弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人の控訴を棄却する。
     控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人井上隆晴、同坂入冨士雄、同高木哲夫、同信本勉、同木下尚三、同片
山靖隆の上告理由について
一 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 被上告人は大阪府の区域内に住所を有する者であり、上告人は大阪府公文書
公開等条例(昭和五九年大阪府条例第二号。以下「本件条例」という。)二条四項
の実施機関である。
 2 被上告人は、上告人に対し、平成元年六月一九日付けで、本件条例七条一項
に基づき、政治資金規正法(平成六年法律第四号による改正前のもの。以下「規正
法」という。)の適用を受ける特定の八政治団体から上告人に提出された昭和六一
年分及び昭和六二年分の収支報告書(ただし、昭和六一年分についてはその一部。
以下「本件請求文書」という。)の写しの交付による公開の請求をした(以下、規
正法所定の収支報告書の写しの交付による公開に係る事務を「本件事務」といい、
被上告人のした公開の請求を「本件請求」という。)。
 3(一) 本件条例の公布以前である昭和五四年五月二八日ころ、自治省選挙部政
治資金課長は、自治資第一一号をもって、上告人を含む各都道府県の選挙管理委員
会の書記長あてに、「政治資金規正法関係質疑集の送付について」と題し、「標記
の件について別添のとおり取りまとめましたので送付します。」と付記した上、「
政治資金規正法関係質疑集」(以下「本件質疑集(一)」という。)を送付した。本
件質疑集(一)には、「第二一条関係」として、問の欄に「収支報告書等の閲覧にお
いて収支報告書等を複写機又は写真機により写すことはできるか。」、答の欄に「
消極に解する。」とそれぞれ記載されていた。
 (二) 本件条例の公布後である昭和六〇年五月二四日ころ、自治省選挙部政治資
金課長は、事務連絡として、上告人を含む各都道府県の選挙管理委員会の書記長あ
てに、前同様の表題を付け、付記をした上、「政治資金規正法関係質疑集」(以下
「本件質疑集(二)」という。)を送付した。本件質疑集(二)には、「第二〇条、第
二一条関係」として、問の欄に「地方公共団体は条例に基づき次のことができるか。
(中略)規正法において閲覧の対象としている収支報告書について写しの交付をす
ること(後略)」、答の欄に「いずれもできないと解する。」とそれぞれ記載され
ていた。
 (三) 従来から、機関委任事務等の運用に関し、自治省は、個々の質問に対して
「‥と解する」との表現の下に回答を示す形で自治省の見解を示した文書を、各都
道府県あてに送付していた。自治省は、規正法の運用についても、自治省選挙部政
治資金課長において「政治資金規正法関係質疑集」と題する文書を作成してこれを
各都道府県の選挙管理委員会に送付することにより、全国的に統一的な事務処理を
図ることとしていた。
 (四) 本件請求がされた後の平成元年六月以降二度にわたり、上告人側が自治省
選挙部政治資金課に対し、右の「政治資金規正法関係質疑集」と題する各文書の送
付が機関委任事務における指揮監督権に基づく指示か否かを問い合せたところ、同
課は自治大臣の指揮監督権に基づく指示である旨重ねて回答した。
 (五) 本件訴訟の提起後の平成二年七月一一日付けの文書で、上告人側が自治省
選挙部政治資金課長あてに、(1) 質疑集の送付という通知形式の位置付け及び(
2) 同一内容の通知(質疑集の送付)を二度にわたって行った趣旨の二点につい
て照会したところ、同課長は、同月二一日付けの文書で、(1)については、「政治
資金規正法の収支報告等に関するいわゆる機関委任事務の運用解釈上生じる疑義の
うち、全都道府県に共通する事項については、同法の適正な執行と全国統一的な事
務処理を図るため、質疑集の形式で各都道府県選挙管理委員会に通知しており、こ
れは指揮監督権を有する自治大臣が政治資金規正法の執行に関し必要と認め示した
ものである」旨、(2)については、「本件質疑集(一)の送付による通知の後、多く
の地方公共団体で情報公開の制度化への動きが生じてきたなかで、一部都道府県か
ら情報公開条例との関係を問う照会があったことに対し回答したことから、先の通
知の趣旨を更に明確にするため本件質疑集(二)の送付による通知をしたものである」
旨回答した。
 4 上告人は、被上告人に対し、平成元年七月三日付けで、本件請求について、
規正法に係る事務は地方自治法一八六条三項により国から都道府県の選挙管理委員
会にその管理が委任されている機関委任事務であるところ、本件質疑集(二)の送付
によって、規正法二一条二項につき、収支報告書の閲覧は認められるがその写しの
交付は認められない旨の解釈が示されており、収支報告書の写しの交付をしてはな
らない旨の国からの「明示の指示」があるので、本件請求には本件条例九条三号が
適用されるとの理由で非公開決定(以下「本件処分」という。)をした。
二 原審は、本件事務は本件条例九条三号の「法律又はこれに基づく政令の規定に
