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平成17年(ネ)第10036号 損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成
16年(ワ)第1102号)
平成17年5月23日 口頭弁論終結
判決
  控訴人         控訴人A
  同訴訟代理人弁護士   長野哲久
  被控訴人        株式会社カワクボ製作所
  同訴訟代理人弁護士   田浦清
  同訴訟代理人弁理士   田中幹人
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1)原判決を取り消す。
(2)被控訴人は控訴人に対し,1540万円及びこれに対する平成16年1月
30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
 主文同旨
第2 事案の概要
   控訴人は,「回転ブラシと回転ブラシ付き選別コンベア」の発明に係る特許
権(特許番号第2918504号。以下「本件特許権1」という。)及び「食品の
選別コンベア」の発明に係る特許権(特許番号第3073192号。以下「本件特
許権2」といい,本件特許権1及び2を併せて「本件各特許権」という。)の特許
権者である。
   控訴人は,被控訴人が平成14年7月23日から製造販売している回転ブラ
シ付き選別コンベア(以下「被告製品」という。)が,本件特許権1の特許請求の
範囲の請求項1及び4記載の発明(以下「本件発明1-1」及び「本件発明1-
2」という。)と,本件特許権2の特許請求の範囲の請求項1及び2の発明(以下
「本件発明2-1」及び「本件発明2-2」といい,本件発明1-1及び1-2と
併せて,「本件各発明」という。)の技術的範囲に属し,被告製品の製造販売が本
件各特許権を侵害すると主張して,被控訴人に対し,これによる損害(特許法10
2条3項。実施料相当額)1540万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から
支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
   原判決は,被告製品は,本件各発明の技術的範囲に属しないとして,控訴人
の請求を棄却した。
 控訴人は,これを不服として,控訴を提起した。
1 当事者の主張は,次の2及び3のとおり付加するほか,原判決の「事実及び
理由」の「第2 事案の概要」の「1 争いのない事実等」「2 争点」及び「3
 争点に関する当事者の主張」のとおりであるから,これを引用する。
 当裁判所も,上記の「本件特許権1」等のほか,「本件公報1」「本件明細
書1」「構成要件A」などの語を,原判決の用法に従って用いる。
2 控訴人の当審における主張の要点
(1)原判決は,構成要件Bの「補剛材」は,網本体の剛性を高めるために,網
とは別の材料が取り付けられることが必須であると解すべきであり,また,構成要
件B及び同Fの「根部と遊端との間」とは,網の「根部(基部)と遊端との中間」
を指すと解すべきであって,網のいかなる部分であっても差し支えないと解するこ
とはできないとして,被告製品は構成要件Bを充足しないとした。
  しかし,構成要件Bの「補剛材」は,網本体とは別の部材が使用されたも
のに限らないのであって,回転ブラシの網の剛性を補うすべてのものと解すべきで
ある。本件明細書1には,補剛材に網以外の部材を用いるべき旨の記載はなく,網
を補強するには,網を重ねるのが手っ取り早いことであり,それを除外する理由は
ない。
  また,構成要件B及び同Fの「根部と遊端との間」は,その間のどの位置
でもよいと解すべきである。本件明細書1及び図面には,実施例として,確かに中
間部に位置するものが記載されているが,だからといって中間部に位置するものに
限られるということはできない。特許請求の範囲に記載されているとおり,根部と
遊端との間のどの位置でもよいのである。
  これらの点は,専門家による鑑定結果である甲第11,13号証によって
も裏付けられているものである。
(2)原判決は,構成要件C’の「略同じ」とは,「回転ブラシの素線の太さ及
び編目の大きさ」と「コンベアベルトを構成する合成樹脂の網のそれ」とを比較し
