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平成27年11月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成26年(ワ)第9099号不正競争行為差止等請求事件
口頭弁論終結の日平成27年9月15日
判決
原告光成薬品株式会社
同訴訟代理人弁護士久世勝之
被告株式会社ジェイシーシー
被告P1
上記被告2名訴訟代理人弁護士山田勝彦
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告株式会社ジェイシーシーは,別紙顧客目録記載の者らに対し,ファック
ス送信,電話,郵便物の送付をするなどして,医薬品の売買契約の締結,売買
契約締結の勧誘,売買契約に付随する営業活動をしてはならない。
2被告らは,それぞれ同目録記載の氏名等を記録したUSBメモリ,メモリー
カード,ハードディスク等の記憶媒体から同記録内容を抹消し,これらを印字
した紙媒体を廃棄せよ。
3被告らは,原告に対し,連帯して,700万円及びこれに対する被告株式会
社ジェイシーシーについては平成26年10月7日から,被告P1については
同月10日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,医薬品の卸売を業としている原告が,医薬品の卸売を行っている被
告株式会社ジェイシーシー(以下「被告会社」という。)及び同被告において
稼働する原告の元従業員である被告P1(以下「被告P1」という。)に対し,
被告P1は原告の営業秘密である顧客情報を不正に取得して持ち出した不正競
争防止法2条1項4号該当の不正競争行為をなしたもの,被告会社は上記不正
取得行為が介在したことを知って上記顧客情報を取得し使用した同条同項5号
又は6号該当の不正競争行為をなしたものと主張し,①被告会社に対しては同
法3条に基づく営業活動の差止め及び顧客情報の抹消・廃棄を求め,②被告ら
に対しては同法4条に基づく損害賠償請求とともに,不法行為の日の後である
被告P1については平成26年10月10日から,被告会社については同月7
日からそれぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯
支払を求めている事案である。
1判断の基礎となる事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論
の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
ア原告は,医薬品卸売を業とする株式会社であり,全国の開業医,病院,
調剤薬局,薬局,薬店に対して医薬品の卸売をしている。
イ被告会社は,データ入力,データ処理等を主たる業とする株式会社であ
るが,平成26年4月頃から,大阪事業所において,「ひつじマークのJ
CCメディカル」のサービスマークで医薬品の卸売をしている。
ウ被告P1は,平成15年2月頃から平成26年2月15日まで,原告に
おいて,営業担当の従業員として稼働していたが,平成27年3月以降,
被告会社において,同じく営業担当の従業員として稼働している(甲5,
6,乙13)。
(2)原告及び被告会社の医薬品卸売における営業方法
原告及び被告会社は,いずれも,その医薬品卸売事業において,主要医薬
品の割引率を表示した販売価格を一覧で示した広告文書を全国の薬局等医薬
品を取り扱う事業者に対してファックスで送信し,これにより医薬品の注文
を勧誘するという営業方法を採っている。
(3)原告及び被告会社の顧客情報
ア原告は,別紙顧客目録記載の顧客の顧客名,住所,電話番号,ファック
ス番号等の情報(以下「本件顧客名簿」という。)を原告が自社建物内に
設置しているサーバに共有ファイルの一つとして保存していた。原告の従
業員は,コンピュータにID及びパスワードを使用してログインすること
により,本件顧客名簿に自由にアクセスできた。
イ被告は,平成26年4月頃には,本件顧客名簿同様の,その医薬品卸売
事業に用いる全国の薬局等医薬品を取り扱う事業者の名称,住所,連絡先
(電話番号,ファックス番号)等をまとめた顧客名簿を備えていた。
2争点及び争点についての当事者の主張
(1)本件顧客名簿の営業秘密性
(原告の主張)
