弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成16年10月27日判決言渡 
平成14年(ワ)第27819号損害賠償請求事件
判決
主文
 1 被告は、原告らに対し、それぞれ金890万円及びこれに対する平成13年1月13日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
 3 訴訟費用は、これを5分し、その1を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。
 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
   被告は、原告らに対し、それぞれ金6218万7316円及びこれに対する平成13年1
月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、平成10年から被告の開設するAクリニック(以下「被告クリニック」という。)に
通院していた亡Bにつき、被告クリニックの職員が平成13年1月13日に千葉県東金市の
C病院へと搬送する際に、不適切な処置等を行ったために搬送中に容態が急変し、死
亡するに至ったとして、亡Bの両親である原告らが、不法行為に基づき、損害賠償を請求
している事案である。
 1 争いのない事実等
(1)ア 亡Bは、昭和44年生の女性であり、仙台市内の看護学校を卒業後、東京都内
で看護師として働きつつ、大学に通うなどして一人暮らしをしていたが、平成8年ころから
精神的に変調を来し、平成9年7月には看護師を辞め、平成10年11月2日から被告クリ
ニックの診察を受けるようになり、被告クリニックへ通院したり、被告の往診を受けるなどし
て被告からカウンセリングや投薬治療等を受けていた(争いのない事実、乙A1)。
 イ 原告Dは亡Bの父親であり、原告Eは亡Bの母親である(争いのない事実)。
 ウ 被告は、昭和62年にF大学医学部を卒業後、医師免許を取得し、千葉県及び
東京都内の病院の精神科の非常勤医師、東京都内の病院の精神科の常勤医師を経た
後、平成9年に東京都杉並区において、精神科を専門とする被告クリニックを開設し、医
業に従事している(甲B16)。
 エ G及びHは、平成13年1月当時、いずれも被告クリニックの職員であり、Gは看
護学校の学生であった(乙B18)。
(2) 被告は、亡Bにつき、入院が必要であると考え、平成13年1月13日、原告Eへ連
絡した後、亡Bのアパートに赴き、亡Bに対して入院させる旨告げたところ、亡Bが抵抗
し、自傷行為に及んだので、亡Bの口内にティッシュペーパー6枚を入れ、さらにタオル
で猿轡を噛ませた上、手足を縛り、鎮静作用を有する薬剤等を注射して入眠させた上、
自動車の後部座席に寝かせ、GとHに指示して、千葉県東金市にあるC病院まで高速道
路を通って搬送させた(以下「本件搬送」という。)。
  ところが、搬送中に亡Bの身体状態が悪化し、同日午前9時30分にC病院へ到着
した時には既に心肺停止状態であり、直ちに蘇生措置が行われたが、同日10時10分、
死亡が確認された(争いのない事実、甲A1)。
2 争点
(1) 本件搬送における被告の過失の有無等
(2) 損害
 3 争点についての当事者の主張
(1) 争点(1)(本件搬送における被告の過失の有無等)について
(原告らの主張)
ア 亡Bの死因について
 (ア) 亡Bの死因は窒息死である。
   本件においては、①死体検案書の死亡原因の直接死因の欄には「窒息の疑
い」と記載されていること、②司法警察員作成の死体見分調書に「右上眼瞼結膜下に針
頭大の溢血点3個を認め、下眼瞼結膜下に溢血班を認める。左下眼瞼結膜下に針先大
の溢血点1個、針頭大の溢血点1個を認める。右眼球結膜に針先大2個、針頭大4個の
溢血点、左眼球結膜に針頭大の溢血点を認める」との記載があるところ、眼瞼結膜、眼
球結膜に現れる溢血点は窒息死における重要な外表上の一般所見の一つであること、
③司法警察員作成の死体解剖鑑定立会い結果報告書の死因説明欄に「左右上下眼瞼
結膜は鬱血状を呈し、溢血点が広く発現している」「心臓内には暗赤色流動性血液を入
