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平成19年(行ケ)第10141号審決取消請求事件
平成19年12月25日判決言渡,平成19年11月29日口頭弁論終結
判決
原告シーメンスアクチエンゲゼルシャフト
訴訟代理人弁護士加藤義明,三留和剛
訴訟代理人弁理士矢野敏雄,星公弘
訴訟復代理人弁護士町田健一
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人前田仁,高木進,高木彰,森山啓
主文
特許庁が不服2004−8032号事件について平成18年12月18日にした
審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
主文と同旨の判決。
第2事案の概要
本件は,原告が,名称を「車両の乗員保護装置」とする発明につき特許出願をし
て拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,審判請求は成り立た
ないとの審決がなされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1特許庁における手続の経緯
()本件出願(甲第16号証)1
出願人:シーメンスアクチエンゲゼルシャフト(原告)
発明の名称:車両の乗員保護装置」「
出願番号:特願2000−514802号
出願日:1998年(平成10年)9月30日(国際出願)
優先権主張日:1997年(平成9年)10月2日(ドイツ)
()本件手続2
手続補正日:平成14年11月18日(甲第5号証)
拒絶査定日:平成16年1月19日(甲第8号証)
審判請求日:平成16年4月20日(不服2004−8032号(甲第10号)
証)
手続補正日:平成16年4月20日(甲第9号証,以下「本件補正」という)。
審決日:平成18年12月18日
審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない」「。
審決謄本送達日:平成19年1月5日
2発明の要旨
()審決は,本件補正を却下し,平成14年11月18日付け手続補正後の請求1
項1に記載された発明を対象としたものであるところ,この発明の要旨は下記のと
おりである(なお,請求項の数は8個である。。)
「請求項1】車両の車体要素(1)のバルク波のトランスバーサル方向の振れ【
(KS)を検出するセンサ(3)と検出されたバルク波のトランスバーサル方向の
振れ(KS)に依存して車両の乗員保護手段を制御する評価回路(5)とを有する
ことを特徴とする車両の乗員保護装置」。
()本件補正後の請求項1に記載された発明の要旨は下記のとおりである(下線2
部分が本件補正に係る部分であり,以下,この発明を「本件補正発明」という。な
お,本件補正後の請求項の数は8個である。。)
「請求項1】車両の車体要素(1)の10kHz以上のバルク波のトランスバ【
ーサル方向の振れ(KS)を検出するセンサ(3)と検出されたバルク波のトラン
スバーサル方向の振れ(KS)に依存して車両の乗員保護手段を制御する評価回路
(5)とを有することを特徴とする車両の乗員保護装置」。
3審決の理由の要点
審決は,本件補正発明は,特開平8−58502号公報(以下「引用文献」とい
う)に記載された発明(以下「引用発明」という)に基づいて,当業者が容易に。。
発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願
の際独立して特許を受けることができず,本件補正は,同法17条の2第5項が準
用する同法126条5項の規定に違反するものであり,同法159条1項において
読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきであるとし(同法
17条の2第5項,159条1項,53条1項は,いずれも,平成18年法律第5
5号による改正前のもの,上記2()記載の発明を対象とした上,同発明は,本件)1
補正発明と同様の理由により,引用文献記載の発明に基づいて,当業者が容易に発
明をすることができたものであり,同法29条2項の規定により特許を受けること
ができないとした。
審決の理由中,本件補正の適否の判断における,引用文献の記載事項の認定,本
件補正発明と引用発明との一致点及び相違点の認定,相違点についての判断は,以
下のとおりである。
()引用文献の記載事項の認定1
「特開平8−58502号公報(引用文献)には、車両安全装置用制御装置に関し図面ととも
に、以下の事項が記載されている。
(あ『作用】請求項1記載の発明に係る車両安全装置用制御装置においては、車両が衝突し)【
た際に発生する超音波が超音波検出手段により検出されると、感度変更手段により加速度検出
手段の感度が実質的に変更、すなわち、いわゆるセンサ自体の感度を変えるか又はセンサ自体
の感度は維持したまま、その出力信号を処理する際の閾値に相当するものを変えることで、あ
、、たかもセンサ自体の感度が変更されたと等価な状態とし感度の実質的変更が行われることで
この加速度を積分して得られる車両速度が所定値を越えたか否かの判断がより的確な時期に行
われることとなるものである(0013)。』【】
(い『超音波センサ2は、本装置が搭載される車両が衝突により破壊に至る場合に発生する)
超音波(詳細は後述)を検知するためのもので、例えば、圧電セラミックスを用いてなるもの
が好適である。本実施例における装置は、いわゆるシングル・ポイントセンサ方式を採用する
ものであるので、上述した加速度センサ1及び超音波センサ2は同一の場所に取り付けられ、
具体的には、例えば、ギヤチェンジがいわゆるフロアシフトタイプの車両にあっては、チャン
ジレバーの前方側(車体の前方側)に配設される(0022)。』【】
(う『このCPU3は、後述するように制御プログラムの実行により、加速度センサ1及び)
