弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
2 被上告人の請求を棄却する。
3 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
       理   由
 上告代理人都築弘,同齊木敏文,同野下智之,同小林努,同堀田次郎,同狩野要
祐,同大河原修三,同藤田清則,同岸悦子,同高橋誠,同佐藤伊左夫,同森部正
道,同久埜彰,同竹田学,同田中悟,同布施茂夫,同高橋俊夫,同渡邉久,同川原
浩志,同奥山修の上告受理申立て理由について
1 本件は,郵政事務官としてα郵便局において郵便外務事務に従事していた被上
告人が,α郵便局長から,国家公務員法78条3号の規定に該当するとして分限免
職処分(以下「本件処分」という。)を受けたのを不服として,α郵便局長の訴訟
承継人である上告人に対し,本件処分の取消しを求めている事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,昭和42年7月1日,β郵便局臨時雇に採用された後,同4
4年10月1日,郵政事務官に任命され,同月20日から本件処分を受けるまでの
間,α郵便局において郵便外務事務に従事していた。
(2) 被上告人は,原判決別紙1ないし4のとおり,超過勤務命令拒否,研修拒
否,始業時刻後の出勤簿押印,始業時刻後の更衣,標準作業方法違反,バイク乗車
拒否,胸章不着用,制服不着用,管理者に対する暴言,構内無許可駐車,組合掲示
物の無断掲示,指サック不使用,私物の放置,書留鞄の放置及び局長室への召還拒
否の非違行為を行い,平成2年6月7日から同9年6月19日までの間に,合計9
37回の指導及び職務命令,合計13回の注意,合計118回の訓告及び合計5回
の懲戒処分を受けた。
(3) 上記5回の懲戒処分は,具体的には,① 始業時刻後の出勤簿押印,標準
作業方法違反及び構内無許可駐車を理由とする平成6年7月14日付けの戒告処分
(以下「懲戒処分①」という。),② 始業時刻後の出勤簿押印,標準作業方法違
反及び管理者に対する暴言を理由とする同7年2月10日付けの1か月間の減給処
分(以下「懲戒処分②」という。),③ 始業時刻後の出勤簿押印,標準作業方法
違反及び出張を伴う研修の拒否を理由とする同年6月6日付けの2か月間の減給処
分(以下「懲戒処分③」という。),④ 始業時刻後の出勤簿押印及び標準作業方
法違反を理由とする同8年1月20日付けの1か月間の減給処分(以下「懲戒処分
④」という。),⑤ 超過勤務命令拒否及びバイク乗車拒否を理由とする同9年3
月28日付けの1か月間の減給処分(以下「懲戒処分⑤」という。)であった。被
上告人は,上記各懲戒処分を不服として,審査請求をしたが,人事院は,懲戒処分
①については同7年12月21日付けで,懲戒処分②ないし④については同8年1
0月28日付けで,懲戒処分⑤については,本件処分後の同10年1月30日付け
で,いずれもこれを承認する旨の判定をした。
(4) 被上告人の主な非違行為の具体的態様は,次のようなものであった。
ア 被上告人は,郵政省就業規則により胸章着用を義務付けられているにもかかわ
らず,本件処分まで胸章を着用せず,管理者の指導,職務命令にも終始無言で応じ
なかった。
イ 被上告人は,始業時刻の後に制服に更衣し,就労命令にも終始無言で応じなか
ったが,就労命令が発せられて欠務処理がされると給与が減額されるため,平成5
年12月にこれを改めた。また,被上告人は,就労命令が発せられた場合に更衣を
中断して私服のまま就労することもあったが,これについては,同年8月中に改め
た。
ウ 被上告人は,郵政省就業規則及びその運用通達により始業時刻までに出勤簿に
押印すべきものとされていたにもかかわらず,始業時刻のチャイムが鳴るのを待っ
て出勤簿に押印し,始業時刻前に押印するよう指導,命令されても終始無言で応じ
なかった。その後,被上告人は,始業時刻後の出勤簿押印を理由に懲戒処分①ない