れている」「心臓、肺の表面には溢血点の発現が認められる」「各臓器は鬱血状を呈して
いる」との記載があるから、亡Bの死体は、窒息死体の三大主徴である暗赤色流動性の
血液、粘膜の溢血点、内臓の鬱血を全て満たしていること、④本件刑事事件における各
証言においても死因は窒息死であるとされていることなどの事実に照らせば、亡Bの死因
は窒息死であったといえる。
   被告は、ティッシュペーパーが気道を圧迫していれば、亡Bがもがき苦しんだは
ずであると主張するが、亡Bは手足を縛られ、口腔内にはティッシュペーパーを詰め込ま
れた上にガムテープで口を塞がれ、中枢神経を抑圧する鎮静剤であるホリゾン、セレネ
ース等を注射されていたのであるから、もがくこと自体が不可能であった。また、被告がテ
ィッシュペーパーを亡Bの口腔内に入れた理由は、亡Bが舌を噛むなどして自殺を試み
るのを防止するためであったから、ティッシュペーパーは舌の動きを抑制できるだけの多
量であった。そうであるとすれば、仮にティッシュペーパーが咽頭部分に達していなくて
も、舌を強力に圧迫し、舌根によって気道が閉塞されたことも十分考えられる。
   なお、仮にティッシュペーパーが口腔を完全に閉塞していなくても、窒息で死亡
することは十分あり得る。すなわち、窒息とは、呼吸が障害されて酸素の摂取と炭酸ガス
の排出が阻害された状態をいい、窒息の原因としては、気道閉塞、呼吸運動障害及び
低酸素環境の3つに大別されるから、完全に気道が閉塞されていなくても、呼吸運動が
障害され、また酸素環境が悪ければ、窒息が生ずる。
   本件においても、亡Bは、口を完全に塞がれ、さらに口腔内に多量のティッシュ
ペーパーを詰め込まれており、気道の状態は仮に閉塞していなくても、著しく悪化してい
た。これに加え、本件搬送前に注射された薬剤により呼吸器の機能が低下しておりその
調節機能は悪化していた(後記エ参照)。さらに身体を拘束され、かつ薬剤によって意識
が喪失しており、回避行動が出来なかった。
   このような状態下であれば、仮に気道が完全に閉塞されていなくても、一部分
が閉塞されたことから、徐々に酸素状態が悪化して呼吸停止に至るということは十分あり
得ることである。
 (イ) 自殺の可能性はないこと
   亡Bは、本件搬送前日や当日、自殺企図を被告その他に述べたことはなく、ま
たそのようなことをほのめかす遺書もない。
   被告は、本件搬送当日、亡Bが舌を噛もうとしたと主張するが、亡Bの口角から
血が出ていたからといって舌を噛んだとは断定できず、さらに、仮に舌を噛んだとしても、
そのことから直ちに自殺を図ったものということはできない。
   また、亡Bの部屋にトリプタノールの薬袋が残っていたとしても、そもそも亡Bが
それを飲んだのかどうか、飲んだとしてもいつどれくらい飲んだのかなどは全く不明であ
る。
   したがって、本件において亡Bが自殺した可能性は存しない。
 (ウ) トルサード・ド・ポアントの可能性もないこと
   トルサード・ド・ポアントは、多形性心室頻拍を指すが、死亡前後の亡Bの心電
図等が一切ない以上、トルサード・ド・ポアントが起こったという具体的証拠は存しない。ま
た、トルサード・ド・ポアント自体稀な症状であり、これが本件でたまたま発生したと考える
のは不合理である。
   被告は、亡Bの死因が窒息ではないということを大前提とした上で、トリプタノー
ルの大量服用の副作用として心室細動が起こり得ると主張するが、仮定に仮定を積み重
ねるものであって、憶測の域を出ない。
イ 被告の過失
  被告には以下の過失がある。
  すなわち、被告は、①亡Bが平成13年1月13日当時、病状が悪化し、心身ともに
衰弱している状態であったにもかかわらず、②亡BをC病院へ搬送するため、亡Bに対
し、本件搬送前にショック、気道閉塞、呼吸抑制等の重大な副作用を伴う薬品を注射し、
③手足を紐で縛るなど抑制を施した上、口腔内にティッシュペーパー数枚とタオルを入
れてその上にガムテープを貼るなどして猿轡を噛ませたことに加え、④搬送時間は2時
間を超えることが予定されていたのであるから、亡Bにおいて、搬送中にティッシュペーパ
