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平成29年12月6日宣告
平成28年(わ)第648号,同第750号強盗殺人,窃盗被告事件
主文
被告人を無期懲役に処する。
未決勾留日数中250日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
第1部分判決の(罪となるべき事実)に記載されたとおりであるから,これを引
用する。
第2被告人は,A(当時19歳)を殺害して現金を強取しようと考え,平成28
年9月14日午後3時35分頃,広島市a区b町c番d号B寮南西側非常階段2階
において,うつ伏せに倒れていた同人に対し,その後頭部を鉄製の消火器(重量約
5.13キログラム。以下「本件消火器」という。)の底部で1回殴り付けてその
顔面を床面等に叩き付け,さらに,その背部を本件消火器の底部で2回殴り付け,
その頃,同所において,同人を頭部・顔面挫創,挫裂創等による失血死により殺害
した上,同人所有の現金約120万円を強取した。
(証拠の標目)省略
(争点に対する判断)
第1前提事実及び争点
判示第2の強盗殺人の事実について,証拠によれば,被告人が,A(以下「被害
者」という。)に対し,判示第2記載のB寮南西側非常階段(以下「非常階段」と
いう。)2階において,本件消火器を使って暴行を加えた結果,同記載の死因によ
って同人を死亡させたことが認められる。弁護人は,この事実関係を争わないもの
の,暴行の具体的な態様や程度等を争って,被告人には殺意がない旨主張するとと
もに,被告人は上記暴行後に現金入りの封筒に気付いてこれを持ち去ったものであ
って,被告人には強盗の犯意もないなどと主張する。本件の争点は,①殺意の有無
(人が死亡する危険性の高い行為をそのような行為であると分かって行ったか否か)
及び②強盗の犯意の有無である。
第2殺意の有無
1被害者の遺体を解剖したC医師の証言を始めとする客観的な証拠によれば,
被害者の遺体の損傷状況等について,以下の事実が認められる。
なお,C医師は,解剖医としての専門的知見と経験に基づく証言をしており,弁
護人がその信用性に疑問を呈する部分を含め(⑴アで後述する),同証言の信用性
は高いと認められる。
⑴被害者の遺体の損傷状況
ア頭部及び顔面の損傷
被害者の後頭部左側に存在する弧の長さ約7.2センチメートルの挫創の形状は,
本件消火器の底面と整合する(甲168,169,172,C医師の証言)。傷の
開き方,頭部の形状及び本件消火器の形状等に,信用性の高いC医師の証言を併せ
考慮すると,後頭部左側の挫創は,うつ伏せの状態にあった被害者の後頭部に本件
消火器の底部で強い力を意図的に加えることにより生じたことが認められる。
被害者の右前額部に存在する複数の挫創と挫裂創のうち最も大きい挫創は,弧の
長さが約14.2センチメートルで,頭頂部側の端が弁状となっているものであり,
頭骸骨まで達して骨膜の一部がめくれ,めくれた部分の頭蓋骨上にほぼ並行する線
状の擦過痕を伴うものである(甲172,C医師の証言)。C医師は,被害者の前
額部が階段の角の部分(足を乗せる平面と床面から垂直に上る平面の交線)あるい
は床面から垂直に上る平面部分に接している状態で,後頭部に打撃が加えられて前
額部が床面等に当たったことにより,右前額部の損傷が一度に生じたと考えられる
旨証言する。弁護人は,同証言は推測の域を出ないと主張してその信用性を争って
いるが,C医師は,右前額部にある最も大きい挫創の形状,右前額部にある他の損
傷の形状,おとがいの挫創の形状,中切歯の破折,非常階段2階の状況,同所の血
痕の状況等に基づき,合理的な推測を述べており,同証言は十分に信用することが
できるから,同証言のとおり事実を認定するのが相当である。弁護人の主張は理由
がない。
以上のような頭部及び顔面の損傷状況からすれば,被告人が,階段の角等に前額
部を接触させる状態でうつ伏せになっている被害者の後頭部を,本件消火器の底部
で強く1回意図的に殴り付ける暴行を加えたことが推認される。
イ背部等の損傷
被害者の背部には,左側の肩甲骨付近に,本件消火器の底面の形状と整合する弧
状の皮膚変色が2か所あり,被害者の肺には肺挫傷が,肝臓には背部側から裂ける
形での肝挫滅が生じている(甲172,C医師の証言)。C医師が,背部の皮膚は
