弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を取り消す。
     本件を神戸地方裁判所に差し戻す。
         事    実
 控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴会社が昭和三四年三月三一日開催の
株主総会において取締役A、同B、同C、監査役Dを選任する旨の決議の存在しな
いことを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決
を求め、なお、当審において請求の趣旨を「被控訴会社が昭和三六年四月二〇日開
催の株主総会において取締役B、同E、同F、監査役Cを選任する旨の決議の無効
であることを確認する。」と追加変更し、被控訴会社代理人に、「本件控訴を棄却
する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述、ならびに証拠の提出、援用、認否は、次に記載する
ほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここに、これを引用する。
 (事実関係)
 一、 控訴代理人は次のとおり述べた。
 (一)、 被控訴会社は、本訴係属中である昭和三六年四月二〇日定時株主総会
(以下単に新株主総会という)を開催し、E、B、Fを各取締役に、Cを監査役に
各選任する旨の決議をした。ところで新株主総会は被控訴会社の取締役と称する
A、B、Cらによつて招集せられたものであるところ、同人らを被控訴会社の取締
役にDを監査役に選任する旨の昭和三四年三月三一日開催の被控訴会社の臨時株主
総会(以上単に旧株主総会という)決議は、控訴人がこれまで主張しているように
存在しないのであるから、右Aらは右招集当時被控訴会社の取締役の地位にはなか
つたものというべきである
 そうすると、新株主総会は、なんら招集権限のないものによつて招集せられた単
なる株主の会合にすぎないところ、かかる会合でなした決議は株式会社の機関たる
株主総会の決議としての効力を生ずるに由ないのであるから、結局、新株主総会に
おける前記取締役監査役の選任決議は当然無効といわなければならない。
 (二)、 よつて、控訴人は被控訴会社に対し、旧株主総会における前記取締
役、監査役ら選任決議の不存在であることの確認を求めるとともに、あわせて、こ
こに新株主総会における前記取締役、監査役ら選任決議の無効であることの確認を
求める。
 (三)、 控訴人らが被控訴会社主張のようにGに旧株主総会の招集を委任した
ことはなく、かりに委任したとしても、かかる委任はもとより無効である。なお、
旧株主総会議事録も右Gが勝手に作成した無効なもので、右総会か開催されたこと
の証左となるものではない。したがつて、いずれにせよ旧株主総会における前記取
締役、監査役ら選任決議は存在しないものというべきである。
 二、 控訴人補助参加人代理人は次のとおり述べた。
 (一)、 旧株主総会における取締役、監査役ら選任決議は、株主でもなく、ま
た、なんらの招集権限をも有しない第三者の偽装にかかるもので不存在ないしは無
効である。したがつて、右総会によつて選任せられたと称する取締役A、同B、同
C、および監査役Dは右取締役あるいは監査役の地位を取得するに由なく。同人ら
によつてなされた被控訴会社の業務執行行為は一切無効であるといわなければなら
ない。
 (二)、 ところで、控訴人が当審においてなした新株主総会における取締役、
監査役ら選任決議の無効確認の新請求は、旧株主総会における取締役、監査役ら選
任決議の不存在ないしは無効を前提とするものであつて、両者は請求の基礎を変更
するものではないから、右新請求は当然許さるべき筋合である。
 三、 被控訴会社代理人は次のとおり述べた。
 (一)、 本案前の主張。
 (1)、 控訴人は当審において請求の趣旨、原因を追加変更して新株主総会に
おける取締役、監査役ら選任決議の無効確認を求めるが、右新請求は旧株主総会に
おける取締役、監査役ら選任決議不存在確認の本訴と請求の基礎を全然異にするも
