弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     一、 原判決を取り消す。
     二、 本件異議の申立てを却下する。
     三、 訴訟の総費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人らは、「原判決を取り消す。神戸地方裁判所姫路支部昭和三六年
(ヨ)第九八号立入禁止等仮処分申請事件について、同裁判所が昭和三六年八月二
四日にした仮処分決定を取り消す。被控訴人の本件仮処分申請を却下する。訴訟費
用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、
「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
 なお、当裁判所が本件について第一審異議裁判所として審理判決するときは、そ
の請求の趣旨として、「被控訴代理人は、「本件仮処分を認可する。訴訟費用は控
訴人の負担とする。」との判決を求め、控訴代理人らは、「本件仮処分を取り消
す。訴訟費用は被控訴人の負担とする。」との判決を求めるとのべた。
 一、 被控訴代理人主張の本件仮処分の申請理由。
 (一) 訴外Aは、被控訴人の四男であるが、浪費癖があり、芸妓を身請けして
酒色に耽り、約金六、〇〇〇万円もの借財をするに至つた。被控訴人は、仕方なし
に数年来、らち約金五、〇〇〇万円の借財の立替払いをした。
 (二) それでも、同人は依然浪費をやめず、正業に従事しないで遊興を続け、
その費用に窮した挙句、被控訴人所有の別紙第一目録記載の山林(以下本件山林と
いう)の立木を被控訴人の印鑑を偽造したうえ、控訴人の被承継人Bに売却した。
Bは、昭和三六年八月一二日頃から、本件山林に立ち入り、その立木の伐採をはじ
めた。
 このことを知つた被控訴人は、直ちにBに対し、自己の山林であることを主張し
て伐採の中止方を申し入れたが聞き入れられず、その伐採が継続されている。
 (三) 被控訴人は、本件山林の所有権にもとづき妨害排除の本訴を提起しよう
として準備中であるが、このまま放置すると、本件山林の立木は伐採し尽され、被
控訴人は回復できない損害を被るととが必定である。
 (四) そこで、被控訴人は、昭和三六年八月一四日神戸地方裁判所姫路支部に
右Bを被申請人として本件仮処分の申請をした(同裁判所同年(ヨ)第九八号事
件)ところ、同裁判所は、同月二四日別紙第二目録記載の仮処分決定をした。
 被控訴人は、この仮処分決定に対し、大阪高等裁判所に対し抗告したところ、同
裁判所は、同年一〇月二八日別紙第三目録記載の決定をした。
 控訴人は、同年九月三〇日Bから、本件仮処分決定にもとづく仮処分執行の解放
を条件に本件山林の立木を買い受けBの地位を承継した。
 (五) 以上の次第で、本件仮処分決定は控訴人に対しても至当であり認可され
るべきである。
 二、 控訴代理人らの右申請理由に対する認否ならびに主張。
 (一) 神戸地方裁判所姫路支部並びに大阪高等裁判所が、被控訴人主張の各決
定をしたこと、及び、控訴人が被控訴人主張の事由でBの地位を承継したことは認
める。
 (二) Bは、昭和三六年六月二〇日被控訴人の代理人であるAから本件山林の
立木を買い受けた。
 かりに、Aに代理権がないとしても、被控訴人は、本件山林したがつてその立木
の所有権者ではない。すなわち被控訴人は同年六月二七日訴外Cに本件山林を贈与
し、同年八月二一日、二二日の両日にわたつてその所有権移転登記手続をした。
 したがつて、被控訴人は本件山林の立木の所有権を有しないから、本件仮処分の
被保全権利を有しておらないことになる。
 (三) 本件仮処分決定は、どの部分の山林の立木の伐採を禁止し、又立入りを
禁止したものか、その範囲が特定していない、なぜならば、本件山林の地番の境界
自体に争いがあるのであるから、係争立木の範囲を特定するためには、地番の表示