ー等により気道が閉塞され、また仮に気道が完全に閉塞されてなくとも注射された薬品
の影響により呼吸が抑制されることによって酸素濃度が低下して呼吸環境が悪化するな
どしても、身体が強度に抑制されていたことから、自らの状態を訴えたり、改善することが
できないため、窒息する可能性があることを予見すべき義務があり、さらに、本件搬送に
際しては、医師か搬送経験豊かな看護師を同乗させ、常にバイタルサインを確認し、亡B
の容態が急変したときには直ちに亡Bの呼吸状態を改善させ、必要とあれば蘇生措置を
施すなどして、亡Bの窒息を防止すべき義務があった。
  ところが、被告は上記義務を怠り、バイタルサインを確認するための機材も持たせ
ずに、医学的知識、医学的経験及び搬送経験のいずれにおいても乏しいGとHのみに
本件搬送を行わせ、これによって亡Bを窒息死させた過失がある。
(被告の主張)
ア 亡Bの死因について
 (ア) 窒息死の可能性は低いこと
   亡Bの口腔内のティッシュペーパーは、Gが指二本で簡単に取り出しており、咽
頭部分にあったとは認められない。テイッシュの塊は球形状態のまま取り出されている。
ティッシュペーパーが扁平状態となっていてその端をつまみ出したのではない(仮に扁
平状態であればそもそも気道を塞ぐことはない)。
   仮にこのような球形のティッシュペーパーの塊が咽頭部位まで落ち込んでいた
とすると、指二本で簡単に取り出せるものではなく、鉗子等の器具を要するし、また、その
場合には、相当に苦しみもがいた上で即座に窒息により死亡していなければならない
が、そのような事実もない。
   医師でない者が器具を使用せずに口腔内のティッシュペーパーを確認できる
のであれば、咽頭部の最上端部位であると考えられ、これは気道を塞ぐ位置ではない。
もし気道を塞ぐ位置までティッシュペーパーの塊が落ち込んでいたのであれば、見ること
もできないし、そのような位置に落ち込んだ球形で濡れたティッシュペーパーの塊を指二
本で簡単に挟んで取り出すことが不可能であるばかりか、ティッシュペーパーの塊の上下
部分に指を差し入れるどころか、逆に奥に押し込んでしまう可能性の方が高い。
   また、咽頭部から肺へと通じる部位に挿管することは医師でも困難な技術であ
り、この箇所にティッシュペーパーがあったとすれば、Gが指のみでこれを探り当てること
は不可能である。
   さらに、ティッシュペーパーの塊が扁平ではなく球形であったことからすれば、
気道の一部分のみを閉塞していたことは考え難く、仮に一部分のみの気道の閉塞であっ
たとしても、ティッシュペーパーが気道を閉塞していればやはりもがき苦しんだはずであ
る。後記イにおいて述べるように、本件搬送における注射によって患者が眠ったまま窒息
することもあり得ない。
   加えて、被告は、亡Bの搬送に際して、首の下に枕を置き、気道確保の措置を
採っており、ティッシュペーパー等が気道を塞ぐ位置まで落ち込まない限り、窒息となるこ
とはない。
   なお、咽頭部分の浮腫は、C病院における緊急の蘇生術の際に、気管挿管が
行われており、さらに亡Bの歯が抜け、大量の血が溜まるほどの状態になっていたことか
ら、相当緊急の処置がされたのであり、処置した医師が気付かぬうちに、気管挿管の管
がちょうどカーブしている部位に当たる咽頭部分に当たり、浮腫を生じさせたものと考える
のが自然である。この際、心肺停止状態であった点については、人工呼吸等の処置で心
肺を活動されているので、生体反応は当然起こるのであり、浮腫の反応が起こることは不
自然ではない。
   以上により、亡Bの死因として窒息の可能性は考え難い。
 (イ) 自殺の可能性が高いこと
   亡Bは、境界性人格障害のため、自殺行為を繰り返してきた。そして、本件搬送
の前日、亡Bは被告より入院する旨を告げられたが、亡Bが入院を嫌がっていたことは既
に明らかになっており、そうであるからこそ、被告は本件搬送に当たり抑制の準備をして
いたのである。そして、実際本件搬送当日、亡Bは舌を噛もうとした事実があり、その自殺
企図の存在を明確に窺い知ることができる。
   そして、亡Bの死後、その居室には、亡Bがこれまでに何度も自殺のために服薬
