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平成20年6月26日判決言渡
平成19年(行ケ)第10392号審決取消請求事件
平成20年5月29日口頭弁論終結
判決
原告有限会社トイズマッコイプロダクト
訴訟代理人弁護士赤沼康弘
同清水光子
被告アイディアル・ファスナー・コーポレーション
訴訟代理人弁理士宮永栄
同西村雅子
同田畑浩美
主文
1特許庁が無効2006−89181号事件について平成19年10月
30日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文と同旨
第2争いのない事実
1特許庁における手続の概要
原告は,別紙のとおりの構成であり「コンマー」及び「CONMAR」の,
文字を上下二段に横書きしてなり,商品の区分を第26類,指定商品を「ボタ
ン類」とする登録第4774951号商標(平成15年7月4日登録出願,平
成16年5月28日登録。以下「本件商標」という)の商標権者である。。
被告は,平成18年12月27日,本件商標の登録を無効とすることを求め
て審判請求(無効2006−89181号事件)をした。
特許庁は,平成19年10月30日「登録第4774951号の登録を無,
効とする」との審決(以下「審決」という)をし,同年11月9日,その謄。。
本を原告に送達した。
2審決の理由
別紙審決書写しのとおりである。要するに,原告は「CONMAR」との,
,「」文字からなる米国商標が被告の商標であることを知りながらCONMAR
との文字からなる商標が日本において商標登録されていないことを奇貨とし
て,被告に無断で剽窃的に,スライドファスナーを含む「ボタン類」を指定商
品として本件商標を出願し,登録を受け,ひいては被告の日本国内への参入を
阻止しているものであり,そうすると,本件商標の登録を認めることは,公正
な取引秩序を乱し,社会一般の道徳観念ないしは国際信義に反し,公の秩序を
害するものであるから,本件商標は商標法(以下,商標法は,単に「法」とい
うことがある)4条1項7号に該当すると判断したものである。。
第3取消事由に係る原告の主張
審決には,取消事由として,次のとおり,法4条1項7号の判断の誤りがある
から,審決は取り消されるべきである。
1「CONMAR」についての事実経緯
()「CONMAR」の由来1
米国のコンマー・プロダクツ・インク(以下「コンConmarProductsInc.,
マー社」という)は,米軍用フライトジャケット(航空機搭乗員等が着用。
する上着)等に使用されるファスナー(以下,特に断らない限り,スライド
ファスナーの意味で「ファスナー」という語を用いる)を製造販売してい。
たが,昭和40年(1965年)に廃業し,同年6月14日,スコービル・
(,「」。)ファスナー・インク以下スコービル社というScovillFastenersInc.
がその営業を承継した。しかし,スコービル社は,コンマー社の営業を承継
した後「CONMAR」との表示が付されたファスナーを製造することは,
なかった。そのため,米国においても,1960年代には,ごく一部の軍服
マニアを除き「CONMAR」との文字からなる米国商標は忘れられてい,
た。日本においては,株式会社ザ・リアルマッコイズ・ジャパン(昭和63
年6月22日設立。設立時の商号は「株式会社ハリオス.コー.ジヤパン」
,,「」であり平成8年6月22日株式会社ザ・リアルマッコイズ・ジャパン
に商号変更し,同月24日,その旨登記された。以下,商号変更の前後を通
じて「リアルマッコイズ社」という)が「CONMAR」との表示が付さ。
れたファスナーを製造販売するまでは,ファスナー自体が注目されることは
なく「CONMAR」との文字からなる米国商標は全く知られていなかっ,
た。日本において米軍用フライトジャケットの復刻版の市場を作ったのは,
リアルマッコイズ社であった。
()スコービル社による商標権放棄の推定等の有無2
アリアルマッコイズ社は,日本で初めて米軍用フライトジャケット等の復
刻版の製造販売を始め,その市場を形成した。原告の代表取締役であるA
は,リアルマッコイズ社の代表取締役であったが,過去の資料によりコン
マー社のファスナーについて知識を有しており,スコービル社がコンマー
社の営業を承継したことを知った。そのため,リアルマッコイズ社は,平
成4年末からスコービル社との接触を始めた。
イリアルマッコイズ社は,平成4年末からスコービル社との接触を始め,
スコービル社に対し「CONMAR」との表示が付されたファスナーの,
製造を要請したが,スコービル社は,新たに金型を製造することは費用倒
れになるとして製造を拒否し「CONMAR」との表示が付されたファ,
スナーには関心がないので,リアルマッコイズ社が自ら製造すればよいと
の回答をし「CONMAR」との表示使用に対する対価の要求もしなか,
った「CONMAR」との文字からなる米国商標が付されたファスナー。
の製造が中止された後20年以上が経過し,同米国商標は,既に周知性を
,。失っておりスコービル社にとって何らの価値を見出せるものでなかった
上記のスコービル社の対応は,スコービル社が「CONMAR」との文字
からなる米国商標に関する主張を一切しないという意思の表明であったと
解される。
,「」,スコービル社はCONMARとの文字からなる米国商標について
従前の使用を再開しない意図をもって使用を中止し,3年連続して権利を
行使しなかったから,権利を放棄したものと推定される。
スコービル社は「CONMAR」との文字からなる米国商標について,
商標権を失効させた。
()リアルマッコイズ社とスコービル社の取引3
リアルマッコイズ社は,平成5年春ころ,スコービル社のファスナーの中
にコンマー社のファスナーとスライダーの形状が近いもの(スコービル社の
№5)があるのを見出し,スコービル社に対し,スコービル社が№5のファ
スナーにリアルマッコイズ社の指示どおりに「CONMAR」の文字を刻印
「」,してCONMARとの表示を付したファスナーを製造することを提案し
スコービル社は同提案を受け入れた。リアルマッコイズ社は,この合意に基
づいて,スコービル社に対し「CONMAR」の文字のデザインや表示位,
置等を示した図面を送付した。スコービル社は,それに基づいて「CONM
」,,ARとの表示を付したファスナーを製造しリアルマッコイズ社に納入し
販売した。
()リアルマッコイズ社による商標登録4
リアルマッコイズ社は,平成5年9月6日,指定商品を第26類の「ボタ
ン類」等として「COMMER」との文字からなる商標を出願し,平成8,
年4月30日,登録(第3150809号)された。この商標の下4文字が
「NMAR」でなく「MMER」とされたのは,誤記によるものであった。
()スコービル社から被告への商標権等の譲渡5
スコービル社から被告へは「GRIPPER」との文字からなる商標に,
係る商標権が譲渡されておらず,そのことからすると,スコービル社のすべ
ての無体財産権が被告へ譲渡されたわけではなく「CONMAR」との文,
字からなる米国商標がスコービル社から被告へ承継されたか明らかでない。
()リアルマッコイズ社と被告の取引6
平成7年夏,スコービル社がファスナーの製造を中止し,リアルマッコイ
ズ社とスコービル社の取引も終了した。
リアルマッコイズ社は,被告がスコービル社から№5のファスナーの金型
を買い受けたという情報を得て,平成8年12月から被告との間で取引を行
うための交渉を開始した。リアルマッコイズ社は,被告に対し,リアルマッ
コイズ社が作成した図面に基づいてファスナーの製造を依頼したが,被告は
欠陥のない製品を製造することができなかった。そこで,リアルマッコイズ
社は,日本の業者に依頼してファスナーのスライダーの引き手に「CONM
AR」の刻印を打たせ,被告にその引き手と他の部品を合体させてファスナ
ーを製造させようとしたが,被告は,うまく合体をすることができず,リア
ルマッコイズ社が期待した製品を製作できなかった。そのため,リアルマッ
コイズ社は,平成12年10月,被告との取引を停止した。
スコービル社,被告は「CONMAR」との文字からなる米国商標がス,
コービル社,被告に帰属することからこれを使用してファスナーの製造を行
ったものではなく,リアルマッコイズ社の指示したデザインに従って製造し
たにすぎない。
()原告とリアルマッコイズ社との関係7
リアルマッコイズ社の代表取締役はAとBであったが,Aは,平成8年3
月,代表取締役を辞任し,Bがリアルマッコイズ社の経営を行うようになっ
た。
Aは,平成8年5月,原告を設立し,原告の事業を開始した。原告は,設
