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平成24年11月22日判決言渡
平成22年(行ウ)第2号行政文書不開示決定処分取消請求事件
主文
1内閣官房内閣総務官が平成21年12月14日付けで原告に対してした行
政文書の不開示決定(閣総会第○号)のうち,同年9月1日から同月16日ま
での内閣官房報償費の支出に関する次の行政文書を不開示とした部分を取り消
す。
(1)領収書,請求書及び受領書のうち,別紙1交通事業者目録記載の各事業
者が経営する公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するもの(ただし,
利用者の氏名ないし名称が記録されているものを除く。)
(2)政策推進費受払簿
(3)支払決定書のうち,別紙1交通事業者目録記載の各事業者が経営する
公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するもの(ただし,利用者の氏
名ないし名称が記録されているものを除く。)
(4)出納管理簿のうち,調査情報対策費及び活動関係費に係る部分(出
納管理簿の摘要欄が調査情報対策費又は活動関係費とされているもの。
ただし,活動関係費のうち,別紙1交通事業者目録記載の各事業者が経営
する公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するものであって,支払相
手方等の欄に利用者の氏名ないし名称が記録されていないものは除く。)
を除いたもの
(5)報償費支払明細書
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の負
担とする。
事実及び理由
第1請求
内閣官房内閣総務官が平成21年12月14日付けで原告に対してした行政
文書の不開示決定(閣総会第○号)のうち,同年9月1日から同月16日まで
の内閣官房報償費の支出に関する行政文書(政策推進費受払簿,支払決定書,
出納管理簿,報償費支払明細書及び領収書等)を不開示とした部分を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」
という。)に基づき平成21年4月1日から同年9月16日までの内閣官房報
償費の支出に関する行政文書(政策推進費受払簿,支払決定書,出納管理簿,
報償費支払明細書及び領収書等)の開示を求めた原告が,内閣官房内閣総務官
から不開示決定(以下「本件不開示決定」という。)を受けたことから,本件
不開示決定のうち同月1日から同月16日まで(以下「本件対象期間」とい
う。)の支出に関する行政文書の不開示決定部分(以下「本件不開示決定部
分」という。)につき,その取消しを求めている事案である。
2前提事実(当事者間に争いがない事実のほか各項掲記の証拠等によって認め
られる事実。掲記した証拠番号には特に断らない限り枝番号を含む。)
(1)内閣官房報償費の支出手続及び作成・保存される文書の概要
ア内閣官房報償費の意義等
内閣官房は,内閣法12条1項に基づいて内閣に置かれている機関であ
って,①閣議事項の整理その他内閣の庶務,②内閣の重要政策に関する基
本的な方針に関する企画及び立案並びに総合調整に関する事務,③閣議に
係る重要事項に関する企画及び立案並びに総合調整に関する事務,④行政
各部の施策の統一を図るために必要となる企画及び立案並びに総合調整に
関する事務,⑤上記②ないし④に掲げるもののほか,行政各部の施策に関
するその統一の保持上必要な企画及び立案並びに総合調整に関する事務,
⑥内閣の重要政策に関する情報の収集調査に関する事務をつかさどる(同
条2項)ほか,政令の定めるところにより,内閣の事務を助ける(同条3
項)ものとされている。このほか,中央省庁等改革基本法8条2項では,
内閣官房は危機管理及び広報に関する機能をも担うものとされている。そ
して,内閣官房には内閣官房長官一人が置かれ(内閣法13条1項),内
閣官房長官は内閣官房の事務を統轄し,所部の職員の服務につき,これを
統督する(同条3項)。内閣官房報償費は,内閣官房長官が取扱責任者と
して支出を行う経費として,毎年予算措置が講じられている。
イ内閣官房報償費が国庫から支出されるまでの手続
内閣官房報償費の支出に当たっては,まず,その取扱責任者である内閣
官房長官が,支出負担行為担当官である内閣官房会計担当内閣参事官に対
し,請求書を提出する。内閣官房会計担当内閣参事官は,同請求書に基づ
き,支出負担行為を行い,官署支出官である内閣府大臣官房会計課長は同
支出負担行為を確認した上で支出決定を行う(この際,支出負担行為即支
出決定決議書が作成される。)。そして,内閣府大臣官房会計課長から支
払請求を受けた資金前渡官吏である内閣府大臣官房会計課用度・給与担当
課長補佐は,支出のために必要な手続を行い,内閣官房報償費が内閣官房
長官の手元に移される。
これらの過程で,請求書及び支出負担行為即支出決定決議書が支出計算
書の証拠書類として作成され,支出計算書並びにその証拠書類である請求
書及び支出負担行為即支出決定決議書は内閣府大臣官房会計課において管
理,保管されている。
ウ内閣官房報償費の取扱いに関する基本方針等及び目的類型
内閣官房報償費の取扱いについては,「内閣官房報償費の取扱いに関す
る基本方針」(平成14年4月1日内閣官房長官決定,乙1)が定められ,
これに基づき「内閣官房報償費の執行にあたっての基本的な方針」(平成
21年4月1日取扱責任者内閣官房長官B決定,乙2)及び「内閣官房報
償費取扱要領」(平成20年9月24日取扱責任者内閣官房長官B決定,
乙3)が定められており,本件対象期間における内閣官房報償費の取扱い
については,これらの定めによることとなる。
これらの定めによれば,内閣官房報償費の執行は,①政策推進費(施策
の円滑かつ効果的な推進のため,官房長官としての高度な政策的判断によ
り,機動的に使用することが必要な経費),②調査情報対策費(施策の円
滑かつ効果的な推進のため,その時々の状況に応じ必要な情報を得るため
に必要な経費),③活動関係費(上記①及び②を行うにあたり,これらの
活動が円滑に行われ,所期の目的が達成されるよう,これらを支援するた
めに必要な経費)の目的類型ごとに,それぞれの目的に照らして行うもの
とされている。
エ国庫から内閣官房長官の手元に移った後の支払に関する取扱手続
(ア)政策推進費の支払に当たっては,取扱責任者である内閣官房長官が
政策推進費受払簿を作成し,その支払の管理を行っている。政策推進費
受払簿は,国庫から入金され内閣官房長官の手元に渡った内閣官房報償
費から内閣官房長官が政策推進費として使用する額を区分する(以下,
当該行為を「政策推進費の繰入れ」という。)都度,並びに,会計年度
末及び内閣官房長官が交代する際に作成される。政策推進費受払簿には,
別紙2のとおり,文書名(政策推進費受払簿)のほか,作成日付(①),
金額(前回残額(②),前回から今回までの支払額(③),今回繰入前
の残額(④),今回繰入額(⑤)及び現在額計(⑥)),取扱責任者
(内閣官房長官)の記名押印(⑦)並びに取扱責任者が指名した事務補
助者の記名押印(⑧)が記録されている。
(イ)調査情報対策費及び活動関係費の支払に当たっては,内閣官房長官
がその都度支払決定をして支払決定書を作成し,その支払の管理を行っ
ている。支払決定書は,内閣官房長官が,調査情報対策費又は活動関係
費の1件又は複数の支払に係る支払決定を行う都度作成される。内閣官
房長官が指名した事務補助者は,支払決定書に基づき調査情報対策費又
は活動関係費の支払を行う。支払決定書には,別紙3のとおり,文書名
(支払決定書)のほか,作成日付(支払決定の日付)(①),「下記の
金額の支払を要する」旨の文言,金額(複数の支払を処理する場合はそ
の合計額)(②),支払目的(目的類型別の区分を明示)(③),支払
相手方等(④),取扱責任者である内閣官房長官の記名押印(⑤)並び
に支払及び確認を行った日付,事務補助者の記名押印(⑥)が記録され
ている。
(ウ)内閣官房長官は,その指名した事務補助者をして,内閣官房報償費
の出納管理のために内閣官房報償費の出納を出納管理簿に記録させ,自
ら又は指名した内閣官房内閣総務官室の職員により,出納管理簿が適正
に記録されているかどうか確認を行う。出納管理簿には,別紙4のとお
り,文書名(内閣官房報償費出納管理簿)のほか,内閣官房報償費の出
納に係る年月日(①),摘要(使用目的等)(入金又は目的類型別の区
分)(②),受領額(③),支払額(④),残額(⑤),支払相手方等
(⑥),月分計(その月の受領額,支払額の各合計額)(⑦),累計
(その年度の受領額,支払額の各累計額及び当該年度の残額)(⑧),
内閣官房長官が上記⑦,⑧について確認をした趣旨の押印(⑨),年度
末及び取扱責任者の異動があったときは,内部確認のため,確認に立ち
会った者及び上記の指名された確認者の各記名押印(⑩)が記録されて
いる。
(エ)会計検査院の検査を受けるものの計算証明に関しては,計算証明規
則(昭和27年会計検査院規則第3号)が定められているところ,内閣
官房報償費については,同規則11条にいう特別の事情があるとして,
同規則の規定とは異なる取扱いとして,内閣官房報償費を使用目的別に
分類した支払額等を記録した報償費支払明細書を会計検査院に提出し,
支払の相手方である役務提供者等の請求書,領収証書等の証拠書類につ
いて会計検査院から要求があった場合に提出が可能となるように証明責
任者において保管することとする計算証明が認められている(乙4)。
報償費支払明細書には,別紙5のとおり,文書名((報償費)支払明細
書)のほか,支払明細書を提出した日付,支払年月日(①),支払金額
(②),使用目的(目的類型別の区分)(③),取扱者名,備考及び取
扱責任者である内閣官房長官の氏名,前月繰越額(④),本月受入額
(④),本月支払額(④),翌月繰越額(④)が記録されている。
(オ)内閣官房報償費の支払に関して,役務提供者等の支払の相手方から
受領した領収書,請求書及び受領書(これらを併せて,以下「領収書
等」という。)が保管されている。領収書等には,内閣官房報償費の領
収日等の日付,あて名,金額,相手方氏名などが記録されている。
(2)本件不開示決定に至る経緯等
ア衆議院議員総選挙が平成21年8月30日に行われ,開票の結果,民主
党所属の候補者が過半数の議席を獲得した(甲9ないし12)。
イB内閣官房長官(当時。以下「B元官房長官」という。)は,平成21
年9月1日,内閣府大臣官房会計課長に対し,内閣官房報償費合計2億5
000万円の請求書を提出し,所要の手続を経て,同月4日以降に,同額
の内閣官房報償費が内閣官房長官の手元に移された(甲5,乙5,証人
A)。
ウ平成21年9月16日,衆議院及び参議院は民主党代表の鳩山由紀夫衆
議院議員を内閣総理大臣に指名し,これまでの自由民主党(以下「自民
党」という。)を中心とした連立内閣(麻生内閣)に代わって,民主党を
中心とした連立内閣が発足した(甲9ないし12)。
エ原告は,平成21年10月9日付けで,内閣官房内閣総務官に対し,同
年4月1日から同年9月16日までの内閣官房報償費の支出に関する行政
文書(政策推進費受払簿,支払決定書,出納管理簿,報償費支払明細書及
び領収書等)の開示を求めた。
オ内閣官房内閣総務官は,情報公開法5条6号及び同条3号の不開示情報
が記録されているとして,平成21年12月14日付けで,原告に対し,
内閣官房長官の支出に係る内閣官房報償費の同年4月1日から同年9月1
6日までの支出に関する行政文書(政策推進費受払簿,支払決定書,出納
管理簿,報償費支払明細書及び領収書等)を開示しないとする決定をした
(本件不開示決定)。
カ原告は,平成22年1月6日,大阪地方裁判所に対し,本件不開示決定
のうち平成21年9月1日から同月16日までの間(本件対象期間)の内
閣官房報償費の支払(支出)に関する行政文書(政策推進費受払簿,支払
決定書,出納管理簿,報償費支払明細書及び領収書等。以下「本件対象文
書」という。)を不開示とした部分(本件不開示決定部分)の取消しを求
める本訴を提起した(当裁判所に顕著な事実)。
3争点
本件不開示決定部分の適法性。具体的には,①本件対象文書に記録された情
報が情報公開法5条6号(事務事業情報)及び同条3号(国の安全等に関する
情報)に該当するか,②部分開示義務が認められるかなどが争点となる。
4当事者の主張
(被告の主張)
(1)情報公開法5条6号(事務事業情報)及び同条3号(国の安全等に関す
る情報)該当性に関する総論
ア内閣官房報償費の使用に関する秘密保持の必要性
内閣官房報償費は,内閣が国の事務又は事業を円滑かつ効果的に遂行す
ることを目的として,内閣官房長官が当面の任務と状況に応じ,その都度
の判断で最も適当と認められる方法により機動的に使用する経費であり,
具体的な使途が特定されない段階で国の会計からの支出が完了し,その後
は基本的な目的を逸脱しない限り,取扱責任者である内閣官房長官の判断
で支払が行われるとともに,その使用は,内閣官房長官という政治家によ
る優れて政治的な判断の下で決定されるという特殊な性格を有している。
内閣官房長官は,内閣官房の事務を統轄するものとして内政・外政に係
る内閣の重要政策等の企画立案,総合調整や情報収集等の職務を担ってい
る(中央省庁等改革基本法8条1項,内閣法12条2項及び3項)ところ,
これら企画立案,総合調整及び情報収集等を的確に行っていくためには,
その判断の材料となる当該政策分野等に関わる内外の諸情勢等の情報を迅
速かつ的確に調査,収集するとともに,国の内外における様々な立場の関
係者等の協力を確保しつつ,合意形成を図っていく必要がある。
このような情報収集,合意形成に向けた交渉や協力依頼等(以下「情報
収集・協力依頼」という。)に係る活動については,事柄の性質上,内閣
官房長官が当該活動の相手方と接触したことや情報提供等を受けたことに
関する一切の情報を明らかにすることはできず,相手方の氏名等が明らか
となるおそれが生じる事態を回避することが必要不可欠であり,このこと
が保証されて初めて,当該相手方との信頼関係が十分に構築され,国にと
って真に必要かつ的確な情報を得ることや,関係者との合意形成等に向け
て実効性のある協力を得ることが可能となる。
万一,相手方と接触し,当該相手方から情報提供等を受けたことや,情
報提供者や協力者の氏名等の情報又はこれらを知る手がかりとなる情報が
公になった場合には,当該相手方はもとより,多数の関係者との信頼関係
も破壊され,その反発を招くばかりか,当該情報を知った第三者による不
正な工作等を誘発し,国の重要な政策形成等に支障を来すおそれがある。
特に,外交関係において問題が大きく,国外の要人その他の関係者から外
交政策等に係る情報や協力を得ようとする場合に,その相手方の氏名等の
情報が明らかにされることになれば,日本政府の国際的信用は失墜し,外
交交渉などが立ちゆかなくなることが容易に推察される。
以上のとおり,情報提供者や協力者の氏名等の情報が明らかとなった場
合には,その結果として,明らかになった情報に関わる政策課題のみなら
ず,内閣が取り組んでいる他の政策課題や将来にわたる政策課題に関する
情報収集・協力依頼に係る活動が事実上困難となり,ひいては内閣の政策
運営全体に支障を及ぼすおそれがある。
したがって,内閣による情報収集・協力依頼に係る活動については,そ
の性質上,秘密保持の要請が極めて高く,具体的な使途を公にしないこと
を前提に,内閣官房長官の優れて政策的な判断に基づき内閣官房報償費を
使用することによって初めて,上記活動を機動的・効果的に行い,必要な
情報を収集し,関係者の協力を得ることが可能になるのであって,内閣官
房報償費の支払に係る情報の不開示事由該当性の判断に当たっては,この
点を十分に考慮すべきである。
イ情報公開法5条6号,3号の解釈及び審理の在り方
(ア)情報公開法5条6号該当性について
情報公開法5条6号は,その文言上,行政機関に広範な裁量を与える
という趣旨とまではいえない。しかしながら,同号柱書の不開示事由該
当性の有無を判断するに当たっては,当該行政文書に係る行政事務に精
通した処分行政庁による判断は相当程度尊重されるべきであるし,特に
上記の内閣官房報償費が支出される行政事務の特徴に鑑みると,その必
要性は高いというべきである。
そして,情報公開法5条6号にいう「おそれ」は,仮に当該文書を開
示した場合に将来的に発生するであろう出来事の予測的判断に係る要件
であり,しかも,不開示事由該当性の審理及び判断は,当該文書に記録
された個別具体的な情報に直接接することなく,そこに記録されている
情報の一般的・類型的な内容・性質によらざるを得ないものである。こ
れらに照らせば,同号にいう「おそれ」があるというためには,対象文
書が開示されることによって不利益や支障が発生する具体的な機序を立
証することまで要求されておらず,対象文書の開示によって,不利益な
いし支障が生じ得ることが一般的・客観的に想定されることを立証すれ
ば足りるというべきである。
(イ)情報公開法5条3号該当性について
情報公開法5条3号は,「行政機関の長が認めることにつき相当の理
由がある情報」という表現を用いることによって,同号の不開示事由該
当性の判断につき行政機関の長の裁量を認めている。国の安全等に関す
る情報について,行政機関の長の判断の合理性に係る司法審査を行うに
とどめることとしたのは,この種の情報については,開示・不開示の判
断には高度の政策判断が伴い,また,国防,外交上の専門的・技術的判
断を要するという特殊性があり,処分行政庁に広い政治的,政策的裁量
が認められるからである。
したがって,情報公開法5条3号の不開示情報該当性の有無について
の審査及び判断は,処分行政庁による第一次的な判断が合理性のあるも
のとして許容されるかどうかという観点からされるべきである。具体的
には,処分行政庁の判断が全く事実の基礎を欠くかどうか,又は事実に
対する評価が明白に合理性を欠くこと等により,その判断が社会通念に
照らして著しく妥当性を欠くことが明らかであるかどうかという観点か
ら審査,判断されるべきであり,その不開示決定が違法となるのは,開
示により同号所定のおそれがあるとした処分行政庁の判断に裁量権の逸
脱又は濫用があると認められる場合に限られると解される。
そして,情報公開法5条3号にいう「おそれ」も,仮に当該文書を開
示した場合に将来的に発生するであろう出来事の予測的判断に係る要件
であり,しかも,不開示事由該当性の審理及び判断は,当該文書に記録
された個別具体的な情報に直接接することなく,そこに記録されている
情報の一般的・類型的な内容・性質によらざるを得ないものである。こ
れらに照らせば,同号にいう「おそれ」があるというためには,対象文