て,ほぼ同一と評価できる範囲に限定されると解すべきであるとして,被告製品は
構成要件C’を充足しないとした。
  しかし,構成要件C’の「略同じ」とは,略同じ効果を奏し得る範囲の素
線径及びメッシュの数値範囲をもって判断すべきである。被告製品においては,コ
ンベアベルトに用いられている網は,素線の太さ0.6㎜,編目の大きさ15メッシ
ュ(F1110)又は素線の太さ0.6㎜,編目の大きさ13.4メッシュ(F11
30)であり,回転ブラシに用いられている網(F1039)は,素線の太さ0.4
㎜,編目の大きさ32.1メッシュであるが,これらはいずれも略同じ太さの素線と
略同じ大きさの編目とみてよいのである。
  これらの点は,専門家による鑑定結果である甲第12,14号証によって
も裏付けられているものである。
3 被控訴人の当審における主張の要点
(1)控訴人は,構成要件Bの「補剛材」は,網本体とは別の部材が使用された
ものに限らず,回転ブラシの網の剛性を補うすべてのものと解すべきであると主張
する。
   しかし,本件明細書1には,「根部と先端部との間には厚さ2㎜程度に合
成樹脂用の軟質の接着剤を塗布してあり,その剛性を網単独の場合より増強した厚
肉部24cとされている。」(本件明細書1・5欄20行~22行)とあり,補剛
材として網以外のものを使用することが明記されており,補剛材に関して「回転ブ
ラシの網の剛性を補うすべてのもの」との開示はもちろん,これを示唆する記載さ
えない。控訴人の主張は失当である。
   また,控訴人は,構成要件B及び同Fの「根部と遊端との間」は,その間
のどの位置でもよいと解すべきであると主張する。
   構成要件B及び同Fの「根部と遊端との間に補剛材を添着」の技術的意味
についての被控訴人の主張は,原審において主張したとおりであるが,更に指摘す
れば,本件発明1-1においては「ボスに植設される刷毛」(構成要件A),「前
記ボスに連結された根部」(同B)とされ,本件発明1-2においては「ボスに‥
‥‥網を取り付け」(同E),「ボスに連結される基端」(同F)とされており,
根部(基端)はボスに連結されているため,補剛材を添着する構成となっていな
い。
(2)控訴人は,構成要件C’の「略同じ」とは,略同じ効果を奏し得る範囲の
素線径及びメッシュの数値範囲をもって判断すべきであると主張する。
   控訴人の主張は,数値を離れ,また「同じ効果」と主張しながら,どのよ
うな効果なのかについての主張がなく,失当である。
(3)控訴人が上記各主張を裏付けるものとして提出する甲第11号証以下の書
証も,その内容に疑問を呈さざるを得ないものである。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所も,控訴人の請求は理由がなく,棄却すべきものであると判断す
る。その理由は,次のとおり付加補正するほか,原判決の「第3 争点に対する判
断」のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決13頁10行目の「『補剛材』は」から12行目の「構成要件の」ま
でを削除する。
2 控訴人は,構成要件B及び同Fの「根部と遊端との間」は,その間のどの位
置でもよいと解すべきであるとし,原判決が「根部と遊端との間」とは,網の「根
部(基部)と遊端との中間」を指すと解すべきであって,網のいかなる部分であっ
ても差し支えないと解することはできないと判断したこと(原判決13頁12行~
14行,15頁7行~9行)が誤りであると主張する。
(1)本件明細書1の「発明の詳細な説明」欄には,「発明が解決しようとする
課題」として,「コンベアベルトに付着した付着物を効率よく除去するにはブラシ
で擦り落とす区間を長くする必要があり,回転ブラシを用いる場合には回転ブラシ
とコンベアベルトを一層接近させて刷毛を強く接触する必要があるので,コンベア
ベルトや刷毛を早期に損耗させる不具合があった。」(段落【0004】)の記
載,「作用」として,「回転ブラシの刷毛は主体が網で作られており,その一辺が
支持軸に固定され,他辺が摺擦面となる。主体を網とすることで剛性が上がり,さ
らに,刷毛の根部と端部との間に補剛材を添着することで摺擦面を押圧する力を一
定させ得る。回転ブラシをなす網状の刷毛の先端部は,支持軸と平行な線の数本が