ア秘密管理性
原告の従業員は,コンピュータにIDとパスワードを入力してログイン
し,本件顧客名簿を含む共有ファイルを閲覧等することができたが,その
データをUSBメモリなどの外部記憶媒体にコピーするためには,総務課
長からいわば鍵となる別のUSBメモリを借り受け,これを使用してコピ
ー制限ソフトによる制限を解除しなければならないという設定がされて
いた。
また従業員は,ファイルを添付してメールを送信する場合,上司をカー
ボンコピー(CC)として送信先に加えなければ,そのメールを送信でき
ないという設定もされていた。
加えて,このような技術的な制約には,技術的にも業務の効率という観
点からも制限があることから,原告では,営業秘密の管理規定や誓約書等
により,従業員に対して顧客情報を含む営業秘密に関する秘密保持義務を
課していた。
イ非公知性・有用性
本件顧客名簿に含まれる一つ一つの顧客情報は個別に営業秘密とならな
くとも,本件顧客名簿は,原告のような薬問屋が医薬品を販売する顧客と
してそれを集積し取捨選択したものとして,個々の顧客情報を超え,医薬
品販売にとり独自の価値を有する情報となる。
したがって,本件顧客名簿の個々の顧客の名称,住所,連絡先(電話番
号,ファックス番号)等が公開されているとしても,集約された本件顧客
名簿は,公開されているとはいえないから,非公知であり有用性がある。
(被告らの主張)
ア秘密管理性
原告においては,本件顧客名簿を含むワードで作成した一般的な文章フ
ァイルを,原告のコンピュータからUSBメモリなどの外部記憶媒体にコ
ピーすることも,メールに添付して送信することもできないよう設定され
ていたことは認めるが,特にこの設定が営業秘密の管理方法であったとは
いえない。
原告の従業員がコンピュータを使用するためには,IDとパスワードで
ログインする必要があるが,ログインした後は,共有フォルダのファイル
に自由にアクセスでき,更にパスワードが必要といった制限は全くなかっ
た。
イ非公知性・有用性
本件顧客名簿は,薬局や医院などの単なる施設名称やその住所,連絡先
(電話番号,ファックス番号)といったものであり,積極的に公開され,
誰でも容易に入手・利用できるものであることからも明らかなように,そ
もそも営業秘密となる情報とはいえない。
本件顧客名簿記載の顧客には,少なくとも5,6社の原告と同様の営業
形態の医薬品販売会社からファックスが届いているのが通常であり,顧客
は,その中から購入先を決めているのが実態である。そのような顧客情報
を営業秘密とするのは,そのような実態にも反し,不当で不平等な保護を
設定するものである。
(2)被告らの不正競争行為の存否
(原告の主張)
ア被告P1は,平成15年2月頃から平成26年2月15日までの間,原
告において営業担当の従業員として稼働し,その間,営業担当者として原
告の営業のため,本件顧客名簿にアクセスし,そこに記載されている顧客
の名称,住所,電話番号,ファックス番号を閲覧することができた。
被告P1は,原告を退職する前に,営業上の必要性がないにもかかわら
ず本件顧客名簿にアクセスし,複製して社外に持ち出したもので,不正に
本件顧客名簿を取得したといえる。そして被告P1は,被告会社に転職し
た後,被告会社の「ひつじマークのJCCメディカル」における医薬品販
売業務の責任者となり,本件顧客名簿を被告会社に開示した。
被告P1の上記行為は,不正競争防止法2条1項4号の不正競争行為に
該当する。
イ被告会社は,医薬品卸売の営業活動のため,被告P1において,遅くと
も本年4月頃には本件顧客名簿を使用して,同記載の顧客に対してそのフ
ァックス番号宛に医薬品の購入を勧誘する広告文書のファックス送信を
開始し,その後現在に至るまでその送信を行っている。
被告会社は不正取得行為が介在したことを知って本件顧客名簿を取得,
使用するものであり,当該行為は不正競争防止法2条1項5号又は6号の
不正競争に該当する。
ウ被告会社が営業を行っていた医療機関等の顧客名,住所,電話番号及び
ファックス番号については,古い市外局番があったり,被告会社の顧客名
簿の情報源と主張する地方厚生局のウェブサイトや医療機関情報システ
ムの情報と異なる反面,原告の顧客名簿の記載と一致するものがあったり
することからすれば,被告らの使用する顧客名簿は,原告の本件顧客名簿
を違法に取得し利用していることが明らかである。