超音波センサ2のセンサ出力信号を入力し、これらセンサ出力信号に基づいて適宜な時期にス
クイブ10に通電を行うことによって、車両安全装置としてのエアバック装置(図示せず)を
起動するものである(0024)。』【】
(え『本発明者は、衝突時に車体に生ずる種々の現象について鋭意研究の結果、図3(c))
に示されたように、衝突の際に超音波が出現することを突き止めた。すなわち本発明者は、こ
の超音波が、正面衝突と偏角衝突とで、周波数成分の違いはあっても必ず出現するものである
12こと、従来、いわゆるクラッシャブルゾーンの破壊の間(図3の例では時刻t乃至時刻t
の間に相当する期間)でのエアバック装置の適切な動作を設定することが困難であったこと、
超音波はこのクラッシャブルゾーンにおいても十分出現していることに着目し、時刻t乃至1
時刻tの間において、速度演算値ΔVを判定する基準値を従来に比して高めに設定(エアバ2
ック装置がより動作し易くなる方向)することで、エアバック装置の確実な動作を得ることの
できる本装置に関する発明をするに至ったものである(0038)。』【】
(お(え)で摘記したように引用文献記載の超音波は『正面衝突と偏角衝突とで、周波数成)
分の違いはあっても必ず出現するもので』あり、これを位置固定の超音波センサ2で検出する
のであるから、検出される超音波は、少なくとも、衝突の発生した方向に依存せずに検出され
る横波成分を含んでいるものと解される。
(か)また、拒絶査定で提示した、超音波便覧編集委員会編『超音波便覧,丸善株式会社,,』
平成11年8月30日、第395頁には『超音波の波長に比べて物体が十分に大きい場合には
、。その影響を無視することができ無限に広い物質中を伝わる超音波と考えても良いことになる
このような超音波をバルク波と呼ぶ』と記載されており、引用文献記載の超音波(超音波と。
は、一般的に、周波数が20kHzを超える音波、弾性振動とされている)は、本願補正発。
明(10kHz以上)同様、バルク波といえる。
以上を総合すると、引用文献には『車両の車体要素のバルク波の横波成分を検出する超音、
波センサ2と、バルク波の横波成分が検知された時、速度演算値ΔVを判定する基準値を従来
に比して高めに設定(エアバック装置がより動作し易くなる方向)するCPU3とを有する車
両安全装置用制御装置』の発明(引用発明)が記載されているものと認められる」。
()本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点の認定2
「本願補正発明と引用発明を対比するに、引用発明の『横波成分『超音波センサ2『CP』、』、
U3車両安全装置用制御装置は本願補正発明のトランスバーサル方向の振れセ』、『』、、『』、『
ンサ『評価回路『車両の乗員保護装置』に相当する。』、』
また、バルク波の横波が検知された時、速度演算値ΔVを判定する基準値を従来に比して高
めに設定してエアバック装置がより動作し易くなるようにするということは、検出されたバル
ク波の横波、すなわち、トランスバーサル方向の振れに依存して、車両の乗員保護手段である
エアバック装置を制御していることにほかならないから、引用発明の『バルク波の横波が検知
された時、速度演算値ΔVを判定する基準値を従来に比して高めに設定(エアバック装置がよ
り動作し易くなる方向)する』は本願補正発明の『検出されたバルク波のトランスバーサル方
向の振れ(KS)に依存して車両の乗員保護手段を制御する』に相当している。
したがって、本願補正発明と引用発明の一致点及び相違点は以下のとおり認定できる。
[一致点]
車両の車体要素のバルク波のトランスバーサル方向の振れを検出するセンサと検出されたバ
ルク波のトランスバーサル方向の振れに依存して車両の乗員保護手段を制御する評価回路とを
有する車両の乗員保護装置。
[相違点]
バルク波の周波数が、本願補正発明では、10kHz以上と特定されているのに対し、引用
発明では、かかる特定が無い点」。
()相違点についての判断3
「以下、前記相違点につき検討する。
超音波とは、前述したように、一般的に、周波数が20kHzを超える音波、弾性振動とさ
、、。れており引用発明の超音波センサも係る領域の音波弾性振動を検出するものと認められる
本願補正発明では、それより低い周波数も包含するが、下限を10kHzにすることに臨界的
意義はなく、相違点の構成は、当業者が、適宜選択すべき設計的事項である。
そして、本願補正発明により得られる効果も、引用発明から、当業者であれば予測できる程
度のものであって、格別なものとはいえない。
したがって、本願補正発明は、引用文献に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明
をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立し
て特許を受けることができないものである」。
第3原告の主張(審決取消事由)の要点
審決は,本件補正の適否の判断において,本願補正発明と引用発明との一致点の
認定を誤り,さらに,相違点についての判断を誤った結果,本願補正発明が,引用
発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとの誤った結論に
,,,,至りひいて独立特許要件の欠缺を理由として本件補正を却下したことにより
本願発明の要旨の認定を誤ったものであるから,取り消されるべきである。
1取消事由1(一致点の認定の誤り)
()審決は,引用文献の記載事項(え)に関し「引用文献記載の超音波は『正1,
面衝突と偏角衝突とで、周波数成分の違いはあっても必ず出現するもので』あり、
これを位置固定の超音波センサ2で検出するのであるから、検出される超音波は、
少なくとも、衝突の発生した方向に依存せずに検出される横波成分を含んでいるも
のと解される(記載事項(お)との誤った認定をし,かつ,本願補正発明と引。」)