厚く強い力が加わらないと皮膚変色は生じない旨証言していることを考慮すれば,
皮膚変色及び内臓の損傷はいずれも強い外力を背部に加えることにより生じたもの
と認められる。さらに,C医師は,その外力が背部右側の上方から左側の下方(腹
部方向)に斜めに加えられたと推測される旨の証言をしており,背部への打撃の際
は被害者がうつ伏せの状態であったことが推認される。そうすると,被告人が,う
つ伏せになっている被害者の背部を,本件消火器の底部で強く2回意図的に殴り付
ける暴行を加えたことが推認される。
なお,上記各暴行のほかに,被告人が被害者の背部を踏み付ける暴行を加えた事
実を推認させる証拠はない。
⑵暴行の順序
C医師は,肝挫滅単体でも失血死を招く可能性があるにもかかわらず,解剖の結
果,肝挫滅によると考えられる腹腔内の出血が少ないこと,非常階段2階に残され
た血痕が頭部・顔面の挫創,挫裂創から生じたものと考えられることなどを根拠に,
被害者が,まず頭部・顔面の挫創,挫裂創を負ったものと考えられる旨証言する。
同証言は具体的な根拠に基づく合理的な推測であり,信用性が高いから,同証言に
基づき,被害者に対する本件消火器による暴行は,まず後頭部に1回加えられ,次
に背部に2回加えられたものと推認される。
2この点,被告人は,うつ伏せに倒れている被害者の背中に右手に持った本件
消火器を2回落とし付けたが,背中に当たるとすぐに本件消火器を持ち上げた,そ
の後,誤って被害者の足を踏んでバランスを崩した際,本件消火器が被害者の頭部
に偶然当たったと思う,うつ伏せに倒れている被害者の髪の毛を右手でつかみ,そ
の左脇を左手で抱えて起き上がらせようとしたが,被害者が床にうずくまろうとし
たので,投げるように右手を髪の毛から離し,左手も同時に左脇から離したため,
被害者が床に頭部を打ち付けたことが2回あったなどと供述する。
しかし,同供述は,被害者の頭部,顔面,背部及び内臓の損傷の形状やこれらの
損傷が生じた機序等の上記認定事実と整合しない不合理な内容である上,バランス
を崩して偶然に本件消火器が被害者の頭部に当たったとか,被害者の脇を抱えてま
でわざわざ起き上がらせようとしたなどという不自然な内容を含んでおり,信用す
ることはできない。
3以上によれば,被告人は,重量が5キログラム以上の鉄製の消火器を用いて,
まず身体の枢要部である頭部を1回,次に背部を2回それぞれ強い力で殴り付けた
ものと認められる。そのような行為に自身が及んでいることについて被告人の認識
を妨げる事情もない。そうすると,被告人が,人が死亡する危険性の高い行為を,
そのような行為であると分かって行ったこと,すなわち,被告人に殺意があったこ
とを認めることができる。
なお,被告人が,立入禁止とされていて人の出入りが想定されない非常階段に,
被害者を放置して立ち去った事実(甲168,被告人の供述)は,被告人に殺意が
あったことを裏付けるものである。
第3強盗の犯意の有無
1検察官は,被告人に強盗の犯意があったことを基礎付ける事情として,被告
人が,本件犯行前に被害者に対して出金を指示しており,被害者が多額の現金を所
持していることを認識しながら激しい暴行に及び,その直後に現金を奪った点を主
張するのに対し,弁護人は,被告人が被害者に出金を指示したことはなく,暴行の
際に被害者が多額の現金を所持していたことも認識しておらず,暴行後に現金の存
在に気付いたとして,強盗の犯意はなかった旨主張する。
2そこでまず,被告人において,被害者に暴行を加えるまでの間に,被害者が
多額の現金を所持していたことを認識していたか否かを検討する。
⑴証拠(甲164,165)によれば,①被告人は,平成28年9月14日(以
下,月日は別段の記載がない限り平成28年のそれを指す。)午後1時19分頃か
ら同日午後2時57分頃までの間,自身が使用する自動車(以下「マークX」とい
う。)の助手席に被害者を乗せて同車を運転し,セブンイレブンD店駐車場に赴く
などして被害者と行動を共にしていたこと,②その間の同日午後1時26分頃から
同日午後2時27分頃までの間,被害者は,同店駐車場に駐車したマークXへの乗
降や立ち寄りを繰り返し,その間に,E銀行F支店ATM機で普通預金50万円(当
初出金を試みた額は62万5000円),窓口で定期預金8万5000円全額を出