取られて櫛状の部分が形成される。その櫛状の部分は曲げ剛性が低く,摺擦面へ接
触したとき,摺擦面にならって広い面積で摺擦する。」(段落【0006】)の記
載があり,「実施例」として,「刷毛24は‥‥‥根部が角軸26に挟持された
上,先端部の横線が2~3本抜かれ長さ5~10mmに亘って縦線のみが存在す
る,いわゆる櫛状の部分24bを形成しており,刷毛24の先端がコンベアベルト
17に引っ掛からないようにしてある。そして,根部と先端部との間には厚さ2m
m程度に合成樹脂用の軟質の接着剤を塗布してあり,その剛性を網単独の場合より
増強した厚肉部24cとされている。」(段落【0011】),「回転ブラシ20
が回転し,刷毛24の一がコンベアベルト17に当接すると,刷毛24は図6で示
すように変形する。まず,比較的剛性の低い先端の櫛状の部分24bが摺擦面であ
るコンベアベルトの下面に当たって湾曲しつゝ付着物を掻き落とす。回転が進み櫛
状の部分24bが曲り切ってしまうと,次いで厚肉部24cが摺擦面に接近する。
厚肉部24cは剛性が高く湾曲しにくいから,刷毛24は根部の網の部分24aで
回転方向後方へ湾曲し,その結果,網の部分24aが前記押え板29のカマボコ形
の外面に巻き込まれ,先端部はインボリュート曲線を描いて実質的な長さを減じ
る。すなわち,根部から先端までの長さが実質的に短縮される。回転ブラシ20の
回転がさらに進み前記櫛状の部分24bがコンベアベルト17の下面から離れる
と,それまで撓んでいた刷毛24の先端部が弾力で真っ直ぐな位置まで一気に復帰
し,その際,前記櫛の部分24bに付着した付着物を回転方向前方へ撥ね飛ばすと
共に,直立した当初の形態へ復帰する。」(段落【0012】)の各記載,「発明
の効果」として,「刷毛24は先端部の剛性が低く,根部の剛性をやゝ高く,か
つ,中間部の剛性を一番高く設定した。よって,刷毛24の摺擦面への摺擦力を過
度に増大させることなく先端部が摺擦する距離を増大させることができ,付着物の
除去が効率よく行われる,などの効果がある。」(段落【0013】)の記載があ
る(甲1)。また,本件公報1の図4ないし6には,本件発明1に係る回転ブラシ
が図示されているが,同図において,角軸26と押え板29とにより挟持された刷
毛24は,角軸26側から順に,網24a,厚肉部24c,櫛状部分24bが形成
されている(甲1)。
これらの記載によれば,本件発明1-1は,刷毛の中間部の剛性を根部及
び先端部より高くすることによって,摺擦面を押圧する力を一定にさせることがで
きるようにした点に,従来技術において存在した課題を解決する上での技術的な特
徴を有するものというべきであり,このような同発明の作用効果を実現するために
は,構成要件Bにおいて「補剛材」は,根部(基部)と遊端とを除く中間の部位に
添着することが予定されているというべきである。
  本件発明1-2は,コンベアベルトの表面を摺擦して付着物を掻き落とす
ために,本件発明1-1の回転ブラシを備えた回転ブラシ付き選別コンベアの発明
であるから(甲1),構成要件Fの「その網のボスに連結される基端と遊端との間
に補剛材を添着してなる」の意義は,構成要件Bの「網の前記ボスに連結された根
部と遊端との間に補剛材を添着してなる」と同義である。
(2)控訴人は,「根部と遊端との間」の意義について,その間のどの位置でも
よいと解すべきであると主張するが,補剛材が遊端に添着された場合には,刷毛の
先端部が摺擦面へ接触したときに,摺擦面にならって広い面積で摺擦するという状
態を得ることができず,また,補剛材が根部に添着された場合には,先端部が摺擦
面であるコンベアベルトの下面に当たって湾曲しつつ付着物を掻き落としながら,
回転が進んだときに,刷毛が根部の部分で回転方向後方へ湾曲するという状態を得
ることができず,上記のような本件発明1-1の予定する作用効果を実現すること
ができない。
  控訴人は,本件明細書1の記載は一実施例について説明したものにすぎな
いというが,そもそも同明細書には実施例は1例しか記載されていないものである
ところ,当該実施例についての記載(段落【0007】以下)は,それより前に記
載された本件発明1-1についての「発明が解決しようとする課題」「課題を解決
するための手段」「作用」の項の記載を受けて,これらを実現するための具体的構
成として記載されたものであることが明らかであり,また,同明細書には補剛材を