だけでは足らないからである。したがつて、本件仮処分の目的物件が不特定である
以上、本件仮処分決定は執行できないわけであるから、無効のものとして取り消さ
れなければならない。
 (四) 本件仮処分の解放金額が金一、三〇〇万円に決められているが、この金
額は不当である。すなわち、本件山林の立太はBが昭和三六年一〇月三日から昭和
三七年二月七日までの間に伐採搬出したもので、控訴人は、それを金一、一一一万
五、〇九二円で買い受けた。したがつて、本件山林の立木の評価額は同額であり、
解放金額もこれによるべきである。
 三、 被控訴代理人の右主張に対する反駁
 (一) 控訴代理人ら主張のとおり本件山林についてCに対する贈与を原因とし
た所有権移転登記のあることは認める。
 (二) しかし、右贈与は被控訴人とCとの通謀による虚偽表示にもとづくもの
であつて無効である。すなわち、被控訴人は、Aが、被控訴人の印鑑を偽造したう
え本件山林の立木をBに売却したことを知り、登記名義を第三者に移しておく方が
財産保全に役立つものと考え、真実所有権を移転する意思がないのにCと謀り、本
件山林について所有権移転登記手続をしたにすぎない。したがつて、これら登記
は、当然抹消されるべきであり、現に、被控訴人は、昭和三七年三月六日錯誤を理
由にその抹消登記手続をした。
 なお、右のように抹消登記手続をしたのは、本件山林についてだけでなく、その
ほかにも、十数筆ある、そして、被控訴人は、所轄税務署に贈与税申告をしたこと
はない。
 (三) かりに、民法九四条による虚偽表示の主張が理由ないとしても、右贈与
を原因とする所有権の譲渡は、要素の錯誤によつて無効である。被控訴人は、昭和
三六年八月一四日自己名義で神戸地方裁判所姫路支部に本件の仮処分申請をしてお
きながら、狼狽の極、そのことを失念し、同月二一日二二日の両日にわたつてCに
対し右有権移転登記手続をしたもので、もともと仮処分申請をしたことを意識した
ならば、右所有権移転登記手続はしなかつたはずである。したがつて、登記をする
ということの動機に思い違いがあつたわけで、この動機は、この場合要素の錯誤に
なるというべきである。
 (四) 本件仮処分決定は、その主文で、どの部文の立木の伐採を禁止し、又立
入りを禁止しているかが明確に示されているばかりか、本件山林と隣接山林との境
界は、はつきりしている。
 (五) 控訴人主張の本件山林の立木の評価額を否認する。被控訴人が昭和三八
年一一月二二月二三日の両日に、実地調査したところ、その才数は、三八七、七六
〇才であつた(伐根四八四本で一本の平均才数は八〇本として計算)。したがつ
て、その評価額は、金一、七四三万九、〇〇〇円になるから、被控訴人が、これま
で損害として主張している金一、六五〇万円は、これを下廻ることになり、被控訴
人の主張している右金額は不当ではない。
 四、 控訴代理人らの右反駁に対する主張。
 (一) Cは、本件山林したがつて立木が、自己の所有であることを前提に、昭
和三七年一月五日本案の訴を提起した(原審昭和三七年(ワ)第一号事件)が、控
訴人が本件異議の申立てをしたところ、異議申立書の申立理由を否認するため、殊
更らに、C名義の所有権移転登記を、錯誤を理由に抹消して、被控訴人の名義に回
復させ、被控訴人名義で、本案の訴を提起しなおした(原審同年(ワ)第五八号事
件)。しかし、被控訴人とC間の所有権移転には決して錯誤はない。錯誤があれ
ば、右昭和三七年(ワ)第一号事件で、Cは、本件山林の立木が自己の所有である
と主張するはずがない。
 (二) Bは、本件山林の立木のほか、その隣接地である兵庫県神崎郡a町bc
dのe、f、g、h、i、j、k、lの八筆の山林の立木も一括して買い受けた。
ところが、その後、Cは、右売買契約書中に右八筆が脱落していることを発見し、
これが仮処分決定の物件目録中に入つていないことを口実に、第三者に売却して伐
採させ、Bは、これによつて金五〇〇万円ばかり損害を被つたが、その時、Cは、