用発明の構成及び作用効果に大きな相違があることを看過した結果,本願補正発明
と引用発明とが「車両の車体要素のバルク波のトランスバーサル方向の振れを検出
するセンサと検出されたバルク波のトランスバーサル方向の振れに依存して車両の
乗員保護手段を制御する評価回路とを有する車両の乗員保護装置」である点で一。
致するとの誤った認定に至ったものである。
()ア引用文献の段落【】には,審決の認定に係る記載事項(え)のとおり20038
記載されているが,同記載中の「この超音波が、正面衝突と偏角衝突とで、周波数
成分の違いはあっても必ず出現するものであること」とは,衝突により発生する超
音波(超音波検出センサに入力される超音波の信号)が,正面衝突でも偏角衝突で
も必ず出現するということ,すなわち,ある角度の衝突では超音波が発生しないな
どということはなく,正面衝突でも偏角衝突でも,その衝突によって必ず超音波が
発生するから,いかなる衝突でもその超音波を利用することができるということを
意味しているのみであって(なお,衝突の角度に依存して,その衝撃の大きさおよ
び超音波が伝搬するルートとなる車体の部品の構造,材質が異なるから,衝突時に
発生する超音波の周波数が異なるのは当然である,その超音波をどのような原理。)
の検出センサで検出するかは記載されておらず,超音波検出センサの検出信号に横
波成分が含まれるなどということは意味していない。引用文献には,そもそも超音
波の縦波成分と横波成分とを意識した記載は全く存在しないのである。
したがって,審決が,記載事項(え)のうちの上記「この超音波が、正面衝突と
偏角衝突とで、周波数成分の違いはあっても必ず出現するものであること」との記
載から「引用文献記載の超音波は『正面衝突と偏角衝突とで、周波数成分の違い,
はあっても必ず出現するもので』あり、これを位置固定の超音波センサ2で検出す
るのであるから、検出される超音波は、少なくとも、衝突の発生した方向に依存せ
ずに検出される横波成分を含んでいるものと解される(記載事項(お)と認定。」)
したことは誤りであり,この認定に基づいて,本願補正発明と引用発明とが「バ,
ルク波のトランスバーサル方向の振れを検出するセンサ・・・を有する」点で一致
すると認定したことも誤りである。
イ被告は,圧電セラミックスのような圧電素子によって,物質内における振動
を捉えようとする場合,あらゆる振動を検出してしまうのが通常であり,特に振動
の振幅の大きい横波成分が検出されることは必然であると主張する。
,()【】,しかしながら特開平11−196493号公報甲第13号証の段落0008
特開平5−141948号公報(甲第14号証)の段落【,特開平9−210007】
0694号公報(甲第15号証)の段落【【】には,それぞれ圧電セラ00200021】,
ミックスを使用したセンサではあるが,検出回路の構成によって,縦波成分のみを
検出するセンサが開示されており,また,特開平5−19946号公報(乙第1号
証)の段落【】には,同様のセンサが示唆されている。そして,このように,0049
圧電セラミックスを使用したセンサであっても,縦波成分のみを検出するセンサが
存在するのであるから,被告の上記主張は誤りである。
また,被告は,引用発明がクラッシャブルゾーンの破壊の間の超音波を検出する
もので,衝突後ごく早い時期に超音波を検出しようというものではないから,当然
に超音波の横波成分が検出されていると主張するが,クラッシャブルゾーンとは,
車両の全部が破壊される期間,すなわち,運転者に被害が及んでいない期間を意味
し,縦波や横波を区別する期間ではないから,上記主張は失当である。
さらに,被告は,本願補正発明の「センサ」についても横波成分を検出すること
,,,ができるということ以上の限定はないから審決が本願補正発明と引用発明とが
「バルク波のトランスバーサル方向の振れを検出するセンサ・・・を有する」点で
一致すると認定したことに誤りはないと主張する。
しかしながら,本願補正発明の要旨の「バルク波のトランスバーサル方向の振れ
(KS)を検出するセンサ(3」との規定に照らして,本願補正発明の主たる検)
出成分が横波であることは明らかであるのに対し,引用文献には,引用発明の超音
波検出原理や,その主たる検出成分が横波であることは一切開示されていないので
あるから,本願補正発明が,引用発明を排除していることは明らかであり,したが
って,本願補正発明と引用発明とが「バルク波のトランスバーサル方向の振れを検
出するセンサ・・・を有する」点で一致するとした審決の認定は誤りである。
,「()()ア本願補正発明の要旨にバルク波のトランスバーサル方向の振れKS3
を検出するセンサ(3)と検出されたバルク波のトランスバーサル方向の振れ(K
S)に依存して車両の乗員保護手段を制御する評価回路(5」と規定されている)
とおり,本願補正発明は,バルク波のトランスバーサル方向の振れを検出して,そ
の検出したトランスバーサル方向の振れに依存して,すなわち,トランスバーサル
方向の振れに基づいて車両の乗員保護手段を制御するものである。
これに対し,引用発明は,その請求項1が「車両の衝突時の加速度を検出する加
速度検出手段と、前記加速度検出手段により検出された加速度を積分することによ
って算出される車両速度が基準値を越えたか否かを判定する動作判定手段とを具備
し、前記動作判定手段の判定結果に基づいて車両安全装置の動作を制御するように
した車両安全装置用制御装置において、車両の衝突の際に発生する超音波を検出す
る超音波検出手段と、前記超音波検出手段により超音波が検出された場合に前記加
速度検出手段の検出感度を実質的に変更する感度変更手段と、を設けたことを特徴
とする車両安全装置用制御装置」と規定するとおり,加速度を検出し,その加速。
度に依存して,すなわち,加速度に基づいて車両の乗員保護手段を制御するもので
ある。
そして,本件補正後の明細書(甲第9号証,以下「本願補正明細書」という)。