上記と異なる部位に添着する例を開示し,あるいはそのような可能性を示唆する記
述は何ら存在しない。特許請求の範囲には,「その網の前記ボスに連結された根部
との遊端の間に補剛材を添着してなる」と記載されているところ,上記のように解
することは,むしろ「根部との遊端の間」の文言の通常の国語上の意味にも合致す
るものというべきである。
  なお,控訴人は,上記の主張を裏付けるものとして当審において甲第1
1,13号証を提出する。これらの書証は「科学技術鑑定書」と題されたものであ
るが,その内容は,単に,控訴人の上記主張を結論として記載してあるものにすぎ
ず,その内容は,上記に説示したところに照らし,採用できない。
3 控訴人は,構成要件Bの「補剛材」は,網本体とは別の部材が使用されたも
のに限らず,回転ブラシの網の剛性を補うすべてのものと解すべきであると主張す
るが,被告製品における「ブラシ押え板26及びブラシ取付け板27」は,①「根
部又は基部と遊端との間に」添着させたものではなく,また,②網の剛性を高め
て,摺擦面を押圧する力を一定にさせる効果を奏するものではないから,構成要件
B及び同Fの「補剛材」に該当しないものであり,この結論は,「補剛材」が網本
体とは別の部材が使用されたものに限定されるかどうかにかかわらない。
4 控訴人は,構成要件C’の「略同じ」とは,略同じ効果を奏し得る範囲の素
線径及びメッシュの数値範囲をもって判断すべきであるとし,原判決が「略同じ」
とは,「回転ブラシの素線の太さ及び編目の大きさ」と「コンベアベルトを構成す
る合成樹脂の網のそれ」とを比較して,ほぼ同一と評価できる範囲に限定されると
判断したこと(原判決16頁2行~5行)が誤りであると主張する。
  しかしながら,本件明細書2(甲2)の「発明の詳細な説明」欄には,「作
用」として,「コンベアベルトをなす網と回転ブラシは略同一の網で作られている
ので,コンベアベルトをなす網の目の間隔と回転ブラシをなす払い落とし用の繊維
の間隔とが略等しくなることから,払い落とし用の繊維として使用される回転ブラ
シの素線がコンベアベルトの網目へ入り易くなる。」(段落【0005】との記載
がある(甲2)。これによれば,本件発明2-1は,払い落とし用の繊維(刷毛)
として使用される回転ブラシの縦方向の素線がコンベアベルトの網目に入り易くな
ってコンベアベルトの夾雑物を効率よく除去できるという作用効果を実現した点
に,従来技術において存在した課題を解決する上での技術的な特徴を有するものと
いうべきであり,このような同発明の作用効果を実現するためには,構成要件C’
における「略同じ」とは,「回転ブラシの素線の太さ及び編目の大きさ」が,「コ
ンベアベルトを構成する合成樹脂の網のそれ」と比較して,ほぼ同一と評価できる
範囲にあることが予定されているというべきである。
  控訴人の主張は,特許請求の範囲における「略同じ太さの素線と略同じ大き
さの編目」という文言を無視して,特許発明と略同一の作用効果を奏する構成であ
ればすべて技術的範囲に属することをいうものであって,到底採用の限りではな
い。
 なお,控訴人は,上記の主張を裏付けるものとして当審において甲第12,
14号証を提出する。これらの書証は「科学技術鑑定書」と題されたもので,その
内容は,略同じ効果を奏し得る範囲を計算により判断したというものであるが,本
件明細書2における特許請求の範囲の記載を離れて技術的範囲を論ずるものであ
り,上記に説示したところに照らし,採用できない。
5 結論
  以上によれば,控訴人の本訴請求は,その余の点について判断するまでもな
く理由がない。よって,控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であるから,本
件控訴を棄却することとし,当審における訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条
1項,61条を適用して,主文のとおり判決する。
  知的財産高等裁判所第3部
       裁判長裁判官   佐  藤  久  夫
          裁判官    三  村  量  一
          裁判官   古  閑  裕  二

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