加する。
「。すなわちE名義の普通預金(元帳は乙第九三号証)は、右預金口座に控訴人の
簿外取引先の一つであるMからの金地金の売上げに係る入金額が振り込まれている
(梅崎証言)ことから、
控訴人に帰属すると認めることができる。」
8 原判決二九枚目表九行目末尾に次のとおり付加する。
「。すなわちF名義の普通預金元帳(乙第八三号証)は、東京国税局が、前同様に
三和銀行上野支店長から控訴人の所得税法違反事件につき任意提出を受けた(乙第
一三七号証)もので、この預金口座は控訴人が同支店に架空名義預金として設定し
たものである(乙第一三一号証、梅崎証言)から、F名義の右預金は控訴人に帰属
すると認めることができる。」
9 原判決二九枚目裏三行目末尾に次のとおり付加する。
「。控訴人は、東洋貴金属株式会社名義の普通預金口座は、控訴人が関税法違反容
疑で昭和四〇年三月一五日逮捕され同年五月五日まで大阪府警察本部に勾留されて
いる間の同年四月二八日に解約されている事実からも、控訴人に帰属するものでな
いことが明らかであると主張する。しかしながら乙第六六、第一〇二、第一四四号
証によると、三和銀行上野支店の東洋貴金属株式会社名義の普通預金口座(元帳は
乙第九六号証)は、同支店の行員Oが控訴人の意向を受けて預け入れ、引き出しの
手続きを行っていたこと、及び同年四月二八日右預金が解約されて引き出された現
金のうち二〇〇万円は同日L名義の通知預金に入金され、右通知預金は同年一〇月
一四日解約されて同日東洋信託銀行日本橋支店でL名義で貸付信託の購入に充てら
れたが、右貸付信託は控訴人の所有であると認められることから、東洋貴金属株式
会社名義の前記預金は控訴人に帰属すると認めることができる。」
10 原判決三二枚目裏一四行目「第一三号証」の次に「、第七七号証、第八一号
証、第八四号証の一」を加え、同三二枚目裏一四行目から一五行目の「原告本人尋
問の結果」を「控訴人本人尋問の結果(原審及び当審)」と改め、同三三枚目表八
行目末尾に次のとおり付加する。
「控訴人は、昭和四四年一〇月一〇日朝日信用金庫の柏倉庫に赴き、元帳を捜した
ところ、P名義の元帳の昭和三五年一二月中旬から翌年一月中旬位までの部分のカ
ードは欠落していた(甲第一七号証)というが、これの真偽を確かめうる資料はな
い。」
11 原判決三三枚目表九行目「甲第八号証」から一一行目「されているが、」ま
でを次のとおり改める。
「控訴人は、甲第八号証及び第一七号証並びに控訴人本人尋問(原審及び当審)に
おいて、控訴人の先妻の兄であるQの上野信用金庫在職中に、同人の顔を立ててや
るため、同金庫広小路支店に預金を設定したと述べているところ、」
12 原判決三四枚目表一行目を次のとおり改める。
「仮に控訴人が昭和三五年末に上野信用金庫広小路支店に四〇〇〇万円もの仮名預
金を有していたならば、先妻の兄であるQや、当時、同信用金庫主事という地位に
あったRは、当然に右預金の事実を知っていて、実際の預金者である控訴人のため
に協力して、右預金が控訴人に帰属することを積極的に明らかにしたと思われる
が、そのようなこともされていない。原本の存在及び成立につき争いのない甲第八
二号証の一、二(朝日信用金庫上野支店長の平成元年一月二三日付回答書)による
と、控訴人は昭和三三年二月、同三月ころ上野信用金庫広小路支店との間に預金取
引があった事実は認められるが、そのことにより控訴人が昭和三三年当時から昭和
三五年末まで右支店と取引があったとか、昭和三五年末にP名義の仮名預金を有し
ていたと認めることはできない。
以上の次第で、朝日信用金庫の回答(甲第一二号証の三)はたやすく信用すること
はできない。Qの回答(甲第一二号証の一)についても同様である。」
13 原判決三四枚目裏六行目冒頭から同裏九行目末尾までを次のとおり改める。
「一一八号証(合資会社白金の経理主任であったSの東京国税局収税官吏Tに対す
る昭和四二年三月二日付質問てん末書)によると、Sが昭和三四年に入社し仕入係
をしていた当時から合資会社白金の金地金の仕入は控訴人から行っていることが同
社内では公知であった事実、及び同社が強制調査を受けた当初は仕入先として控訴
人の名前を出さなかったが、その後社長、副社長、専務、営業部長らが協議した結
果、仕入先も大事であるが、架空仕入として否認を受けるようなことになると同社
の税負担の面からも大変なことになるとして、社長の判断により控訴人から金地金
を仕入れていた事実を関東信越国税局に申し述べた事実が認められるのであり、合
資会社白金は控訴人と取引を行っていたもので、Gとは取引を行っていなかったこ
とが認められる。また乙第一一〇号証によると、株式会社松村金銀店社長Jは控訴
人から金地金を仕入れていたことを明言し、Gのことは何も述べていないのであ
り、その他、乙第七八号証の一(合資会社白金の代表社員Uの上申書)、乙第一一
五号証(三和銀行上野支店行員Nの質問てん末書)、乙第一二八号証(控訴人の使
用人Vの質問てん末書)、乙第一四三号証(坂金銀店主Mの質問てん末書)による
と、控訴人が主張するGなる人物は実在しないことが認められる。右認定に反する
甲第三五ないし第三七号証は右各証拠と対比して採用できない。控訴人が当審で提