の段落【】に記載されているとおり,バルク波のスペクトル成分は10kHz0026
以上であるのに対し,加速度のスペクトル成分は400Hz以下であって,加速度
に依存した検出方法は検出速度が遅くなるという欠点を有しており,本願補正発明
と引用発明とは,上記構成の相違により,作用効果が異なるものである。
したがって,この点を捨象した審決の一致点の認定は誤りである。
イ被告は,本願補正明細書の段落【】及び図3に,本願補正発明の実施例0019
として「バルク波センサ3」と「加速度センサ4」が存在し,この両センサから,
の検出信号を受けて「評価回路」にてその両信号を総合評価して制御するものが,
挙げられていると主張する。
,【】,しかしながら図3及びこれについての本願補正明細書の段落の記載は0019
本願補正発明(本件補正後の請求項1に記載された発明)ではなく,本件補正後の
請求項8記載の発明についてのものであるから,被告の上記主張は失当である。
2取消事由2(相違点についての判断の誤り)
審決は,その認定に係る,本願補正発明と引用発明との相違点である「バルク波
の周波数が、本願補正発明では、10kHz以上と特定されているのに対し、引用
発明では、係る特定が無い点」につき,本願補正発明が「超音波とは・・・一般、
的に、周波数が20kHzを超える音波、弾性振動とされており、引用発明の超音
波センサも係る領域の音波、弾性振動を検出するものと認められる。本願補正発明
では、それより低い周波数も包含するが、下限を10kHzにすることに臨界的意
義はなく、相違点の構成は、当業者が、適宜選択すべき設計的事項である」と判断
した。
しかしながら,本願補正発明は,従来20kHz以上の衝突振動の下でしか使用
できなかった乗員保護装置を,10kHz以上の衝突振動にまで拡大して使用でき
るようにしたものであり,乗員保護装置の制御に使用できる周波数の下限値を更に
低くした点に臨界的意義が見出せるものである。
したがって,審決の相違点についての判断は誤りである。
第4被告の反論の要点
1取消事由1(一致点の認定の誤り)に対し
()原告は,審決が,引用文献の記載事項(え)のうちの「この超音波が、正面1
衝突と偏角衝突とで、周波数成分の違いはあっても必ず出現するものであること」
との記載から「引用文献記載の超音波は『正面衝突と偏角衝突とで、周波数成分,
の違いはあっても必ず出現するもので』あり、これを位置固定の超音波センサ2で
検出するのであるから、検出される超音波は、少なくとも、衝突の発生した方向に
依存せずに検出される横波成分を含んでいるものと解される」と認定したことは。
誤りであり,この認定に基づく一致点の認定も誤りであると主張する。
,,,。しかしながら一般に物質内部を伝播する振動には縦波と横波とが存在する
そして,本願補正明細書に「縦波の振れは振幅が小さい・・・しかもこの振れは衝
突方向でしか発生しない(段落【)と記載されているとおり,縦波は,横。」】0003
,,,波に比べてその伝播速度は速いが振動の振幅が小さくてエネルギー量は少なく
衝突の場合に,縦波の振動は衝突方向でしか発生しない。そうすると,衝突をごく
早い時期に検出しようとすれば,縦波を検出することが効果的であるが,それには
感度のよいセンサを必要とし,感度のよいセンサを使用すれば,ノイズを拾いやす
いという問題が生ずる。そこで,若干検出が遅くとも確実に衝突の振動を検出しよ
うとする場合には,横波を検出することが考えられる。
しかるところ,引用発明は「衝突の際に超音波が出現することを突き止めた」,
(引用文献段落【,引用文献の記載事項(え)ことにより,この超音波を検0038】)
出すべく,好適には圧電セラミックスを用いてなる超音波センサを車両に取り付け
るものである(引用文献段落【,引用文献の記載事項(い。そして,圧電0022】))
セラミックスのような圧電素子によって,物質内における振動を捉えようとする場
合,あらゆる振動を検出してしまうのが通常であり,特に振動の振幅の大きい横波
成分が検出されることは必然である。この検出された超音波を電気信号として取り
出し,これを処理すれば,その中に横波成分が含まれることとなるのは明らかであ
る。
引用発明は,いわゆるクラッシャブルゾーンの破壊の間の超音波を検出するもの
(段落【)であり,衝突後ごく早い時期に超音波を検出しようというもので0059】
はないから,当然に超音波の横波成分が検出されているのであって,これを信号と
して取り出しているものである。他方,本願補正発明の「センサ」についても横波
成分を検出することができるということ以上の限定はない。
そうであれば,審決が,本願補正発明と引用発明とが「バルク波のトランスバ,
ーサル方向の振れを検出するセンサ・・・を有する」点で一致すると認定したこと
に誤りはない。
()原告は,本願補正発明がバルク波のトランスバーサル方向の振れに基づいて2
車両の乗員保護手段を制御するものであるのに対し,引用発明が加速度に基づいて
車両の乗員保護手段を制御するものであるところ,加速度に依存した検出方法は検
出速度が遅くなるという欠点を有しており,本願補正発明と引用発明とは,作用効
果が異なるものであると主張する。
しかしながら,本願補正明細書(段落【)及び本件出願に係る図面(甲第0019】
16号証図3)には,本願補正発明の実施例として「バルク波センサ3」と「加,
速度センサ4」が存在し,この両センサからの検出信号を受けて「評価回路」に,
てその両信号を総合評価して制御するものが挙げられている。
他方,引用発明は,加速度を検出することを主体とするものであるが,引用発明
においても,加速度と超音波を検出して,この両信号を総合評価して制御している
ということができるのであるから,この限りにおいて両者に差異はない。
2取消事由2(相違点についての判断の誤り)に対し
原告は,本願補正発明が,従来20kHz以上の衝突振動の下でしか使用できな
かった乗員保護装置を,10kHz以上の衝突振動にまで拡大して使用できるよう