立当時は,バイク用ヘルメット,各種キャラクター玩具の製造販売を業とし
ており,衣料品の製造販売を業としていたリアルマッコイズ社とは,取扱商
品が異なり,法的にも経済的にも別の会社であり,事務所も異なる。
その後,リアルマッコイズ社は資金繰りが悪化し,平成13年6月18日
東京地方裁判所に民事再生手続開始の申立てを行い,同年12月19日認可
決定を得た。しかし,平成17年11月9日,東京地方裁判所により破産手
続開始決定を受けた。
リアルマッコイズ社が有していた「COMMER」との文字からなる商標
(第3150809号)に係る商標権は,平成14年12月5日,原告が譲
り受けた。
()原告等による商標登録,登録異議8
ア原告は,平成15年6月30日「コンマー」及び「CONMER」の,
文字を上下二段に横書きしてなる商標を出願し,平成16年2月20日,
登録(第4750115号)を受けた。また,原告は,平成15年7月4
日,本件商標を出願し,平成16年5月28日,登録を受けた。
リアルマッコイズ社は「McCOYCONMER」との文字からな,
る商標を出願していた。さらに,原告は「McCOYCONMAR」,
との文字からなる商標を出願した。
,「」,「」イ原告はCONMARという商標の類似商標を防ぐためコンマー
及び「CONMER」の文字を上下二段に横書きしてなる商標を出願し,
登録を受けたものであり,また,リアルマッコイズ社が平成13年6月に
営業を廃止し「CONMAR」の表示を付したファスナーの製造販売を,
停止したことから,原告はその製造販売を計画し,そのため,コンマー社
の商標どおりの綴りによる「CONMAR」との文字を含む本件商標を出
願し,登録を受けたものである。原告は,スコービル社及び被告との取引
はなく,スコービル社が「CONMAR」との文字からなる表示について
何らの権利を主張しない旨表明し,その後「CONMAR」との文字から
なる米国商標を失効させたこと,リアルマッコイズ社が,平成8年4月3
0日「COMMER」との文字からなる商標の登録を受けたことから,,
本件商標の出願には問題がないと認識していた。
「CONMAR」との表示は,リアルマッコイズ社の努力により日本に
おいて知られるようになったのであり,原告は「COMMER」との文,
字からなる商標を有するリアルマッコイズ社の承諾を得て本件商標を出願
したものである。
ウ本件商標の商標登録に対しては,平成16年8月31日,登録異議の申
立てがあったが,平成17年10月31日,商標登録を維持する旨の異議
決定がされた。
また「コンマー」及び「CONMER」の文字を上下二段に横書きし,
てなる商標(第4750115号)の商標登録に対しては,平成16年5
月25日,登録異議の申立てがあったが,平成17年9月21日,商標登
録を維持する旨の異議決定がされた。
()被告が有する商標9
スコービル社は「CONMAR」との文字からなる米国商標の使用を継,
続せず,失効させた。被告が有する「CONMAR」との文字からなる米国
,,「」商標はスコービル社とは関係のないCがスコービル社のCONMAR
との文字からなる米国商標が失効した後,同人がその商標を個人的に使用し
ていたと主張して平成13年4月16日に出願し,同年12月18日に登録
を受けたものであるから,被告はスコービル社が有していた商標を承継した
ものではない。
2結論
以上によれば,本件商標の出願は,何ら公正な取引秩序を害する意図もその
おそれもなく,社会一般の道徳観念又は国際信義に反することもない。審決が
本件商標の出願を剽窃的と認定したのは誤りである。
第4取消事由に係る被告の反論
1事実経緯
()原被告間の取引関係の有無と原告の認識1
審決は,原告がリアルマッコイズ社を原告の前身会社と自認しており,原
,,告とリアルマッコイズ社が本店所在地役員について共通していることから
原告とリアルマッコイズ社は実質的に同一であると判断し,リアルマッコイ
ズ社が「CONMAR」との文字からなる米国商標が付されたファスナーの
存在及び同米国商標の被告への帰属を知っていたことから,原告もこれらを
知っていたものと認定している。ここにいう「実質的に同一」とは,法人格
が同一であることではなく「CONMAR」との表示を付したファスナー,
。,に関する事業を行う会社として実質的に同一という意味であるしたがって
原告と被告及びスコービル社との間で取引がなかったとしても原告がC,,「
ONMAR」との文字からなる米国商標が付されたファスナーの存在及び同
米国商標の被告への帰属を知っていたという審決の認定は不自然ではなく,
誤りはない。
原告は「CONMAR」という商標の類似商標を防ぐため「コンマー」,,
及び「CONMER」の文字を上下二段に横書きしてなる商標を出願し,登
録を受けたものであり,また,リアルマッコイズ社が営業を廃止し「CO,
NMAR」の表示を付したファスナーの製造販売を停止したことから,原告
がその製造販売を計画し,そのため,本件商標を出願し,登録を受けたと主
張する。しかし,原告の上記主張は,信用しがたい。原告とリアルマッコイ
ズ社との間に連続性があることは明らかであり,原告と被告との間に形式的
にみれば取引関係がなかったとしても,そのことから,原告が何も知らなか
ったとはいえず,原告と被告との間に取引関係がなかったことは,審決の認
定の当否に影響を及ぼすものではない。
()スコービル社による商標権放棄の推定等の有無2
原告は,スコービル社が「CONMAR」との文字からなる米国商標に関
する主張を一切しないという意思を表明し,同米国商標について商標権を失
効させたと主張する。
,「」,しかしCONMARとの文字からなる米国商標が失効したとしても
「CONMAR」との表示は,その付された商品の出所が,スコービル社又
はスコービル社からファスナーに関する事業を含む資産の譲渡を受けた被告
であることを表示しており,リアルマッコイズ社はスコービル社及び被告と
取引をしていたのであるから「CONMAR」との表示がスコービル社又,
は被告について出所を表示することを知っていたはずである。したがって,
米国商標が失効したとしても,そのことから直ちに,原告が日本で「CON
MAR」との表示について商標権を取得することが正当化されるわけではな
い。
()リアルマッコイズ社による商標登録3
原告は,リアルマッコイズ社が「COMMER」との文字からなる商標の
登録を受けたことから,本件商標の出願には問題がないと理解していたと主
張する。しかし,リアルマッコイズ社の「COMMER」との文字からなる
商標の登録は,信義に反するものであって,これをもって本件商標の登録を
正当化することはできない。
原告は,リアルマッコイズ社の「COMMER」との文字からなる商標の
後4字が「NMAR」でなく「MMER」とされたのは,単純な誤記による
ものであったと主張する。しかし,原告の代表取締役であるAは,コンマー
社のファスナーについて豊富な知識を有していたこと,また,リアルマッコ
イズ社の「COMMER」との文字からなる商標は,出願のやり直しがされ
ていないばかりか,平成18年に更新登録がされていることに照らすと,単
なる誤記とはいえない。
リアルマッコイズ社は,平成5年9月6日「COMMER」との文字か,
(),,らなる商標の出願をし平成8年4月30日登録平成11年4月30日
「McCOYCONMAR」との文字からなる商標を出願して(平成12
年3月17日登録,被告の「CONMAR」との表示に類似した商標を出)
,。,,願し登録を受けているAはこれらの事情を認識しているはずであって
同人が代表取締役を務める原告が本件商標を登録することは,被告の商標を
剽窃するものであって,信義に反する行為である。
Aがリアルマッコイズ社の取締役を辞任したのは,リアルマッコイズ社が
被告との取引を停止した後の平成12年12月12日であるから,Aは,リ
アルマッコイズ社と被告との取引の経緯を認識していたはずである。
()スコービル社から被告への商標権等の譲渡4
原告は,スコービル社は「CONMAR」との文字からなる米国商標の,
使用を継続せず,失効させたものであり,被告が有する「CONMAR」と
の文字からなる米国商標は,スコービル社が有していた商標を承継したもの
ではないと主張する。
しかし,被告とスコービル社との間で締結された平成8年2月22日付け
資産譲渡契約の契約書には,スコービル社によるスライドファスナー及びス
ライドファスナー関連商品の製造に関して営業上使用されたすべての無体財
産権が被告に譲渡される旨の記載があり,被告がスコービル社からファスナ
ーに関する事業を買い受けた旨を記載した新聞記事も存在するから「CO,