してきたトリプタノールの薬袋が空になって残されており、また、その致死量が記載された
書籍、「今日の治療薬」も残されていた。さらに、亡B自身看護師の資格を有しており、トリ
プタノールの薬効は熟知していた。
   以上の状況からすれば、本件搬送当日の午前6時30分ころ、被告らが亡Bのア
パートを訪れた際、亡Bが既にトリプタノールを大量服薬していた可能性が窺われ、さら
に、亡Bが相当のアルコールを摂取していたこともあり、本件搬送中にトリプタノールの大
量服薬による急性死に至った可能性が強く推認される。
 (ウ) トルサード・ド・ポアントの可能性もあること
   トルサード・ド・ポアントは、平成8年に初めて報告された致死性頻拍性心室性
不整脈で、高用量のハロペリドールあるいはクロロプロマジンを投与した場合の発現が多
いが、低用量のハロペリドール経口での発現の報告もある。これにより心室細動を惹起
し、数分で死に至る。
   ハロペリドールとは、セレネース、ハロマンス等の抗精神病薬であり、亡Bのよう
に同薬剤が長期投与されている場合には、心室細動が起こり得る。
   また、抗うつ剤であるトリプタノールの過量服薬によっても致死性の心室細動が
起こり得る。実際、亡Bはトリプタノールの大量服薬により緊急入院もしている。しかし、こ
れは被告の処方量を遙かに超えるものであることや、亡B自身看護師仲間から薬剤の横
流しを受けていたと話していたこと、さらには亡Bの居室に被告の医院以外の病院の薬
袋があった事実からも、亡Bが横流しを受けた薬剤を大量に所持していた可能性が高く、
亡B自身の有していたトリプタノールの大量服薬によるトルサード・ド・ポアント発現の可能
性も高い。
   死体見分調書中の「眼瞼結膜、心臓、肺等に溢血点が発現している」「各臓器
が鬱血状を呈し」「心臓内の血液が流動性」といった状態は、アレルギー性ショックや多
剤服用によるショック、大量服薬による心不全、致死性の不整脈等の原因による急性死
でも起こり得るものであり、この点からも亡Bの死因としてトルサード・ド・ポアントが考えら
れる。
イ 本件搬送に当たり行った注射の薬剤の影響について
  本件搬送に当たり行った注射の内容は、テラプチク(呼吸機能の賦括効果に対
する有効性がある)、強力ミノファーゲンシー(解毒や肝臓の庇護のため)、セレネース
(鎮静剤)、ホリゾン(鎮静剤)及びアキネトン(セレネースの副作用止め)である。これらの
薬剤の併用の危険性がないことは、実際の臨床現場での使用状況及び亡Bへの実際の
使用状況より明らかである。
  すなわち、上記のうち、呼吸を促進させるテラプチク以外は同じ組み合わせで何
度も使用しているが、問題が生じたことは一度もない。精神安定剤を使用したからといっ
て被告が経過観察する必要性は存在せず、それにもかかわらず本件搬送時にはテラプ
チクまで使用しているのであるから、被告は十分に慎重を期していたものである。
ウ 抑制等の必要があったこと
  本件搬送に当たって、手足の抑制は、搬送途中で暴れたり、入院を嫌がって自
殺しようとすることを防ぐためであり、口腔内のティッシュペーパーはやはり舌を噛むこと
による自殺を防止するためであった。注射は、鎮静、呼吸促進、肝臓の庇護等のための
ものであり、このような患者には一般的な処方であり、実際にも呼吸促進剤以外のテラプ
チク以外は本件搬送前日まで何度も亡Bに使用して何らの危険も存しなかったことは上
記イにおいて述べたとおりである。
エ GやHは適切な搬送を行ったこと
  搬送の職員のうち、Gは准看護師の学校に通う学生であり、バイタルサインを取る
ことができ、被告から亡Bの搬送中のバイタルサインに注意することを命じられ、その連絡
のための携帯電話も預かっている。
  Gが実際の搬送中に、被告の医院に電話して留守番電話になっていたとの点に
ついては、被告は、亡Bの搬送を見届けてから一旦簡単な朝食を摂ってすぐに医院に出
掛けており、亡Bの搬送に対する注意義務に反することはない。
オ まとめ
  被告に対し、以上の処置以上に要求されるものはない。本件搬送途中の亡Bの
容態の変化については、およそ予想できるものではなく、被告の責任となるものではな