書が開示されることによって不利益や支障が発生する具体的な機序を立
証することまで要求されておらず,対象文書の開示によって,不利益な
いし支障が生じ得ることが一般的・客観的に想定されることを立証すれ
ば足りるというべきである。
(2)部分開示義務について(独立した一体的な情報を更に細分化することを
求めることができないこと)
情報公開法6条2項は同法5条1号の個人識別情報に限って,例外的に,
独立した一体的な情報を更に細分化し個人識別部分のみを不開示とする態様
の部分開示を行政機関の長に義務付けるという立法政策を採用したものであ
って,個人識別情報以外の情報に関する場合であっても,上記態様の部分開
示を行政機関の長に義務付ける趣旨であると解することはできない(大阪府
公文書公開等条例に関する最高裁平成8年(行ツ)第210号,同年(行
ツ)第211号同13年3月27日第三小法廷判決・民集55巻2号530
頁(以下「最高裁平成13年判決」という。)参照)。そして,ここにいう
「独立した一体的な情報」をどの範囲でとらえるかについては,当該情報が
記録された部分の物理的形状,その内容,作成名義,作成目的,当該文書の
取得原因等を総合考慮の上,不開示事由に関する定めの趣旨に照らし,社会
通念に従って判断すべきである。
(3)本件対象文書ごとの検討(各論)
ア領収書等
(ア)政策推進費に係る領収書等
政策推進費は政策を円滑かつ効果的に推進するため,内閣官房長官と
しての高度な政策的判断により,機動的に使用する経費であるところ,
政策推進費に係る領収書等に記録された情報が開示されて,支払の相手
方の氏名,相手方と接触した日付,支払額等が明らかになると,内閣官
房長官による必要な情報収集・協力依頼の活動が事実上困難となり,ひ
いては内閣の政策運営全体に支障を来すおそれがあるほか,他国若しく
は国際機関(以下「他国等」という。)との信頼関係が損なわれ,交渉
上不利益を被るおそれもある。以下詳述する。
a政策推進費に係る領収書等が開示され,支払の相手方が判明した場
合,内閣官房長官と接触して,極めて機密性の高い重要事案について
交渉を行い,あるいは合意形成に向けた関係者への働きかけ等の協力
依頼や情報収集等の依頼を受けた人物が特定され,それに要する活動
費を得ていた事実が明らかになる。そうした場合,当該相手方の社会
的地位や意思決定に対する影響力が損なわれるおそれがあるほか,当
該相手方は,事柄の性質上,このような情報が当然に秘匿されるもの
と考えるのが通常であるから,これが公とされること自体によって当
該相手方との信頼関係が損なわれる。また,政策推進費の個々の支払
の額が明らかになると,情報収集・協力依頼に応じた相手方は自らの
受け取った額と他者のそれとを比較することができるようになり,内
閣官房長官の自己に対する評価が低すぎると考え,内閣官房長官や内
閣に対して不満や不快感を抱き,信頼関係が失われ,将来の協力の確
保等に支障を来すおそれがあるほか,場合によっては,相手方がその
腹いせから情報を暴露するなどの行動にでるおそれもある。
さらに,他の事案における情報収集・協力依頼の相手方も,国の情
報公開制度により将来,情報提供や協力をした事実が公になる可能性
があるとの不安を抱き,情報提供や協力を躊躇するおそれも高く,内
閣における必要な情報収集・協力依頼の活動全般に支障を来すおそれ
がある。
b支払の相手方の氏名,接触した日付及び金額等が明らかになると,
当時の内政・外政上の案件等の内容,関係者等の各種情報と照合し,
分析を加えるなどして,明らかになった事案の内容やその事案に対す
る内閣の対処方針,調整の内容等が他者に知られ,あるいは推測され
るところとなる。その結果,その事案に関する合意等の実現を妨害し
ようとする者が,内閣官房長官が接触した相手方に働きかけて,内閣
官房長官に提供した情報や依頼を受けた内容等に係る情報を漏洩させ
たり,事実と異なる情報を内閣官房長官に提供させるなどの不正な工
作等に及ぶおそれがある。
c相手方から得た情報等の内容が特定の外交交渉等に関わるものであ
った場合,我が国に対する相手方の協力等の事実が明らかになれば,
当該相手方の社会的な地位等を害するおそれがあるばかりか,関係諸
国との信頼関係が損なわれ,外交上の不利益を受けるおそれがある。
また,他国等においても,その性格上,当然に使途を明らかにせずに
使用するものと認識されている経費について,その使途を明らかにし
たということになれば,我が国は,外交や安全保障等の重要分野に関
して秘密保持ができない国であるとして国際的な信頼を損ない,他国
等が我が国との重要事案に関する水面下での交渉を拒否することも容
易に想定され,また,第三国等からその明らかになった情報を基にし
て様々な不正な工作等を受けるおそれもある。
(イ)調査情報対策費に係る領収書等
調査情報対策費は,政策の円滑かつ効果的な推進のため,その時々の
状況に応じ必要な情報を得る目的で使用する経費であって,具体的には
情報収集等の対価や会合経費等として使用されるものであるところ,調
査情報対策費に係る領収書等に記録された情報が開示されて,支払の相
手方の氏名,相手方と接触した日付,支払額等が明らかになると,内閣
官房長官による必要な情報収集・協力依頼の活動が事実上困難となり,
ひいては内閣の政策運営全体に支障を来すおそれがあるほか,他国等と
の信頼関係が損なわれ,交渉上不利益を被るおそれもある。以下詳述す
る。
a調査情報対策費のうち情報収集等の対価として使用された分に係る
領収書等が開示された場合,当該領収書等に記録された特定の者との
接触の事実や個々の支払額が公になり,政策推進費にかかる領収書等
が開示された場合と同様の支障を来すおそれがある。
b(a)調査情報対策費のうち会合のために使用された分に係る領収書
等に記録された情報が明らかになった場合,内閣に関する情報を不
正に入手しようとする者や内閣の政策運営を阻害しようとする者等
が,会合場所における人の出入り等を監視したり,盗聴器を設置し
たり,配下の者をその会合場所を提供する業者の従業員として就職
させることなどによって,直接情報を収集するなどの不正な工作等
に及ぶおそれがある。あるいは,その会合場所を提供する業者又は
その従業員に働きかけて,接触の相手方やその内容等に係る情報を
漏洩させたり,同様の会合が開催される場合に事前の情報提供をさ
せることなどのおそれがある。
(b)調査情報対策費のうち会合のために使用された分に係る領収書
等が開示され,会合場所に関する情報が明らかになると,前記のよ
うな情報漏洩のおそれが生じ,また,マスコミ等を介して世間の注
目を浴びることにより,その後その場所を同種の会合等で利用する
ことができなくなる結果,当該会合に係る事案のみならず,他の案
件を含めた内閣官房長官による情報収集等の活動全般に支障を及ぼ
すおそれがある。
(c)調査情報対策費のうち会合のために使用された分に係る領収書
等が開示され,会合場所の業者名や会合場所が明らかになる結果,
既に公表された情報や関係者等からの情報の漏洩等により入手した
情報等と照合,分析することにより,会合の相手方が明らかになる
おそれがある。また,調査情報対策費のうち会合のために使用され
た分に係る領収書等が開示され,会合の場所や費用に関する情報が
明らかになると,情報収集の相手方は自らが出席した会合と他の会
合との比較をすることができるようになる。そうすると,政策推進
費に係る領収書等が公開されたのと同様の支障が生じるおそれがあ
る。
(d)調査情報対策費が使用される会合が外交関係等に係るものであ
る場合には,調査情報対策費に係る領収書等が開示されることによ
って,上記(a)ないし(c)で述べたような支障が生じ,他国等との信
頼関係が損なわれ,他国等との外交交渉上不利益を被るおそれがあ
る。
(ウ)活動関係費に係る領収書等
活動関係費は,政策推進費,調査情報対策費が目的とする政策推進,
情報収集等の活動が円滑に行われ,所期の目的が達成されるよう,これ
らを支援するために使用される経費であって,具体的には情報収集等の
関係者の交通費,情報提供者や協力者に情報提供や関係方面への働きか
けを依頼し,また,平素からこれらの者との信頼関係を維持・強化する
ため,その者との会合を開催し,あるいはその者に贈答品や謝礼,慶弔
費を交付するほか,金融機関への支払手数料など諸々の経費として使用
されるものであるところ,支払の相手方の氏名,相手方と接触した日付,
支払額等が明らかになると,内閣官房長官による必要な情報収集・協力
依頼の活動が事実上困難となり,ひいては内閣の政策運営全体に支障を
来すおそれがあるほか,他国等との信頼関係が損なわれ,交渉上不利益
を被るおそれもある。以下詳述する。
a活動関係費が交通費として使用されている場合,領収書等が開示さ
れ,交通事業者に関する情報が明らかになると,当該事業者の従業員
に対する働きかけ等により,内閣官房長官の接触した相手方や当該交
通手段の利用中の会話内容等に係る情報等が漏洩するおそれがある。
また,交通事業者については,情報収集・協力依頼の相手方等が利用
することを踏まえ,信頼のおける交通事業者を厳選しているが,交通
事業者に関する情報が明らかになると,不正な工作等を避けるため,
交通事業者を頻繁に変更する必要があり,信頼のおける交通事業者を
確保することが困難となるおそれもあるから,当該事案のみならず,
その後の内閣における情報収集・協力依頼の活動全般に支障を来すお
それがある。さらに,交通事業者名が明らかになると,他の情報等と
照合,分析することにより,当該事業者を利用した会合の開催やその
会合の出席者に関する情報が明らかになる可能性があり,調査情報対
策費のうち会合のために使用された分に係る領収書等が開示された場
合と同様の支障を来すおそれがある。
b政策推進のための会合に係る経費を,調査情報対策費からではなく
活動関係費から支払うこともあるところ,当該会合に係る領収書等の
情報が開示されると,会合の場所や特定の者との接触の事実が明らか
になるおそれがあり,調査情報対策費のうち会合のために使用された
分に係る領収書等が開示された場合と同様の支障を来すおそれがある。
c活動関係費が贈答品のために使用されている場合,当該贈答品の購
入に係る領収書等が開示され,購入先の事業者等に関する情報が明ら
かになると,贈答先や贈答品の内容等に係る情報の漏洩が生じるおそ
れがあり,さらには漏洩情報に基づく不正な工作等がなされるおそれ
もあり,内閣官房長官の情報収集・協力依頼の活動全般に支障を及ぼ
すおそれがある。そして,贈答先が明らかになった結果,特定の者と
の接触の事実が公になるおそれが生じ,政策推進費に係る領収書等が
開示された場合と同様の支障を来すおそれがある。
また,贈答品を受け取った情報収集・協力依頼の相手方等が当該贈
答品の価格を知った場合,それ自体が儀礼にもとる事態である上,他
者に対する贈答品の価格と比較することにより,不満や不快感等を抱
かせることもあり,相手方の信頼を損ね,将来の情報収集活動等に支
障を及ぼすおそれがある。
d活動関係費が香典等の慶弔費として使用されている場合,当該慶弔
費の領収書等に記録された相手方が明らかになった場合,香典等を受
け取った者が重要事案に関する情報収集や協力依頼の相手方等である
ことが明らかになるおそれがあり,政策推進費に係る領収書等が開示
された場合と同様の支障を来すおそれがある。また,香典等の額に関
する情報が明らかになると,香典等を受けた者は,他者が受けた香典
等の額との比較ができるようになり,不満や不快感等を抱かせること
もあり,相手方の信頼を損ね,将来の情報収集活動等に支障を及ぼす
おそれがある。
e振込手数料等の支払関係経費に係る領収書等に記録された情報が公
になった場合,例えば振込に利用された金融機関に関する情報が明ら
かになり,金融機関ないしその従業員に働きかけることで,振込金額,
振込先に関する情報を漏洩させ,ひいては,内閣の情報収集・協力依
頼の活動全般に支障を来すおそれがある。
(エ)原告の主張に対する反論
原告は,領収書等のうち発行者が国会議員を含む公務員であるものに
ついては,賄賂に類するような不適正な使途に係るものであって,その
開示によって情報公開法5条6号の当該事務の「適正な遂行」に支障を
来すおそれがあるとはいえず,これを不開示とすべき理由がない旨主張
する。
しかし,内閣官房報償費は「内閣官房報償費の取扱いに関する基本方
針」,「内閣官房報償費の執行にあたっての基本的な方針」及び「内閣
官房報償費取扱要領」にのっとって厳正かつ効果的に執行されており,
現に本件対象期間中の支出について会計検査院の検査において違法又は
不当であると指摘されたものはない。
また,本件対象文書に係る内閣官房報償費の支出において,公務員を
支出の相手方とするものがあったとしても,それは活動に要した実費を
支払い,受領したものであるか,又は,公務員が非公務員である相手方
に代わって受領したものである場合には,その支払額は当該公務員に終
局的に帰属するものではなく,その職務との対価性があるわけでもない
から,あたかもこれが賄賂に類するものであるかのような原告の指摘は
明らかに当を得ない。
さらに,原告は,支払相手方等のみを不開示とすれば足りる旨を主張
するが,部分開示義務がないことを措くとしても,当時の内政・外政の
状況等など他の情報と照合,分析することにより,種々の弊害が生じる
おそれがあるというべきである。
(オ)小括
以上のとおり,領収書等に記録された情報が開示された場合,内閣が
行う内政・外政の事務の円滑かつ効果的な遂行に重大な支障を来すおそ
れがあるから情報公開法5条6号の不開示事由に該当する。また,領収
書等のうち,外交関係等の支出に係るものについては,これが開示され
ると,他国等との信頼関係が損なわれ,他国等との交渉上不利益を被る
おそれがあることが明らかであり,内閣官房内閣総務官がそのようなお
それがあると判断したことが,社会通念上著しく妥当性を欠くことが明
らかであるとは到底認め難い。したがって,内閣官房内閣総務官の上記
判断に裁量権の逸脱又は濫用を認める余地はなく,上記領収書等に記録
されている情報については,同条3号の不開示事由該当性が認められる。
なお,領収書等には,いつ,誰に対して,どのような目的で,どの程
度の費用が支払われたかという事項が記録されているところ,これらの
記録内容は,社会通念上,1通ごとに,全体として,内閣官房報償費の
1件ごとの個別具体的な支出の事実を証する独立した一体的な情報であ
るというべきであって,これを更に細分化して開示すべき義務はない。
イ政策推進費受払簿に記録されている情報
(ア)政策推進費受払簿に記録されている作成日付,金額(前回残額,前
回から今回までの支払額,今回繰入前の残額,今回繰入額及び現在額
計)が明らかになると,一定期間における政策推進費の支払総額や一定
時点における繰入額等が明らかとなる結果,これらの情報と当時の内
政・外政の状況など他の情報とを照合,分析することによって,支払総
額,繰入額の増減や繰入れの頻度と特定の政策課題等との関係が特定な
いし推測され,ひいては支払目的・内容や支払の相手方等が特定ないし
推測される結果,領収書等に記録された情報が明らかになった場合と同
様の支障が生じるおそれがある。
また,政策推進費の具体的使途や支払の相手方や関係者が憶測される
こと自体によっても,そのような憶測を受けた相手方や関係者がマスコ
ミ等で取り上げられるなどして困惑を覚えたり萎縮したりする結果,当
該事案について協力が得られなくなるばかりでなく,そのような一般的
な萎縮効果によって広く内閣官房報償費を使用する事務に対する協力が
得られなくなり,以後の情報提供や協力を得ることが困難となることが
優に想定される。
(イ)政策推進費受払簿に記録されている情報が明らかになると,その日
付と前後して発生した内政・外政上の重要事案と内閣官房報償費の支払
との関連性につき,事実の有無とは無関係に様々な憶測が流布すること
が想定される。かかる場合には,内閣官房報償費の制度自体や執行の仕
方について国民の誤解を招き,これらに対する国民の支持・信頼が損な
われるおそれがある。その結果,情報提供者等が内閣官房報償費を使用
して活動を行うことに殊更慎重になり,活動手段の選択肢が事実上狭め
られるという弊害が生じ,さらに,新たな情報提供者等の確保に困難を
来すなど,内閣における必要な情報収集・協力依頼の活動全般に支障を
来す。
(ウ)本件対象期間はわずか2週間余りという短期間であることを踏まえ
ると,本件対象期間中の政策推進費受払簿に記録された情報が開示され
た場合には,政策推進費の個々の支払日と支払額が事実上特定ないし推
測される蓋然性は相当高く,さらに,これらの情報と当時の内政・外政
の状況など他の情報とを照合,分析することにより,特定の事案との関
係が特定ないし推測され,ひいては具体的使途や支払の相手方等が特定
ないし推測されることになる。
(エ)以上のとおり,政策推進費受払簿に記録された情報は,これが開示
された場合,内閣が行う内政・外政の事務の円滑かつ効果的な遂行に重
大な支障を来すおそれがあり,情報公開法5条6号の不開示情報に該当
する。また,政策推進費が外交関係等に支出された場合に上記情報を開
示すれば,他国等との信頼関係が損なわれ,他国等との交渉上不利益を
被るおそれがあると認められるから,内閣官房内閣総務官がそのような
おそれがあると判断したことが,社会通念上著しく妥当性を欠くことが
明らかであるとは到底認め難い。したがって,内閣官房内閣総務官の上
記判断に裁量権の逸脱又は濫用を認める余地はなく,上記情報について
は,同条3号の不開示事由該当性が認められる。
なお,政策推進費受払簿の作成目的や記録事項の内容からして,政策
推進費受払簿の記録内容は,社会通念上,繰入れの都度作成される1通
ごとに,全体として,政策推進費の個々の繰入れを明らかにする独立し
た一体的な情報であるというべきであって,これを更に細分化して開示
すべき義務はない。
ウ支払決定書に記録された情報
(ア)支払決定書には,作成日付,金額(複数の支払を処理する場合はそ
の合計額),支払目的(調査情報対策費,活動関係費の別だけではなく,
より個別具体的な使途も記録されている。),支払相手方の氏名ないし
名称などが記録されている。支払決定書が公にされると,支払決定を行
った時期や支払額のほかに,調査情報対策費,活動関係費という支払目
的類型の別,さらには,より具体的な支払目的,支払内容及び情報収
集・協力依頼の相手方やこれらの諸活動に当たり利用している会合に係
る事業者,交通事業者等が明らかになるから,領収書等に記録されてい
る情報が明らかになった場合と同様の支障が生じるおそれがある。
(イ)また,支払決定書に記録された情報が公となった場合,特定の政策
課題等との関係について,事実と関係なく様々な憶測が世上に流布する
ことによって,内閣官房報償費を使用した活動一般が萎縮,硬直化し,
