弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人元林義治上告趣意第一点について。
 原審第一回公判調書によれば、該公判には大月和男検事が立会い、更新後の第二
回公判調書によれば該公判には岡崎格検事が立会つている。しかるに、原判決にお
いては、「検事大月和男立会の上審理を行」つた旨を記載しているのは、所論のと
おり公判関与の検事と異る検事の氏名を判決に記載したものであつて刑訴第六九条
第二項に違反するものではあるが、かかる形式上の違法は刑訴第四一〇条に列挙し
ている上告理由に該当しないことは勿論判決の内容自体に影響を及ぼさないことは
明白である。論旨は、それ故に理由がない。
 同第二点について。
 所論Aに対しては、検事は昭和二二年八月一五日最初に聴取書を取り、同年同月
一六日第二回聴取書を取つている。原判決が証拠として挙げている「Aにたいする
第一回検事聴取書」というのは、この最初の聴取書を指していることは明白にして
一点の疑もない。ただその聴取書に「第一回」と表示していないだけのことを理由
として、原審が証拠として採用したAの検事聴取書中の陳述記載を全面的に抹殺否
定せんとする所論には、到底賛同することができない。そして、右聴取書中の陳述
記載によれば、被告人Bが花札を受取つた事実は明らかにされているのである。さ
れば、本論旨は、理由がない。
 同第三点について。
 原判決において、「先づ賭銭をその場に出し、次に花札を取り俗に飯田花という
博戯に着手し」た旨判示する以上、花札を使用し偶然の事情により財物の得喪を争
う方法のものであること自ら明らかであるから、特に該博戯の方法を詳細に説示し
なくとも、所論のような違法があるとは言えない。論旨は、理由なきものである。
 同第四点、第五点について。
 金銭を賭け花札を使用してする博戯において、当事者が既に賭銭をその場に出し
花札を配布(たとえそれが、親をきめるためであつても)したときは、その博戯実
行の範囲に入つたものであつて賭博罪に該当するものと言わなければならない。又
原判決は、所論のように「博戯は未遂であるが習癖が認められるから常習賭博と断
定した」ものではなく、「博戯に着手し」実行の範囲に入つたことを認めると共に
習癖が認められるから常習賭博と断定したものであることは、判文上明白に窺い知
られるところである。されば、論旨は何れも理由がない。
 同第六点について。
 原判決の説示するところは、判文自体から見て、博戯に着手しその実行の範囲に
入つたものと解し、賭博既遂として処罰する趣旨であることは明白である。論旨は、
それ故に理由がない。
 同第七点、第八点について。
 賭博罪は、偶然の勝敗に関し財物をもつて賭事又は博戯をするによつて成立し、
その結果として勝敗の既に決したことは賭博罪の成立に必要な事柄ではなない。こ
れは、国民の健全な風教維持のため賭博を刑罰制裁をもつて禁止せんとする立法の
趣旨から見て明らかなところである。所論のように、勝敗の決しない場合を総て未
遂とし無罪とすべきものとすることこそ、むしろ社会の通念に反し賭博禁止の法の
精神に戻るものと言わなければならぬ。それ故、賭博の着手をもつてその実行の範
囲に入つたものと解しこれを既遂とすることは、賭博罪の性質から由来するところ
であつて、所論のごとくこれを罪刑法定主義に反するものと説くのは適当でない。
さらに又、新憲法下において国民の自由と権利は尊重せらるべきは言を待たないが、
さればといつて国法において定める犯罪の構成要件を具備する者を既遂として処罰
し、又賭博常習犯を加重的に処罰することは、法律上当然の処置であつて、論旨の
ように賭博罪を寛大に処罰すべき新憲法の理念は、何処にも存在していない。かか
るが故に、論旨は何れも理由なきものと言うべきである。
 よつて、刑訴第四四六条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官全員の一致した意見である。
 検察官橋本乾三関与
  昭和二三年七月八日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    真   野       毅
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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