にしたものであり,乗員保護装置の制御に使用できる周波数の下限値を更に低くし
た点に臨界的意義が見出せるものであると主張する。
しかしながら,本願補正明細書には,下限値を10kHzとしたことの臨界的意
義について,格別の記載がないから,かかる臨界的意義を認めることはできず,そ
うであれば「10kHz以上」との数値範囲は,設計的に適宜選択できた事項と,
せざるを得ない。
したがって,この点についての審決の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(一致点の認定の誤り)について
()原告は,審決が引用した引用文献の「この超音波が、正面衝突と偏角衝突と1
で、周波数成分の違いはあっても必ず出現するものであること」との記載は,超音
波検出センサの検出信号に横波成分が含まれるということを意味しておらず,引用
文献には,そもそも超音波の縦波成分と横波成分とを意識した記載は全く存在しな
いのであるから,審決が,引用文献記載の発明(引用発明)を「車両の車体要素の
バルク波の横波成分を検出する超音波センサ2・・・を有する車両安全装置用制御
装置」と認定した上,本願補正発明と引用発明とが「バルク波のトランスバーサ,
ル方向の振れを検出するセンサ・・・を有する」点で一致すると認定したことは誤
りであると主張する。
()引用文献の請求項1には「車両の衝突時の加速度を検出する加速度検出手2,
段と、前記加速度検出手段により検出された加速度を積分することによって算出さ
れる車両速度が基準値を越えたか否かを判定する動作判定手段とを具備し、前記動
作判定手段の判定結果に基づいて車両安全装置の動作を制御するようにした車両安
全装置用制御装置において、車両の衝突の際に発生する超音波を検出する超音波検
出手段と、前記超音波検出手段により超音波が検出された場合に前記加速度検出手
段の検出感度を実質的に変更する感度変更手段と、を設けたことを特徴とする車両
安全装置用制御装置」の発明が記載され,その発明の詳細な説明には,以下の記。
載がある。
ア「従来の技術】従来、この種の車両安全装置用制御装置として公知・周知となっている【
ものに・・・加速度センサと、この加速度センサの出力信号を積分する積分回路とを設け、、
車両の速度を算出し、この算出された車両速度をエアバック装置を動作させるか否かの判断デ
ータとして用いるように構成されたものがある。このような車両安全装置制御装置において、
、、、加速度センサの設置は複数の箇所に設けられる場合と特定の一箇所に設ける場合とがあり
・・・後者のように一箇所にセンサを設置して加速度の検知を行う場合をシングル・ポイント
センサ方式と称することがある。現在用いられている車両安全装置制御装置においては、シン
グル・ポイントセンサ方式を採用しているものが多い(段落【】∼【)。」】00020003
イ「発明が解決しようとする課題・・・このようなシングル・ポイントセンサ方式に適す【】
る車両衝突時における車両の破壊過程としては、例えば・・・エンジン20が車両の前部に、
搭載され、前輪側が駆動されるいわゆるFF車の場合、次のような破壊形態が理想的であると
考えられる・・・すなわち、バンパー21の剛性が高いという条件の下、車両が高速で他の。
車両等の障害物23に正面衝突したとすると、バンパー21による適度な衝撃吸収が行われつ
つ、バンパー21とエンジン20のあるエンジンブロックとの間、すなわちいわゆるクラッシ
ャブルゾーン22が徐々に圧縮されてゆき、最後にエンジンブロックに強い衝撃が加わり破壊
。、、、されるような形態であるこのような衝突形態においては加速度の変化は・・・初めは
バンパー21の衝撃力による減速度(負の加速度)が生じ、減速度最大の点(負の領域での加
速度の絶対値が最大の点)が現れ、その点以後再び減速度が小さくなるような変化を来す領域
イ・・・と、続いて減速度が小さく変動する領域ロ、さらに減速度が大きく変化してゆき、先
の領域イよりも大きな減速度最大の点が現れ、それ以後減速度が小さくなってゆく領域ハとに
大別される。ところが、上述したような破壊過程が車両構造の違いに伴い異なることから、
加速度の変化も車両構造の違いによって異なってくるため、この加速度から車両速度を求め、
この車両速度が特定の基準値を越えた場合にエアバック装置を動作させるようにした従来の装
置においては、基準値を車両構造に拘わらず、タイミングのよいエアバック装置の動作を得る
ことのできる基準値を設定することが困難であるという問題があった。本発明は、上記実情
に鑑みてなされたもので、車両構造の違いに拘わらず確実な動作を得ることのできる車両安全
装置用制御装置を提供するものである。本発明の他の目的は、正面衝突のみならず偏角衝突の
場合にも確実な動作を確保できる車両安全装置用制御装置を提供することにある(段落。」
【】∼【)00040009】
ウ「作用】請求項1記載の発明に係る車両安全装置用制御装置においては、車両が衝突し【
た際に発生する超音波が超音波検出手段により検出されると、感度変更手段により加速度検出
手段の感度が実質的に変更、すなわち、いわゆるセンサ自体の感度を変えるか又はセンサ自体
の感度は維持したまま、その出力信号を処理する際の閾値に相当するものを変えることで、あ
、、たかもセンサ自体の感度が変更されたと等価な状態とし感度の実質的変更が行われることで
この加速度を積分して得られる車両速度が所定値を越えたか否かの判断がより的確な時期に行
われることとなるものである(段落【,審決の記載事項の認定(あ)。」】)0013
エ「超音波センサ2は、本装置が搭載される車両が衝突により破壊に至る場合に発生する超
音波(詳細は後述)を検知するためのもので、例えば、圧電セラミックスを用いてなるものが
好適である。本実施例における装置は、いわゆるシングル・ポイントセンサ方式を採用するも
のであるので、上述した加速度センサ1及び超音波センサ2は同一の場所に取り付けられ、具