内閣による必要かつ機動的な情報収集・協力依頼の活動全般に支障を来
すおそれがある。
(ウ)原告は,支払決定書の記録中,不開示情報に該当するのは「支払相
手方等」の欄に民間人の氏名が記録されている部分のみであり,公務員
の氏名が記録されているものは,法的保護に値する程度の不開示情報に
該当せず,支払の相手方である民間人の氏名が不明であれば,開示され
た支払決定書によって明らかとなるのは,情報調査活動として,ある日
に何人かに対して一定の金額が支払われたということだけであり,これ
により今後の情報収集活動が困難となることは想定し難い旨主張する。
しかしながら,公務員への支払が賄賂に類する不適正な執行といえな
いことは前記のとおりである。
また,原告は,支払相手方等のみを不開示とすれば足りる旨を主張す
るが,部分開示義務がないことを措くとしても,前記ア(エ)で述べたと
おり,当時の内政・外政の状況等など他の情報と照合,分析することに
より,種々の弊害が生じるおそれがあるというべきである。
(エ)以上のとおり,支払決定書に記録された情報は,これが開示された
場合,内閣が行う内政・外政の事務の円滑かつ効果的な遂行に重大な支
障を来すおそれがあり,情報公開法5条6号の不開示情報に該当する。
また,内閣官房報償費が外交関係等に支出された場合に上記情報を開示
すれば,他国等との信頼関係が損なわれ,他国等との交渉上不利益を被
るおそれがあると認められるから,内閣官房内閣総務官がそのようなお
それがあると判断したことが,社会通念上著しく妥当性を欠くことが明
らかであるとは到底認め難い。したがって,内閣官房内閣総務官の上記
判断に裁量権の逸脱又は濫用を認める余地はなく,上記情報については,
同条3号の不開示事由該当性が認められる。
なお,支払決定書には,調査情報対策費又は活動関係費の1件又は複
数件の支払ごとに,金額とともに,いつ,内閣官房長官が,事務補助者
をして処理させることを認めたかが記録されているところ,これらの記
録内容は,社会通念上,1通ごとに,全体として,調査情報対策費又は
活動関係費の1件ごとの支出の事実を明らかにする独立した一体的な情
報であるというべきであって,これを更に細分化して開示すべき義務は
ない。
エ出納管理簿に記録された情報
(ア)出納管理簿には,国庫から内閣官房報償費への入金,内閣官房報償
費から政策推進費への繰入れ,調査情報対策費及び活動関係費の支払決
定があるごとに,当該出納についての「年月日」(政策推進費の繰入日,
調査情報対策費及び活動関係費の各支払日),「摘要(使用目的等)」,
「受領額」(国庫からの入金額)又は「支払額」(政策推進費の繰入額,
調査情報対策費及び活動関係費の各支払額),「残額」等の各項目が記
録され,調査情報対策費及び活動関係費の各支払決定については「支払
相手方等」が記録される。また「月分計」欄には,各月における受領額,
支払額の各合計額が記録され,「累計」欄には,年度当初から当該月の
月末までの受領額,支払額の各累計額及び残額が記録されている。
これらの記録のうち調査情報対策費及び活動関係費の各支払決定に対
応する各項目には,支払決定書に記録された情報と同じ情報が記録され
ることから,これらの情報が開示された場合には,支払決定書が開示さ
れた場合と同様の支障を来すおそれがある。また,政策推進費の支払
(繰入れ)に係る各項目には,政策推進費受払簿に記録された情報と同
じ情報が記録されることから,これらの情報が開示された場合には,政
策推進費受払簿が開示された場合と同様の支障を来すおそれがある。
月分計欄に記録された情報が明らかになると,それを基にある月の受
領額(国庫からの入金額),支払額(政策推進費の繰入額,調査情報対
策費及び活動関係費の各支払額)の各合計額が明らかとなり,各月の支
払の特徴を分析し,当時の内政・外政の状況等を照合,分析することに
よって,特定の事案との関係が特定ないし推測される結果,具体的使途
や相手方が特定ないし推測されることになり,内閣官房長官の行う事務
の適正な遂行に支障を来すおそれがある(本件対象期間が短期間である
ことに照らすと,当時生じていた内政・外政に係る事案との関係が比較
的容易に特定ないし推測される。)。また,前述のとおり,特定の事案
との関係について,事実と関係なく様々な憶測が世上に流布すること自
体によっても,内閣官房報償費を使用した事務の活動全般に支障を来す
おそれがある。
累計欄に記録された情報が明らかになると,年度当初から本件対象期
間までの国庫からの入金と支払の各総額が明らかとなるから,この間の
支払額等の特徴から,当時の内政・外政事案と照合,分析するなどして,
特定の事案との関係が特定ないし推測されることになる。
(イ)原告は,出納管理簿の「支払相手方等」の欄に,「(注)本欄は記
載した場合,支障があると思われる場合は省略することができる」との
注記(以下「本件注記」という。)が存することを指摘し,元々開示に
つき支障のある「支払相手方等」の記録は作成者において記録を省略し
ているのであるから,かかる省略がなく実際に記録されている「支払相
手方等」の部分を開示したとしても,行政の執行に実質的な支障を生じ
るおそれがないことが明らかである旨主張する。
しかし,本件注記は,支払相手方等の情報については機微に触れる場
合もあることから,必要以上に記録することなく慎重に取り扱うことを
注意的に記載したものにすぎない。実際,本件注記があるからといって,
支払相手方等の欄について記録を省略する扱いはされていないのであっ
て,原告の主張は理由がない。
(ウ)以上のとおり,出納管理簿に記録された情報は,これが開示された
場合,内閣が行う内政・外政の事務の円滑かつ効果的な遂行に重大な支
障を来すおそれがあり,情報公開法5条6号の不開示情報に該当する。
また,上記情報のうち,外交関係等に関する支出に係るものについては,
これが開示された場合,他国等との信頼関係が損なわれ,他国等との交
渉上不利益を被るおそれがあると認められるから,内閣官房内閣総務官
がそのようなおそれがあると判断したことが,社会通念上著しく妥当性
を欠くことが明らかであるとは到底認め難い。したがって,内閣官房内
閣総務官の上記判断に裁量権の逸脱又は濫用を認める余地はなく,上記
情報については,同条3号の不開示事由該当性が認められる。
なお,出納管理簿は,内閣官房長官が,内閣官房報償費を何の目的で,
誰に対してどの程度使用しているかを,事務補助者をして,月ごとにま
とめた上で,更に当該年度に係る累計額を記録して,当該年度等におけ
る内閣官房報償費全体を一覧することができるように作成したものであ
り,内閣官房長官自らが内閣官房報償費全体が適正に記録されているか
どうかを確認し,更に内閣官房長官が内閣官房内閣総務官室の職員から
指名した者が各年度末又は内閣官房長官に異動があった際に,内閣官房
報償費の全体が適正に記録されているかどうかを確認するために作成さ
れたものである。このような出納管理簿を作成する趣旨目的に鑑みれば,
出納管理簿に記録されている国庫からの入金と政策推進費への繰入れ,
調査情報対策費及び活動関係費の各支払は,それぞれが個別の記録とし
て独立の意味を持つものではなく,これらの入出金相互の関係が矛盾な
く記録されているかどうか,その月ごとの合計額,年度ごとの累計額が
個々の入金や繰入額,支払額と整合するかどうかが全体として内閣官房
長官による確認の対象とされているものである。したがって出納管理簿
の記録においても,社会通念上,1通ごとが独立した一体的な情報とい
うべきであって,これを更に細分化して開示すべき義務はない。
オ報償費支払明細書に記録された情報
報償費支払明細書は,会計検査院に提出するため,内閣官房報償費の使
途を目的別に分類して支払額を記録したものであり,政策推進費受払簿及
び支払決定書に記録されている情報が転記されているのであるから,報償
費支払明細書が開示された場合には,政策推進費受払簿ないし支払決定書
が開示された場合と同様の支障が生じるおそれがある。
なお,原告は,報償費支払明細書は会計検査院に対して開示しても支障
がない以上,一般に公開しても支障がない旨を主張する。しかし,かかる
主張は,会計検査院の職員に守秘義務が課されており,情報が外部に漏洩
しないことを前提としていることを看過しているものであり,妥当ではな
い。
したがって,報償費支払明細書に記録された情報は,これが開示された
場合,内閣が行う内政・外政の事務の円滑かつ効果的な遂行に重大な支障
を来すおそれがあり,情報公開法5条6号の不開示情報に該当する。また,
上記情報のうち,外交関係等に関する支出に係るものについては,これが
開示された場合,他国等との信頼関係が損なわれ,他国等との交渉上不利
益を被るおそれがあると認められるから,内閣官房内閣総務官がそのよう
なおそれがあると判断したことが,社会通念上著しく妥当性を欠くことが
明らかであるとは到底認め難い。したがって,内閣官房内閣総務官の上記
判断に裁量権の逸脱又は濫用を認める余地はなく,上記情報については,
同条3号の不開示事由該当性が認められる。
なお,報償費支払明細書は,会計検査院に対し,内閣官房報償費の使用
状況を報告するため,内閣官房長官が,内閣官房報償費を,いつ,いかな
る使用目的でどの程度使用したかに加えて,前月からの繰越額,当月受入
額,支払額の各合計額及び翌月への繰越額等を明らかにする目的で毎月作
成される文書である。当月分の個々の政策推進費の繰入日及び支払(繰
入)金額,調査情報対策費及び活動関係費の支払日及び支払額を明らかに
し,これらの本月支払額と本月受入額との受払い状況を明らかにする目的
で作成されるものであり,その記録事項全体によって初めて作成目的であ
る月ごとの内閣官房報償費の出納状況が明らかになるものである。したが
って,報償費支払明細書の記録についても,社会通念上,1通ごとが独立
した一体的な情報というべきであって,これを更に細分化して開示すべき
義務はない。
カ本件対象期間が短期間であり,いわゆる政権交代直前であった点につい

(ア)原告は,本件対象期間に係る内閣官房報償費の支出について,政権
交代が確定していた平成21年9月1日にB元官房長官が合計2億50
00万円の内閣官房報償費を国庫に請求したことに着目し,麻生内閣は
国の重要政策の企画立案,総合調整を全く行っておらず,B元官房長官
も国の重要政策の企画立案,総合調整のための情報収集等の活動を行っ
ているとはおよそ考えられないなどとして,本件対象期間における内閣
官房報償費の支出が違法ないし不適正なものであるかのような主張をす
る。
しかし,内閣官房報償費の性質に鑑みれば,B元官房長官が内閣官房
報償費2億5000万円を国庫に請求した時期が政権交代の間近であっ
たことや,その請求額の多寡をもって,内閣官房報償費の使途が違法な
いし不適正であるなどと憶測することはできない。また,本件対象期間
の内閣官房報償費の支出についても,会計検査院による会計検査で特段
の問題等は指摘されていない。
(イ)原告は,政権交代直前の本件対象期間に,B元官房長官が内閣官房
報償費を使用して行うべき活動が存在しなかったことの根拠として,本
件対象期間における内閣総理大臣の動静等の新聞記事を挙げる。しかし,
内閣官房報償費の支出に関わる内政・外政上の案件は,新聞記事に掲載
されたものに限らないことは当然であり,内閣総理大臣の動静に関する
新聞記事にこれらの案件に該当すると思われるものが掲載されていなか
ったとの一事をもって,本件対象期間中に国の重要政策の企画立案,総
合調整のために当該政策部分等に関わる内外の諸情勢に関する情報収集
等の活動がおよそ行われていなかったなどと断定し得るものではない。
(ウ)かえって,本件対象期間は短期間に限定されており,同期間におけ
る内政・外政の状況等についても一定の推測がされ得る状況であるから
こそ,本件対象文書の開示による支障や不利益が具体化する蓋然性が高
いというべきである。
(原告の主張)
(1)本件対象文書に記録された情報が情報公開法5条6号(事務事業情報)
及び同条3号(国の安全等に関する情報)に該当しないこと(総論)
ア情報公開法5条6号の解釈について
情報公開法の目的が,行政機関の事務の執行に関する情報を広く国民に
明らかにし,これを通じてなされる国民の不断の監視・批判により,行政
の事務の執行を適正ならしめようとする点にあることに照らすと,同法5
条6号の「事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」との
不開示事由は,事務又は事業が違法ないし不適正である場合にまでは及ば
ないことが明らかである。
また,情報公開法5条6号の「支障を及ぼすおそれ」にいう「支障」と
は実質的なものが必要であり,「おそれ」の程度も法的保護に値する程度
の蓋然性が要求される。言い換えれば,「支障を及ぼすおそれ」とは,抽
象的で漠たるものでは足らず,具体的なおそれを指すものと解すべきであ
る。しかるに被告の主張は,対象文書自身に含まれる情報から生じる派生
的事態を無制限・連鎖的に拡大して「支障を及ぼすおそれ」を判断すべき
というものであって,不開示事由該当性を制限している情報公開法の趣旨
を全く無視する暴論である。
イ支払相手方が公務員である場合
支払相手方が公務員である場合は,金員の交付が賄賂性を帯びる違法な
ものか,公務員の職務上の倫理に反する性格を帯びるものであって,支払
相手方が公務員の場合の本件対象文書に記録された情報は法的保護に値せ
ず,不開示情報に該当しない。
ウ本件対象期間がいわゆる政権交代期であることについて
本件対象期間においては,民主党が衆議院議員総選挙に勝利し,自民党
等による連立政権から民主党等による連立政権に交代するのが確実であり,
麻生内閣はいわば死に体であった。このような「死に体内閣」は,何ら国
の重要政策に関する企画,立案等の活動をしておらず,内政・外政等に係
る内閣の重要政策の企画,立案等に関与するに当たってその情報の調査,
収集のために内閣官房報償費を支出する必要があったとはおよそ考えられ
ない。したがって,本件対象期間については内閣官房報償費は違法に支出
されたといわざるを得ないのであって,このような支出に係る本件対象文
書について不開示事由があると解することは許されない。
また,今回の2億5000万円もの異常に高額な内閣官房報償費の支出
は,政策推進費名目で,本来支払う必要のない金額を,自民党政権末期に
当時の重要役職者に支払ったと推認するのが合理的であるところ,この時
期に自民党の国会議員に対して施策の実現・推進等を目的とする金銭の支
出が行われる必要性は皆無であるから,少なくとも国会議員に支払われた
政策推進費に係る領収書等は開示されるべきである(特に1000万円を
超える金額の支払については,違法ないし不適正な用途に費消されたもの
であって,当該支出に関する情報を公開することによって支障が生じるお
それなど考えられない。)。
(2)部分開示義務について
ア情報公開法は,開示請求のあった行政文書を原則的に公開するように規
定し(5条),さらに不開示情報が含まれる場合であっても可能な限りそ
の部分を除いて開示すべきと規定する(6条)ことで,国民主権の理念に
のっとり,行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により,行
政機関の保有する情報の一層の公開を図り,もって政府の有するその諸活
動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに,国民の的確な
理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資するという目的(1
条)を果たそうとしている。
このような開示を原則とし,不開示を例外として封じ込めるべきという
情報公開法の建前からすると,不開示情報が記録されている部分と記録さ
れていない部分が分離可能であるならば,不開示情報が記録されていない
部分を実施機関は開示しなければならないのであって,実施機関は部分開
示義務を負うと解すべきである。
被告は最高裁平成13年判決を援用するが,そもそも大阪府公文書公開
等条例10条の沿革等に照らすと,同条例の解釈上部分開示義務を認めな
かった最高裁平成13年判決自体妥当でないし,その後の最高裁判例は,
行政機関の長が独立した一体的な情報を更に細分化して行政文書の部分開
示をすべき義務はないという見解を採用しておらず,最高裁平成13年判
決は実質的に判例変更されているとみるべきである。また,大阪府公文書
公開等条例10条と情報公開法6条とは条文の構造が異なるから,最高裁
平成13年判決の射程は情報公開法には及ばない。
イ本来,一つの文書には様々な情報が重層的に記録され,それらが集積さ
れることによってより大きな情報を構成し,そして一つの文書を構成して
いるのである。そうすると,仮に,個人識別情報以外の不開示事由がある
行政文書については,行政機関の長が独立した一体的な情報を更に細分化
し当該不開示情報が記録されていない部分を開示する態様の部分開示の義
務を負わないと解したとしても,その「独立した一体的な情報」は,文書
の作成名義,作成目的,記録内容等から的確に判断する必要がある。
(3)本件対象文書ごとの検討(各論)
ア領収書等について
(ア)情報収集等の相手方が国会議員を含む公務員の場合には,内閣官房
長官が当該公務員に対し対価を支払うことを約して情報を収集し,ある
いは協力を依頼することは,公務の適正な執行とはいい難い(場合によ
っては賄賂の授受にも当たる。)。すなわち,領収書等の発行者が公務
員の場合には,当該領収書等を開示することによって,公務の適正な遂
行に支障を及ぼすおそれがあるとはいえない。
(イ)調査情報対策費や活動関係費については,情報提供者やそれに準ず
る者に直接支出するのではない場合(具体的には,会合としての支出,
交通費,贈答品等の購入費,支払関係費用としての支出の場合)につい
ては,領収書等をすべて開示しても,国の事務又は事業の適正な遂行に
支障を及ぼすおそれがあるとは考えられない。被告は,このような場合
においても不正工作がなされるおそれがある旨を指摘するが,不正工作
に応じた業者はもはや利用されなくなることに鑑みれば,内閣官房長官
等が会合に利用する業者,交通事業者,振込に利用する金融機関などが
不正工作に遭って簡単に顧客に関する情報を漏洩することなど考えられ
ない。
また,公共交通機関に対して支出された交通費に関する領収書等につ
いては,これが開示された場合に,第三者が支払の相手方に対し不正工
作をしたとしても,誰が当該領収書等に係る公共交通機関の利用をした
かなど判明するおそれはないから,少なくとも公共交通機関に対して支
出された交通費に関する領収書等も開示されるべきである。
イ政策推進費受払簿に記録されている情報
