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平成10年(ワ)第13560号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成13年1月22日
判決
原      告   フェリック株式会社
訴訟代理人弁護士   小 松 陽一郎
訴訟復代理人弁護士  宇 田 浩 康
補佐人弁理士     前   直 美
被      告   桐灰化学株式会社
訴訟代理人弁護士   吉 原 省 三
同          小 松   勉
補佐人弁理士     朝日奈 宗 太
同          佐 木 啓 二
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は、商品名「きりばいきんきらきん はる」、あるいは「はる キリダ
ンボ」からなる使い捨てカイロの発熱体であって、該発熱体に使用されている通気
性微細孔を有するシートの通気性が、0.2~1.6×10-4
㏄・㎝-2
・sec-1
・Torr-1
の範囲にあ
るものを製造し、販売し、販売の申出をし、又は販売のために展示してはならな
い。
2 被告は、前項記載の発熱体及びそれに使用する袋材を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、金1億円及びこれに対する平成10年12月23日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、「発熱組成物収納用袋の袋材」の特許発明の特許権者である原告が被
告に対し、被告の製造、販売する使い捨てカイロの収納用袋の袋材は同特許発明の
技術的範囲に属すると主張して、その差止め等と損害賠償を請求した事案である。
1 争いのない事実等
(1) 原告は次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。
ア 特許番号 第2132756号
イ 出願日 昭和61年10月18日(特願昭61-247988号)
ウ 出願公告日 平成6年4月13日(特公平6-26555号)
エ 登録日 平成9年10月17日
オ 発明者 A
カ 特許請求の範囲は、別添特許公報(補正後のもの)記載のとおり(以下
同公報掲載の本件特許出願に係る明細書を「本件明細書」といい、特許請求の範囲
1項に記載された発明を「本件発明」という。)。
(2) 本件発明の構成要件は次のとおり分説するのが相当である。
A 空気の存在下で発熱し得る発熱組成物を収納する収納用袋の袋材であっ
て、
B 該袋材の片面の全面が通気性微細孔を有するシートから成り、
C 他方の側の面が無孔フィルムであり、
D 該シートは通気性が0.2~1.6×10-4
㏄・㎝-2
・sec-1
・Torr-1
の範囲にあること
を特徴とする
E 発熱組成物収納用袋の袋材。
(3) 被告は、商品名「きりばいきんきらきん はる」及び「はる キリダン
ボ」の使い捨てカイロ(以下「被告製品」という。)を製造、販売しており、各使
い捨てカイロの収納用袋の袋材は、別紙「イ号、ロ号袋材目録」記載のとおりであ
る(以下「きりばいきんきらきん はる」の収納用袋の袋材を「イ号袋材」、「は
る キリダンボ」の収納用袋の袋材を「ロ号袋材」という。)。
 なお、同目録中の符号9(水玉以外部分)について、原告は「通気性部
分」であると主張し、被告は「難通気性部分」であると主張している。
(4) イ号、ロ号袋材は、本件発明の構成要件A、C、Eをそれぞれ備えてい
る。
2 争点
(1) 構成要件充足性
 ア イ号、ロ号袋材は、構成要件Bを充足するか。
 イ イ号、ロ号袋材は、構成要件Dを充足するか。
(2) 権利濫用-明白な無効理由
 本件特許には明白な無効理由があり、本件特許権に基づく権利行使は権利
濫用に当たるといえるか。
ア 明細書の記載不備(無効理由①)
イ 新規性又は進歩性の欠如(無効理由②)
ウ 特許法29条の2違反(無効理由③)
(3) 損害の発生及びその額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)ア(構成要件Bの充足性)について
〔原告の主張〕
(1) 構成要件Bの「全面が通気性微細孔を有するシートから成り、」とは、単
一シートのものに限定されるものではなく、二重構造等の積層体であってもよい。
(2) イ号、ロ号袋材のブレスロン(EVA多孔質層2、PE多孔質層3及びナ
イロン不織布を貼り合わせたもの)は、構成要件Bの「通気性微細孔を有するシー
ト」に該当する。
 仮に、ブレスロンが、構成要件Bの「通気性微細孔を有するシート」に該
当しないとしても、イ号、ロ号袋材の多孔質フィルム層(EVA多孔質層2、PE
多孔質層3から成る部分)が、「通気性微細孔を有するシート」に該当する。した
がって、同多孔質フィルム層にナイロン不織布1が張り合わせてあったとしても、
無意味な付加的部分にすぎず、構成要件Bを充足することに変わりはない。
(3) 被告は、イ号袋材の水玉以外部分9を難通気性部分であるとし、構成要件
