弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成12年(ワ)第10050号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成13年2月16日
              判       決  
原      告 株式会社アミックス
訴訟代理人弁護士   佐藤治隆
補佐人弁理士     吉田芳春
被      告    河淳株式会社
訴訟代理人弁護士    安江邦治
              主       文  
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 被告は,別紙原告第1物件目録記載の商品前出し装置を製造,販売,貸与,
使用並びに販売・貸与の申し出をしてはならない。
2 被告は,別紙原告第2物件目録記載の商品前出し装置の製造,販売,貸与,
使用並びに販売・貸与の申し出をしてはならない。
3 被告は,前2項の商品前出し装置を廃棄せよ。
4 被告は,原告に対し,金1050万円及びこれに対する平成12年5月25
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1争いのない事実等
(1) 原告及び被告は,ともに陳列器具類の製造,加工等を目的とする株式会社
である。
(2)ア原告は,次の特許権(以下,「本件特許権」といい,特許請求の範囲請
求項1の発明を「本件発明」という。また,本件特許権に係る明細書(甲2)を,
「本件明細書」という。)を有している。
 特許番号    第3022544号
 登録日     平成12年1月14日
 出願日     平成7年4月28日(原出願日)
         平成11年2月5日(分割出願日)
 発明の名称   商品陳列取出ユニット
 特許請求の範囲請求項1
「側板が立設され前後方向に商品を陳列する商品陳列ケースと,この商品
陳列ケースの底側に組付けられ前後方向にわたって軸受孔が多数設けられてなるロ
ーラ支持板と,このローラ支持板の軸受孔に軸部が架設され前出し可能に回転する
多数個のローラと,商品陳列ケースの前端部に設けられ最前部の商品に当接するス
トッパとからなり,ストッパはその下端に設けられる係止爪が商品陳列ケースの前
端部に設けられる係止片に係止することで着脱可能に設けられる商品陳列取出ユニ
ット。」
イ本件発明は,次のように分説される(弁論の全趣旨)。
(ア)側板が立設され前後方向に商品を陳列する商品陳列ケースと,
(イ) この商品陳列ケースの底側に組付けられ前後方向にわたって軸受孔が
多数設けられてなるローラ支持板と,このローラ支持板の軸受孔に軸部が架設され
前出し可能に回転する多数個のローラと,
(ウ) 商品陳列ケースの前端部に設けられ最前部の商品に当接するストッパ
とからなり,
(エ) ストッパはその下端に設けられる係止爪が商品陳列ケースの前端部に
設けられる係止片に係止することで着脱可能に設けられる
(オ)  商品陳列取出ユニット。
(3) 原告は,次の意匠権(以下,「本件意匠権」といい,その登録意匠を「本
件意匠」という。)を有している。
 出願日  平成9年12月28日
 登録日  平成11年4月2日
 登録番号     第1041955号
 意匠に係る物品    商品前出陳列用具
 登録意匠  別紙意匠公報記載のとおり
(4)被告は,商品前出し装置を製造,販売している。
2 本件は,本件特許権及び本件意匠権を有している原告が,被告に対し,被告
が製造販売している商品前出し装置は,本件発明の技術的範囲に属し,かつ,その
意匠が本件意匠と類似しているから,被告によるこの装置の製造等は,本件特許権
及び本件意匠権の侵害であると主張して,この装置の製造等の差止め等及び損害の
賠償を求める事案である。
第3 争点及びこれに関する当事者の主張
1 争点
(1)被告が製造販売している商品前出し装置の特定