NMAR」との文字からなる米国商標に係る商標権及び同米国商標を使用す
るファスナーに関する事業がスコービル社から被告に承継されたことは明ら
かである。
スコービル社は,昭和50年5月28日に「CONMAR」との文字から
なる米国商標の更新登録をしており,当時,米国において商標の更新に必要
な使用の証拠を提出していたはずである。また,スコービル社は,平成5年
の時点で「CONMAR」との表示が付されたファスナーをリアルマッコ,
,,,「」イズ社に納品し販売していたからその当時においてもCONMAR
との文字からなる米国商標を使用していたしたがってスコービル社がC。,「
」。ONMARとの文字からなる米国商標を使用していなかったとはいえない
()「CONMAR」との文字からなる米国商標の周知性5
原告の主張によっても「CONMAR」との文字からなる米国商標は,,
1950年代から1960年代にかけて米国で周知であり,リアルマッコイ
ズ社が「CONMAR」との表示を付したファスナーを日本において販売し
た後には「CONMAR」との文字からなる米国商標が日本においてもある
程度知られた存在になっていた。
したがって,本件商標の出願時(平成15年7月4日)及び登録時(平成
16年5月28日)に「CONMAR」との文字からなる米国商標がある程
度知られていたという審決の認定に誤りはない。
()リアルマッコイズ社と被告の取引6
平成10年5月15日,被告はリアルマッコイズ社に対し,ファックスに
より「CONMAR」との文字からなる米国商標の権利全体を与えること,
。,,,ができないことを伝えたこれを受けリアルマッコイズ社は同月18日
代理人であるニュージーランドの弁護士から,リアルマッコイズ社が「CO
NMAR」との文字からなる米国商標について被告から使用許諾を受ける立
場にあるという助言を受け,その旨認識していた。
リアルマッコイズ社と被告が平成10年6月15日に締結した契約の契約
(),,,書乙9には一定の事情がある場合被告がリアルマッコイズ社に対し
スライダーに関して「CONMAR」のデザイン・商標及びロゴを使用する
ための非独占的で許諾料の発生しない使用権を許諾し,この使用権の許諾が
第三者の知的財産権を侵害しないことを保証する旨の規定があり,リアルマ
ッコイズ社と被告との間で,被告が「CONMAR」との文字からなる米国
商標の使用許諾を与える立場であり,その管理責任を有することが示されて
いる。
()原告による商標登録7
原告はリアルマッコイズ社の民事再生手続終結後コンマー及びC,,「」「
ONMER」の文字を上下二段に横書きしてなる商標,本件商標及び「Mc
COYCONMAR」との文字からなる商標を出願したが,被告はこの事
実を知らなかった。
原告は,類似商標を防ぐため「コンマー」及び「CONMER」の文字,
を上下二段に横書きしてなる商標を出願したと主張する。しかし,原告が,
中心となるべき「CONMAR」との文字からなる商標よりも先に上記商標
を出願をしていること,リアルマッコイズ社が平成11年に「McCOY
CONMER」との文字からなる商標の出願をしていることに照らして,原
告の上記主張は,信用しがたい。
原告が本件商標の登録を受けることは,信義に反する行為であり「CO,
NMAR」との文字からなる商標が日本において商標登録されていないこと
を奇貨として,被告に無断で剽窃的に権利取得を行い,被告の日本国内への
参入を阻止しているものである。
()被告が有する商標8
被告は,Cが登録したもの以外にも「CONMAR」との文字からなる,
米国商標に係る商標権を有している。
2結論
以上によれば,リアルマッコイズ社と実質的に同視し得る原告は「CON,
MAR」との文字からなる米国商標が被告に帰属していることを知りながら,
「CONMAR」との文字からなる商標が日本で登録されていないことを奇貨
として,剽窃的に商標登録を受け,被告の日本国内への参入を阻止しており,
本件商標に法4条1項7号の無効事由があると判断した審決には,何ら違法は
ない。
第5当裁判所の判断
1法4条1項7号に該当するとした審決の認定,判断の当否
被告は,法4条1項7号,10号,15号,19号に該当することを理由と
して,本件商標の無効審判請求をした。これに対して,審決は,本件商標が法
4条1項7号に該当する商標について登録されたものであるから,法46条1
項の無効理由が存在すると判断した。すなわち,審決は,原告が「CONM,
AR」との文字からなる米国商標が被告の商標であることを認識していたにも
かかわらず「CONMAR」との文字からなる商標が日本において商標登録,
されていないことを奇貨として,被告に無断で剽窃的に,スライドファスナー
を含む「ボタン類」を指定商品として本件商標を出願し,登録を受け,ひいて
は被告の日本国内への参入を阻止しているものであり,そうすると,本件商標
の登録を認めることは,公正な取引秩序を乱し,社会一般の道徳観念ないしは
国際信義に反し,公の秩序を害するものであるから,本件商標は法4条1項7
号に該当すると判断した。
しかし,当裁判所は,審決が認定した事実の下において,少なくとも法4条
1項7号に該当するとした点には誤りがあり,審決は取り消すべきものと判断
する。
以下,この点について述べる。
()法4条1項7号について1
商標法は「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」につい,
て商標登録を受けることができず,また,無効理由に該当する旨定めている
(法4条1項7号,46条1項1号。法4条1項7号は,本来,商標を構)
成する「文字,図形,記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこ
れらと色彩との結合(標章)それ自体が公の秩序又は善良な風俗に反する」
ような場合に,そのような商標について,登録商標による権利を付与しない
ことを目的として設けられた規定である(商標の構成に着目した公序良俗違
反。)
ところで,法4条1項7号は,上記のような場合ばかりではなく,商標登
録を受けるべきでない者からされた登録出願についても,商標保護を目的と
する商標法の精神にもとり,商品流通社会の秩序を害し,公の秩序又は善良
,,な風俗に反することになるからそのような者から出願された商標について
登録による権利を付与しないことを目的として適用される例がなくはない
(主体に着目した公序良俗違反。)
確かに,例えば,外国等で周知著名となった商標等について,その商標の
付された商品の主体とはおよそ関係のない第三者が,日本において,無断で
商標登録をしたような場合,又は,誰でも自由に使用できる公有ともいうべ
き状態になっており,特定の者に独占させることが好ましくない商標等につ
いて,特定の者が商標登録したような場合に,その出願経緯等の事情いかん
によっては,社会通念に照らして著しく妥当性を欠き,国家・社会の利益,
すなわち公益を害すると評価し得る場合が全く存在しないとはいえない。
しかし,商標法は,出願人からされた商標登録出願について,当該商標に
ついて特定の権利利益を有する者との関係ごとに,類型を分けて,商標登録
を受けることができない要件を,法4条各号で個別的具体的に定めてている
から,このことに照らすならば,当該出願が商標登録を受けるべきでない者
からされたか否かについては,特段の事情がない限り,当該各号の該当性の
有無によって判断されるべきであるといえる。すなわち,商標法は,商標登
録を受けることができない商標について,同項8号で「他人の肖像又は他人
の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号,芸名若しくは筆名若しくはこれら
の著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く」と規定。)
し,同項10号で「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとし
て需要者の間に広く認識されている商標・・・と規定し同項15号で他」,「
人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標・・・」と規
定し,同項19号で「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして
日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は
類似の商標であって,不正の目的・・・をもって使用をするもの・・・」と
