弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を次のとおり変更する。
     被控訴人は控訴人に対し、昭和五一年一二月末日限り控訴人から金一六
九〇万円の支払を受けると引換えに、かつ昭和五〇年三月一日から昭和五一年一二
月末日までの地代相当損害金の支払債務の免除を条件に、別紙物件目録(二)記載
の建物を収去して、同目録(一)記載の土地の明渡をせよ。
     控訴人のその余の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審を通じてこれを二分し、その一を控訴人、その余
を被控訴人の各負担とする。
         事    実
 第一 申 立
 一 控訴人
 (一) 原判決を取消す。
 (二) 1(第一次的)
 被控訴人は控訴人に対し、別紙物件目録(二)の建物(以下本件建物という)を
収去して同目録(一)の土地(以下本件土地という)を明渡し、かつ昭和四五年四
月一二日から右土地明渡に至るまで一か月二五〇〇円の割合による金員を支払え。
 2 (第二次的)
 被控訴人は控訴人に対し、昭和五一年一二月末日限り金一五〇〇万円の支払と引
換えに、かつ昭和五〇年三月一日から昭和五一年一二月末日迄の地代相当損害金の
支払を免除することを条件に、本件建物を収去して本件土地を明渡せ。
 (三) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
 二 被控訴人
 本件控訴を棄却する。
 第二 事実上の主張及び証拠関係
 次に記載するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
 一 控訴人
 (一) 控訴人は、本件土地を前所有者Aから買受ける際、同人から被控訴人は
近い将来必ず明渡してくれるものであると聞かされたので、周辺土地と合わせての
一括利用をもくろんで、本件土地を当時の更地価格で買受けた。
 (二) 1 控訴人は本件土地の隣接地を昭和四三年モービル石油に賃貸した
が、それはモービル石油が控訴人経営の会社の建て直しに協力する目的でなされた
ものであるところ、その目的は達成されて、同賃貸借契約は昭和五三年一〇月限り
で期間が満了し、右隣接地は返還されることになつている。
 2 控訴人は、遅くとも右隣接地の返還をうけた時点で、その土地と本件土地と
の一括利用により高層ビルデイングを建設したいと考えている。
 (三) 1 被控訴人は、本件土地から、二、三分のところの恵比寿駅の真前
に、本件土地よりも広い更地(面積一〇八・四九平方メートル)を所有している。
 2 右更地は、現在自動車が二、三台置いてある。
 3 右更地は、立地上ビルデイング建設に適し、また被控訴人においてその予定
と思われる。
 四 1 仮に、控訴人において被控訴人に対し無条件の明渡を求めることが許さ
れないとすれば更新拒絶の正当事由を補強するため、明渡猶予期限の附与、金員の
給付、地代相当損害金の免除を条件として明渡を求める。その補強条件の内容は、
前記申立中の第二次的請求の項に記載のとおりである。
 2 右補強条件のうち、給付すべき金額算定の根拠は、次のとおりである。
 (1) 本件土地を含む六六・三三坪の宅地の昭和四七年五月当時の更地価格
は、一平方メートル当り二一万七五〇〇円であるが、これに地価変動率を掛ける
と、昭和五〇年中(ただし、一月から一一月まで)の右価格は、二九万一〇〇〇円
となる。
 (2) 本件土地の借地権の更地価格に対する割合は、賃貸借当事者間における
取引の場合、六〇ないし六五パーセント程度と考えるのが相当であり、これによる
と本件の場合借地権価格は一平方メートル当り約一八万一五〇〇円となる。
 (3) 金銭の引換給付による明渡を求める場合の妥当な給付額を定めるには、
従前の土地賃貸借契約当事者各自の土地利用の必要性の度合、賃貸借の実態、当事
者の経済力等諸般の事情を考慮してその相当額を定むべきであり、その額は借地価
格そのものとは異るが本件では控訴人が本件土地の明渡を強く希望している事情を
も考慮して、あえて右借地権価額そのものを基準として、本来相当額を超える三・
三平方メートル当り六〇万円合計一五〇〇万円をもつて給付額として申し出るもの
である。
 (五) 証 拠(省略)
 二 被控訴人
 (一) 控訴人の右主張第(一)項の事実は不知。
 (二) 同第(二)項の事実中控訴人が本件土地の隣接地(自動車車庫となつて
いる)の所有者であることは認めるが、その余は争う。