(2)被告が製造販売している商品前出し装置が構成要件(ア)を充足するか。
(3)被告が製造販売している商品前出し装置が構成要件(イ)の「商品陳列ケー
スの底側に組付けられ」ている「ローラ支持板」を充足するか。
(4)被告が製造販売している商品前出し装置が構成要件(エ)を充足するか。
(5)被告が製造販売している商品前出し装置の意匠が本件意匠と類似している
か。
(6)損害の発生及び額
2 争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)について
(原告の主張)
被告が製造販売している商品前出し装置は,別紙原告第1物件目録及び原
告第2物件目録記載のとおり特定される。
(被告の主張)
被告が製造販売している商品前出し装置は,別紙被告物件目録記載のとお
り特定される。
(2)争点(2)について
(原告の主張)
被告が製造販売している商品前出し装置は,小マット2A,2B,2C,
2Dからなるローラマット1を備えている。このローラマット1には,その前後端
の長溝8に係入されることで側板6が立設され,両側には側板7が立設され,これ
らの側板によってローラ面上が前後方向にわたって区分けされるので,構成要件(ア)
を充足する。
(被告の主張)
 本件特許の出願過程において,従前の特許請求の範囲請求項2が削除さ
れ,「商品陳列ケースを左右方向に着脱可能に連結するコネクタとからなる商品陳
列取出ユニット」は,クレームの対象から除外されたから,構成要件(ア)は,1列の
陳列レーンの商品陳列ケースを横方向に連結して複数の連結レーンとしたような商
品陳列ケースは含まれず,当初から所定の複数レーンが固定された側板の間に一体
的に形成された商品陳列ケースのみを意味すると解すべきである。
 被告が製造販売をしている商品前出し装置は,各ローラマット1が,連結調整凸
部11c及び連結調整凹部11dによって横方向に相互に連結されるようになって
いるから,構成要件(ア)を充足しない。
(3)争点(3)について
(原告の主張)
ア本件発明の「ローラ支持板」は,商品陳列ケースの底側に組み付けられ
ているものであるが,それが着脱可能であることは,要件ではない。
  本件特許は,原告が平成7年4月28日にした特許出願(以下,「原出
願」という。)からの分割出願(以下「本件分割出願」という。)によるものであ
るが,原出願の当初の明細書の特許請求の範囲請求項1には,ローラ支持板を商品
陳列ケースの底側に一体に組み付けるという技術的思想が包含されている。
 また,原出願において,原告が,意見書,手続補正書によって,「ローラ支持
板」を着脱可能なものに限定している経緯があるが,本件特許は,原出願の当初の
明細書の記載に基づく分割出願であって,あくまでも新たな特許出願であるから,
このような原出願の審査経緯を根拠として,本件発明の技術的範囲が制約されるも
のではない。
イ 被告が製造販売している商品前出し装置のローラ支持板17は,ローラ
マット1の底板16に一体に組み付けられているが,ローラ支持板が着脱可能であ
ることは本件発明の要件ではないから,このような構造のものも,構成要件(イ)の
「商品陳列ケースの底側に組付けられ」ている「ローラ支持板」ということができ
る。
ウ 仮に,このような一体に組み付けられているものは,「商品陳列ケース
の底側に組付けられ」ている「ローラ支持板」とはいえないとしても,複数の部品
よりなる構成を一体の構成とすることは,プラスチック成型品では当然の技術であ
って,当業者としては容易に想到できることであるし,これにより,本件発明の効
果に何ら変わりがない。また,本件発明は,ストッパの係止構造を本質的部分とし
たものであるから,「ローラ支持板」は本質的部分ではなく,構成部品を複数にし
てこれを組み付けることに本質的要素がないことは明らかである。そうすると,被
告が製造販売している商品前出し装置は,本件発明と均等な構成というべきであ
る。
(被告の主張)