のであるから、別訴でなされるべきものであり、これを訴の変更の形式で、しか
も、控訴審において請求することは許されないというべきであるから、右新請求は
不適法である。
 (2)、 控訴人の本訴請求は、次に述べる理由で訴の利益を欠くものというべ
きである。
 (一) 被控訴会社がこれまで主張しているように、控訴人は、なるほどかつて
は被控訴会社の取締役兼代表取締役の地位にあつたのであるが、数年前に退任し、
その後任者として旧株主総会で選任せられた取締役らも任期満了によりすでに退任
し、さらに新株主総会において新たな取締役らが選任せられて今日に至つているの
である。このように、控訴人の右退任後すでに数年を経過している現在、かりに控
訴人の右退任が無効であるとしても、もはやその任期満了のため、取締役資格の回
復を求めるに由なく、しかも、控訴人は被控訴会社の株主でもないのであつて、現
在被控訴会社と法律上なんらの利害関係もないのであるから、もとより、旧株主総
会における取締役、監査役ら選任決議の不存在確認、あるいは、新株主総会におけ
る取締役、監査役ら選任決議の無効確認を求めることは許されない筋合である。
 (二) 被控訴会社は現在債務のみをかかえ営業停止の状態にあるのであつて、
かかる被控訴会社に対し、右のような無効確認の請求をすることは、何ら実益のな
いところであり、権利の濫用として許されない。
 (二)、 本案の答弁。
 新株主総会がかりに控訴人主張のように招集権限のない者によつて招集せられた
としても、かかる招集手続上のかしは新株主総会における取締役、監査役ら選任決
議を当然無効ならしめるものではない。
 (証拠関係)
 一、 控訴代理人は甲第三号証を提出し、乙第三、四号証の成立は認めると述べ
た。
 二、 控訴人補助参加人ら代理人は丙第一号証ないし第四号証を提出し、当審証
人Hの証言及び当審における控訴木人Iの尋問の結果を援用した。
 三、 被控訴会社代理人は乙第三、四号証を提出し、甲第三号証および丙第一号
証ないし第四号証の各成立を認めた。
         理    由
 一、 訴の変更の適否について
 (一) 被控訴会社は、控訴人が当審でした訴の変更は請求の基礎に変更がある
から不適法である旨主張するので、以下これを検討する。
 本件は、控訴人において従来旧株主総会における取締役A、同B、同C、監査役
Dの選任決議の不存在確認を求めていたのであるが、当審において新たに新株主総
会における取締役B、同E、同F、監査役Cの選任決議の無効確認をあわせ求める
に至つたのであり、これが訴の追加的変更にあたることはいうまでもないので、請
求の基礎に変更がないことの要件を具備するか、どうかの観点より、右両請求の関
係を考察するに、旧請求は旧株主総会の決議不存在確認を求め、同決議によつて選
任されたと称する取締役監査役の資格を否定することを目的とするものであるのに
対し、新請求は、右取締役資格の不存在を理由に、同取締役の招集した新株主総会
における後任取締役、監査役選任決議の無効確認を求めるものであるから、旧請求
についての判断事項は、新請求の判断についての重要な先決関係に立つものという
べく、両請求のよつて立つ事実関係の間に共通性のあることはもとより、訴えによ
る追及利益(非取締役による会社運営を排除せんとする利益)及びその追及の過程
を通じてみるとき、時の距りにもかかわらず、両者の間の一体的な密着性が認めら
れ、従つてまた両請求の判断資料も、その主要なものは両者に共通、同一であり、
両請求を通じての継統審理を合理的ならしめる所以が存在するのである。これらの
諸点に鑑みるとき、本件の両請求は、訴変更の要件たる、「請求の基礎を同じくす
るとき」に該当するものと解すべきであることは、訴の変更を認める制度の趣旨に
照らして当然であるといわなければならない。
 しかのみならず、本件は以下の理由により、請求の基礎に変更があるかどうかに
かかわらず、訴の変更を許すべき場合に該当するものというべきである。元来請求
の基礎を変更する訴の変更は相手方がこれに同意するかまたは異議を述べない場合