 (三) 同第(三)項の事実中、被控訴人経営の株式会社エビス麺機製作所が恵
比寿駅前のab丁目c番d宅地一〇八・四九平方メートルを所有し、同土地が更地
で駐車場に使用されていることは認めるが、その余は争う。
 (四) 同第(四)項2の事実及び主張を争う。
 (五) 証 拠(省略)
         理    由
 一 控訴人がその第一次的請求としていわゆる無条件で建物収去土地明渡を求
め、かつ昭和四五年四月一二日以降の地代相当損害金の支払を求める請求について
は、当裁判所も、原裁判所と同一の理由で、その請求は失当であり棄却されるべき
であると判断するので、原判決書九枚目表三行目中「主張するが、」の下に「賃貸
借期間満了時である昭和四五年四月一一日当時」を、同五行目中「それが」の下に
「十分」を各加え、九枚目裏一行目中「ることを」を「る等の事情によつて本件土
地使用につき相応の営業上の利益を享受していることを」に改め、同七行目中「そ
の中に、」の下に「建物を建築・増築するなど何らかの措置を特に構ずることな
く」を加えるほか、原判決の理由説示を引用する。(なお、当事者双方の主張上本
件土地賃貸借契約成立の日は特定されておらず、成立に争いのない乙第三、四号
証、第一〇号証ならびに原審における被控訴人尋問の結果(第一回)によれば、本
件土地賃貸借契約は普通建物所有を目的とするものとして昭和三〇年四月一一日に
成立したものと認められ、他にこれに反する証拠はない。そして、およそ建物所有
を目的とする借地契約は、強行法規である借地法の適用をうけて当事者間の任意の
約定内容如何にかかわらず存続期間等の契約内容が法定されるけれども、その契約
成立後に借地権も私権の一種として任意にこれを処分することは可能であるから、
契約当事者がその期間の点を意識(乙第七号証の一等参照)しながら、その後当事
者間で右賃貸借の更新の有無をめぐる争いの訴訟において、昭和四五年四月一一日
をもつて従前の賃貸借期間が満了することを争いのないものとすることは、当事者
の処分権主義のうえから許容されて然るべきであり、したがつて裁判所も右賃貸借
契約は現にそのような内容の約定になつていることに争いがないものとして、他の
争点につき審理をすすめるべきであり、このことは法規適用の判断が裁判所の専権
にゆだねられていることと毫も矛盾するものではない。)
 二 そこで、控訴人のいわゆる第二次請求について検討をする。
 (一) 本件は、前述のように従前の土地賃貸借契約が昭和四五年四月一一日を
もつてその期間を満了し、その満了時における契約の更新拒絶につき正当事由の存
否が争われているのであるが、従前の賃貸人である控訴人から同賃借人である被控
訴人に対し、本訴においていわゆる正当事由の補強として、明渡猶予期限の附与、
金員の給付、地代相当損害金の免除の申出がなされたのは、昭和五〇年二月二五日
になつてからであり、右申出中給付金額一、〇〇〇万円を一、五〇〇万円に増額し
て訂正の申出をしたのが同年一一月二<要旨>七日であることは訴訟上明らかであ
る。およそ、借地契約の更新拒絶につきその正当事由の有無を判断すべき基
準時は、従前の賃貸借の期間満了時を基準とすべきであるが、借地法自体も期間満
了後に土地使用が継続された場合に、賃貸人のなすべき異議は遅滞なく行なわれれ
ばよいとしているように、時間的には期間満了時よりも後に異議がなされ、その正
当事由の有無について争いが存すれば、訴訟を通じてその争いの結着のついた段階
で遡つて賃貸借が或いは終了したものとされ、或いは更新したものとされるべきこ
とを当然予定しているのであるから、前記基準時における正当事由の存否につき、
時間的には基準時後の事情であつても、事柄の性質如何によつては、これを判断の
資料に加えることも、必ずしも背理ではない。すなわち、基準時の事情とは全く無
関係なその後に生じた事情を加味することは正当でないが、例えば基準時当時未だ
萌芽の状態にあつた事実若しくは単に予想され、または計画の段階にあつたに過ぎ
ない事実がその後月日の経過と共に確実視されたり具体化された場合には、これを
加味して判断することはむしろ相当であると言えよう。更に、本件控訴人が申し出
たような金員給付等のいわゆる正当事由の補強条件は、前記例示の如き客観的な事
実の変遷とも若干性質を異にするものがあり、要するにそれらの補強条件は、明渡
を余儀なくされる従前の賃借人の不利益を緩和しもしくは補償するものであつて、
同賃借人がその不利益を現実に蒙るのは、実際に明渡すべき時になつてからなので