本件山林は全部自分が父から贈与を受け、自分名義のものであるから、今後一切の
権限は自分にあると公言した。このことからしても、本件山林は、真実Cに贈与さ
れたもので、決して被控訴人が主張するように錯誤でもなければ、通謀虚偽表示で
もないことは明らかである。
 (三) 被控訴人は、昭和三三年二月七日Cに対し、既に、本件山林のうち三筆
について、死因贈与を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記手続をしているの
であるから、右贈与は、被控訴人が自己の死亡を待ち切れず、単に贈与の時期を生
前贈与にきりかえただけである。本件山林のうち残りの六筆についても、被控訴人
は、訴外D、同E、同Fに同様死因贈与を原因とする所有権移転請求権保全の仮登
記手続をしたが、これらも、Aの印鑑偽造が動機となつて、親族一同相談のうえ、
Cに生前贈与することにし、その旨の所有権移転登記手続をしたものである。した
がつて、被控訴人とC間の本件山林の贈与は真実になされたもので、通謀虚偽表示
によるものではない。そのことは、被控訴人が、昭和三七年二月所轄の税務署に贈
与税課税申告をしていることから明らかである。
 (四) 被控訴人は、昭和三七年三月六日錯誤を原因に、本件山林の所有権移転
登記の抹消登記手続をしたが、錯誤により抹消登記をしたのは、単に本件山林だけ
で、他の物件は、依然としてCに贈与を原因とした所有権移転登記手続がされたま
まである。したがつて、右抹消登記は、本件異議訴訟における防禦方法としてされ
たにすぎない。
 疎明関係
 一、 被控訴代理人
 甲第一号証の一ないし九、同第二ないし第一五号証を提出、当審証人Gの証言を
援用、乙第五号証の成立を否認、同第六号証の一ないし三七、同第七ないし第一三
号証の成立はいずれも不知、その余の同号各証の成立を認める。
 二、 控訴代理人ら
 乙第一号証の一ないし九、同第二、三号証、同第四号証の一ないし七、同第五号
証、同第六号証の一ないし三七、同第七ないし第一二九号証(ただし同第五二号証
は欠号、同第一六、六四、九六号証はいずれも一、二)を提出、当審証人H(第
一、二回)、同B、同Iの各証言を援用、甲第三ないし第六号証、同第八、九号証
の各成立は不知、そのほかの同号各証の成立を認める。
         理    由
 第一、 職権をもつて本件異議訴訟の管轄、ついで控訴人の異議申立権の有無に
ついて判断する。
 一、 管轄について
 (一) 神戸地方裁判所姫路支部は、昭和三六年八月二四日、被控訴人が債権者
として申し立てた仮処分申請を容れ、別紙第二目録記載の仮処分決定をしたこと、
被控訴人が、これに対し大阪高等裁判所に抗告の申立てをしたところ、抗告裁判所
は、同年一〇月二六日別紙第三目録記載の決定をしたことは当事者間に争いがな
く、控訴人が、昭和三七年一月二三日神戸地方裁判所姫路支部に仮処分決定に対す
る異議の申立てをしたことは当裁判所に顕著な事実である。
 (二) 仮処分債権者は、口頭弁論を経ずに決定によつて仮処分申請を却下され
たとき、民訴法四一〇条によつてこの決定に対し抗告の申立てをすることができ、
その却下決定が、全部却下であるか、一部却下であるかを問わないのはいうまでも
ないが、抗告審がその抗告を容れて申請にそう仮処分決定をしたとき、これに対す
る異議訴訟は、当該仮処分決定をした抗告裁判所の専属管轄に属するものといわな
ければならない。もつとも、この点について仮処分の申請を受けた裁判所の管轄に
属するものとする先例(大審院大正一三年(ク)第三六四号同年八月二日決定、民
集三巻三八六頁)がないではないが、異議は同一審級内において、弁論を経て申請
の再審理をするための制度であることからすると、抗告裁判所が異議訴訟の管轄裁
判所であるとするのは当然である。
 もつとも、このように解すると、異議申立人から審級の利益を失なわしめること
にはなるが、これは、抗告審において、弁論を開き、判決によつて仮処分をした場
