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判決言渡平成19年12月25日
平成19年(ネ)第10065号損害賠償等請求控訴事件(原審・東京地裁平成1
8年(ワ)第28323号)
口頭弁論終結日平成19年10月30日
判決
控訴人株式会社自然健康館
訴訟代理人弁護士中山徹
同大橋君平
同柳楽晃秀
被控訴人金秀バイオ株式会社
訴訟代理人弁護士石原修
同森崎博之
訴訟代理人弁理士石田昌彦
訴訟代理人弁護士当山尚幸
同絹川恭久
同保田盛清士
同高良祐之
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴人の当審における請求をいずれも棄却する。
3当審における訴訟費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴人の求めた裁判
1控訴の趣旨
(1)原判決を取り消す。
,(2)被控訴人は,原判決別紙「被告標章目録」1記載の標章を,その製造し
販売するモズク加工食品の容器,包装並びに広告に付し,又は,同標章を付
したモズク加工食品を譲渡し,若しくは譲渡のため展示してはならない。
(3)被控訴人は,控訴人に対し,906万8544円及びこれに対する平成
18年12月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)訴訟費用は,第1,2審を通じて,被控訴人の負担とする。
(5)仮執行宣言
2当審における請求
上記1(2)(3)と同じ
第2事案の概要
1一審原告である控訴人は,下記「原告商標」記載のとおりの内容を有する原
判決別紙「登録商標目録」記載の商標(以下「本件商標」という)の商標権。
者であるところ,本件訴訟は,控訴人が一審被告である被控訴人に対し,その
製造するモズク加工食品(被告商品)の容器・包装に下記「被告標章」記載の
とおりの内容を有する原判決別紙「被告標章目録」2記載の標章を付して販売
しその広告にも同標章を付しているとして,上記商標権の侵害を理由に原判決
別紙「被告標章目録」1記載の標章(SUPERFUCOIDANスーパ
ーフコイダン)の使用の差止め及び平成18年5月から同年10月までの損害
賠償金906万8544円とこれに対する平成18年12月30日(訴状送達
日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めたも
のである。
原審の東京地裁は平成19年7月26日,本件商標と被告標章とは非類似で
あるとして,原告の請求をいずれも棄却した。
そこで,上記判決に不服の控訴人が,本件控訴を提起した。

〔原告商標(本件商標〕)
・商標・指定商品
第29類
「海藻エキスを主材料とする液状又は粉状の
加工食品」
第32類
「清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース」
・出願平成16年10月13日
・登録平成17年5月13日
(登録第4862117号)
〔被告標章〕
2当審に至り控訴人は,被控訴人の行為は不正競争防止法2条1項1号所定の
不正競争行為に該当するとして,上記1と同内容の差止め及び損害賠償請求を
追加した。
3争点は,原告商標(本件商標)と被告標章の類否及び不正競争防止法2条1
項1号該当事由の有無等である。
第3当事者双方の主張
1当事者双方の主張は,次に付加するほか,略称も含め,原判決の「事実及び
理由」欄の第2「事案の概要」のとおりであるから,これを引用する。
2控訴人
(1)原判決の当否に関する主張
ア原判決は,商標全体が1商標としての識別機能を果たしているので「自
然健康館スーパーフコイダン」という本件商標全体を要部と解するのが相
当であると認定したが,本件商標は,その構成が「自然健康館」と「スー
パーフコイダン」の二段併記になっており,一般需要者が取引に際して見
たときは,外観的に両者を区分して認識し,前者の「自然健康館」の部分
はいわゆるハウスマークとして出所識別機能を,後者の「スーパーフコイ
ダン」はグッズマーク(商品識別マーク)として,それぞれ自他商品識別
機能を果たしていると認識する。そのため,本件商標の要部は,商標構成
全体を要部とするだけではなく「自然健康館」と「スーパーフコイダ,
ン」という各部分についても独立した自他商品識別力を発揮しているもの
として,これらの部分も要部であると認定すべきである。
したがって,本件商標の要部観察の対象として観念される部分は3部分
あるにもかかわらず,原判決が商標の構成全体だけを要部観察の対象とし
て判断したのは,事実の認定に誤りがあり,また,他の要部の部分を考慮
しない理由を示さなかったものであるから,理由に不備がある。
イ(ア)上記アのとおり,本件商標からは3部分の要部が認定されるから,
本件商標全体の構成「自然健康館スーパーフコイダン」からは「しぜ
んけんこうかんすーぱーふこいだん」の称呼が「自然健康館」の部分,
からは「しぜんけんこうかん」の称呼が「スーパーフコイダン」の部,
分からは「すーぱーふこいだん」という称呼が生じる。
(イ)そして,本件商標では,全体構成から出る「しぜんけんこうかんす
ーぱーふこいだん」なる称呼は,非常に長い称呼となるため,このよ
うな称呼の商品の場合,取引の際には,これらの一部分を省略した略
称を使用する場合の多いことは,取引の経験則上公知の事実である。
しかも,本件商標の構成が,二段併記になっていることと「自然健康,
館」がハウスマークとして「スーパーフコイダン」がグッズマーク,
(商品識別マーク)として,それぞれ認識されることから,その商品
は「スーパーフコイダン」と略称して商品取引されるものであり,そ,
れが常態的な取引形態である。このことは,特許庁の商標審査基準に,
「長い称呼を有するために,商標の一部分によって簡略化される可能
性のある商標は,原則として,その簡略化される可能性のある文字の
みからなる商標と類似する」とされていることからも裏付けられる。
(ウ)しかも,原判決は「自然健康館スーパーフコイダン」ではなく,,
本件商標の構成要素の一部である「スーパーフコイダン」を抽出し,
更にこれを「スーパー」と「フコイダン」に分離して認識し,前者の
「スーパー」からは「高品質な」という意味があるとし,後者の「フ
コイダン」からは「本件商標の出願時(平成16年10月)において,
…海藻類に含有される硫酸化多糖類で,健康食品の主成分に用いられ
る物質であり,がん細胞等に対し効果があるといわれているものとし
て,広く知られていたことが認められる(15頁下4行∼16頁1。」
行)とする。
すなわち,原判決は,要部の認定に際しては,本件商標について,
全体観察を強調して本件商標は全体として一体の商標として認識すべ
きであるとするのに対し,称呼の抽出に際しては,逆に必要以上に分
