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平成26年(う)第121号私電磁的記録不正作出・同供用被告事件
平成26年5月22日大阪高等裁判所第3刑事部判決
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は,弁護人作成の控訴趣意書に記載のとおりであるから,これを
引用する。なお,弁護人は,本件控訴趣意は,法令適用の誤り及び事実誤認の主張
に加え,原判決が何ら根拠を明らかにすることなく原判示各B-CASカードの所
有権が株式会社ビーエス・コンディショナルアクセスシステムズ(以下「B-CA
S社」という)に帰属すると認定した点について理由不備をも主張するものである
と釈明した。論旨は,理由不備,事実誤認及び法令適用の誤りの主張である。
第1控訴趣意中,理由不備の点について
論旨は,前記のようなものであるところ,理由不備とは,判決書に刑訴法44条
1項,335条1項によって要求される判決理由の全部又は重要な部分を欠いてい
ることをいうのであり,弁護人の主張するところはこれに該当しないことが明らか
であるから,理由不備の論旨は理由がない。
第2控訴趣意中,事実誤認及び法令適用の誤りの点について
論旨は,被告人が原判示各B-CASカードに記録された電磁的記録を改変した
行為はいずれも,刑法161条の2第1項にいう「人の事務処理を誤らせる目的で,
その事務処理の用に供する権利,義務に関する電磁的記録を不正に作った」行為に
は該当しないし,同カードをテレビに接続された衛星放送受信可能な各チューナー
内蔵レコーダーに挿入した行為もいずれも,同条3項にいう「不正に作られた上記
電磁的記録を,上記の目的で,人の事務処理の用に供した」行為には該当しない上,
仮にこれらに該当するとしても,被告人には,上記各行為について上記各罪の故意
がなく,違法の意識の可能性もなかったのに,被告人の上記各行為がそれぞれ同条
1項の私電磁的記録不正作出又は同条3項の同供用に該当すると認め,各罪の故意
も認定して,上記全ての行為について被告人を有罪とした原判決には,判決に影響
を及ぼすことが明らかな事実の誤認及び同条の解釈適用を誤った法令適用の誤りが
ある,というのである。
そこで,原審記録を調査し,当審における事実取調べの結果も併せて検討する。
1原判決の認定判断の要旨
原判決は,以下のとおり認定して,B-CASカードは,「権利,義務に関する
電磁的記録」であり,B-CASカードを用いた「事務処理」も観念できるところ,
被告人が原判示のとおり各B-CASカードの電磁的記録を改変する行為は,私電
磁的記録不正作出罪の構成要件を客観的に充足し,上記のとおり改変されたB-C
ASカードをテレビに接続された衛星放送受信可能な各チューナー内蔵レコーダー
に挿入する行為も,不正作出私電磁的記録供用罪の構成要件を客観的に充足してい
ると判断し,原判示の各事実を認定した上,私電磁的記録不正作出罪及び同供用罪
の成立を認めたものである。
B-CASカードは,B-CAS社等が開発したICカードであって,これ
により,「暗号化した番組の映像・音声等の信号を用い,限定された者が受信機で
暗号を復号し,映像・音声等を受信して視聴すること」が可能となる。
B-CASカードのメモリ部分には,衛星放送事業者(有料衛星放送の事業
者及び一般社団法人デジタル放送推進協会(以下「Dpa」という。)の双方を含
む。以下同旨)が放送する衛星放送の視聴可能期間等の情報が記録されており,衛
星放送の映像・音声等の信号は,スクランブルがかけられて暗号化されている。
B-CASカードの所有権はB-CAS社に帰属し,B-CASカードの利
用者は同社との貸与契約に基づきB-CASカードを利用するにすぎず,利用者が
B-CASカードを改変等することは禁じられている。
上記システムを前提として,衛星放送事業者らは,各々が使用を許諾された
B-CASカードの領域を書き換える権限を有しており,その権限に基づいて,各
事業者と契約した相手方のB-CASカードに電波を送り,視聴可能期間等のデー
タを書き換えることで,同事業者に係る衛星放送を視聴可能な状態にさせるほか,