体的には、例えば、ギヤチェンジがいわゆるフロアシフトタイプの車両にあっては、チャンジ
()。」(【】,())レバーの前方側車体の前方側に配設される段落審決の記載事項の認定い0022
オ「CPU3は、後述するように制御プログラムの実行により、加速度センサ1及び超音波
センサ2のセンサ出力信号を入力し、これらセンサ出力信号に基づいて適宜な時期にスクイブ
10に通電を行うことによって、車両安全装置としてのエアバック装置(図示せず)を起動す
るものである。本実施例においては、先の加速度センサ1、超音波センサ2の出力端子は、
それぞれこのCPU3のA/D入力端子に接続されている(段落【】∼【,審決。」】00240025
の記載事項の認定(う)を含む)。
カ「本発明者は、衝突時に車体に生ずる種々の現象について鋭意研究の結果、図3(c)に
示されたように、衝突の際に超音波が出現することを突き止めた。すなわち本発明者は、この
超音波が、正面衝突と偏角衝突とで、周波数成分の違いはあっても必ず出現するものであるこ
と、従来、いわゆるクラッシャブルゾーンの破壊の間(図3の例では時刻t乃至時刻tの12
間に相当する期間)でのエアバック装置の適切な動作を設定することが困難であったこと、超
音波はこのクラッシャブルゾーンにおいても十分出現していることに着目し、時刻t乃至時1
刻tの間において、速度演算値ΔVを判定する基準値を従来に比して高めに設定(エアバッ2
ク装置がより動作し易くなる方向)することで、エアバック装置の確実な動作を得ることので
きる本装置に関する発明をするに至ったものである(段落【,審決の記載事項の認定。」】0038
(え))
キ「図2には上述の技術的思想を実現するため、CPU3により実行される制御手順を表す
、、。」(【】)フローチャートが示されており以下同図を参照しつつ具体的に説明する段落0040
ク「ステップ106では、超音波センサ2により本装置が搭載された車両の衝突に起因して
発生する超音波が検出されたか否かが判定され、超音波が検出されたと判定された場合(YE
Sの場合)には、衝突経過時間の判定処理(図2のステップ108)がなされる一方、超音波
が検出されないと判定された場合(NOの場合)には、スクイブ10への通電開始の判定基準
となる速度演算値ΔVの基準値をLとして(図2のステップ112)衝突判定処理(図2の2
ステップ114)へ進むこととなる。一方、衝突経過時間の判定処理(図2のステップ10
8)は、衝突開始からの経過時間tが所定範囲内か否か、すなわちt<t≦tが成立する12
か否かを判定するものである。ここで、時刻t,tは、図3の例で示されたようにいわゆ12
るクラッシャブルゾーンの破壊が行われている期間に相当する値である。本実施例において、
時刻t,tは、運転者の安全等の観点から本装置に要求されるエアバックの展開時間に、12
車両構造等を加味したシュミレーション結果を考慮して定められている。そして、t<t1
≦tが成立すると判定された場合(YESの場合)には、速度演算値ΔVの基準値がLと21
設定される図2のステップ110一方t<t≦tが成立しないと判定された場合N()、(12
)、()()。Oの場合には基準値がLL>Lとされる図2のステップ112こととなる212
尚、このように、速度演算値ΔVの基準値を変えるという事は、加速度センサ1のいわゆるセ
ンサ感度を実質的に変えることに相当するものである(段落【】∼【)。」】00430045
ケ「本実施例においては、超音波の発生が確認されるような衝突であって、衝突時間が所定
範囲(t<t≦t)である場合に、この所定範囲において、エアバックを展開させるか否12
かの判断の基準となる速度演算値ΔVの判定の基準値を、高くする(正極側により近い値とす
る)ことにより、従来と異なり時間遅れを生ずるようなことなく、的確にエアバックの展開が
なされることとなる(段落【)。」】0048
コ「例えば、砂利道等の悪路を走行する際や、道路の縁石を乗り越えた際等には、車体にあ
る程度の衝撃が加わるために減速度が生じるが、場合によっては減速度から算出される速度演
算値ΔVが判定の基準値を越えることとなる虞もある。このような場合に、従来のように単に
速度演算値ΔVが一定値を越えたか否かだけで、エアバック装置の動作を決定するような装置
にあっては、エアバックの動作を必要とする程でもないにも拘わらず動作してしまうような、
いわゆる誤動作の危険性があった。しかながら、本実施例の装置においては、上述のように
超音波が出ているか否かをもエアバック装置の動作を決定する判断要素としているので、上述
のように悪路の走行や縁石の乗り越えにおいては、超音波の発生は本来の衝突の場合に比して
わずかな期間であり、例えば、図3(c)の例のような時刻t以降までも継続するようなも1
のではないと考えられるので、例え速度演算値ΔVが基準値を越えるようなものであっても、
従来と異なり、上述のような誤動作が生ずることがなくなることとなる(段落【】∼。」0053
【)0054】
()上記()の各記載によれば,引用発明は,シングル・ポイントセンサ方式に32
よる加速度センサと、この加速度センサの出力信号を積分する積分回路とを設け、
車両の速度を算出し、この算出された車両速度が特定の基準値を越えた場合にエア
バック装置を動作させるように構成された従来の車両安全装置用制御装置におい
て,車両構造の相違により,車両衝突時における車両の破壊過程,ひいては加速度
の変化が異なってくるため,車両構造のいかんにかかわらず、タイミングのよいエ
アバック装置の動作を得ることのできる基準値を設定することが困難であるという
問題を解決すべき技術課題とし,車両構造の相違にかかわらず,かつ,正面衝突の
みならず偏角衝突の場合にも確実な動作を確保し得る車両安全装置用制御装置を提
供することを目的として,上記請求項1記載の構成を採用することとし,これによ
り,超音波センサ2(圧電セラミックスを用いて成るものが好適)が,車両が衝突