規定している。商標法のこのような構造を前提とするならば,少なくとも,
これらの条項(上記の法4条1項8号,10号,15号,19号)の該当性
の有無と密接不可分とされる事情については,専ら,当該条項の該当性の有
無によって判断すべきであるといえる。
また,当該出願人が本来商標登録を受けるべき者であるか否かを判断する
に際して,先願主義を採用している日本の商標法の制度趣旨や,国際調和や
不正目的に基づく商標出願を排除する目的で設けられた法4条1項19号の
趣旨に照らすならば,それらの趣旨から離れて,法4条1項7号の「公の秩
序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによ
って商標登録出願を排除することは,商標登録の適格性に関する予測可能性
及び法的安定性を著しく損なうことになるので,特段の事情のある例外的な
場合を除くほか,許されないというべきである。
そして,特段の事情があるか否かの判断に当たっても,出願人と,本来商
標登録を受けるべきと主張する者(例えば,出願された商標と同一の商標を
既に外国で使用している外国法人など)との関係を検討して,例えば,本来
商標登録を受けるべきであると主張する者が,自らすみやかに出願すること
が可能であったにもかかわらず,出願を怠っていたような場合や,契約等に
よって他者からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかか
わらず,適切な措置を怠っていたような場合(例えば,外国法人が,あらか
じめ日本のライセンシーとの契約において,ライセンシーが自ら商標登録出
願をしないことや,ライセンシーが商標登録出願して登録を得た場合にその
登録された商標の商標権の譲渡を受けることを約するなどの措置を採ること
ができたにもかかわらず,そのような措置を怠っていたような場合)は,出
願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめ
ぐる問題は,あくまでも,当事者同士の私的な問題として解決すべきである
から,そのような場合にまで「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事,
情がある例外的な場合と解するのは妥当でない。
以下,上記の観点から,審決を検討する。
()審決の理由について2
ア審決の事実認定及び判断の内容
審決の事実認定及び判断の内容は,次のとおりである。
(ア)「CONMAR」の文字からなる米国商標は,もともとは米国のコ
ンマー社が,その製造販売するファスナーに使用していたものであり,
コンマー社のファスナーは,第二次世界大戦以降,米軍用フライトジャ
ケットに多く採用され,1950年,60年代においては,米軍用フラ
イトジャケットのファスナーにおいて大きなシェアを占めていた。その
後コンマー社は廃業し「CONMAR」の文字からなる米国商標は,,
スコービル社に承継された。
,,被告は昭和11年に米国で設立されたファスナーの製造会社であり
当該分野で世界第2位の規模を有しており,9か国に営業所を有してい
る。被告は,平成8年にスコービル社を吸収合併し,その際にスコービ
ル社から「CONMAR」の文字からなる米国商標を承継したが,同米
国商標は,同年3月失効した。その後,被告は「CONMAR」の文,
字からなる米国商標を,ファスナーについて取得した。
米国及び日本にはフライトジャケットの愛好者がおり,専門業者や専
門誌が存在し,古着の米軍用フライトジャケットや米軍用フライトジャ
ケットを復刻したものなどが取引されている。ファスナーは,フライト
ジャケットの製造年代やモデルを識別するための重要な手がかりとなる
ため,フライトジャケットの取引に当たっては,ファスナーのブランド
を明記する場合が多い。
(イ)リアルマッコイズ社は,服飾類の販売等を目的とする株式会社であ
り,平成14年に解散しているが,その本店所在地は,原告の従前の本
店所在地と同一であり,原告の代表取締役であるA,原告の取締役であ
ったBは,いずれもリアルマッコイズ社の取締役,代表取締役であった
ことがある。
リアルマッコイズ社は,平成4年末から平成7年末にかけてスコービ
ル社との間で「CONMAR」との表示を付したファスナーの製造委,
託について交渉した。被告は,平成10年から平成12年にかけて,リ
アルマッコイズ社との間で「CONMAR」との表示を付したファス,
ナーについて商談を行い「CONMAR」との表示を付したファスナ,
ーをリアルマッコイズ社に供給した。
,「」,(ウ)上記の事実によればCONMARの文字からなる米国商標は
本件商標の登録出願時である平成15年7月の時点において,既に米国
のみならず日本においても,フライトジャケットの分野においてある程
度知られた存在になっていた。そうすると,リアルマッコイズ社がスコ
ービル社との間で「CONMAR」との表示を付したファスナーの製,
造委託について交渉し,更にその後被告と商談を行い,被告から「CO
NMAR」との表示を付したファスナーの供給を受けたのは「CON,
MAR」の文字からなる米国商標が付されたファスナーが存在すること
及び同米国商標が被告に帰属することを知っていたためと推認される。
原告は,リアルマッコイズ社を原告の前身会社として自認しており,
原告とリアルマッコイズ社が本店所在地,役員において共通しているこ
とから,原告とリアルマッコイズ社は実質的に同一といい得るのであっ
て,リアルマッコイズ社が「CONMAR」の文字からなる米国商標が
付されたファスナーの存在及び同米国商標の被告への帰属を知っていた
ことからすると,原告もこれらを知っていた。
(エ)以上を総合すると,原告は「CONMAR」との文字からなる米,
国商標が被告の商標であることを認識しながら「CONMAR」との,
文字からなる商標が日本において商標登録されていないことを奇貨とし
て,被告に無断で剽窃的に,スライドファスナーを含む「ボタン類」を
指定商品として本件商標を出願し,登録を受け,ひいては被告の日本国
内への参入を阻止しているものであり,そうすると,本件商標の登録を
認めることは,公正な取引秩序を乱し,社会一般の道徳観念ないしは国
際信義に反し,公の秩序を害するものであるから,本件商標は法4条1
項7号に該当する。
イ審決の認定,判断の当否
しかし,本件商標が法4条1項7号に該当するとした審決の判断には,
以下のとおり,誤りがあると解する。
すなわち,確かに,リアルマッコイズ社は,平成4年末から平成7年末
にかけてスコービル社との間で「CONMAR」との表示を付したファ,
,,,スナーの製造委託について交渉したことそしてリアルマッコイズ社は
平成10年から平成12年にかけて,被告から「CONMAR」との表示
を付したファスナーの供給を受けたことからリアルマッコイズ社はC,,「
ONMAR」との米国商標が被告に帰属したとの事実を認識していたと推
認される事情があったと解される。
しかし,①原告と被告との間の紛争は,本来,当事者間における契約や
交渉等によって解決,調整が図られるべき事項であって,一般国民に影響
を与える公益とは,関係のない事項であること,②本件のような私人間の
紛争については,正に法4条1項19号が規定する「他人の業務に係る商
品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に
広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的・・
・をもって使用をするもの・・・」との要件への該当性の有無によって判
断されるべきであること,③被告が米国において有している商標権は,あ
くまでも私権であり,被告がそのような権利を有したからといって,原告
が,日本において,同商標と類似又は同一の商標に係る出願行為をするこ
とが,当然に「公の秩序又は善良な風俗を害する」という公益に反する事
情に該当するものとは解されないこと,④被告は,スコービル社から承継
した「CONMAR」との文字からなる米国商標(第324689号)に
,,,,係る商標権については平成8年3月更新せずに消滅させておりまた
ファスナーについて「CONMAR」との文字からなる米国商標の登録を
平成13年12月に受けた者から,同米国商標に係る商標権の譲渡を受け
ているなどの事情があり,その子細は必ずしも明らかでないこと,⑤審決
において,原告が本件商標の登録を受けたことは認定されているが,それ
を超えて原告が被告の日本国内への参入を阻止していることを基礎づける