その後の契約関係の変動に対応した書換えを行い,同衛星放送を視聴できない状態
にさせるなどしている。
有料衛星放送の事業者においては,B-CASカードにより衛星放送の視聴
の可否を管理し,自社の衛星放送が視聴可能な状態に設定した相手方から視聴料を
徴収して収益を上げている。
Dpaにおいては,B-CASカードにより地デジ難視対策衛星放送の視聴
の可否を管理し,同放送の視聴者数を必要最小限に止めるという指針を実現し,そ
の状況を総務省に報告するなどしている。
の事実関係に照らせば,B-CASカードは,衛星放送事業
者と視聴申込者との間で交わされた,当該衛星放送を視聴する旨の契約に係る権利
・義務の発生,存続,変更,消滅に関する電磁的記録であること,衛星放送事業者
は,B-CASカードを用いて,当該衛星放送の視聴の可否を管理するとともに,
対価として視聴料を徴収したり,地デジ難視対策衛星放送の視聴者数を必要最小限
に止めている状況等を総務省に報告したりする等して,財産上,身分上その他人の
社会生活に影響を及ぼし得ると認められる事柄を処理していることが認められる。
2当裁判所の判断
原判決が,以上のとおり認定して,原判示の各事実を認定した上,私電磁的
記録不正作出罪及び同供用罪の成立を認めた事実認定及び法令の解釈適用は,全て
正当であり,その理由として説示するところもおおむね是認することができる。
付言すると,B-CASカードに記録された電磁的記録は,刑法161条の2第
1項,3項所定の人の事務処理の用に供する権利,義務に関する電磁的記録に該当
し,被告人がこれを改変する行為は,同条1項所定の,人の事務処理を誤らせる目
的で人の事務処理の用に供する権利,義務に関する電磁的記録を不正に作ったこと
(不正作出)に該当するほか,被告人が改変した上記電磁的記録を記録したB-C
ASカードをテレビに接続された衛星放送受信可能なチューナー内蔵レコーダーに
挿入する行為は,同条3項所定の,人の事務処理を誤らせる目的で不正に作られた
権利,義務に関する電磁的記録を人の事務処理の用に供したこと(供用)に該当す
ると認められる。
すなわち,関係証拠によると,B-CASカードは,日本国内において,地上デ
ジタル放送やBSデジタル放送及びCSデジタル放送を受信するためにテレビ等の
デジタル放送受信機に挿入して使用するICカードであり,株式会社甲及び乙株式
会社が共同で開発しそれぞれ製造して,B-CAS社に使用許諾を与えることによ
り,CAS方式と称する限定受信方式を用いたCAS放送の受信機において一般視
聴者により使用されていること,B-CAS社からCAS放送実施の許諾を受けた
衛星放送事業者は,衛星放送を通じて顧客等宛てに契約情報を送信して,各顧客等
の使用するB-CASカードにあらかじめ書き込まれている事業者ごとの視聴契約
情報を書き換えることによって,同カードを所持しその使用権限を有する当該顧客
等が当該事業者の衛星放送を受信することを可能にするものであること,そして,
被告人が原判示の各B-CASカードに記録された電磁的記録を原判示のとおり書
き換えたことにより,当該B-CASカードが地デジ専用か地デジ・BSCS汎用
かに関わりなく,それまでは受信不能であったWOWOW,スカパー及びスターチ
ャンネルという各有料衛星放送並びに地デジ難視対策衛星放送について,全て20
38年4月22日まで受信が可能となり,また,被告人が上記書換え後の上記の各
B-CASカードをテレビに接続された衛星放送受信可能な各チューナー内蔵レコ
ーダーに挿入したことによって,上記有料衛星放送の各事業者及びDpaとの間に
視聴契約を締結することなく,上記各衛星放送を受信して視聴することが可能とな
ったことが認められる。
そうすると,B-CASカードに記録された電磁的記録は,衛星放送事業者から
送信される事業者ごとの視聴契約情報に基づき,当該カードを所持しその使用権限
を有する一般視聴者の衛星放送受信権限について,衛星放送ごとに受信権限の有無
及びその期限を記録することによって,受信権限のある者による受信を可能にし,
受信権限のない者による受信は不能にするものであるから,視聴契約に基づく受信
