弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 本件控訴を棄却する。
二 原判決中被控訴人(附帯控訴人)敗訴部分を次のとおり変更する。
 控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し、原審認容額以外に金
七六万八、五七八円及び別表第一の当審追加認容額欄記載の金額に対する同表の遅
延損害金起算日欄に掲げる日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
 被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求を棄却する。
三 被控訴人(附帯控訴人)が当審で追加した新訴請求に基づき、控訴人(附帯被
控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し、更に金八七〇万九、九五九円及び別表
第二の認容額欄記載の金額に対する同表の遅延損害金起算日欄に掲げる日から支払
ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
 被控訴人(附帯控訴人)のその余の新訴請求を棄却する。
四 訴訟費用中、前項の請求に関する部分はこれを一〇分し、その三を被控訴人
(附帯控訴人)の負担、その七を控訴人(附帯被控訴人)の負担とし、その余の部
分は第一、二審とも控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。
五 この判決中被控訴人(附帯控訴人)への金員の支払を控訴人(附帯被控訴人)
に命じた部分は、仮に執行することができる。
       事   実
 控訴代理人は、控訴につき「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人の
請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決、
附帯控訴につき附帯控訴棄却の判決、被控訴人の当審における新たな請求につき請
求棄却の判決を求め、被控訴代理人は、控訴につき控訴棄却の判決、附帯控訴とし
て、原審の審理判断を経た昭和四七年四月一日から昭和四九年四月二五日までの賃
金の支払を求める請求につき「原判決中被控訴人(附帯控訴人)敗訴の部分を取り
消す。控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し、原審認容額以外
に金九一万二、四八一円及び別表第一の当審追加請求額欄記載の金額に対する同表
の遅延損害金起算日欄に掲げる日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払
え。訴訟費用は第一、二審とも控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。」との判
決、当審における新たな請求(原審の審理判断を経ない昭和四九年四月二六日から
昭和五三年三月三一日までの賃金の支払を求める請求)として、「控訴人(附帯被
控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し、更に金一、二二五万二、四〇九円及び
別表第二の請求額欄記載の金額にする同表の遅延損害金起算日欄に掲げる日から支
払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は控訴人(附帯被控訴人)
の負担とする。」との判決を求めた。
 当事者双方の主張並びに証拠関係は、次に付加するほか原判決事実摘示のとおり
であるから、その記載をここに引用する。
(被控訴代理人の陳述)
一 請求拡張部分(新訴請求にかかる分も含む。)の請求原因
1 昭和四七年四月一日から昭和五三年三月三一日までの間に被控訴人が控訴人か
ら支払を受けるべき給与の月額及びその内訳並びに夏期手当、冬期手当、法人調整
手当及び年度末手当の額は、別表第三記載のとおりであり、これらの賃金の支給日
は、原審において主張したとおりである。
2 不当解雇を受けた労働者に対する賃金の遡及支払については、右労働者は、使
用者の個別的な昇給の意思表示をまつまでもなく、右解雇がなかつたならば当然に
昇給したであろう時期に昇給したものとして取扱うべきものである。控訴人学園に
おいては、給与規定により、定期昇給は一年に一回一級俸づつ昇給する旨全く客観
的にその基準が定められており、使用者の裁量の余地はほとんどなかつた。
 また、控訴人学園においては、ベースアツプがあつた場合の増俸、賞与・年度末
手当等の支給率等についても、昭和四五年度以降は労働組合との賃金協定に基づ
き、部長の職にある者を除き、その余の全職員に対し一律に適用されてきた。
 したがつて、控訴人による昇給の意思表示及び賞与・手当等の支給額の決定がな
くても、被控訴人は、当然に毎年一回一級俸上位の級俸に昇給し、かつ、右給料額
に一定の支給率を乗じた賞与、手当等の支給請求権を取得したものというべきであ
る。
 なお、法人調整手当は、毎年五月一日現在の在籍者に対し東京都から交付される
助成金について、その交付申請もれがあつたため交付を受けることができなかつた
職員に対し、控訴人が東京都の助成と同一の基準により支給するものであつて、控
訴人主張のような助成金の分配そのものではない。