合についでも生ずるし、また下級審をして上級審のした仮処分の内容の再審理をさ
せることは実際的にも妥当ではないから、前記欠点にもかかわらず、抗告裁判所に
異議訴訟の管轄があると解すべきである。
 (三) したがつて、仮処分の申請が全部却下されたとき、または、申請の一部
却下の場合でも、その却下部分に対応する申請が独立した内容のものであるとき
は、抗告審が抗告を容れてした仮処分も独立のものであるから、これに対する異議
訴訟は抗告裁判所の管轄に属することは明白であるが、申請却下部分が、申請認容
部分と不可分一体をなしているとき(後記説示の無条件の仮処分申請に対し、解放
金額を付して認容した場合など)、抗告審が却下部分に対する抗告を容れてした仮
処分の異議訴訟の管轄裁判所が仮処分申請を受理した裁判所か、それとも抗告裁判
所かという問題は、抗告審がした仮処分の性質、態様や、原決定との関係をどうみ
るかということと関連する問題である。以下解放金額を中心に詳論する。
 (四) (1)ところで、本件は、前記(一)によつて明らかなとおり解放金額
を付した原仮処分決定と、その解放金額を増額した抗告審の決定とがあるので、仮
処分異議は、どの仮処分を対象にどの裁判所に提起すべきかが問題になる。
 そこで、まず、仮処分に解放令額を付したこと、ないしはその金額について、抗
告ができるかどうかを考察してみると、仮処分事件について、その申請の趣旨の範
囲内で、どんな仮処分方法が、保全目的に適するかを決定するのは、仮処分裁判所
の自由裁量に属し(民訴法七五八条一項)、仮処分の方法に関する債権者の申請
は、一種の提案に過ぎないから、その提案が容れられなかつたからといつて、直ち
に不服申立てが許されるわけではないが、仮処分に解放金額を付することが右趣旨
の仮処分の方法であるとすることはできない。けだし、解放金額は、金銭債権保全
の仮差押えに適合する制度(民訴法七四三条で仮差押命令の必要的記載事項となつ
ている。)であつて、特定物の請求権保全の仮処分にとつては、元来異質的なもの
であり、ただ特別事情による仮処分取消制度との均衡上、右取消しの要件を具備す
る場合だけ、解放金額制度の類推適用が肯定されるにすぎない(大審院大正一〇年
(オ)第二〇七号同年五月一一日判決、民録二七輯九〇三頁参照)したがつて、仮
処分に解放金額を付することは、その実質は、解放金額の供託を解除条件とする仮
処分をした場合あるいは、仮処分決定と同時に、解放金額の供託を条件としてその
取消しをした場合と近似し、債権者の被る影響の甚大である点からすると、むしろ
仮処分申請の一部却下とみるのが相当である。そうしてみると、無条件の(解放金
額を前提としない)仮処分申請に対し、解放金の制約(執行上の制約)を付するこ
とは、申請の一部排斥として、抗告による不服申立てができると解するのが相当で
ある。
 <要旨第一>(2) 右の場合、抗告審が抗告を容れて、却下部分の申請を認容す
る決定は、無条件の(解放全額を付さない)仮処分決定か、あるいは、
増額された解放金額を付した仮処分決定でなければならないのは当然である。ただ
単に、原仮処分決定の解放金額を付した部分を取り消すとか、あるいは、その解放
金額をいくらに増額するといつた内容のものでは、却下された申請に見合ら仮処分
をしたことにはならないのである。
 したがつて、抗告審の決定方式が、前記のように、単に解放金額に関する仮処分
条項を変更し、増額した解放金額を表示ずるだけであつでも、その趣旨は、原仮処
分決定の他の条項(仮処分方法を定める部分)と合体した仮処分をしたものであ
り、ただ表現形式を省略し、原仮処分決定の記載を引用する趣旨であると解すべき
である。
 (3) そうであれば、抗告審の仮処分決定と、原仮処分決定との関係が当然問
題になるが、前者が右のような仮処分決定をしたときは、原仮処分決定が、これに
当然吸収されて失効すると解するのが相当である。けだし、解放金額を付した仮処