ア原出願において,原告が,「商品陳列ケースの側板に対して着脱可能」
としていたクレームを「商品陳列ケースの底側に着脱可能」と変更したこと,原出
願の明細書の「発明の効果」に,「商品の大きさ,重量等に対応してローラ等を簡
単に選択変更することができる効果がある。」と記載されていること,本件特許請
求の範囲において,ローラ支持板が「底側に組付けられ」と明示されていることか
らすると,構成要件(イ)の「ローラ支持板」は,商品陳列ケースの底側に着脱可能に
組み付けられているものに限定されなければならない。
 しかるに,被告が製造販売している商品前出し装置には,着脱可能に組み付けら
れるローラ支持板は存しない。
イ 原出願の当初の明細書に,商品陳列ケースの底側において,一体に組み
付けるローラ支持板を技術思想とするような記載は一切ないし,また,原出願の当
初の特許請求の範囲請求項1にいう「組み付ける」も,上記明細書の他の個所で
は,各別体をなす部材を相互に一体的に結合する状態を表現する用語として使用さ
れているから,本件発明において,ローラ支持板が商品陳列ケースと一体に成形さ
れている構成を,「組付けられ」ているということはできない。
ウ「ローラ支持板」は,原出願の当初の明細書において,11の請求項中
5つの請求項においてクレームされた要件であること及び本件明細書の「発明が解
決しようとする課題」における記載に照らすと,「ローラ支持板」は,本件発明の
本質的部分である。
 また,「ローラ支持板」が,原告の主張のように,商品陳列ケースと一体となっ
ているものも含むとすると,そのような商品陳列棚は,本件特許の出願過程におい
て拒絶理由通知によって出願前公知とされたもので,原告もこれを争っていないか
ら,均等の要件のうち,「対象製品が出願時の公知技術から容易に推考できたもの
ではないこと」を充足しない。
(4)争点(4)について
(原告の主張)
ア被告が製造販売している商品前出し装置は,ストッパ10が,係止爪1
2を有するレール部材11と,レール部材11の溝13に差し込みされるコロビ止
め14から構成され,ストッパ10は,係止爪12がローラマット1の前端部に設
けられている係止片15に係止することで着脱可能に設けられているので,構成要
件(エ)を充足する。
イ 仮に,コロビ止め14のみが「ストッパ」であるとしても,コロビ止め
14は,溝13に差し込まれて係止するところ,溝13が「係止片」に該当すると
ともに,コロビ止め14の下端が「係止爪」として機能し,下端に「係止爪」があ
ると認められるから,構成要件(エ)を充足する。
(被告の主張)
 被告が製造販売している商品前出し装置において,商品が外方に転落する
ことを防止する作用効果を有する「ストッパ」に該当するのは,転び止め板(スト
ッパー)5であるところ,この部材は,その下端に係止爪を有しておらず,フロン
トレール4の前面壁4aと段違いリブ4cとの間に形成された転び止め板挿入溝4
bに抜き差しすることで着脱自在となっているから,本件発明の「ストッパ」には
当たらない。
    また,フロントレール4は,複数のローラマット1を隣接するローラマッ
ト1との間に所望の間隔をとって連結固定するための部材であって,かつ,顧客の
商品陳列ケースの棚面に凹凸がある場合に複数のローラマット1を直接棚上に載置
した場合に生じるローラマット1の面上のゆがみを避け,複数のローラマット1の
面上を均整のとれたものにするための部材であるから,本件発明における「商品陳
列ケース」とは,その目的,構成及び作用効果において全く相違する。さらに,フ
ロントレール4の前面壁4a及び段違いリブ4cは,本件発明におけるストッパ下
端の係止爪のようなものと係合するものではないから,本件発明における「係止
片」に該当しない。
 したがって,被告が製造販売している商品前出し装置は,構成要件(エ)を充
足しない。
(5)争点(5)について
(原告の主張)
ア全体としてローラを敷きつめてなるマットで左右方向に長い方形の全体