3 被控訴人は、原審において、昭和四七年四月一日から原審口頭弁論終結日であ
る昭和四九年四月二五日までの賃金の支払を請求し、右請求(以下「従来の請求」
という。)につき金二六七万九、一九七円の限度で請求認容の判決を受けた。しか
し、被控訴人が控訴人から支払を受けるべき昭和四七年四月一日から昭和四九年四
月二五日までの賃金の総額は、別表第一の請求賃金額欄の合計欄に示すとおり三五
九万一、六七八円であるから、これと原審認容額との差額は九一万二、四八一円と
なる。
 よつて被控訴人は控訴人に対し、従来の請求につきこれを拡張し、原審認容額以
外に前記金九一万二、四八一円の差額及びそのうち別表第一の当審追加請求額欄記
載の金額に対する同表の遅延損害金起算日欄に掲げる日から支払ずみまで年五分の
割合による遅延損害金の追加支払を求める。
4 被控訴人が控訴人から支払を受けるべき原審口頭弁論終結の日の翌日である昭
和四九年四月二六日から昭和五三年三月三一日までの賃金の総額は、別表第二の請
求額欄の合計欄に示すとおり一、二二五万二、四〇九円を下らない。
 被控訴人は控訴人に対し、当審における新たな請求として、右期間の賃金一、二
二五万二、四〇九円及びそのうち別表第二の請求額欄記載の金額に対する同表の遅
延損害金起算日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 控訴人の抗弁に対する答弁
1 控訴人主張二・1の事実中、控訴人学園において昭和四六年度に会計事務処理
の新会計基準への移行の遅延並びにそれに基づく決算の遅延という事態が生じたこ
とは認めるが、これらが被控訴人の職務怠慢に起因することは否認し、その余の事
実はすべて争う。
2 被控訴人の請求している賃金債権は、被控訴人と控訴人との間の雇用契約に基
づくもので、それ自体一個の債権であり、控訴人の援用する消滅時効は昭和四七年
一〇月二七日の本訴の提起時に中断されている。
3 控訴人主張二・3の事実中、被控訴人が昭和五一年一月以降訴外キヤセイ販売
株式会社に勤務し、昭和五一年一月から昭和五二年一二月まで毎月一六万二、〇〇
〇円、昭和五三年一月からは毎月一八万二、〇〇〇円の給与収入を得ていることは
認めるが、その余は否認する。
 不当解雇期間中に労働者の得たいわゆる中間収入を使用者が遡及賃金の支払から
控除することは許されない。その理由は次のとおりである。
(一) 解雇期間中労働者がその労働力をいかに利用するかは当該労働者の自由で
あり、いわゆる中間収入は、右期間中労働者が生活を維持するためやむなく暫定的
に他と労働契約を締結して得た賃金であつて、不当解雇により労働契約上の債務の
履行を免れたことと相当因果関係がなく、労働者が使用者に償還すべき利益に当た
らない。
(二) 中間収入を遡及賃金額から控除することを認めるときは、使用者の関知し
ないところの中間収入の取得という偶然の事情によつて不当に使用者を利すること
となる反面、不当に労働者の利益を害し、著しく不合理な結果を招来する。これに
対し、控除を認めないとすることは、これによつてなんらの不都合も生じないばか
りか、正義の要請にも合致する。
(三) 仮に労働者に中間収入の償還義務があるとしても、これを使用者が労働者
に支払うべき賃金から控除することは、賃金の全額支払を認めた労働基準法二四条
一項本文に違反し、許されないところである。
(四) 労働基準法二六条は、労働者保護のために設けられた規定であり、その
「使用者の責に帰すべき事由」とは、民法五三六条二項の「債権者の責に帰すべき
事由」より広く、経営者として不可抗力を主張し得ない一切の場合を含み、右の場
合に労働者に支払われるべき休業手当を定めるものである。右の労働基準法二六条
の規定をもつて中間収入控除の根拠とするのは相当でない。
 したがつて、控訴人の抗弁二・3は失当である。
(控訴代理人の陳述)
一 請求拡張分(新訴を含む)の請求原因に対する認否
1 被控訴人主張一・1の賃金額は争う。
2 同一・2の主張は争う。
(一) 被控訴人は昭和四七年度以降毎年一級俸昇給したことを前提として賃金額
を主張しているが、昇給については使用者の個別的な意思表示のないかぎり個々の
労働者が昇給額の支払を当然に請求することはできない。
(二) もつとも、控訴人学園において給与規定に昇給は原則として毎年一回一級
俸づつ行う旨定められていることは認めるが、定期昇給額は、昭和四七年度及び四
八年度は二、〇〇〇円、昭和四九年度三、〇〇〇円、昭和五〇年度四、二〇〇円、
昭和五一年度五、〇〇〇円、昭和五二年度六、〇〇〇円である。なお、ベースアツ
プがあつた場合において、中間管理職以上の職員に対しては無条件に新俸給表が適
用されるものでなく、ベースアツプによる給料の増額はその都度勤務成績を考課査
定の上定められるべきものであるから、仮に昇給分について被控訴人に差額請求権
が生じたとしても、それは一級俸づつの定期昇給分の差額に限られ、ベースアツプ
による増額分は含まれない。
(三) 各年度の賞与も、中間管理職に対しては一律に支給されるわけでなく、勤
務成績等を査定して支給されるものであるから、使用者の個別的な意思表示のない
かぎり賞与の支払請求権は発生しない。
(四) 法人調整手当は毎年五月一日現在の在籍者に対する助成金の配分であるか
ら、昭和四七年度以降の在籍人員に含まれていない被控訴人に対する助成金の配分
額は皆無である。