政策推進費受払簿に記録されている情報自体は,前回繰入時から今回繰
入時までの一定期間内における政策推進費の支払合計額が明らかになるだ
けであって,それ以上に政策推進費の具体的使途や支払の相手方の氏名等
の情報が明らかになるものではない。したがって,政策推進費受払簿に記
録されている情報が開示されたとしても国の事務又は事業の適正な遂行に
支障を及ぼすおそれが発生しないことはあまりにも明白である。被告は,
当時の内政・外政の状況など他の情報と照合・分析することによって,特
定の事業との関係が特定ないし推測されるなどと主張するが,このような
主張は,不開示事由該当性を無制限に拡大するものであり極めて不当であ
る。また,本件では,本件対象期間が短期間であり,当時の内政・外政の
状況も明らかであるから,開示の有無に関わらず被告のいう推測は可能な
状況にあり,そうであれば政策推進費受払簿を公開しても何ら支障がない
はずである。
ウ支払決定書に記録された情報
(ア)支払決定書はほぼ毎月1回,調査情報対策費で1枚,活動関係費で
1枚作成され,月の各支出をまとめて1枚で記録されているものにすぎ
ない。そして,支払決定書に関する支払目的や相手方については,領収
書等の単位で複数ある支出のうち,基本的には代表的なものを記録する
に過ぎず,支払目的も会合費,交通費といった概括的なものにとどまる。
したがって,支払決定書が開示されたとしても,月に1度まとめた支
出の金額と日時,代表的な相手方と代表的な支出目的が判明するのみで
あるから,国の事務又は事業の適正な執行に支障を及ぼす具体的なおそ
れがあるとは認められない(少なくとも,上記ア(イ)で主張したとおり,
支出目的が会合費や交通費等の間接的な支払類型の場合には,同支払類
型に係る支出が開示されたとしても国の事務又は事業の適正な執行に支
障を及ぼす具体的なおそれがあるとは認められない。)。
(イ)なお,支払決定書は,調査情報対策費と活動関係費を支出するとき
に,その支払の適正さを担保するために作成されるところ,請求書が添
付されることもあって,支払決定書には「支払相手方等」をわざわざ全
件記録しなくてもよいことになっている。そうすると,「支払相手方
等」を記録しなくても,その余の記録事項だけでも有意な情報として,
支払決定書を作成していることは明らかであって,上記その余の記録事
項は「独立した一体的な情報」であると解釈できるから,仮に代表的な
相手方が開示されることによって,国の事務又は事業の適正な執行に支
障を及ぼす具体的なおそれがあるとしても,内閣官房内閣総務官は,代
表例である支払相手方等の記録を除いた部分について部分開示をすべき
義務を負う。
エ出納管理簿に記録された情報
(ア)出納管理簿は,内閣官房報償費の出納管理のために,当該年度等に
おける報償費全体を一覧できるように作成されたものである。記録され
ている情報は,政策推進費受払簿や報償費支払明細書に記録されている
情報と大差なく,開示によって大きな支障が生じるとは考え難い。
なお,出納管理簿には「支払相手方等」の欄があり,支払相手方の氏
名等が記録されていることも考えられる。しかし,出納管理簿の書式に
おいて「支払相手方等」の欄には「本欄は記載した場合,支障があると
思われる場合は省略することができる」との注記(本件注記)があるか
ら,「支払相手方等」を省略していない場合には,開示によって行政執
行に実質的な支障を生じるおそれがないというべきである。
(イ)a仮に出納管理簿全体を開示することによって何らかの支障が生じ
得るとしても,①国庫からの内閣官房報償費の支出(受領)に係る項
目に記録された情報は,すでに開示されている国庫に対する請求書と
同様の情報が記録されているに過ぎず,不開示情報には該当せず,②
政策推進費の繰入れに係る各項目の記録については,政策推進費受払
簿に記録された情報と同様の情報が記録されているに過ぎないのであ
って,政策推進費受払簿が不開示情報に該当しないのと同様に,これ
も不開示情報には該当しない。
そして,上記各部分については,調査情報対策費や活動関係費の各
支出が記録されている部分と容易に区分して除くことができ,かつ,
それのみで有意の情報が記録されていると認められるのであるから,
情報公開法6条1項に基づく部分開示をすべきである。
bまた仮に,支払相手方等の記録部分を開示した場合に事務の処理に
支障が生じるとしても,出納管理簿が内閣官房報償費の出納管理のた
め内閣官房報償費全体の出納状況を一覧できるように作成されている
文書であること,出納管理簿の書式において「支払相手方等」の欄に
は「本欄は記載した場合,支障があると思われる場合は省略すること
ができる」との注記(本件注記)があることなどに照らすと,出納管
理簿から「支払相手方等」を除いた記録は「独立した一体的な情報」
であると解釈できるから,内閣官房内閣総務官は,出納管理簿から
「支払相手方等」の記録を除いた部分について部分開示をすべき義務
を負う。
オ報償費支払明細書に記録された情報
被告は報償費支払明細書に記録された情報を開示すると,政策推進費受
払簿を開示した場合と同様の支障があると主張するところ,報償費支払明
細書を公開しても何ら支障が生じないことは,政策推進費受払簿の開示の
場合と同様である。また,報償費支払明細書は,国の機密保持上,会計検
査院に対して開示をしても支障のない限度での項目のみを記録したもので
あるから,これを一般に公開しても行政執行に支障のおそれが生じるとは
考えられない。
第3当裁判所の判断
1情報公開法5条6号及び3号の各不開示事由の解釈及びその審理方法等
(1)情報公開法は,国民主権の理念にのっとり,行政文書の開示を請求する
権利につき定めること等により,行政機関の保有する情報の一層の公開を図
り,もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるよう
にするとともに,国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の
推進に資することを目的としており(1条),その観点から,行政機関の保
有する行政文書の開示の請求権者を特に限定せず(3条),また,5条各号
に掲げる不開示情報のいずれかが記録されている場合を除き,行政機関の長
に対して開示請求に係る行政文書の開示を義務付けている(5条)。
このうち,情報公開法5条6号は「国の機関…が行う事務又は事業に関す
る情報であって,公にすることにより,…当該事務又は事業の性質上,当該
事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」を不開示情報
として定めているが,その趣旨は,国の機関等が行う事務又は事業は,公共
の利益のために行われるものであり,公にすることによりその適正な遂行に
支障を及ぼすおそれがある情報については,不開示とする合理的な理由があ
ると考えられたためである。このような不開示事由に該当しない限り原則的
には行政機関の長に行政文書の開示を義務付けているという同法の構造や,
同法5条6号の不開示事由を定めた趣旨に照らすと,同号所定の不開示事由
があるとして文書を不開示にした場合,かかる不開示処分をした行政機関の
長の所属する行政主体である国(被告)が,当該行政文書には同号所定の不
開示事由があること,すなわち,当該行政文書には「国の機関…が行う事務
又は事業に関する情報であって,公にすることにより,…当該事務又は事業
の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるも
の」が記録されていることを主張立証する必要があると解するのが相当であ
る。
そして,ここにいう「支障」の程度は名目的なものでは足りず実質的なも
のであることが必要であって,「おそれ」の程度も単なる確率的な可能性で
はなく,法的保護に値する蓋然性が要求されると解すべきである。そして,
これら「支障」や「おそれ」の程度については,開示によって支障を及ぼす
おそれがあるとされる事務又は事業の性質を踏まえた判断を行う必要がある
というべきである。
(2)次に,情報公開法5条3号は「公にすることにより,国の安全が害され
るおそれ,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国
若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認
めることにつき相当の理由がある情報」を不開示情報として定めているが,
その趣旨は,我が国の安全,他国等(他国若しくは国際機関)との信頼関係
及び我が国の国際交渉上の利益を確保することは,国民全体の利益を擁護す
るために政府に課された重要な責務であって,同法においてもこれらの利益
は十分に保護されるべきと考えられたことによるものである。そして,公に
することにより,国の安全が害されるおそれ,他国等との信頼関係が損なわ
れるおそれ又は他国等との交渉上不利益を被るおそれがある情報については,
一般の行政運営に関する情報とは異なり,その性質上,開示・不開示の判断
に高度の政治的判断を伴うこと,我が国の安全保障上又は対外関係上の専門
的・技術的判断を要することなどの特殊性が認められる。このような同法5
条3号の文言及び趣旨に照らすと,同号該当性の判断には行政機関の長に一
定の裁量が認められるのであって,行政機関の長が同号に該当するとして不
開示決定をした場合には,裁判所は,当該行政文書に同号に規定する不開示
情報が記録されているか否かについての行政機関の長の第一次的な判断を尊
重し,その判断が合理的なものとして許容される範囲内であるかどうかを審
理判断すべきであって,同号に該当する旨の行政機関の長の判断が社会通念
上合理的なものとして許容される限度を超えると認められる場合に限り,裁
量権の逸脱又は濫用があったものとして違法となると解するのが相当である。
2部分開示義務の存否等
(1)情報公開法5条は,開示請求に係る行政文書に同条各号に掲げる「情
報」(不開示情報)のいずれかが記録されている場合を除き,当該行政文書
を開示しなければならない旨規定するところ,同法6条1項は,行政機関の
長は,開示請求に係る行政文書の一部に不開示情報が記録されている場合に
おいて,「不開示情報が記録されている部分」を容易に区分して除くことが
できるときは,開示請求者に対し,当該部分を除いた部分につき開示しなけ
ればならないとして,行政機関の長に対し部分開示を義務付けている。これ
に対し,同条2項においては,開示請求に係る行政文書に同法5条1号の不
開示情報(個人識別情報)が記録されている場合において,当該情報のうち,
特定の個人を識別することができることとなる「記述等の部分」を除くこと
により,公にしても個人の権利利益が害されるおそれがないと認められると
きは,「当該部分を除いた部分」は,同号の「情報に含まれないものとみな
して」同法6条1項の規定に基づく部分開示を行う旨規定している。
以上のような規定の文言からすると,情報公開法においては,「情報」と
「記述等の部分」とが明確に区別され,「情報」は「記述等」の複合した一
定のまとまりをもった単位として用いられているものと解することができる。
(2)そうすると,情報公開法6条1項は,その文理に照らすと,1個の行政
文書に複数の情報が記録されている場合において,それらの情報のうちに不
開示事由に該当する情報があるときは,当該情報を除いたその余の情報を開
示することを行政機関の長に義務付けているものと解すべきであって,同項
は,不開示事由に該当する独立した一体的な情報を更に細分化し,その一部
を不開示とし,その余の部分にはもはや不開示事由に該当する情報は記録さ
れていないものとみなして,これを開示することまでをも行政機関の長に義
務付けているものと解することはできない。
したがって,情報公開法6条2項の定める場合を除いて,行政機関の長に
おいて,1個の情報を細分化することなく一体として不開示決定をしたとき
に,開示請求者が,同条1項を根拠として,開示することに問題のある部分
のみを除外してその余の部分を開示するよう請求する権利はなく,裁判所も
また,当該不開示決定の取消訴訟において,行政機関の長がこのような態様
の部分開示をすべきであることを理由として当該不開示決定の一部を取り消
すことはできないと解すべきである。
(大阪府公文書公開等条例における部分開示義務の当否に関する最高裁平
成13年判決参照)
(3)この点,原告は,情報公開法6条2項は,同法5条1号の不開示情報が
記録されている場合において,特定の個人を識別することができることとな
る記述の部分を除いて同法6条1項に基づく部分開示を行うことを義務付け
ているが,これは独立した一体的な情報の一部分の部分開示を認めているこ
とを確認的に規定したのであって,他の不開示情報についても同様に,独立
した一体的な情報の一部分のみの部分開示を求めることができる旨主張する。
しかしながら,上記(2)で説示したとおり,情報公開法6条1項の部分開
示は,独立した一体的な情報を単位として行うものであり,かかる情報を更
に細分化した上で,不開示事由に該当する情報が記録されていない部分のみ
の部分開示を義務付けるものとはいえないのであって,同条2項は,個人識
別情報が含まれる情報について,特に独立した一体的な情報を細分化した上
での部分開示を義務付けることを可能とした創設的な規定であると解するの
が相当であるから,原告の上記主張は採用できない。
(4)そして,問題とされている行政文書について,独立した一体的な情報を
どのように把握すべきかについては,情報公開法には明文の規定はないから,
社会通念に照らした合理的な解釈を行うべきであって,具体的には,当該行
政文書の作成名義,作成の趣旨・目的,作成時期,取得原因,当該記述等の
形状,内容等を総合考慮の上,情報公開法の不開示事由に関する規定の趣旨
に照らして,社会通念に従って情報の独立一体性を判断するのが相当である。
3認定事実
前記前提事実,各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認
められる。
(1)内閣官房の事務等
内閣官房は内閣法12条1項により内閣に置かれている補助機関であると
ともに,内閣の首長としての内閣総理大臣の職務を直接に補佐する機能を担
っている(中央省庁等改革基本法8条1項)。内閣の事務及び内閣総理大臣
の職務は,我が国の行政全般に及ぶことから(憲法65条,72条),内閣
官房のつかさどる事務も我が国の行政全般に及ぶものであるが,具体的に内
閣官房が行う事務としては,内閣法12条2項に定めるものとして,閣議事
項の整理その他内閣の庶務(1号),内閣の重要政策に関する基本的な方針
に関する企画及び立案並びに総合調整に関する事務(2号),閣議に係る重
要事項に関する企画及び立案並びに総合調整に関する事務(3号),行政各
部の施策の統一を図るために必要となる企画及び立案並びに総合調整に関す
る事務(4号),その他行政各部の施策に関するその統一保持上必要な企画
及び立案並びに総合調整に関する事務(5号),内閣の重要政策に関する情
報の収集調査に関する事務(6号)が掲げられている。また,中央省庁等改
革基本法8条2項では,内閣官房は,これらの事務に係る機能のほか,危機
管理及び広報に関する機能を担うものとされている。
内閣官房の主任の大臣は内閣総理大臣であり(内閣法23条),内閣官房
長官は内閣官房の事務を統轄し,所部の職員の服務を統督するものである
(同法13条3項)。
(2)内閣官房報償費の性質等
ア内閣官房報償費は,内閣官房の行う事務を円滑かつ効果的に遂行するた
めに,当面の任務と状況に応じて機動的に使用することを目的とした経費
として,毎年国会で予算措置が講じられているものであって,内閣官房報
償費の支出方法や目的等について特段の法令が存在するものではない。
内閣官房長官は,平成14年4月1日,内閣官房報償費の取扱いに関し
て,その管理執行体制等を明確に定めることにより,内閣官房報償費の持
つ性格に留意しつつその透明性を可能な限り高め,厳正かつ効果的な執行
を確保することを目的として,「内閣官房報償費の取扱いに関する基本方
針」を定めた(乙1)。これによると,内閣官房報償費の取扱責任者であ
る内閣官房長官は,毎年度(内閣官房長官が異動する場合にあっては,異
動の都度),内閣官房報償費の目的類型を明らかにした上で,その執行に
あたっての基本的な方針を定め,これに基づき自らの責任と判断により内
閣官房報償費の執行に当たるものとし,内閣官房報償費の支払に関する関
係書類の記録,管理及び内部確認等を行うため別途取扱要領を定めること
とされている。
イ上記アを受けて,B元官房長官は,平成20年9月24日,内閣官房報
償費の厳正かつ効果的な執行を確保するため,アの取扱要領として「内閣
官房報償費取扱要領」(乙3)を定めた。同取扱要領においては,内閣官
房報償費の取扱いについて,以下のとおり定められている。
(ア)出納管理の記録
内閣官房報償費の出納にあたっては,別記様式1(別紙4参照)に定
めるところにより内閣官房報償費の受領時期及び受領金額並びに内閣官
房報償費の支払時期,支払金額及び目的類型等を記録した記録簿(出納
管理簿)を整備するものとする。この出納管理に係る事務は内閣官房長
官が指名した者に行わせることとし,内閣官房長官自らが定期的に出納
管理簿の記録の確認にあたるものとする。
(イ)内部確認の実施
内閣官房長官は,内閣官房内閣総務官室の職員(上記(ア)により指名
されている者を除く。)のうちから指名した者に,出納管理簿が適正に
記録されているかどうかについて毎年度末(内閣官房長官が異動する場
合にあっては,その時)確認を行わせるものとする。
(ウ)支払事務の管理
内閣官房長官が自ら出納管理等の実施事務にあたる内閣官房報償費の
支払に関しては別記様式2(別紙2参照)により,また内閣官房長官が
指名した事務補助者をして出納管理等の実施事務にあたらせる内閣官房
報償費の支払に関しては別記様式3(別紙3参照)により,それぞれ管
理するものとする。
(エ)支払関係書類の保管
内閣官房報償費の支払関係書類のうち別記様式1ないし3については,
内閣官房長官が指名した事務補助者をして保管させるものとし,別記様
式1ないし3以外の内閣官房報償費の支払関係書類等については,内閣
官房長官が保管を行うものとする。
ウまた,B元官房長官は,平成21年4月1日,同年度の内閣官房報償費
の基本的な方針として,「内閣官房報償費の執行にあたっての基本的な方
針」(乙2)を決定し,内閣官房報償費の執行は,①政策推進費(施策の
円滑かつ効果的な推進のため,内閣官房長官としての高度な政策的判断に
より,機動的に使用することが必要な経費),②調査情報対策費(施策の
円滑かつ効果的な推進のため,その時々の状況に応じ必要な情報を得るた