い。特にトルサード・ド・ポアントは数分単位で死に至るものであり、被告が同乗していたと
しても亡Bの救命は不可能であった。
  すなわち、そもそも被告に亡Bの搬送に同行すべき義務は存在しないが、仮に被
告が同行していたとしても、結果回避は不可能であった。亡Bが通常の窒息状態に至っ
たものであれば、Gらのティッシュペーパー除去で十分対処できており、自殺やトルサー
ド・ド・ポアントによるものであれば、被告においても対処は不可能であり、今回と同様にC
病院への搬送を急ぐしか手はなかったからである。
  (2) 争点(2)(損害)について
  (原告らの主張)
   ア 亡Bの病態と将来の就労可能性について
     亡Bが境界性人格障害であったことから逸失利益を否定するのは妥当でない。
     境界性人格障害の患者の予後は決して悪くなく、長期の治療を続ければ、3分
の2の患者が改善し、50パーセント以上の患者が社会適応をしている。したがって、亡B
が死に至らず適切な治療を受けていれば、5割以上の確率で社会復帰をしていたものと
いえる。
     また、自殺率についても、確かに一般人に比べれば高いかもしれないが、実際
に自殺に至る例は10パーセントに満たない。したがって、境界性人格障害の患者が死
亡する可能性は医学的には決して高くない。
     さらに、亡Bがアルコール依存症であったことを加味しても、逸失利益を否定する
のは妥当でない。
     診断5年後のアルコール依存症の患者の生存率は50ないし80パーセントであ
り、平均寿命は52ないし53歳である。加えて、アルコール依存症の患者の自殺率は7.
4パーセントであって、一般人の死亡率の3.4パーセントと比較した場合、高率ではある
が顕著に高いわけではないのである。しかも、アルコール依存症の患者の予後をみると、
約7割の患者が何らかの職業に就いているし、4割の患者が自立して生活している。さら
に、亡B自身、アルコール依存症に関し、断酒の意欲を持ち、これを実践すべく努力して
いたのである。亡Bのアルコール依存症が悪化したとすればそれは被告の治療方針の誤
りによるものであり、そのことを逸失利益の算定において患者であった亡Bの不利に考慮
すべきではない。
     亡Bは、社会復帰する能力も意欲も持っていた。
     すなわち、看護師の免許を持っていたことに加え、死亡する2年前の平成10年
後半までは、アルバイト等を行って就労していたし、平成11年には仕事の面接にも行っ
ていた。つまり、亡Bは、病気が治癒さえすれば容易に就職が可能な看護師という資格を
有していたことに加え、職を得るための努力も常時行っていたのである。
   イ 損害額について
    (ア) 亡Bの損害
     a 逸失利益
       本件においては、上記アのとおり、亡Bに十分逸失利益が認められる。そして
その額は、亡Bが大学在学中の平成5年から平成9年まで看護師として稼働していた時
期の給与が最終的に年間497万7250円程度であったこと、大学を卒業・中退後は職務
に専念できるからさらに多額の給与を得ることも可能と考えられることなどからすれば、少
なくとも高専・短大卒女子労働者の賃金センサスを用いて逸失利益を算定すべきであ
る。
       そして、中間利息控除については、現在の低金利状況等に鑑み、2パーセン
トして計算すべきである。
       以上によれば、亡Bの逸失利益は、
       408万4400円(高専・短大卒女子労働者賃金センサス)
       ×(1-0.3)(生活費控除)
       ×25.48884(就労可能年数36年のライプニッツ係数;2           
パーセント)
       =7287万4632円
     b 慰謝料
       3000万円
     c 小計
       1億0287万4632円
     d 相続
       上記cを両親である原告らが各2分の1ずつ相続した。
    (イ) 原告ら固有の損害
     a 葬儀費用
       原告らにつき各75万円(計150万円)
     b 慰謝料
       原告らにつき各500万円(計1000万円)