3 同一・3については、第一段の事実は認めるが、その余の主張は争う。
4 同一・4の主張は争う。
二 抗弁
1 解雇事由の補足
 控訴人ら学校法人においては、昭和四六年度から、私立学校法(昭和五〇年法律
第六一号による改正前のもの)五九条八項の規定により、大部大臣の定める基準に
従つて会計処理を行い、計算書類を作成しなければならないこととなり、右文部大
臣の定める基準として、昭和四六年四月一日学校法人会計基準(文部省令第一八
号)が公布され、即日施行された。しかるに控訴人の法人本部の会計処理は、昭和
四六年九月末まで右基準による新しい方式への切替が全くなされず、そのため昭和
四七年三月の会計年度終了後になすべき新会計基準による決算が大幅に遅延するに
至つた。これは、財務部主任である被控訴人の職務怠慢に基づくものであつて、被
控訴人の中間管理職としての不適格性を示す一例証である。
 右の事実及び原審において指摘した被控訴人の不都合な行為は、個々的に見れば
解雇の根拠としては不十分であつても、全体として総合関連して見ると、学園の事
務職員、殊に中間管理職として、極めて職務に不忠実で全く投げやりでやる気がな
く、かえつて職場を毒する被控訴人の勤務振りをうかがわせるのに十分といわざる
を得ない。
 被控訴人は、数少ない事務系中間管理職の中で総務、財務両部の主任(課長待
遇)という最も重要な中心的地位にあり、多くの部下を持ち、外部に接する機会も
多く、両部の事務を掌握すべき立場にあつた。かかる立場にある被控訴人の行為
が、不都合であり、投げやりであり、いい加減なものであることは、事務局全体の
志気と機能にも重大な影響を与え、かつ、対外的にも学園の信用と名誉を損うもの
であつた。
 以上を要するに、控訴人が原審以来指摘した数々の被控訴人の不都合な行為は、
被控訴人の職務不適格性を証明して余りあるものというべきであり、被控訴人の職
務上の怠慢、義務違反を理由とする本件解雇は有効である。
2 賃金請求権の時効消滅
 被控訴人が当審で従来の請求につき附帯控訴によりこれを拡張した部分は、昇給
による賃金の増加分であつて、原審で訴訟物となつた賃金債権とは、その発生原因
が異なるので、右拡張部分の賃金債権のうち請求拡張時に支払期日から既に二年を
経過していたものは、労働基準法一一五条により時効によつて消滅している。ま
た、被控訴人が当審で提起した新訴請求にかかる賃金債権のうち新訴の提起時から
二年以上前に支払期日が到来していた部分も、前同様時効によつて消滅している。
よつて控訴人は当審において時効を援用する。
3 中間収入の控除
 被控訴人は、昭和五一年一月から現在まで東京都中央区所在の訴外キヤセイ販売
株式会社に勤務し、昭和五一年中は毎月一六万二、〇〇〇円ずつ、昭和五二年一月
からは毎月一八万二、〇〇〇円ずつの給与収入を得ている。したがつて、仮に本件
解雇が無効であつて、被控訴人に対しいわゆるバツクペイが支払われるべきである
としても、被控訴人が右訴外会社から支払を受けた賃金は、民法五三六条二項によ
り控訴人に償還すべき中間収入に該当するので、右賃金相当額は被控訴人の本訴請
求にかかる遡及賃金額から控除されなければならない。
(証拠関係)(省略)
       理   由
一 控訴人が被控訴人主張の場所にその主張の学校を設置する学校法人であるこ
と、被控訴人が、昭和四二年四月一日控訴人に事務職員として雇用され、大学事務
員として当時の大学事務局教務課に所属し、昭和四三年一月から経理部勤務とな
り、昭和四六年一月一日付けで実施された事務組織の変更に伴つて財務部主任(課
長待遇)及び総務部主任(課長待遇)の併任を命ぜられ、財務、総務両部長の命を
受けてそれぞれの事務を全般にわたつて分掌し、担当業務の遂行、部員の指導監督
に従事する職務にあつたこと、控訴人が昭和四七年三月三〇日に総務部長Aを通じ
て被控訴人に対し、口頭で普通解雇する旨の意思表示をしたこと、控訴人の就業規
則一四条には、「勤務成績または能率不良で職務に適しないと認めるとき」(同条
二号)及び「その他やむを得ない事由があると認めるとき」(同条四号)が普通解
雇事由として掲げられていること、以上の事実は当事者間に争いがない。
二 右解雇の効力については、当裁判所も原審と同様、これを無効であると判断す
るものであつて、その理由は、次に付加、訂正するほか原判決理由説示三及び四
(原判決二五枚目裏九行目から同三八枚目表一一行目まで)と同一であるから、こ
れをここに引用する。当審における証拠調の結果を考慮にいれても右認定・判断を
覆えすに足りない。
1 原判決二九枚目裏一〇行目の「振込み通知書の処理遅滞について」を「財務部
主任としての職務怠慢について」に改め、同三〇枚目表一行目の「行なつていたこ
とは、」を「行つていたこと、また、控訴人学園において昭和四六年度に会計事務
処理の新会計基準への移行の遅延並びにそれに基因する決算の遅延という事態が生
じたことは、いずれも」に改め、同枚目表三行目から六行目までを次のとおり改め
る。
「成立に争いのない乙第二五号証の一、弁論の全趣旨によつて真正に成立したと認
められる乙第二三号証、原審証人A、同B、当審証人Cの各証言、原審及び当審に
おける被控訴人本人尋問の結果の一部を総合すると、被控訴人は昭和四六年秋から
昭和四七年初頭にかけて学生の授業料の振込み通知書の処理を遅滞し、卒業認定事
務に支障が生ずるのではないかと憂慮されるような事態を招いたこと、右に関連し