(被告らの主張)
ア被告らが不正競争該当の行為をしたとする主張は,いずれも否認する。
被告P1は,本件顧客名簿を持ち出しておらず,原告の主張はいずれも推
測にすぎない。
イ被告会社は,地方厚生局のウェブサイトからダウンロードできる医療機
関等の名簿のPDF,医療機関情報システムで表示されるデータ等のイン
ターネットを介して取得できる情報を様々な方法を駆使して収集し,自ら
の顧客名簿を作成したものである。
ウ原告は,被告の顧客情報の一部に本件顧客名簿のそれと一致するが,公
開された情報と一致しないものがある旨指摘するが,指摘に係る都道府県
名の記載の有無は,自動的に付加することが可能であるし,地方厚生局の
ウェブサイト及び医療機関情報システム以外のサイトでは,本件顧客名簿
と同じ記載になっているものがあるから,指摘の点は単に複数ある情報の
中から選択された結果にすぎない。
逆に,被告会社の広告文書の表示には,本件顧客名簿の表示が一致して
いないものもあり,被告会社が本件顧客名簿をそのまま使用していたので
あれば,このような不一致は起こり得ないはずであるから,この事実は,
被告会社が本件顧客名簿を使用していない証左である。
(3)損害
(原告の主張)
ア被告会社は,平成26年4月頃から現在に至るまでの間に,被告P1に
おいて本件顧客名簿を使用した営業活動をすることにより,少なくとも5
00万円の利益を得たものであり,原告は同額の損害を被った。
イ被告会社が本件顧客名簿を使用して原告の顧客に対する販売活動をした
ことにより,原告は,顧客から顧客情報を第三者に漏洩したなどと疑われ,
これによりその信用が著しく毀損されたものであり,その損害額は150
万円を下回らない。
ウ本件と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は50万円である。
(被告らの主張)
争う。
第3当裁判所の判断
1争点(2)(被告らの不正競争行為の存否)について
(1)原告は,被告P1は原告在職中,営業上の必要性がないにもかかわらず本
件顧客名簿にアクセスし,そのデータを複製して社外に持ち出したもので,
この行為は,不正に本件顧客名簿を取得したものとして不正競争防止法2条
1項4号に該当する旨主張する。
(2)確かに被告P1は,原告在職中,原告の従業員として本件顧客名簿にアク
セスすることができたものであること,被告会社は,データ入力,データ処
理等を主たる業としていた会社にすぎないのに,被告P1が転職して間もな
い平成26年4月頃には,営業対象となる全国の薬局等医薬品を取り扱う事
業者の名称,住所,連絡先(電話番号,ファックス番号)等をまとめた顧客
名簿を備えて,これまでの事業と何ら関係のない医薬品卸売の事業を開始す
るに至っていたことからすると,これらは被告P1が本件顧客名簿を取得し
て持ち出し被告会社の事業に使用させていることを疑わせる事実関係という
ことができる。
(3)アしかし,原告の自社建物内に設置されたサーバに保存されていた本件顧
客名簿を取得する方法としては,何らかの外部記憶媒体にコピーして持ち
出すことが考えられるものの,上記サーバに保存された本件顧客名簿を,
USBメモリ等の外部記憶媒体へコピーするためには,総務課長から鍵と
なる別の専用のUSBメモリを借り受けてコピー制限を解除しなければ
ならない設定がされていたのに,証拠(証人P2)によれば,被告P1が
総務課長からそのようなUSBメモリを借り受けた事実がないことが,む
しろ認められるから,被告P1がこのような方法によって本件顧客名簿を
持ち出した事実を認めることはできない。
また,それ以外の方法としては,本件顧客名簿をメールに添付して外部
に送信するという方法も考えられないではないが,原告では従業員がファ
イルを添付して外部にメールする場合は,上司をカーボンコピー(CC)
として送信先に加えなれば送信されないという設定がされていたところ,
前掲証拠によれば,被告P1が,サーバ内のファイルを添付したメールを
送信した記録もなかったと認められるのであるから,被告P1がこのよう
な方法によって,本件顧客名簿を持ち出した事実も認められず,結局,通
常想定できる範囲では,被告P1が本件顧客名簿を取得して持ち出した事
実を認めることはできないということになる。
イこの点,原告は,被告P1が本件顧客名簿を通常の方法では取得できな