から破壊に至る場合に発生する超音波を検知し,この車両衝突時に発生する超音波
が検出されると,当該超音波センサ2と同一場所に取り付けられた加速度センサ1
の感度が実質的に変更されるとしたものであること,すなわち,車両衝突時に発生
する超音波は,正面衝突と偏角衝突において周波数成分の違いはあっても必ず出現
するもので,クラッシャブルゾーンの破壊が行われている期間(t1<t≦t2)
においても十分出現していることに着目し,この期間において超音波が検出されれ
ば,エアバックを展開させるか否かの判断基準となる速度演算値ΔVの判定の基準
値をL2からL1(L1>L2。正極側により近い値とする)に変更する(実質。
的に,加速度センサのセンサ感度を,エアバック装置がより動作し易くなるように
変更することに相当する)ことにより,時間遅れを生じることなく的確なエアバ。
ックの展開がなされるようにしたものであることが認められる。
なお,引用文献には,超音波に縦波と横波とがあることについて言及した記載は
見当たらず,したがって,縦波と横波のそれぞれの特性についての記載や,超音波
センサ2によって検出する超音波につき,それが縦波であるか,横波であるか,あ
るいはその双方を含むものであるかについての記載もない。
()ところで,一般に,固体物質中を伝搬する音波(超音波を含む)に,振動4。
方向,振動数及び伝搬速度が相違する縦波と横波とがあることは,古くから知られ
ており例えば昭和43年12月20日日刊工業新聞社発行の実吉純一ら監修超(,「
音波技術便覧(改訂3版」4頁,昭和50年6月30日株式会社工業調査会発行)
の島川正憲著「超音波工学−理論と実際−(初版」12頁,昭和61年10月2)
0日株式会社培風館発行の「物理学辞典−縮刷版−」261頁など,本件優先権)
主張日(平成9年10月2日)当時,周知の事項であったということができる。ま
た,衝突によって発生した横波は,衝突の方向にかかわらず,あらゆる方向に伝搬
すること(したがって,衝突の発生した方向に依存せずに検出されること)は技術
常識というべきである(逆に,縦波が衝突の発生した方向にしか伝搬しないという
,「。」点については本願補正明細書に縦波の・・・振れは衝突方向でしか発生しない
(【】),,,段落との記載があるが少なくとも本件優先権主張日当時において0003
技術常識又は周知の事項であったと認めるに足りる証拠はない。。)
しかるところ,審決は「え(判決注:上記()のカ)で摘記したように,引,()2
用文献記載の超音波は『正面衝突と偏角衝突とで、周波数成分の違いはあっても必
ず出現するもので』あり、これを位置固定の超音波センサ2で検出するのであるか
ら、検出される超音波は、少なくとも、衝突の発生した方向に依存せずに検出され
る横波成分を含んでいるものと解される」とした上で,引用発明を「車両の車体,
要素のバルク波の横波成分を検出する超音波センサ2・・・を有する車両安全装置
用制御装置」と認定し,さらに,引用発明の「横波成分」が本願補正発明の「トラ
ンスバーサル方向の振れ」に相当するとして,本願補正発明と引用発明とが「車,
両の車体要素のバルク波のトランスバーサル方向の振れを検出するセンサ・・・を
。」。,有する車両の乗員保護装置である点で一致すると認定したものであるそして
被告は,引用文献に,超音波センサ2によって検出する超音波につき,それが縦波
であるか,横波であるか,あるいはその双方を含むものであるかについての開示が
されていないことに関し,縦波は,横波に比べて,その伝播速度は速いが,振動の
振幅が小さくてエネルギー量は少なく,衝突の場合に,縦波の振動は衝突方向でし
か発生しないから,確実に衝突の振動を検出しようとする場合には,横波を検出す
ることが考えられるところ,圧電セラミックスによって物質内における振動を捉え
ようとする場合,あらゆる振動を検出してしまうのが通常であり,特に振動の振幅
の大きい横波成分が検出されることは必然であって,この検出された超音波を電気
信号として取り出し,これを処理すれば,その中に横波成分が含まれることとなる
のは明らかであると主張する。
そうすると,それ自体としては,超音波センサ2によって検出する超音波が,縦
波であるか,横波であるか,あるいはその双方を含むものであるかについての開示
,,,がない引用発明につき審決が本願補正発明との上記一致点の認定に及んだのは
圧電セラミックスを用いて成る振動センサが横波成分を検出することが必然である
という判断と「横波」を検出することのみならず「横波成分」を検出すること,,,
すなわち,例えば横波と縦波が重なった振動波(超音波)を振動センサで検出し,
この検出された超音波を電気信号として取り出して処理することにより,横波成分
を分離し得るというような場合であっても,なお,本願補正発明の「センサが)(
トランスバーサル方向の振れを検出する」ことに相当するという判断を,その前提
とするものであるということができる。
,()「【】()しかるところ特開平5−141948号公報甲第14号証の作用5
このように、圧電セラミックスの振動センサを支持アーム側に取付けて、支持アー
ムの厚さを振動センサの受信周波数と支持アームを伝搬する超音波の縦波音速との
関係で決定することで、縦波の超音波を支持アームの厚さ方向に定在させることが
できる。このことで、突起検出ヘッドが衝撃を受けて発生した音波をサスペンショ
ンばねを介して支持アームに伝達し、かつ、支持アームが厚さに対応する半波長の
整数倍の縦波音波を共振状態で蓄える。これにより支持アームの共振振動をこの振
動に対応する振動をもつ振動センサで効率よく検出する(段落【)との記。」】0007
載,及び特開平9−210694号公報(甲第15号証)の「本発明は・・・特、
にカーボン・ファイバーに超音波を伝搬させた超音波ファイバー・ジャイロ・セン
サに関する(段落【「図2は、振動発生手段1及び振動検出手段2aま。」】),0001
