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平成25年8月29日判決言渡同日原本領収裁判所書記官上原啓司
平成24年(ワ)第16103号特許権に基づく差止等請求事件
(口頭弁論の終結の日平成25年7月9日)
判決
東京都中央区〈以下略〉
原告株式会社テクニカルメディアサービス
千葉県柏市〈以下略〉
原告A
原告ら訴訟代理人弁護士加藤伸樹
同訴訟代理人弁理士小林義孝
東京都文京区〈以下略〉
被告三菱UFJニコス株式会社
同訴訟代理人弁護士吉澤敬夫
同訴訟代理人弁理士岡崎信太郎
同新井全
同補佐人弁理士野口和孝
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙イ号物件目録記載のサービス(以下「被告サービス」とい
う。)を提供してはならない。
2被告は,原告株式会社テクニカルメディアサービス(以下「原告会社」と
いう。)に対し,787万5000円及びこれに対する平成24年6月14
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告は,原告Aに対し,1575万円及びこれに対する平成24年6月1
4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,発明の名称を「情報データ出力システム」とする2件の特許権を
有する原告らが,被告の提供する被告サービスが上記各特許権を侵害してい
る旨主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づく差止請求として被
告サービスの提供の禁止を求めるとともに,民法709条又は特許法102
条3項に基づく損害賠償及びこれらに対する不法行為の後である平成24年
6月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支
払を求める事案である。
1前提事実(当事者間に争いがないか,各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全
趣旨により容易に認定することができる事実)
(1)当事者
ア原告会社は,計算機用入力データ作成及びプログラミング作成業等を
目的とする株式会社であり,原告Aは,肩書住所地に居住する者である。
イ被告は,クレジットカード業等を目的とする株式会社である。
(2)原告らの特許権
ア原告ら及び株式会社ジャワネット(以下「ジャワネット」という。)
は,次の特許権(以下「本件特許権1」といい,その特許出願の願書に
添付された明細書を「本件明細書1」という。)を有している。(甲1,
2)
特許番号特許第4606626号
発明の名称情報データ出力システム
出願日平成13年3月21日
出願番号特願2001-80877
登録日平成22年10月15日
イ本件特許権1に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり
である(以下,当該発明を「本件発明1」といい,本件発明1に係る特
許を「本件特許1」という。)。
「販売する商品の個別情報データと提供する役務の個別情報データとの
少なくとも一方を記憶可能,かつ,記憶した前記個別情報データをイン
ターネットにおけるネットワーク上に送信可能な少なくとも1つのサー
バ装置を備え,前記インターネットを介して前記サーバ装置にアクセス
可能な多数の端末装置が,印字手段を介して前記サーバ装置から受信し
た前記個別情報データを出力する情報データ出力システムにおいて,
前記端末装置各々には,HTTP(HyperTextTransf
erProtocol)の記述言語に対するそれら端末装置の互換性の
相違(HTTPに対する前記端末装置の機種や該端末装置のオペレーテ
ィングシステム,前記端末装置にインストールされているアプリケーシ
ョンソフトウェア,前記端末装置で使用するフォント環境の相違)にか
かわらず,それら端末装置が前記情報データを統一された一定の規則性
に基づいて規則正しく最適なレイアウトで出力することを可能にする共
用アプリケーションソフトウェアがインストールされ,
前記共用アプリケーションソフトウェアが,前記情報データを印字す
る印刷用紙における該情報データの文字数および行数,前記印刷用紙に
印字する前記情報データの個数,前記印刷用紙に印字する前記情報デー
タの文字サイズおよび文字フォントを統一された一定の規則性に基づい
て規則正しく最適なレイアウトで出力する状態に自動的に設定する機能
を有し,
前記サーバ装置が,前記共用アプリケーションソフトウェアを前記イ
ンターネットにおけるネットワーク上に送信する共用アプリケーション
ソフトウェア送信手段と,前記情報データを前記共用アプリケーション
ソフトウェアが電子的に処理可能な中間データに変換するデータ変換手
段と,前記中間データを前記インターネットを介して前記端末装置に送
信するデータ送信手段とを有し,それら端末装置が,前記インターネッ
トを介して前記共用アプリケーションソフトウェアを受信かつインスト
ール可能であり,前記サーバ装置から前記中間データを受信すると,前
記共用アプリケーションソフトウェアを利用して前記中間データに変換
された前記情報データを前記印字手段を介して出力することを特徴とす
る情報データ出力システム。」
ウ本件発明1の構成要件を分説すると,次のとおりである(以下「構成
要件A」などという。)。
A販売する商品の個別情報データと提供する役務の個別情報データと
の少なくとも一方を記憶可能,かつ,記憶した前記個別情報データを
インターネットにおけるネットワーク上に送信可能な少なくとも1つ
のサーバ装置を備え,
B前記インターネットを介して前記サーバ装置にアクセス可能な多数
の端末装置が,印字手段を介して前記サーバ装置から受信した前記個
別情報データを出力する情報データ出力システムにおいて,
C前記端末装置各々には,HTTP(HyperTextTrans
ferProtocol)の記述言語に対するそれら端末装置の互換
性の相違(HTTPに対する前記端末装置の機種や該端末装置のオペ
レーティングシステム,前記端末装置にインストールされているアプ
リケーションソフトウェア,前記端末装置で使用するフォント環境の
相違)にかかわらず,それら端末装置が前記情報データを統一された
一定の規則性に基づいて規則正しく最適なレイアウトで出力すること
を可能にする共用アプリケーションソフトウェアがインストールされ,
D前記共用アプリケーションソフトウェアが,前記情報データを印字
する印刷用紙における該情報データの文字数および行数,前記印刷用
紙に印字する前記情報データの個数,前記印刷用紙に印字する前記情
報データの文字サイズおよび文字フォントを統一された一定の規則性
に基づいて規則正しく最適なレイアウトで出力する状態に自動的に設
定する機能を有し,
E前記サーバ装置が,前記共用アプリケーションソフトウェアを前記
インターネットにおけるネットワーク上に送信する共用アプリケーシ
ョンソフトウェア送信手段と,前記情報データを前記共用アプリケー
ションソフトウェアが電子的に処理可能な中間データに変換するデー
タ変換手段と,前記中間データを前記インターネットを介して前記端
末装置に送信するデータ送信手段とを有し,
Fそれら端末装置が,前記インターネットを介して前記共用アプリケ
ーションソフトウェアを受信かつインストール可能であり,前記サー
バ装置から前記中間データを受信すると,前記共用アプリケーション
ソフトウェアを利用して前記中間データに変換された前記情報データ
を前記印字手段を介して出力する
Gことを特徴とする情報データ出力システム。
エ原告ら及びジャワネットは,次の特許権(以下「本件特許権2」とい
い,本件特許1と併せて「本件各特許権」という。)を有している(以
下,本件特許権2の特許出願の願書に添付された明細書を「本件明細書
2」といい,本件明細書1と併せて「本件各明細書」という。)。(甲
3,4)
特許番号特許第4758546号
発明の名称情報データ出力システム
出願日平成12年11月22日