Bの「通気性微細孔を有するシート」は水玉部分(通気性部分)8のみであると主
張するが、水玉以外部分9の通気性は、被告の測定値(ナイロン不織布1を含む測
定値は、0.25×10-4
㏄・㎝-2
・sec-1
・Torr-1
。ナイロン不織布1を含まない測定値
は、0.38×10-4
㏄・㎝-2
・sec-1
・Torr-1
)によっても、本件発明の構成要件Dの通気性の
数値範囲内であるから、水玉部分(通気性部分)8及び水玉以外部分9から成るイ
号袋材は、構成要件Bの「全面が通気性微細孔を有するシートから成り、」との構
成を備えている。
〔被告の主張〕
(1) 構成要件Bの「通気性微細孔を有するシート」とは、通気性微細孔を有す
る1枚のシートのみから成っていることを意味し、貼り合わせ膜を含まないものと
解すべきである。
 このことは、本件発明の先行公知技術である特開昭58-92752号公
開特許公報(乙6、以下「乙6公報」という。)の実施例第2図に、微細孔膜5と
孔6を全体に設けた有孔非通気性膜7を貼り合わせて通気度を調整することが記載
されており、得られる積層シートは本件発明の特許請求の範囲の通気度の範囲と明
らかに重複することになる実施態様が示されていること、しかも、原告は、本件特
許権に係る特許異議申立事件で提出した平成8年12月25日付け上申書(乙1
8)において、乙6公報の実施例第2図のように、貫通孔をもった非通気性膜を多
孔質膜にはりつける方法は、本件発明のように、微細孔たとえばミクロン単位の微
細孔を無数に持つ多孔質膜を全面に使用することによって、所定の通気量を得る技
術とは質的に異なると主張していることからしても、明らかである。
(2) イ号、ロ号袋材の通気性シートのブレスロンは、EVA多孔質層2とPE
多孔質層3とからなる多孔質フィルム層と、ナイロン不織布1の2枚のシートを貼
り合わせたものであって、1枚のシートを意味する構成要件Bの「通気性微細孔を
有するシート」には該当しない。
(3) また、イ号袋材の多孔質フィルム層は、通気性部分である水玉部分8と難
通気性部分である水玉以外部分9から成り、水玉部分(通気性部分)8の通気性
(ナイロン不織布1を含んだ測定値)は、2.90×10-4
㏄・㎝-2
・sec-1
・Torr-1
)、難通気
性の水玉以外部分9の同通気性は、0.25×10-4
㏄・㎝-2
・sec-1
・Torr-1
)で、その比は1
2もあって均一ではない。また、その面積比は、全体を100とすると、水玉部分
(通気性部分)8が20、水玉以外部分9が80であって、全面が均一でないか
ら、通気性が均一ではなく、構成要件Bの「全面が通気性微細孔を有するシートか
ら成り」という構成を備えていない。
2 争点(1)イ(構成要件Dの充足性)について
〔原告の主張〕
(1) イ号、ロ号袋材の通気性シートのブレスロン(EVA多孔質層2、PE多
孔質層3及びナイロン不織布1を貼り合わせたもの)の通気性は、約0.6~0.8×10
-4
㏄・㎝-2
・sec-1
・Torr-1
であるから、構成要件Dを充足する。
 なお、被告による同通気性の測定結果は、イ号袋材の水玉部分(通気性部
分)8と水玉以外部分9を含めた平均値(ナイロン不織布を含む。)が、0.69×10
-4
㏄・㎝-2
・sec-1
・Torr-1
であり、ロ号袋材のブレスロン(ナイロン不織布を含む。)の
通気性が0.60×10-4
㏄・㎝-2
・sec-1
・Torr-1
であるから、同測定値によっても、イ号、ロ
号袋材は、構成要件Dを充足することになる。
(2) 仮に、イ号、ロ号袋材の通気性シートを、多孔質フィルム層(EVA多孔
質層2及びPE多孔質層3から成る層)と解したとしても、その通気度は構成要件
Dに記載の通気度の範囲内にある。
 そのことは、原告が、財団法人化学技術戦略推進機構の高分子試験・評価
センターに依頼して測定した結果(甲12、13の各1及び2)によれば、イ号袋
材に用いられる水玉タイプの多孔質フィルム層〔水玉部分(通気性部分)8と水玉
以外部分9を含む。〕の通気度は、0.93×10-4
㏄・㎝-2
・sec-1
・Torr-1
であって構成要件
Dの範囲内の値であったこと、また、多孔質フィルム層とナイロン不織布を重ね合
わせた時の通気抵抗は、多孔質フィルム層単独の通気抵抗の約1.2倍であり、ナ
イロン不織布を重ね合わせることは通気度にほとんど影響しないことから明らかで
ある。
 被告による多孔質フィルム層の通気度の測定結果(乙31)は、サンプリ
ング材料の物性値やその加工条件等が明らかではなく、イ号、ロ号袋材自体の測定
でもないから、同測定値をもって、イ号、ロ号袋材が構成要件Dを充足しないとい
うことはできない。
〔被告の主張〕
(1) イ号、ロ号袋材の多孔質フィルム層(EVA多孔質層2とPE多孔質層3
から成る層)の平均の通気性は、旭化成工業株式会社及び日東電工株式会社に依頼
して測定した結果(乙31)によれば次のとおりであり、いずれも構成要件Dの通
気性の範囲を超えている。
ア イ号袋材:1.79×10-4
㏄・㎝-2
・sec-1
・Torr-1