金するとともに,セブンイレブンD店内のATM機でE銀行普通預金12万500
0円の出金を試み,さらに,G銀行H支店窓口で財産形成預金全額(9万円)の出
金を試みるなどしたこと,③マークX駐車後に被害者が降車するまでの時間が約2
分間程度あり,その後も,マークXに戻った被害者が1分間程度車内に留まること
が2回あったこと,④被告人は,被害者が上記セブンイレブン店内に居る間に,マ
ークXを降車して同店内の様子をうかがっていたこと,⑤同日午後2時31分頃,
被害者を乗せたマークXがファミリーマートI店駐車場に移動し,被害者は,隣接
する建物内にあるJ金庫K支店窓口に行き,定期預金42万円全額を出金してマー
クXに戻ったこと,⑥その後,被告人と被害者がマークXでB寮への帰路にあるL
郵便局に行き,被害者は,同日午後2時53分頃,同郵便局ATM機で通常貯金2
0万円を出金したことが認められる。
なお,⑦防犯カメラの映像を見る限り,上記の間,被害者に,おびえた様子や,
金融機関等の従業員らに救いを求めるような素振りがあったとは認められない。
⑵さらに,証拠(甲165,166)によれば,上記定期預金2口座及び出金
を試みた財産形成預金については,平成27年4月から同年7月までの口座開設以
降,毎月一定額を積み立てていたもので,今回以前に出金したことはないこと,上
記通常貯金についても,平成27年4月以降保険料等の支払いのために口座が利用
されていたこと,E銀行普通預金については,口座開設以降多数回出金しているが,
同銀行F支店での出金は今回が初めてであったことが認められる。証拠(甲161)
によれば,被害者が金融機関等に借金をしていた事実がなかったことも認められる。
なお,被害者の直属の上司であったMは,被害者が,本件当時,約200万円の
中古車(RX-8)購入資金を貯蓄している最中であったと証言しており,その信
用性を疑わせる事情はない。
⑶このように,被害者が,特に借金返済等の差し迫った必要がないのに,中古
車購入のために貯蓄していた多額の現金を短時間で出金していること,その傍らで,
被告人が,夜勤明けで十分睡眠を取っていない状態であるにもかかわらず(甲16
3),待ち時間を含め1時間半以上の時間,マークXを出して,金融機関を回る被
害者に付き合っていたこと,被害者が1分間程度またはそれ以上の時間マークX車
内に留まる間,被告人と被害者が会話を交わしていたと推認されることなどの事情
を踏まえると,被害者が,自発的に自分で使う目的で出金したとは考え難く,被告
人が被害者に出金を指示したとまでは断定できないものの,被告人が被害者に何ら
かの話を持ち掛け,被害者がこれに応じて出金したことが推認される。
⑷以上によれば,被告人が,遅くとも被害者がL郵便局ATM機での出金を終
えた時点頃までには,被害者が金融機関で出金した多額の現金を所持していること
を認識していたものと認められる。
⑸この点,被告人は,特に親しいわけでもない被害者がE銀行F支店に車で連
れて行ってほしいと突然頼み込んできたなどという供述をして被害者が金融機関に
行くのを知っていたことを認めつつ,弁護人からの誘導的な質問に応じる形で,被
害者が金融機関で出金する認識はなかった旨の供述をしている。
しかし,そもそも,被害者が金融機関に行くことを知っており,かつ,上記のと
おり,待ち時間を含め1時間半以上の時間,被害者と行動を共にしていながら,被
害者が金融機関から出金していることを知らなかったという供述自体,常識的に考
えて不自然である。この点に関する被告人の供述は信用することができない。
3第3の2で認定した被告人の認識に加え,暴行直後に現金を持ち去ったとい
う被告人の自白に従って事実を認定する場合には,被告人は,被害者が多額の現金
を所持していることを認識しながら,被害者に暴行を加え,その直後に現金を取得
しているのであるから,暴行開始時点において被害者の現金を奪う意図があったと
推認され,この推認を覆す合理的な事情がない限り,強盗の犯意が認められること
になる。
しかし,既に見たとおり,被告人は,殺意及び被害者による出金に関わる事情に
ついて信用することができない供述をしていること,被告人の上記自白を前提とす
ることにより被告人に最も不利な結論に至る可能性があることから,一旦,被告人