し④に付され,人事院が平成8年10月28日付けで懲戒処分②ないし④を承認す
る旨の判定をしたのを受けて,同月末からこれを改めた。
エ 郵政省が定めた標準作業方法によると,郵便物の区分は立って行うこととされ
ていたが,被上告人は,座ったまま区分を行い,職務命令を受けても終始無言で応
じなかった。その後,被上告人は,標準作業方法違反を理由に懲戒処分①ないし④
に付され,人事院が平成7年12月21日付けで懲戒処分①を承認する旨の判定を
したのを受けて,同月末からこれを改めた。
オ 被上告人は,労働基準法36条所定の協定に基づき発せられた超過勤務命令の
8割方を拒否したが,超過勤務命令の拒否を理由に懲戒処分⑤に付された後は,超
過勤務命令の5割程度には従うようになった。
カ 被上告人は,自家用車の構内駐車規制に反対して構内に無許可で駐車をし,指
導,命令を受けても終始無言で応じなかった。その後,被上告人は,構内無許可駐
車を理由に懲戒処分①に付された後は,これを改めた。
キ 被上告人は,平成3年7月6日と同月8日,郵便外務休憩コーナーの掲示物が
撤去された際に,総務課長に対し「どろぼう」等と発言し,訓告に付された。ま
た,被上告人は,同4年7月14日,東北郵政局人事部管理課課長補佐が郵便外務
ロッカー室に入室したのをとがめて,「ここはロッカー室だ。うろうろするな。出
ていけ。」と発言し,訓告に付された。さらに,被上告人は,同5年8月4日,新
築中の自宅の照明器具を選定しなければならないとして超過勤務を拒否し,超過勤
務を命ずるなら郵便課長が電気屋に電話連絡するよう求め,これを拒否した郵便課
長に対し,「超勤しろというのなら,電話するのが当たり前だべ。ばかたれ。」と
発言し,訓告に付された。また,被上告人は,同6年12月25日,郵便課長に対
し,「年休請求も処理でぎねで,管理者失格だ。」と発言し,懲戒処分②に付され
た。
ク 被上告人は,平成5年6月11日及び12日,標準作業方法の指導訓練受講の
職務命令を受けたが,無言のままこれに応じず,訓告に付された。また,被上告人
は,同7年3月24日及び25日,集配作業方法等の研修のため出張を命ぜられた
が,これに応じず,懲戒処分③に付された。
ケ 被上告人は,バイク配達を命ずる職務命令に対し終始無言で応じなかったが,
バイク乗車拒否を理由に懲戒処分⑤に付された後は,自転車で配達する準備をする
ものの,バイク配達の職務命令が発せられると,これに応じるようになった。
コ 被上告人は,懲戒処分①について人事院の判定が下された平成7年12月以降
は,超過勤務やバイク乗車を拒否し,新しい制服を着用しないで古い制服を着用す
るといった新たな態様の非違行為を行うようになった。
(5) α郵便局長は,被上告人に対し,平成9年6月23日付けで,同2年6月
以降,多数回にわたり懲戒処分等に付され,また,上司から再三にわたり指導訓戒
されているにもかかわらず,長期間にわたり,あえて上司の職務上の命令に従わ
ず,胸章不着用,始業時刻後の出勤簿押印,標準作業方法違反,研修の拒否,超過
勤務拒否等の非違行為その他類似の行為を反復継続し,著しく職場秩序をびん乱し
たとして,国家公務員法78条3号,人事院規則11-4に基づき,本件処分をし
た。これに対し,被上告人は,同9年7月9日,国家公務員法90条に基づき,不
服申立てをしたが,人事院は,同10年6月23日付けで本件処分を承認する旨の
判定をした。
3 原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断し,被上告人の請求を
認容すべきものとした。
 被上告人は,その非違行為のうち,始業時刻後の更衣,制服不着用,構内無許可
駐車,暴言及び研修拒否については是正し,始業時刻後の出勤簿押印及び標準作業
方法違反についても,人事院の判断が示された後は,これを改めた。また,懲戒処
分⑤に付された後は,超過勤務命令の受命率が上昇し,バイク乗車拒否についても
一応の改善がみられた上,審査請求中の懲戒処分⑤が人事院で承認された場合に