離観察を繰り返し「フコイダン」の用語だけを取り出し,その用語観,
念(意味合い)にこだわり「スーパーフコイダン」はそれ自体では出,
所識別力を有せず,本件商標の要部とはなり得ないと判断しているも
のであって,要部の認定に際しての認定方法と,称呼の認定に際して
の認定方法とで,その認識の仕方が著しく相違しているものである。
このように同じ商標の認識の仕方が,都合により相違する結果を招来
してしまうのは,論理的に矛盾するものといわざるを得ない。
ウ(ア)次に原判決は「フコイダン」なる用語は,海藻類の成分を抽出し,
て作られた健康食品の原材料を表示する用語であると認定し,更に
「フコイダン」という用語は「本件商標の出願時(平成16年10,
月)において,いわゆる健康食品の取引者及び需要者の間で,海藻類
に含有される硫酸化多糖類で,健康食品の主成分に用いられる物質で
あり,がん細胞等に対し効果があるといわれているものとして,広く
知られていたことが認められる(15頁下4行∼16頁1行)とす。」
るが,誤りである。
(イ)すなわち「フコイダン」は,馴染みのない専門用語であり,化学,
的には厳格な物質として特定がなされていない概念の用語である。ま
た分子量が小さいものから大きいものまで大きく異なる多様な物質の
総称であり,その生理作用についても,全てにあるのか一部にあるの
かも不明な極めて曖昧な概念の用語である。さらに,いわゆる健康食
品には,生理作用やその効果について表示したり広告したりできない
という制約があるため,原判決が指摘するような,がん細胞等に対し
効果がある物質であるなどという生理作用や効果までが,取引者及び
需要者に広く知られていたとすることは,その情報を得るための前提
を欠くものである。
(ウ)しかも,本件商標の構成要素は,単なる「フコイダン」ではなく
「スーパーフコイダン」であるところ,この「スーパーフコイダン」
という用語が,当該商品の取引において原材料の表示として使用され
た事実はない。
(エ)原判決が挙げる学術文献や学術的辞書の引用文からは,せいぜい
「フコイダン」は「海藻類の硫酸化多糖類」を表す「学術用語」であ
るといえるに止まる。
そもそも,普通名称化したものであることが認定されるためには,
同業者間の認識のみでは足らず,少なくとも一般消費者が普通名称化
していることを認識することが必要であるが,更にそれのみならず,
当該商品の取引者間において現実に普通名称として使用されているこ
とを必要とする。したがって,辞書やその他の一般刊行物,当該取引
に関係ない学問的・技術的文献,講演等において普通名称であるかの
ように使用されているのみでは足りない。
この点,原判決が挙げる業界誌及び雑誌のうち,健康産業新聞はそ
もそも学術文献に類するものであり(乙32の2〔2001年(平成1
3年)5月9日付け健康産業新聞,乙33〔2003年(平成15〕
年)10月15日付け健康産業新聞〕等にも「学術情報「学術報,」,
告」の欄がある「フコイダン」が学術用語として使用されているこ),
とを表すに止まるだけでなく,熟年生活応援マガジン「はいから」2
003年(平成15年)春号〔甲6,平成15年7月3日発行の「女〕
性セブン〔甲7,ビジネス情報誌「エルネオス」2004年(平成」〕
16年)2月号〔甲8「がんを治す完全ガイド」2004年(平成〕,
16年)2月号〔甲9「週刊ポスト」2004年(平成16年)7〕,
月2日号〔甲10〕においては,控訴人が他社に先駆けて「フコイダ
ン」ないし「スーパーフコイダン」を自己の標章として使用し「フコ,
イダン」の名が取引者,消費者に知られるようになった事実が示され
ている。
エ仮に,原判決のいうように「フコイダン」ないし「スーパーフコイダ
ン」が普通名称の部類に属するとしたとしても「スーパーフコイダン」,
は,自他商品識別機能を有するものである。
すなわち,最高裁平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号
5009頁は,著名商標と結合した識別力の弱い構成部分も,具体的取引
の実情において出所の識別標識として使用されている等の特段の事情が認
められる限り,商標法3条第2項の趣旨を類推して,識別力を取得するこ
とがある旨判示する。
しかるに,控訴人は遅くとも平成13年7月頃には,他に先駆けて「ス
ーパーフコイダン」を控訴人が販売する商品の標章として使用し,以後,
現在に至るまで,同商品の標章として「スーパーフコイダン」を単独で,
使用し,或いは「スーパーフコイダン」を「F」と共に使用し,または
「SUPERFUCOIDAN」と英記して使用し,販売実績を積んで
きている。
すなわち,控訴人は,平成17年5月から平成18年4月までの1年間
において,少なくとも687万8600ミリリットルの「スーパーフコイ
ダン」を販売し,年間1億8217万2000円の販売高を上げ,平成1
3年7月から本年までの6年の間には,少なくともその5ないし6倍の販
売実績を上げてきている。
そして,マスメディアにおいても,著名雑誌である「女性セブン」にお
いて,発売元を控訴人と明示の上「自然健康館スーパーフコイダン」の,
二段表記ではなく「スーパーフコイダン」との標章で控訴人の商品が紹,
介され(甲7,同じく著名雑誌である「週刊ポスト」においても,やは)
り発売元を控訴人と明示の上「スーパーフコイダン」との標章で控訴人,
の商品が紹介され(甲10,あるいは,癌患者の必備情報誌として多く)
の医療機関で半永久的に備え置かれている「がんを治す完全ガイド」にお
いても,発売元を控訴人と明示の上「スーパーフコイダン」及び「スー,
パーフコイダン」を「F」と共に使用する標章で控訴人の商品が紹介され
(甲9,その他,多くのマスメディアにおいても,控訴人の商品が同様)
の紹介のされ方をしてきており(甲6,8等,その訴求効果は大きい)
(甲26,27,28の1∼3。)
さらに,顧客のみならず,販売代理店や医師の間においても「スーパー
フコイダン」という単独の標章が,控訴人の商品に係る標章であると広く
認知されている。
以上の事実からすれば,具体的取引の実情においては,本件商標たる
「自然健康館スーパーフコイダン」の「スーパーフコイダン」の部分が出
所の識別標識として使用されていることは明白であり,上記最高裁判決の
いう「特段の事情」があるといえる。
オそして,原判決における本件商標と被告標章の類否についての判断は誤
りであり,両者は類似するというべきである。
(ア)前記イのように,本件商標から抽出される称呼は「しぜんけんこ,
うかんすーぱーふこいだん」だけではなく,本件商標の要部観察から
「しぜんけんこうかんすーぱーふこいだん」と「しぜんけんこうか
ん」と「すーぱーふこいだん」という3つの称呼が生じる。そして,
「しぜんけんこうかんすーぱーふこいだん」なる称呼は,長い称呼で