めに必要な経費),③活動関係費(上記①及び②を行うにあたり,これら
の活動が円滑に行われ,所期の目的が達成されるよう,これらを支援する
ために必要な経費)の3つの目的類型ごとに,それぞれの目的に照らして
行うものとする旨,さらに,内閣官房報償費は,国の機密保持上,その使
途等を明らかにすることが適当でない性格の経費であるということに鑑み,
これまでの実績を踏まえながら更に吟味し,真にその経費の性格に適した
ものに限定して使用するものとする旨を明らかにした(乙2)。
(3)内閣官房報償費の目的類型の内容と具体的使途(全体につき乙2,3,
12ないし14,20,証人A)
ア政策推進費
政策推進費は,施策の円滑かつ効率的な推進のため,内閣官房長官とし
ての高度な政策的判断により,機動的に使用することが必要な経費であり,
内閣の重要政策(内政,外政の別を問わない。)の企画立案及び総合調整
等に資するために使用される。具体的には,内閣官房長官が,内閣の重要
政策の関係者等に対し,非公式に交渉や協力依頼等の活動を行う際,当該
関係者等に対し合意や協力を得るために支払う対価や,情報の収集調査等
のために支払う対価等に使用される。
政策推進費は,内閣官房長官が,国庫から支出された内閣官房報償費か
ら政策推進費として使用する額を区分した上で(政策推進費の繰入れ),
自ら出納管理を行い,直接相手方に支払うこととされている。
イ調査情報対策費
調査情報対策費は,施策の円滑かつ効率的な推進のため,その時々の状
況に応じ必要な情報を得るために必要とされる経費であって,情報収集等
の対価や,会合経費等として使用される。
調査情報対策費は,内閣官房長官が事務補助者をしてその出納管理に当
たらせることとされている。
ウ活動関係費
活動関係費は,政策推進,情報収集等の活動を行うに当たり,これらの
活動が円滑に行われ,所期の目的が達成されるよう,これらを支援するた
めに必要な経費であり,具体的には,内閣官房長官の重要政策の関係者等
に対する協力依頼・交渉や情報収集等の活動を行うに際して必要となる交
通費等や会合の経費(調査情報対策費に係る会合の経費以外のもの),当
該活動の相手方等に交付する活動経費,謝礼,慶弔費,贈答品の購入費用
のほか,振込手数料等内閣官房報償費の支払関係の事務を遂行するために
必要な費用等に使用されている。
活動関係費は,内閣官房長官が事務補助者をして出納管理に当たらせる
こととされている。
(4)本件対象文書について(全体につき乙2,3,12ないし14,20,
証人A)
ア領収書等
領収書等は,内閣官房報償費の支払の相手方から交付された領収書,請
求書及び受領書である。なお,政策推進費は,内閣官房長官として高度な
政策的判断により機動的に使用することが必要な経費であることから,政
策推進費に係る領収書等が存在するものもあれば,存在しないものもある。
領収書等は,内閣官房報償費の支出ごとに作成されるものであり,その
様式は作成者により様々であるが,領収日等の日付,あて名,金額,内閣
官房報償費を受領した相手方の氏名ないし名称(情報提供者ないし協力者
の氏名,会合場所の業者名,交通事業者名等)等が記録されている。
イ政策推進費受払簿
(ア)政策推進費受払簿は,内閣官房長官が政策推進費の繰入れを行う都
度並びに会計年度末及び内閣官房長官が交代する際に作成される。
(イ)政策推進費受払簿の様式は,別紙2のとおりである。政策推進費受
払簿には,文書名(政策推進費受払簿)のほか,作成日付(①),金額
(前回残額(②),前回から今回までの支払額(③),今回繰入前の残
額(④),今回繰入額(⑤)及び現在額計(⑥))が記録され,取扱責
任者(内閣官房長官)の記名押印(⑦),確認を行った事務補助者の記
名押印(⑧)がされている。
ウ支払決定書
(ア)支払決定書は,調査情報対策費及び活動関係費を支出する際,取扱
責任者である内閣官房長官が,調査情報対策費又は活動関係費の1件又
は複数件の支払に係る支払決定を行うために作成する文書である。
調査情報対策費及び活動関係費の出納管理に当たっている事務補助者
は,当該費用を支払う相手方(役務提供者等)から提出された領収書等
を基に支払決定書を作成し,内閣官房長官の支払決定の決裁を受けた上
で,これに基づき,役務提供者等に対する支払をする。
(イ)支払決定書の様式は別紙3のとおりである。支払決定書には,文書
名(支払決定書)のほか,作成日付(支払決定の日付)(①),「下記
の金額の支払を要する。」旨の文言,金額(複数の支払を処理する場合
はその合計額)(②),支払目的(調査情報対策費・活動関係費の別の
ほか,より個別具体的な使途についても記録されている。なお,複数の
支払に係る支払決定については,代表的なものの使途が記録されてい
る。)(③),支払相手方等の氏名ないし名称(なお,複数の支払に係
る決定の場合には,代表として1つのみ記録されることもある。)
(④),取扱責任者である内閣官房長官の記名押印(⑤),支払及び確
認を行った日付,事務補助者の記名押印(⑥)等が記録されている。
エ出納管理簿
(ア)出納管理簿は,内閣官房報償費全体の出納管理のために,月ごとの
内閣官房報償費の出納の状況をまとめたもので,更に当該年度に係る累
計額を記録して,当該年度等における内閣官房報償費全体を一覧するこ
とができるように作成された文書である。出納管理簿は,内閣官房報償
費の取扱責任者である内閣官房長官が指名した事務補助者が作成するこ
ととされており,内閣官房長官は,自ら記録の確認を行うほか,内閣官
房内閣総務官室の職員のうちから指名した者をして,適正に記録されて
いるかについて確認を行わせることとされている。
(イ)出納管理簿の様式は,別紙4のとおりである。出納管理簿には,文
書名(内閣官房報償費出納管理簿)の記録のほか,内閣官房報償費の出
納について作成された一覧表が記録されており,当該一覧表には,「年
月日」(①),「摘要(使用目的等)」(②),「受領額」(③),
「支払額」(④),「残額」(⑤),「支払相手方等」(⑥)の各項目
がある。また,月分計(その月の受領額,支払額の各合計額)(⑦),
累計(その年度の受領額,支払額の各累計額及び年度末における残額)
(⑧),内閣官房長官が上記⑦,⑧について確認をした趣旨の押印
(⑨),年度末及び取扱責任者である内閣官房長官の異動があったとき
は,内部確認のため,確認に立ち会った者及び上記の指名された確認者
の各記名押印(⑩)が記録されている。
(ウ)出納管理簿は,内閣官房報償費の出納がある都度記録されるが,具
体的には,(a)国庫からの内閣官房報償費の支出(受領)があった際,
(b)内閣官房長官が内閣官房報償費から政策推進費として使用する額を
区分した際(政策推進費の繰入れの際),(c)調査情報対策費及び活動
関係費の支払決定があった際に,それぞれ対応する一覧表の各項目への
記録がされることになる。これらの項目は,内閣官房長官から支出負担
行為担当官である内閣官房会計担当内閣参事官に対して提出される請求
書(前記前提事実(1)イ),政策推進費受払簿及び支払決定書に基づい
て記録されるため,基本的にこれら文書に記録された情報がそのまま記
録されている。
具体的には,上記(a)の際には,「年月日」欄に国庫から内閣官房報
償費の支出(受領)があった年月日を,「摘要(使用目的等)」欄に
「入金」を,「受領額」欄に入金額を,それぞれ記録する。
上記(b)の際には,「年月日」欄に政策推進費受払簿の作成年月日を,
「摘要(使用目的等)」欄に「政策推進費」を,「支払額」欄に政策推
進費の繰入額を,「残額」欄に残額を,それぞれ記録する。
上記(c)の際には,「年月日」欄に支払決定日を,「摘要(使用目
的)」欄には調査情報対策費・活動関係費の別のほか,より個別具体的
な使途を(なお,複数の支払に係る支払決定については,支払決定書と
同様,そのうち代表的なものについての使途が記録されている。),
「支払額」欄に支払決定額を,「残額」欄に残額を,「支払相手方等」
欄には支払相手方の氏名ないし名称を,それぞれ記録する(なお,複数
の支払に係る支払決定書が作成されている場合には,支払決定書と同様,
そのうち1人又は複数の氏名が記録されている。)。また,支払相手方
等の欄には「(注)本欄は記載した場合,支障があると思われる場合は
省略することができる」との注記(本件注記)がある。
オ報償費支払明細書
(ア)報償費支払明細書は,月ごとに,内閣官房報償費の支出を目的類型
別に分類して支出額を記録してまとめたものである。内閣官房報償費に
ついては,その特殊な性質に鑑み,会計検査院の検査を受けるものの計
算証明に関し,計算証明規則11条に基づき,特別の事情があるとして,
同規則の規定とは異なる取扱いとして,報償費支払明細書を会計検査院
に提出すれば,内閣官房報償費に係る支払相手方から提出された領収書
等の証拠書類については,会計検査院から要求があった場合に提出が可
能となるように証明責任者において保管することとする計算証明が認め
られている。
(イ)報償費支払明細書の様式は,別紙5のとおりである。報償費支払明
細書には,文書名((報償費)支払明細書),支払明細書を提出した日
付に加え,前月繰越額,本月受入額,本月支払額,翌月繰越額の各記録
(別紙5の様式の④の部分。以下「支払明細書繰越記録部分」とい
う。),取扱責任者である内閣官房長官の氏名が記録されているほか,
政策推進費,調査情報対策費及び活動関係費の各支出に関する一覧表が
記録されている。一覧表には,「支払年月日」(①),「支払金額」
(②),「使用目的」(目的類型別の区分)(③),「取扱者名」,
「備考」及び支払金額について「合計額」の項目が設けられており,こ
れらの各項目については,基本的には政策推進費受払簿と支払決定書に
記録された情報が転記されており,具体的には,一覧表における「支払
年月日」欄には,政策推進費受払簿及び支払決定書に記録された年月日
が,「使用目的」欄には政策推進費,調査情報対策費及び活動関係費の
別が記録されているが,支払決定書と異なり,調査情報対策費及び活動
関係費の場合,「使用目的」欄には具体的な使途等の記録はなく,また,
支払相手方等の氏名ないし名称の記録もない。
4個別的検討
本件対象文書は,①領収書等,②政策推進費受払簿,③支払決定書,④出納
管理簿,⑤報償費支払明細書からなるところ,これら各文書に記録されている
情報につき,それぞれ,情報公開法5条6号及び3号の不開示情報該当性が認
められるかどうかにつき,以下検討する。
(1)領収書等について
ア政策推進費に係る領収書等について
(ア)前記認定事実(3)アによれば,政策推進費は,内閣官房長官の高度
な政策的判断により機動的に用いることが予定された経費であり,具体
的には,内閣官房長官が非公式に関係者等に対する協力依頼や交渉等の
活動を行うに際して支払う対価や,情報の収集調査等を行うに際して支
払う対価などに使用されるものである。
前記認定事実(1)のとおり,内閣官房は,内閣の補助機関であるとと
もに,内閣の首長である内閣総理大臣の職務を直接補佐し,内政・外政
に関する重要政策等や行政各部の施策の統一等に関する企画・立案や総
合調整,内閣の重要政策に関する情報の収集調査に関する事務等,我が
国の政策運営に関する重要な事務を所掌するほか,危機管理に関する機
能を担っているところ,内閣官房長官は,内閣官房の事務を統轄するも
のであることから,上記のような内閣官房の所掌事務を的確に行うため,
その時々の政策的判断により,重要政策等の関係者に対し,非公式に協
力依頼や交渉等の働きかけを行い,重要事項につき関係者や外部の情報
提供者等からの情報収集を行うなど様々な活動が必要となると考えられ
る。そして,そのような活動を実効的に行うためには,当該関係者や情
報提供者等に対し,合意・協力や情報提供に対する相当の対価の支払を
するなど,一定の経費の支出が必要となることも十分考えられるのであ
って,そのような経費については,内閣官房長官が行う上記のような活
動の性質上,その時々の判断で機動的に使用することが必要となるため,
政策推進費は,前記認定事実(2)アのとおり,内閣官房長官が自ら出納
管理を行い,直接相手方に交付することとされ,これにより機動的かつ
柔軟な使用が可能とされているものと解される。
(イ)上記(ア)のような政策推進費の支払相手方となる非公式の協力依
頼・交渉等の相手方である関係者や情報提供者等は,内閣の重要政策等
といったその内容に照らしても,内閣官房長官と接触を行った事実や相
当の対価を受けた事実等が公にされないことを前提に,協力,交渉や情
報提供等に応じる場合が通常であると推認できる。しかるに,前記認定
事実(4)アによれば,政策推進費に係る領収書等には,その支払相手方
である上記関係者や情報提供者等の氏名ないし名称,支払われた金額,
領収日等の日付等が記録されていることから,これが開示された場合に
は,当該関係者等からの信頼が失われ,上記活動の目的である重要政策
等に関する事務の遂行に支障が生じるおそれがあると認められるととも
に,内閣官房の秘密保持に対する信頼が低下し,関係者等の協力や情報
提供等が受けにくくなるなど,今後内閣官房において行われる活動全般
に著しい支障が生じることも予想される。また,当該関係者や情報提供
者等に対する不正な働きかけが可能となり,それらの者の安全が害され
るおそれや,情報の漏洩等のおそれも認められる。
さらには,領収日等の日付,支払金額等の記録と支払相手方の氏名等
を照らし合わせることにより,協力依頼・交渉や情報提供の内容等を推
知することも相当程度可能になると考えられ,それにより,内閣の行う
施策の内容やその方針等そのものが推知され,ひいては我が国の政策活
動全般に関し,著しい支障が生じるおそれがある。とりわけ,政策推進
費は上記のように内閣官房長官が自ら出納を管理し,相手方に交付する
ものであることから,特に重要性・秘匿性の高い事項に使用されている
可能性があり,上記のような支障が生じるおそれがよりいっそう高いも
のといえる。
そして,政策推進費の使途や支払の相手方等が明らかとなるというこ
とになれば,これらの情報を明らかにしないことを前提とした内閣官房
の活動が不可能となり,内政・外政に関する重要政策等に係る企画・立
案や総合調整等を行う内閣官房の事務の遂行が阻害されることも予想さ
れる。
以上からすると,政策推進費に係る領収書等に記録されている情報は,
公にすることにより,内閣官房の行う事務の適正な遂行に支障を及ぼす
おそれがある情報であると認めることができ,情報公開法5条6号の不
開示情報に該当すると認められる。
(ウ)また,上記(ア)のとおり,内閣官房の所掌事務が内閣の政策運営全
般に関する事項に及んでいることからすれば,上記のような非公式に行
う協力依頼や交渉等の活動が,他国等との間における外交条件等の外交
関係に関するものである場合も当然あり得る。さらに,上記のとおり内
閣官房の所掌事務が我が国の政策運営に係る重要事項に及ぶことからす
れば,未だ外交問題とまでは認識されていないが,立案・実施等の際に
は他国等の利害にかかわり,その処理如何によっては外交問題に発展し
かねないような政策案件もあり得るところ,このような政策案件におい
て上記のような非公式に行う協力依頼や交渉等の活動がされている可能
性も否定できない。このような場合において,政策推進費に係る領収書
等が開示され,我が国が外交条件等の外交関係に関する事項や他国等の
利害に関係する事項(これらを併せて,以下「外交関係事項」とい
う。)につき,特定の者に対する働きかけを行ったり,情報収集等を行
ったりなどしたことが明らかとなれば,他国等との信頼関係が損なわれ,
我が国の安全が害され,又は他国等との交渉上の不利益が生じる可能性
があることも一概に否定することはできず,そのようなおそれがあると
した内閣官房内閣総務官の判断が合理性を持つものとして許容される限
度を超えるものとはいえないから,当該判断に裁量権の逸脱又はその濫
用があるとは認められない。
したがって,政策推進費に係る領収書等のうち外交関係事項に係るも
のについては,当該領収書等に記録されている情報は,公にすることに
より,国の安全が害されるおそれ,他国等との信頼関係が損なわれるお
それ又は他国等との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が
認めることにつき相当の理由があるということができ,情報公開法5条
3号の不開示情報に該当すると認められる。
(エ)以上からすれば,政策推進費に係る領収書等に記録された情報は,
情報公開法5条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情
報に該当すると認められる。
イ調査情報対策費に係る領収書等について
(ア)前記認定事実(3)イのとおり,調査情報対策費は,施策の円滑かつ
効率的な推進のため,その時々の状況に応じ必要な情報を得るために必
要とされる経費であり,情報収集等のための対価や会合経費として使用
されるものである。
(イ)情報収集等の対価に係る領収書等について
前記認定事実(4)アのとおり,情報収集等の対価として使用された調
査情報対策費に係る領収書等には,支払相手方である情報提供者等の氏
名ないし名称や支払った金額,領収日等の日付が記録されていることか
ら,これが開示された場合には,前記アの政策推進費に係る領収書等が
開示された場合と同様の支障が生じ得るものと認められる。したがって,
情報収集等の対価として使用された調査情報対策費に係る領収書等には,
情報公開法5条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情
報が記録されていると認めることができる。
(ウ)会合経費に係る領収書等について
前記認定事実(4)アのとおり,調査情報対策費に係る領収書等には,
支払の相手方である当該会合を行った会合場所の業者名が記録されてい
ることから,これが開示された場合には,当該会合場所が明らかになる。
その場合には,会合場所の業者等に働きかけを行うことによって,当該
会合に参加した者が特定されるおそれがあり,このときには前記アの政
策推進費に係る領収書等が開示された場合と同様の支障が生じ得るもの
と認められる。
また,そのような会合場所については,そこで行われる会合の内容の
重要性,機密性に鑑みれば,相当信用し得る場所や業者を選定している
と考えられるため,他の会合においても同じ場所や業者を反復して用い
る場合も多いものと推測される。そのため,当該会合場所が明らかにな
ることにより,内閣の行う内政・外政に関する重要政策や我が国の政策
運営等に関する情報を不正に入手しようとする者や重要政策の関係者・
情報提供者等に対する働きかけを行おうとする者が,当該会合場所に対
する監視,盗聴等を行ったり,会合場所の従業員等に対する不正な工作
を行ったりし,内閣官房が非公式に行っている活動に関する情報を入手
