弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
本件即時抗告を棄却する。
理由
1本件即時抗告の趣意は,主任弁護人L,弁護人M,同N,同O,同P,同Q,同R及
び同S連名作成の即時抗告申立書に記載されたとおりであるから,これを引用する。
論旨は,要するに,原決定は,弁護人らの証拠開示命令の申立てに対し,①D及びEの
すべての未開示の供述録取書等について,Dの平成18年11月30日付け警察官調書謄本及び
Eの同月29日付け警察官調書謄本以外の両名の供述録取書等は,現時点における当事者双
方の主張とは関連性が明らかではなく,D及びEの各供述の証明力を判断するのに重要で
あるとは認められないとして,証拠開示命令の申立てを棄却し,また,上記D及びEの警
察官調書謄本2通の証拠開示を命じたものの,Dの同月30日付け警察官調書謄本中の金融業
者の事務所の所在及び名称並びに店長の名前に関する供述部分,Eの同月29日付け警察官
調書謄本中の金融業者の事務所の所在及び名称並びに金融業者の関係者に関する供述部分
は,いずれもD及びEが一緒に金融業を行っていた者に迷惑がかかる恐れを懸念している
として,証拠開示命令の申立てを棄却し,さらに,②平成18年5月1日から現在に至るまで
の間に作成された捜査報告書及び捜査官の手控えメモであって,伝聞供述を含むD及びE
の各供述が記載されているものすべてについては,捜査報告書は開示済みのもの以外に存
在しないと認められ,また,手控えメモは検察官手持ち証拠中に存在しないことが認めら
れる上,その他,当然に検察官に事件を送致等する際に送致書や送付書に添付すべき関係
書類及び証拠物といえるような手控えメモの存在も窺えないとして,証拠開示命令の申立
てを棄却したが,原決定中のこれらの弁護人の証拠開示命令の申立てを棄却した部分は,
いずれもその判断を誤ったもので不当であるから,これを取り消し,検察官に対し,上記
の各証拠のすべての開示を命じるとの決定を求める,というのである。
2そこで,検討する。
(1)Dの平成18年11月30日付け警察官調書謄本及びEの同月29日付け警察官調書謄
本以外の両名の供述録取書等について
所論は,上記D及びEの警察官調書謄本2通以外の両名の供述録取書等については,本件
が,Bに対する盗品等有償譲受け被告事件(以下「B事件」という。)の弁護人である被
告人において,B事件の真犯人はDであると特定して弁護活動を行い,弁護側証人として
Dの証人尋問を申請したところ,Dにおいて,被告人が証拠隠滅の犯行を敢行した旨の証
言をしたという特異な経緯を辿って立件されたものであり,Dは,平成18年8月4日,B事
件の期日外の証人尋問期日において証人として供述し,Dの同日付け警察官調書が開示さ
れているが,それより以前に既に被告人によってDが真犯人であると指摘されていたので
あるから,警察官又は検察官がDと接触してDが真犯人であるか否かについて事情聴取し
ているはずであって,その際にDから供述を求め,供述録取書が作成されている可能性が
極めて高く,D及びEの各供述の証明力を判断するためには,最も重要である初期段階の
供述も含めて,D及びEのすべての段階の供述を検討することが必要不可欠であることは
明白である旨主張する。
しかし,刑事訴訟法316条の15第1項本文によれば,同条項各号に掲げる証拠の類型のい
ずれかに該当し,かつ,特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であると認
められるものについて,その重要性の程度その他の被告人の防御の準備のために当該開示
をすることの必要性の程度並びに当該開示によって生じるおそれのある弊害の内容及び程
度を考慮し,相当と認めるときは開示をしなければならないものであり,原決定は,上記
D及びEの警察官調書謄本2通以外のその余の両名の供述録取書等については,今後弁護人
の明示する争点と関連するとして開示すべきか否かはともかく,現時点における当事者双
方の主張とは関連性が明らかではなく,供述の証明力を判断するのに重要であるとは認め
られないと判断しているところ,当裁判所においても,検察官から当該開示請求に係る証
拠の提示を受けてその内容を調査したが,上記D及びEの警察官調書謄本2通以外の当該開
示請求に係る証拠に記載された事項は,検察官請求証拠であるD及びEの各供述の証明力
を判断するために重要であるとは認められず,その他開示の必要性について所論が主張す
るところを検討しても,上記D及びEの警察官調書謄本2通以外のその余の両名の供述録取
書等の開示請求証拠の開示を命じることが相当であるとも認められない。
(2)Dの平成18年11月30日付け警察官調書謄本中の金融業者の事務所の所在及び名
称並びに店長の名前に関する供述部分,Eの同月29日付け警察官調書謄本中の金融業者の
事務所の所在及び名称並びに金融業者の関係者に関する供述部分について