     c 弁護士費用
       原告らにつき各500万円(計1000万円)
    (ウ) 合計
      以上合計すると、各原告につき、それぞれ6218万7316円となる。
  (被告の主張)
   ア 亡Bの病態と将来の就労可能性について
     亡Bには、上記(1)(被告の主張)において述べたような自殺志向のほか、境界性
人格障害の昂進、アルコール中毒状況等があり、およそ一般的な生活への復帰及び就
職稼働の見込みは極めて乏しく、早晩重篤な状況、事故あるいは自殺等の結果に至っ
ていたであろう可能性が高い。仮に死亡まで至らずとも、以上の症状からすれば、通常の
社会生活に復帰できる見込みは極めて少ない。
     すなわち、境界性人格障害は、対人行動、気分、自己イメージ等の不安定さを
特徴とする神経症性の性格障害であり、予想不能な衝動的行動、激しい気分変動、激し
い攻撃性、自己同一性、性同一性、将来の目標や価値等の不確実さに現れる。境界性
人格障害の患者は、持続的空虚感を抱え、生きている意味を確認できないことなどから、
自殺の危険性が極めて高い。また、安定した医師患者関係が維持しにくいため、多くの
困難が伴う。境界性人格障害の患者は、大うつ病、摂食障害、解離性障害、強迫性障害
その他の神経症性障害、アルコール依存、あるいは家庭内暴力等を併存した状態で受
診することが多いが、これらの併存症状を標的とした治療を施行しても期待する効果が得
られることは少なく、むしろ、希死念慮、自殺の脅し、服薬による自殺企図等を悪化させ
て入院を繰り返すことが多いが、他の患者との共存が難しいため、入院治療を受け入れ
る病院は極めて少ない。したがって、境界性人格障害の患者であった亡Bの予後は悪い
と考えられる。
     また、亡Bは死亡時31歳の女性で、それ自体でも予後が極めて悪いアルコール
依存症を併発しており、その上で、反社会的行動や自殺行為を繰り返し、最終的には転
落事故まで起こすなど、差し迫った危険が予想されるほどに極めて重篤な状況にまで陥
ったため、やむを得ず遠方の病院にまで搬送しようとした事例である。上記のように境界
性人格障害の患者の予後は悪く、アルコール依存症の患者も予後は悪い。境界性人格
障害で何度も大量服薬による自殺行為を繰り返しており、かつ重度のアルコール依存症
を合併していた亡Bの予後の悪さについては言うまでもない。このように亡Bの具体的な
病状に照らせば、将来の稼働可能性を認めることはできないのであって、原告らが主張
しているのは、単に抽象的な一般論にすぎず、本件において具体的に逸失利益を認め
るべき根拠とはならないものである。
     以上によれば、亡Bについて、今後一定の収入を見込むことは困難であって、逸
失利益を認めることはできず、むしろ、原告らには相当の治療費等の費用の出費が必要
になったものと推測される。
   イ 損害額について
     争う。
     逸失利益が認められないのは、上記アにおいて述べたとおりである。
     また、被告は、亡Bに対し、採算上は必ずしも得策でない自費診療を熱心に行
い、往診も度々行い、治療の難しい境界性人格障害についても伝を頼ってC病院へ受
入を依頼したものである。
     このように、被告は、亡Bに対する治療を熱意を持って行っていたのであり、その
死の責任を一面的に被告に問うのは妥当でない。
第3 当裁判所の判断
 1 証拠(文中に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば、本件の診療経過について
以下のとおり認められる。
  (1) 本件搬送に至るまで
   ア 亡Bは、昭和44年6月28日、原告らの第2子(長女)として出生した(甲B22、C
1、乙A1)。
   イ 亡Bは、高校在学中の17歳の時、朝の通学路で見知らぬ男性に自動車へ連れ
込まれた上、性的な暴行を受けるという被害に遭い、大きな精神的苦痛を受けた(甲B1
6、22、乙A1、B16、原告D本人)。
   ウ 亡Bは、地元の高校を卒業後、看護学校へ進学し、平成3年5月20日、看護婦
(当時)の資格を取得し、看護師として就職した(甲C2、乙A1、原告E本人)。