出願番号特願2000-356493
登録日平成23年6月10日
オ本件特許権2に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり
である(以下,当該発明を「本件発明2」といい,本件発明1と併せて
「本件各発明」という。また,本件発明2に係る特許を「本件特許2」
といい,本件特許1と併せて「本件各特許」という。なお,下線部は,
本件特許権1に係る特許請求の範囲の請求項1の記載との相違点であり,
下線部以外の部分は同記載と同一である。)。
「多数の情報データを記憶可能,かつ,記憶した前記情報データをイン
ターネットにおけるネットワーク上に送信可能なサーバ装置を備え,前
記インターネットを介して前記サーバ装置にアクセス可能な多数の端末
装置が,印字手段を介して前記サーバ装置から受信した前記情報データ
を出力する情報データ出力システムにおいて,
前記端末装置各々には,HTTP(HyperTextTrans
ferProtocol)の記述言語に対するそれら端末装置の互換性
の相違(HTTPに対する前記端末装置の機種や該端末装置のオペレー
ティングシステム,前記端末装置にインストールされているアプリケー
ションソフトウェア,前記端末装置で使用するフォント環境の相違)に
かかわらず,それら端末装置が前記情報データを統一された一定の規則
性に基づいて規則正しいレイアウトで出力することを可能にする共用ア
プリケーションソフトウェアがインストールされ,
前記共用アプリケーションソフトウェアが,前記情報データを印字す
る印刷用紙における該情報データの文字数および行数,前記印刷用紙に
印字する前記情報データの個数,前記印刷用紙に印字する前記情報デー
タの文字サイズおよび文字フォントを統一された一定の規則性に基づい
て規則正しいレイアウトで出力する状態に自動的に設定する機能を有し,
前記サーバ装置が,前記共用アプリケーションソフトウェアを前記イ
ンターネットにおけるネットワーク上に送信する共用アプリケーション
ソフトウェア送信手段と,前記情報データを前記共用アプリケーション
ソフトウェアが電子的に処理可能な中間データに変換するデータ変換手
段と,前記中間データを前記インターネットを介して前記端末装置に送
信するデータ送信手段とを有し,それら端末装置が,前記インターネッ
トを介して前記共用アプリケーションソフトウェアを受信かつインスト
ール可能であり,前記サーバ装置から前記中間データを受信すると,前
記共用アプリケーションソフトウェアを利用して前記中間データに変換
された前記情報データを統一された一定の規則性に基づいて規則正しい
レイアウトで出力する前記印字手段を有することを特徴とする情報デー
タ出力システム。」
カ本件発明2の構成要件を分説すると,次のとおりである(以下「構成
要件A」などという。なお,下線部の意味は上記オと同じ。)。
A多数の情報データを記憶可能,かつ,記憶した前記情報データをイ
ンターネットにおけるネットワーク上に送信可能なサーバ装置を備え,
B前記インターネットを介して前記サーバ装置にアクセス可能な多数
の端末装置が,印字手段を介して前記サーバ装置から受信した前記情
報データを出力する情報データ出力システムにおいて,
C前記端末装置各々には,HTTP(HyperTextTran
sferProtocol)の記述言語に対するそれら端末装置の互
換性の相違(HTTPに対する前記端末装置の機種や該端末装置のオ
ペレーティングシステム,前記端末装置にインストールされているア
プリケーションソフトウェア,前記端末装置で使用するフォント環境
の相違)にかかわらず,それら端末装置が前記情報データを統一され
た一定の規則性に基づいて規則正しいレイアウトで出力することを可
能にする共用アプリケーションソフトウェアがインストールされ,
D前記共用アプリケーションソフトウェアが,前記情報データを印字
する印刷用紙における該情報データの文字数および行数,前記印刷用
紙に印字する前記情報データの個数,前記印刷用紙に印字する前記情
報データの文字サイズおよび文字フォントを統一された一定の規則性
に基づいて規則正しいレイアウトで出力する状態に自動的に設定する
機能を有し,
E前記サーバ装置が,前記共用アプリケーションソフトウェアを前記
インターネットにおけるネットワーク上に送信する共用アプリケーシ
ョンソフトウェア送信手段と,前記情報データを前記共用アプリケー
ションソフトウェアが電子的に処理可能な中間データに変換するデー
タ変換手段と,前記中間データを前記インターネットを介して前記端
末装置に送信するデータ送信手段とを有し,
Fそれら端末装置が,前記インターネットを介して前記共用アプリケ
ーションソフトウェアを受信かつインストール可能であり,前記サー
バ装置から前記中間データを受信すると,前記共用アプリケーション
ソフトウェアを利用して前記中間データに変換された前記情報データ
を統一された一定の規則性に基づいて規則正しいレイアウトで出力す
る前記印字手段を有すること
Gを特徴とする情報データ出力システム。
(3)本件各特許権の出願経過
ア特許庁審査官は,本件特許権1の出願に対し,平成22年4月26日
付けで拒絶理由通知書(乙1の4。以下「本件拒絶理由通知書1」とい
う。)を起案し,同年5月6日にこれを発送した。また,特許庁審査官
は,本件特許権2の出願に対し,平成21年12月2日付けで拒絶理由
通知書(乙2の4。以下「本件拒絶理由通知書2」といい,本件拒絶理
由通知書1と併せて「本件各拒絶理由通知書」という。)を起案し,同
月15日にこれを発送した。
本件各拒絶理由通知書は,いずれも特開2000-66984(乙5。
以下「乙5文献」といい,これに記載された発明を「乙5発明」とい
う。)等を引用文献として,本件各発明は,乙5発明等から当業者が容
易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定
により特許を受けることができないとするものである。(乙1の4,乙
2の4,乙5)
イ原告らを含む本件各特許の出願人は,本件拒絶理由通知書1に対して
は平成22年7月5日に,本件拒絶理由通知書2に対しては平成22年
2月12日に,特許庁審査官宛てに意見書(それぞれ乙1の5及び乙2
の5。以下,これらを併せて「本件各意見書」という。)を提出した。
本件各意見書には,乙5文献「には,本願発明の特有な構成である『情
報データの文字サイズおよび文字フォントを統一された一定の規則性に
基づいて規則正しく最適なレイアウトで出力する状態に自動的に設定す
る機能』の記載はおろか,その示唆すらなく,その機能を実現するため
の『共用アプリケーションソフトウェア』の記載はおろか,その示唆す
らない」との記載がある。(乙1の5,乙2の5)
(4)被告の行為
ア被告は,平成19年頃から現在に至るまで,被告発行のクレジットカ
ードであるNICOSカードの利用者に対し,オンラインでの情報提供
等を行うために,Web会員サービス「NetBranch」を提供
している。被告は,同サービスの一環として,その利用者に対し,「ご
利用明細ネット切替サービス」と称する被告サービスを提供している。
被告サービスは,利用者に対して,Eメールで毎月の請求額の確定を通
知し,上記「NetBranch」で利用明細を確認するサービスで
あり,平成24年11月18日までは別紙イ号物件目録記載の構成を有
しており,翌日以降の構成も,アイコンの名称やページの表示手順等に
若干の相違があるものの,基本的にはこれと同一といってよいものであ
る。(甲6~12,乙4の1・2)
イ被告サービスにおいて利用者に提供される利用明細のデータは,本件
発明1の構成要件Aにいう「販売する商品の個別情報データ」には該当
しない。被告又は被告の親会社である株式会社三菱東京UFJフィナン
シャル・グループの管理する,「cr.mufg.jp」又は
「branch.nicos.co.jp」というドメイン名により特定されるサーバ並び
にデータ保存サーバ及びデータ変換サーバ(以下,被告サービスに用い
られるこれらのサーバを併せて「被告サーバ」という。)は,多数の情
報データを記憶することが可能で,かつ,記憶した情報データをインタ
