弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告D工業有限会社、被告人Eの弁護人宮林敏雄の上告趣意第一点について。
 論旨は原判決の認定しない事実を主張するものであつて上告適法の理由ではない。
(かりに論旨主張のように、被告会社並被告人Eの昭和二二年四月二二日における
板硝子六〇箱の取引が物々交換であつたとしても、右は物価統制令一三条により正
当の事由がないのに業務上価格等に対する給付に関し対価として金銭以外のものを
受くる契約をなし又は之を受領したものであつて違法たるを免れない。論旨は理由
がない。)
 同第二点について。
 原判決は被告会社は額縁同附属品の製造販売を業とし、そして被告人Eが右被告
会社の業務に関し板硝子等合計一四〇箱を販売した旨を判示したものである。右に
よれば板硝子は額縁の附属品に、該当するものと認定したのであつて右認定は毫も
経験則に反するものではない。然らば右板硝子を販売したことは被告会社の業務に
関する行為であることは明らかである。論旨は結局原判決の事実の認定を攻撃する
ものであるから上告適法の理由ではない。
 同第三点について。
 板硝子の価額統制は解除されていない。建築用板硝子割当規則が廃止されたに過
ぎない。論旨は誤解に基くもので採用できない。
 同第四点について。
 論旨はその(1)において犯行の動機を述べ(2)において原判決の事実認定を
非難し何れも結局原判決の量刑を攻撃するものである。上告適法の理由ではない。
 被告F興業株式会社、被告人B、同Cの弁護人島田武夫、同島田徳郎の上告趣意
第一点について。
 論旨は原判決は被告会社が違法行為をしたことについて何等判示するところがな
いというのである。しかし原判決(理由第四)は被告会社は製鉄等及その附帯事業
と同種事業に対する投資並に土木建築請負業を営んでいたものであるが、同会社の
取締役として同社富山支社の業務を管理していた被告人Bと右支社土建部長として
資材購入販売等の業務を担当していた被告人Cとが共謀の上又は被告人Cが単独で
同会社の業務に関して本件違反の行為をした旨を判示しているのである。右判示で
明らかなように同会社が土木建築請負業を営んでいた以上、その業務に関し被告人
B及びCのした判示行為についてはこれ等被告人の外同会社もまた処罰を免れない
ことは物価統制令四〇条の規定するところである。論旨は理由がない。
 同第二点について。
 物価統制令四〇条の法人の業務は、必ずしも法人の定款に定めた事業に限らるべ
きものでなく、その定款に定めがなくとも、法人の取引上の地位に基いて、その業
務としての客観性が認められる程度に一定の取引又は事業を実行する場合をも含む
ものと解するのを相当とする。被告会社は富山市に通称支社を置き又その支社に土
建部を設けて富山県から依頼を受けて宇奈月温泉の復旧工事に当つていたものであ
ることは、原判決挙示の証拠たる被告人Bの供述等により認められるから本件違反
行為当時たとい土木建築請負事業について其筋からまだ認可がなく又定款にその条
項がなかつたとしても、右事業は県当局その他一般取引関係において客観的にも被
告会社の業務たる性質を帯びていたものである。この見地から原判決は被告会社が
土木建築業を営んでいたものと判示したと解すべきである。然らば右業務に関して
被告人B及びCが判示物価統制令違反の行為をしたものであるから原判決が被告会
社に同令四〇条を適用処断したのは正当であつて原判決には所論の違法はない。論
旨は採用できない。
 同第三点について。
 論旨は被告人等は何れも営利の目的なくして判示各行為をしたものであるから、
物価統制令一一条によつて処罰さるべきものでないと主張するけれども、被告人等
の判示各行為は被告会社の業務に関するものであること前段説明した通りであつて、
本件は前記一一条但書に該当する場合であるから被告人等に営利の目的がなかつた
としても、判示各行為は物価統制令違反のものであることは明らかである。されば
原判決には所論の違法はなく論旨は理由がない。
 同第四点について。
 被告会社等が判示物価統制令三条、七条、三三条等に違反する行為をなすには、
必ずしもこれらの被告人が板硝子の卸業者又は小売業者たることを要しないのであ
る。被告会社が土木建築請負を業とし、その業務に関し、被告人BとCとが多量に
板硝子を買い受け若くは被告人Cが多数の買主に売り渡すに当り、板硝子の統制額
があるのにその統制額を超えて売買したものであるから、前記諸条項違反の罪を犯
したことは明らかである。ただ原判決は右の事実を認定するに当り、その統制額を
超えた程度について、被告会社が土木建築請負を業とするものであるから、被告人
BとCとが右請負業の資材として必要である板硝子を多量に購入した場合は卸売業
者価額により又被告人Cが多数の買手に板硝子を売り渡した場合は小売業者価額に
よるべきものと認定したのである。土木建築請負業者の取引としてかかる認定は何
等経験則に反するものではない。所論は原判決の右認定をとらえて原判決は被告人
等を昭和二一年五月二七日大蔵省告示第三九八号にいわゆる業者であると判示した
と論難するのは独自の見解に立つものであつて、原判決には所論の違法はないから
論旨は採用できない。
 よつて刑訴施行法二条、旧刑訴法四四六条により主文の通り判決する。
 右は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 小幡勇三郎関与
  昭和二五年一〇月六日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎

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