,あるため,取引の際には一部省略されて称呼されるのが一般的であり
「自然健康館」は,いわゆるハウスマークとして機能しているため,
結局,称呼としては「すーぱーふこいだん」と略称されて取引される
のが実情である。
(イ)さらに,原判決における観念類否の考察は,商標構成文字を単に比
較しただけで,両者の観念(意味合い)を実質的に比較検討したもの
ではない。
原判決は,観念類否を考察するときには「自然健康館スーパーフコ
イダン」全部が一体で要部であると認定しておきながら,要部認定に
際しては,商標構成要素の中から「スーパーフコイダン」だけを分離
抽出し,さらに,これを「スーパー「フコイダン」に分離して,観」
念を論じ要部ではないとしている。
要部観察の際には,本件商標を必要以上に分離して認識し,その観
念を論じておきながら,観念類否の考察では全体を一体不可分の商標
として認識し,全体で一つの観念しかないとする判断は,論旨矛盾が
あるといわざるを得ない。そして,前記のように,商標の要部が3部
分あれば,観念においても3つの観念が生じていると考えるべきであ
り,二段併記されていることが原因で分離して認識される「自然健康
館」と「スーパーフコイダン」は,いずれも要部であり,それぞれに
ついても観念が認定されるべきである。
(2)不正競争防止法に基づく請求に関する主張
被控訴人の行為は,以下のア∼エに照らし,不正競争防止法2条1項1
号所定の不正競争行為に該当するから,商標権侵害の場合と同様に,差止
め及び損害賠償を請求することができる。
ア「スーパーフコイダン」は控訴人の商品等表示である。
すなわち,控訴人は,平成13年7月頃から,控訴人の商品である海
藻エキスを主原料とする液状又は粉状の加工食品をウェブサイトあるい
は販売代理店を通じて顧客に販売し,控訴人の販売する商品を表示する
ものとして「スーパーフコイダン」との標章を用いている。
イ控訴人の「スーパーフコイダン」は消費者の間で周知となっている。
すなわち,控訴人は,控訴人の上記の商品を,控訴人の所在地である
,東京都を中心としつつ,日本全国に向けて販売しており,その販売実績
宣伝広告の状況からみて,遅くとも平成16年3月頃までには「スー,
パーフコイダン」の標章は,消費者の間で,控訴人の商品を表示するも
のとして周知となっていた。
すなわち,平成15年4月に控訴人の商品の紹介記事が掲載された季
刊誌「はいから」は12万部(甲28の3,同年7月に控訴人の商品の)
紹介記事が掲載された「女性セブン」誌は当時毎月平均40万部(甲2
6,平成16年2月に控訴人の商品の紹介記事が掲載された「エルネ)
オス」誌は2万3000部(甲28の1「がんを治す完全ガイド」誌),
は5万部(甲28の2)がそれぞれ販売されている。そして,これに控訴
人の商品の販売状況も併せてみれば「スーパーフコイダン」が控訴人,
の商品等表示として周知であったことは明らかである。
ウ被控訴人の行為は消費者に誤認混同を惹起せしめるものである。
すなわち,被控訴人は,平成16年3月頃から「スーパーフコイダ,
ン」の標章を付したモズク加工食品を顧客に販売しているところ,被控
訴人は,控訴人と同様に,被控訴人の商品をウェブサイトを通じて販売
していたものであるが,同種商品が多くウェブサイトを通じて販売され
ているにもかかわらず,あえて「スーパーフコイダン」との標章を選択
している。
そして,現に控訴人の顧客が,控訴人の商品と被控訴人の商品とを誤
認し,控訴人の販売代理店に問い合わせが寄せられていたものであるこ
とからすると,被控訴人のもとにも同様の問い合わせが多数寄せられて
いたことは推認に難くない。
すなわち,被控訴人は,控訴人の商品の信用にただ乗りする意図で
「スーパーフコイダン」との標章を用いて,商品の出所について消費者
に誤認混同を惹起せしめたものである。
エ控訴人の商品等表示と被控訴人の使用する標章は同一である。
すなわち,控訴人の商品等表示「スーパーフコイダン」と,被控訴人
商品に付された標章「スーパーフコイダン」は,全く同一である。
オ控訴人の被った損害額については,原判決の「事実及び理由」欄の第
3の4(1)において商標権侵害の主張として摘示されたものと同様である。
3被控訴人
(1)控訴人の2(1)アの主張に対し
控訴人は,本件商標は,その構成が「自然健康館」と「スーパーフコイダ
ン」の二段併記になっており,一般需要者が取引に際して見たときは,外観
的に両者を区別して認識し,前者の「自然健康館」の部分はいわゆるハウス
マークとしての出所識別機能を,後者の「スーパーフコイダン」はグッズマ
ーク(商品識別マーク)として自他商品識別機能を果たしていると認識する,
そのため,本件商標の要部は,商標構成全体を要部とするだけではなく,
「自然健康館」と「スーパーフコイダン」という各部分についても独立した
自他商品識別力を発揮しているものとして,これらの部分も要部であると認
定すべきである,と主張する。
しかし,原判決は「スーパーフコイダン」の部分が商標の要部として機,
能し得るものであるか否かを判断するために,まず「フコイダン」なる語,
が取引者及び需要者においていかなる意味に解釈されているかを学術文献,
業界誌及び雑誌並びに辞書の記載に基づいて詳細に検討した上で「…「フ,
コイダン」との用語は,本件商標の出願時(平成16年10月)において,
いわゆる健康食品の取引者及び需要者の間で,海藻類に含有される硫酸化多
糖類で,健康食品の主成分に用いられる物質であり,がん細胞等に対し効果
があるといわれているものとして,広く知られていたことが認められる」。
(15頁下4行∼16頁1行)と認定し,次いで,健康食品の分野において,
原材料の名称に「スーパー」を付した商品が多数販売されている事実ならび
に同様の商標の登録が特許庁に多数認められなかった事実などを検討し,健
康食品の分野において「スーパー」の文字は商品の誇示表示として一般的,
に使用されていると認定した上で「…本件商標権の指定商品である「海藻,
エキスを主材料とする液状又は粉状の加工食品」又は「清涼飲料,果実飲料,
飲料用野菜ジュース」の分野では「スーパーフコイダン」という用語は,,
高品質の「フコイダン,すなわち,高品質な,海藻類に含有される硫酸化」
多糖類が含有されていることを記述するにすぎないのであって,それ自体で
は出所識別力を有せず,本件商標の要部とはなり得ない…(17頁14行」
∼19行)と結論づけている。
したがって,原判決は「スーパーフコイダン」の部分が要部となり得る,
か否かを詳細に検討したうえで,本件商標の要部は「自然健康館スーパーフ
コイダン」であると認定するものであり,妥当であるから,控訴人の主張は
失当である。
(2)控訴人の2(1)イの主張に対し
ア控訴人は,本件商標では,全体構成から出る「しぜんけんこうかんすー