あるから、そのことだけから言えば、右補強条件の申出は、明渡前である限り遅す
ぎるということはないと言えようが、しかしその申出も、借地法四条一項、六条一
項の趣旨に準じて「遅滞なく」申し出られる必要があると解すべきである。
 けだし、遅すぎる補強条件の申出は、法的安定性を害するおそれがあるからであ
る。すなわち、例えば更新拒絶について正当事由のないことが確実視され、賃借人
において契約は更新されたものと考えて、更新を前提とした新たな生活や経済活動
を営むに至つたような場合に、その後になつてからいわゆる補強条件の申出を許
し、それによつて正当事由が具備されるに至つたとするが如きことは、法的安定性
を著しく害することになるからである。したがつて、補強条件申出の要件としての
「遅滞なく」とは、単に歳月の日数によつて算えられるべきでなく、右に述べたよ
うな法的安定性が客観的に要請される如き事態に立ち至るまでの間と解するのが相
当である。
 (二) そこで、この点を本件についてみると、いずれも原審における証人Bの
証言と被控訴人尋問の結果(第一回)によれば、控訴人は本訴提起前に被控訴人に
対し明渡の調停を申立て、同調停において立退料を支払う案をすでに呈示していた
ことが認められ、更に右証言供述に右同人らの当審における証言供述ならびに前出
の甲第二四号証を加えると、控訴人は昭和四六年一二月七日の本訴提起から訴訟の
全経過を通じて終始本件土地の明渡を強く希望しており、他方被控訴人の本件土地
の使用状況もその地上一杯に本件建物か建つているという状況に変りがなく、かつ
本件建物の使用状況は後記認定((三)3)のとおりであつて、昭和四五年四月二
日の期間満了時から昭和五〇年二月土五日のいわゆる補強条件の申出の時までの間
にとくに本件建物を基盤とした新たな経済活動と見るべき変動が認められないばか
りか、かえつてその使用目的は多目的から単一の目的に縮少されたことが認められ
るから、以上の事実に弁論の全趣旨を総合すると、本件訴訟中に申し出られた前記
補強条件の申出は、遅滞なくなされたものと解するのが相当である。
 (三) そこで、右補強条件の加わることによつて、正当事由が具備されたかど
うかについて、検討をすすめると、本件証拠上次の一ないし4の事実が認められ
る。
 1 前出の甲第七号証、甲第一四号証、甲第二五、二六号証、成立に争いのない
乙第一号証、証人Bの原審における証言ならびに控訴人の原審及び当審における尋
問の結果によれば、控訴人は、終戦一年後くらいで、未だ本件土地を含む国電恵比
寿駅前附近一帯が戦災による焼野原であつた当時この土地に住みつき、地元の町会
の人々と話合つてこの土地の復興のため、将来駅前商店街をつくる構想のもとに、
昭和二二年頃から順次周辺の土地の買い取りをはじめ、土地の整地については当時
隣地の所有者であつたAの協力を得ていたのであるが、その後本件土地をも前記の
趣旨で右Cからこれを購入し、したがつて本件土地及びその周辺の土地は控訴人に
おいて当初からその地上にビルデイングを建てるなどして立地条件にふさわしい町
づくりをする計画のもとにこれを購入したものであつたこと、ただし控訴人が本件
土地を買受けた際本件土地については既に右Cと被控訴人間に賃貸借契約が成立し
保存登記のある建物も建つていたのであるが、控訴人は右Cから「被控訴人とは親
しい仲なので最悪の場合でも約束の一五年の賃貸期間が終つたならば、必らず明渡
してもらえる。」旨聞かされていたので、その言を信じ、その返還時期の到来を待
つていたものであり、したがつて地代も商業を営む経済人としては採算を度外視し
た低額(昭和三七年三月までは一か月金一二五〇円、同年四月以降は一か月金二五
〇〇円)のままに据置いていたこと、また控訴人は、昭和四三年頃個人的にも、自
己経営の会社についても、倒産に瀕する状態に陥り、本件土地賃貸借の期間満了時
にあたつてもその状態は継続中で、そのため控訴人は前示のように本件土地の具体
的利用の方途を一時失つていたのであるが、いわゆる石油ショツクによつて立直り
次第に資力も回復し現益では前記の年来の土地利用計画を実行に移してゆくに足る
経済力を備えて来たものであることが、それぞれ認められる。
 2 弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第三三号証の一ないし三
及び証人Bの当審における証言ならびに控訴人の当審における尋問の結果によれ
ば、控訴人は本件土地を含めて附近に約一二〇〇坪の土地を所有し、そのうち本件