権限の有無により個別の受信機による当該衛星放送受信の可否,ひいてはその視聴
の可否を管理するという,衛星放送事業者の財産上又は社会的責務上の事務処理の
用に供する電磁的記録であるとともに,衛星放送事業者との視聴契約に基づく受信
権限に関する電磁的記録であるともいうことができる。
そして,被告人が本件各B-CASカードに記録された電磁的記録を改変した行
為は,被告人が,受信権限のない衛星放送を受信して視聴するため,上記電磁的記
録を,あたかも被告人に当該受信権限があるかのように当該衛星放送事業者の許諾
を得ることなく書き換えるものであるから,同事業者の上記事務処理を誤らせる目
的で,同事業者の上記事務処理の用に供している,同事業者との視聴契約に基づく
受信権限に関する電磁的記録の不正作出に当たるということができる。
さらに,被告人が,改変した上記電磁的記録を記録した各B-CASカードを,
テレビに接続された衛星放送受信可能なチューナー内蔵レコーダーに挿入した行為
は,被告人が衛星放送事業者との視聴契約に基づく受信権限のない衛星放送を受信
して視聴するため,あたかも被告人に当該受信権限があるかのように当該衛星放送
事業者の許諾を得ることなく,書き換えられた同事業者との視聴契約に基づく受信
権限に関する電磁的記録を,同事業者の上記事務処理の用に供したこと(供用)に
当たるといえるのである。
以下,弁護人の主張について当裁判所の判断を示すこととする。
アB-CASカードに記録された電磁的記録の法的性格について
弁護人は,被告人が行ったB-CASカードに記録された電磁的記録の改変
行為は,個別の放送事業者との契約期間に関する数字を変更させたわけではなく,
視聴制限が設定されている全ての放送について,プログラムにおける最長の日付ま
で視聴制限を外す改変を加えるという操作をしたにすぎないのであり,「権利,義務
に関する電磁的記録」の作出には当たらない旨主張する。
しかし,関係証拠によると,被告人は,原判示各B-CASカード中の視聴制限
関係データのうち,各衛星放送事業者との契約に関する情報を一括して書き換える
ことにより,改変前は,いずれの衛星放送事業者との間にも視聴契約がなく,これ
による放送の視聴ができないとされた状態であったものを,改変後は,一括して,
全て視聴可能な状態とし,その視聴可能期限を2038年4月22日23時までと
なるように改変したことが認められるのであり,被告人は,上記改変行為によって,
全ての衛星放送事業者との関係で,視聴契約に基づく受信権限の有無及びその期限
に関する電磁的記録,すなわち,各B-CASカードに記録された「権利,義務に
関する電磁的記録」を一括して改変して新たに作出したということができる。
弁護人は,原判決が,B-CASカードに記録された電磁的記録の改変が,
「視聴契約の権利,義務に関する電磁的記録」であると認定した点について,地デ
ジ難視対策衛星放送の利用者とDpaとの間に視聴契約なるものは成立していない
旨主張する。
しかし,関係証拠によると,地デジ難視対策衛星放送の視聴については,Dpa
と利用者との間で視聴契約が締結されているものと認めることができる。すなわち,
地デジ難視対策衛星放送は,利用者が当該衛星放送の対象地区(山間部や離島等,
地上デジタル放送が受信不能等の事情があり,総務省等の定めるいわゆるホワイト
リストに掲載された地区等)に居住していることによって当然に視聴できることに
なるのではなく,利用対象者がDpaに申し込み,Dpaが承諾することによって
初めて視聴可能となるように,契約の締結が前提とされていることが認められる。
なお,Dpaから利用申込者に送付される文書は,利用確認通知書との表題である
が,その内容からは,Dpaが利用申込者に放送利用を承諾する旨通知する書面で
あることが明らかであるから(地デジ難視対策衛星放送利用規約9条),契約の締
結を観念する妨げとはならない。
この点,弁護人は,衛星放送の視聴やB-CASカードの利用等に関し契約関係
を想定することは現実的ではないし,意思無能力者や未成年者との間に契約関係を
想定することはできないとも主張する。そして,地デジ難視対策衛星放送に限って
みれば,地上アナログ放送から地上デジタル放送への移行に伴って発生する難視聴