のほかは許されないのが本則であるけれども、つぎのような場合には信義則上相手
方の同意があつたのと同様に処理し、訴の変更を許すべきである。すなわち当事者
が相手方の提出した抗弁その他の防禦方法を是認したうえ、その相手方の主張事実
に立脚して新たな請求をする場合、すなわち、相手方の陳述した事実をとつてもつ
て新請求の原因とする場合であつて、この場合においては、かりにその新請求が請
求の基礎を変更する訴の変更であつても、相手方は信義則上これに対して異議をと
なえ、その変更が許されないことを主張することはできず、相手方が右の訴の変更
に対し現実に同意したかどうかにかかわらず、右訴の変更は許されると解するのが
相当である(大審院昭和九年三月一三日判決、民集一三巻四号二八七頁、最高裁判
所昭和三九年七月一〇日判決、判例時報三七八号一八頁各参照)。
 これを本件についてみるに、控訴人は当初原審において前記のとおり旧株主総会
における前記取締役、監査役ら選任決議の不存在確認を求めたのであるが、被控訴
会社はこれに対する本案前の主張として、その後新株主総会において新取締役およ
び新監査役らが選任せられ、旧株主総会で選任せられた取締役および監査役はすで
にその地位を失つたのであるから、控訴人の右請求は訴の利益を欠く旨主張したの
で、控訴人は被控訴会社の陳述したところに従い、新株主総会において新取締役お
よび新監査役らが選任せられたことを前提として、新たに当審において右選任が決
議無効確認の新請求を追加したのであるから、前記説示から明らかなとおり、請求
の基礎の同一性の有無にかかわらず右訴の変更は許容すべきものといわなければな
らない。
 そして、本件は訴の変更によつて、訴訟手続を遅滞せしめるおそれは認められな
いから、被控訴会社の前記主張は理由がない。
 (二)、 なお、被控訴会社は、控訴審たる当審において右訴の変更をすること
は許されない旨主張する。しかしながら、訴の変更は、その要件をみたす限り控訴
審でもこれをすることができるというべきであるから(民訴二三二条、三七八
条)、右主張はとるを得ない。
 二、 原告適格の有無について。
 (一)、 控訴人が控訴人補助参加人Jとともに昭和三三年六月一五日以来被控
訴会社の取締役兼代表取締役であつたことは当事者間に争いがない。
 (二)、 ところで、成立に争いのない甲第一号証(登記簿抄本)、乙第一号証
の二(辞任届)、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる同第一号証の
一、同号証の三、四(いずれも辞任届)、および原審証人Gの証言を総合すれば、
前記昭和三三年六月一五日以降における被控訴会社の役員は控訴人および控訴人補
助参加人Jのほか同じく控訴人補助参加人である取締役K、監査役Hの四名であつ
たところ、右四名の者は昭和三四年三月二四日いずれも辞任し、その旨の登記を経
由したことを認めることができ、右認定に反する原審証人Jの証言部分は右各証拠
と対比してにわかに信用し難く、ほかに右認定を動かすにたる証拠はない。
 (三)、 以上(一)、(二)の事実によれば、控訴人は、前記辞任により被控
訴会社の取締役兼代表取締役の資格を失つたわけであるが、他の取締役二名もとも
に辞任し被控訴会社の取締役全員について欠員を生じたことの当然の結果として、
控訴人は、商法二五八条一項の定めるところに従い、新たに選任せられる後任取締
役の就任するまでの間なお被控訴会社の取締役としての権利義務を有していたもの
といわなければならない。
 ところで、前同条の規定によつて右のように後任者の就任するまで取締役の権利
義務を有する者は、右後任者を選任する旨の株主総会決議が存在せず、あるいは、
これが無効な場合においては、右権利義務を失らことなく、依然としてこれを行使
できる立場にあるわけであるから、右決議の不存在確認ないしは無効確認を求める
についての適格を当然有するものというべきである。
 もつとも、退任取締役の有する、取締役の権利義務を行使しうる地位は、後任取
締役が決定するまでの一時的過渡的なものであるから、退任取締役が右地位を確保