土地の隣接地にあたる土地は、昭和四三年に資金捻出のために控訴人経営の会社が
事業上の面倒をみてもらつているモービル石油株式会社にこれを賃貸したのである
が、同土地は控訴人側において保証金を返還する等所定の約定を履行すれば昭和五
三年中には必ず返地されることとなつており、したがつて、近い将来本件土地と右
土地とを一括して利用することも可能であり、その場合には著しく土地利用の効率
が高められることが認められる。
 3 他方、前出甲第七号証、甲第一六号証、被写体につき争いのない甲第三〇号
証、証人Bの当審における証言、被控訴人の原審(第一回)、控訴人の当審におけ
る各尋問の結果によれば、被控訴人の本件土地建物の使用状況は、最初本件土地を
借受けた当初は本件土地上にあつた既存建物の一部を取毀してそこに二階建の本件
建物を建築し、そこに居住しながら同所で製麺機の製造販売をしていたのである
が、その後はその約三分の二を営業用として商品置場兼事務所として使用し、残り
の約三分の一の部分を成年に達した息子の居住用にあてていたものであるところ、
数年前頃から本件建物を居住用には用いなくなり、朝社員が出勤して来ると鍵を明
けて入り、昼間事務所及び製作品の部品の手入れをする場所に使用しているが、社
員が帰るときには鍵をしめて夜間休日は無人となつていることが認められる。
 4 前出甲第三ないし五号証、甲第七号証、甲第一五号証、甲第一七ないし二〇
号証、被控訴人の原審における尋問の結果(第一回)によれば、被控訴人は昭和三
〇年四月頃から始めた本件土地建物における製麺機の製造販売の業績が着実にの
び、昭和四三年一二月九日には本件土地を本店所在地とする株式会社エビス麺機製
作所を設立して事業を会社組織で経営するようになつたのであるが、これよりさき
昭和三五年頃からは製麺機のほかに麺類運搬機の製造販売もするようになつて全国
的に顧客を擁するようになり、現在は従業員数二六人、会社所有の自動車数八台に
達し、その間(い)昭和四三年一月一〇日には、東京都渋谷区ae丁目f番g宅地
六九・四二平方メートルを買取り、同地上に四階建建物を建築し、同建物は現在一
階は工場・車庫(自動車一台収容可能)・部品倉庫として、二階は従業員宿舎・食
堂として、三、四階は被控訴人及びその家族の居住用として使用され、(ろ)昭和
四四年一月二〇日には右会社が同区ah丁目i番j宅地二二二・五一平方メートル
と同地上の軽量鉄骨造スレート葺三階建建物を購入し、同建物は現在一階は製造工
場として使用されているが若干の自動車を駐車させる余地もある如く見受けられ、
二階は一部を工場、残部を部品倉庫・従業員宿舎として、三階は倉庫として使用さ
れ、(は)更に昭和四六年九月二一日には右会社において同区ab丁目c番d宅地
一〇八・四九平方メートルを購入し、同土地は全くの更地であつて現在同会社の営
業用自動車八台の駐車場として使用されていること、ただし右会社は、右(は)に
掲げる土地を購入する以前は、会社の自動車台数も四台しかなく、それらの自動車
は附近所在の車庫を借りたりして適宜駐車していたものであることが認められる。
 以上の各事実に官公署作成部分に争いがなく東京都知事作成の証明文書と認めら
れる甲第三一号証、成立に争いのない乙第一二号証を総合すると、被控訴人は、本
件賃貸借期間満了時においても本件土地を主としてその経営する事業の営業のため
に使用し、その地上の所有建物を経済的利潤追求のための生産手段として相当の企
業利益を得て来たものであり、したがつて単純にこの利益を覆滅してもよい程度に
達する程に控訴人側の正当事由の認められないことは前示判断のとおりであるが、
さりとて被控訴人が本件土地の借地権を失つた場合に、その企業の存立が成り立た
ず、又はこれを危うくされるというが如き事情は認め難く(この点に関する被控訴
人の原審における第一回尋問の結果は措信できない)、要は経済的な問題に帰着す
るから、被控訴人の右借地権喪失による経済的損失の補償や、本件建物にかわるべ
き設備を措置するための時間的余裕とそこに生ずべき実損害の補槇が考慮されるな
らば、控訴人側の事情如何によつては更新拒絶の正当事由が具備される余地は十分
にあるというべきところ、本件土地及びその周辺の土地は、その立地条件上国電恵
比寿駅に至近の商業地域及びこれに接した準工業地域に属し、最近の日本経済の発
展、都区内の土地の集約的利用の実情からいえば、本件建物の如く昭和三〇年頃に
建てた木造二階建の比較的規模の小さな事務所兼倉庫とこれに下屋をおろした程度