ーネットにおけるネットワーク上に送信することが可能なサーバ装置を
備えている。したがって,被告サービスは,本件発明1の構成要件Aの
うち「情報データとの少なくとも一方を記憶可能,かつ,記憶した前記
個別情報データをインターネットにおけるネットワーク上に送信可能な
少なくとも1つのサーバ装置を備え」の部分及び本件発明2の構成要件
Aを充足する。(甲15,16)
ウ被告サービスの利用者が使用するパソコン等の利用者端末が本件各発
明の構成要件Bの「端末装置」に該当するか否かは別として,被告サー
ビスを利用する多数の利用者は,各自の利用者端末を用い,インターネ
ットを介して,被告サーバにアクセスすることができ,また,利用者端
末は,被告サーバから受信した情報データを,利用者端末の画面やプリ
ンタを介して出力することが可能であるから,被告サービスは,その限
度で,上記の構成要件Bを充足する。
エ被告サービスは,情報データ出力システムであるから,本件各発明の
構成要件Gを充足する。
2争点
(1)被告サービスは本件各発明の技術的範囲に属するか
(本件特許1について)
ア構成要件Aの「提供する役務」の充足性
(本件各特許について)
イ構成要件B,C,E及びFの「端末装置」の充足性
ウ構成要件CないしFの「共用アプリケーションソフトウェア」の充足

エ構成要件Eの「共用アプリケーションソフトウェア送信手段」の充足

オ構成要件Eの「データ変換手段」の充足性
(2)本件各特許は特許無効審判により無効にされるべきものか
ア記載要件違反の有無
イ実施可能要件違反の有無
ウサポート要件違反の有無
エ乙5文献に基づく無効理由(新規性,進歩性)の有無
(3)損害額
3争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(被告サービスは本件各発明の技術的範囲に属するか)につい

ア争点(1)ア(構成要件Aの「提供する役務」の充足性)について
(原告らの主張)
「役務」は,サービスと同じ意味で使用されているところ,被告サー
ビスは,被告のクレジットカード事業に関して,利用者に対し情報を提
供するサービスであり,「役務」に当たるから,これにより提供される
情報データは,本件発明1の構成要件Aの「提供する役務」の個別情報
データに該当する。
仮に,被告が下記において主張するように「役務」の意義が限定され
るとしても,被告サービスにおいては,データベースに含まれる多数の
利用者に係る多数の取引履歴から,利用者ごとに,かつ,特定の月に関
して,情報を類別し,抽出するものであるから,構成要件Aを充足する
というべきである。
(被告の主張)
本件明細書1を参照すると,本件発明1の構成要件Aにいう「個別情
報データ」は,商品を販売する側又は役務を提供する側が,インターネ
ットを通じて複数の商品の情報や,提供しようとする複数の役務情報を
得て,これを利用者に提供する場合のデータを意味すると解されるから,
「提供する役務」とは,選択可能な複数の役務を検索し,役務の種類ご
と,役務の提供者(製造者)ごと,役務の販売者ごとなどに類別できる
ようにするものと解される。これに対し,被告サービスに係る利用明細
は,カードによる決済後の情報を利用者に提供しているだけであるから,
その情報自体,選択可能な複数の役務に関するものではなく,構成要件
Aにいう「提供する役務」の個別情報データとは全く異なるものである。
したがって,被告サービスは,本件発明1の構成要件Aを充足しない。
イ争点(1)イ(構成要件B,C,E及びFの「端末装置」の充足性)につ
いて
(原告らの主張)
本件各発明は,情報データ出力システムに関する発明であり,情報デ
ータを提供するサーバとこれを受領する端末装置の存在が予定されてい
るところ,例えば,本件明細書1に開示された実施例1が情報提供者を
メーカー,情報受領者を販売店としていることから明らかなとおり,情
報提供者と情報受領者は別の主体であることが前提とされている。した
がって,本件各発明は,情報受領者が端末装置を保有することも当然の
前提としており,利用者端末は本件各発明の構成要件B,C,E及びF
の「端末装置」に該当する。
(被告の主張)
利用者端末は,被告サービスの利用者個人が保有するものであり,被
告が保有するものではないから,構成要件B,C,E及びFの「端末装
置」に該当しない。
ウ争点(1)ウ(構成要件CないしFの「共用アプリケーションソフトウェ
ア」の充足性)について
(原告らの主張)
(ア)被告サービスにおいては,別紙イ号物件目録記載2gのとおり,
利用明細が,アドビ・システムズ・インコーポレイテッド(以下「ア
ドビ社」という。)が無償で提供するアプリケーションソフトウェア
であるAdobeReader(以下「リーダー」という。なお,Adobe
Readerの前身であるAdobeAcrobatReaderを含めて用いることがあ
る。)によるPDF形式のファイルとして送信され,利用者はこれを
利用者端末に保存した後,画面に表示し,又は印刷することができる。
リーダーは,Windows,Linux又はMacOSのように,
複数のオペレーティングシステム(以下「OS」という。)の下で,
利用者の端末にインストールされているアプリケーションソフトウェ
アの構成にかかわらず作動し,フォント環境の相違に関わらず,一定
の規則に従ってレイアウトを維持したままデータを出力することがで
きるから,本件各発明の構成要件CないしFの「共用アプリケーショ
ンソフトウェア」に該当し,これらの構成要件を充足する。
被告は,リーダーは,PDFデータをPDF形式によって指示され
たとおり表示し,印字するだけであると主張するが,①リーダーは,
例えば,端末装置にMS明朝のフォントがインストールされていない
場合,端末装置にインストールされた明朝フォントを代替フォントと
して用いて出力する機能や,②A4サイズの用紙を前提に作成された
PDFファイルを,そのレイアウトを変えずにB5サイズの用紙に縮
小して印刷する場合,文字サイズ,上下端縁及びマージンを変更して
出力する機能を有しているから,上記主張は失当である。
また,リーダーは,PDFファイルについて印刷命令が出された場
合,プリンタの機種に応じたページ記述言語データを作成するが,こ
れは,ページ記述言語データにデータ数,文字数,文字サイズ,文字
フォント,行数,上下端縁,マージン等を設定するものであり,本件
各発明の構成要件Dにいう「統一された一定の規則性に基づいて規則
正しく最適なレイアウトで(又は規則正しいレイアウトで)出力する
状態に自動的に設定する機能」を有しているということができるもの
である。
(イ)被告は,下記のとおり包袋禁反言を主張するが,本件各意見書は,
乙5文献に示されたリーダーが共用アプリケーションソフトウェアに
当たることを除外する趣旨ではなく,クライアント相互間でデータを
読み取るアプリケーションを共用にすることによってレイアウトの崩
れという課題を解決するという本件各発明に特有の構成が,乙5文献
には記載されておらずその示唆もないと指摘するものにすぎない。し
たがって,原告らが本件訴訟において,リーダーが共用アプリケーシ
ョンソフトウェアに当たると主張することが許されないということに
はならない。
(被告の主張)
(ア)被告が利用者に提供する利用明細は,PDF形式のフォーマット
であって,利用先,利用者,カード種類,支払回数,利用金額,当月
の請求金額,新規利用分の支払総額,備考等の欄が空欄となったもの
があらかじめ用意されており,その空欄中に,当該利用者に対応する
データをデータベースから抽出し埋め込んで作成するものである。こ
のように,利用明細は,最初からPDF形式で作成され,それがその
まま利用者に送信されるのであって,利用明細に対応するPDF形式
以外の中間データが存在し,それがPDF形式に変換されるものでは
ない。利用者端末におけるリーダーは,このように送信されたPDF
データをPDF形式によって指示されたとおり表示し,印字するだけ
であるから,「最適なレイアウトで出力」するように処理したり,
「一定の規則性に基づいて規則正しく最適なレイアウトで出力する状