ぱーふこいだん」なる称呼は,非常に長い称呼となるため,このような称
呼の商品の場合,取引の際には,これらの一部分を省略した略称を使用す
る場合が多いことは,取引の経験則上公知の事実であり,しかも,本件商
標の構成が,二段併記になっており,また,特許庁の審査基準においても,
長い称呼を有するために商標の一部分によって簡略化される可能性のある
商標は,原則として,その簡略化される可能性のある文字のみからなる商
標と類似するとされていることが参酌されるべきであるから,本件商標か
らは「自然健康館スーパーフコイダン」ではなく「スーパーフコイダ,,
ン」なる称呼が生ずると認定すべきと主張する。
しかし,控訴人の上記主張は,本件商標の構成要素中の「スーパーフコ
イダン」が商標の要部,すなわち,当該文字部分が自他商品識別機能,出
所表示機能等を発揮する部分であるとの前提に立つものであるところ,上
記(1)のとおり,この「スーパーフコイダン」の文字は単に当該商品が高
品質な海藻類に含有される硫酸化多糖類を含有する商品であることを記述
するにすぎないものであり,商標としての諸機能を発揮し得ないものであ
る。
イまた控訴人は,原判決は,要部の認定に際しての認定方法と,称呼の認
定に際しての認定方法とでは,その認識の仕方が著しく相違しているので
あって,このように同じ商標の認識の仕方が,都合により相違する結果を
招来してしまうのは,論理的に矛盾すると主張する。
しかし,原判決は「スーパーフコイダン」の部分が本件商標の要部と,
,,なり得るか否かを判断するために「スーパー」が商品の誇示表示であり
「フコイダン」が海藻類に含有される硫酸化多糖類を意味するものである
と認定したうえで,これらを結合した「スーパーフコイダン」の文字は,
高品質な海藻類に含有される硫酸化多糖類が含有されている商品であるこ
とを説示したにすぎず,その結果として「スーパーフコイダン」が商標,
の要部とはならないと認定し,本件商標の要部は「自然健康館スーパーフ
コイダン」であると結論付けることは,極めて論理的な判断手法であり,
何ら矛盾するところはない。
(3)控訴人の2(1)ウの主張に対し
控訴人は「フコイダン」は取引者及び需要者において海藻類の成分を抽,
出して作られた健康食品の原材料を表示する用語として捉えられていること
を前提とする原判決の判断は誤りであるとし,その理由として「フコイダ,
ン」が,一般需要者には馴染みのない専門用語であって,その意味を正確に
知るものは少ないこと「スーパーフコイダン」という用語が商品の取引に,
おいて原材料表示として使用された事実がないことを指摘する。
しかし,仮に「フコイダン」の正確な意味が知られていないとしても,,
少なくとも「フコイダン」は「モズク等の海藻類から抽出された物質」で,
ある程度の意味合いは本件商品に接する取引者又は需要者に把握されるもの
であり,その程度の認識があれば「フコイダン」の文字が使用された商品,
が当該物質を原材料とするものと認識されることは明白である。さらに,仮
に「フコイダン」が専門用語であるとしても,これが本件商品の原材料に関
連する特定の物質を意味する語として一般的に用いられている以上,これが
専門用語であるか否かを論ずる意味はない。
また「スーパーフコイダン」という文字についても,仮に,これが原材,
料表示として使用されている実例が存在しないとしても「フコイダン」が,
原材料として使用される物質を表示するものである以上,これに商品の誇称
表示にすぎない「スーパー」を付加した「スーパーフコイダン」が自他商品
識別機能を発揮しないことは明らかである。
(4)控訴人の2(1)エの主張に対し
ア控訴人は「フコイダン」ないし「スーパーフコイダン」が普通名称の,
部類に属するとしても,本件商標の要部は「スーパーフコイダン」であっ
て「自然健康館スーパーフコイダン」ではないと主張し,その根拠とし,
て,控訴人は,遅くとも平成13年7月頃には,他に先駆けて「スーパー
フコイダン」を控訴人の販売する商品の標章として使用し,販売実績を積
んできている旨を主張する。
しかし,控訴人は,僅かに4本分の売り上げの「受注及び売上表」を提
出するのみで(甲2〔平成13年8月17日付け「受注及び売上表〕及」
び甲3〔平成13年8月31日付け「受注及び売上表,その実績につ」〕)
いては何ら立証するところがない。
イまた控訴人は,遅くとも平成13年7月頃には,他に先駆けて「スーパ
ーフコイダン」を控訴人の販売する商品の標章として使用し「スーパー,
フコイダン」の文字を付した控訴人の商品が雑誌等で紹介されている旨を
主張する。
しかし「スーパーフコイダン」の文字を付した控訴人の商品の掲載例,
は極く僅かであり,この程度の広告宣伝によって「スーパーフコイダ,
ン」の文字が控訴人の商品の出所を表示する標識として機能するとは到底
,,考えることができない。そして「フコイダン」の文字を使用する商品は
控訴人が商品に「スーパーフコイダン」の使用を開始したと主張する平成
13年7月以前から多数存在していた(乙32の1∼3〔2001年(平成
13年)5月9日付け健康産業新聞15頁∼17頁,乙33〔2003〕
〕,年(平成15年)10月15日付け健康産業新聞16頁∼20頁)から
控訴人が他に先駆けて使用していたとの主張は失当である上,現在では,
さらに多くの者がフコイダンを原料とする加工食品について「フコイダ
ン」の文字を付した商品の販売を行っており(乙34の1∼3〔ケンコーコ
ム株式会社のウェブサイト,さらに「スーパーフコイダン」の文字を付〕)
した商品についても控訴人及び被控訴人以外の者によって使用されている
(乙35〔株式会社GOLDCommunicationsのウェブサイト)状況下におい〕
ては,よほど膨大な使用実績を積み,かつ,莫大な量の広告宣伝活動でも
行わない限り「スーパーフコイダン」の文字が商標としての識別性を獲,
,,得することはあり得ない。したがって「スーパーフコイダン」の部分は
本件商標の要部とはなり得ない。
(5)控訴人の2(1)オの主張に対し
控訴人は,原判決における本件商標と被告標章の類否についての判断は誤
りであり,両者は類似の商標というべきであると主張する。しかし,かかる
控訴人の主張は「スーパーフコイダン」の部分が本件商標の要部となり得,
ることを前提とするものであるところ,前記のとおり,かかる文字部分が本
件商標の要部とはなり得ないから,控訴人の主張は失当である。
(6)控訴人の(2)の主張(不正競争防止法2条1項1号該当)に対し
ア時機に後れた攻撃方法であること
控訴人は,被控訴人の行為は不正競争防止法2条1項1号所定の不正競
争行為に該当すると主張するが,かかる控訴人の主張は,第一審係属中に
主張可能であったはずの事実であったにもかかわらず,全く主張されてい
なかった新たな主張であるから,被控訴人は,時機に後れた攻撃方法とし
て却下を求める。