形状と,多数のローラが前後方向にわたって前出し可能に並設されたローラ部を有
する形状が,本件意匠の出願前に公知であったことに照らすと,本件意匠の特徴
は,左右方向に長い方形で前出し可能に多数のローラが並設されたローラ部を有す
るマットにおいて,
(ア) 軸長のローラが並設されてなるローラ部を有し,ローラ部が冷蔵庫等
の陳列ケースの各棚に敷設して邪魔とならない程度の薄いマット状を呈し,
(イ)  長寸ローラの幅で前後方向に並設してなるローラ部を細枠で囲んだ
ものを1単位とし,この細枠を左右方向に8列組付し,その前後端にそれぞれ細枠
状で左右方向にわたって側板用溝部を多数配置する全体配置形状を備え,
(ウ) マットの前端に配置される透明なストッパを有していること
であると認められる。
イ 被告が製造販売している商品前出し装置の意匠構成は,ローラを敷きつ
めてなるマットにおいて,
(ア) 軸長のローラが並設されてなるローラ部を有し,ローラ部が冷蔵庫等
の陳列ケースの各棚に敷設して邪魔とならない程度の薄いマット状を呈し,
(イ)  長寸ローラの幅で前後方向に並設してなるローラ部を細枠で囲んだ
ものを1単位とし,この細枠を左右方向に8列組付し,その前後端にそれぞれ細枠
状で左右方向にわたって側板用溝部を多数配置する全体配置形状を備え,
(ウ) マットの前端に配置される透明なストッパを有している
ものであると認められる。
したがって,この装置の意匠は,本件意匠に類似している。
(被告の主張)
ア本件意匠の構成は以下のとおりである。
(ア)全体として縦横寸法比略1:1.43の長方形の一体形状からなり,
前端部には透明体のストッパ部が配され,左右サイド,後端部にはいずれも立壁は
存在しない。
(イ)平面図においては,上下端に略同一幅の長方形の枠体が配され,この
長方形の枠体の内側には,いずれにも120本の短いリブが簀垂れ状に縦に懸架さ
れ,さらに2つのこの長方形の枠体は7本の長いリブで連結され,7本の各リブ間
には多数のローラが架設され,全体として,1つの平面になっている。
(ウ)底面図においては,左右方向に8列,縦方向に上中下3列の下駄状凸
部がある。
本件意匠は,それと極めて近似した意匠が,本件意匠の出願後である
が,複数登録されていることからすると,本件意匠の範囲は,本件意匠を構成する
各構成要件によって具体的に現れる極めて狭い意匠の範囲に限定される。
イ 被告が製造販売している商品前出し装置においては,ローラマット1の
前端の透明の転び止め板5,独特の形状及び意匠を有する左サイド仕切板レール2
及び右サイド仕切板レール3,マットベース8のテール11の後端に所定の間隔で
起立する4つの商品押し戻しストッパ11bが存する。平面図においては,マット
ベース8のヘッド9及びテール11の掛け違い防止前列チドリ穴12及び掛け違い
防止後列チドリ穴13,回転ローラー7の奥のエアホール8dが独特の模様となっ
て浮き上がっている。底面図においては,32個のエアホール8dと回転ローラ7
からなる列状の模様が現れ,背面図においては,所定の間隔で起立する4つの押し
戻しストッパー11bが見られる。左右側面図においては,転び止め板5が斜め
に,商品押し戻しストッパ11bが直立した状態で見られ,スマートな印象を醸成
している。
 以上のように,被告が製造販売している商品前出し装置は,本件意匠とは全く異
なる非類似の構成からなり,全体として,本件意匠とは非類似の意匠である。
(6)争点(6)について
(原告の主張)
ア被告は,別紙原告第1物件目録記載の商品前出し装置を,平成12年1
月14日から平成12年3月までの間に,少なくとも1000台製造販売し,その
販売高は600万円を下らない。
 原告は,本件発明を実施しているところ,原告が被告の上記製造販売相当数を製
造販売すれば,少なくとも,上記被告の販売高の35パーセントに当たる210万
円の利益を得られた。
 また,この利益額は,被告が,本件意匠権を侵害して得た利益と同額である。