て、被控訴人が事務を担当していた銀行預金残高の照合が不十分であつたため、帳
簿と銀行預金との間に昭和四六年度決算の段階において終局的には一一件、金額に
して三〇万余円の残高不一致のあることが発見されたこと、昭和五〇年法律第六一
号附則三条による改正前の私立学校法五九条八項の規定する学校法人は、昭和四六
年度以降同年文部省令第一八号学校法人会計基準の定めるところに従い会計処理を
行い、財務計算に関する書類を作成することが義務づけられていたが、右会計基準
の骨子は、すべての取引について複式簿記の原則によつて正確な会計帳簿を作成
し、財政及び経営の状況を正確に判断することができるように必要な会計事実を明
確に表示することにあつたこと、ところが被控訴人は昭和四六年四月から九月まで
の六か月間の会計処理を従来の方式によつて処理したため、昭和四六年度決算の段
階において年度当初に遡つて学校法人会計基準に従い会計事務を処理し直す必要に
迫られ、決算事務が幅湊し、多大の労力を要したことが認められ、原審及び当審に
おける被控訴人本人尋問の結果中、右認定に添わない部分は採用しない。
 しかしながら、他方において前掲各証拠によると、授業料振込み通知書の処理遅
滞の件については、昭和四七年三月卒業予定の学生の分に関する限り同年二月末ま
でにほとんど大部分の処理を完了したため、結果的には卒業認定事務に支障をきた
さなかつたこと、昭和四六年四月から学校法人会計基準に従つて会計事務を処理す
るためには、同年三月三一日現在の基本財産を確定し、これに基づき貸借対照表を
作成することが先決であつたが、右基本財産を明確化することが困難であり、当
時、財務部においては簿記会計について十分な知識を有する要員が不足しており、
これに通暁しているのはB財務部長と被控訴人の両名にすぎず、また控訴人学園で
は職員との間にいわゆる三六協定が締結されていた形跡がないため残業を命じ得る
法的根拠もなく、通常の勤務時間内では日常の会計事務以外に学校法人会計基準に
従つた事務処理体制に切替える準備を整えることが困難であつたこと、B財務部長
は消極的な性格の持主で、右の現状を前提として学校法人会計基準による事務処理
方式に移行することには不熱心であり、昭和四六年四月の年度当初に被控訴人を含
む部下一同に対し会計事務処理方式の切替えについて必要な指示を与えなかつたの
はもちろん、その後においても切替えについて部下を督励しなかつたこと、また、
同年度の決算事務処理が遅れたのは、右事務の中心となるべき被控訴人が昭和四七
年三月未に解雇され、後記のように同年五月以降は全く出勤しなくなつたことの影
響もあること等の事情もあることがうかがわれる。
 以上の事実を総合勘案すると、被控訴人は財務部主任(課長待遇)としてその職
務を怠つた責任を問われる余地はあるものの、その責任の程度が特に重大であると
は認め難いものといわなければならない。」
2 原判決三七枚目裏七行目の「、5振込み通知書の処理遅滞」を削り、同枚目裏
九行目の「3ギターの件」の次に「5財務部主任としての職務怠慢」を加え、同三
八枚目表四行目の「極めて薄弱であつて、」から同枚目表九行目までを次のとおり
改める。
「薄弱であるといわざるを得ない。就業規則一四条二号にいう「勤務成績または能
率不良で職務に適しないと認めるとき」とは、それが解雇事由として定められてい
ることを考慮にいれて解釈するときは、当該職員の勤務成績又は能率が不良である
ことが本人の素質、能力、性格等に基因するもので、その結果、現に就いている特
定の職に限らず、被控訴人学園内において転職の可能な他の職をも含めて、これら
すべての職について適格性を有しないと認められる場合を意味するものと解すべき
であるが、被控訴人に責められるべき点があると認定された被控訴人の行為にして
も、これをもつて中間管理職たる主任(課長待遇)としての適格性についての消極
的判断要素とすることができるかどうかは別問題として、右行為自体に照らし被控
訴人には一般事務職員としての適格性すらないとまで断定することは到底不可能で
ある。
 よつて、被控訴人の前認定の行為から同人に就業規則一四条二号所定の普通解雇
事由があると認めることはできないし、また、右の程度の非違行為があつたからと
いつて、就業規則一四条四号所定の普通解雇事由である「その他やむを得ない事由
があるとき」に該当するということもできない。」
三 本件解雇は右に説示したとおり無効であるから、被控訴人は依然として控訴人
に対し労働契約上の権利を有するものというべきである。
そこで、以下、被控訴人の賃金請求について判断する。
1 給与月額について
 控訴人学園においては、給与は、毎月一日から末日までを一か月として計算し、
毎月二〇日に支給するものと定められていること、被控訴人が昭和四七年三月当
時、毎月の給与として、基本給五万八、二〇〇円、職務給一万五、〇〇〇円、家族
手当四、〇〇〇円、通勤手当四、一三〇円の支給を受けていたことは、当事者間に
争いのないところであるが、同年四月以降被控訴人の受けるべき給与月額について
は争いがあるので、順次検討する。
(一) 基本給
 控訴人学園においては、給与規定上、昇給は原則として毎年一回一級俸づつ行う
旨定められていることは当事者間に争いがなく、当審証人Aの証言によつて真正に
成立したと認める乙第四〇号証によると、右定期昇給の実施時期は毎年四月である
ことが認められる。右の給与規定は労働契約の内容をなすものであるから、別異に