(ただし、水玉部分(通気性部
分)8と水玉以外部分9を含むフィルム層の測定値)
イ ロ号袋材:4.94×10-4
㏄・㎝-2
・sec-1
・Torr-1
(2) また、イ号、ロ号袋材に用いられるブレスロンからナイロン不織布を剥が
した多孔質フィルム層(EVA多孔質層2とPE多孔質層3から成る層)の平均の
通気性は、日東電工株式会社に依頼して測定した結果(乙36)によれば次のとお
りであり、いずれも構成要件Dの通気性の範囲を超えている。
ア イ号袋材:1.66~1.68×10-4
㏄・㎝-2
・sec-1
・Torr-1
(ただし、水玉部分(通
気性部分)8と水玉以外部分9を含むフィルム層の測定値)
イ ロ号袋材:1.69×10-4
㏄・㎝-2
・sec-1
・Torr-1
(3) したがって、イ号、ロ号袋材の多孔質フィルム層(EVA多孔質層2とP
E多孔質層3から成る層)の通気度は、構成要件Dの通気性の数値範囲外であるか
ら、構成要件Dを充足しない。
(4) また、前記のとおり、本件発明は、先行公知技術である乙6公報記載のも
のとは異なるとして特許されたのであるから、乙6公報に開示されている範囲では
特許発明とはいえない。したがって、構成要件Dに記載の通気度の範囲内のうち、
乙6公報記載の通気量(その計測誤差の範囲を含む)のものは、本件発明の技術的
範囲に含まないと解すべきであり、この点においても、イ号、ロ号袋材は構成要件
Dを充足しない。
3 争点(2)ア(無効理由①-明細書の記載不備)について
〔被告の主張〕
 本件発明は、構成要件Dに記載されている通気量の範囲について、その測定
方法が本件明細書に記載されていない。本件特許出願当時、そのような範囲を直接
測定する方法も知られていなかったから、発明を特定することができないものであ
る。原告は、本件明細書に記載された通気量はパーミヤグラフ法によるものである
と主張するが、パーミヤグラフが市場に現われたのは平成元年12月以降である。
 したがって、本件明細書は記載が不備であり、本件特許には明白な無効理由
がある。
〔原告の主張〕
 被告の主張は争う。
 本件特許出願当時、パーミヤグラフは試作機として存在しており、本件発明
の発明者であるAは、株式会社東洋精機製作所のパーミヤグラフの試作機を用い
て、本件発明の試作品について通気量を測定したものである。
 また、出願当時、パーミヤグラフ法が一般的でないとしても、ガーレー法で
通気量を測定し、それをパーミヤグラフ値に換算することは、当業者であれば十分
に可能である。発熱体の業界において、「ml/㎝2
・min・atm」という単位が通気度を
表すものとして本件発明の出願前から使用されていた。
4 争点(2)イ(無効理由②-新規性又は進歩性の欠如)について
〔被告の主張〕
(1)ア 乙6公報には、20ミクロン以下の微細孔を有する膜を袋体とする使い
捨てカイロなどの発熱体が記載されており、片面又は両面に通気部を設けることも
記載され、その第2図には、実施例として、片面のほぼ全面を微細孔膜と有孔非通
気性膜を貼り合わせて覆ったカイロが示されているから、本件発明の構成要件A、
B、C、Eが開示されている。
イ 構成要件Dに規定される通気度については、乙6公報の発明の詳細な説
明中に「ガーレー通気度として通常20~10000秒/100㏄程度のものが使用される。」
と記載されている。乙6公報の発明が出願された昭和56年当時、ガーレー法によ
る通気度測定には、サンプル膜にかける圧力の大きさによって標準型と高圧型の2
種類の測定方法が存在していたが、当業者であれば、測定時間を短縮できる高圧型
によるのが一般的であるから、同通気量を高圧型による測定値であるとして、構成
要件Dと同じ単位に換算すると、前記数値は340~0.68×10-4
㏄・㎝-2
・sec-1
・Torr-1

なり、構成要件Dと0.68~1.6×10-4
㏄・㎝-2
・sec-1
・Torr-1
の範囲においてかなりの部
分が重複する。
 仮に、乙6公報に記載のガーレー通気度を標準型の測定方法であるとし
て単位換算すると、799~1.598×10-4
㏄・㎝-2
・sec-1
・Torr-1
となるが、それでも構成要
件Dと一部重複する。
ウ また、前記のとおり、乙6公報には、実施例として、微細孔膜に、同微
細孔膜の孔よりも大きい孔を多数穿設した有孔非通気性膜を貼り合わせることによ
って通気度を小さくし、本件特許出願より前に本件発明の範囲内の上記通気度を達
成する技術が示されているから、当業者であれば、同技術から容易に本件発明に到
達することができる。
エ したがって、本件発明は、乙6公報に示された技術と同一、あるいは少
なくとも容易に発明できたものである。
(2) 実開昭60-58125号公開実用新案公報(乙24、以下「乙24公
報」という。)には、片面の全部が通気性微細孔を有するシートからなり、他方の
側の面が無孔フィルムからなる使い捨てカイロが示されているのであって、これと
乙6公報の技術を組み合せれば、本件発明は当業者にとって容易に発明することが
できたものである。
(3)ア 実開昭59-178548号公開実用新案公報(乙44、以下「乙44