態に自動的に設定する機能」などは有していない。すなわち,被告サ
ービスにおいて,リーダーは,利用明細の「文字数および行数」「デ
ータの個数」「文字サイズおよび文字フォントを一定の規則性に基づ
いて最適なレイアウトで出力」するような処理を一切行わない。した
がって,リーダーは,本件各発明の構成要件CないしFの「共用アプ
リケーションソフトウェア」に該当せず,これらの構成要件を充足し
ない。
(イ)前記前提事実(3)イによれば,原告らは,本件各特許の出願経過に
おいては,リーダーが本件各発明の「共用アプリケーションソフトウ
ェア」に当たることを否定していたのであるから,本件訴訟において
これを覆すような主張をすることは許されない。また,原告らは,本
件各特許の出願経過においては,「共用アプリケーションソフトウェ
ア」はサーバ側のフォントと同一フォントで利用者端末側で印字する
機能を有している旨主張していたところ,被告サービスにおいて,O
Sの違いにより印字されるフォントが異なるものとなることは,原告
ら自身が認めるところであるから(甲10,12),被告サーバ側の
フォントと異なるフォントで印字されても構成要件を充足すると主張
することは許されない(包袋禁反言)。
エ争点(1)エ(構成要件Eの「共用アプリケーションソフトウェア送信手
段」の充足性)について
(原告らの主張)
別紙イ号物件目録記載3のとおり,利用者は,アドビ社へのリンクを
クリックすれば,アドビ社の設置するサーバ(以下「アドビサーバ」と
いう。)内のリーダーのダウンロードページに直ちに移動することがで
きるから,アドビ社へのリンクは,リーダーをインターネットに対して
送信する手段となっており,本件各発明の構成要件Eの「共用アプリケ
ーションソフトウェア送信手段」に該当する。
仮にそのようにいうことができないとしても,アドビサーバは,リー
ダーを利用者端末に対して送信する機能を有しており,被告は,その意
図により,アドビサーバを自己の道具又は手足として利用しているので
あるから,アドビサーバの管理者が被告でなくとも,被告サービスを実
施しているのは被告というべきである。
(被告の主張)
アドビ社へのリンクは,関連付けられたリンク先のウェブページにジ
ャンプするようにされているだけで,利用者がこれをクリックしたとこ
ろでリーダーが送信されるものではない。利用者は,リンク先のウェブ
ページにおいてリーダーをダウンロードする手続をアドビ社に対して行
なう必要があり,その場合も,リーダーはアドビサーバからダウンロー
ドされるのであって,被告サーバが送信するものではない。したがって,
上記のリンクをもって本件各発明の構成要件Eの「共用アプリケーショ
ンソフトウェア送信手段」ということはできない。
また,アドビサーバは,被告サーバとは全く異なるサーバであり,し
かも全く別の主体が所有し運用するサーバである。本件のように,サー
バ内に送信手段を有していることが構成要件中に明記されている場合に
ついて,当該サーバ中に送信手段が存在しなければ,それだけで構成要
件を充足していないとの結論にならざるを得ず,これを道具理論によっ
て埋め合わせることはできないというべきである。
オ争点(1)オ(構成要件Eの「データ変換手段」の充足性)について
(原告らの主張)
被告サービスにおけるデータ変換サーバは,利用明細に係る情報デー
タを,リーダーの処理可能なPDFデータに変換しており,これは「前
記情報データを前記共用アプリケーションソフトウェアが電子的に処理
可能な中間データに変換する」に該当するから,本件各発明の構成要件
Eの「データ変換手段」を充足する。
(被告の主張)
被告サービスにおけるPDFデータは,最初から完成されたレイアウ
トで作成されており,利用者端末のリーダーもこれを指示どおり表示し
印字するだけである。したがって,被告サービスにおいては,利用明細
のレイアウト等について更に電子的処理を必要とする「中間データ」は
存在せず,「中間データに変換するデータ変換手段」も存在しない。
(2)争点(2)(本件各特許は特許無効審判により無効にされるべきものか)
について
ア争点(2)ア(記載要件違反の有無)について
(被告の主張)
本件発明1の構成要件Dには,共用アプリケーションソフトウェアが
「統一された一定の規則性」に基づいて「規則正しく」「最適なレイア
ウト」で出力するとあり,本件発明2の構成要件Dには,共用アプリケ
ーションソフトウェアが「統一された」「一定の規則性に基づいて」
「規則正しいレイアウト」で出力するとあるが,本件各明細書の記載を
斟酌しても,これらが具体的にどのような基準により判断されるのかが
明らかではない。また,本件各発明の構成要件Dの「機能を有し」につ
いても,本件各明細書にその機能を達成するための具体的構成・手段に
ついての記載が一切ないため,当業者には当該機能を有する具体的な構
成・構造を想定することができない。したがって,本件各特許は,特許
法36条6項2号所定の明確性の要件を欠き,無効である。
(原告らの主張)
本件各発明の構成要件Dの「統一された一定の規則性に従って規則正
しく最適なレイアウト」及び「統一された一定の規則性に従って規則正
しいレイアウト」とは,共用アプリケーションソフトウェアの機能によ
り,情報が不規則に散在したり文字が入り乱れたりすることがなく表示
又は印字されること,換言すれば,システムの提供者が定めるデータの
配置や文字の大きさ等に関する規則性に従うことを意味する。実施例に
おいても,ディスプレイに表示される個別情報データと,プリンタから
出力された個別情報データは,一定の規則性に従って各データの配置,
文字の大きさ,文字の改行位置などが統一されている。したがって,本
件各発明が明確性を欠くということはできない。
イ争点(2)イ(実施可能要件違反の有無)について
(被告の主張)
本件各特許の特許請求の範囲及び本件各明細書の記載によっても,
「共用アプリケーションソフトウェア」がいかなる技術的手段であり,
また,その手段によってどのようにすれば「情報データ」を「規則正し
く最適なレイアウト」で又は「統一された一定の規則性に基づいて規則
正しいレイアウト」で出力する状態に自動的に設定する機能を有するこ
とになるのかが明らかではない。これらを具体的に達成する技術手段が
明細書に記載されていなければ,当業者はこれを追試したり実施するこ
とが不可能であるから,本件各特許は,特許法36条4項1号所定の実
施可能要件を欠き,無効である。
(原告らの主張)
特許庁の審査官は,本件各特許の出願経過において,共用アプリケー
ションソフトウェアとしてリーダーを挙げていることから,共用アプリ
ケーションソフトウェアに関する明細書の記載が実施不可能なものであ
るということはできない。
ウ争点(2)ウ(サポート要件違反の有無)について
(被告の主張)
本件各特許にいう「共用アプリケーションソフトウェア」については,
本件各明細書においても,特許請求の範囲に記載された以上の説明はな
く,課題を解決するための技術的手段の記載が発明の詳細な説明のいず
れにも存在しない。これは,実質的に開示されていない発明について特
許を請求するもので,特許法36条6項1号所定のサポート要件を欠き,
無効である。
(原告らの主張)
本件各特許の特許請求の範囲に記載された共用アプリケーションソフ
トウェアの機能は,発明の詳細な説明にも記載されている。また,当業
者であれば,その機能に関する特許請求の範囲の記載から,リーダーを
用いる技術態様を想到することができるから,サポート要件に違反する
ということはできない。
エ争点(2)エ(乙5文献に基づく無効理由の有無)について
(被告の主張)
(ア)〔新規性〕リーダーは,平成6年に無償配布が開始されることに
よって公開された無償のPDF閲覧ソフトウェアであり,無償配布に
伴い,アドビ社のホームページへのリンクもフリーであった。したが
って,本件各特許の出願時点において,本件各発明の構成要件C及び
Dの全部並びに構成要件Eのうちの「共用アプリケーションソフトウ
ェアを前記インターネットにおけるネットワーク上に送信する共用ア
プリケーションソフトウェア送信手段」は公知であった。これら以外