は,被上告人がこれを改めることが予想されたのであるから,上記各非違行為が被
上告人の矯正することのできない持続性を有する素質等に基因するものということ
はできない。胸章不着用については,本件処分がされるまで是正改善されていない
が,郵便外務業務への影響は小さい上,人事院が懲戒処分を承認すれば非違行為を
是正改善することにしていた被上告人としては,懲戒処分の対象とされていない胸
章不着用を是正改善しようがなかったものと認められる。その余の非違行為は,注
意や訓告にも付されていない軽微なものである。これらの事情を考慮すれば,本件
処分は,郵便外務事務に従事する被上告人の郵政事務官としての適格性の有無の判
断につき,慎重さを欠いており,考慮すべきでない事項を考慮するなど,裁量権の
行使を誤った違法があるというべきである。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次の
とおりである。
(1) 国家公務員法78条3号の「その官職に必要な適格性を欠く場合」とは,
当該職員の簡単に矯正することのできない持続性を有する素質,能力,性格等に基
因してその職務の円滑な遂行に支障があり,又は支障を生ずる高度の蓋然性が認め
られる場合をいうものと解される。この意味における適格性の有無は,当該職員の
外部に表れた行動,態度に徴してこれを判断すべきであり,その場合,個々の行
為,態度につき,その性質,態様,背景,状況等の諸般の事情に照らして評価すべ
きであることはもちろん,それら一連の行動,態度については相互に有機的に関連
付けて評価すべきであり,さらに,当該職員の経歴や性格,社会環境等の一般的要
素をも考慮する必要があり,これら諸般の要素を総合的に検討した上,当該職に要
求される一般的な適格性の要件との関連において同号該当性を判断しなければなら
ない(最高裁昭和43年(行ツ)第95号同48年9月14日第二小法廷判決・民
集27巻8号925頁参照)。
(2) これを本件についてみると,【要旨】上記事実関係等によれば,① 被上
告人は,約7年間の長期にわたって,胸章不着用,始業時刻後の出勤簿押印,標準
作業方法違反,研修拒否,超過勤務拒否等の非違行為その他類似の行為を繰り返
し,合計937回の指導及び職務命令を受け,13回の注意,118回の訓告,5
回の懲戒処分に付されたものであり,② その態様も,上司から再三にわたり指導
訓戒されているにもかかわらず,あえて上司の職務上の命令に従わず,終始無言の
態度を採るというものであって,③ 懲戒処分を受けても,人事院の判定が下され
るまでは,当該懲戒処分の理由とされた非違行為を一向に改めようとしないばかり
か,④ 人事院の判定が下された後は,それまでとは異なる類型の新たな非違行為
を始め,懲戒処分の対象とされなかった非違行為については頑として改めなかった
というのであるから,上司の指導,職務命令に従わず,服務規律を遵守しない被上
告人の行為,態度等は,容易に矯正することのできない被上告人の素質,性格等に
よるものであり,職務の円滑な遂行に支障を生ずる高度の蓋然性が認められるもの
というべきである。そうすると,本件処分が裁量権の範囲を超え,これを濫用して
された違法なものであるということはできず,これと異なる原審の判断には,判決
に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点に関する論旨は理由があ
る。
5 以上によれば,原判決は破棄を免れず,被上告人の請求は理由がないから,第
1審判決を取り消した上,被上告人の請求を棄却すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 島田仁郎 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉
德治)

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