地区が地上系の放送基盤による恒久的な対策が終了するまでの間,暫定的かつ緊急
避難的な措置として対象地区や期間等を限定して実施される措置であるというその
制度趣旨からみて,契約締結の法形式を採用することは,上記移行期における地デ
ジ難視聴対策を円滑に遂行するという政策実現のための便法とみる余地もある。
しかし,関係証拠によれば,地デジ難視対策衛星放送は東京地区で行われている
地上デジタル放送を衛星放送により送信するものであるところ,これを受信できる
視聴者を,Dpaに利用申込みをした対象地区の居住者のうちDpaが承諾した者
に限定している趣旨は,東京地区の地上デジタル放送について他の地区でも無条件
に視聴できることになると,放送法に基づく基幹放送普及計画及び電波法に基づく
基幹放送用周波数使用計画における地上放送について放送局ごとに対象地区を限定
する原則に反するとともに,地方放送局の経営に悪影響を与え,あるいは東京地区
の各放送局から地デジ難視対策衛星放送のための再放送(再送信)の同意を得られ
なくなるおそれも生じることから,こうした事態の発生を防ぐことにあるところ,
この限定に実効性を持たせるために,地デジ難視対策衛星放送を送信するDpaが,
利用規約を設け,対象地区の居住者等から視聴申込みを受け付けた上,その者につ
いて対象地区に居住していないなどの不承諾事由の有無を審査し,不承諾事由がな
いことを確認した視聴申込者に限り,放送利用を承諾する旨を通知するとともに,
衛星放送を通じてその者の使用するB-CASカード宛てに契約情報を送信し,同
カードにあらかじめ書き込まれているDpaの視聴契約情報を書き換えることによ
り,その者がDpaの衛星放送を受信して視聴することを可能にしていることが認
められる。
このように,地デジ難視対策衛星放送の受信の可否を決するに当たり,Dpaに
おいて,対象地区の居住者等から視聴申込みを受け付け,不承諾事由の存否を審査
して,適格者に限り放送利用を承諾するという契約締結の法形式を採用することは,
地デジ難視対策衛星放送の受信可能者を対象地区の居住者等に限定することを実効
あらしめることによって,地上アナログ放送から地上デジタル放送への移行を円滑
なものにするとともに,基幹放送普及計画及び基幹放送用周波数使用計画における
前記原則を遵守し,対象地区以外の居住者等が地デジ難視対策衛星放送を無条件で
受信して視聴することに伴う弊害の発生を防止するために設けられた法的な措置と
解されるのであり,上記行政上の政策目的を実現する上で必要かつ合理的な法形式
の採用であると認められるのである。
そうすると,弁護人指摘の事情を考慮しても,Dpaと利用者との間には契約が
締結されていると認められるのであり,仮にその利用者が未成年者や意思無能力者
であっても,地デジ難視対策衛星放送の受信権限を取得することはできるのであり,
上記のような地デジ難視対策の政策目的からすれば,Dpaにおいて,その利用申
込みを受理せず,あるいはその者に対する利用承諾を取り消すことは想定できない
から,契約締結という法形式を採用しても特段の弊害は生じないといえるのである。
弁護人は,B-CASカードを用いた限定受信システム自体が,私的独占の
禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)3条,19
条に違反しており,また,視聴者の視聴内容の把握を可能とする点でも違法であっ
て,放送事業者とB-CAS社との契約は民法90条により無効であるから,この
契約に基づき放送事業者が付与されたB-CASカードの電磁的記録の書換え権限
も無効である旨主張する。
しかし,関係証拠によれば,上記システムは,有料のBS/CSデジタル放送を
契約者のみが視聴できる視聴管理を実現するために導入されて,その後,デジタル
放送のコピー制御のために無料のデジタル放送にも用いられるようになったことが
認められ,前認定のようなDpaによる利用も含めて,その利用には十分な必要性
と合理性が認められるのであり,弁護人指摘の参議院総務委員会における会議録に
照らしても,このシステムが独占禁止法3条,19条に違反する疑いは生じない。
