弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 弁護人森安敏暢の上告趣意について。
 所論は違憲をいうが、その実質は事実誤認の主張に帰し、適法な上告の理由とな
らない。
 弁護人青柳盛雄、同竹沢哲夫、同高島謙一の上告趣意第一点について。
 被告人らは島根食糧事務所邑智支所の職員として、国家公務員法に規定する一般
職に属する公務員であつたことは、原判示によつてあきらかである。およそ、公務
員はすべて全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者でないことは、憲法一五条の規定
するところであり、また行政の運営は政治にかかわりなく、法規の下において民主
的且つ能率的に行わるべきものであるところ、国家公務員法の適用を受ける一般職
に属する公務員は、国の行政の運営を担任することを職務とする公務員であるから
その職務の遂行にあたつては厳に政治的に中正の立場を堅持し、いやしくも一部の
階級若しくは一派の政党又は政治団体に偏することを許されないものであつて、か
くしてはじめて、一般職に属する公務員が憲法一五条にいう全体の奉仕者である所
以も全うせられ、また政治にかかわりなく法規の下において民主的且つ能率的に運
営せらるべき行政の継続性と安定性も確保されうるものといわなければならない。
これが即ち、国家公務員法一〇二条が一般職に属する公務員について、とくに一党
一派に偏するおそれのある政治活動を制限することとした理由であつて、この点に
おいて、一般国民と差別して処遇されるからといつて、もとより合理的根拠にもと
づくものであり、公共の福祉の要請に適合するものであつて、これをもつて所論の
ように憲法一四条に違反するとすべきではないのである。また、憲法二八条違反で
ないことについては、当裁判所の判例の趣旨とするところである(昭和二四年(れ)
六八五号、同二八年四月八日大法廷判決、集七巻四号七七五頁以下参照)。
 なお論旨は、特別職に属する公務員のうちに、政治的行為の制限を受けていない
者(例えば内閣総理大臣、国務大臣等)のあることを挙げ、一般職公務員との間に
差別あることを云為するが、これら特別職に属する公務員は、その担任する職務の
性質上、その政治活動がその職務となんら矛盾するものでないばかりでなく、かえ
つて政治的に活動することによつて公共の利益を実現することをも、その職分とす
る公務員であつて、前示のごとく、政治と明確に区別された行政の運営を担当し、
この故につよくその政治的中立性を要求される一般職に属する公務員とは著しくそ
の性質を異にするものであるから、右のごとき差別は、また、合理的根拠にもとづ
くものであり、公共の福祉の要請に適合するものであつて、所論憲法一四条違反の
主張は採用することはできない。
 同第二点について。
 所論は単なる法令違反の主張であつて、適法な上告の理由とならない。
 同第三点の一、二について。
 所論は原審において主張、判断を経ていないから適法な上告の理由とならないの
みならず、所論自白が強制、脅迫、誘導等に基づくものであることを疑わしめる何
らの証跡も記録上認められず、違憲、違法の主張は、その前提を欠くものであつて
採るを得ない。
 同第四点について。
 所論は原審において主張、判断を経ていないから適法な上告の理由とならないの
みならず、憲法三七条一項にいう「公平な裁判所の裁判」とは、構成その他におい
て偏頗のおそれなき裁判所の裁判をいうものであり、また同条二項は、裁判所が必
要と認めない者まで証人として職権で喚問し、被告人に直接審問の機会を与えなけ
ればならないという意味のものでないことは、当裁判所の判例とするところであつ
て(昭和二二年(れ)一七一号、同二三年五月五日大法廷判決、集二巻五号四四七
頁以下、昭和二二年(れ)二五三号、同二三年七月一四日大法廷判決、集二巻八号
八五六頁以下参照)、所論は採るを得ない。
 同第五点ないし第七点について。
 所論は違憲をいう点もあるが、その実質は単なる法令違反、事実誤認の主張に帰
し、適法な上告の理由とならない。
 よつて刑訴四〇八条に従い、裁判官全員一致の意見により、主文のとおり判決す
る。
  昭和三三年四月一六日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    奥   野   健   一

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