の建物を所有するというだけの利用の仕方では、土地利用の効率の点で甚だ不十分
であると言わざるを得ず、これを附近周辺の土地と一括して平面的に利用効率を高
めるか、或いは中高層建築を建てることによつて立体的に利用効率を高めることが
客観的に要請される地域にあるものというべきであり、しかも控訴人は本件土地を
そのように利用することを本件土地買受当時から計画し、その後その計画実現が個
人的に困難であつた一時期もあつたが、それは一時的なものにすぎず前段認定のよ
うに未だその計画が充分に具体化されているものではないにもせよ再び右計画を実
行に移し所期の目的を達成すべき資力信用等を回復したと認められるから、控訴人
はその申し出たいわゆる補強条件が相当なものであるかぎり、契約の更新拒絶につ
き正当な事由を具備し得るものであるといわなければならない。
 四 そこで右補強条件の相当性について判断すると、前出乙第一二号証、成立に
争いのない甲第三四号証、三五号証の一、二を総合すると次の各事実が認められ
る。
 1 本件土地のいわゆる更地価格は、昭和四七年五月当時で一平方メートル当り
二一万七八〇〇円であり、これが補強条件申出の年である昭和五〇年までに増騰し
た率は、附近の公示価格の示された標準地であるkl丁目m番nの土地の変動率が
一・四七倍強、同じくao丁目p番qの土地の変動率が一・五八倍強であることを
勘案してそのほぼ平均値に近い一・五倍と見るのが相当であり、したがつて本件土
地の昭和五〇年当時の更地価格は一平方メートル当り三二万六七〇〇円と認めら
れ、甲第三五号証の一、二、乙第一二号証中右認定に反する部分は採用できない。
 2 本件土地附近の借地権価格の更地価格に対する割合は、六〇パーセントない
し七五パーセント程度であり、本件土地については結局その平均値をとつて六八パ
ーセントと認められる。
 3 また本件土地の借地権を譲渡する場合の承諾料(名義変更料)は借地権価格
の一〇パーセント程度が相当であると認められる。
 そこで、三二万六七〇〇円に八四・五三(面積)、〇・六八(借地権割合)、
〇・九(承諾料を控除した乗数)をそれそれ乗ずると、およそ一六九〇万円という
数値が得られる。
 右数値は、被控訴人が失うべき借地権の補償を主眼とした価額であるが、一方に
おいて被控訴人は金員給付のほかに前示のとおり明渡猶予と賃料相当損害金の免除
をも申し出ており、更に賃料を長年低額に据置いていたという事があり、他方控訴
人については同人の原審における第一回尋問の結果により、本件土地賃貸借にあた
り権利金四五万円を支払つていること(この点に関し乙第一一号証の記載はにわか
に措信できない)及び会社の本店を他に移転する場合には相応の出費がかかり、ま
たその移転に伴い全国的な顧客に対する信用を失墜しないように特に配慮するため
の費用を要することが認められ、これらの諸要素その他以上認定の諸般の事情を彼
此勘案すると、結局控訴人が被控訴人に対して補強条件として給付すべき金額は、
右一六九〇万円が相当であると思量され、かつ右金額は控訴人が明示した金額より
一九〇万円多いが、金額的に格段の相違のないこと及び弁論の全趣旨に照らし、控
訴人の申立の範囲を超えるものではないと考えられる。
 三 すると、控訴人の第二次的請求は、被控訴人に対する金員給付額を一六九〇
万円としたうえ、控訴人の申立のとおりの自制のもとに理由があるから、その限度
で控訴人の請求を認容し、その余の請求を棄却すべきであり、したがつてこれと結
論を異にする原判決を変更し、訴訟費用につき民事訴訟法九六条、九二条を適用し
たうえ、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 菅野啓蔵 裁判官 舘忠彦 裁判官 安井章)
 (別 紙)
      物 件 目 録
 (1) 東京都渋谷区ab丁目
     地番 r番s
     宅地 二一九・二七平方メ―トルの中、八四・五三平方メ―トル(但、
別紙図面A、B、C、D、E、Aを直線で囲んだ部分)
 (二) 右地上
     家屋番号 t番ノu
      木造瓦葦弐階建 事務所倉庫
       壱階 七九・〇七平方メ―トル
       弐階 二三・十四平方メ―トル
     (登記簿上)
      木造瓦葦二階建 居宅工場
       壱階 二九・七五平方メ―トル
       弐階 二二・三一平方メ―トル
別 紙 図 面
<記載内容は末尾1添付>

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