解すべき特段の事情のないかぎり、控訴人学園の教職員は右の昇給を受けうるもの
というべきであり、本件解雇後も被控訴人は毎年四月に一級俸づつ上位の級俸に昇
給したものと見做すのが相当である。もつとも、右A証言及びこれによつて真正に
成立したと認める乙第四一号証、第四二号証の三、四によると、昇給した場合に
は、控訴人は新給与額の通知書(辞令)を最初に支給する給与の袋に入れて受給者
に通知していることが認められるけれども、本件解雇後の被控訴人に対しては控訴
人があえて右の措置をとらなかつたのであるから、被控訴人に右の通知書が交付さ
れなかつたことにより右の判断が左右されるものではなく、他に右の判断を覆えす
に足りる特別の事情は認められない。
 しかして、成立に争いのない甲第八ないし第一二号証、当審証人Dの証言、同証
言によつて真正に成立したと認める甲第七号証、第二三号証、第二六号証による
と、昭和四五年以降、毎年六、七月ごろ上野学園教職員組合と控訴人との間で賃金
のベースアツプ等に関する協定が締結され、右協定に基づき俸給表が改定されてき
たこと、事務職員の俸給表において定められている各給俸ごとの俸給額及びその年
度(毎年四月一日から翌年三月末日までをいう。以下同じ)別の推移は別表第四に
掲げるとおりであること、年度の途中で俸給表が改定された場合において、改定後
の俸給表は、協定中で別段の定めがなされないかぎり、部長の職に在る者を除くす
べての事務職員に対し年度当初の四月にさかのぼつて適用されるものであることが
認められる。当審証人Aの証言及び前掲乙第四〇、第四一号証の記載中には、ベー
スアツプにかかる分は主任以上の役職者には一律に支給される建前ではない旨の部
分があるが、これらの証拠によつても控訴人は主任以上の役職者に対しベースアツ
プ分を一般職員に準じて支給していることがうかがわれるのみならず、乙第三九号
証の給与規定(訂正部分以外の部分は、成立に争いがなく、訂正部分は前掲A証言
により真正に成立したものと認められる。)によれば、俸給表は給与規定の一部を
なすものであり、一般職員と主任以上の役職者とが別異の俸給表の適用を受ける仕
組みにはなつていないことが明らかであるから、これらの点に照らすと、前掲A証
言及び乙第四〇、第四一号証の記載はたやすく採用することができず、他に上記認
定を左右すべき証拠はない。
 以上に認定した事実と前掲D証人の証言及びこれによつて真正に成立したと認め
る甲第二五号証によれば、被控訴人の基本給は、昭和四七年度は二〇級俸六万四、
〇〇〇円、昭和四八年度は二一級俸八万二、二〇〇円、昭和四九年度は二二級俸一
一万二、五〇〇円、昭和五〇年度は二三級俸一四万二、四〇〇円、昭和五一年度は
二四級俸一七万四、七七六円(後記法人調整手当を含む)、昭和五二年度は二五級
俸二〇万九、〇〇〇円(同)であることが明らかである。
(二) 職務給
 前掲甲第二五号証によれば、昭和四七年度以降においても、職務給は従前と同様
一万五、〇〇〇円であることが認められる。
(三) 家族手当
 前掲甲第一〇ないし第一二号証、同第二五号証、乙第三九号証によれば、昭和四
七年度から昭和五二年度までの控訴人の給与規定における家族手当の支給額の基準
並びに被控訴人(扶養家族三人)の受けるべき家族手当の額は、次のとおりであ
る。
(1) 昭和四七年度から昭和四九年度まで
 扶養家族二人までは一人につき一、五〇〇円、三人目から一人につき一、〇〇〇
円、被控訴人の受けるべき額は四、〇〇〇円(昭和四六年度と同じ。)
(2) 昭和五〇年度
 第一扶養者五、〇〇〇円、その他の扶養者一人につき三、〇〇〇円、被控訴人の
受けるべき額は一万一、〇〇〇円
(3) 昭和五一年度
 第一扶養者七、〇〇〇円、その他の扶養者一人につき五、〇〇〇円、被控訴人の
受けるべき額は一万七、〇〇〇円
(4) 昭和五二年度
 第一扶養者八、五〇〇円、その他の扶養者一人につき五、五〇〇円、被控訴人の
受けるべき額は一万九、五〇〇円
(四) 通勤手当
 控訴人がその教職員に支給する通勤手当の額は一か月の通勤定期券代の実費相当
額であることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨により真正に成立したと認め
る乙第九号証(通勤手当支給細則)によると、通勤手当の支給対象者である職員が
出張、休暇、欠勤その他の事由により、月の一日から末日までの期間の全日数にわ
たつて通勤しない場合には、その月の通勤手当は支給しないと定められていること
が明らかである。労働者が出張又は年次有給休暇により通勤しなかつた場合であつ
ても、使用者は賃金の支払義務を免れないわけであるが、本件においては、右のよ
うな事由により通勤しなかつたときでも、一か月の全期間にわたり通勤しなかつた
以上当月分の通勤手当は支給しない旨定められているのであるから、控訴人学園の
教職員に支給される通勤手当は、労務の対価の性質を有するものとは認め難く、む
しろ前記認定事実に照らすと実費弁償の性質を有するものと解するのが相当であ
る。
 しかして、原審証人Aの証言及び原審における被控訴人本人尋問の結果による
と、被控訴人は、解雇通告を受けた後も昭和四七年四月中は従来どおり出勤し、解
雇の撤回を要求するかたわら職場において伝票の整理等の仕事に従事していたが、
再三にわたり上司から出勤の必要はない旨告げられたため、同年五月以降は全く出
勤しなくなつた事実が認められる。そうすると、被控訴人は控訴人に対し、昭和四