さらに,関係証拠上,弁護人が指摘する秘密裏の視聴内容の収集は,技術的に可能
というにとどまり,そのような具体的弊害が生じていることをうかがわせる事情は
何ら見出し得ないのである。そうすると,B-CASシステムが違法であるとか,
放送事業者とB-CAS社との間の契約が違法無効であり,この契約に基づきDp
a等の放送事業者に付与されたB-CASカードの電磁的記録の書換え権限もまた
違法無効であると解する余地はない。
イB-CASカードに記録された電磁的記録と「人の事務処理の用に供する」
電磁的記録との関係について
弁護人は,本件では,B-CASカードを挿入するレコーダーが刑法上の電磁的
記録に係る電子計算機に,レコーダーによって行われる事務処理が同法上の事務処
理にそれぞれ該当するところ,改変後のB-CASカードを用いた衛星放送の視聴
では,衛星放送事業者の保有する顧客情報を改変するなど,他人に対する働きかけ
を伴わないし,Dpaの事務処理が害されるものでもないから,被告人が改変した
各B-CASカードに記録された電磁的記録は,被告人が所有するレコーダーによ
る被告人のための情報処理にのみ用いられるにすぎず,他人の事務処理を観念する
ことはできない旨主張する。
しかし,関係証拠によれば,B-CASカードのICチップ内には,特定の衛星
放送事業者のみが書換え権限を付与された情報が記憶される領域があり,当該事業
者は,Dpaを含め,その領域の情報を用いて,視聴契約に基づく受信権限の有無
によって同カードが挿入された個別の受信機による当該衛星放送受信の可否を管理
するという事務処理を行っていることが認められるから,B-CASカードに記録
された電磁的記録が他人の事務処理に供されるものであることは明らかである。
ウ被告人による電磁的記録の改変行為の不正行為性について
弁護人は,B-CASカードの所有権は,それが添付されたテレビ等の製品を購
入した者に属するのであり,被告人には,自己の所有するB-CASカードに記録
された電磁的記録を書き換える権限があるとも主張する。
しかし,原審で取り調べられた関係証拠及び当審で取り調べたB-CASカード
使用許諾契約約款(当審検1。以下「約款」という。)によると,B-CAS社は,
B-CASカードの所有権をその製造会社との売買契約によって取得した後,受信
機器製造会社との契約により,その所有権を留保したまま,約款とともに受信機器
に同梱しているところ,約款には,B-CASカードの所有権はB-CAS社に属
することが明記されており,B-CASカードの裏面にも,同旨の記載がなされて
出荷されていることが認められる。このように,B-CASカードは,その所有権
がB-CAS社に留保されていることが顧客にも十分に認識可能な形態で出荷され,
受信機器を購入した顧客がこれを受け取るのであり,顧客としても,所有権が留保
されている事実は当然に認識すべきものであり,仮にそのことに気づいていないと
しても自らの過失による不知にすぎないから,被告人がB-CASカードの同梱さ
れた受信機器を購入したとしても,同カードの所有権を取得する余地はない。
エ被告人の故意について
弁護人は,被告人は自己の所有するB-CASカードを自らのレコーダーによる
事務処理の一環として書き換えたにすぎないと認識していたから,被告人には私電
磁的記録不正作出・同供用の故意がない旨主張し,被告人も,原審において,これ
と同旨の供述をする。
しかし,前認定のように,約款及びB-CASカードの裏面には,同カードの所
有権がB-CAS社に帰属することが明記されており,被告人も当然にそのことを
認識していたはずである。しかも,被告人は,その述べるところによっても,Dp
aの承諾がなければ地デジ難視対策衛星放送を受信することができないことを知り
ながら,自らB-CASカードに記録された電磁的記録を改変することによって,
これを受信し視聴することを可能としたものであるから,B-CASカードの所有
権の帰属の有無に関わりなく,自らの行為によって,視聴契約に基づく受信権限の
有無に従って同カードが挿入された個別の受信機による当該衛星放送受信の可否を
管理するというDpaの事務処理を害していることも,当然に認識していたものと