かったとしても,ウェブブラウザーを経由してロッカーサービスに保管す
るといった特殊な方法などを例に挙げて,何らかの方法で持ち出したはず
と主張し,原告においてセキュリティのシステムを管理していた証人P2
はその旨証言する。
しかし,その証言内容は推測の域を出ず具体的根拠が明らかなものでは
ないし,むしろ11人程度のシステムエンジニアが在籍し,そのような情
報管理のセキュリティを潜り抜ける方法について詳しいと考えられる被
告会社の代表者は,原告が説明する管理状況下において本件顧客名簿を取
得することは不可能である旨明確に供述している。また,そもそも医薬品
販売の営業担当者にすぎない被告P1自身に,そのような特殊な方法を考
え得る知識もないと認められるから(被告P1本人),本件においては,
被告P1が,原告から本件顧客名簿を取得した事実を認めることは,やは
りできないといわなければならない。
(4)アさらに,被告会社が,被告P1の転職後間もなくに,本件顧客名簿に相
当する顧客名簿を保有出来ていた経緯が不自然でないかについてみても,
証拠(乙1,5ないし7,13,証人P3,被告P1本人)によれば,①
本件で問題とされている医療機関や薬局等の名称,住所・所在地,電話番
号,ファックス番号に関するデータの多くはインターネット上のサイト等
で公開されていること,②被告会社は,上記のようにインターネット上の
サイトに公開されている医療機関等のデータを,これまでの業務で得られ
たデータ処理等のスキルを活かして特別にプログラムを組んで集める処理
をまず行い,その上で従業員が手作業で入力内容の確認等を行い,必要な
記載を入力したり,不必要な記載を削除するなどしたこと,③被告P1に
おいては,原告に勤務していた際の得意先等が入力されていない場合には,
サイト等で住所や電話番号等を調べたり,自身のメモに記載していた10
件から20件程度の顧客情報を参照するなどして入力したこと,以上の事
実が認められるから,被告が従前手がけていなかった医薬品卸売の事業に
必要な顧客名簿をごく短期間に収集し保有できていたことに不自然さはな
いということができる。
イこの点,原告は,被告会社の保有する顧客名簿が,インターネットに公
開された情報から取得されたものであることを争い,被告会社が保有して
いる顧客名簿には古い市外局番が含まれていたりして,被告らが利用した
と主張するサイト(地方厚生局のウェブサイトや医療機関情報システム)
における情報と異なる反面,本件顧客名簿の情報と一致する点があること
を指摘する。
しかし,被告会社が本件顧客名簿を使用していれば説明がつかない被告
の使用する情報と本件顧客名簿の情報の記載内容やフォントが異なる点
も,むしろ多く見受けられるし(甲1の1,4,9,17及び24),原
告が指摘する古い市外局番の電話番号については,被告P1が自身の手帳
の記載によって入力したものである旨述べていること(被告P1本人)か
らすれば,原告指摘の事実によって,被告会社の保有する顧客名簿が本件
顧客名簿に由来するものと推認することは,やはり困難であり,したがっ
て,被告会社が短期間に相当数の顧客名簿を保有していたことにやはり不
自然さはないといわなければならない(なお本件顧客名簿は,公知情報の
集積物にすぎないといえるから,この点では,秘密として管理されていた
としても,営業秘密の要件である非公知性を欠くとの問題も指摘でき
る。)。
(5)したがって,仮に本件顧客名簿が営業秘密であるとしても,これを被告P
1が原告から不正に取得した事実は認められず,むしろ被告会社の保有する
顧客名簿は,被告会社が独自に収集した事実さえ認められるから,被告P1
の不正取得行為を前提とする被告らによる不正競争行為を認めることができ
ないというべきである。
2結論
以上より,原告が主張する被告らの不正競争行為は認められないから,原告
の被告らに対する請求は,その余の点を判断するまでもなくいずれも理由がな
い。
よって,原告の被告らに対する請求をいずれも棄却することとし,訴訟費用
の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官森崎英二
裁判官田原美奈子
裁判官中山知

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