の要件は,通常インターネットにおいて用いられるサーバと端末であ
るパーソナルコンピュータに関するものにすぎないから,原告らの主
張によれば,アドビ社へのリンクと,PDFデータのサーバからの送
信と,リーダーを備えたパーソナルコンピュータがあれば,ほとんど
の場合本件発明の構成要件を充足することになる。
そして,PDFファイルの送受信は,乙5発明により,本件特許出
願前に公知であり,公然に実施されたものである。すなわち,乙5発
明は,データをインターネットにおけるネットワークに送信すること
が可能なサーバを有しており,上記データは,「河川管理システムの
開発」「建物管理システムの開発」等の提供する役務のデータである。
そして,乙5発明においては,上記サーバにアクセス可能な端末であ
るクライアントが,帳票を印刷する印字手段を介してサーバから受信
したデータを出力している。また,乙5発明のクライアントのウェブ
ブラウザはHTTPのプロトコルでHTMLテキスト等のウェブ情報
を送受信するためのクライアント側のソフトウェアであり,クライア
ントの帳票表示印刷手段は,リーダー等のプラグインソフトウェアで
ある。また,原告らの主張を前提とすれば,リーダーがフォントの埋
め込みによって環境に依存しないフォントを出力することができるこ
とも公知である。さらに,乙5文献には,帳票出力プログラムをサー
バ装置が端末装置に送信する手段を有する場合についても開示があり,
クライアントにおいてウェブブラウザから検索されたデータベースか
らのデータを用いて作成された帳票ファイルをプラグイン実行環境に
より帳票として出力すること及びクライアントが帳票出力プログラム
をインターネットを通じてインストールできることも記載がある。
したがって,本件各特許は,特許法29条1項1号又は2号に違反
して登録されたものであり,無効理由がある。
(イ)〔進歩性〕仮に,乙5発明にはリーダー等の帳票出力プログラム
をサーバ装置が端末装置に送信する手段について具体的な開示がなく,
本件発明とこの点において差異があるとしても,乙5文献の図2の例
は,帳票出力プログラムの配信をネットワークを通じて配信するもの
であり,乙5発明においてサーバ装置がリーダーをネットワークを通
じて配信することは当業者において容易に想到することができたもの
である。
したがって,本件各発明は,乙5発明によって容易に発明すること
ができたものであるから,特許法29条2項に違反して登録されたも
のであり,無効理由がある。
(原告らの主張)
(ア)〔新規性〕乙5発明は,サーバ装置を管理する者においてクライ
アント端末の環境を変更することができる企業内のイントラネットに
係る発明であり,インターネットを示唆する文言は見当たらない。ま
た,本件各発明が共用アプリケーションソフトウェア送信手段を要件
とするのに対し,乙5発明はクライアント端末でデータを表示するプ
ログラムを送信する手段について何らの記載もない。このように,乙
5発明は,本件各発明との関係で,公然知られた発明でも,公然実施
をされた発明でもないから,特許法29条1項1号又は2号違反をい
う被告の主張は理由がない。
(イ)〔進歩性〕乙5発明の帳票出力プログラムは,ウェブサーバを通
さずにデータベースにアクセスし,データを検索して帳票を出力し,
帳票の作成が終了すると帳票出力プログラムは消去されるというもの
であるから,乙5発明の図2の「帳票出力プログラム」は,本件各発
明の共用アプリケーションソフトウェアに対応するものではない。乙
5発明で,共用アプリケーションソフトウェアに対応するのは,アプ
レット実行環境のほか,ドキュメント・ビューア・ソフトウェア及び
帳票表示印刷手段であるが,これらをサーバからクライアントに対し
てネットワークを通じて配信することについて,乙5発明には,何の
記載もなく示唆もない。また,サーバとクライアント間又は各クライ
アント間でフォント環境が異なる可能性についても考慮されていない。
そもそも,乙5発明では,クライアントが帳票出力手段を備えること
を前提としており,一部のクライアントが帳票出力手段を備えていな
い場合についてすら考慮されていない。これは,乙5発明がイントラ
ネットに関する発明であることによるものである。これに対し,本件
各発明の実施例であるメーカーと販売店や展覧会主催者と出展者の場
合,元々は他人であった者をインターネット環境の下で結び付けるこ
とになるため,システム提供者の意向によりクライアントのOSやフ
ォント環境等を統一し,互換性の相違から生じる問題を解消すること
は容易ではない。したがって,本件各発明は,乙5発明から容易に想
到することができるものではなく,特許法29条2項違反をいう被告
の主張は理由がない。
(3)争点(3)(損害額)について
(原告らの主張)
被告は,平成19年頃から平成24年6月6日に至るまで,利用者に被
告サービスを提供し,従来は利用者に郵送されていた送付書類を,インタ
ーネットを介して提供することが可能になったことにより,送付書類の印
刷や郵送に要する費用を免れるという利益を得た。この間の本件各特許に
対する実施料相当額は,3150万円を下らず,これが本件各特許の侵害
による損害額となる(特許法102条3項)。
原告会社は,本件各特許につき各25%の持分を有し,原告Aは,本件
各特許につき各50%の持分を有しているから,原告会社及び原告Aの被
った損害の額は,それぞれ787万5000円及び1575万円となる。
(被告の主張)
争う。
第3当裁判所の判断
1争点(1)ウ(構成要件CないしFの「共用アプリケーションソフトウェア」
の充足性)について
まず,争点(1)ウから判断する。
(1)認定事実
前記前提事実に証拠(各項目の冒頭に掲記した。)及び弁論の全趣旨を
総合すると,次の事実が認められる。
ア本件各明細書の発明の詳細な説明の記載(甲2,4)
本件各明細書には,発明の詳細な説明として,次の記載がある。
(ア)本件明細書1
a【従来の技術】及び【発明が解決しようとする課題】
「【0002】サーバ装置の内部アドレスファイルに記憶された商品
の個別情報データと役務の個別情報データとがインターネットにお
けるネットワーク上に送信され,それらデータを受信した端末装置
がそれらデータをプリンタを介して出力する場合がある。」
「【0005】しかし,前記個別情報データの出力では,HTTP(中
略)の記述言語と個別情報データを受信した端末装置との間に互換
性の相違(HTTPに対する端末装置の機種やオペレーティングシ
ステム,アプリケーションソフトウェア,フォント環境等の相違)
があると,個別情報データが不規則に散在してディスプレイに表示
されたり,文字が入り乱れた乱雑な状態で印刷用紙に印字されてし
まう場合がある。販売店では,それを修正するために,個別情報デ
ータについて文字の置き換えや書式の設定,印字様式の設定,印字
位置の指定等のデータ処理をしなければならず,手間と時間とを要
する。【0006】また,前記互換性の相違があると,端末装置が個別
情報データ自体を読み込むことができない場合がある。この場合は,
各販売店が個別情報データを製造者から郵送やファクシミリ等で取
り寄せなければならない。【0007】本発明の目的は,前記HTTP
の記述言語に対する前記端末装置の互換性の相違にかかわらず,サ
ーバ装置から送信された個別情報データを統一された所定の形式で
端末装置が出力することができ,個別情報データに対するデータ処
理や個別情報データを郵送等で取り寄せるための手間や時間を省く
ことができる情報データ出力システムを提供することにある。」
b【発明の実施の形態】
【発明の実施の形態】には,「スポーツ用品の販売に供する紙票
の出力を行う」システムの例(【0012】~【0080】)及び「宿泊施
設の提供の取次ぎに供する紙票の出力を行う」システムの例
(【0081】~【0117】)が挙げられている。
もっとも,共用アプリケーションソフトウェアによるレイアウト
の設定については,「【0031】共用アプリケーションソフトウェア
は,HTTP(中略)の記述言語と端末装置6との間に互換性の相
違(HTTPに対する端末装置6の機種やオペレーティングシステ