公報」という。)には、次の構成の発熱体組成物収納用袋の袋材の技術が開示され
ている。
 a 空気中の酸素と接触させるだけで発熱する発熱組成物を袋に収納した
発熱体である。
 b 袋は一面が微細孔膜5と孔6を有する有孔非通気性膜7からなってい
る。
 c 他面は非通気性膜3からなっている。
 d bのシートの通気性は、19,100sec/100㏄の例が示されている。
 e 上記a~dを特徴とする発熱組成物を袋に収納した発熱体である。
 イ 本件発明の構成要件Dの通気度を、標準型ガーレー通気度で換算すると
79,917~9,990sec/100㏄、高圧型ガーレー通気度で換算すると34,000~
4,250sec/100㏄となり、上記構成dの値はこの範囲内に該当する。
 ウ したがって、乙44公報の公知技術は、本件発明の構成要件をすべて備
えている。
〔原告の主張〕
(1)ア 乙6公報の第2図の構成のものは、「長方形の微細孔膜5と、比較的大
きい孔6、……、6が多数穿設してあり、かつ微細孔膜5とほぼ同形の有孔非通気
性膜7とをはり合わせて一層とし、これに長方形の微細孔膜5とほぼ同形の非通気
性膜8をさらに重ね、これらを周縁9で互いにはり合わせて袋とし、この袋の発熱
組成物を収納した発熱体」であるが、本件発明は「片面の全面が通気性微細孔を有
するシートからな」るものであるから(構成要件B)、全く別の構成のものであ
る。
イ また、乙6公報の通気量は、ガーレー法の標準型による測定値であると
解すべきであり、それに基づいて単位換算すべきである。そのことは「JISP8117」
がガーレー法の標準型であることからも明らかである。
(2) 乙24公報の技術は、本件発明と構成が大きく異なるものであるととも
に、本件発明特有の効果を奏するものでもなく、また両面通気の場合の通気量と片
面通気の場合の通気量との関係が記載されているが、本件発明は、あくまで片面通
気についての通気量の範囲に関する権利であって、異なる技術である。
(3) したがって、本件発明が、乙6公報の技術と同一、あるいは、乙6公報や
乙24公報の技術から容易に発明することができたとの原告の主張は理由がない。
(4) 乙44公報の考案は、乙6公報の特許出願を実用新案登録に出願変更した
もので、両者は実質的に同一であるから、乙44公報に基づく被告の主張に対する
反論は、前記(1)のとおりである。
5 争点(2)ウ(無効理由③-特許法29条の2違反)について
〔被告の主張〕
(1)ア 特開昭62-183759号公開特許公報(乙34、以下「乙34公
報」という。)は、本件特許出願前の昭和61年2月10日に、三井化学株式会社
(出願時の商号は、三井東圧株式会社。以下「三井化学」という。)によってされ
た出願(特願昭61-25975号)に係る公開特許公報であるが(公開日は昭和
62年8月12日)、次の構成の使い捨ての保温具とその袋材の技術が開示されて
いる。
a 空気の存在下で発熱し得る鉄紛等からなる発熱組成物を収納する収納
用袋である。
b 袋面の片面の全面が通気性微細孔を有するシートから成っている。
c 他方の側が非通気性フィルムである。
d 通気量は、「より望ましくは、10,000~100,000秒/100㏄程度である」
(乙34公報の2頁左下欄8~9行、以下「本件通気度記載部分」という。)。
e 上記a~dを特徴とする発熱組成物収納用袋の袋材
イ 上記構成のうち、a、b、c、eは、本件発明の構成要件A、B、C、
Eに一致する。
 また、上記構成dの通気量は、標準式ガーレー法による測定値として本
件発明の構成要件Dの単位に換算すると、0.1598~1.598×10-4
㏄・㎝-2
・sec-1
・Torr-1
となり、0.2~1.6とする構成要件Dの構成とほぼ一致する。
ウ したがって、本件発明は、乙34公報に記載された発明と同一である。
(2) 仮に、上記(1)アa~e記載の技術内容が、原告から三井化学に伝えられ
たものであるとするならば、三井化学との間で明確な秘密保持に関する契約の存在
が認められない以上、秘密保持に関する暗黙の合意があったとはいうことはできな
いから、同研究情報を伝えた時点で公知となったといえる。そうすると、この点に
おいても明らかな無効理由原因を有することになる。
(3) 原告は、乙34公報の本件通気度記載部分を含む技術は、発明として未完
成であって、これを理由として本件発明が無効であるとすることはできないと主張
する。
 しかし、三井化学は、平成6年3月25日付け手続補正書(乙40)によ
って、乙34公報の通気度に関する記載部分「10,000~100,000秒/100㏄」を特許請
求の範囲に取り込む等の補正を加え、特公平7-90030号(乙41)として出
願公告されている。この補正は原明細書の記載に基づくものであり、補正された特
許請求の範囲の記載は、本件発明の特許請求の範囲と対比しても、発明として完成
していることが明らかである。この事実からしても、発明未完成であるとの原告の
主張は理由がない。
(4) 原告は、通気性フィルムに求められる適切な通気度等に関するAの研究情