たは2bと、線材3aまたは3bとの接続構成例の1つとして、圧電セラミックス
とカーボン・ファイバーとの接続を示す構成図である・・・出力側となる振動検。
出手段2a,2bでも2枚の圧電セラミックスに線材(カーボン・ファイバー)3
a(又は3b)が挟持されている。入力側において圧電セラミックス1aと1bと
の間に、外部から所定の交流電圧が印加されると、圧電セラミックス1a,1bは
同一方向に伸縮を繰り返して歪みを生じ、線材3a(又は3b)に縦波を重畳する
ことができる。この縦波は線材(カーボン・ファイバー)3a(又は3b)中を伝
、。、搬し出力側に設けられた圧電セラミックスに伝えられる圧電セラミックスでは
この縦波を受けることにより歪みが発生する・・・この歪みにより振動検出手段。
2a,2bの圧電セラミックスに誘電分極が引き起され、各々電圧を発生すること
ができる。また、この場合において横波も一緒に重畳されることになるが、上記し
たように筒体(ボビン)などにカーボン・ファイバー3a(又は3b)が巻き付け
られ固定されることにより、横波は打ち消されるので出力側に伝搬されることはな
い(段落【】∼【)との記載によれば,これらの公報には,圧電セラ。」】00200021
ミックスを用いた振動検出手段(振動センサ)によって,超音波のうちの縦波を選
択的に検出することが記載されていると認めることができる。
そうすると,圧電セラミックスを用いて成る振動センサであるからといって,必
然的又は不可避的に横波(成分)を検出するものということができないことは明ら
かである。
()さらに,特開平5−19946号公報(乙第1号証)には「従来の技術】6,【
従来より、振動伝達板に圧電素子などを内蔵した振動ペンにより振動入力を行い、
振動伝達板に設けた複数のセンサにより入力点の座標を検出する座標入力装置が知
られている。このような座標入力装置では、図11に示すように振動を検出する
ため振動伝達板8の周辺部で圧電素子により構成されるセンサ6を振動伝達板表面
に垂直に装着していた(段落【】∼【「発明が解決しようとしてい。」】),【00020003
る課題】しかしながら、従来のセンサ構成で検出される検出波形は2つのモードが
重なった歪んだ波形であり、精度低下の原因となっていた。これは、次の様に説明
される。板状の振動体を伝播する振動は、周波数と振動板の板厚により伝播速度
が決定される、板波と言われる振動であり、図12で模式的に示す板波対称波(縦
波が主成分、図12(a)と板波非対称波(横波が主成分、図12(b)の2つ))
のモードが存在する。従来の上記図11のセンサ構成で、振動モードが振動伝達板
8の表面に垂直方向である圧電素子(従って横波が主成分の板波非対称波を検出)
の径が、波長に比べて無視できない大きさ(一般に波長の1/10以上)である場
合は、振動伝達板表面に平行方向の振動(従って縦波が主成分の板波対称波)も上
記非対称波と同時に検出してしまう。従って、圧電素子で構成されるセンサ6から
の検出信号は2つのモードが重なった歪んだ波形で検出されるという問題が発生し
た。本発明は上記問題点に鑑みてなされたもので、2つのモードの振動が干渉し
合うことによる検出信号への影響を軽減し、より高精度な座標検出をすることを目
的とする(段落【】∼【「課題を解決するための手段】上記目的を。」】),【00040006
達成するために、本発明の座標入力装置は次のような構成からなる。振動伝達時
間を計って振動源の座標を特定する座標入力装置であって、板様の振動伝達体と、
該振動伝達体に配置した振動検知手段と、該振動検知手段で検知された信号から単
一の振動モードを分離する分離手段とを備える(段落【】∼【「作。」】),【00070008
用】上記構成により、振動源より発せられ振動検知手段で検知された振動から単一
の振動モードを分離し、分離したモードの振動の伝達時間を計って、振動源の座標
を特定する(段落【)との各記載があり,これらの記載によれば,同公報。」】0009
,,()()には圧電素子を用いた振動センサが板波非対称波横波と板波対称波縦波
とが重なった振動波を検知した上,当該検知信号から,横波又は縦波を分離する技
術事項が開示されているものと認められる。
そして,このことと,上記()の各公報(甲第14,第15号証)の記載事項と5
を併せ考えれば,固体物質中を伝搬する超音波を検出するためのセンサが,横波を
選択的に検出するものであるか,縦波を選択的に検出するものであるか,横波と縦
波とが重なった振動波をそのまま検出するものであるかは,当該センサを含む装置
の構成,使用目的や使用方法等に基づいて選択決定される技術事項であることが示
,,唆されているものというべきであり超音波を検出するセンサであるからといって
それらの各センサの構成が同一であるということはできない。そうであれば,横波
と縦波が重なった振動波(超音波)を振動センサで検出し,この検出された超音波
を電気信号として取り出して処理することにより,横波成分を分離し得るというよ
うな場合は,もはや本願補正発明の「センサが)トランスバーサル方向の振れを(
検出する」ことに相当するということはできないというべきである。
()したがって,本願補正発明と引用発明とが「車両の車体要素のバルク波の7,
トランスバーサル方向の振れを検出するセンサ・・・を有する」点で一致するとし
た審決の認定は,その前提を欠き,誤りであるといわざるを得ない。
2結論
以上によれば,本願補正発明が,引用発明に基づいて当業者が容易に発明するこ
とができたものであるとして,本件補正を却下した審決の判断は,その余の取消事
由につき判断するまでもなく,誤りであり,原告の請求は理由がある。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
田中信義
裁判官
石原直樹
裁判官
杜下弘記

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