分決定と無条件の仮処分決定ないし解放金額を増額した仮処分決定とは、両者が分
離できる量的なものではなく、そのうえ、その併立を許す利益もないのであるか
ら、制度上抗告審の決定が原決定より優位に立つべきものであるし、大は小をかね
る通則にしたがい、抗告審の決定に原決定が吸収包含されるとするのが当然である
からである。またこの見解を採つたからといつて、原決定の執行から抗告審の決定
への移行について、支障は生じない。すなわち、原決定の執行中に、抗告審の仮処
分決定がなされた場合でも、右吸収関係を認める以上、当初の執行を解放して、さ
らに執行し直すという不都合は生じないのである。
 (4) 右とは逆に、原仮処分決定が抗告審の決定によつて修正変更された内容
で存続するというような解釈は到底許されない。なぜならば、抗告審の仮処分決定
は、原仮処分決定の申請認容部分を修正変更するものではなく、申請却下部分に対
し、新たな仮処分決定をするのであるから、その効力は、既往に遡ることなく、し
たがつて、原仮処分決定の効力が膨張されて存続するということは考えられない。
この点は、仮処分異議が債務者の利益のため、仮処分決定(申請認容部分)の取消
し変更による修正を許し、認可部分は当初の仮処分の効力をそのまま存続させ、取
消部分は、仮執行の宣言を付することによつて即時失効させる建前になつているの
と異なる。そのうえ、前記見解にしたがうと、仮処分の異議訴訟は、原決定をした
裁判所の管轄となり、下級裁判所が上級裁判所の決定を再検討するという結果を招
くなど前記異議制度の根本的な趣旨に反する点からみても失当であるからである。
 (5) あるいは、また、抗告審の決定中、原仮処分決定の解放金額を付した部
分の取消し、あるいはこれが増額を定めた部分についての異議訴訟は、当該抗告審
の裁判所に、原仮処分決定についての異議訴訟は、これをした原裁判所に、それぞ
れ、分属して管轄が生ずるとすることは、元来一体であるべき解放金額と、それに
よつて制約される仮処分とを分離して区分に処理しようとするもので、理論的にも
肯認し難いばかりか、実際上も、両裁判所の審理判断は互に他方のそれを無視でき
ない関係から難渋をきわめるし、たとえ、審理、裁判ができたとしても、両者の矛
盾牴触(たとえば抗告裁判所が認可の裁判をするのに対し、原裁判所が取消しの裁
判をするという場合など)は、避けられないという不当な結果を生ずるから、この
見解も失当である。
 (五) そうしてみると、本件において仮処分異議の対象となる仮処分は、抗告
審の決定であり、したがつて、当裁判所が第一審としての専属管轄をもつわけであ
る。もつとも、本件異議の申立書には、神戸地方裁判所姫路支部のした仮処分決定
を表示し、これを対象としてその取消しを求めているかのような体裁になつてい
る。しかし、その真意は、本件において効力のある仮処分すなわち、抗告審の仮処
分決定の取消しを求める趣旨であると解されることは、弁論の全趣旨とりわけ控訴
人が本件控訴審の弁論で原判決摘示のとおり陳述し、その原判決事実摘示には、異
議の対象となる仮処分の表示として、抗告審が増額した解放金額を表示しているこ
と、また、控訴人が陳述した昭和三八年一一月五日付準備書面には、抗告審の決定
が不当であつて、取り消さるべきものであることを明記するとともに、その理由を
記載しているなどの経過に徴して明らかであるから、本件異議申立てが対象を欠く
不適法なものとすることはできない。
 しかし、本件異議申立てを受理した原裁判所は、管轄権がないのであるから、こ
れを看過してした原判決は専属管轄に違背する違法があり、民訴法三九〇条によ
り、原判決を取り消し、管轄裁判所に移送する旨の裁判をするべきである、しか
し、管轄裁判所である当裁判所には、すでに原判決に対する控訴によつて、本件が
係属しているため、さらに移送の裁判をすることは無用の手続をとることになるか
ら、当裁判所が第一審として、本件を審理、判断すべきものと解するのが相当であ