報が三井化学の研究員Bに伝わり、これが乙34公報に記載されたとし、乙34公
報の本件通気度記載部分を含む発明と本件発明は発明者が同一である旨主張する。
ア しかし、Bに伝わったとされる通気度はガーレー式の数値によっている
のに対し、本件発明はパーミヤグラフの値によっており、本件発明の数値そのまま
ではない。また、本件発明は構成要件A~Eを内容とするものであるから、通気度
に関するAの研究成果がBに伝わったとしても、それは、本件発明のうち、構成要
件Dの部分のみにすぎない。
イ しかも、三井化学は、乙34公報の出願日(昭和61年2月10日)以
前からカイロの袋材の研究開発をし、昭和61年3月20日にも使い捨ての保温具
に関する特許出願(特願昭61-60743号、乙47)をしているから、好まし
い通気度の範囲を探っていたことが窺われる。したがって、カイロの袋材の研究を
始めた動機が仮に原告によるサンプルの発注であったとしても、乙34に関する開
発と発明は三井化学によってされたものである。
 原告は、乙34公報の出願日(昭和61年2月10日)時点では、本件
発明の目途がついていたものの、完成には至っていなかった。
ウ そもそも、業界を代表する三井化学が、他社の発明を無断で取り込んで
権利化を図るようなことはないと考えるのが自然である。
 上記ア~ウよりすれば、乙34公報の本件通気度記載部分を含む発明は、
Aの行った発明ではなく、三井化学の研究員によって開発されたものというべきで
あって、原告の主張は理由がない。
(5) 以上によれば、本件発明は、本件特許出願日前に出願され、本件特許出願
後に公開された特許出願に係る願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同
一であるから、本件特許は特許法29条の2の規定に違反してされたものであり、
明らかな無効理由がある。
〔原告の主張〕
(1) 特許法29条の2にいう「先願の明細書に記載された発明」は、単なる示
唆に止まるものや発明として未完成のものは含まれないと解される。乙34公報の
本件通気度記載部分について、実験結果を裏付けるデータは一切記載されていない
し、乙34公報の特許請求の範囲の発明は、もともと通気度に着目したものではな
く、その裏付けとなる実験も行われていなかった。
 したがって、乙34公報の本件通気度記載部分を含む技術は、発明として
完成しているとはいえないから、これを理由として本件特許権が無効であるとする
ことはできない。
(2) 原告は、本件発明の完成に至るまでの過程において、三井化学から試験試
料として通気性フィルムの提供を受ける関係にあり、本件発明の発明者であるAに
よる開発中の袋材に関する情報が、三井化学の研究員Bに伝わり、乙34公報に記
載されるに至ったものである。
 三井化学では、発熱組成物収納用の袋材の通気度と発熱温度との関係に関
する実験がされたこともないし、乙34公報の本件通気度記載部分に関する知見は
当時知られていなかったから、三井化学の研究員等において独自に発熱温度との関
係において望ましい通気度範囲を特定できなかったことは明らかである。
 乙34公報の特許請求の範囲に記載の技術は、三井化学が孔径に着目して
開発したものであり、通気度に着目したものではない。
 したがって、乙34公報の本件通気度記載部分を含む技術は本件発明の発
明者であるAが発明したもので、発明者が同一であるから、特許法29条の2かっ
こ書により、乙34公報の本件通気度記載部分を含む発明は本件発明に対して同条
の定める先願に当たらない。
(3) なお、原告が本件発明につき主体的に開発していることから、原告はもち
ろん三井化学においても安易に本件発明に関する情報を漏洩するとは考えられない
こと、原告は複数のフィルムメーカーのフィルムを試用したものの、三井化学以外
のメーカーについては市販製品を使用したにすぎず、具体的に交渉に入ったのは三
井化学だけであったことからすれば、原告と被告との間には、契約書の有無にかか
わらず、信義則上の黙示の守秘義務が認められるから、原告が、乙34公報の本件
通気度記載部分等の内容を三井化学のBに伝えたとしても、そのことで当該技術内
容が公知になったということはできない。
6 争点(3)(損害の発生及び額)について
〔原告の主張〕
 被告は、平成9年11月1日以降の1年間で、被告製品を少なくとも卸値2
0円にて1億個(合計金20億円)を販売しており、被告の得た利益は少なくとも
その5%の1億円であるから、原告の被った損害は、1億円と推定される。
〔被告の主張〕
 原告の主張事実は否認する。
第4 争点に対する判断
1 争点(2)ウ(無効理由③-特許法29条の2違反)について
(1) 乙34公報(特開昭62-183759号公開特許公報)は、本件発明の
特許出願日前の昭和61年2月10日に三井化学により出願(特願昭61-259
75号)され、昭和62年8月12日に出願公開されたものである。
 そして、乙34公報の特許請求の範囲は、「発熱剤を通気性の被覆で覆
い、これを非通気性の袋に収納して成る使い捨ての保温具に於て、通気性の被覆が