するについての個人的利益を重視することはできないが、会社全般の利益という視
点よりするときは、株主総会の違法な決議を攻撃排除し、総会延いては会社運営の
適正を期することは、右の如き地位にある退任取締役にも当然要請される任務の遂
行であつて、このことは現任取締役における場合と何ら異るところがないものとい
うべく、現任取締役が商法二四七条の規定の趣旨に照し当然株主総会決議無効確認
の訴を提起しうる適格を有するものと解すべき以上、前記退任取締役についても同
様の適格を認めるべきである。
 そうであるから、控訴人は被控訴会社を相手方として、前記旧株主総会決議の不
存在確認および同じく新株主総会決議の無効確認を求める適格を有することはいう
までもない。
 三、 訴の利益について
 被控訴会社は、旧株主総会の決議によつて選任された取締役監査役はすでに任期
満了により退任し、新株主総会において後任取締役、監査役が選任されたのである
から、旧株主総会の決議不存在確認を求める訴の利益はないと主張するので按ずる
に、株主総会決議不存在確認の訴は、商業登記簿の記載等により拘束力あるものと
して表見的に存在する決議がその効力を有しないことの対世的確定を求めるもので
あつて、その性格は決議無効確認の訴に準ずべきものというべきところ、本件では
旧株主総会において選任されたと称する取締役監査役がすでに任期満了により退任
し、その旨の登記を経由していることは成立に争のない乙第二号証および弁論の全
趣旨に照らして明らかなところであるから、当該取締役、監査役を会社の業務執行
より排除する必要性もないものというべく、従つて、右総会決議が効力を有しない
ことの対世的確定を求める利益はもはや存在しないものといわなければならない。
もし右取締役等が会社の代表者、その他会社機関としてなした諸種の行為の効力を
争う必要があれば、その前提となる総会決議の不存在、すなわち決議の効力のない
ことは、対世効ある判決をまつまでもなく、個々の訴訟においてこれを攻撃防禦方
法として主張することにより、個別的に解決できるし、<要旨>またこれを以て足る
のであるから、この関係においても訴の利益を欠くものというべきである。「しか
しながら、本件では、旧株主総会の決議が不存在であるから、同総会におい
て選任されたと称する取締役の招集した、後任取締役、監査役選任の新株主総会の
決議は、招集権限のないものが招集した総会決議であることを理由に、その決議無
効確認の訴が、訴の変更により追加的に併合されており、旧株主総会の決議が不存
在であるかどうかはこの新請求について当然判断すべき先決関係に立つことは前記
のとおりであるから、もし新株主総会の決議無効確認の訴訟係属中に中間確認の訴
として旧株主総会の決議不存在確認の訴を提起する場合であれば、後者の確認の利
益は当然肯定される筋合いであり、この理を以てすれば、右の如く訴の変更により
両訴訟が併合きれた場合も同様であつて、異別に解すべき根拠はない。この点より
すれば、別訴によらない本件の旧株主総会決議不存在確認の訴は前記のような事情
の存在にもかかわらず、なお訴の利益を肯定すべきものといらべきである。
 四、 権利濫用の主張について
 被控訴会社がかりにその主張の如く営業停止の状態であるとしても、そのため株
主総会の違法な決議を攻撃し、総会延いては会社運営の適正を期することが無益、
無用であるとなし難いのはいうまでもないから、本訴請求を以て権利の濫用なりと
し、訴の利益を否定せんとするが如き被控訴会社の主張はとうてい採用するに由が
ない。
 五、 結論
 以上の次第であつて、控訴人の本訴請求を訴の利益を欠くという理由で却下した
原判決は失当であるから、これを取消し、本件(当審における新訴をも含めて共
に)を原裁判所に差戻すべきである
 よつて、民訴三八六条、三八八条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 金田宇佐夫 裁判官 日高敏夫 裁判官 古・慶長)

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