   エ 亡Bは、平成5年4月、大学進学のために上京し、看護師として働きながら、大学
に通う生活を開始した。
     平成5年12月からは、Iクリニックにおいて勤務していたところ、平成9年7月に同
所を辞職し、その後は看護師としての就労をしていない(争いのない事実、甲B22、乙A
1、原告E本人)。
   オ 亡Bは、平成8年ころ、大学のフェミニズムの授業において、歴史上女性が虐
待、性的暴行等を受けていたというような内容が取り扱われたところ、過呼吸や動悸が発
現し、授業中にそのような状態になった自分を恥ずかしいと感じた(乙A1・3頁)。
   カ その後、亡Bは、人と顔を合わせ、緊張すると、過呼吸や動悸が起こるという症
状に悩むようになり、平成10年11月2日、被告クリニックを受診して被告の診察を受け、
境界性人格障害であると診断されて、その後継続的に同クリニックに通院するようになっ
た(乙A1・3頁等、B16.17)。
   キ 被告は、昭和62年3月にF大学を卒業し、同年5月に医師免許を取得した後、
同大学医学部精神科教室に入局するとともに、C病院で1年、東京都の職員として半年、
J病院に10年勤務した後、平成8年6月1日に本籍地において精神科を専門とする被告
クリニックを開設し、院長として医業に従事していた。
     被告は、本件搬送当時、厚生労働省の精神保健指定医になっており、精神鑑定
の指定医となっていた。
     被告は、師であるKの手法を受け継ぎ、患者を寝椅子に寝かせ、思い付いたこと
を話してもらって、患者の自然治癒力を刺激する方法(仰臥法)を主体とし、夢分析、ある
がままの自分を認めるモニター療法等を併用しており、亡Bに対しても、おおむね同様の
手法を採っていた(甲B16、19、乙A1ないし3)。
   ク 亡Bは、平成10年11月2日の初診時から、同年12月1日まで保険診療で計16
回被告クリニックへ通院した。
     亡Bは、初診時、原告らについて、父親である原告Dは優しくて好きであること、
母親である原告Eは小さい時は厳しかったがやはり好きであることを述べていた。
     被告クリニックにおける治療の中で、亡Bは、上記イの被害の件についての苦痛
や恐怖感、その後学校の教師に心ない言葉を浴びせられたこと、警察の事情聴取に対
して被害事実をありのままに述べたところ、母親である原告Eから叱られたこと、その他家
族に対する不服の気持ち、家に帰ると飲酒するようになったことなどを述べていた。
     また、亡Bは、同年11月10日には、その前日手首を切りそうになったこと、1回1
錠服用として処方されたデパス(抗不安薬)を1度に6錠服用したこと、同月24日には知
人からもらった睡眠薬を大量服薬したことを被告に告げていた(乙A1)。
   ケ 被告は、保険診療の場合、カウンセリングの時間が10分から15分程度しか取れ
ないこと、自費診療の場合およそ1時間で1万5000円の治療費となるが、時間的には余
裕があり、ゆっくりと話を聞いて精神療法を行うことは非常に効果的だとされていることな
どから、自費診療の方が望ましいと考えていた。
     亡Bについても、平成10年12月2日以降、1回1万5000円の自費診療となった
(乙A2、B16、20)。
   コ 亡Bは、平成10年12月2日以降、平成11年4月26日までの間、被告クリニック
において、約40回の自費診療を受けた。
     その治療の中で、亡Bは、上記イの被害の件についての話を詳細に語っており、
今でも辛い体験として思い出すことなどを述べていた。
     母親に関する話として、母親である原告Eから人に迷惑をかけるなということをい
つも言われること、原告Eは、上記イの犯人を殺してもよいと言っていること、母親の言うこ
とを聞かないから亡Bの人生が良くならないと言っていること、自分の話を十分に聞いてく
れないことなどを述べ、父親に関する話として、原告Dは上記イの被害の件について訴
訟を起こすと言っており、亡Bとしては胃の痛い思いをしていること、原告Dは「俺がお前
を守る」と言いつつ「俺を追いつめるな」と言うなど態度が変転すること、亡Bが原告Dに