,,,具体的な事実は何ら認定されていないこと⑥原告の本件商標の出願は
,,,後記認定のとおり法4条1項19号に該当するのみならず同項10号
15号にも該当する事由が存在するといえること等を総合すると,本件に
,「」ついて原告の出願に係る本件商標が公の秩序又は善良な風俗を害する
とした審決の判断には,誤りがあるというべきである。
したがって,本件商標に法4条1項7号所定の無効事由があるとした審
決は取り消すべきものと判断する。
2付加的判断
当裁判所は,被告が,法4条1項7号,10号,15号,19号に該当する
ことを理由として,本件商標の無効審判請求をしたのに対し,審決が法4条1
項7号に該当するとの判断をした点において,誤りがあると解するものである
が,本件紛争のすみやかな解決に資するため,以下のとおり付加して判断を示
すこととする。
()事実認定1
ア「CONMAR」との表示の由来と周知性
(ア)コンマー社による米国商標の登録
甲23(原告が特許庁審査官に対して平成16年3月3日に提出した
),「」意見書のうちの添付資料及び弁論の全趣旨によればCONMAR
の文字からなる米国商標(第324689号)は,もともとは米国のコ
ンマー社が,その製造販売するファスナーに使用していたものであり,
昭和10年5月28日に登録されたことが認められる。乙6によれば,
上記米国商標は,昭和50年5月28日に第2回更新が行われたことが
認められる。
(イ)インターネットにおけるコンマー社製ファスナーの紹介等
a甲10は,平成18年8月24日ころインターネットに掲載されて
いたMASH−JAPAN作成のコンマー社のファスナーの紹介記事
であり「WWⅡ時,軍用ファスナーにおけるTALONのシェアを,
仮に50%とすると後の50%をCONMARとCROWNが二分し
た感がある。WWⅡ時のシェアにおいてTALONに遅れを取ったC
ONMARではあったが,50年代,60年代のAFフライトジャケ
ットに関しては,このメーカーのブラックフィニッシュ・ファスナー
が多用され,多くのフライトジャケットファンには馴染み深いメーカ
ーである」と記載されており,コンマー社の5種類のファスナーの。
写真が掲載されている。
b甲11は,平成18年8月24日ころインターネットに掲載されて
いた有限会社レッドクラウド作成のファスナーの紹介記事であり,米
国のファスナーの各製造メーカーについて説明が記載されており,各
メーカーのファスナーの引き手の写真が多数掲載されている。このう
ち「CONMAR」については,1930年代後半よりA−2など,
フライトジャケットに多く採用され,1950から1960年代頃に
は約70%ものシェアを誇っていた旨が記載されている。
c甲13は,平成16年8月16日ころインターネットに掲載されて
いたゴールドラッシュ作成の古着の米軍用フライトジャケットの販売
記事であり,販売対象とされている各フライトジャケットについて,
写真,商品名,サイズ,状態とコメント,価格が記載されており,状
態とコメントの欄に,ファスナーのメーカーが記載されているものが
多く,コンマー社製のファスナーを使用したものも相当数掲載されて
いる。
d甲14は,平成18年8月24日ころインターネットに掲載されて
いたF.J.VECK作成のフライトジャケットの紹介記事であり,
リアルマッコイズ社が米軍用フライトジャケットを復刻した製品が紹
介されており,その中に「フロントジッパーは合衆国連邦規格V−,
F−106に合格した大型のコンマージッパー」とあり,コンマー社
のファスナーを使用していることが掲載されている。
e甲15は,平成16年8月17日ころインターネットに掲載されて
いたウォルフローブ作成の古着の米軍用フライトジャケットの販売記
事であり,販売対象とされている各フライトジャケットについて,商
品名,製造年,サイズ,状態,価格の他,使用されているファスナー
の製造会社が記載されており,コンマー社製のファスナーを使用した
ものも相当数掲載されている。
f甲16は,平成18年8月24日ころインターネットに掲載されて
いたShinjiNoki作成のフライトジャケットの紹介記事で
あり,リアルマッコイズ社が米軍用フライトジャケットを復刻した製
品が紹介されており,その中に「そして忘れてはならないのが,黄,
金色に光るCONMARジッパー」とあり,コンマー社のファスナー
を使用していることが掲載されている。
g甲17は,平成16年8月17日ころインターネットに掲載されて
いたジーンズのズボンの紹介記事であり,コンマー社のファスナーを
使用していることが掲載されている。
h甲18は,平成18年8月24日ころインターネットに掲載されて
いた,リアルマッコイズ社が販売しているフライトジャケットの一覧
表であり,各商品について,品名,材質,色などの他,ファスナーの
メーカーが記載されており,コンマー社製のファスナーを使用したも
のも相当数掲載されている。
i甲19は,平成18年8月24日ころインターネットに掲載されて
いたMASH−JAPAN作成のコンマー社のファスナーの紹介記事
であり,第二次世界大戦から1960年代にかけての時期に製造され
たとされる8種類のコンマー社製のファスナーについて,その写真と
ともに,品名,基本長さ,価格などが掲載されている。
j甲20は,平成18年8月24日ころインターネットに掲載されて
いたIZUMIYA作成の補修部品(Repairparts)と
してのファスナーの紹介記事であり,取り扱っているファスナーのメ
ーカーとして,TALON,CROWN,GRIPPER,YKK,
WALDES,ORIGINALなどの他,CONMARが記載され
ている。
(ウ)コンマー社製ファスナーの写真
甲9(コンマー社製ファスナーの写真)によれば,コンマー社製のフ
ァスナーの中には,引き手に「CONMAR」との表示を付したものが
あったことが認められる。
(エ)フライトジャケットのカタログ
甲12は,成美堂出版が平成8年12月及び平成10年12月に発行
した「フライトジャケットカタログ」と題するカタログ(単行本,ソフ
トカバー)の表紙の写しである。
平成8年12月発行のカタログの表紙には,題名の他「定番モデル,
から超最新作までメーカー別に一挙大公開!!」と記載され,メーカー
等の表示として「AVIREX/ALPHA/EVIS/C.A.B/
C.C.MASTERS/NAKATASHOTEN/BUZZR
ICKSON’S/THEREALMcCOY’S/MASH」と
記載されている。また「INTERVIEW「魅力を語る!」とい,」,
う見出しの下に「バックペイント・アーティスト(ザ・リアルマッコ,
イズ・・・」と記載されている。)
平成10年12月発行のカタログの表紙には,題名の他「FLIG,“
HTJACKETOFTHEYEAR「’99シーズンの”」,
トピックス」と記載され,メーカー等の表示として「TOYOENT
ERPRISE/THEREALMcCOY’S/Pherrow
’s/AVIREXUSA/NAKATASHOTEN」と記載さ
れている。
上記の「THEREALMcCOY’S「ザ・リアルマッコイ」,
ズ」とは,リアルマッコイズ社を指すものと推認される。
(オ)「CONMAR」との表示の由来と周知性
,,,a以上によれば①コンマー社のファスナーは第二次世界大戦以降
米軍用フライトジャケットやジーンズに使用され,1950年代,6
0年代には,一説によれば米軍用フライトジャケットのファスナーに
ついて約70%のシェアを有していたといわれるほど多く使用されて
いたこと,②遅くとも「フライトジャケットカタログ」と題するカタ
ログ(甲12)が発行された平成8年ころまでには,日本において,
フライトジャケットについて,愛好家等による市場が成立し,古着の
米軍用フライトジャケットや米軍用フライトジャケットを復刻したも
のの取引が行われ,それらの取引業者が複数存在したこと,③日本に
おいても市場が成立していたことからして,米軍用フライトジャケッ
トが製造,使用された本国ともいうべき米国においても,平成8年よ
り前にフライトジャケットについて愛好家等による市場が成立してい
たこと,④フライトジャケットについて,ファスナーは注目される部
分の一つであり,フライトジャケットの取引において,どのメーカー
のファスナーが使用されているかを明示することが多いこと,⑤補修
部品等としてファスナーだけの取引も行われていること,⑥コンマー
社製のファスナーの中には,引き手に「CONMAR」との表示を付
したものがあったこと,⑦遅くとも日本においてフライトジャケット
の市場が成立していた平成8年ころから現在に至るまで「CONM,
AR」との表示は,コンマー社及びそのファスナーに関する事業を引
