弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 各弁護人の上告趣旨はいづれも末尾添附別紙記載の通りでありこれに対する当裁
判所の判断は次ぎの如くである。
 弁護人宍道進の上告趣旨第一及第二点について。
 本件逮捕状請求書に被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由として「
被害者の届出、被疑者の自供並に犯行時の着衣、人相に一致しあり充分なり」と書
いてあつて、所論の様に「被疑者の自供」が挙げてあり且その自供が逮捕後のもの
であることは記録によつて一応認められる。しかしこれが故に直ちに逮捕及び逮捕
状を無効のものとすることは出来ない、蓋緊急逮捕そのものの適法性は緊急逮捕の
時において存して居ればいいのであつて、本件では逮捕手続書の記載と、それ以前
即ち昭和二三年七月九日に作成された被害者Aの訊問調書によれば巡査において被
疑者が罪を犯したことを疑うに足りる充分な理詣ありと判断したことは一応肯定さ
れるところであり、又逮捕状請求書に「被疑者の自供」の記載が無かつたとしても
その他の記載(前記)「被害者の届出、犯行時の着衣、人相に一致」ということに
より逮捕の理由のあることは一応肯定され逮捕状は発せられたであろうと判断され
るからである、従つて本件逮捕の無効を前提とする論旨は其前提を欠くもので憲法
の問題では無く、理由がない(昭和二三年(れ)第一九四三号事件同二五年四月二
六日言渡当裁判所大法廷判決参照)。
 同第三点について。
 原審は第二回公判において弁護人申請のBを留保し第三回公判において採用喚問
の決定をし第四回公判において、訊問している。そして調書の中には、Bと書いて
あるが宣誓書及び日当旅費請求書には、Cとなつていること所論のとおりである。
しかし(一)Bは同日訊問されたDの証言にも出ているように、通称「E」という
ので四月九日夜D方に被告人と一緒に飲食に行つたかどうかについて喚問されたも
ので弁護人もBとして申請し裁判所もBとして喚問の決定をし、召喚状もそれで送
達され(二)訊問の際被告人もまた弁護人も同一人ではない等と異議を申立てては
いないそして(三)「E」と読まれることはBもCも変りはなく尚(四)Bは第一
審第五回公判においてもBとして証人として採用されたが当時行方不明のため姉の
Fが在廷証人として訊問されたことがあり右Fは住所は和歌山市a町b番でBは弟
であるとのべて居り証人の日当旅費請求書に記載された住所も同所である、以上の
事実によりBとCとは同一人であること明であり従つて論旨は理由がない。
 同第四点について。
 前提たる第三点が理由ないから、この第四点も失当である。のみならず、各証人
の供述記載は切りはなし得るもので一が効力がないからといつて他も効力を失わな
ければならない理由はない。
 同第五点について。
 起訴状には所論二百円交付の事実については「……小遣銭を要求し同人より二百
円の交付を受けたるも少額なるため、なほも要求し之を拒否せらるるや強盗を為さ
んことを企図し」とあつて強盗の犯意の生ずる前のこととして記載されているから
起訴状においては之を罪と考へなかつたものというべく原判決の判示もこれと同様
であるから同じく犯罪事実として認めたものではないことがわかる従つて、法令の
適用を示さない違法があるとはいえない。
 同第六点について。
 公判調書に公開を禁じた旨の記載がない限り、公判は、公開法廷で行われたもの
と認めることができること当裁判所大法廷の判例とする処である(昭和二二年(れ)
第二一九号事件、同二三年六月一四日大法廷判決)強姦事件だからといつて所論の
様に特別に考えるべきものではない、従つて論旨は理由がない。
 弁護人鍜治利一、同中谷義衛の上告趣意
 第一点について。
 原審は、被告人が拷問による自白だと主張したので、一審において、検事の申請
により第三回と第六回の二回に亘り、刑事巡査Gが調べられている以外に、同じく
検事の申請により、当時の刑事巡査Hをも第三回公判に訊問しているのである、そ
して原判決が右主張を排斥するについて挙げている(一)(二)(三)の証拠によ
れば、被告人の主張の理由のないことが肯認される、従つて論旨は前提たる事実を
欠くものというの外なく理由がない。
 同第二点について。
 原審第二回公判において被告人が警察に行つたのは、午後二時頃で、白状したの
は、三時間位してからですから午後五時頃だと思ひますと述べていることは事実で
あるが、原審は午後五時頃という点を重視措信し他の二証拠と合せて判断したので、
採証の法則違反はない。
 同第三第四及第五点について。
 論旨の問題とする諸点は、いづれも第一審判決において、無罪の理由として挙げ
られた不一致の点で原判決の詳細な理由を附してその重視すべきものでない所以を
説明し反駁したところであり、原判決のように解釈することも可能であるから、こ
れ等を捉えて理由そごということは出来ない。矛盾する証拠を沢山羅列したにとど
まる場合には所論のような問題も生ずるであろうが、その思考推理の過程を特に説
明し、その説明が経験則に反していないときは違法ではない論旨は結局原審の事実
の認定を非難するもので理由がない。
 同第六点について。
 原審は、更新前の第三回公判において被告人の母Iを証人として訊問している、
そしてその中に論旨引用のような供述部分があることは事実であるがそれは四四〇
丁であつて原判決の証拠としたのは四四一丁の供述でありその中に原判決引用の様
な供述記載がある其故所論は失当である。
 同第七点について。
 1 原判決に「原審証人Jに対する証人訊問調書(記録四百丁)中」どあるのは、
四〇〇丁という丁数とその四〇〇丁に原判決引用の供述があることに照し「当審証
人Jに対する証人訊問調書」(昨年五月二三日和歌山地裁に出張訊問)の誤記であ
ること明白である、(Jは、一審第二回公判においても証人として訊問されている
が左様なズボンに関する問答はない。
 2 「Jに対する検事の聴取書(記録二百十八丁)」というのは二四一丁以下に
同人に対する検事の聴取書がありその二四八丁に引用のような供述があるからこれ
も丁数の誤記なること明白である従つて論旨は採用に価しない。
 同第八点について。
 被害者から金を強奪したという点に関する限りは一致しているのであり事件全体
に対し有する意味からいつても左様な二つの証拠を綜合して原判決のように「同女
の反抗を抑圧した上同女所有の現金二千二百五十円を強取した」という事実を認定
することは実験則に反するものとはいえない本論旨も結局原審の事実認定に対する
非難で上告適法の理由とならない。
 よつて上告を理由なしとし旧刑訴四四六条に従つて主文の如く判決する。
 以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。
 検察官 竹原精太郎関与
  昭和二五年六月二〇日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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