イ被控訴人の行為が不正競争防止法2条1項1号に該当しないこと
以下の(ア)∼(エ)のとおり,いかなる点を見ても,被控訴人の行為は不正
競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為にはなり得ない。
(ア)「スーパーフコイダン」の商品等表示性につき
前記のとおり「スーパーフコイダン」は,高品質の「フコイダン,,」
すなわち,高品質な海藻類に含有される硫酸化多糖類が含有されている
ことを記述するにすぎないのであって,それ自体では出所表示機能を有
しないものであるから,控訴人の商品等表示ではない。
(イ)「スーパーフコイダン」の周知性につき
前記(4)のとおり,控訴人は「スーパーフコイダン」の標章を付した,
商品の販売実績については主張するのみで,何ら立証するところがない
し「スーパーフコイダン」の標章を付した控訴人の商品が雑誌等で紹,
介されている掲載例は極僅かであり,この程度の広告宣伝によって,
「スーパーフコイダン」の文字が控訴人の商品の出所を表示する標識と
して機能するとは到底考えることができない。したがって「スーパー,
フコイダン」が控訴人の商品等表示として周知性を獲得しているとはい
えない。
(ウ)誤認混同を生ずるおそれにつき
被控訴人は,控訴人が「スーパーフコイダン」の表示を使用する以前
から,アガリクスを原材料とする商品について「SUPERAGAR
ICUS(スーパーアガリクス」の標章を付して製造販売を行ってい)
たことから,その姉妹品として販売される被告商品について「スーパー
フコイダン」の標章を使用したものである。また,健康食品の分野にお
いては,原材料に「スーパー」の文字を付加することは頻繁に行われて
いる。したがって,被控訴人は,控訴人の商品の信用にただ乗りする意
図で「スーパーフコイダン」の標章を使用したものではない。
(エ)標章の同一性につき
被控訴人の被告標章は,前記のとおり「SUPER・FUCOI,」「
DAN」及び「スーパーフコイダン」の文字と6本の横線を菱形状に表
した二つの図形とを組み合わせたものであるから,控訴人が使用する
「スーパーフコイダン」の表示とは同一ではない。
第4当裁判所の判断
1商標権侵害に係る請求(控訴に係る請求)について
当裁判所も,控訴人の被控訴人に対する本訴請求はいずれも理由がないと判
断する。その理由は,次に付加するほか,原判決説示のとおりである。
(1)控訴人の(1)アの主張について
控訴人は,本件商標は,その構成が「自然健康館」と「スーパーフコイダ
ン」の二段併記になっており,一般需要者が取引に際して見たときは,外観
的に両者を区分して認識し,前者の「自然健康館」の部分はいわゆるハウス
マークとして出所識別機能を,後者の「スーパーフコイダン」はグッズマー
ク(商品識別マーク)として自他商品識別機能を果たしていると認識する,
そのため,本件商標の要部は,商標構成全体を要部とするだけではなく,
「自然健康館」と「スーパーフコイダン」という各部分についても独立した
自他商品識別力を発揮しているものとして,これらの部分も要部であると認
定すべきである,したがって,本件商標の要部観察の対象として観念される
部分は3部分あるにもかかわらず,原判決が商標の構成全体だけを要部観察
の対象として判断したのは,事実の認定に誤りがあり,また,他の要部の部
分を考慮しない理由を示さなかったものであるから,理由に不備がある,と
主張する。
しかし,本件商標の構成が「自然健康館」と「スーパーフコイダン」の二
段併記になっているとしても,そもそも「スーパーフコイダン」の部分に出
所識別力が認められないのであれば,当然には,一般需要者が,前者の「自
然健康館」の部分はいわゆるハウスマークとして出所識別機能を,後者の
「スーパーフコイダン」はグッズマーク(商品識別マーク)として,それぞ
れ自他商品識別機能を果たしていると認識するとはいえず,本件商標の要部
観察の対象として観念される部分が3部分あるともいえない。しかるに,本
件商標権の指定商品である「海藻エキスを主材料とする液状又は粉状の加工
食品」又は「清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース」の分野では「ス,
ーパーフコイダン」という用語は,高品質の「フコイダン,すなわち,高」
品質な,海藻類に含有される硫酸化多糖類が含有されていることを記述する
にすぎないのであって,それ自体では出所識別力を有しないことは,原判決
の説示するとおりである。したがって,これを踏まえて「フコイダン」を,
名称に含む様々な健康食品が販売されている状況に照らし,本件商標は,
「自然健康館」という製造元の表示と相まって初めて出所識別力が生じると
いうべきであり「自然健康館スーパーフコイダン」という本件商標全体が要
部であると解するのが相当であるとした原判決に,控訴人が指摘するような
事実誤認や理由不備はないというべきである。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
(2)控訴人の(1)イの主張について
ア控訴人は,本件商標からは3部分の要部が認定されるから,本件商標全
体の構成「自然健康館スーパーフコイダン」からは「しぜんけんこうかん
すーぱーふこいだん」の称呼が「自然健康館」の部分からは「しぜんけ,
んこうかん」の称呼が「スーパーフコイダン」の部分からは「すーぱー,
ふこいだん」という称呼が生じると主張するが,上記(1)に説示したとお
り「自然健康館スーパーフコイダン」という本件商標全体が要部である,
というべきであって,本件商標からは3部分の要部が認定できるとはいえ
ないから,控訴人の主張はその前提を欠くものであり失当である。
イまた控訴人は,本件商標では,全体構成から出る「しぜんけんこうかん
すーぱーふこいだん」なる称呼は,非常に長い称呼となるため,このよう
な称呼の商品の場合,取引の際には,これらの一部分を省略した略称を使
用する場合の多いことは,取引の経験則上公知の事実である,しかも,本
件商標の構成が,二段併記になっていることと「自然健康館」がハウス,
マークとして「スーパーフコイダン」がグッズマーク(商品識別マー,
ク)として,それぞれ認識されることから,その商品は「スーパーフコ,
イダン」と略称して商品取引されるものであり,それが常態的な取引形態
である,このことは,特許庁の商標審査基準に「長い称呼を有するため,
に,商標の一部分によって簡略化される可能性のある商標は,原則として,
その簡略化される可能性のある文字のみからなる商標と類似する」とされ
ていることからも裏付けられる,と主張する。
しかし,本件商標が二段併記になっており,その全体構成から出る「し
ぜんけんこうかんすーぱーふこいだん」なる称呼が非常に長く,控訴人の