き継いだ者のファスナーを表示するものとして,日本国内及び米国に
おいて,それらのファスナーの需要者であるフライトジャケットの取
引業者や愛好家等の間で広く知られていることが認められる。
b原告は,日本においては,リアルマッコイズ社が「CONMAR」
との表示が付されたファスナーを製造販売するまでは,ファスナー自
体が注目されることはなく「CONMAR」との文字からなる米国,
商標は全く知られておらず,日本において米軍用フライトジャケット
の復刻版の市場を作ったのはリアルマッコイズ社であった旨主張す
る。
確かに,甲12のカタログ表紙の記載や後記乙15の記載からする
と,リアルマッコイズ社及び原告は,日本のフライトジャケットの主
立った業者に含まれ,市場形成に寄与しており,リアルマッコイズ社
及び原告の営業活動を通じて日本における「CONMAR」との表示
の周知性が高まった面のあることは認められる。しかし,そうである
としても,それによって「CONMAR」との表示がコンマー社及,
びそのファスナーに関する事業を引き継いだ者のファスナーを表示す
るものとして広く知られていたことが否定されるものではない。
イコンマー社の廃業とスコービル社による承継
甲22,甲23のうちの添付資料及び弁論の全趣旨によれば,コンマー
社は廃業し,その事業及び商標権をスコービル社が承継したこと,そのた
め「CONMAR」との文字からなる米国商標(第324689号)に,
係る商標権もスコービル社が承継したことが認められる。
ウ被告によるスコービル社からの商標,事業等の承継
(ア)スコービル社と被告の間の資産譲渡契約
a乙4は,平成8年2月22日付けのスコービル社と被告との間にお
ける資産買取に関する契約の契約書であり,弁論の全趣旨によれば,
この契約書は,同日に米国ジョージア州法を準拠法として効力が生じ
たことが認められる(以下,この契約を「資産譲渡契約」という。。)
b乙4には,次のとおり記載されている。
「1.定義」の項には「営業”は,ジッパー及びジッパー関連商,“
品の製造に関する売主の営業を意味する」と記載されている(ジッ。
パーとは,スライドファスナーの意味である。。)
「2.1資産売買」のうちの「2.1.2」の項の本文には「以,
下に販売される資産は,売主によって所有されていた資産及び権利の
全てであり,営業上使用されていたものである。限定的な意味ではな
,。」,「..」()いが以下を含んでいると規定され212のうちのh
の項には,売買の対象となる知的財産権として「営業上使用された,
全ての無体財産権及びこの無体財産権に関連した業務上の信用「業」,
務上独占的に用いられていた全ての・・・商標・・・「国内外で登」,
録又は未登録の全ての登録及び出願「及び全ての商標及び特許,よ」,
り特筆すると,添付F−1に示されているものを含む。そして,添付
F−2に示された追加商標については,売主は全ての商標が購買者の
名義となるよう移転手続を行うことに完全に協力する」と記載され。
ている。
そして,乙4の添付F−2には,カナダで登録された「CONMA
R」との文字からなる商標が記載されている。
(イ)被告のカタログの記載
甲5(被告のカタログ)によれば,被告は,昭和11年に米国で設立
されたスライドファスナーの製造会社であり,当該分野で世界第2位の
規模を有しており,9か国に営業所を有することが認められる。
甲5には,被告が平成8年にスコービル社から「Scovill」,
の表示を付したファスナーの事業及び「Conmar」の表示を付した
ファスナーの事業を取得した旨記載されている。
(ウ)インターネット上の新聞記事
乙4の3(インターネット上の新聞記事)によれば,被告がスコービ
ル社からファスナーに関する事業を買い受けたことその買受けはG,,「
RIPPER」や「CONMAR」の商標を使用して製造されてきたフ
ァスナーの機械設備を含むことなどが,インターネット上の新聞記事に
おいて公開されたことが認められる。
(エ)被告によるスコービル社からの商標及び事業の承継
前記イのとおり,スコービル社は「CONMAR」との文字からな,
る米国商標に係る商標権をコンマー社から承継したこと,後記オ(ア)の
とおり,スコービル社は,平成5年から平成7年にかけて「CONMA
R」との表示を付したファスナーを製造してリアルマッコイズ社に販売
し「CONMAR」との文字からなる米国商標を使用していたといえ,
ることからすれば資産譲渡契約を締結した当時スコービル社はC,,,「
ONMAR」との文字からなる米国商標に係る商標権を有していたもの
と認められる。
,,,そして前記(ア)の資産譲渡契約の文言前記(イ)の被告のカタログ
新聞記事の記載を考慮し,後記オ(イ)のとおり,被告が平成10年から
平成12年にかけてリアルマッコイズ社と「CONMAR」との表示を
付したファスナーの取引を行っており,後記カのとおり,被告が,平成
14年から平成16年にかけて,中国の企業に「CONMAR」との表
示を付したファスナーを販売していたことをも考慮すると,被告は,資
産譲渡契約に基づきスコービル社からファスナーに関する事業C,,(「
ONMAR」との文字からなる米国商標(第324689号)を使用す
る事業を含む,及び「CONMAR」との文字からなる米国商標(第)
324689号)に係る商標権を承継したものと認められる。
(オ)米国商標に係る商標権の消滅等
,,,a甲22甲23のうちの添付資料乙6及び弁論の全趣旨によれば
被告がスコービル社から承継した「CONMAR」との文字からなる
米国商標(第324689号)に係る商標権は,平成8年3月4日,
更新されずに消滅したことが認められる。
甲6(米国特許商標庁の公開商標公報)によれば,Cは,平成13
年12月18日,ファスナーについて「CONMAR」との文字から
なる米国商標(第2520055号)の登録を受け,被告は,この商
標に係る商標権の譲渡を受けたことが認められる。
乙12(米国特許商標庁の登録原簿)によれば,被告は,平成17
年3月22日,スライドファスナーについて「CONMAR」との文
字からなる米国商標(第2935032号)の登録を受けたことが認
められる。
このように,被告が現在有する「CONMAR」との文字からなる
米国商標(第2520055号,第2935032号)に係る商標権
は,コンマー社からスコービル社を経て承継されたものそれ自体では
なく,被告がCから譲渡を受け,又は被告が新たに登録を受けたもの
である。
bしかし,後記オ(ア)のとおり,スコービル社は平成5年から平成7
年にかけてリアルマッコイズ社と「CONMAR」との表示を付した
ファスナーの取引を行っており,後記オ(イ)のとおり,被告は平成1
0年から平成12年にかけてリアルマッコイズ社と「CONMAR」
との表示を付したファスナーの取引を行っていた。また,後記カのと
おり被告は平成14年から平成16年にかけて中国の企業にC,,,「
ONMAR」との表示を付したファスナーを販売していた。
したがって,被告がスコービル社から承継した米国商標(第324
689号)に係る商標権が消滅し,被告が新たに「CONMAR」と
(,)の文字からなる米国商標第2520055号第2935032号
の譲渡,登録を受けたものであることを考慮しても,スコービル社と
被告の間の資産譲渡契約が締結された平成8年から現在に至るまで,
ファスナーについて「CONMAR」との表示は,コンマー社及び,
そのファスナーに関する事業を引き継いだ被告を出所として表示する
ものであったと認められる。
エリアルマッコイズ社,原告及び原告代表者
(ア)リアルマッコイズ社について
甲78ないし80によれば,リアルマッコイズ社は,服飾類の卸売・
小売,玩具の製作・販売等を目的として,昭和63年6月22日,設立
され,設立時の商号は「株式会社ハリオス.コー.ジヤパン」であり,
平成8年6月22日「株式会社ザ・リアルマッコイズ・ジャパン」に,
商号変更し,同月24日,その旨登記されたこと,Aは,遅くとも平成
7年ころからリアルマッコイズ社の取締役になり,代表取締役に就任し
た時期もあったこと,リアルマッコイズ社は,平成13年7月2日,東
京地方裁判所の再生手続が開始し,平成14年1月24日,再生計画認
可決定が確定したが,同年8月8日解散し,同年9月13日,再生手続
が終結したこと,その後,平成17年11月9日,破産手続が開始し,
平成19年3月22日,破産手続が終結したことが認められる。
(イ)原告について
甲53,甲78によれば,原告は,人形の販売,服飾雑貨の製造等を
目的として,平成8年5月15日設立され,設立時の商号は「有限会社