イ 被告は,別紙原告第2物件目録記載の商品前出し装置を,平成11年6
月から平成12年3月末までの間に,少なくとも5000台製造販売し,その販売
高は3000万円を下らない。
 原告は,本件意匠を実施しているところ,原告が被告の上記製造販売相当数を製
造販売すれば,少なくとも,上記被告の販売高の35パーセントに当たる1050
万円の利益を得られた。
 また,この利益額は,被告が,本件特許権を侵害して得た利益と同額である。
(被告の主張)
 損害の発生及び額については争う。
 被告は,別紙被告物件目録記載の商品前出し装置について,14セットを無償提
供し,142セットを販売したにすぎない。
第4当裁判所の判断
1 争点(1)について
証拠(甲5,乙4,5)と弁論の全趣旨によると,被告が製造販売している
商品前出し装置は,別紙物件目録記載のとおり特定される(以下,この目録に記載
した商品前出し装置を「被告製品」という。)。
2 争点(3)について
(1) 本件特許が,原出願からの分割出願によるものであることは,当事者間に
争いがないところ,証拠(乙1の1)によると,原出願の当初の明細書において,
特許請求の範囲請求項1,2及び4は,次のとおりであったことが認められる。
 請求項1
 「両側板が相対して設けられ前後方向に商品を陳列する商品陳列ケースと,
商品陳列ケースの底側に後方から前方に向けて下降傾斜する状態で回転可能に架設
された多数個のローラと,商品陳列ケースの前端部に設けられ陳列の最前部の商品
に当接するストッパとからなる商品陳列取出ユニット」
  請求項2
 「請求項1の商品陳列取出ユニットにおいて,ローラの軸受構造は,上縁か
ら半円形に切込まれた軸受孔が設けられて商品陳列ケースの側板に固定される下部
ローラ支持板と,下縁から半円形に切込まれた軸受孔が設けられて商品陳列ケース
の側板または下部ローラ支持板に固定され下部ローラ支持板に組付けられる上部ロ
ーラ支持板とからなることを特徴とする商品陳列取出ユニット」
  請求項4
 「請求項1の商品陳列取出ユニットにおいて,ローラの軸受構造は,ローラ
の押込により弾圧変形してローラを抜止め嵌合させる軸受孔が設けられて商品陳列
ケースの側板に固定されるローラ支持板からなることを特徴とする商品陳列取出ユ
ニット」
 また,上記証拠によると,上記明細書において,特許請求の範囲請求項3
及び5は,特許請求の範囲請求項2及び4を,それぞれさらにローラ支持板が商品
陳列ケースから着脱可能なものに限定したものであること,上記明細書の実施例及
び図面(図3,4,7ないし10)において,下部ローラ支持板,上部ローラ支持
板及びL字型ローラ支持板として,商品陳列ケース自体とは独立した部材であるロ
ーラ支持板を用いた技術が開示されていたこと,以上の事実が認められる。
 以上の事実によると,原出願の当初の明細書における特許請求の範囲請求
項1においては,ローラの軸受構造に何らの限定もないが,請求項2ないし5にお
いては,ローラの軸受構造として,商品陳列ケースとは別部材である「ローラ支持
板」を用いるものに限定していることが認められる。
また,証拠(甲2,乙1の1,2,乙2の1ないし4)によると,本件特
許は,上記原出願の請求項1について「引用例1には,商品の自重による移送具と
してコロを用いた商品陳列棚が記載されている」との拒絶理由通知書が発せられた
後に,上記原出願から分割出願されたものであるが,分割出願当初の明細書におけ
る特許請求の範囲は,請求項1及び2からなり,そのいずれも「ローラ支持板」を
用いた技術についてのものであったこと,本件特許は,その後,請求項2を削除
し,請求項1につき「ストッパ」の要件を加重する補正を経て,登録されたこと,
本件明細書の実施例及び本件特許に係る図面に,原出願の当初の明細書の実施例及
び図面のうち,L字型ローラ支持板を用いたものが,そのまま用いられているこ
と,以上の事実が認められる。