七年四月分の通勤手当として同年三月分と同額の四、一三〇円を請求することはで
きるが、同年五月以降の分については、通勤手当を請求する権利はないものといわ
なければならない。
2 その他の諸手当について
(一) 被控訴人が本件解雇通告を受けた当時控訴人から毎月の給与以外に期末手
当(その支給日は毎年三月三一日)、夏期手当(その支給日は毎年七月三一日)、
冬期手当及び法人調整手当(その支給日は両者とも毎年一二月三一日)の支給を受
けていたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一三ないし第二一号
証、同第二四号証、前掲甲第二五号証、当審証人Dの証言及びこれによつて真正に
成立したと認める甲第二二号証によれば、控訴人学園の一般事務職員に対する昭和
四七年度から昭和五二年度までの各年度における前記諸手当の支給基準及び右支給
基準を被控訴人に適用したとすれば被控訴人が支給を受け得たであろうと考えられ
る右諸手当の額は、別表第五記載のとおりであることが認められる。
(二) ところで、前掲乙第四〇、第四一号証、当審証人Aの証言及びこれによつ
て真正に成立したと認める乙第四三号証によれば、主任以上の役職者に対する賞与
(夏期手当、冬期手当及び年度末手当をいう。以下同じ。)については、前記一般
職員に対する支給基準を機械的にそのまま適用するのではなく、各人の勤務成績等
を勘案して支給額を査定する取扱いが行われてきたことが認められ、この点におい
て役職者に対する賞与の支給額には若干裁量的要素が含まれていることは否定し得
ないところである。しかしながら、本件におけるように控訴人が雇用関係の存在そ
れ自体を否認し、被控訴人に支給すべき賞与の具体的数額の査定を行わなかつた場
合に、査定がなされていないことを理由として具体的な賞与請求権が未発生である
と解するのは相当でなく、信義則上、被控訴人は通常の成績で勤務した場合に支給
を受けたであろうと考えられる額の賞与請求権を有するものと解すべきであり、そ
して、特段の事情の認められない本件では、その額は、役職者以外の一般事務職員
に対する支給基準によつて算定すべきものとするのが相当である。
(三) 成立に争いのない乙第一七号証の八及び九、前掲甲第二四号証、当審証人
Aの証言によると、法人調整手当とは、特別手当とも呼ばれているが、毎年五月一
日現在の在籍者について東京都から交付される私立学校教職員待遇改善助成金の交
付対象とならなかつた職員に対し、控訴人が、右助成金の配分を受ける職員との権
衡を考慮して、控訴人独自の財源により調整金として支給するものであることが認
められる。したがつて、法人調整手当が東京都から交付を受けた助成金の配分その
ものであることを前提とする控訴人の主張は、採用することができない。また、弁
論の全趣旨によれば、法人調整手当の支給基準については、一般事務職員と役職者
との間に差異はないものと認められる。
3 以上によれば、昭和四七年四月一日から原審口頭弁論終結日である昭和四九年
四月二五日までの賃金額は別表第一の当審認定賃金額欄記載のとおりであつて、そ
の合計額は三四四万七、七七五円となり、また、昭和四九年四月二六日から昭和五
三年三月三一日までの賃金額は別表第二の当審認定額欄記載のとおりであつて、そ
の合計額は一、二八一万三、二七四円となる。
四 次に、控訴人主張の消滅時効の抗弁について判断する。
1 記録によると、次の事実が明らかである。
(一) 被控訴人は、原審において、被控訴人が控訴人に対し労働契約上の権利を
有することの確認を求めるとともに、控訴人に対し、昭和四七年四月一日から原審
口頭弁論終結日である昭和四九年四月二五日までの賃金として合計金二七八万一、
七六七円の支払を求め、原裁判所は右労働契約上の権利の確認請求を認容するとと
もに、賃金支払請求のうち金二六七万九、一九七円について請求を認容した。
(二) 被控訴人は、当審において、原審の審理判断を経た昭和四七年四月一日か
ら昭和四九年四月二五日までの賃金の支払を求める請求については請求額を金三五
九万一、六七八円に拡張して、控訴人に対し原審認容額以外に金九一万二、四八一
円の追加支払を求めたほか、当審における新訴請求として、昭和四九年四月二六日
から昭和五三年三月三一日までの賃金合計一、二二五万二、四〇九円の支払を求め
るにいたつた。
(三) 従来の請求についての請求の拡張は昭和五二年六月一三日付け請求の趣旨
拡張の申立書及び同年七月一三日付け附帯控訴状によつて行われ、新訴請求は、昭
和四九年四月二六日から昭和五二年三月三一日までの賃金にかかる部分は右各書類
により、昭和五二年四月一日から昭和五三年三月三一日までの賃金にかかる部分は
昭和五三年五月一五日付け附帯控訴状(請求拡張申立書)によつて行われた。
2 控訴人は、従来の請求につき被控訴人が当審で請求を拡張した部分は、原審で
訴訟物とならなかつたものであり、請求拡張時に支払期日から既に二年を経過して
いた賃金債権については、右拡張部分につき時効が完成している旨主張する。しか
し、原審で訴訟物となつた賃金債権は、昭和四七年四月一日から昭和四九年四月二
五日までの賃金債権の全部であり、被控訴人は、右賃金債権の数額を原審において
は二七八万一、七六七円であると主張してその全額を請求していたところ、当審に
おいてこれを三五九万一、六七八円であると主張して請求を拡張したのにすぎず、
右請求拡張部分も右訴訟物である賃金債権の同一性の範囲内にあるものであること