トイズ・マッコイ」であり,平成14年2月19日,現商号に変更し,
同日,その旨登記されたこと,原告は,当初は,リアルマッコイズ社の
本店所在地(東京都渋谷区代官山町7番5号)を本店所在地としていた
が,平成14年2月19日,本店所在地を現在の場所へ移転したこと,
原告の取締役はAの他1名であり,原告の代表取締役はAが務めている
こと,原告の代表取締役であるA,原告の取締役であったBは,いずれ
,。もリアルマッコイズ社の取締役代表取締役であったことが認められる
また,乙15の記載によれば,原告は,フライトジャケットや,ファス
ナーなどフライトジャケットの構成部材の取引を行っていることが認め
られる。
(ウ)原告代表者について
乙15は「TOYSMcCOY」と題する書籍,PERFECTBOOK
平成19年2007年秋・冬号の表紙及びその抜粋であるT(())(「
OYSMcCOY」とは原告を指す。乙15の表紙には,その題名。)
の他Aの世界を徹底的に追及した一冊!と記載され抜粋中のO,「」,「
LDBUTGOLD」と記載された頁には,原告代表者であるAが
フライトジャケット等のファンであり,多数のフライトジャケットを収
集し,それらをもとに原告の製品が誕生することなどが記載され,収集
品である多数のフライトジャケットに囲まれたAの写真が掲載されてい
る。
原告代表者であるAは,フライトジャケットやその構成部材であるフ
ァスナーについて深い知識を持ち,リアルマッコイズ社及び原告におい
て,中心的な立場で,フライトジャケットやその構成部材であるファス
ナーの取引を行うとともに,リアルマッコイズ社とスコービル社・被告
との取引,ボタン類(ファスナーを含む)等を指定商品とする商標登録
などに関与していたと推認される。
オリアルマッコイズ社とスコービル社及び被告との取引
(ア)リアルマッコイズ社とスコービル社との取引
a甲63(取消理由通知に対する原告作成の意見書)及び弁論の全趣
旨によれば,リアルマッコイズ社とスコービル社との間の客観的な取
引の経過について,①リアルマッコイズ社は,平成4年末からスコー
ビル社との交渉を開始し,スコービル社に対し「CONMAR」と,
の表示が付されたファスナーの製造を要請したが,スコービル社は,
新たに金型を製造することは費用倒れになるとして製造依頼を拒否し
たこと,②リアルマッコイズ社は,平成5年春ころ,スコービル社の
ファスナーの中にコンマー社のファスナーとスライダーの形状が近い
(),,ものスコービル社の№5があるのを発見しスコービル社に対し
スコービル社が№5のファスナーにリアルマッコイズ社の指示どおり
に「CONMAR」の文字を刻印して「CONMAR」との表示を付
したファスナーを製造することを提案し,スコービル社は同提案を承
諾したこと,③リアルマッコイズ社は,この合意に基づいて,スコー
ビル社に対し「CONMAR」の文字のデザインや表示位置等を示,
,,「」した図面を送付しスコービル社はそれに基づいてCONMAR
,,との表示を付したファスナーを製造しリアルマッコイズ社に納入し
販売したこと,④平成7年の夏,スコービル社がファスナーの製造を
中止したため,リアルマッコイズ社とスコービル社の取引は終了した
ことが認められる。
bこれに対して,原告は,スコービル社又は被告は,リアルマッコイ
ズ社又は原告が日本において「CONMAR」との表示又はこれに類
似する表示について商標登録することについて何ら異議を述べる意思
がないことを表明していたと主張し,甲63を提出する。
しかし,前記aのとおり,リアルマッコイズ社は,スコービル社と
の間で「CONMAR」との表示を付したファスナーの取引を行っ,
ていたものであり,後記(イ)のとおり,リアルマッコイズ社は,スコ
,「」ービル社がファスナーの製造を中止した後も被告とCONMAR
との表示を付したファスナーの製造に関して交渉を行い,被告から購
入する「CONMAR」との表示を付したファスナーを販売する限り
において「CONMAR」との表示を使用する非独占的な使用権を許
諾され,平成10年から平成12年にかけて被告と「CONMAR」
との表示を付したファスナーの取引を行い,また,被告は,後記カの
とおり,平成14年から平成16年にかけて,中国の企業に「CON
MAR」との表示を付したファスナーを販売していたものである。
上記事実に照らすと,スコービル社又は被告が,リアルマッコイズ
社等による「CONMAR」との表示の使用に対して権利行使を一切
しないことを表明したとは認められないし,権利行使をする意思がな
いとも認められない。また,スコービル社又は被告が,リアルマッコ
イズ社又は原告が日本において「CONMAR」との表示又はこれに
類似する表示について商標登録することについて何ら異議を述べる意
思がないことを表明したとは認められない。
(イ)リアルマッコイズ社と被告との取引
a被告がスコービル社との間で資産譲渡契約を締結した後の平成8年
12月ころから,リアルマッコイズ社は,被告との間で取引を行うた
めの交渉を開始した(弁論の全趣旨。)
リアルマッコイズ社は,平成10年には,被告との間で「CON,
MAR」との表示を付した№5のファスナー(リアルマッコイズ社が
スコービル社から供給を受けていたのと同様のもの)について契約を
締結するための交渉を行った(甲24,甲55ないし61,乙7。)
その交渉の過程で被告がリアルマッコイズ社に宛てたファックス(平
成10年5月15日付け)には「5月7日の貴信及び貴殿の代理人,
レポートについて,我々は,6.1項に述べられた内容について同意
します。我々は6.2項に述べられた条件についても同意します。し
かしながら,CONMAR商標について全体的な権利を貴社に付与で
きない理由は,ご承知のとおり,我々はCONMAR商標をビンテー
ジタイプではなく,他のタイプのスライダーについて使用しているた
めです。そのため,それらの権利を認めると貴社と混同が生じること
になるでしょう。しかし,貴社の代理人であるD氏が手紙中の6項で
示された点は,我々にとって同意できるものです」と記載されてい。
た(乙7。)
bリアルマッコイズ社の代理人D(ニュージーランドの弁護士)が,
同社に宛てたファックスには「案文における問題は,彼らがCON,
MAR商標を他のジッパーに使用しているため,貴社に全体的な権利
をあげることに賛成できないことだと述べている(彼ら」とは被。」「
告を指し「貴社」とはリアルマッコイズ社を指す「しかし,我,。),
々は,CONMAR商標について非独占的であることを基準として,
。,,案文を作成していましたこの意味はアイディアルファスナー社は
CONMAR商標をいかなる場所でも使用できるというものでした。
もし,アイディアルファスナー社が非独占使用権を貴社に付与するこ
,..とを惜しまないのであれば我々の前のファクシミリの61及び6
2項にある我々によって提案された条文は必要ないです」と記載さ。
れていた(乙8。)
cリアルマッコイズ社と被告は,平成10年6月15日,ファスナー
のスライダー金型の設計,製造等に関する契約を締結した。同契約に
おいては,リアルマッコイズ社が被告にスライダー金型の設計,工作
及び製造を委託し,被告がその金型を使用してファスナーを製造する
ことなどが定められた。同契約書には「アイディアルファスナー社,
は,リアルマッコイズ社に『Conmar』のデザイン・標章及び,
ロゴをスライダーダイズに使用するための,非独占的で使用料の無い
使用権を付与する。かかる使用権は,スライダーダイズの生産作業を
持続するためのものである。アイディアルファスナー社は,かかる使
用権許諾が,第三者の知的財産権を侵害しないことを保証する」。
(4.スライダーダイズの管理」の項末尾)と記載されていた(乙「
9。)
d上記aないしcの事実によれば,リアルマッコイズ社は,被告との
間で,被告から購入する「CONMAR」との表示を付したファスナ
ーを販売する限りにおいて「CONMAR」との表示を使用する非独
占的な使用権を許諾されたものと認められる。
e甲25ないし31(被告のリアルマッコイズ社宛ての請求書,甲)
32(CONMAR」の表示を付したファスナーの写真)及び弁論「
の全趣旨によれば,被告は,上記契約に基づき,平成11年5月から
平成12年6月まで「CONMAR」との表示を付したファスナー,
をリアルマッコイズ社に販売し,納入したことが認められる。なお,
AUSTRCONOBAUSTIRCON甲25ないし31の品名欄の「7「」,
7」という記載は「CONMAR」との表示が付されたファスナBS,
ーを意味するものと認められる。
カ被告による「CONMAR」との文字からなる米国商標の使用