商品が「自然健康館スーパーフコイダン」でなく「スーパーフコイダン」
と略称して実際に商品取引されていることが仮にあったとしても,前記
(1)に説示したとおり,本件商標は「自然健康館」という製造元の表示と
相まって初めて出所識別力が生じ「自然健康館スーパーフコイダン」と,
いう本件商標全体が要部であると解するのが相当であることを当然に左右
するものではないし「スーパーフコイダン」が具体的取引の実情におい,
て出所の識別標識として使用されているということができないことは,後
記(4)に説示するとおりである。また,本件商標において「自然健康,
館」がハウスマークとして「スーパーフコイダン」がグッズマーク(商,
品識別マーク)として,それぞれ認識されると当然にはいえないことは,
前記(1)に説示したとおりである。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
ウ控訴人は,原判決は,要部の認定に際しては,本件商標について全体観
察を強調して,本件商標は全体として一体の商標として認識すべきである
とするのに対し,称呼の抽出に際しては,逆に必要以上に分離観察を繰り
返し「フコイダン」の用語だけを取り出し,その用語観念(意味合い),
,,にこだわり「スーパーフコイダン」はそれ自体では出所識別力を有せず
本件商標の要部とはなり得ないと判断しているものであって,要部の認定
に際しての認定方法と,称呼の認定に際しての認定方法とで,その認識の
仕方が著しく相違している,と主張する。
しかし,原判決は,前記(1)に説示したとおり「スーパーフコイダ,
ン」それ自体では出所識別力を有せず,本件商標の要部とはなり得ないと
した上で「フコイダン」を名称に含む様々な健康食品が販売されている,
状況に照らし,本件商標は「自然健康館」という製造元の表示と相まっ,
て初めて出所識別力が生じるというべきであるとした上「自然健康館ス,
ーパーフコイダン」という本件商標全体が要部であると解し,かかる解釈
を踏まえて「しぜんけんこうかんすーぱーふこいだん」という称呼を認定
しているのであるから,要部の認定と称呼の認定とでその認定の仕方が相
違しているものではなく,称呼の抽出に際し「フコイダン」の用語だけ,
を取り出し,その用語観念(意味合い)にこだわったものともいえない。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
(3)控訴人の(1)ウの主張について
ア控訴人は「フコイダン」は馴染みのない専門用語であり,化学的には,
厳格な物質として特定がなされていない概念の用語であるほか,分子量が
小さいものから大きいものまで大きく異なる多様な物質の総称であり,そ
の生理作用についても全てにあるのか一部にあるのか不明な極めて曖昧な
概念の用語である(甲21の1∼3,22,23,さらに,いわゆる健康)
食品には,生理作用やその効果については表示したり広告したりできない
という制約があるため,原判決が指摘するような,がん細胞等に対し効果
がある物質である,などという生理作用や効果までが取引者及び需要者に
広く知られていたとすることは,その情報を得るための前提を欠くと主張
する。
しかし「フコイダン」が専門用語であり,化学的には厳格な物質とし,
て特定がなされていない概念の用語であるほか,分子量が小さいものから
大きいものまで大きく異なる多様な物質の総称であり,その生理作用につ
いても全てにあるのか一部にあるのかも不明であるからと言って,当然に
「フコイダン」が本件商標の指定商品の取引者・需要者において認識の対
象となり得ないと考えることはできず,原判決が詳細に認定した学術文献,
業界誌及び雑誌,辞書の各記載に照らせば「フコイダン」なる用語が,,
本件商標の出願時(平成16年10月13日)において,いわゆる健康食
品の取引者及び需要者の間では,少なくとも海藻類に含有され,かつ健康
食品の主成分に用いられる物質であり,がん細胞等に対し効果があるとい
われているものとして,広く知られていたと認められることに変わりはな
い。
また,いわゆる健康食品において,その生理作用や効果について表示し
たり広告したりできないという制約があったとしても,こうした行政上の
制約は,取引者及び需要者の認識とは別の事項であるから,がん細胞等に
対し効果がある物質であるといわれているものとして広く知られていたと
の認定を左右できるものではない。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
イまた控訴人は,本件商標の構成要素は,単なる「フコイダン」ではなく
「スーパーフコイダン」であるところ,この「スーパーフコイダン」とい
う用語が,当該商品の取引において原材料の表示として使用された事実は
ないと主張する。
しかし,仮に「スーパーフコイダン」という用語が,当該商品の取引に
おいて原材料の表示として使用された事実がなかったとしても「スーパ,
ーフコイダン」の「スーパー」は,原判決が説示するとおり,商品の誇称
表示として一般的に使用されている用語にすぎず,こうした「スーパー」
を冠さない「フコイダン」については,上記のとおりこれを名称に含む様
々な健康食品が販売されている状況が存在するのであるから,控訴人が指
摘する上記事実のみをもって当然に「スーパーフコイダン」それ自体につ
いて出所識別力を有することを導くことができるということにはならない。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
ウまた控訴人は,普通名称化したものであることが認定されるためには,
同業者間の認識のみでは足らず,少なくとも一般消費者が普通名称化して
いることを認識することが必要であるが,更にそれのみならず,当該商品
の取引者間において現実に普通名称として使用されていることを必要とす
る,したがって,辞書やその他の一般刊行物,当該取引に関係ない学問的,
技術的文献,講演等において普通名称であるかのように使用されているの
みでは足りない,また,熟年生活応援マガジン「はいから」2003年
(平成15年)春号〔甲6,平成15年7月3日発行の「女性セブン」〕
〔甲7,ビジネス情報誌「エルネオス」2004年(平成16年)2月〕
号〔甲8「がんを治す完全ガイド」2004年(平成16年)2月号〕,
〔甲9「週刊ポスト」2004年(平成16年)7月2日号〔甲1〕,
0〕においては,控訴人が他社に先駆けて「フコイダン」ないし「スーパ
,,ーフコイダン」を自己の標章として使用し「フコイダン」の名が取引者
消費者に知られるようになった事実が示されている,と主張する。
しかし,原判決は,もともと出所識別力を有していた「スーパーフコイ
,ダン」が普通名称化したとしたものではなく,前記(1)に説示したとおり
そもそも「スーパーフコイダン」それ自体では出所識別力を有せず,本件