は明らかであるから、本訴の提起により前記期間における賃金債権の全部にわたつ
て時効中断の効力が生じているものというべく、当審における請求拡張部分が独立
して時効にかかるものではない。
3 もつとも、当審における訴えの追加的変更にかかる賃金支払請求権は原審にお
ける訴訟物には含まれなかつたものであり、昭和四九年四月二六日から昭和五二年
三月三一日までの賃金の支払を求める新訴請求を記載した昭和五二年六月一三日付
け請求の趣旨拡張の申立書が当裁判所に提出された時には、既に昭和五〇年五月分
までの賃金債権は支払期日の到来後二年以上経過していたことが明らかである。し
かしながら、本件においては、前記のとおり、控訴人は、解雇を理由に被控訴人と
の間の雇用関係の存在を争い、被控訴人から控訴人に対して労働契約上の権利の確
認請求の訴えが提起されているところ、労働契約上の労働者の権利の中核をなすも
のは、いうまでもなく賃金請求権であるから、右確認請求の訴えは賃金請求権の行
使の一態様とみることができ、その裁判上の請求に準ずるものと認めるのが相当で
ある。したがつて、右のように労働契約上の権利の存在について確認訴訟が係属し
ている場合には、右訴訟係属中に右労働契約上の基本的な権利ないし法律関係から
定期的に派生する個々の賃金債権の消滅時効は、履行期が到来してもその進行を開
始するものではなく、右確認訴訟の判決の確定をまつてはじめてその進行を開始す
るものと解すべきであるから、当審で提起された新訴請求にかかる賃金債権につい
ては、時効期間が進行する余地はない。
4 よつて、控訴人の消滅時効の抗弁は、いずれも理由がないので、採用すること
ができない。
五 最後に、解雇期間内の被控訴人の中間収入を賃金額から控除すべきであるとの
控訴人の主張について判断する。
1 被控訴人が昭和五一年一月以降訴外キヤセイ販売株式会社に勤務し、昭和五一
年一月から昭和五二年一二月まで毎月一六万二、〇〇〇円、昭和五三年一月からは
毎月一八万二、〇〇〇円の給与収入を得ていることは当事者間に争いがない。控訴
人は、被控訴人の昭和五二年一月から同年一二月までの給与収入は、毎月一八万
二、〇〇〇円であつた旨主張するけれども、右主張事実を肯認し得る証拠はない。
2 使用者から不当解雇処分を受け、労務の受領を拒否された労働者は、賃金請求
権を失うものではないが、右労働者が解雇期間内に第三者のため労務に服し収入を
得た場合には、使用者に対する給付を免れた労務と第三者に給付した労務との間に
その種類及び態様において重大な差異がないかぎり、労務の給付を免れたことと右
別途収入を得たこととの間には相当因果関係があり、右収入は民法五三六条二項但
し書にいう債務を免れたことにより得た利益に該当し、使用者に対し償還すべきも
のと解するのが相当である。けだし、右収入は、第三者との間の別個の労働契約に
基づくものであるとはいえ、労働者が使用者に対する勤務に服し、そのため費消す
べき労働力を他に転用した結果その対価として取得したものであり、また、解雇期
間中に労働者が他に就業することは予想し得ないものではないからである。
3 もつとも、賃金請求権と利益償還請求権とは別個独立の原因に基づいて生ずる
ものであるから、労働者が利益償還義務を負う場合であつても使用者は賃金の全額
について給付義務を免れず、使用者が労働者の償還すべき利益相当額を労働者に支
払うべき賃金から控除するのは、実質的に見れば相殺に該当するものといわざるを
得ないが、労働基準法二四条一項は、労働者に対する賃金の全額払の原則を掲げて
おり、例外的に、法令に別段の定がある場合にのみ賃金の一部を控除して支払うこ
とができるものとしているので、前述のような償還利益の控除(相殺)が法令上許
容されているかどうかについて考察する必要がある。
 まず、労働基準法二四条一項にいう法令に別段の定がある場合とは、必ずしも明
文の規定が設けられている場合に限られず、当該法令の解釈上賃金の一部控除が許
容されていると認められる場合を含むことはいうまでもない。
 ところで、同法二六条は、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合において
は、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を
支払わなければならないと規定しているが、ここにいう休業とは個々の労働者の労
務の履行不能の場合もこれに含まれるものと考えられるので、同条の規定は、労働
者が民法五三六条二項にいう債権者である使用者の責に帰すべき事由によつて就労
できなかつた場合、即ち不当解雇の場合にもその適用があるものと解すべきであ
る。そして、労働基準法二六条は民法の原則を排除したものではなく、労働者が債
務を免れたことによつて使用者に対し償還すべき利益がある場合には、使用者が賃
金全額を一応支払つたうえ右利益の償還を受けるという手続の繁を省き、その決済
手段を簡易化するため、右償還すべき利益の額をあらかじめ賃金額から控除し得る
ことを前提としたうえ、労働者の生活保障の見地から、労働者の有する賃金債権の
うち、平均賃金額の六割を超える部分についてのみ右利益控除の対象とすることを
許容し、右平均賃金額の六割に達するまでの部分については利益控除の対象とする
ことを禁止したもの、と解するのが相当である。
4 したがつて、控訴人が被控訴人に支払うべき解雇期間中の賃金額から右期間内