る(最高裁判所昭和二五年(オ)第三一四号昭和二六年二月二〇日判決、民集五巻
九四頁参照)。もつとも、それには、控訴審の手続を、第一審手続に切りかえる必
要があるが、口頭弁論でその旨を明らかにして第一審手続に移ることで十分であ
り、そのために移送の裁判あるいは差戻しの裁判を必要とするものではない。
 二、 異議申立適格について。
 そこで、当裁判所が本件の第一審として審理判断するにあたり、まず、控訴人に
異議申立ての適格があるかどうかについて検討する。
 <要旨第二>仮処分決定に対する異議申立ては、その仮処分手続内における仮処分
債務者(被申請人)の不服申立方法であるから、異議申立権者は、仮処
分債務者、その一般承継人、破産管財人に限られ、第三者は、特定承継人であつで
も異議申立権がないと解するのが相当である。ところで、本件仮処分債務者は、訴
外Bであつて、控訴人は、その主張によれば、本件仮処分が解放金額の供託によつ
てその執行が取り消されるとともに、右訴外人から仮処分物件を譲り受けた特定承
継人にすぎないのであるから、当然には異議申立権がないのである。
 控訴人のような特定承継人が仮処分を争う道は、潜在的に係属中の仮処分手続
に、民訴法七三条によつて承継参加をするとともに異議申立てをするほかはないの
である。本件において、控訴人が、そのような参加の申立てをした事跡はない。
 そうすると、控訴人の本件異議の申立では、不適法であつて却下を免れない。
 第二、 むすび
 以上の次第であるから、原判決を取り消し、本件異議の申立てを却下することと
し、民訴法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 金田宇佐夫 裁判官 日高敏夫 裁判官 古・慶長)
 第 一 目 録
兵庫県神崎郡a町b字cd番のm
 一、山林  一反六畝一二歩
同所d番のn
 一、山林  五反一畝八歩
同所d番のo
 一、山林  一町一反二五歩
同所d番のp
 一、山林  二反一歩
同所d番のq
 一、山林  二反七畝六歩
同所d番のr
 一、山林  一町八畝
同所d番のs
 一、山林  一反五畝
同所d番のt
 一、山林  三反二畝
同所d番のu
 一、山林  四反八畝二四歩
 第 二 目 録
 一、別紙目録記載の山林及び立木並びに右山林内にある伐倒木に対する被申請人
の占有を解いて申請人の委任する神戸地方裁判所姫路支部執行吏にその保管を命ず
る。
 二、被申請人は右山林内に立入り立木を伐採し、又は伐倒木を搬出してはならな
い。
 三、被申請人は第一項の山林立木並に伐倒木の占有を移転し又はこれを他に譲渡
してはならない。
 四、執行吏は前記各項の趣旨の実効を期するため適当の公示方法をとることが出
来る。
 五、被申請人が金九百万円也を供託するときは、この仮処分命令の執行の停止又
は既になされた執行処分の取消を求めることが出来る。
 目   録
兵庫県神崎郡a町b字cd番のm
 一、山林  一反六畝一二歩
同所d番のn
 一、山林  五反一畝八歩
同所d番のo
 一、山林  一町一反二五歩
同所d番のp
 一、山林  二反一歩
同所d番のq
 一、山林  二反七畝六歩
同所d番のr
 一、山林  一町八畝
同所d番のs
 一、山林  一反五畝
同所d番のt
 一、山林  三反二畝
同所d番のu
 一、山林  四反八畝二四歩
 第 三 目 録
昭和三六年(ラ)第二五七号事件につき、神戸地方裁判所姫路支部が同庁昭和三六
年(ヨ)第九八号事件について昭和三六年八月二四日になした仮処分決定の主文第
五項を次ぎのとおり変更する。
「被申請人が金一、三〇〇万円也を供託するときはこの仮処分命令の執行の停止又
は既になされた執行処分の取消を求めることができる。」
昭和三六年(ラ)第二五八号事件につき、同裁判所が昭和三六年一〇月三日になし
た前記仮処分決定の執行処分を取消す旨の決定はこれを取消す。

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