ム,アプリケーションソフトウェア,フォント環境等の相違)があ
ったとしても,統一した所定の形式で個別情報データをディスプレ
イ7に表示させ,かつ,統一した所定の形式で個別情報データをプ
リンタ9に印字させるソフトウェアである。【0032】ここで,所定
の形式とは,一定の規則性に基づいて整理された個別情報データが,
規則正しくディスプレイ7に表示またはプリンタ9から印字される
その状態をいう。【0033】共用アプリケーションソフトウェアは,
印刷用紙における文字数および行数,印刷用紙に印字する個別情報
データのデータ数,文字サイズおよび文字フォント,印刷用紙の上
下端縁および両側縁のマージン等を自動的に設定する機能を有し,
個別情報データをディスプレイ7または印刷用紙に無駄なく最適な
レイアウトで表示または印字する機能を有する。【0034】その具体
例としては,たとえば,端末装置6においてB5縦の印刷用紙を選
択すると,1行文字数を80字,1頁行数を30行に設定するとと
もに,用紙の上下端縁と両側縁とのマージンをそれぞれ10mmに
設定し,個別情報データの全てが印刷用紙に納まるようにデータを
配列する。」との説明があるのみで,それ以上に詳細な説明はされ
ていない。
また,共用アプリケーションソフトウェアの送信についても,
「【0046】このシステムでは,共用アプリケーションソフトウェア
が第1サーバ装置1からインターネット10におけるネットワーク
上に送信されている。操作者は,共用アプリケーションソフトウェ
アを第2サーバ装置5を介して端末装置6にダウンロードし,セッ
トアッププログラムを使用してそれをインストールする。また,共
用アプリケーションソフトウェアを記憶したCD-ROMを使用し
てそれをインストールすることもできる。」との説明があるのみで,
それ以上に詳細な説明はされていない。
さらに,中間データへの変換及びその送信並びにその変換及び表
示・印刷についても,「【0036】第1サーバ装置1では,端末装置
6からの指示に基づいて,個別情報データを共用アプリケーション
ソフトウェアが電子的に処理可能な中間データに変換する(データ
変換手段)(S-4)。第1サーバ装置1は,インターネット10
を介して中間データを第2サーバ装置5に送信する(データ送信手
段)(S-5)。【0037】中間データは,第2サーバ装置5から端
末装置6に配信される。中間データを受信した端末装置6は,共用
アプリケーションソフトウェアを利用して中間データに変換された
個別情報データを読み込み(S-6),ディスプレイ7を介してそ
れら個別情報データを表示させる。それら個別情報データは,プリ
ンタ9を介して印刷用紙に印字される(S-7)。」などの説明が
あるのみで(他に【0052】~【0054】,【0059】~【0061】,
【0064】~【0066】,【0071】~【0073】,【0092】~【0094】,
【0099】~【0101】,【0104】~【0106】及び【0110】~【0112】
にもおおむね同様の記載が繰り返されている。),それ以上に詳細
な説明はされていない。
(イ)本件明細書2
a【従来の技術】及び【発明が解決しようとする課題】
本件明細書2の【0002】~【0008】には,上記(ア)aとほぼ同様
の説明がある。
b【発明の実施の形態】
【発明の実施の形態】には,「展示会や即売会等のイベントへ参
加した出展者がイベント会場へ来場したユーザーに後日,紹介状や
案内状等の郵便物を発送する際,その郵便物に貼付する宛名ラベル
を出力する場合」(【0012】~【0068】)が例として挙げられてい
る。
もっとも,本件明細書2においても,共用アプリケーションソフ
トウェアによるレイアウトの設定(【0033】~【0036】),共用ア
プリケーションソフトウェアの送信(【0048】),中間データへの
変換及びその送信並びにその変換及び表示・印刷(【0038】,
【0039】及び【0062】~【0064】)のいずれについても,上記(ア)
bに摘示した以上に詳細な説明がされていないことは,本件明細書
1と同様である。
イ本件各特許権の出願経過(乙1の4・5,乙2の4・5)
(ア)本件各特許権の出願経過は,前記前提事実(3)のとおりであるとこ
ろ,本件各拒絶理由通知書には,次の指摘がある。
a本件拒絶理由通知書1においては,乙5発明は,ウェブブラウザ
のプラグインソフトウェア等は,クライアントのOSや利用してい
るブラウザソフトウェアにかかわらず,統一した所定の形式で帳票
ファイルをディスプレイに表示し又は紙に印刷するというものであ
るから,乙5発明のウェブブラウザのプラグインソフトウェア等及
び帳票ファイルは,それぞれ本件発明1の共用アプリケーションソ
フトウェア及び中間データに相当する旨の指摘がされている。
b本件拒絶理由通知書2においては,乙5文献には,クライアント
からの検索条件に基づいて,サーバがデータベースから情報データ
を取得し,変換装置によりPDF形式の帳票ファイル(本件発明2
における「中間データ」)を作成し,当該帳票ファイルをクライア
ントに送信し,クライアントはブラウザのプラグインソフトウェア
としてインストールされた帳票表示印刷手段を利用してこれを印字
手段を介して出力する情報データ出力システムが記載されている旨
の指摘がされている。
(イ)これに対して原告らを含む本件各特許の出願人が提出した本件各
意見書には,次の記載がある。
「確かに引用文献1〔注・乙5文献〕には,クライアントがブラウ
ザのプラグ・イン・ソフトウェアとしてインストールされた帳票表示
印刷手段(AcrobatReader等)を利用して帳票ファイルを印字手段を
介して出力することが記載されている。引用文献1では,(中略)サ
ーバから送られてきた帳票ファイルの文字フォントがクライアント側
に存在しない場合(サーバのフォント環境とクライアントのフォント
環境とが相違する場合や各クライアントでフォント環境が相違する場
合),それらクライアントはその帳票ファイルをエラーとして扱うか,
または,それらクライアントに存在する文字フォントに置き換えて帳
票ファイルを出力する。したがって,サーバとそれらクライアントと
に統一した文字フォントが存在せず,文字フォントが異なる場合,文
字フォントを統一することができず,クライアントがサーバと同一の
文字フォントで帳票を出力することができないのみならず,各クライ
アントがサーバの文字数(情報データの個数)と異なる文字数で帳票
を出力してしまう場合がある。」
これ「に対し,本願の請求項1に記載の発明〔注・本件各発明〕は,
各端末装置にインストールされた共用アプリケーションソフトウェア
がHTTPに対する端末装置の機種や端末装置のオペレーティングシ
ステム,端末装置にインストールされているアプリケーションソフト
ウェア,端末装置で使用するフォント環境の相違にかかわらず,各端
末装置が情報データを統一された一定の規則性に基づいて規則正しく
最適なレイアウトで出力することを可能にする情報データ出力システ
ムであり,その共用アプリケーションソフトウェアが情報データを印
字する印刷用紙における情報データの文字数および行数,印刷用紙に
印字する情報データの個数,印刷用紙に印字する情報データの文字サ
イズおよび文字フォントを統一された一定の規則性に基づいて規則正
しく最適なレイアウトで出力する状態に自動的に設定する機能を有す
る。特に,文字サイズや文字フォントを統一された一定の規則性に基
づいて規則正しく最適なレイアウトで出力する状態に自動的に設定す
ることにより,サーバから送られてきた情報データの文字フォントが
各端末装置(クライアント)側に存在しない場合(サーバのフォント
環境と各端末装置のフォント環境とが相違する場合や各端末装置どう
しでフォント環境が相違する場合)であっても,サーバの文字フォン
トと同一の文字フォントで情報データを各端末装置において再現可能
であるから,サーバと同一の文字フォントで情報データを出力するこ
とができ,サーバと端末装置とにおいてフォント環境が相違したとし
ても,各端末装置が情報データを統一された一定の規則性に基づいて