して悪用し,それを利用して内閣官房の行う事務を妨害するなどの可能
性がある。
さらに,上記のような活動,情報が外交関係事項につき生じたもので
ある場合には,前記のとおり,国の安全が害され,他国等との信頼関係
が損なわれ,又は交渉上不利益を被る可能性があることも一概に否定す
ることはできず,そのようなおそれがあるとした内閣官房内閣総務官の
判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えるものとはいえな
い。
以上からすると,会合の経費として使用された調査情報対策費に係る
領収書等に記録された情報が開示された場合,内閣官房の行う事務の適
正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認めることができ,また,当該
領収書等のうち外交関係事項に関するものについては,当該情報の開示
により,国の安全が害され,他国等との信頼関係が損なわれ,又は交渉
上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めたことにつき相当な
理由があると認めることができるから,当該領収書等には,情報公開法
5条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報が記録さ
れていると認めることができる。
(エ)小括
以上からすれば,調査情報対策費に係る領収書等に記録された情報は,
情報公開法5条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情
報に該当するということができる。
ウ活動関係費に係る領収書等について
(ア)前記認定事実(3)ウのとおり,活動関係費は,政策推進,情報収集
等の活動を行うに当たり,これらの活動が円滑に行われ,所期の目的が
達成されるよう,これらを支援するために必要な経費である。
(イ)交通費として使用されている場合
a前記認定事実(3)ウによれば,活動関係費には,内閣官房が非公式
の協力依頼や交渉,情報収集等の活動を行う際に,その相手方等の移
動手段として,タクシーやハイヤー等の交通事業者を利用した場合に,
その対価として支払われるものがあると認められる。
b前記認定事実(4)アのとおり,領収書等には,支払の相手方の氏名
ないし名称が記録されていることから,交通費として使用された活動
関係費に係る領収書等が開示された場合,当該交通事業者の名称が明
らかになる。そして,内閣官房が内閣の重要政策等について行う非公
式の協力依頼や交渉,情報収集等の活動を行うに際してタクシーやハ
イヤー等の交通事業者が利用された場合には,当該交通事業者の従業
員等に対する働きかけにより,当該交通事業者の利用者の氏名等が明
らかになるおそれがあるというべきである。また,当該交通事業者が
明らかになることにより,内閣の行う政策等に関する情報を不正に入
手しようとする者や,重要政策等の関係者や情報提供者等に働きかけ
を行おうとする者が,当該交通事業者に接触し,内閣官房が非公式に
行っている活動に関する情報を入手して悪用したり,それを利用して
内閣官房の行う事務を妨害したりする可能性がある。そして,内閣官
房が内閣の重要政策等について行う非公式の協力依頼や交渉,情報収
集等の活動を行うに際して利用するタクシーやハイヤー等の交通事業
者については,特に信用することができる交通事業者を利用するもの
と推認されるところ,以後当該交通事業者を利用する際,情報の機密
性の確保や関係者の安全確保等にも不安が生じることが考えられ,こ
れにより,内閣官房の行う事業の遂行に支障が生じるおそれがある。
また,上記のような事態が外交関係事項につき生じたものである場
合には,他国等との信頼関係が破壊されたり,安全保障上の問題が生
じ,国の安全が害されたり,外交関係上の不利益を被ったりする可能
性も一概に否定できず,そのようなおそれがあるとした内閣官房内閣
総務官の判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えるもの
とはいえない。
c(a)もっとも,別紙1交通事業者目録記載の交通事業者が経営する
公共交通機関(以下「本件公共交通機関」という。)に関する交通
費の領収書等(ただし,領収書等に利用者の氏名ないし名称が記録
されていないものに限る。以下同じ。)については,別途の考慮が
必要である。すなわち,本件公共交通機関は不特定多数の者が利用
するという特質を有していることに照らすと,本件公共交通機関に
係る領収書等が開示されたとしても,誰が利用したかを特定される
おそれは抽象的なものにとどまるというほかない(第三者が当該本
件公共交通機関の従業員等に対する不正な働きかけをしたとしても,
当該領収書等に係る利用者の現実的な特定方法は想定し難い。)。
なお,領収書等が開示された場合,当該本件公共交通機関の名称そ
れ自体により,あるいは当該領収書等に利用区間等や領収書等の発
行場所が記録されているものについてはかかる情報が明らかになる
ことにより,内閣官房報償費を用いた本件公共交通機関の利用区間
や利用地域が判明する可能性はある。しかし,このような利用区間
や利用地域が判明したからといって,当該内閣官房報償費が支出さ
れた本件公共交通機関の利用者を特定することは,やはり想定し難
い。
そして,本件公共交通機関の交通費に係る領収書等が開示され,
当該支出に係る利用区間や利用地域が判明した場合に,さらにその
他の情報と総合的に考慮したとしても,いかなる内政上・外政上の
重要政策等について内閣官房報償費が用いられたかが推知されるも
のとはいえない。仮に,利用地域が判明したことにより,当該地域
に関する内政上・外政上の重要政策等について内閣官房報償費が用
いられたのではないかという憶測が生じることがあったとしても,
かかる憶測のみによって,関係者等の協力が得にくくなるなどして
内閣官房の行う事務の遂行等に具体的な支障が生じるおそれがある
とは認め難い。
以上からすると,本件公共交通機関に関する交通費の領収書等を
開示した場合,内閣官房の行う事務の適正な遂行に支障が生じる具
体的なおそれがあると認めることはできないから,上記領収書等に
記録された情報は,情報公開法5条6号の不開示情報に該当すると
は認められない。
(b)上記(a)のとおり,本件公共交通機関に関する交通費の領収書等
が開示されたとしても,具体的な使途や相手方等が特定されるおそ
れがあるとは考え難いことからすれば,これを開示することにより,
国の安全が害されるおそれ,他国等との信頼関係が損なわれるおそ
れ又は他国等との交渉上不利益が被るおそれ等があるとも考え難い。
そうであれば,そのようなおそれがあるとした内閣官房内閣総務官
の判断は合理性を持つものとして許容される限度を超えるものであ
り,裁量権の逸脱又はその濫用があるというべきである。したがっ
て,上記領収書等に記録された情報は,情報公開法5条3号の不開
示情報に該当するとは認められない。
(ウ)会合費用として使用されている場合
a前記認定事実(3)ウのとおり,活動関係費には,政策推進のために
開催される会合(調査情報対策費を使用してされる会合を除く。)の
経費として使用されるものがあると認められる。かかる活動関係費は,
情報提供者や協力者等に特定の事案に関する内々の情報提供や関係方
面への働きかけ等を依頼するため,また,平素からこうした者との信
頼関係を維持・強化するため,その者と会合を開催する場合の費用と
して使用されるものと解される。
bそして,前記認定事実(4)アのとおり領収書等には支払相手方の氏
名ないし名称が記録されていることから,会合費用に使用された活動
関係費に係る領収書等が開示されると,その支払先である会合を行っ
た会合場所が明らかになり,上記イ(ウ)の会合経費に使用される調査
情報対策費に係る領収書等が開示された場合と同様の支障が生じ得る
ものと認められる。
(エ)活動経費,謝礼,慶弔費,贈答品の購入費用等として使用されてい
る場合
a前記認定事実(3)ウのような活動関係費の内容に照らせば,活動関
係費には,内閣官房が非公式に行う協力依頼や交渉,情報収集等の活
動の相手方に渡す活動経費,謝礼,慶弔費等の費用,また,当該相手
方に渡す贈答品の購入費用として使用されるものがあると認められる。
これは,情報提供者や協力者等に特定の事案に関する内々の情報提供
や関係方面への働きかけ等を依頼するため,また,平素からこうした
者との信頼関係を維持・強化するため,その者に贈答品や謝礼,また
香典等の慶弔費を渡す場合の費用として使用されるものと解される。
bそして,これらの費用に使用された活動関係費に係る領収書等が開
示された場合,前記認定事実(4)アのとおり,領収書等には,支払相
手方の氏名ないし名称が記録されていることから,活動経費,謝礼及
び慶弔費に係る領収書等については,その支払相手方である協力依頼
及び交渉の相手方,情報提供者等の氏名ないし名称が明らかになり,
前記ア及びイで述べた政策推進費及び情報収集の対価として使用され
た調査情報対策費に係る領収書等が開示された場合と同様の支障が生
じ得るものと認められる。
cまた,贈答品の購入費用として使用された活動関係費に係る領収書
等に記録された情報が開示された場合には,支払相手方である贈答品
の購入先の事業者や店舗等が明らかになることになる。贈答品を贈る
相手が我が国の内外の重要政策や外交関係事項の関係者や重要情報の
提供者等であると推認できることからすると,特に信頼の置ける事業
者が選定されていると考えられるが,そのような贈答品の購入先の事
業者等については,贈答品を購入するに際し,贈り先の相手方の住所
や氏名等の個人情報等を伝える必要がある場合があると考えられ,ま
た,本件不開示決定をした当時の内閣官房内閣総務官であったAによ
れば,贈答品を相手方との会合場所に直接届けてもらう場合もあると
いうことであるから(乙13),当該事業者等が明らかになれば,内
閣の行う内政・外政に関する重要政策や我が国の政策運営等に関する
情報を不正に入手しようとする者や重要政策の関係者・情報提供者等
に対する働きかけを行おうとする者が,当該事業者等に対する接触を
行ったり,当該事業者等の従業員等に対する不正な工作を行ったりし,
内閣官房が非公式に行っている活動に関する情報等を入手して悪用し,
それを利用して内閣官房の行う事務を妨害するなどの可能性があり,
内閣官房の行う事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認め
られる。そのような事態が外交関係事項につき生じたものである場合
には,他国等との信頼関係が破壊されたり,安全保障上の問題が生じ,
国の安全が害されたり,外交関係上の不利益を被ったりする可能性も
一概に否定できず,そのようなおそれがあるとした内閣官房内閣総務
官の判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えるものとは
いえない。
(オ)内閣官房報償費の支払関係費用として使用されている場合
a前記認定事実(3)ウのとおり,活動関係費には,振込手数料等,内
閣官房報償費の支払関係の事務を遂行するために必要な費用等の経費
に使用されているものがあると認められる。
b支払関係費用として使用された活動関係費に係る領収書等が開示さ
れた場合,内閣官房報償費の支払を依頼した金融機関の名称等の情報
が明らかになる。このような内閣官房報償費の支払事務等を行った金
融機関は,支払われた内閣官房報償費の個別の振込先やその金額等に
関する情報を有しているため,当該金融機関の名称等の情報が明らか
になれば,内閣の行う内政・外政に関する重要政策や我が国の政策運
営等に関する情報を不正に入手しようとする者や,重要政策の関係
者・情報提供者等に働きかけを行おうとする者等が,当該金融機関の
従業員等に接触したり,不正な工作を行ったりすることにより,内閣
官房報償費の支払相手方,具体的には内閣官房長官が重要政策等に関
する協力依頼や交渉等を行う関係者,情報提供者,会合場所等の情報
を入手して悪用し,それを利用して内閣官房の行う事務を妨害するな
どの可能性があり,内閣官房の行う事務の適正な遂行に支障を及ぼす
おそれがあると認められる。
また,上記のような事態が外交関係事項につき生じた場合には,他
国等との信頼関係が破壊されたり,安全保障上の問題が生じ,国の安
全が害されたり,外交関係上の不利益を被ったりする可能性も一概に
否定することができず,そのようなおそれがあるとした内閣官房内閣
総務官の判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えるもの
とはいえない。
(カ)小括
以上からすれば,活動関係費に係る領収書等のうち,本件公共交通機
関に係る交通費に係るもの(ただし,利用者の氏名ないし名称が記録さ
れているものを除く。)に記録された情報は,情報公開法5条6号及び
3号の不開示情報に該当すると認めることはできない。
他方,その余の活動関係費に係る領収書等に記録された情報は,いず
れも,公にすることにより内閣官房において行う我が国の重要政策等に
関する事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる。ま
た,上記領収書等のうち,外交関係事項に関するものについて,これを
公にすることにより,国の安全が害され,他国等との信頼関係が損なわ
れ,又は交渉上不利益を被るおそれがあるとした内閣官房内閣総務官の
判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えるものとはいえず,
その判断には相当な理由があると認められる。したがって,これら情報
は,情報公開法5条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開
示情報に該当すると認められる。
エ不開示情報該当性に係る原告の主張について
原告は,調査情報対策費のうち会合としての支出や,活動関係費のうち
会合や交通費,贈答品等の購入費,支払関係費用としての支出といった,
いわゆる情報の提供者やそれに準じる者に直接支出するのではなく,それ
以外の者に間接的に支出する「間接的支払類型」の場合については,これ
を全て開示しても,情報公開法5条6号にいう「支障を及ぼすおそれ」
(具体的おそれ)が生じ得ない旨を主張する。しかし,内閣官房報償費が
用いられるのは内政上・外政上の重要政策に関するものであることを踏ま
えると,不正手段を用いてでも,我が国の政府の情報の収集等を行おうと
する者が存在することは優に推認できるのであるから,不正行為等が行わ
れるおそれというのは抽象的おそれにとどまらないというべきであって,
原告の主張を容れることはできない。また,原告は,内閣官房長官等が会
合に利用する業者や振込に利用する金融機関などが顧客に関する情報を漏
洩すると以後当該業者等は利用されなくなることに照らすと,不正工作に
より情報が漏洩するなど考えられない旨を主張する。しかし,企業が従業
員等の教育等に意を用いていてもなお企業の従業員等による情報漏洩等の
事案が散見されることは公知の事実であって,内閣官房報償費の支払の相
手方である業者等の従業員等が不正工作を受けて情報を漏洩するおそれが
あることは優に認められるから,原告の主張は理由がない。
オ部分開示の可否について
原告は,領収書等については,開示した場合に支障が生じるのは相手方
の氏名等の記録された部分のみであるから,当該部分を除外して情報公開
法6条1項に基づく部分開示をすべきである旨主張する。
しかしながら,前記2のとおり,同項に基づく部分開示は,独立した一
体的な情報を単位として行うものであって,独立した一体的な情報を細分
化して部分開示を行うことを行政機関の長に対して義務付けることはでき
ない。
そうであるところ,前記認定事実(4)アのとおり,領収書等は,内閣官
房報償費を支出するごとに作成されるものであり,様式は様々であるもの
の,領収日等の日付,あて名,金額,受領した相手方氏名等の記録がされ
ていると認められる。このような領収書等は,概ね,誰が,誰から,いつ,
いくらの金員の支払を受けたのか(領収書及び受領書の場合),誰が,誰
に対し,いつ,いくらの金員の支払を求めるのか(請求書の場合)といっ
た事項を明らかにするものであると解されるから,1通の領収書等に記録
された情報は,金員の受領又は請求という社会的に有意な1つの事実に関
連した情報であって,社会通念上独立した一体的な情報を成すものという
ことができる。したがって,各支払に対応する領収書等に記録された情報
のうち,相手方氏名等の記録部分等を除外して,その他の部分のみ開示す
べきものということはできないから,原告の上記主張は採用することがで
きない。
カ小括
以上の検討によれば,領収書等に記録されている情報のうち,本件公共
交通機関の利用に係る交通費の支払に関する領収書等(ただし,利用者の
氏名ないし名称が記録されているものを除く。)に記録された情報は,情
報公開法5条6号及び3号の不開示情報に該当すると認めることはできな
いから,本件不開示決定部分のうち上記領収書等を不開示とした部分は違
法である。これに対し,その余の領収書等に記録されている情報は,いず
れも同条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報に該当
すると認められるから,本件不開示決定部分のうち,上記領収書等を不開
示とした部分は適法である。
(2)政策推進費受払簿について
ア情報公開法5条6号該当性について
(ア)前記認定事実(4)イのとおり,政策推進費受払簿は,政策推進費の
出納に関し,内閣官房長官が,国庫から支出された内閣官房報償費から,
政策推進費として使用する額を区分(政策推進費の繰入れ)した際や,
各年度末及び内閣官房長官が交代する際に作成される文書であり,そこ
に記録される情報は,前回繰入後の政策推進費の残額,前回繰入時から
今回までの政策推進費の支払額,今回の繰入前の政策推進費の残額,今
回の繰入額,今回繰入後の政策推進費の合計額等のみであり,具体的な
政策推進費の使途や,支払相手方の名称等は記録されず,また,そこに
記録されている日付は,政策推進費受払簿の作成年月日であり,政策推
進費の支払年月日を意味するものではないと認められる。
そうすると,政策推進費受払簿が開示された場合,前回繰入時から今
回繰入時までの一定期間内における政策推進費の支払合計額が明らかに
なるものの,それ以上に政策推進費の具体的使途や支払の相手方の氏名
等の情報が明らかになるものではないから,政策推進費受払簿を開示し
たとしても,内閣官房の行う事務の遂行等に支障を生じる具体的なおそ
れがあるとは認められない。