に被控訴人が他に就職して得た収入額を控除することは、全く許されないわけでは
なく、右賃金額のうち平均賃金額の六割に達するまでの部分については控除対象と
することが禁止されているが、これを超える部分から右収入額を控除することは許
されるものと解すべきである。もつとも、労働基準法二六条の果たすべき前述のよ
うな利益調整機能と労働者の生活保障機能の権衡上、賃金から控除し得る償還利益
は、その利益の発生した期間が賃金の計算の基礎となる期間と時期的に対応するも
のであることを要し、ある期間の賃金から、それとは時期を異にする期間内に得た
利益を控除することは、同条が控除を許容する範囲から逸脱し、許されないものと
いうべきである。
5 以上の見地のもとに、被控訴人が支払を受けるべき賃金額から、同人のキヤセ
イ販売株式会社から得た収入額が控除(相殺)されることになるが、その前提とし
て、被控訴人の平均賃金を確定する必要がある。
 労働基準法一二条は、平均賃金の算定方法を定めているが、同条一項にいう「こ
れを算定すべき事由の発生した日」とは、本件に即して言えば、控除の対象となる
個々の賃金の支払期日がこれに当たるものと解する。ところで、同条三項は、使用
者の責に帰すべき事由によつて休業した期間の日数及びその期間中の賃金は、同条
一項の平均賃金算定の基礎となる期間及び賃金の総額から控除する旨規定し、労働
基準法施行規則四条は、右の休業期間が平均賃金を算定すべき事由の発生した日以
前三か月以上にわたる場合の平均賃金は都道府県労働基準局長の定めるところによ
る旨規定している。本件は正にこの場合に該当するわけであるが、所轄労働基準局
長がどのような定めをしているかを明らかにする資料がない。そこで本件では、前
記三において認定した被控訴人が解雇なかりせば支給を受けたであろう賃金額を基
礎とし、算定事由の発生した日の前日から遡る三か月間における被控訴人の右賃金
の総額を、その期間の総日数で除した金額をもつて、個々の賃金の支払期日におけ
る被控訴人の平均賃金とすることとする。
 しかして、その計算の経過及び結果は別表第六の平均賃金計算表に示すとおりで
あり、毎年支給される夏期手当、冬期手当及び法人調整手当は、労働基準法一二条
四項にいう三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金に該当するので、同条一項の
賃金の総額に算入しないが、年度末手当は、毎年一月一日から三月三一日までの三
か月を計算期間として支給されるものと認められるので、同条一項の賃金の総額に
算入すべきものと解する。
6 そこで、被控訴人に支払われるべき昭和五一年一月一日から昭和五三年三月三
一日までの賃金(夏期、冬期、年度末各手当を含む)から右期間における前記キヤ
セイ販売株式会社からの対応する時期における給与収入の控除(相殺)を行つた結
果は、別表第七の中間収入の控除に関する計算表記載のとおりであり、右期間にお
ける中間収入控除後の賃金額は、別表第二番号27から同表番号60の各認容額欄
に掲げるとおりである。
 以上の次第であるから、控訴人の抗弁は一部理由がある。
六 結論
1 被控訴人の第一審以来の請求について
 本訴請求中、被控訴人が控訴人に対し労働契約上の権利を有することの確認を求
める部分と、昭和四七年四月一日から昭和四九年四月二五日までの賃金として別表
第一の当審認定賃金額欄記載の賃金合計三四四万七、七七五円(昭和四七年四月分
の通勤手当四、一三〇円を含む。)及びそのうち別表第一の当審認定賃金額欄記載
の各金額に対する同表の遅延損害金起算日欄に掲げる日から支払ずみまで年五分の
民事法定利率による遅延損害金の支払を求める部分は正当として認容すべきである
が、これを超える金員の支払を求める部分は失当として棄却すべきである。
 そうすると、控訴人の本件控訴は理由がないので、民事訴訟法三八四条により本
件控訴を棄却し、他方、被控訴人の附帯控訴は、一部理由があるので、原判決中被
控訴人の敗訴部分を変更して、原審認容額以外に当審認定賃金額と原審認容額との
差額合計金七六万八、五七八円及び別表第一の当審追加認容額欄記載の各金額に対
する同表の遅延損害金起算日欄に掲げる日から支払ずみまで年五分の民事法定利率
による遅延損害金の被控訴人への追加支払を控訴人に命ずることとし、被控訴人の
その余の金員支払請求を棄却することとする。
2 被控訴人の当審における新訴請求について
 昭和四九年四月二六日から昭和五三年三月三一日までの賃金として合計一、二二
五万二、四〇九円及びそのうち別表第二の請求額欄記載の金額に対する同表の遅延
損害金起算日欄に掲げる日から支払ずみまで年五分の遅延損害金の支払を求める被
控訴人の新訴請求は、別表第二の認容額欄記載の各金額の合計金八七〇万九、九五
九円及び右認容額欄記載の各金額に対する同表の遅延損害金起算日欄に掲げる日か
ら支払ずみまで年五分の遅延損害金の支払を求める限度で正当として認容し、その
余を失当として棄却すべきである。
3 よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九五条、九六条、
仮執行宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 外山四郎 近藤浩武 鬼頭季郎)
(別表省略)

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