商標の要部とはなり得ないとしたものであるから,控訴人の上記主張はそ
の前提を欠くものである。また,2001年(平成13年)5月9日付け
健康産業新聞(乙32の1∼3)によれば,控訴人が初めて「フコイダン」
の名称を健康食品に使用したと主張する平成13年7月頃には,既に複数
のフコイダンとの表示を冠する商品が存在していたのであるから,控訴人
が他社に先駆けて「フコイダン」ないし「スーパーフコイダン」を自己の
標章として使用したといえないことは,原判決説示のとおりである。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
(4)控訴人の(1)エの主張について
控訴人は,仮に,原判決のいうように「フコイダン」ないし「スーパーフ
コイダン」が普通名称の部類に属するとしたとしても,以下の事情に照らせ
ば「スーパーフコイダン」は,具体的取引の実情において出所の識別標識,
として使用されている等の特段の事情が認められるから,商標法3条2項の
趣旨を類推して,識別力を取得すると主張し,控訴人が,遅くとも平成13
年7月頃から現在に至るまで,控訴人の商品の標章として「スーパーフコイ
ダン」を単独で使用し,あるいは「スーパーフコイダン」を「F」と共に使
用し,または「SUPERFUCOIDAN」と英記して使用している,
こと,平成17年5月から平成18年4月までの1年間において,少なくと
も687万8600ミリリットルの「スーパーフコイダン」を販売し,年間
1億8217万2000円の販売高を上げ,平成13年7月から本年までの
6年の間には,少なくともその5ないし6倍の販売実績を上げていること,
マスメディアにおいても「女性セブン「週刊ポスト「がんを治す完全,」,」,
ガイド」等において発売元を控訴人と明示の上「スーパーフコイダン」等の
標章が付されて控訴人の商品が紹介されており(甲6∼10,その訴求効)
果は大きいこと(甲26,27,28の1∼3,顧客のみならず,販売代理)
店や医師の間においても「スーパーフコイダン」という単独の標章が,控訴
人の商品に係る商標,標章であると広く認知されていること(スーパーフ「
コイダンについて」と題する各文書〔甲24の1∼21「スーパーフコイ〕,『
ダン』の商品名について」と題する各文書〔甲25の1∼22)を指摘する。〕
しかし,控訴人が指摘する商標法3条2項は,商標法3条1項3号等のよ
うに本来は自他商品の識別性を有しない商標であっても,特定の商品表示が
長期間継続的かつ独占的に使用され,宣伝もされてきたような場合には,結
果としてその商品表示が商品の出所表示機能を有し周知性を獲得することに
なるので,例外的にその登録を認めようとしたものと解される。
しかるに,本件事案においては,原判決が認定したように,控訴人が初め
て「フコイダン」の名称を健康食品に使用したと主張する平成13年7月頃
に,既に複数のフコイダンとの表示を冠する商品が存在し,現在は「フコ,
イダン」を名称に含む様々な健康食品が販売されている状況が存在するので
あり,そのほか「スーパー」は商品の誇称表示として一般的に使用されて,
いる用語にすぎないことを併せ考慮すると「スーパーフコイダン」という,
名称は健康食品としてありふれたものと評価せざるを得ない。また「スー,
パーフコイダンについて」と題する各文書〔甲24の1∼21〕及び「スー『
パーフコイダン』の商品名について」と題する各文書〔甲25の1∼22〕を
見ても,これらは概ね作成者に応じて文章表現が異なっていることは認めら
れるものの,題目やワープロ文字においてほぼ共通するものや,文章表現が
似通ったものを相当数含んでいることから,控訴人が予め用意したものに日
付を記入して記名押印したと認められるものも相当数に上るといえるほか,
これらは,あくまでも,それぞれの各文書に記名又は署名押印した具体的な
顧客・販売代理店・医師等の認識を表すものにすぎない。これらの事情に照
らせば,控訴人の商品「スーパーフコイダン」の販売高(なお,控訴人の売
上高が年間1億8217万2000円であるとしても,2003年(平成1
5年)10月15日付け健康産業新聞〔乙33〕に「市場規模は40億円
に」との記載があることからすると,売上高は市場全体の約4.5%にすぎ
ず,特定の商品表示が独占的に使用されてきた場合には当たらない可能性を
否定できない,雑誌等における広告宣伝状況や訴求効果(原判決が説示。)
するとおり,控訴人が指摘する雑誌等を見ても,控訴人の商品「スーパーフ
コイダン」は「フコイダン」を含有する商品の一つとして紹介されているに
止まり,数多くある「フコイダン」関連商品の中で「スーパーフコイダン」
という名称が特別に出所識別力を有するに至っていると認めることはできな
い)等を精査しても,控訴人の「スーパーフコイダン」という商品表示に。
ついては,いまだその使用の結果,商品の出所識別機能を有し周知性を獲得
するに至っているとまで認めることはできない。したがって「スーパーフ,
コイダン」において,具体的取引の実情において出所の識別標識として使用
されている等の特段の事情が認められるということはできず,商標法3条2
項の趣旨を類推して識別力を取得したとすることはできない。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
(5)控訴人の(1)オの主張について
控訴人は,原判決における本件商標と被告標章の類否についての判断は誤
りであり,両者は類似の商標というべきである,と主張するが,下記ア,イ
のとおり,採用することができない。
ア控訴人は,本件商標から抽出される称呼は「しぜんけんこうかんすー,
ぱーふこいだん」だけではなく,本件商標の要部観察から「しぜんけんこ
うかんすーぱーふこいだん」と「しぜんけんこうかん」と「すーぱーふこ
いだん」という3つの称呼が生じる,そして「しぜんけんこうかんすー,
ぱーふこいだん」なる称呼は,長い称呼であるため,取引の際には一部省
略されて称呼されるのが一般的であり「自然健康館」は,いわゆるハウ,
スマークとして機能しているため,結局,称呼としては「すーぱーふこい
だん」と略称されて取引されるのが実情である,と主張する。
しかし,控訴人の上記主張のうち,前段部分は,本件商標の要部として
「自然健康館スーパーフコイダン「自然健康館「スーパーフコイダ」」
ン」の3つが認定できることを前提とする主張であるところ,前記(1)の
説示に照らし本件商標の要部が3部分あると認めることはできないし,ま
た,後段部分は,前記(2)の説示に照らし,採用することができない。
イまた控訴人は,原判決における観念類否の考察は,商標構成文字を単に
比較しただけで,両者の観念(意味合い)を実質的に比較検討したもので
はない,原判決は,観念類否を考察するときには「自然健康館スーパーフ