の上記自白を除いた上で,被害者が,出金した約120万円の現金の占有を被告人
から暴行を受けるまで保持していた事実が認められるか否かを検討する。
⑴まず,現金の占有移転の有無及びその額について見ると,証拠上,非常階段
2階で発見された被害者の所持品には出金額に相当する現金約120万円が存在し
ていなかった(甲170)一方,被告人が,9月17日に,被告人名義の定期預金
口座に,上記約120万円を超える現金142万円を入金していること(甲162)
が認められる。被害者の出金経緯等からすれば,被害者が,出金した現金を被告人
に交付する以外の使途で費消する機会がなかったと考えられる。非常階段2階で血
を流して倒れていた被害者を最初に発見した寮の管理人等が上記現金を持ち去った
可能性も考えられない。そうすると,被害者の出金時から暴行後に被告人が非常階
段2階を立ち去るまでの間に,現金約120万円の占有が被害者から被告人に移転
したと認められる。
⑵次に,現金の占有移転の時期を考える。被害者の出金経緯等にかんがみると,
被害者が,金融機関からの各出金後に,マークX車内や非常階段2階に至るよりも
前の段階で,被告人に当該現金を手交した可能性がないではない。
しかしながら,被告人が被害者に甘言を弄して現金の交付を求めていた可能性が
あったと仮定しても,被害者が,上記のとおり中古車購入資金として貯蓄しこれま
で出金したことのない金額である約120万円もの現金を,形のある見返りや書面
による返還の約束もないまま簡単に被告人に渡すような行為に及ぶことは常識に照
らして考え難い。被告人に脅されて現金を渡していた可能性については,上記のと
おり,防犯カメラ映像上,被害者が,おびえた様子も,金融機関等の従業員らに救
いを求めるような素振りも見せず,出金のために金融機関等を回り続けていたこと
からすれば,あり得る合理的な仮説として想定し難い。被告人が被害者と共に非常
階段に向かった理由は明らかではない(この点に関する被告人の供述は後述すると
おり信用することができない。)としても,非常階段に至るよりも前の段階で被告
人が現金を手にしていたのであれば,その後に非常階段2階まで被害者と一緒に行
って被害者に対して本件のような激しい暴行を加える必要性があるとも考えられな
い。
以上によれば,被害者が非常階段2階に至るまでは出金した現金約120万円の
占有を保持していたと強く推認することができ,そうであれば,上記⑴の認定事実
と相俟って,現金約120万円の占有は被告人が被害者に暴行を加えた直後に被告
人に移転したと認定することができる。
4以上のとおり,現金約120万円の占有が暴行の直後に被害者から被告人に
移転しているから,先に述べたとおり,被告人には,暴行開始時点において被害者
の現金を奪う意図があったと推認され,この推認を覆す合理的な事情がない限り,
強盗の犯意が認められる。
⑴この点,被告人は,上記のとおり,暴行の直後に現金を持ち去った事実を認
める供述をしているものの,現金持ち去りに関する供述の具体的な内容を見ると,
以下のとおり,その全てを信用することは難しいといわなければならない。
すなわち,被告人は,①被害者が,帰寮途中のマークX車内で,被告人の交際相
手が写っているプリクラを手に取り,交際相手を馬鹿にするような発言をしたので,
腹を立てていた,マークXを寮付近の駐車場に止めた後,車内で被害者から車を出
したお礼として1万円を受け取り,自らの携帯電話機を操作して被害者をLINE
の友だちに追加した,一緒に駐車場から非常階段入口まで移動して,被害者に誘わ
れるがまま,通常は立入禁止となっている非常階段に入り,非常階段2階に至って
突然怒りが爆発し,被害者に謝らせようとして暴行を加えた,②暴行後に被害者の
顔面から血が流れているのを見てパニックになり,その場を立ち去って使った消火
器を元の場所に戻そうとしたとき,被害者の手提げかばんが床に横倒しになってい
て,E銀行の封筒と携帯電話機が出ているのが見えた,封筒を拾ってその中身を見
たところ,数え切れないほどの一万円札が入っていたため,目がくらんで携帯電話
機と合わせて持ち去った,そのときまで被害者が多額の現金を持っていたことは知
らなかった,後日数えたら封筒には現金107万円が入っていた旨供述する。
しかし,①被害者に暴行を加えた動機に関する供述部分を見ると,被告人によれ