 以上のような本件特許の出願の経緯及び本件特許請求の範囲に「ローラ支持板」
は商品陳列ケースの底側に「組付けられ」るものであることが記載されていること
に照らすと,本件特許における「ローラ支持板」は,「商品陳列ケース」とは別個
の部材であると認めるのが相当である。
 被告製品においては,上記1認定のとおり,ローラ7の回転ローラ軸7aは,ロ
ーラマット1に形成された回転ローラ軸収納穴14に架設されているから,ローラ
の軸受構造として,ローラマット1とは別にローラを架設する独立の部材があると
は認められない。
したがって,被告製品は,構成要件(イ)の「ローラ支持板」を充足しない。
なお,原告は,被告製品について,ローラマット1の底板16に一体に組
み付けられているローラ支持板17が存すると主張するが,前記認定のとおり,ロ
ーラマット1の底板16とは別部材のローラ支持板17が存するということはない
から,原告の上記主張は,ローラマット1の底板16と一体となっている構成部分
の一部をローラ支持板17と認めるべきであるという主張と解される。しかるとこ
ろ,このようなものを本件発明の構成要件(イ)の「ローラ支持板」と認めることがで
きないことは,前述のとおりである。
(2)原告は,被告製品が「ローラ支持板」を充足しないとしても,被告製品は
本件発明と均等であると主張する。
均等が成立するためには,被告製品が,本件発明の特許出願手続において特許請
求の範囲から意識的に除外されたものに当たらないことを要するが,上記(1)のとお
り,本件特許は,ローラ支持板を用いる商品前出し装置と,ローラ支持板を用いず
に商品陳列ケースに直接ローラを架設する商品前出し装置の双方が含まれていた原
出願から,「ローラ支持板」を用いる商品前出し装置に限定して分割出願したもの
と認められるから,被告製品のように「ローラ支持板」を用いない商品前出し装置
については,特許請求の範囲から意識的に除外されたものと認めるのが相当であ
る。
 したがって,被告製品について,均等の成立を認めることはできない。
3 争点(4)について
(1)原告は,被告製品のフロントレール4と転び止め板5を合わせたものが
「ストッパ」に当たると主張する。
 しかしながら,証拠(甲2)によると,本件明細書において,「発明の効果」の
欄に,「商品の大きさ,重量等に対応して最前部のストッパを交換することがで
き,その際にストッパの係止爪と商品陳列ケースの係止片とで最前部のストッパを
簡単に選択交換できると同時に確実に係止固定できる効果がある」(6欄24ない
し28行)との記載があることが認められるから,「ストッパ」は,商品の大き
さ,重量等に対応して交換するものであると認められるが,証拠(甲6,7)と弁
論の全趣旨によると,被告製品において,商品の大きさ,重量等に対応して交換さ
れる部材は転び止め板5のみであって,フロントレール4は交換されないものと認
められる。
 また,証拠(甲2)によると,本件明細書の実施例においても,被告製品の転び
止め板5に相当する部材のみが「ストッパ5」とされ,この部材自体に係止爪があ
ることが認められる。
 以上によると,被告製品の転び止め板5とフロントレール4を合わせたものが
「ストッパ」に当たるとは認められない。
(2)原告は,転び止め板5が「ストッパ」に該当し,被告製品の転び止め板挿
入溝4bが「係止片」に,転び止め板5の下端が「係止爪」にそれぞれ該当すると
も主張する。
 しかしながら,証拠(乙2の1ないし4)によると,本件特許は,分割出願時の
特許請求の範囲においては,ストッパの形状や商品陳列ケースとストッパとの係止
構造について何ら限定がなかったところ,「引用例2には,陳列棚の前端部に着脱
可能に設けられた補助ストッパー板が記載されている」旨の拒絶理由通知書が発せ
られたこと,原告は,特許請求の範囲を補正して,構成要件(エ)を付加するととも
に,発明の効果として,ストッパを確実に係止固定できる効果があることを付加