コイダン」全部が一体で要部であると認定しておきながら,要部認定に際
しては,商標構成要素の中から「スーパーフコイダン」だけを分離抽出し,
さらに,これを「スーパー「フコイダン」に分離して,観念を論じ要部」
ではないとしている,しかるに,商標の要部が3部分あれば,観念におい
ても3つの観念が生じていると考えるべきであり,二段併記されているこ
とが原因で分離して認識される「自然健康館」と「スーパーフコイダン」
は,いずれも要部であり,それぞれについても観念が認定されるべきであ
ると主張する。
しかし,控訴人の上記主張のうち,前段部分については,原判決は,前
記(1)に説示したとおり「スーパーフコイダン」それ自体では出所識別,
力を有せず,本件商標の要部とはなり得ないとした上で「フコイダン」,
を名称に含む様々な健康食品が販売されている状況に照らし,本件商標は,
「自然健康館」という製造元の表示と相まって初めて出所識別力が生じる
というべきであり「自然健康館スーパーフコイダン」という本件商標全体
が要部であると解し,かかる解釈を踏まえて,本件商標の観念と被告標章
の観念が類似しないと説示したものであるから,原判決における観念類否
の考察が,両者の観念(意味合い)を実質的に比較検討したものでないと
いうことはできないし,観念類否の考察をする前提として,本件商標の要
部認定の際にその各部分の出所識別力を検討するのは当然であるから,観
念類否の考察をするときは全部が一体で要部と認定しながら要部認定に際
しては分離抽出をした齟齬があるとの旨の控訴人の上記主張は失当である。
また,後段部分については,商標の要部が3部分あることを前提とするも
のであるところ,前記(1)の説示に照らし商標の要部が3部分あると認め
ることはできないから,控訴人の上記主張はその前提を欠くものである。
2控訴人の当審における請求(不正競争防止法に基づく請求)について
(1)控訴人は,当審における新たな請求として,不正競争防止法2条1項1
号に基づく差止め及び損害賠償として商標権侵害を理由とする差止め及び損
害賠償と同内容の請求をし,その理由付けとして,控訴人の主張(2)アない
しエの主張をしている。これに対し被控訴人は,かかる主張は第一審係属中
に主張可能であった事実であったのに全く主張されなかった新たな主張であ
るから,時機に後れた攻撃方法として却下されるべきであるとする。
そこで検討するに,時機に後れた攻撃方法として却下することができるの
は,民訴法157条1項によれば「これにより訴訟の完結を遅延させること
となる」場合であるところ,本件においてはこれに関する特段の立証がなさ
れることなく弁論終結に至っているのであるから,民訴法157条1項によ
りこれを却下するのは相当でない。
そこで,進んで,控訴人の新たな主張について以下判断する。
(2)控訴人は,平成13年7月頃から,控訴人の商品である海藻エキスを主
原料とする液状又は粉状の加工食品をウェブサイトあるいは販売代理店を通
じて顧客に販売し,控訴人の販売する商品を表示するものとして「スーパー
フコイダン」との標章を用いている,控訴人は,上記の商品を,控訴人の所
在地である東京都を中心としつつ,日本全国に向けて販売しており,その販
売実績,宣伝広告の状況からみて,遅くとも平成16年3月頃までには,
「スーパーフコイダン」の標章は,消費者の間で,控訴人の商品を表示する
ものとして周知となっていた,すなわち,平成15年4月に控訴人の商品の
紹介記事が掲載された季刊誌「はいから」は12万部,同年7月に控訴人商
品の紹介記事が掲載された「女性セブン」誌は当時毎月平均40万部,平成
16年2月に控訴人商品の紹介記事が掲載された「エルネオス」誌は2万3
,,000部「がんを治す完全ガイド」誌は5万部がそれぞれ販売されている
そして,これに控訴人の商品の販売状況も併せてみれば「スーパーフコイ,
ダン」が控訴人の商品等表示として周知であったことは明らかである,そう
すると,控訴人の周知な商品等表示である「スーパーフコイダン」が被告標
章と同一であり,かかる被告標章を付して商品販売等を行うことにより消費
者に誤認混同を惹起せしめているとして,被控訴人の行為は不正競争防止法
2条1項1号所定の不正競争行為に該当すると主張する。
しかし,前記1(1)に説示したのと同様に,控訴人及び被控訴人が販売す
る商品が含まれる「海藻エキスを主材料とする液状又は粉状の加工食品」又
は「清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース」の分野では「スーパーフ,
コイダン」という用語は,高品質の「フコイダン,すなわち,高品質な,」
海藻類に含有される硫酸化多糖類が含有されていることを記述するにすぎな
いのであって,それ自体では出所識別力を有しないというべきであるから,
前記1(4)に説示したのと同様に,控訴人が主張する商品「スーパーフコイ
ダン」の販売高,雑誌等における広告宣伝状況等をもってしても,控訴人の
「スーパーフコイダン」が控訴人の商品を表示するものとして周知となった
ということはできず,不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に
該当しないというべきである。したがって,控訴人の行為は不正競争防止法
2条1項1号の不正競争行為に該当しないというべきである。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
(3)上記(1),(2)によれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴
人の当審における新たな請求(不正競争防止法に基づく差止請求・損害賠償
請求)はいずれも理由がない。
3結語
以上のとおりであるから,商標権侵害を理由とする本訴請求は理由がないか
らこれと結論を同じくする原判決は相当であり,また不正競争防止法違反を理
由とする当審における請求も理由がない。
よって,控訴人の本件控訴及び当審における請求をいずれも棄却することと
して,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官今井弘晃
裁判官田中孝一

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職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
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経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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