ば被害者が金融機関に連れて行ってほしいと頼み込んできたのに,そのような立場
の被害者がマークX車内で被告人が供述するような交際相手を馬鹿にする言動をと
るというのは不自然である。しかも,車内で交際相手を馬鹿にされて,後に激しい
暴行を加えるほど腹を立てておきながら,寮付近の駐車場に到着した際には,腹を
立てた相手である被害者からお礼を受け取るなどし,その後,非常階段2階に至っ
て突然怒りを爆発させたという経緯は,交際相手を馬鹿にされて腹を立てた者の行
動として一貫性を欠く不自然なものである。被告人の述べる動機と暴行の激しさと
の釣り合いも欠いている。このように,被害者に暴行を加えた動機に関する供述部
分は,被害者に誘われて非常階段に入ったという点を含め,それ自体不自然なもの
であって信用することができない。
②暴行後に現金の存在に気付きこれを持ち去った状況に関する供述部分につい
ては,被告人は暴行開始時に被害者が多額の現金を所持していたことを既に認識し
ていたという上記認定事実に反する不合理なものである。かばんが横倒しになって
いたという点は,被害者が発見された時かばんが斜めの状態で床に立っていたとす
るNの証言(同証言の信用性を疑わせる事情はない。)や,かばんの一部分にしか
汚れが付着していないこと(甲170)と整合しておらず,客観証拠に反する内容
である。封筒に入っていた現金が107万円であったという点も,被害者が現金約
120万円を所持していたとする上記認定事実と整合しない。結局,現金を持ち去
ったという抽象的な供述の限度では第3の3で認定した事実により裏付けがあると
考えられるので信用性が担保されているものの,現金を持ち去った具体的な態様や
額に関するその余の供述については信用することができない。
⑵したがって,被告人の供述は,先の推認を覆す合理的な事情とはならない。
5よって,被告人には強盗の犯意も認められる。
(法令の適用)
・罰条
判示第1の所為刑法235条(部分判決の(法令の適用)に記載さ
れたとおり)
判示第2の所為刑法240条後段
・刑種の選択
判示第1の罪につき懲役刑を選択
判示第2の罪につき無期懲役刑を選択
・併合罪の処理刑法45条前段,46条2項本文(判示第2の罪に
つき無期懲役刑を選択したので,他の刑を科さない)
・未決勾留日数の算入刑法21条
・訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
量刑判断の中心となる強盗殺人の事実について見ると,被告人は,重量約5キロ
グラムの鉄製消火器を用いて,うつ伏せに倒れている被害者に対し,強い力で後頭
部及び背部を殴り付けたものであり,その犯行の態様が被害者の生命を奪う危険性
の高いものであることは明らかである。現に,被害者の尊い命が奪われるという重
大な結果が発生しており,金銭的被害も多額である。若くして将来を絶たれた被害
者の無念さは計り知れない。何の落ち度もない被害者を殺害して現金を奪うという
身勝手な犯行を決意した点に酌量の余地はなく,被告人には強い非難が加えられる
べきである。
このように強盗殺人の犯情は重く,被告人の刑事責任は重大である(窃盗の事実
については,全額被害弁償されていることなどから,量刑に影響を及ぼすものでは
ないと判断した。)。
被告人は,被害者に暴行を加えて死亡させ現金を持ち去ったという限度では事実
を認め,公判廷において反省と謝罪の言葉を述べるほか,被害者遺族に被害弁償の
申出をするなど被告人なりに反省や謝罪の気持ちを示そうとしている。しかし,自
己の責任を軽減させるような不自然不合理な弁解に終始していることからすると,
自己の犯した罪に真に向き合っているとはいえない。
そこで,被害者遺族の厳しい処罰感情も踏まえつつ,同種事案の量刑傾向に照ら
し,被告人に対しては,主文の刑を科するのが相当であると判断した。
(検察官内田耕平,同髙井義晃,弁護人犬飼俊哉〔主任〕,同前川哲明各出席)
(検察官求刑無期懲役刑弁護人の量刑意見傷害致死罪と窃盗罪の成立を前提
として有期懲役刑)
平成29年12月12日
広島地方裁判所刑事第1部
裁判長裁判官丹羽芳徳
裁判官武林仁美
裁判官藤村香織

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