出する甲第六一号証の一によっても、前記V(現在は○○と改姓)は、控訴人の妻
Kから店を利用している人はGであるときかされただけで、Gがどのような人物で
あるかについては一切知らないことが認められ、右認定を左右するものではな
い。」
14 原判決三九枚目裏一三行目末尾に次のとおり付加する。
「なお控訴人は、控訴人の昭和四一年六月三〇日付上申書(乙第一〇八号証)は、
控訴人がT主査から原稿を示されて、内容を十分吟味する余裕もなく、そのとおり
従わざるを得なかったもので、真実を伝えるものではないと主張するが、乙第一一
〇、第一一二、第一一三号証、及びTの証言と対比して、控訴人の右主張は採用で
きない。」
15 原判決四一枚目表一四行目末尾に次のとおり付加する。
「乙第四八号証によると、丸一物産株式会社は昭和三六年五、六月ころ控訴人から
合計三三〇万円を現金で借り受けた事実が認められるが、それ以前に控訴人が同社
に三〇〇万円を貸し付けていた証拠はない。」
16 原判決四一枚目裏二行目末尾に次のとおり付加する。
「。控訴人はJに対する三五〇万円の貸付金は昭和三七年中に回収されたと主張す
るが、右主張に沿う立証はない。一方乙第一一〇号証によると、Jは昭和四一年六
月一四日東京国税局収税官吏に対する質問てん末書で控訴人から三五〇万円を借り
受けていることを認めているから、控訴人の右主張は採用できない。」
17 原判決四三枚目裏五行目末尾に次のとおり付加する。
「控訴人は、控訴人から貸付金の回収を委任されていた守屋典郎弁護士が作成した
メモ(甲第六三号証)に、昭和四二年三月まで返済を受けていることが記載されて
いるから、昭和三五年末に土田商会に対し五〇二万円の貸付金を有していたと主張
するが、右メモは、その作成時期や作成意図が不明であり、またその記載内容も、
貸付金の貸付時期、貸付額等を明らかにするものではない。Hの控訴人あての昭和
六三年一二月一三日付手紙(甲第七九号証の一、二)によると、甲第六四ないし七
一号証の各一、二の約束手形八枚(額面合計四〇万円)はHの依頼により義兄Wが
控訴人あてに振出した融通手形であることは認められるが、右メモ、手紙及び手形
並びに甲第八〇号証の一、二により、控訴人の右主張を認めることはできない。」
18 原判決四四枚目裏一行目の「を欠いており、」を「欠いており、」に改め、
同三行目末尾に次のとおり付加する。「守屋弁護士が作成したとされる前記メモ
(甲第六三号証)によると、昭和三三年一二月東産業へ一〇〇万、同三四年七月東
産業から一八万、同三五年一一月東産業から一八万九二〇〇、昭和四〇年一一月I
から二〇万、同年一二月Iから二五万との記載があるが、前記のとおり右メモの記
載の趣旨は不明であり、これにより、控訴人が昭和三五年末にI及び東産業株式会
社に対し各二〇〇万円の貸付金を有していたと認めることはできない。」
19 原判決五三枚目表一二行目末尾に次のとおり付加する。
「控訴人は右別荘の代金は妻Kが自己の資金で支払ったと主張するが、右主張を裏
付ける立証はなく、東京国税局査察部が把握したK名義の預金(乙第一七一号証の
一ないし三、第一七三、第一七八、第一七九、第一八〇、第一八七号証、第一八九
ないし第一九三号証、)及び控訴人の預金等(乙第一七〇号証の一ないし七、第一
七二号証の一ないし三、第一七四ないし第一七七、第一八一ないし第一八六号証、
第一八八、第一九四、第一九五号証)からは右代金が支払われていない。」
20 原判決五三枚目表一四行目末尾に次のとおり付加する。
「なお、Kに対する贈与税の課税はこれとは別の問題であり、Kが贈与税を課され
ていないからといって、同女が自己の資金で右別荘を建築したことにはならな
い。」
21 原判決六三枚目表一三行目末尾に次のとおり付加する。
「甲第八四号証の一、二(控訴人作成の平成三年六月二六日付上申書及び取引一覧
表)によっても、右認定は左右されない。」
22 原判決六四枚目表一一行目「いうべきである。」の次に次のとおり加える。
「控訴人の提起した本件青色申告承認取消処分の取消請求事件については、一審・
東京地方裁判所(昭和五〇年(行ウ)第一六二号)は昭和五二年四月二七日訴えを
却下し、二審・東京高等裁判所(昭和五二年(行コ)第二八号)では昭和五三年二
月二八日控訴棄却となり、三審・最高裁判所(昭和五三年(行ツ)第八二号)にお
いても昭和五三年一二月二二日上告棄却され、本件青色申告承認取消処分は確定し
た。そうすると、控訴人は昭和三八年以降の所得税について青色申告の承認を受け
ている者でないこととなる。」
二 以上のとおりであって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれ
を棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条
を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 藤井正雄 伊東すみ子 水谷正俊)

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