10μm以下の超微孔性通気フィルムである上記の保温具。」(以下「乙34クレー
ム」という。)というものであり、発明者は、B、C及びDの3名とされている。
(2) 乙34公報の本件通気度記載部分を含む技術と本件発明との同一性につい
て検討する(なお、原告はこの同一性について特に争っていないと解される。)。
ア 乙34公報の発明の詳細な説明の〔実施例〕の項には、使い捨てカイロ
の袋材に収納される発熱剤について、「発熱剤1は、例えば、鉄粉、NaCl(触
媒)及び湿り気を与える程度のH2Oから成り、使用時に上記通気フィルム2及び
レーヨン不織布3を通じて侵入してくる空気中の酸素と鉄粉が反応し、その酸化反
応熱によって発熱する」(2頁右上欄15~19行)と記載され、収納用袋の袋材に
「空気の存在下で発熱し得る発熱組成物」が収納されるという本件発明の構成要件
Aと同一の構成が示されている。
イ また、同〔実施例〕の項には、「第2図に示した実施例のものは、発熱
剤1を包む袋の片側が上記と同様の通気フィルム2及びレーヨン不織布3から成る
のに対し、他の片側は非通気性フィルム5とレーヨン不織布3から形成されてい
る。」(2頁右下欄15~19行)と記載され、第2図には、片面の非通気性フィルム
5から成り、一方の片面のほぼ全面が通気フィルム2から成る保温具の一実施例を
示す断面図が明示されており、本件発明の「袋材の片面の全面が通気性微細孔を有
するシートから成」るとの構成要件B、「他方の側の面が無孔フィルムであ」ると
の構成要件C、同袋材が「発熱組成物収納用袋の袋材」であるとの構成要件Eがそ
れぞれ示されている。
ウ さらに、同〔実施例〕の項には、「而して、通気フィルム2として、本
発明に於ては10μm以下の超微孔を有するフィルムを用いる。即ち、懐炉等に用いる
保温具に於て適切な発熱量を得るための通気フィルム2の通気量としては、通気度
500秒/100㏄(JIS-P8117)以上が望ましく、より望ましくは、10,000~100,000秒
/100㏄程度である。通気量が100,000秒/100㏄以上であると、保温具として必要な温
度が得られなくなり、500秒/100㏄以下であると、発熱が7~8時間持続しなくな
る。」(2頁左下欄3~13行)との記載がある。
 そして、乙10及び弁論の全趣旨によれば、「JIS-P8117」とは標準型ガ
ーレー法による測定を意味するから、乙34の実施例1において、望ましいとされ
る通気量「10,000~100,000秒/100㏄」を標準型ガーレー法による測定値として本件
発明の構成要件Dのパーミヤグラフ法による単位に換算すると、0.1598~1.598×10
-4
㏄・㎝-2
・sec-1
・Torr-1
となる。
 同通気量を本件発明の構成要件Dの「0.2~1.6×10-4
㏄・㎝-2
・sec-1
・Torr-1
」と比較すると、上限値は同一であり(有効桁数未満の差は無視できる。)、下限
値は若干低いが、その差に格別な技術的意義も認められないから、両者は実質的に
同じと解され、乙34公報には本件発明の構成要件Dも示されている。
エ したがって、本件発明の構成要件は、乙34公報にすべて記載されてい
るといえる。そして、弁論の全趣旨によれば、乙34公報の記載は、その特許出願
に係る願書に最初に添付した明細書及び図面と同じであると認められる。
(2) 原告は、乙34公報の本件通気度記載部分を含む発明と本件発明とは発明
者が同一であるから特許法29条の2かっこ書により本件特許権は無効原因を有し
ないと主張するので、この点について検討する。
ア 同法29条の2かっこ書において、発明者が同一の者である場合に同法
29条の2の規定は適用されないとした趣旨は、発明者が自己の発明によって特許
出願が拒絶されることがないようにすべきであること、及び先願の特許請求の範囲
に当該発明を記載していないことが直ちにその発明についての権利を放棄したもの
ともみられない場合があること等を考慮したものと解されるが、その趣旨からし
て、発明者の「同一」とは完全な同一をいい、当該発明が共同発明の場合には全員
が一致しなければならず、一人でも異なる場合には、「同一の者」とはいえないも
のと解するのが相当である。
イ そこで、乙34公報に記載の発明の発明者について検討するに、証拠
(甲8、14~17、乙38~43、47、証人B、原告代表者本人)によれば、
次の事実が認められる。
(ア) 原告は、昭和60年当時、医療用温湿布、使い捨てカイロの開発を
していたが、それに用いる通気性フィルムの開発は、原告社員のAが担当し、同開
発に関する外部との折衝は原告代表取締役のEが行っていた。
(イ) Eは、袋材には全面に通気性を有するフィルムが適していると考
え、様々な新規フィルムの開発をしていた三井化学に試作フィルムを依頼すること
とし、樹脂加工本部マーケット開発室課長のFを通じて試作フィルムの依頼事項を
伝えた。
(ウ) 三井化学のBは、昭和59年ころから、名古屋工業所加工研究室に
て、主に紙おむつのバックシートに用いることを目的として、樹脂にフィラ(無機