(イ)被告は,政策推進費受払簿に記録された情報が明らかになることで,
当該政策推進費の支出がされたと考えられる期間における内政・外政の
重要政策等を照らし合わせることにより,政策推進費の具体的使途や支
払相手方等が明らかになるおそれがある旨主張する。
しかしながら,上記のとおり,政策推進費受払簿の記録からは,具体
的使途や相手方等の記録はもちろん,個別の支払の行われた年月日やそ
の金額も明らかにはならないのであって,政策推進費受払簿を開示して
も,政策推進費の具体的使途や相手方等が推知される具体的なおそれが
あるとは認め難いから,被告の上記主張は採用することができない。な
お,被告は,政策推進費受払簿を開示することにより個々の繰入額が判
明することのほか,繰入後さしたる期間を置かずに当該繰入額が支払わ
れる場合もあり得ることに加え,本件対象期間がわずか2週間余りとい
う短期間であることを踏まえると,政策推進費の個々の支払日と支払額
が事実上特定ないし推測される蓋然性は相当高い旨を指摘する。しかし,
平成21年9月1日に請求された内閣官房報償費は合計2億5000万
円と相当の高額に及んでいること(前記前提事実(2)イ)に照らすと,
上記2億5000万円から政策推進費に繰り入れられた金額も相当額に
達し,また政策推進費からの個別の支払も相当数に及ぶものと推認でき
るのであって,政策推進費からの特定の支払について支払日と支払額が
事実上特定ないし推測される蓋然性があるとは認められない。
また,被告は,政策推進費受払簿を開示することにより,政策推進費
の具体的使途や支払の相手方等について,当時の内政や外政の状況と結
びつけて,事実とかかわりなく様々な推測や憶測が飛び交い,これによ
り,関係者の協力が得にくくなったり,国民からの信頼が失われたりし
て,内閣官房の行う事務の遂行に支障をもたらすおそれがある旨主張す
る。しかしながら,政策推進費の具体的使途や支払相手方等が明らかに
されない以上,被告主張のような推測や憶測のみによって,関係者等の
協力が得にくくなるなどして内閣官房の行う事務の遂行等に具体的な支
障が生じるおそれがあるとは認め難い。また,内閣官房を含めた政府は,
その活動に関し,当然国民やマスコミ等からの注目を受ける立場にある
ことも考慮すれば,当該推測や憶測のみで内閣官房の行う事務の遂行等
に具体的な支障が生じるおそれがあると認めることはできず,被告の上
記主張は採用することができない。
(ウ)以上からすれば,政策推進費受払簿を開示した場合,内閣官房の行
う事務の適正な遂行につき支障が生じる具体的なおそれがあると認める
ことはできないから,政策推進費受払簿に記録された情報は,情報公開
法5条6号の不開示情報に該当するとは認められない。
イ情報公開法5条3号該当性について
上記のとおり,政策推進費受払簿に記録された情報が開示されたとして
も,一定期間内における支払合計額が明らかになるのみで,具体的な使途
や相手方等が特定されるおそれがあるとは考え難いことからすれば,これ
を開示することにより,国の安全が害されるおそれ,他国等との信頼関係
が損なわれるおそれ又は他国等との交渉上不利益を被るおそれ等があると
は考え難いから,そのようなおそれがあるとした内閣官房内閣総務官の判
断は合理性を持つものとして許容される限度を超えるものであり,裁量権
の逸脱又はその濫用があるというべきである。したがって,政策推進費受
払簿に記録された情報は,情報公開法5条3号の不開示情報に該当すると
は認められない。
ウ小括
以上の検討によれば,政策推進費受払簿に記録された情報は,情報公開
法5条6号及び3号の不開示情報に該当すると認めることはできないから,
本件不開示決定部分のうち,政策推進費受払簿を不開示とした部分は違法
である。
(3)支払決定書について
ア不開示情報該当性について
前記認定事実(4)ウのとおり,支払決定書は,調査情報対策費及び活動
関係費についての支払決定を行う際に作成される文書であり,支払相手方
等の氏名ないし名称(複数の支払決定をしている場合には,1つ又は複数
のものが記録されている。)が記録されており,また,支払目的として,
調査情報対策費・活動関係費の別のほか,個別具体的な使途についての記
録がされていると認められる。
上記のような支払決定書の性格やその記載内容に鑑みれば,支払決定書
のうち本件公共交通機関の利用に係る交通費に関するもの(ただし,利用
者の氏名ないし名称が記録されているものを除く。)については,前記
(1)ウ(イ)cで検討したのと同様に,情報公開法5条6号及び3号の不開
示情報に該当するとは認められず,それ以外の支払決定書については,こ
れが開示された場合,前記(1)イ及びウで検討した調査情報対策費及び活
動関係費に係る領収書等が開示された場合と同様の支障が生じると認めら
れるから,同条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報
に該当すると認められる。
イ部分開示の可否について
原告は,支払決定書については,不開示情報が記録されているのは相手
方の氏名等の記録された部分のみであるから,当該部分を除外して情報公
開法6条1項に基づく部分開示をすべきである旨主張する。
しかしながら,前記認定事実(4)ウのとおり,支払決定書には,「支払
決定書」との文書名,支払決定の日付,金額,支払目的,支払相手方等,
取扱責任者である内閣官房長官の記名押印,支払及び確認を行った日付,
事務補助者の記名押印等が記録されていると認められるところ,これら支
払決定書の記録内容に加え,支払決定書が調査情報対策費及び活動関係費
の支払決定のために作成されるものであることやその体裁(別紙3参照)
に照らせば,支払決定書は,概ね,調査情報対策費又は活動関係費の支払
につき,いつ,誰に対する,何について,いくらの支払決定を行ったかと
いう事項を明らかにするものであるといえるから,1通の支払決定書に記
録された情報は,支払決定という社会的に有意な1つの事実に関連した情
報であって,社会通念上独立した一体的な情報を成すものということがで
きる。
したがって,各支払決定に対応する支払決定書に記録された情報のうち,
相手方氏名等の記録部分等を除外して,その他の部分のみ開示すべきもの
ということはできず,上記原告の主張は採用することができない。
ウ小括
以上の検討によれば,支払決定書に記録されている情報のうち本件公共
交通機関の利用に係る交通費の支払に関するもの(ただし,利用者の氏名
ないし名称が記録されているものを除く。)に記録された情報については,
情報公開法5条6号及び3号の不開示情報に該当すると認めることはでき
ないから,本件不開示決定部分のうち上記支払決定書を不開示とした部分
は違法である。これに対し,その余の支払決定書に記録されている情報に
ついては,いずれも同条6号及び3号(外交関係事項に関するもの)の不
開示情報に該当すると認められるから,本件不開示決定部分のうち,上記
支払決定書を不開示とした部分は適法である。
(4)出納管理簿について
ア不開示情報該当性について
(ア)前記認定事実(4)エのとおり,出納管理簿は,内閣官房報償費の出
納に関する情報を一覧表にしてまとめたものであり,一覧表には,(a)
国庫からの内閣官房報償費の支出(受領),(b)政策推進費の繰入れ,
(c)調査情報対策費及び活動関係費の支払決定がそれぞれあるごとに,
これらに係る内閣官房報償費の各出納についての「年月日」,「摘要
(使用目的等)」,「受領額」,「支払額」,「残額」,「支払相手方
等」の各項目の記録がされているほか(別紙4の様式の①から⑥までの
部分),月分計部分及び累計部分(各月ごとまたは年度当初から一定時
期までの報償費の受領額,支払額の各合計額等が記録された部分)並び
にそれらについての内閣官房長官の確認印(同様式の⑦から⑨までの部
分)があることが認められる。なお,出納管理簿には,年度末及び取扱
責任者の異動があった場合には,内部確認として一覧表の枠外に立会者
(事務補助者)及び確認者の記名押印がされている(別紙4の様式の⑩
の部分)。
(イ)まず,一覧表のうち上記(ア)(a)の国庫からの内閣官房報償費の支
出(受領)に係る各項目の記録については,前記認定事実(4)エによれ
ば,内閣官房長官から内閣官房会計担当内閣参事官に対して提出される
請求書に記録された情報と同様の情報が記録されているにすぎないもの
と認められる。そうすると,上記請求書は既に開示されているのである
から(甲5),上記のような情報が開示されても,内閣官房の事務に何
らかの支障が生じるとは認められない。また,そのような情報について,
他国等との関係で情報公開法5条3号に規定するようなおそれがあると
する内閣官房内閣総務官の判断は合理性を持つものとして許容される限
度を超えるものというべきであり,裁量権の逸脱又はその濫用がある。
したがって,上記情報が同条6号及び3号の不開示情報に該当するとは
認められない。
(ウ)次に,一覧表のうち上記(ア)(b)の政策推進費の繰入れに係る各項
目の記録については,前記認定事実(4)エのとおり,政策推進費受払簿
に記録された情報と同様の情報が記録されているにすぎないと認められ
る。そうすると,前記(2)のとおり,政策推進費受払簿に記録された情
報には情報公開法5条6号及び3号の不開示情報該当性が認められない
ことからすれば,出納管理簿の一覧表のうち政策推進費の繰入れに係る
各項目の記録部分についても同様に,同条6号及び3号の不開示情報該
当性は認められない。
(エ)一方,一覧表のうち上記(ア)(c)の調査情報対策費及び活動関係費
の支払決定に係る項目については,前記認定事実(4)エのとおり,「摘
要(使用目的等)」の欄には支払決定書と同様個別具体的な使途が記録
されており,「支払相手方等」の欄には支払決定書と同様支払相手方の
氏名ないし名称が記録されていると認めることができる。上記のような
調査情報対策費及び活動関係費の各支払決定に係る出納管理簿の記録内
容に鑑みれば,かかる出納管理簿のうち,活動関係費に係る部分の中で,
本件公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するものであって,支
払相手方等の欄に利用者の氏名ないし名称が記録されているものを除い
たものに記録された情報については,前記(1)ウ(イ)cで検討したのと
同様に,情報公開法5条6号及び3号の不開示情報に該当すると認める
ことはできない。他方,それ以外の上記(ア)(c)の調査情報対策費及び
活動関係費に係る部分に記録された情報については,これが開示された
場合,前記(1)イ及びウで検討した調査情報対策費及び活動関係費に係
る領収書等や前記(3)で検討した支払決定書が開示された場合と同様の
支障が生じると認められるから,同条6号及び3号(外交関係事項に関
するもの)の不開示情報に該当すると認められる。
この点につき,原告は,出納管理簿の調査情報対策費及び活動関係費
の「支払相手方等」欄には,「(注)本欄は記載した場合,支障がある
と思われる場合は省略することができる」との注記(本件注記)がある
ため,そこには,公になると不都合な相手方については,そもそも記録
されていないと考えられるから,記録されている支払相手方等の氏名な
いし名称が明らかになっても特に支障は生じない旨主張する。しかしな
がら,これまで出納管理簿が情報公開の対象として公に開示されるもの
として扱われていなかったことに照らせば,本件注記にいう「支障」と
は,公にされた場合の支障を意味するとは考えられない上,本件注記に
は「省略することができる」と記載されているにすぎず,実際に省略さ
れているとは限らない。実際にも,Aの大阪地方裁判所平成○年(行
ウ)第○号不開示決定処分取消請求事件(以下「別事件」という。)に
おける証言(乙14)によれば,支払相手方等の欄の記録を省略したも
のはなく,全てについて氏名が記録されているというのであり,公にし
ても支障の生じないもののみが記録されているということはできない。
また,仮に支払相手方等の欄が省略してある場合があったとしても,前
記のとおり「摘要(使用目的等)」の欄に具体的な使途が記録されてい
る以上,全体の記録からすれば,やはり上記のような支障が生じるもの
と認められ,いずれにしろ不開示情報該当性が認められるから,上記原
告の主張を採用することはできない。
(オ)このほか,一覧表のうち,月分計部分及び累計部分並びにそれぞれ
に対する内閣官房長官の確認印については,当該情報が開示されたとし
ても,各月における内閣官房報償費の支払合計額,年度当初から特定の
月の月末までの間の内閣官房報償費の支払合計額及び年度末における内
閣官房報償費の残額が明らかになるのみであり,それにより内閣官房報
償費の具体的使途や支払の相手方等が明らかになるわけではないから,
内閣官房の行う事務の遂行に支障が生じるとは認められず,また,他国
等との関係で情報公開法5条3号に規定するようなおそれがあるとした
内閣官房内閣総務官の判断は合理性を持つものとして許容される限度を
超えるものというべきであって,裁量権の逸脱又はその濫用があるとい
うべきであるから,当該情報について,同条6号及び3号の不開示情報
に該当するとは認められない。
これに対し,被告は,上記情報が明らかになることにより,当時の内
政・外政の状況や他の月における合計額等の情報と照らし合わせ,内閣
官房報償費の具体的な使途や支払相手方等が特定され,また特定されな
いにしても推測や憶測が飛び交い,これにより内閣官房の行う事業等に
つき支障が生じるおそれがある旨主張する。しかしながら,一定期間に
おける支払合計額が明らかになるのみで,その具体的な使途や相手方等
が特定される具体的なおそれがあるとは認められず,また,憶測や推測
が飛び交うことにより,内閣官房の行う事務に支障が生じる具体的なお
それがあるということもできないから,被告の上記主張は採用すること
ができない。さらに,被告は,本件対象期間は平成21年9月1日から
同月16日までと短期間であることから,この間の受領額,支払額の各
合計額を基に,各使用目的の類型や支払の特徴が分析されやすく,当時
生じていた内政・外政に係る事案との関係が比較的容易に特定ないし推
測される結果となる旨を指摘する。しかし,別紙4の様式に照らすと,
月分計欄において内閣官房報償費の目的類型別に集計をしていると認め
ることはできないのであって,月分計欄の情報が開示されると,受領額,
支払額の各合計額を基に,各使用目的の類型の分析が容易になし得ると
は認められないし,本件対象期間が16日間であることにより,受領額,
支払額の各合計額を基に支払の特徴が分析されやすくなる具体的な理由
を被告は何ら明らかにしていないことに照らすと,被告の指摘を容れる
ことはできない。
なお,一覧表の枠外の立会者(事務補助者)及び確認者の記名押印の
部分については,不開示情報が記録されていないことにつき争いはない。
イ部分開示の可否について
(ア)出納管理簿には,前記認定事実(4)エのとおり,一覧表の内閣官房
報償費に関する上記ア(ア)(a)から(c)までの出納に対応する情報が記録
された部分と,月分計部分及び累計部分並びにそれらに対する内閣官房
長官の確認印が記録されている部分がある。
aまず,内閣官房報償費に関する上記ア(ア)(a)から(c)までの各出納
に対応する出納管理簿の「年月日」,「摘要(使用目的等)」,「受
領額」,「支払額」,「残額」,「支払相手方等」の各項目の記録部
分については,その記録内容に加え,出納管理簿が内閣官房報償費の
出納を管理するために作成されるものであること及びその体裁(別紙
4参照)にも照らせば,概ね,内閣官房報償費の上記各出納について,
それぞれ,いつ,いくらの内閣官房報償費を,誰に対し,何の目的で
受領又は支出し,残額がいくらになったのかという事項を明らかにす
るものであると考えられるから,上記出納ごとに,これに対応する上
記の各項目の記録が,それぞれ内閣官房報償費の出納という社会的に
有意な1つの事実に関連した情報を形成しており,社会通念上それぞ
れ独立した一体的な情報を成すものということができる。
b次に,月分計部分及び累計部分については,前記認定事実(4)エの
とおり,各月における内閣官房報償費の受領額,支払額の各合計額
(別紙4の様式の⑦の部分),年度当初から一定時点までの内閣官房
報償費の受領額,支払額の各累計額とその時点における残額等の記録
(同様式の⑧の部分)及びそれぞれに対する内閣官房長官の確認印
(同様式の⑨の部分)があるが,これらの記録は,その体裁(別紙4
参照)にも照らせば,各月又は年度当初から特定の月の月末までに合
計いくらの内閣官房報償費を受け取り,支払を行ったか及びそれにつ
いて内閣官房長官が確認をしたという事実を明らかにするものと認め
られるから,各月ごとの月分計部分及びこれについての内閣官房長官
の確認印と,累計部分及びこれについての内閣官房長官の確認印が,
それぞれ社会的に有意な1つの事実に関連した情報を形成しており,
社会通念上独立した一体的な情報を成すものということができる。
cまた,出納管理簿には,年度末及び取扱責任者の異動があった場合
に一覧表の枠外に記録される立会者(事務補助者)及び確認者が記名
押印をする部分があり,これらが不開示情報に該当しないことに争い
はないところ,これらの部分は,独立した一体的な情報を成すものと
考えられる。
dこの点,被告は,出納管理簿を作成する趣旨目的が,内閣官房報償
費全体が適正に記録されているかどうかを確認するためであることに
照らすと,出納管理簿に記録されている国庫からの入金と政策推進費
への繰入れ,調査情報対策費及び活動関係費の各支払は,それぞれが
個別の記録として独立の意味を持つものではなく,これらの入出金の
相互の関係が矛盾なく記録されているかどうか,その月ごとの合計額,
年度ごとの累計額との整合性があるかどうかを確認する上で,全体と
して意味を持つにとどまるのであって,出納管理簿1通ごとが独立し
た一体的な情報であるというべきである旨を主張する。しかし,企業
会計においても家計においても,個別の入出金額の多寡やその目的,
実際の現金残高や預貯金残高の推移やこれらの現在残高を把握するこ
とは重要であると考えられているところ,内閣官房報償費についても
個別の入出金額の多寡やその目的,内閣官房長官の手元にある内閣官
房報償費の残高の把握の重要性については変わりないと推認できるの
であって,これらの情報を把握するのに出納管理簿は資するものと認
められる。そして,出納管理簿の一覧表部分の作成に当たっては,支
払ないし受領日ごとに順次,他の書類から転記して作成しているもの
と推認することができるから,たとい被告が指摘するように出納管理
簿を作成する主たる目的が,内閣官房報償費全体が適正に記録されて
いることを確認することにあるとしても,国庫からの入金に係る情報