認められるのであり,被告人が故意を有していたことは明らかである。
なお,弁護人は,放送法,著作権法,不正競争防止法の法体系からは,被告人に
とって,B-CASカードの電磁的記録の書き換え行為が刑法161条の2第1項
に該当することを意識することがおよそ不可能であったとも主張するが,被告人は,
前認定のように,自らの行為によって,Dpaの事務処理を害していることを認識
していたのであり,その供述によっても,自らの行為が違法でないと主張する根拠
は,B-CASカードの所有権が自己に帰属すること以外は,具体性のないものに
とどまるから,違法性の意識があったことについても疑う余地はない。
オ刑法161条の2第1項の立法趣旨や著作権法,不正競争防止法との関係に
ついて
弁護人は,本件で被告人を処罰することになれば,B-CASカードが有す
る受信機のコピー制御機能という法的利益まで電磁的記録不正作出罪の保護法益と
して取り込むことになり,立法当初に電磁的記録不正作出罪が予定していた処罰範
囲を著しく超えることになる旨主張する。
しかし,本件で問題とされているのは,視聴契約に基づく受信権限の有無に従い
個別の受信機による当該衛星放送の受信ないし視聴の可否を管理するというDpa
の事務処理の用に供される,B-CASカードに記録された電磁的情報を保護する
ことの当否であるところ,このような電磁的情報が果たしている社会的に重要な機
能が刑法161条の2の想定する保護の対象となることは,同条項の構成要件の定
め方からも明らかであって,その立法段階から想定することもできる範囲内のもの
ということもできる。
弁護人は,著作権法120条の2も,本件犯行後に改正された不正競争防止
法2条10号,11号も,ユーザーが技術的制限手段の回避装置ないしプログラム
を使用すること自体は,刑事罰の対象とされていないところ,このような他の法律
の趣旨からみて,刑法においてユーザーによる技術的制限手段の回避行為まで処罰
することは,罪刑法定主義に違反する旨主張する。
しかし,著作権法は著作権等の保護,不正競争防止法は事業者間の公正な競争を
それぞれ主たる保護法益とするのに対し,刑法161条の2は電磁的記録の果たす
社会的に重要な機能に鑑みて電磁的記録に対する公共的信用を保護法益とするもの
であるなど,これらの法律は,犯罪構成要件の定め方のみならず,その立法趣旨や
保護法益をも異にするものであるから,被告人の行為を一種の視聴制限回避行為や
技術的制限手段回避行為として捉えるとしても,著作権法及び不正競争防止法がこ
れらの行為を刑事処罰の対象とはしていないからといって,これらと犯罪構成要件,
立法趣旨や保護法益を異にする本罪の成立範囲が限定される,あるいはB-CAS
カードの改変とその使用について本罪を適用することが罪刑法定主義に反するとは
解されない。
以上のとおり,弁護人の主張はいずれも採用できず,論旨はいずれも理由がない。
第3職権調査
なお,職権をもって調査すると,原判決は,法令の適用の項において,原判示第
1及び第2の各所為中,各不正作出私電磁的記録供用の点に対する罰条として,い
ずれも構成要件を示す刑法161条の2第3項を掲げながら,法定刑を示す同条1
項を遺脱しており,原判決にはこの点において法令適用の誤りがあるといわざるを
得ないが,同条3項は,不正作出私電磁的記録供用罪の法定刑が私電磁的記録不正
作出罪のそれと同一であることを定め,原判決は,上記各所為中,各私電磁的記録
不正作出の点に対する罰条として同条1項を掲記している上,科刑上一罪の処理に
関する説示部分等,法令の適用の項におけるその余の記載にも照らすと,原判決は,
上記各不正作出私電磁的記録供用の点に対する罰条として,法定刑を示す同条1項
を適用した趣旨であると読み取ることができるから,上記誤りは判決に影響を及ぼ
さない。
第4結論
よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判
決する。
平成26年5月27日
大阪高等裁判所第3刑事部
裁判長裁判官中谷雄二郎
裁判官五十嵐常之
裁判官柴山智

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