物の粉末等の異物)を添加して延伸し、樹脂とフィラの界面にできる空隙により通
気性を生じさせたフィルムの製造開発等に従事していたが、原告の依頼を受けたF
を通じて、使い捨てカイロの試作フィルムの開発を担当することとなった。
(エ) 原告においては、当初、三井化学から、紙おむつ用のフィルムの提
供を受けたが、途中でカイロが膨れる等の問題があったため、その後、高通気度の
ものから低通気度のもの(単位時間当たりの通気量がより少ないもの)へと通気度
を変えることを三井化学に依頼し、その試作フィルムの提供を受け、それに加工を
加えるなどして、発熱温度、持続時間、袋体の膨張の有無等の実験をし、使い捨て
カイロの通気性フィルムにおける適正な通気度が、10,000~80,000秒/100㏄である
との知見を得て、これを三井化学に伝えた。
 Bは、ガーレー式に準じた王研式の測定器を用いて、試作フィルムの
通気度を測定して、これを原告に提供していたが、カイロとしての発熱温度、持続
時間、袋体の膨張の有無等を試験することはなかった。
 なお、Eは、三井化学以外に、使い捨てカイロの通気性フィルムにお
ける適正な通気度に関する情報を伝えてはいない。
(オ) 三井化学は、昭和61年2月10日、原告に何ら告知をすることな
く、乙34公報に係る発明について特許出願をし、平成4年12月9日に審査請求
したところ、平成5年12月14日に特許庁審査官から拒絶理由通知を受け、平成
6年3月25日付け手続補正書により、特許請求の範囲を「発熱剤を通気性フィル
ムから成る袋に収容し、これを非通気性の袋に気密に収納して成る使い捨ての保温
具に於て、通気性フィルムの通気孔が10μm以下の超微孔であり、且つ、その通気量
が10,000~100,000秒/100㏄であって、使用時に通気性フィルムから成る袋の内圧が
負圧となることを特徴とする上記の保温具。」(下線部は補正部分を示す。)と補
正した。
 上記特許出願は、平成7年10月4日に出願公告されたが、特許異議
の申立てがなされ、特許庁審査官は、平成9年3月17日に特許異議の決定をし
た。
(カ) また、三井化学は、昭和61年3月20日、「使い捨ての保温具」
の発明につき特許出願したが(特願昭61-60743号)、その発明者は乙34
公報の発明者3名にGを加えた4名とされており、その特許請求の範囲は、「空気
の存在下で発熱し得る発熱剤を通気性の被覆材で覆い、これを非通気性の袋の収納
して成る使い捨ての保温具に於て、該通気性の被覆材として、ポリオレフィン系樹
脂100重量部と電気伝導度が250μs/㎝以下でかつ粒径が0.1~7.0μmである硫酸バリ
ウム50~500重量部から成る樹脂組成物を溶融製膜後少なくとも一軸方向に1.5~
7.0倍延伸した超微孔通気性フィルムを用いることを特徴とする使い捨ての保温
具。」というものである。
 そして、同発明の特許公報(特公平6-28678号、乙47)の
【発明の詳細な説明】の〔問題を解決するための手段〕の項には、「懐炉等に用い
る保温具において適切な発熱量を得るための超微孔通気性フィルムの通気度として
は500秒/100㏄以上が望ましく、より望ましくは5,000~50,000秒/100㏄である。
尚、この通気度はJIS-8117に準じて測定した値である。」(5欄4~8行)との記載
がある。
ウ(ア) なお、Bの陳述書(乙14、16)及び同証言中には、乙34クレ
ームの発明について、通気性フィルムの孔径に着目したもので通気度に着目したも
のではなく、原告からの情報に基づいて防衛目的で適当に広い範囲の通気度を記載
したにすぎないとの記載ないし供述部分がある。
(イ) しかしながら、乙34クレームの発明の詳細な説明の〔従来の技
術〕、〔発明が解決しようとする問題点〕、〔問題点を解決するための手段〕の欄
によれば、乙34クレームは、①使い捨て保温具の時間当たりの発熱量は、通気性
の被覆の通気量に依存しているため、通気量が多すぎると使用時に熱くなりすぎ、
逆に通気量が少なすぎると十分な発熱が得られず保温具としての役割を果たし得な
いという問題があったこと(1頁右下欄1~12行)、②従来は通気性の被覆の選択が
適切ではなく、又は好適な被覆材料がなかったため適切な通気量を確保することが
できず、多くの場合通気量が多過ぎるという問題点があったこと(1頁右下欄13~
18行)から、③こうした問題点を解決するため、発熱剤に対して適切な酸素供給量
を確保し、これにより時間当たりの発熱量を適正に維持するとともに、使用時間数
を延ばし、更には使用時の装着性も良好な保温具を提供することを目的としており
(1頁右下欄20行~2頁左上欄5行)、④上記目的を達成するため、使い捨て保温具
の通気性の被覆として、10μm以下の超微孔性通気フィルムを用いたことを特徴と
したものであること(2頁左上欄7~11行)、とされている。
(ウ) したがって、乙34公報の上記記載からすれば、乙34クレームに
は通気性フィルムの孔径のみが規定されており、通気度による限定はされていない
ものの、その目的とするところは、使い捨て保温具に用いる通気性フィルムにおい
て適正な通気度を実現するところにあるというべきである。