(入金回数,年月日,受領額,残額),政策推進費からの繰入れに係
る情報(年月日,支払額,残額),調査情報対策費及び活動関係費の
支払に係る情報(使用目的の類型,年月日,支払額,残額,支払相手
方等),月分計に係る情報並びに累計に係る情報は,それぞれ独立し
た一体的な情報と認めるのが相当である。
(イ)そして,前記アで検討したとおり,出納管理簿に記録された情報に
ついては,一覧表の上記ア(ア)(c)の調査情報対策費及び活動関係費に
係る部分(ただし,活動関係費のうち本件公共交通機関の利用に係る交
通費の支払に関するものであって,支払相手方等の欄に利用者の氏名な
いし名称が記録されていないものは除く。)には情報公開法5条6号及
び3号(外交関係事項に関するもの)の不開示情報が記録されていると
認められるから,上記各部分の記録全てが一体として不開示情報に該当
する(なお,原告は,調査情報対策費及び活動関係費の各支払決定に係
る各項目のうち支払相手方等や具体的使途の記録部分を除いて部分開示
をすべきである旨主張するが,独立した一体的な情報を更に細分化して
部分開示することを求めるものであり,採用することができない。)。
一方,出納管理簿のその他の部分については不開示情報該当性が認めら
れないところ,出納管理簿の様式(別紙4参照)に照らせば,上記不開
示情報該当性が認められる部分については,他の部分と容易に区分して
除くことができ,かつ当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されて
いないと認めることはできない。以上からすれば,内閣官房内閣総務官
は,出納管理簿について,調査情報対策費及び活動関係費に係る部分
(ただし,活動関係費のうち,本件公共交通機関の利用に係る交通費
の支払に関するものであって,支払相手方等の欄に利用者の氏名ないし
名称が記録されていないものは除く。)を除いて,同法6条1項に基づ
く部分開示をすべき義務があったものと認められる。
ウ小括
以上の検討によれば,出納管理簿を不開示とする本件不開示決定部分の
うち,調査情報対策費及び活動関係費に係る部分(ただし,活動関係費
のうち,本件公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するものであ
って,支払相手方等の欄に利用者の氏名ないし名称が記録されていないも
のは除く。)については,いずれも情報公開法6号及び3号(外交関係事
項に関するもの)の不開示情報に該当すると認められるから,上記情報を
不開示とした部分は適法である。これに対し,出納管理簿を不開示とする
本件不開示決定部分のうち,その余の部分を不開示とした部分は違法であ
る。
(5)報償費支払明細書について
ア前記認定事実(4)オのとおり,報償費支払明細書には,内閣官房報償費
の各支払(政策推進費の繰入れ並びに調査情報対策費及び活動関係費の支
払決定)についてまとめた一覧表の記録部分と,支払明細書繰越記録部分
(前月繰越額,本月受入額,本月支払額,翌月繰越額等の記録部分)があ
ると認められる。
イ一覧表の記録部分について
(ア)政策推進費の繰入れの場合について
前記認定事実(4)オのとおり,一覧表のうち政策推進費の繰入れの場
合には,政策推進費受払簿に記録された情報が転記されており,政策推
進費受払簿作成(政策推進費繰入れ)の日付,当該繰入れに係る金額が
記録されるところ,前記(2)のとおり,政策推進費受払簿に記録された
情報については,情報公開法5条6号及び3号の不開示情報該当性が認
められないから,報償費支払明細書の政策推進費の繰入れに係る各項目
についても同様に,同条6号及び3号の不開示情報該当性は認められな
い。
(イ)調査情報対策費及び活動関係費の支払決定の場合について
a前記認定事実(4)オのとおり,一覧表のうち,使用目的が調査情報
対策費及び活動関係費の場合には,基本的に支払決定書に記録された
情報が転記されており,支払決定書に記録された情報のうち,支払決
定の日付,支払決定に係る金額,調査情報対策費及び活動関係費の別
等が記録されているが,支払決定書とは異なり,支払相手方の記録や
個別具体的な使途の記録はないことが認められる。
そうであれば,報償費支払明細書中,一覧表のうち使用目的が調査
情報対策費及び活動関係費の場合に記録された情報が開示されたとし
ても,支払相手方や具体的な使途が明らかになることはないから,こ
れにより内閣官房の事務に何らかの支障が生じるとは認められず,ま
た,他国等との関係で情報公開法5条3号に規定するようなおそれが
あるとした内閣官房内閣総務官の判断は合理性を持つものとして許容
される限度を超えるものといえ,裁量権の逸脱又はその濫用があると
いうべきであるから,当該情報について,同条6号及び3号の不開示
情報該当性は認められない。
bこれに対し,被告は,調査情報対策費及び活動関係費の支払決定の
場合,一覧表に記録された情報が開示されれば,支払決定の年月日及
び支払決定に係る金額が明らかになるところ,これらの情報と,その
時々に生じていた内政・外政の重要政策等とを照合,分析することに
より,具体的な使途や相手方等を特定ないし推測することが可能にな
る旨主張する。
しかしながら,前記認定事実(3)イ,ウ,乙14及び弁論の全趣旨
によれば,調査情報対策費及び活動関係費については,役務提供等を
受ける前又は後に当該役務提供者等が作成した請求書に基づき支払決
定をすることとされているところ,当該支払決定日は必ずしも実際の
役務提供日と一致するものではなく,特に支払決定は複数の支出につ
きまとめて行う場合には支払決定書のみからはそれぞれの支出の日付
や金額が判明することはないほか,支払決定書のみから当該支払が複
数の支出につきまとめて行われたものか否かを判別することもできな
いものと認められる。そして,支払決定書の記録と報償費支払明細書
の記録とを照らし合わせても,具体的な使途等が特定ないし推測され
るとは考え難く,本件において,それ以上にそのようなおそれがある
ことを認めるに足りる証拠もないことからすれば,被告の上記主張を
採用することはできない。
また,被告は,個々の支出の具体的使途や相手方を特定することが
できないとしても,それに関する憶測ないし推測が飛び交うことによ
り,内閣官房の行う事務に支障が生じたり,外交上の問題が生じたり
するおそれがある旨主張するが,憶測ないし推測が飛び交うことによ
り何らかの支障が生じる具体的なおそれがあると認めるに足りる証拠
はなく,当該主張は採用することができない。
ウ支払明細書繰越記録部分について
前記認定事実(4)オのとおり,支払明細書繰越記録部分には,内閣官
房報償費全体の先月繰越額,本月受入額(国庫から支出を受けた内閣官
房報償費全額),本月支払額の合計,翌月繰越額が記録されているのみ
であるから,当該情報が開示された場合,特定の月において,支出され
た内閣官房報償費の合計額が明らかとなるが,これにより内閣官房の行
う事務の遂行に支障が生じるとは認められず,また,他国等との関係で
情報公開法5条3号に規定するようなおそれがあるとした内閣官房内閣
総務官の判断は,合理性を持つものとして許容される限度を超えるもの
というべきであって,裁量権の逸脱又はその濫用があるというべきであ
るから,当該情報が同条6号及び3号の不開示情報に該当するとは認め
られない。また,一覧表の「合計」欄の記録も同様である。
エ小括
以上の検討によれば,報償費支払明細書については,いずれの記録部
分についても,情報公開法5条6号及び3号の不開示情報該当性は認め
られないから,本件不開示決定部分のうち,報償費支払明細書を不開示
とした部分は違法である。
(6)原告の主張について
ア支払相手方が公務員である場合について
原告は,内閣官房報償費の支払の相手方が民間人である場合はともかく,
公務員に対し,協力依頼や交渉,また情報提供等に対する対価等の金銭の
交付をするということは,それ自体賄賂性を帯びる違法なものであり,少
なくとも公務員の職業上の倫理に違反するものであるから,支払相手方が
公務員である場合は,本件対象文書につき支払相手方の氏名等が公になっ
たとしても,当該情報は法的保護に値するものではなく,不開示情報該当
性が認められない旨主張する。
しかしながら,本件不開示決定をした当時の内閣官房内閣総務官であっ
たAによれば,支払相手方として公務員の氏名が記録されている場合が仮
にあるとすれば,活動に要した実費又は非公務員である相手方に代わって
受領するものであるということであり(乙14),上記同人の別事件にお
ける証言内容の信用性に特に疑問を差し挟むべき事情もないから,内閣官
房報償費の受取りが公務員の職業倫理上不適切なものということはできな
い。また,このような場合,当該公務員の氏名とその他の記録事項等と照
合すれば,当該公務員が代わって受領した相手方である民間人が特定され,
具体的使途等が明らかになる可能性があり,内閣官房の事務に支障等が生
じることは,当該相手方等の記録が民間人である場合と変わるものではな
い。また,仮にAの上記別事件における証言内容にもかかわらず,内閣官
房長官が行う協力依頼や交渉等の相手方が公務員であったとしても,その
立場や対価が支払われる対象となる活動の内容,また当該活動をするに至
った経緯等は様々なものが考えられるのであって,後述のとおり,本件対
象文書に係る内閣官房報償費が不当な目的に使用されていると認めること
はできないことからすると,相手方が公務員というだけで,直ちに当該対
価の支払が賄賂性を帯びており,又は公務員の職業倫理に反するものであ
るということはできない。そして,当該相手方等の氏名が明らかになった
場合には,上記に述べたような支障等が生じることは,当該相手方等の記
録が民間人である場合と変わるものではないと認められる。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
イ不適正な目的で支出されているかについて
(ア)原告は,情報公開法5条6号の不開示情報に該当するというには,
同号が「事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」と規定され
ているとおり,当該事務又は事業が適正なものであることが前提とされ
ているところ,本件対象文書に係る内閣官房報償費は,政治献金等の不
適正な目的に使用されているため,本件対象文書を開示しても,そもそ
も適正な事業の遂行に支障を及ぼすおそれはないから,同号にいう不開
示情報には該当しない旨主張する。
そこで検討するに,内閣官房報償費は,内政上・外政上の重要政策等
に関する情報収集等に用いられる経費であって,具体的使途や相手方等
に関する情報については厳格な秘密が守られるべきことを前提としてい
る。そして,会計検査院は内閣に対して独立の地位を有するものである
ところ(会計検査院法1条),内閣官房報償費の支出等については,計
算証明規則11条の規定に基づき,同規則が規定する会計検査院の検査
を受けるものの計算証明に関する取扱いとは異なる取扱いとして,内閣
官房報償費を使用目的別に分類した支払額等を記録した報償費支払明細
書を会計検査院に提出し,支払の相手方である役務提供者等の領収書等
について会計検査院から要求があった場合に提出が可能となるように証
明責任者において保管することとする計算証明が認められている(乙
4)のは,このような内閣官房報償費の性質を反映したものということ
ができる。
このような内閣官房報償費の性質や,内閣官房報償費については,か
かる性質を踏まえた上で,一般の計算証明とは異なる取扱いを認めた上
で,内閣に対し独立の地位を有する会計検査院による検査を受けるもの
であること等に鑑みれば,内閣官房報償費に関する行政文書について情
報公開法5条6号の不開示事由該当性が問題となる場合には,上記内閣
官房報償費の性質を踏まえてされた会計検査院の検査において特段の指
摘がされていない以上,当該行政文書に係る内閣官房報償費が不適正な
事務に用いられたことが明白であるというような具体的な立証がない限
り,内閣官房報償費の支出が適正な事務に当たるものと推認するのが相
当である。
以下,このような見地から検討する。
(イ)本件対象文書に係る内閣官房報償費は,会計検査院による会計検査
を受けているところ(乙3,4,証人A),内閣官房報償費の使途の適
正等に関し,会計検査院から何らの指摘を受けておらず(弁論の全趣
旨),その他,当該内閣官房報償費の支払が明白に不適正なものである
ことを認める的確な証拠はなく,本件対象文書に係る内閣官房報償費が,
不適正な事務に用いられたことが明白であると認めることはできない。
(ウ)原告は,平成3年11月から平成4年9月までの内閣官房報償費の
支払の記録(金銭出納帳,収支整理表,支払内訳別の明細表)の写しで
あるとして,甲14を提出し,その記録内容からすれば,当該記録の当
時,内閣官房報償費は政治家への政治資金の供与や政治献金,ヤミ給与
等の不適正な目的に使用されていたと認められ,ここから,本件対象文
書に係る内閣官房報償費についても,同様に不適正な目的に使用されて
いたと推認できる旨主張する。
しかしながら,甲14については,いずれも作成者,作成日等の記載
がなく,原告がその入手経路についても明らかにしていないこと等から
すれば,実際に内閣官房報償費の支払に関し,権限ある職員により作成
されたものであると認めることは困難である。
また,甲14は,原告の主張によれば,平成3年11月から平成4年
9月までのC内閣官房長官による内閣官房報償費の支払の記録というこ
とであって,本件対象期間と大幅に隔たりがあり,その間,平成11年
法律第88号による内閣法の改正等により,内閣官房の組織再編が行わ
れ,内閣官房の位置付け,役割等について変化があったことも窺われる
こと(弁論の全趣旨),取扱責任者である内閣官房長官,内閣全体のあ
り方を決定する内閣総理大臣がいずれも異なっていることなどからすれ
ば,平成3年11月から平成4年9月までの間の内閣官房報償費の支払
と本件対象文書に係る内閣官房報償費の支払とが同様又は類似の使途に
使用されていると認めることはできないのであり,仮に上記期間の内閣
官房報償費が甲14の記載どおりに支払われていたとしても,これによ
り,本件対象文書に係る内閣官房報償費が,当該期間と同様の使途に使
用されていたと認めることはできず,更には不適正な目的に使用されて
いたことが明白であるということもできない。
また,原告は,新聞や週刊誌の記事(甲18ないし20,22ないし
24)において,内閣官房報償費が不適正な目的で使用された旨の記載
があることを指摘し,これにより本件対象文書に係る内閣官房報償費も
不適正な目的に使用されたことが推認される旨主張するが,原告が指摘
する記事の信憑性は明らかでないほか,当該記事において不適正な使途
に使用されたと指摘されている内閣官房報償費は,いずれも本件対象期
間とは大幅に隔たりのある時期に支払われたものであり,かつ,いずれ
も平成11年法律第88号による内閣法改正前におけるものであって,
内閣官房長官も異なることからすれば,上記記事をもって,本件対象文
書に係る内閣官房報償費が不適正な目的で使用されていたことが明白で
あるということはできない。
したがって,原告の上記主張はいずれも採用することができない。
(エ)そのほか,原告は,本件対象期間に係る内閣官房報償費の支払につ
いては,政権交代が確定していた平成21年9月1日にB元官房長官が
合計2億5000万円の内閣官房報償費を国庫に請求し,内閣官房長官
の手元にある内閣官房報償費を民主党政権に引き継ぐ前に使い切ったこ
とに着目し,同日から同月16日までの間に国の重要政策の企画立案や
総合調整に係る情報収集等の活動がされたとは考えられないとして,本
件対象期間における内閣官房報償費の支払が違法ないし不適正であった
旨の主張をする。しかし,内閣の取り組む内政,外政上の重要案件の中
には,政権交代いかんにかかわらず,我が国の国益の観点から継続的な
取り組みが必要となる案件もあることや,情報収集等の活動に対する対
価を後払で支払うこともあり得ること(乙20,証人A)に照らすと,
政権交代直前に2億5000万円の内閣官房報償費が使用されたことを
もって内閣官房報償費の支出が直ちに違法ないし不適正であることが明
白であると認めることはできない。この点,原告は,本件対象期間にお
ける内閣総理大臣の動静に係る新聞記事(甲9ないし12)を根拠に,
内閣官房報償費を使用して行うべき活動が存在しなかった旨を指摘する
が,内閣総理大臣の動静に係る新聞記事に掲載された案件のみが内閣官
房報償費の支払対象となるわけではないから,原告の指摘は当たらない。
したがって,仮に平成21年9月1日に請求した内閣官房報償費2億
5000万円全額が同月16日までに使用されたとしても,これをもっ
て直ちに内閣官房報償費の支出が違法ないし不適正であったことが明白
であるとはいえない。このことは,本件対象期間における内閣官房報償
費の支出について会計検査院においても特段の問題は指摘されていない
こと(証人A)やB元官房長官が2億5000万円を業務上横領したと
してされた刑事告発につき不起訴処分(嫌疑なし)を受けたこと(弁論
の全趣旨)からも裏付けられている。
したがって,原告の上記主張はいずれも採用することができない。
5結論
以上によれば,本件不開示決定部分については,本件対象文書中,①領収書
等のうち,本件公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するもの(ただし,
利用者の氏名ないし名称が記録されているものを除く。),②政策推進費受払
簿,③支払決定書のうち,本件公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関す
るもの(ただし,利用者の氏名ないし名称が記録されているものを除く。),
④出納管理簿のうち,調査情報対策費及び活動関係費に係る部分(ただし,
活動関係費のうち,本件公共交通機関の利用に係る交通費の支払に関するも
のであって,支払相手方等の欄に利用者の氏名ないし名称が記録されていない
ものは除く。)を除いたもの,並びに,⑤報償費支払明細書を不開示とした
点で違法であり,その余の点は適法である。よって,原告の請求は主文1項の
限度で理由があるからその限度で認容し,その余は理由がないからこれを棄却
することとして,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法6
4条本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第7民事部
裁判長裁判官田中健治
裁判官尾河吉久
裁判官長橋正憲

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