所論は,上記の各供述部分については,その供述部分が開示されることによって,罪証
隠滅や証人威迫,供述者に対する嫌がらせや報復のおそれが生じることは全くなく,また,
金融業者の事務所の所在及び名称並びに金融業者の関係者の氏名は,金融業を営む上で社
会に公表されている事項であって,私生活にわたる事項が明らかにされるものではなく,
関係者らの名誉・プライバシーの侵害が問題となるものではなく,仮にその侵害があった
としても極めてわずかであることは明白であり,刑訴法316条の15第1項に定める「当該開
示によって生じるおそれのある弊害」がある場合には当たらず,かつ,検察官の証明予定
事実記載書面には,D及びEの関係者が偽名を使用していたことが記載されており,これ
らの偽名は一定の職業ないし業務に関連して対外的に用いられているのであるから,D及
びEの職業や業務を明らかにすべく,上記の各供述部分の開示を受けてその検討を行うこ
とは重要であって,被告人の防御準備のために必要不可欠であると主張する。
しかし,本件公訴事実は,B事件の弁護人であった弁護士である被告人が,Cと共謀の
上,東京都F区内の喫茶店において,Eをして,B事件の真犯人がD及びEである旨の内
容虚偽の書面を作成させ,宮崎地方裁判所第205号法廷において,これを真正な証拠である
ように装って同裁判所刑事部に提出し,他人の刑事被告事件に関する証拠を偽造して使用
した,というものであり,D及びEは,被告人らが身代わり犯人に仕立て上げようとした
とされる当の本人であり,被告人の共犯者とされるCが暴力団構成員であり,公訴事実の
犯行に及んだ際に被告人が「逃げても無駄だ。組織で捜すから。」などと言ったとされて
いることなどにも照らせば,被告人及びCやその意を受けた者らにおいて,D及びEが従
事していた金融業の関係者が特定されることによって,それらの関係者に接触,働きかけ
がされ,あるいは,嫌がらせに及ぶおそれがあると認められ,現に,Dは,「調書の内容
のうち,一緒に金融をやっていた関係者の名前やそのほか関係者が特定されてしまうよう
な店の名前,場所については,関係者に迷惑がかかるので弁護士たちにも分からないよう
にしてください。」と,また,Eは,「取調べの中で過去に金融の仕事をしていたことを
話していますが,その時の店の名前,場所,一緒にやっていた関係者の名前については,
関係者に迷惑がかかるので弁護士たちにも分からないようにしてください。」との意向を
明らかにしている。そして,検察官から提示を受けた当該Dの平成18年11月30日付け警察
官調書謄本及びEの同月29日付け警察官調書謄本に録取された各供述内容を検討しても,
それらの関係者の特定に関わる供述部分を除いたその余の供述部分によって,D及びEの
各供述の証明力の検討は十分に可能であると認められ,金融業の関係者の特定に関する供
述部分の開示を受けることが被告人の防御準備のために必要不可欠であるともいえない。
(3)平成18年5月1日から現在に至るまでの間に作成された捜査報告書及び捜査官の
手控えメモであって,伝聞供述を含むD及びEの各供述が記載されているものすべてにつ
いて
所論は,上記捜査報告書及び手控えメモについては,(1)で主張したとおり,平成18年8
月4日以前に,既に被告人によってDが真犯人であると指摘されていたのであるから,警察
官又は検察官がDと接触してDが真犯人であるか否かについて事情聴取しているはずであ
って,その際にDから供述を求めている可能性が極めて高く,供述録取書が作成されてい
ないとしても,その供述が録取された捜査報告書が作成されている可能性が極めて高く,
また,当然,警察官又は検察官は事情聴取時に手控えメモを作成しているはずであり,D
及びEの各供述の証明力を判断するためには,これらの開示を受けて,最も重要である初
期段階の供述も含めて,D及びEのすべての段階の供述を検討することが必要不可欠であ
ることは明白である旨主張する。
しかし,所論にかんがみ検討しても,検察官は,本件の証拠開示の裁定請求に対する平
成19年3月5日付け意見書の中で,上記捜査報告書は存在せず,また,捜査官の手控えメモ
は検察官の手持ち証拠に存しないとしており,所論がいう手控えメモの多くは,捜査官が
捜査の過程で随時作成する備忘録の類と考えられるところ,これらの手控えメモが当然に
検察官に事件を送致又は送付する際に送致書又は送付書に添付すべき関係書類又は証拠物
であるともいえず,さらに,検察官の弁護人らに対する具体的な証拠の開示状況に照らし
ても,本件において,この検察官の回答に特段の疑問はなく,その存在を前提とする所論
は採用の余地がない。
3よって,本件即時抗告は理由がないから,刑事訴訟法426条1項により,これを棄却す
ることとし,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官・竹田隆,裁判官・横山秀憲,裁判官・林潤)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