 そして、そのことは、証人Bの証言によれば、通気性フィルムの通気
度は、フィラ(無機物の粉末等の異物)による孔径のみで決まるわけではなく、当
該フィルムの延伸倍率も、同通気度に影響することが認められること、三井化学
が、その後、平成6年3月25日、乙34クレームに「通気量が10,000~100,000秒
/100㏄」との通気度による限定を加えた補正をしていることからしても明らかであ
る。
(エ) したがって、Bの陳述書及び同証言中の上記記載ないし供述部分
は、採用することができない。
エ(ア) 以上の認定事実によれば、三井化学は、原告から、使い捨てカイロ
に使う通気フィルムに係る通気度の指示を受けて、その条件に沿う通気性フィルム
を開発し、原告は、その通気性フィルムをもとに、カイロとしての発熱温度、持続
時間、袋体の膨張の有無等を試験した結果、適正な通気度に関する知見を得て、こ
れを三井化学に伝えたものであって、三井化学は、使い捨てカイロの温度特性を左
右する重要な要素である通気性フィルムの製作、及び適正な通気度に関する知見の
獲得に当たり、極めて重要な役割を果たしたものであるというべきである。そし
て、三井化学の果たした同役割の重要性は、たとえ、通気性フィルムをカイロに用
いた場合の発熱温度、持続時間、袋体の膨張の有無等を独自に試験していなかった
としても変わるものではない。
 したがって、使い捨てカイロに用いる通気性フィルムの適正な通気度
に関する当該知見は、原告において研究開発に携わったAのみの単独発明というこ
とはできず、少なくとも三井化学において研究開発に携わったBも共同発明者であ
るというべきである。
(イ) さらに、本件発明は、構成要件A~Eを要素とするものであって、
それに対応する乙34公報の本件通気度記載部分を含む発明も、構成要件A~Eに
対応する各構成全体として把握すべきであり、上記通気度に関する知見のみを発明
と捉えるべきではない。
 三井化学は、上記経過で得た使い捨てカイロに関する適正な通気度に
関する知見(乙34の本件通気度記載部分)のほかに、袋材の片面の全面が通気性
微細孔を有するシートから成ることや、他方の側の面が無孔フィルムであること等
の構成も加えて、使い捨てカイロに関する発明として独自に完成させたものという
べきであって、そのことは、上記のとおり乙34クレーム自体が通気度と切り離さ
れたものと解することができないこと、三井化学が、乙34公報記載の発明に加
え、使い捨てカイロに関する乙41公報の出願をする等、独自に使い捨てカイロを
念頭においた通気性フィルムの開発をしていたことが窺われること、原告が得たと
される通気度の知見「10,000~80,000秒/100㏄」と、三井化学の出願に係る乙34
公報に記載の通気度の知見「10,000~100,000秒/100㏄」及び特公平6-28678
号特許公報(乙47)に記載の通気度の知見「5,000~50,000秒/100㏄」とが相互に
異なっていることに照らしても明らかである。
 そうすると、原告が主張するように、乙34の本件通気度記載部分を
含んだ上記発明部分が、本件発明の発明者であるAのみによってされたものではな
いことは明らかである。
オ 以上によれば、本件発明と乙34公報の本件通気度記載部分を含む発明
の各発明者について、その全員が一致することを認めることはできないものといわ
ざるを得ず、特許法29条の2かっこ書所定の事由が存するとの原告の主張は理由
がない。
(3) また、原告は、乙34公報の本件通気度記載部分を含む技術は、発明とし
て未完成であると主張するが、上記のとおり、三井化学は、通気性フィルムの開発
に携わる中で通気度に関する知見を得て、それを基に、乙34公報に記載の発明と
して完成させたものであるから、原告の同主張は理由がない。
(4) 以上によれば、本件発明は、本件特許出願日前に出願され本件特許出願後
に公開された特許出願に係る願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した発明
と同一であり、かつ両発明の発明者は同一であるともいえないから、本件特許は特
許法29条の2の規定に違反してされたものであり、同法123条1項2号の無効
理由があることが明らかである。
  そうすると、原告の本件特許権に基づく本訴請求は、特段の事情がない限
り権利の濫用として許されないところ(最高裁判所平成12年4月11日第三小法
廷判決・民集54巻4号1368頁参照)、本件において特段の事情があるとも認
められないから、原告の請求は権利の濫用に当たるというべきである。
2 よって、原告の請求は、その余の争点について検討するまでもなく、いずれ
も理由がない。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官   小  松  一  雄
裁判官   阿  多  麻  子
裁判官   前  田  郁  勝
別紙 「イ号、ロ号袋材目録」
 第1図第2図第3図第4図

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