甲33ないし52(被告作成のインボイス)によれば,被告は,平成1
4年から平成16年にかけて,中国の企業に「CONMAR」との表示を
付したファスナーを販売していたことが認められる。
キリアルマッコイズ社及び原告による商標登録
(ア)リアルマッコイズ社による商標登録
リアルマッコイズ社は,平成5年9月6日「COMMER」との文,
字からなる商標を,商品の区分を第26類,指定商品を「ボタン類」等
として出願し,平成8年4月30日,登録(第3150809号)を受
けた(甲81(第1商標権目録番号12,乙2。リアルマッコイズ社))
は,平成11年4月30日「McCOYCONMER」との文字か,
らなる商標を,商品の区分を第26類,指定商品を「ボタン類」として
出願し,平成12年3月17日,登録(第4368983号)を受けた
(甲81(第1商標権目録番号21,乙3。リアルマッコイズ社は,))
これらの事実を被告に告げず,被告も,上記各商標の出願,登録を知ら
なかった。
(イ)リアルマッコイズ社から原告への商標権の譲渡
前記(ア)の各商標については,平成14年12月5日,リアルマッコ
((,イズ社から原告へ移転登録がされた甲81第1商標権目録番号12
21。))
前記エ(ア)のとおり,リアルマッコイズ社については,平成17年1
1月9日,破産手続が開始された。破産手続において,リアルマッコイ
ズ社破産管財人は,平成18年12月22日,原告との間で,原告が前
(,記(ア)の各商標の商標権者であることを認める旨の合意をした甲81
6条()。1)
(ウ)原告による商標登録
原告は,平成15年6月30日「コンマー」及び「CONMER」,
の文字を上下二段に横書きしてなる商標を出願し,平成16年2月20
日,登録(第4750115号)を受けた(弁論の全趣旨。原告は,)
平成15年7月4日,本件商標を,商品の区分を第26類,指定商品を
「ボタン類」として出願し,平成16年5月28日,登録を受けた。原
告は,平成15年7月4日「McCOYCONMAR」との文字か,
らなる商標を,商品の区分を第26類,指定商品を「ボタン類」として
出願し,平成16年3月26日,登録(第4759318号)を受けた
(乙11。原告は,上記の事実を被告に告げず,被告も,上記各商標)
の出願,登録を知らなかった。
(エ)登録異議
本件商標の商標登録に対しては,平成16年8月31日,登録異議の
申立てがあったが,平成17年10月31日,商標登録を維持する旨の
異議決定がされた(甲62ないし64,弁論の全趣旨。また「コンマ),
ー」及び「CONMER」の文字を上下二段に横書きしてなる商標(登
),,録第4750115号の商標登録に対しては平成16年5月25日
登録異議の申立てがあったが,平成17年9月21日,商標登録を維持
する旨の異議決定がされた(弁論の全趣旨。)
(オ)「CONMAR」との表示との類似性等
本件商標と「CONMAR」との表示を対比すると,両者は,コンマ
ーとの共通の称呼が生じ,英文字部分の「CONMAR」が共通するか
ら,両者は類似する。
その他の商標について,①商標登録(第3150809号)に係る商
標「COMMER(前記(ア))と「CONMAR」との表示とを対比」
すると,両者は,コンマーとの共通の称呼が生じ,第3字目が「M」か
「N」か,第5字目が「E」か「A」かの点で異なるのみで外観が類似
するから,両者は類似する。②商標登録(第4368983号)に係る
商標「McCOYCONMER(前記(ア))と「CONMAR」と」
の表示を対比すると「CONMER」との構成部分について,両者と,
もコンマーとの共通する称呼が生じ,第5字目が「E」か「A」かの点
で異なるのみで,当該部分の外観が類似する。③商標登録(第4750
115号)に係る「コンマー」及び「CONMER」の文字を上下二段
に横書きしてなる商標(前記(ウ))と「CONMAR」との表示とを対
比すると,両者は,コンマーとの共通の称呼が生じ,英文字部分の「C
ONMER」について,その部分の第5字目が「E」か「A」かの点で
異なるのみで外観が類似するから,両者は類似する。④商標登録(第4
)「」()759318号に係る商標McCOYCONMAR前記(ウ)
と「CONMAR」との表示とを対比すると「CONMAR」との構,
成部分について,両者ともコンマーとの共通する称呼が生じ,当該部分
の外観が共通する。
以上のとおり,リアルマッコイズ社が登録を受けて原告に移転登録さ
れた商標及び原告が登録を受けた商標は,いずれも「CONMAR」と
の表示と類似し,又は共通する部分を含むものである。
()各無効事由の存否について2
以上の事実を前提として,本件商標が,法4条1項10号,15号,19
号に該当するか否かについて検討する。
ア「CONMAR」との表示は,遅くとも日本においてフライトジャケッ
トの市場が成立していた平成8年から現在に至るまで,コンマー社及びそ
のファスナーに関する事業を引き継いだ者(現在は,被告である)のフ。
ァスナーを表示するものとして,これらのファスナーの需要者であるフラ
イトジャケットの取引業者や愛好家の間で広く知られているから,他人の
業務に係る商品(ファスナー)を表示するものとして需要者の間に広く認
識されている商標に該当するものと認められる。本件商標は「CONM,
AR」との表示に類似する商標である。また,ファスナーは,本件商標の
「」,,,指定商品はボタン類の範囲に含まれ原告がフライトジャケットや
ファスナーなどフライトジャケットの構成部材の取引を行っていることか
ら,本件商標は,フライトジャケット又はその他の衣類のファスナーに使
用されるものと推認される。そうすると,本件商標は,他人の業務に係る
商品(ファスナー)を表示するものとして需要者の間に広く認識されてい
る商標に類似する商標であって,その商品(ファスナー)に使用をするも
のに該当すると認められる。したがって,本件商標には,法4条1項10
号の無効事由があると認められる。
イまた,本件商標は「CONMAR」との表示に類似する商標であり,,
「CONMAR」との表示が使用されているのと同一商品(ファスナー)
に使用されるから,本件商標は,他人の業務に係る商品と混同を生ずるお
それのある商標に該当すると認められる。
したがって,仮に本件商標に法4条1項10号の無効事由がないとして
も,本件商標には,法4条1項15号の無効事由があると認められる。
ウさらに,本件商標は,他人の業務に係る商品(ファスナー)を表示する
ものとして日本国内及び米国において需要者の間に広く認識されている商
標と類似の商標であると認められる。そして,前記()の認定事実中,①1
原告代表者のAは,フライトジャケットやその構成部材であるファスナー
について深い知識を有しており,リアルマッコイズ社及び原告において,
,,中心的な立場でフライトジャケットやファスナーの取引を行うとともに
ボタン類(ファスナーを含む)等を指定商品とする商標登録(本件商標を
含む)を行っていたこと(前記()エ(ウ),②リアルマッコイズ社は,。)1
スコービル社及び被告と「CONMAR」の表示が付されたファスナーの
取引をし,被告により,被告から購入する「CONMAR」との表示を付
したファスナーを販売する限りにおいて「CONMAR」との表示を使用
する非独占的な使用権を許諾されていたこと(前記()オ,③リアルマッ1)
コイズ社が登録を受けて原告に移転登録された商標及び原告が登録を受け
た商標(本件商標を含む)は「CONMAR」との表示と類似し又は共。,
通する部分を含むものであること(前記()キ)を総合考慮すると,原告1
は「CONMAR」との表示がコンマー社及びそのファスナーに関する,
事業を引き継いだ被告のファスナーの表示として需要者の間で広く認識さ
れていることを知りながら,その表示と類似する本件商標の登録を得てこ
れを使用するものであり,本件商標は,原告が,不正の利益を得る目的,
他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用をするものであ
ると認められる。
したがって,仮に本件商標に法4条1項の1号から18号までの各号に
掲げる無効事由がないとしても,本件商標には,法4条1項19号の無効
事由があると認められる。
3結論
前記1で判示したとおり,本訴請求は理由があるから,主文のとおり判決す
る。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官中平健
裁判官上田洋幸
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