し,意見書において,引用例においては構成要件(エ)のような係止爪と係止片とによ
る具体的着脱構造が記載されていない旨主張したこと,その後,本件特許が登録さ
れたこと,以上の事実が認められる。そうすると,本件発明は,ストッパの下端に
「係止爪」があり,商品陳列ケースに,この係止爪と係合する「係止片」があり,
これらの係合によって,ストッパが商品陳列ケースに確実に係止固定されるもので
あると認められる。
 被告製品においては,上記1認定のとおり,転び止め板5には,特段の機構はな
く,フロントレール4の転び止め板挿入溝4bに差し込まれているだけであるか
ら,転び止め板5の下端に「係止爪」があるとは認められないし,転び止め板5
が,商品陳列ケースに,係止爪と係止片によって,確実に係止固定されているとも
認められない。 
(3)したがって,被告製品は,構成要件(エ)を充足しない。
4 争点(5)について
(1)証拠(甲4)によると,本件意匠の構成は,次のとおりであることが認め
られる。
ア 左右方向に広がる方形の薄いベース上に軸長のローラが敷きつめられて
なるローラ部と,その前後端にそれぞれ細枠状で左右方向にわたって配置される溝
部を有する。
イ ローラ部は,前後方向にわたる細枠を1単位として左右方向に8列配置
されている。
ウ 溝部は,仕切り板の前後下端が係入する長溝を,左右方向に配列して構
成される。
エ 前側の側板用溝部の前側に,ベースにほぼ垂直に起立し,先端が内側に
折れ曲がった透明なストッパ部を有する。
オ ベースの底面は,左右方向に8列,縦方向に3列の下駄状凸部があり,
各凸部には,左右方向の凸状部がある。この下駄状凸部は,平面からは,観察でき
ない。
(2)証拠(甲5,6,乙4)と弁論の全趣旨によると,被告製品の意匠の構成
は,次のとおりであることが認められる。
ア 左右方向に広がる方形の薄いローラマット上に,軸長のローラが敷きつ
められてなるローラ部,その前後端にそれぞれ細枠状で左右方向にわたって配置さ
れる溝部及び左右の仕切板を有する。
イ ローラ部は,前後方向にわたる細枠を1単位として左右方向に8列配置
されている。
ウ 溝部は,120本のスルーリブが形成され,仕切り板の前後下端が係入
する掛け違い防止チドリ穴が,前後2列に位相して配置され,左右方向に配列され
ている。
エ 前側の側板用溝部の前側に,やや斜めに起立し,先端は折れ曲がってい
ない透明な転び止め板を有する。
オ 後側の側板用溝部の後側に,所定の間隔を空けてマットにほぼ垂直に起
立した4つの商品押戻しストッパーを有する。
カ ベースの底面は,左右方向に8列,縦方向に4列のエアホールが形成さ
れる。エアホールは,平面からも,回転ローラの隙間から観察される。
(3)本件意匠と被告製品の意匠を対比すると,次の点で共通している。
ア 左右方向に広がる方形の薄いベース上に,軸長のローラが敷きつめられ
てなるローラ部と,その前後端にそれぞれ細枠状で左右方向にわたって配置される
溝部を有する。
イ ローラ部は,前後方向にわたる細枠を1単位として左右方向に8列配置
されている。
ウ 前側の側板用溝部の前側に,透明なストッパ部を有する。
(4)一方,本件意匠と被告製品の意匠は,次の点で相違している。
ア 本件意匠の溝部は,1列の長溝が一定間隔で左右に配置されているのに
対し,被告製品の意匠の溝部は,120本のスルーリブが形成され,仕切り板の前
後下端が係入する掛け違い防止チドリ穴が,前後2列に位相して配置され,左右方
向に配列されていて,独特の形状をなしている。
イ 本件意匠は,ベースの左右側部及び後部には何らの部材も無いが,被告
製品の意匠は,後側の側板用溝部の後側に,所定の間隔を空けてマットにほぼ垂直
に起立した4つの商品押し戻しストッパーがあり,ローラマットの左右には仕切板
が起立している。
ウ 本件意匠のストッパは,商品陳列ケースの前端部にほぼ垂直に起立し,
その先端が内側に折れ曲がっているのに対し,被告製品の転び止め板は,ローラマ
