弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人A弁護人北川省三上告趣意第一点について。
 しかし所論原判決の事実摘示は行文稍精密を欠く嫌がないではないが、その認定
資料として挙示されている証拠の内容と対照すればその趣旨とするところは、「被
告人Aがa村役場書記在任中は、配給係として妊産婦海外引揚者戦災者等から米穀
の特別配給の申請があつた場合、一々村長の承認を得ないで村長名義の特別飯米購
入票を発行し得る例となつていたので、これを奇貨とし、B等多数者のためにその
食糧不足を緩和してやる目的で、同人等がかゝる特別受配の有資格者でないにも拘
わらず、檀に同人等を受配者とする村長名義の特別飯米購入票を発行偽造した」と
いうにあることを容易に了解し得るのである、従つて原判決には所論のような違法
はない。論旨は判旨を正解せざることに基づくものであつて、その理由はない。
 同第二点について。
 しかし判示第二の収賄の事実は、原判決挙示の証拠を総合すればこれを肯認する
に難くないのである。論旨所論の諸般の事情は原審が認定の資料として採用しなか
つたと思われるところであり、又かゝる事情を排して原判決挙示の証拠に基いて判
示事実を認定したからというて、必ずしも実験則に反し、採証の法則に悖るものと
はいゝ得ない。論旨は畢寛事実審である原審の裁量権の範囲で正当になされた証拠
の採否、事実の認定を非難するに帰着し上告適法の理由とならないものである。
 被告人C弁護人平岡清国の上告趣意について。
 しかし、原判決によれば、原審の確定した事実は、被告人Cは、昭和二〇年一二
月二〇日頃から翌二一年七月八日頃までの間に、相被告人Aから同人が偽造したD
外四名を受配者とする特別飯米購入票五枚を貰い受け、その都度五回に亘つて、自
己の勤務するE配給所にこれを差出し、本来特別飯米購入票によつてはそれに受配
者として記入されているものでなければ、その配給を受け得ないものであるに拘わ
らず恰も自身配給を受け得るものゝように装つて同配給所の係員をしてその旨誤信
させて同配給所から精米合計三〇一瓩余を受取つて騙取したというのである。
 それ故右判示被告人の所為が刑法第二四六条第一項の詐欺罪を構成するものであ
ることは多言を要せずして明らかである。記録によれば本件詐欺罪を牽連関係ある
ものとして起訴せられた偽造公文書行使罪について、第一審で無罪の言渡があつた
ことは論旨の指摘する通りであるが、それは唯被告人が相被告人Aから貰い受けた
特別飯米購入票の偽造されたものであることを認識していたという点について第一
審裁判所が確乎たる心証を得られなかつたために過ぎないのであつて、この一事は、
被告人が本来特別配給を受ける資格のないにも拘わらず、欺罔手段を弄してE配給
所の係員を誤信させて特配米名義の下に精米合計三〇一瓩余を騙取したという事実
には何等消長を来たすべき筋合ではない。
 又論旨は、原審がその事実認定の資料とした被告人の原審公判廷における供述に
は前後矛盾するところがあるので、かゝる供述を証拠とした原判決には理由齟齬の
違法があると主張するのであるが、所論公判調書の記載を通読すれば被告人は結局
判示と同旨の供述を為すに至つたことを認め得るのであつて、原判決には固より所
論のような違法はなく、しかも原判決挙示の証拠を総合すれば、原審の事実認定は
これを肯認し得るのであるから、この点に関する論旨は畢竟事実審である原審の裁
量権の範囲でなされた正当な事実認定を非難するに帰着する。
 最後に論旨は、本件被告人の所為は詐欺罪を構成せず食糧緊急措置令第一〇条本
文を以て律すべきものであるというのである。しかし被告人の本件所為が刑法第二
四六条第一項の詐欺罪を構成するものであることは前説示の通りであつて、たとえ
一面右措置令第一〇条本文所定の一場合にも該当するとしても、同条の末尾には「
其ノ刑法ニ正条アルモノハ刑法ニ依ル」と明視されているのであるから、原審が前
示刑法詐欺罪の規定を適用し所断したのは正当であつて、原判決には何等の違法も
ない。論旨は理由なないものである。
 なお、被告人C弁護人平岡清国の上告趣意書拡張弁明書は上告趣意書提出期間経
過後の提出に係るから同書面記載の論旨については説明を与えない。
 よつて刑訴第四四六条に従い主文の通り判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 安平政吉関与
  昭和二三年七月一五日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    齋   藤   悠   輔

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