規則正しく最適なレイアウトで出力することができる。また,そのた
めに各端末装置が同一のオペレーティングシステムを利用する必要は
なく,各端末に同一のクライアントソフトがインストールされている
必要もない。本願の請求項1に記載の発明は,HTTPの記述言語に
対するそれら端末装置の互換性の相違があったとしても,各端末装置
において情報データが不規則にばらけてしまうことはなく,各端末装
置において情報データを規則正しく出力させることができる。」
ウPDFファイル及びリーダーの機能について(甲10~12,17,
21,22の1・2,甲29,乙6~8)
(ア)PDF(PortableDocumentFormat)は,電子上の文書に関する
ファイルフォーマットの1つであり,アドビ社により開発されたもの
である。その最大の特徴は,特定の環境に左右されることなく,ほと
んど全ての環境においてほぼ同様の状態で文章や画像を閲覧すること
ができるところにあり,平成20年7月には,国際標準化機構によっ
てISO32000として標準化された。
PDFファイルを作成するに当たっては,同じくアドビ社の開発し
たAdobeAcrobat(以下「アクロバット」という。)を使用するのが一
般的であるが,他にも多くのPDFファイルの作成ツールがあり,M
acOSXでは,各種ドキュメントをPDFファイルに変換する標
準機能が装備されている。これに対し,リーダーは,PDFファイル
を表示・印刷するためのアプリケーションソフトウェアであり,PD
Fファイルを作成する機能は備わっていない。なお,リーダーは,平
成15年のPDFのバージョン1.5以降,名称がAdobeAcrobat
ReaderからAdobeReaderに変更された。
PDFファイルは,リーダーがインストールされているコンピュー
タであれば,基本的に,元のレイアウトどおりに表示・印刷すること
ができるため,PDFのファイル形式は,レイアウトを保持する必要
のあるドキュメントに多く用いられている。
(イ)PDFファイルを作成するに当たっては,フォントを設定するが,
その設定次第では,別の端末で表示・印刷したときに元のレイアウト
を保持することができず,エラーや文字化けが発生することがある。
このようなエラーや文字化けが発生した場合の対処方法としては,当
該フォントに含まれている全ての字形を埋め込む方法と,当該文章に
使用されている字形のみを埋め込む方法がある。PDFファイル内に
フォントが埋め込まれているのではなく,フォントが参照されている
場合,ファイルを開くシステム上で当該フォントが検索され,システ
ム上のフォントを使用してテキストが表示されるが,その設定をする
ためには,リーダー起動スプリクト又はユーザー構成ファイル内のP
SRESOURCEPATH変数を設定して,リーダーがインストー
ルされているフォントにアクセスすることができるようにする必要が
ある。
(ウ)リーダーを使用してPDFファイルを印刷する場合,用紙サイズ
に合わせてページを拡大又は縮小したり,実際のサイズのまま印刷し
たりすることを設定することができる。印刷用紙よりも大きいサイズ
のPDFファイルを実際のサイズのまま印刷する場合には,印字部分
が用紙をはみ出す形で印刷されることもあり得る。
エ被告サービスについて(乙3)
被告サービスの概要は,別紙イ号物件目録のとおりである(前提事実
(4)参照)。
被告サーバにおいては,あらかじめ,PDFファイルを作成するため
のテンプレートが用意されており,利用者からPDFファイルによる利
用明細を送信するよう要求があった場合,その都度,これに対応する情
報をデータベースから読み出し,上記テンプレートの空欄部分に書き込
んで,利用明細をPDFファイルとして作成し,これをそのまま利用者
に送信している。上記テンプレートの空欄に入る文字数にはあらかじめ
所定の制限が設けられており,それ以上の文字数がある情報は,その超
える部分が自動的にカットされてPDFファイルが作成される仕様とな
っている。
利用者において,リーダーを使用して受信ファイルを表示又は印刷す
る場合,そのレイアウトを変更・加工することはできない。上記の文字
数制限についても,カットされた部分を表示させたり,被告が送信した
ファイルと異なる行数で表示させたりすることはできない。
(2)判断
ア本件各発明の構成要件CないしFにいう「共用アプリケーションソフ
トウェア」がどのようなアプリケーションソフトウェアを意味するかに
ついて検討すると,まず,本件各特許の特許請求の範囲には,「前記共
用アプリケーションソフトウェアが,前記情報データを印字する印刷用
紙における該情報データの文字数および行数,前記印刷用紙に印字する
前記情報データの個数,前記印刷用紙に印字する前記情報データの文字
サイズおよび文字フォントを統一された一定の規則性に基づいて」「規
則正しく最適なレイアウト」(本件特許1)又は「規則正しいレイアウ
ト」(本件特許2)「で出力する状態に自動的に設定する機能を有」す
るものと記載されており(構成要件D),これによれば,本件各発明の
「共用アプリケーションソフトウェア」は,少なくとも,①情報データ
の文字数及び行数,②印刷用紙に印字する前記情報データの個数,並び
に,③印刷用紙に印字する前記情報データの文字サイズ及び文字フォン
トを,統一された一定の規則性に基づいて規則正しい(最適な)レイア
ウトで出力する状態に自動的に設定する機能を有するものでなければな
らず,そのいずれかの機能を欠くアプリケーションソフトウェアは,
「共用アプリケーションソフトウェア」に当たらないものと解される。
また,本件各明細書の記載をみても,前記(1)ア(ア)a及び同(イ)aの
とおり,本件各発明は,従来の技術では,HTTPの記述言語と情報デ
ータを受信した端末装置との間に互換性の相違(端末装置の機種やOS,
アプリケーションソフトウェア,フォント環境等の相違)があると,情
報データが不規則に散在してディスプレイに表示されたり,文字が入り
乱れた乱雑な状態で印刷用紙に印字されてしまう場合があったところ,
これを,情報データを中間データに変換して端末装置に送信し,端末装
置にインストールされた共用アプリケーションソフトウェアの機能によ
り,統一された一定の規則性に基づいて規則正しい(最適な)レイアウ
トで出力することによって,統一した所定の書式で表示又は印刷させる
ことができるとの作用効果を有するものとされている。そして,本件各
明細書において,共用アプリケーションソフトウェアは,「印刷用紙に
おける文字数および行数,印刷用紙に印字する個別情報データのデータ
数,文字サイズおよび文字フォント,印刷用紙の上下端縁および両側縁
のマージン等を自動的に設定する機能を有し,個別情報データをディス
プレイ7または印刷用紙に無駄なく最適なレイアウトで表示または印字
する機能」を有するものとされている。
さらに,前記(1)ア(ア)b及び同(イ)bのとおり,本件各明細書には,
本件各発明の実施例として,(ア)スポーツ用品の販売に供する紙票を出
力する場合,(イ)宿泊施設の提供の取次ぎに供する紙票を出力する場合,
(ウ)展示会や即売会等のイベントに参加した出展者がイベント会場に来
場したユーザーに後日,紹介状や案内状等の郵便物を発送する際の郵便
物に貼付する宛名ラベルを出力する場合が挙げられている。そして,こ
のうちの(ア)を例に採ると,本件明細書1中の図6に掲記されたB5縦
の紙票には,テニスラケットのメーカー名,商品名,キャッチフレーズ,
性能,販売価格及び販売店名が所定の文字数以内,所定の行数以内,所
定の列数以内に印字され,テニスラケットの形態(全体図)が所定の範
囲に印刷されている。そして,販売店は,この紙票を,テニスラケット
やショウケースに貼付したり,広告として使用したり,紹介状や案内状
と共に顧客に郵送したりすることもできる旨の作用効果が記載されてい
る(【0079】,【0080】)。上記の①ないし③の一部でもレイアウトが
崩れた場合は,このような作用効果を発揮することができず,各販売店
が情報データを製造者から郵送やファクシミリ等で取り寄せなければな
らなくなり,本件各発明の課題(前記(1)ア(ア)a及び同(イ)a参照)を