ットの前端部にやや斜めに起立し,その先端は折れ曲がっていない。
エ 本件意匠は,ベースの底面が,左右方向に8列,縦方向に3列の横方向
の凸状部がある下駄状凸部があり,各凸部は,平面からは観察されないのに対し,
被告製品の底面は,左右方向に8列,縦方向に4列のエアホールが形成され,エア
ホールは,平面図からも,回転ローラの隙間から観察され,独特の模様を形成して
いる。
(5)以上の事実に,本件意匠に係る物品である商品前出陳列用具の用途及び使
用態様並びに証拠(甲9ないし11,乙1の2)によると,本件意匠の出願前に,
左右方向に広がる方形のベース上に,多数のローラが敷きつめられており,その前
面に垂直に起立する前面板が設けられている商品陳列棚が知られていたものと認め
られることを総合すると,本件意匠の構成態様のうち,上記(3)の共通点に掲げた各
態様のみならず,溝部,ベースの左右側部と後部及びストッパ部の各具体的な態様
並びに回転ローラの隙間から観察される模様についても,看者の注意を惹く部分で
あるということができるから,これらについても,上記(3)の共通点とともに,本件
意匠の要部であると認められる。そして,上記(4)認定のとおり,本件意匠と被告製
品の意匠とでは,溝部,ベースの左右側部及び後部,ストッパ部の各態様並びに回
転ローラの隙間から観察される模様が異なっているから,本件意匠と被告製品の意
匠は,類似するとは認められない。
5 よって,原告の請求は,いずれも理由がない。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官   森 義之
裁判官岡口基一
裁判官男澤聡子
別紙 原告第1物件目録
  第1図第2図第3図第4図
別紙 原告第2物件目録
  第1図第2図・第3図第4図第5図
別紙 被告物件目録
被告装置説明書
 
 別紙図面
第1図第2図第3図第4図第5図
第6図第7図第8図第9図第10図
第11図第12図第13図第14図
第15図第16図第17図
別紙物件目録
 下記説明並びに別紙図面に示される商品前出し装置
   記
第1 構成の説明
14つのローラマット1,左右サイド仕切板2及び3,フロントレール4並び
に転び止め板5からなり,
2 ローラマット1には,前後方向にわたって回転ローラ軸収納穴14が多数形
成され,回転ローラ軸収納穴14にローラ7の回転ローラ軸7aが架設され,
3 ローラマット1は,その前後端の掛け違い防止前列チドリ穴12及び掛け違
い防止後列チドリ穴13に仕切板6が係入,立設されるとともに,両側には左右サ
イド仕切板2及び3が立設され,これらによって,ローラ面上が前後方向にわたっ
て区分けされ,
4 ローラマット1の前端部にはフロントレール4が係止し,
5 フロントレール4の転び止め板挿入溝4bには転び止め板5が差し込まれて
いる。
第2 図面の説明
1被告製品の使用状態を表した斜視図
2 マットベースの全体図
3 マットベースと回転ローラの関係図
4 フロントレールと転び止め板の関係図
5 マットベースのヘッド,テールの構成図
第3符号の説明
A   商品
1   ローラマット
2   左サイド仕切板
3   右サイド仕切板
4   フロントレール
4a  前面壁
4b  転び止め板挿入溝
4c  段違いリブ
5   転び止め板
6   仕切板
7   ローラ
7a  回転ローラ軸
8   マットベース
8aマットベース中央壁
8bマットベース左側壁
8cマットベース右側壁
8d  エアホール
9ヘッド
9a  スルーリブ
10  ボディ
10a回転ローラ収納凹部
11  テール
11a スルーリブ
11b商品押し戻しストッパ
12  掛け違い防止前列チドリ穴(a01~a24)
13  掛け違い防止後列チドリ穴(b01~b24)
14  回転ローラ軸収納穴
15  ローラ組み付け用ガイド溝
  第1図第2図第3図第4図第5図

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