弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役4年に処する。
未決勾留日数中140日をその刑に算入する。
奈良地方検察庁城支部で保管中のビニール袋入り覚せい剤1袋及び偽造
通貨9枚をいずれも没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1Aと共謀の上,平成18年10月30日ころ,奈良県橿原市B町C番地のD
被告人方において,行使の目的をもって,ほしいままに,カラー複写機を用い
,,て真正の日本銀行券千円券の表面及び裏面を複写しこれを裁断するなどして
通用する金額千円の日本銀行券約22枚を順次偽造した上,
1同日午前4時20分ころ,同県大和高田市EF丁目G番H号I店において,
ガムを購入してその代金100円を支払うに際し,同店店員Jに対し,上記偽
造に係る日本銀行券のうち1枚を真正な通貨のように装って手渡したが,同人
に偽造したものであることを看破されたため,行使の目的を遂げなかった
2同日午前4時34分ころ,同市KL丁目M番N号O店において,豚生姜焼定
食等4点を飲食してその代金合計1190円を支払うに際し,同店店員Pに対
し,上記偽造に係る日本銀行券のうち2枚を真正な通貨のように装って手渡し
て行使した
3同日午前6時5分ころ,同県香芝市QR番地ST店において,煙草等4点を
購入してその代金合計6410円を支払うに際し,同店店長Uに対し,上記偽
造に係る日本銀行券のうち7枚を真正な通貨のように装って手渡して行使した
第2法定の除外事由がないのに,同月28日ころ,前記被告人方において,覚せ
い剤であるフエニルメチルアミノプロパンの塩類若干量を含有する水溶液を自
己の身体に注射し,もって覚せい剤を使用した
第3みだりに,同月30日,同県葛城市VW番地先路上において,フエニルメチ
ルアミノプロパン塩酸塩を主成分とする覚せい剤白色微粉末約0.038グラ
ムを所持した
ものである。
(法令の適用)
1罰条
判示第1の所為のうち
通貨偽造の点包括して刑法60条,148条1項
偽造通貨行使未遂の点刑法60条,151条,148条2項,1項
各偽造通貨行使の点いずれも包括して刑法60条,148条2項,1

判示第2の所為覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19条
判示第3の所為覚せい剤取締法41条の2第1項
2科刑上一罪の処理
判示第1の通貨偽造とその各行使又は行使未遂について刑法54条1項後段,
10条(結局1罪として犯情の最も重い通貨偽造罪の刑で処断)
3刑種の選択
判示第1の罪について有期懲役刑を選択
4併合罪加重刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い判
示第1の罪の刑に法定の加重)
5未決勾留日数の算入刑法21条
6没収
判示第1の偽造通貨刑法19条1項1号,2項本文
判示第3の覚せい剤覚せい剤取締法41条の8第1項本文
7訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
本件は,被告人が,妻と共謀の上,行使の目的で千円札約22枚を偽造し,その
うち9枚を行使し又は行使しようとしたという通貨偽造・同行使・同行使未遂(判
示第1の犯行)の事案,並びに単独での覚せい剤の自己使用(判示第2の犯行)及
び単純所持(判示第3の犯行)の事案である。
まず,判示第1の犯行についてみると,被告人は,生活保護を受給しておりなが
ら,生活費等欲しさから安易に本件犯行に及んだものであり,短絡的で身勝手な動
機に酌量の余地はない。その態様も,真正の千円札をカラー複写機を用いて複写す
るなどして試行錯誤を繰り返して千円札を偽造した上,商品購入代金や代金の支払
に充てて行使し,あるいは行使しようとするという計画的で悪質なものである。偽
造された紙幣は,千円札約22枚と少なくなく,そのうち9枚を実際に行使してい
るのであって,通貨の真正に対する公共の信用が著しく害されており,結果も重大
である。このような犯行の中,被告人は,当初は犯行に消極的であった妻を誘い込
み,本件犯行を終始主導したものであり,その責任は重い。近時,市販の印刷機器
の性能の飛躍的向上に伴い,この種の事犯が頻発して重大な社会問題となっている
現状に照らしても,被告人の行為は厳しく非難されるべきである。
また,判示第2及び第3の各犯行についてみても,被告人は,平成16年10月
28日,覚せい剤取締法違反罪(自己使用)により懲役1年6月,3年間執行猶予
の判決を受けたにもかかわらず,覚せい剤の効用を忘れられず,本件各犯行に及ん
だもので,被告人の薬物に対する親和性や依存性は顕著であり,その規範意識には
相当問題があるものと見ざるを得ない。
これらによれば,被告人の刑事責任は重いというべきである。
他方,被告人は,本件各犯行を認めて反省の弁を述べていること,偽造通貨を行
使し又は行使しようとした相手方に対する被害弁償をいずれも済ませていること,
被告人は,慢性統合失調症やC型慢性肝炎等を患っており,本件各犯行時及び現在
の心身の状態に斟酌すべき点があること,実母が当公判廷において被告人の指導監
督を約束していること,本判決が確定すれば前刑の執行猶予が取り消され,併せて
刑の執行を受けることが見込まれることなど,被告人にも酌むべき事情が認められ
るところである。
よって,以上の事情を総合考慮して,主文のとおりの刑が相当であると判断し,
主文のとおり判決する。
(求刑懲役5年,覚せい剤及び偽造通貨の没収)
平成19年5月30日
奈良地方裁判所城支部
裁判長裁判官榎本巧
裁判官蛭田振一郎
裁判官高島由美子

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