より知事その他の執行機関の権限に属する国等の事務」に当たるが、本件において
は、いまだ同号の「主務大臣等から公にしてはならない旨の明示の指示」があった
ものとはいえないとして、被上告人の請求を棄却した第一審判決を取り消してその
請求を全部認容した。
三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のと
おりである。
 1 規正法二一条二項は、何人も、収支報告書の要旨が公表された日から三年間、
自治大臣の場合にあっては自治省令の定めるところにより、都道府県の選挙管理委
員会の場合にあっては当該選挙管理委員会の定めるところにより、収支報告書の閲
覧を請求することができる旨を定めているが、収支報告書の写しの交付の可否につ
いては何らの規定を置いていない。そして、一般に「閲覧」の中に「写しの交付」
が含まれると解するのは困難であること、他の法令上、謄本、抄本の交付、謄写等
が認められる場合にはその旨が明記されていること等にかんがみると、規正法は、
写しの交付を権利として保障しているものでないことは明らかである。
 2 他方、本件条例九条には、同条各号所定の情報が記録されている公文書は公
開してはならない旨が規定され、その三号には「法律又はこれに基づく政令の規定
により知事その他の執行機関の権限に属する国等の事務に関して、主務大臣等から
公にしてはならない旨の明示の指示がある情報」が掲げられている。右にいう「法
律又はこれに基づく政令の規定により知事その他の執行機関の権限に属する国等の
事務」が、国等からの委任により大阪府の執行機関が管理執行すべきものとされて
いる機関委任事務を指すものであることは、その規定文言等に照らして明らかであ
るから(地方自治法一四八条、一八六条等参照)、機関委任事務の処理によって執
行機関が保有するに至った公文書について、機関委任事務の主務大臣等から当該公
文書を公開してはならない旨の指示がされた場合には、当該公文書の公開の事務そ
れ自体が機関委任事務とされる場合はもちろん、そうでない場合であっても、右九
条三号により、右公文書の公開は禁止されるものというべきである。
 3 収支報告書の公開に関する事務は、それ自体都道府県の選挙管理委員会が管
理しなければならない国の機関委任事務であるところ(地方自治法一八六条三項、
同法別表(平成三年法律第二四号による改正前のもの)第三の三の(二)参照)、自
治大臣は、規正法三〇条により、規正法の執行に関し都道府県の選挙管理委員会を
指揮監督することができるものとされているから、自治大臣は都道府県の選挙管理
委員会に対し、収支報告書の公開に関する指示をすることができる。そして、自治
大臣は、その権限に属する特定範囲の事項について、補助機関に代理権を授与する
ことができるのであり、自治省組織令二三条によれば、「規正法に基づく自治大臣
の権限の行使に関すること」は自治省選挙部政治資金課の所掌事務とされており、
一方、自治省文書決裁規程(昭和三九年自治省訓令第八号)二条(別表1共通事務
66)は、法令の質疑、解釈に対する回答の決裁権者・文書施行名義者を課長と定
めているのであるから、自治省選挙部政治資金課長は、右訓令の定めによって、自
治大臣から、規正法の執行に関し都道府県の選挙管理委員会を指揮監督する上で必
要となる規正法の質疑、解釈についての回答の決裁・発出に関する代理権を授与さ
れているものということができる。
 4 そうすると、前記事実関係の下において、本件質疑集(二)は、機関委任事務
の主務大臣である自治大臣から代理権を授与された自治省選挙部政治資金課長によ
り上告人に対して発せられたものであり、その体裁の当否はさておき、その内容に
おいて明確さを欠くとはいえないから、その送付は、本件条例九条三号にいう「主
務大臣等から公にしてはならない旨の明示の指示」に当たるものというべきである。
 5 以上によれば、本件条例九条三号に基づき、被上告人に対して、本件請求文
書の写しの交付を認めないものとした本件処分に違法はなく、これと異なる見解に
立って被上告人の本訴請求を認容した原判決は、本件条例九条三号の解釈適用を誤
ったものというべきであり、その違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかで
あるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、原審の適法に確
定した前記の事実関係及び右に判示したところによれば、被上告人の本訴請求は理
由がなく、これと同旨の第一審判決は正当であって、被上告人の控訴は棄却すべき
ものである。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、
八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    中   島   敏 次 郎
            裁判官    根   岸   重   治

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