解決することができないこととなる。
以上によれば,本件各発明にいう「共用アプリケーションソフトウェ
ア」は,上記①ないし③の全てを統一された一定の規則性に基づいて規
則正しい(最適な)レイアウトで出力する状態に自動的に設定する機能
を有するものであることを要し,これらを設定する機能を一部でも欠き,
又は機能自体はあっても手動で設定しなければならないこともあるよう
なアプリケーションソフトウェアは,上記の「共用アプリケーションソ
フトウェア」には当たらないものと解するのが相当である。
イこれを被告サービスについてみると,前記(1)エのとおり,被告サーバ
においては,あらかじめ用意されているテンプレートに従って利用明細
に係るPDFファイルが作成され,これが利用者に送信されると,利用
者は,元のレイアウトを変更することなく,単に,受信したPDFファ
イルをリーダーで表示又は印刷するにすぎないことが認められる。すな
わち,被告サービスにおいて,共用アプリケーションソフトウェアが有
するとされている基本的な機能(利用者端末の機種やOS,アプリケー
ションソフトウェア,フォント環境等の相違にかかわらず,情報データ
を統一された所定の形式で端末装置が出力することができるようなファ
イルを作成する機能)を有するアプリケーションソフトウェアに相当す
るのは,PDFファイルの作成機能を有するアクロバット等のアプリケ
ーションソフトウェアであって(なお,それは,利用者端末ではなく被
告サーバにインストールされているものと認められる。),利用者が利
用明細に係るPDFファイルを表示又は印刷する際に使用する利用者端
末のリーダーは,これには当たらないものと解される。
ウこれに対し,原告らは,リーダーにも,元の文書に使用されたフォン
トが端末装置に存在しない場合に代替フォントを用いて出力する機能,
元の文書を縮小して印刷する際に文字サイズ,上下端縁及びマージンを
変更して出力する機能があると主張する。
しかしながら,前記(1)ウ(イ)のとおり,リーダーのフォントの設定次
第では,別の端末で表示・印刷したときに元のレイアウトを保持するこ
とができず,エラーや文字化けが発生する場合もあり,これを補正する
ためには手動で字形を埋め込むなどの作業をしなければならないことも
あることが認められる。また,同(ウ)のとおり,リーダーを使用してP
DFファイルを印刷する場合,その設定次第では,常に最適のサイズで
の印刷がされるとは限らないことが認められる。そうすると,リーダー
に原告らの主張するような機能があるとしても,リーダーが,文字サイ
ズ及び文字フォントを常に一定の規則性に基づいて規則正しい(最適
な)レイアウトで出力する状態に自動的に設定する機能(前記アの③)
を有するとは断定することができないものというべきである。
また,この点をおくとしても,原告らは,共用アプリケーションソフ
トウェアが有していなければならない前記アの①ないし③の機能のうち,
①の情報データの文字数及び行数並びに②の印刷用紙に印字する前記情
報データの個数については,リーダーにこれを統一された一定の規則性
に基づいて規則正しい(最適な)レイアウトで出力する状態に自動的に
設定する機能があることについて主張すらしていない。なお,この点に
関し,原告らは,リーダーはPDFファイルについて印刷命令が出され
た場合,プリンタの機種に応じたページ記述言語データを作成するとこ
ろ,これはページ記述言語データにデータ数,文字数,文字サイズ,文
字フォント,行数,上下端縁,マージン等を設定するものであると主張
するが,それも,元のファイルのレイアウトを最適なものに設定するも
のではなく,元のファイルのレイアウトを何ら変更することなく,その
とおりに印刷することしかできない機能として主張されているものと解
されるから,リーダーが上記①及び②の機能を有していることの根拠と
はならないものというべきである。
したがって,原告らの主張はいずれも理由がない。
エ加えて,原告らを含む出願人は,本件各特許権の出願経過において,
特許庁審査官の本件各拒絶理由通知書(前記(1)イ(ア))に対して本件各
意見書を提出し,これには同(イ)のとおりの記載がされていた。
これをみると,原告らは,本件各発明が乙5発明とは異なるもので,
かつ,当業者が乙5発明から本件各発明を容易に想到することができな
いものであることを裏付けるために,リーダーを用いて印刷した場合,
文字フォントを統一することができず,クライアントがサーバと同一の
文字フォント,サーバと同一の文字数(情報データの個数)で帳票を出
力することができない場合があるのに対し,本件各発明の共用アプリケ
ーションソフトウェアにはこのような制約がなく,規則正しく最適なレ
イアウトで出力することができる旨主張しているのであるから,本件各
発明の共用アプリケーションソフトウェアはリーダーとは異なるアプリ
ケーションソフトウェアを想定している旨の主張をしていることが明ら
かである。
そうすると,本件各特許の出願経過においてこのような主張をし,そ
の登録を受けた原告らが,本件訴訟において,これを翻し,リーダーが
本件各発明の共用アプリケーションソフトウェアに当たるとの主張をす
ることは,信義誠実の原則に反し,許されないというべきである。この
点からも,原告らの主張は理由がない。
オ以上によれば,リーダーが本件各特許にいう「共用アプリケーション
ソフトウェア」に当たるとの原告らの主張は理由がない。そして,原告
らは,被告サービスに関し,共用アプリケーションソフトウェアに当た
るものとしてリーダー以外のアプリケーションソフトウェアを主張して
いないのであるから,被告サービスは,本件各発明の構成要件Cないし
Fを充足せず,本件各発明の技術的範囲に属しないものと解するのが相
当である。
2争点(1)エ(構成要件Eの「共用アプリケーションソフトウェア送信手段」
の充足性)について
なお,上記1のとおり,リーダーは本件各特許にいう「共用アプリケーシ
ョンソフトウェア」には当たらないというべきであるが,仮にその該当性が
肯定されたとしても,被告サービスにおいては,リーダーが被告サーバから
送信されるものではなく,利用者が被告サービスに係るウェブページに設定
されたリンクからアドビ社のホームページに移行し,アドビサーバからこれ
をダウンロードするものであることは,原告ら自身が認めるところである。
したがって,被告サービスは,「前記共用アプリケーションソフトウェアを
前記インターネットにおけるネットワーク上に送信する共用アプリケーショ
ンソフトウェア送信手段」を有しているものということはできず,本件各発
明の構成要件Eを充足しないものと解される。
これに対し,原告らは,被告はアドビサーバを自己の道具又は手足として
利用しているから,アドビサーバの管理者が被告でなくとも,被告サービス
を実施しているのは被告というべきであると主張する。しかしながら,被告
サーバとアドビサーバは,異なる法人格を有する被告とアドビ社がそれぞれ
管理するサーバであるから,アドビサーバが被告の道具又は手足に当たると
解することはできない。加えて,構成要件Eは,共用アプリケーションソフ
トウェア送信手段が被告サーバに設けられるべきものとしているところ,ア
ドビサーバが被告の道具又は手足と評価されるか否かにかかわらず,その送
信手段がアドビサーバにあり,被告サーバにないことには変わりがないので
あるから,被告サービスが構成要件Eを充足するということはできない。
よって,被告サービスは,本件各発明の構成要件Eを充足せず,この観点
からも本件各発明の技術的範囲に属しないものと解するのが相当である。
3結論
以上によれば,その余の争点につき判断するまでもなく,本件請求はいず
れも理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴
法61条,65条1項本文を適用して主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官長谷川浩二
裁判官清野正彦
裁判官植田裕紀久

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