対して「あなたが変な正義感を植え付けるから私はこんなに苦しむのよ」と言い放ったこと
などを述べていた。
     また、平成10年12月26日には、自殺しようと思ったこと、平成11年2月20日及
び同年4月19日には手首を切ったこと、同月8日には自宅で自ら頭を打ちつけてL病院
に救急車で運ばれたこと(頭部CTには異常なし)を告げた。
     被告は、同年2月20日には亡BをPTSD(心的外傷後ストレス症候群)の患者と
してF大学附属病院内科へ紹介した。
     亡Bはその他にも薬の過量服用、リストカット、タバコの火の押しつけ等の自傷行
為を数多く行う一方、飲酒して包丁を忍ばせて被告クリニックに来院し、被告に包丁を向
けることもあり、被告はそれらの包丁を取り上げて保管していた(乙A1)。
   サ 原告D及び亡Bの兄は、平成11年4月11日、亡Bと同席の上、被告と面談し
た。被告からは、亡Bの病名はノイローゼであること、治療はまず3箇月を目途に考えてほ
しいことなどを告げた。原告Dは、自費診療をやめて福島の病院へ転院させたいという考
えを述べたところ、被告は、大学の先輩がいるM病院を紹介したが、亡B本人の意思を
大切にしてほしいとも述べていた。
     なお、被告は、亡Bが人間を敵味方の二面的な分類で考えるため、亡B抜きで家
族と面会すると、被告自身が亡Bの敵だということになって、被告に本当のことを言わなく
なるというおそれがあったため、亡Bの家族と面会する際には、常に亡Bと同席の上で面
会するという方針を採用しており、また、境界性人格障害の患者については、真実の病
名を告げると医師と家族との間に溝を作る場合が多いという懸念から、境界性人格障害
であるとは伝えないこととしていた。
     原告D及び亡Bの兄は、同月20日ころ、亡Bをアパートから連れ出し、M病院を
受診させたが、亡Bは、医師との関係が上手くいかず、すぐに帰京し、再び被告クリニック
において受診することになった(甲B15、乙A2、B16、17、原告D本人)。
   シ 亡Bは、原告らへの反発感もあって、生活保護を受給したいと考えており平成1
1年4月26日以降、生活保護を受給しようとし、被告は、同日付けで治療の予定期間を
平成13年4月25日までとし、長期の外来通院を要すると記載した通院医療費公費負担
申請用診断書を作成した。それに伴い、被告クリニックにおける治療も再び保険診療に
なり、同年6月以降、生活保護の給付が開始された(甲A1、B16、19、乙A1ないし3、B
16)。
   ス 亡Bは、平成11年4月26日以降、本件搬送の当日である平成13年1月13日ま
での1年8箇月余り、平成11年4月には4回、同年5月には11回、同年6月には14回、同
年7月には10回、同年8月には9回、同年9月には18回、同年10月には13回、同年11
月には7回、同年12月には3回(平成11年4月26日以降同年12月末日まで合計89
回)、平成12年1月には3回、同年2月にも3回、同年3月には4回、同年4月にも4回、同
年5月には6回、同年6月には13回、同年7月には11回、同年8月には20回、同年9月
には11回、同年10月には12回(同一日に外来と往診を行っている場合には各1回とす
る。以下同じ。)、同年11月には21回、同年12月には28回(平成12年は合計136回)、
同年1月には9回(本件搬送を含まない。)、総計234回被告クリニックによる治療(外来、
往診、訪問看護等すべての形の治療を含む。)を受けた(乙A3)。
   セ 亡Bは、平成10年11月2日の初診時からアルコール依存症の傾向が見られて
いたが、平成11年4月ころ以降から、度々多量に飲酒をした状態で被告クリニックに来院
するようになり、カルテにもアルコールを飲み続けているといった記載が頻繁に見られる
など、その傾向を強めていったし、一時期暴力団員と同棲したり、その後年下の男性と継
続的に交際したほか、売春行為も行うようになった。被告は、アルコールを飲まないように
という指示を出し、同棲をやめ自分を大切にするようになどと説得していたが、亡Bは、そ
れに従うことが困難であった(乙A1ないし3)。
   ソ この時期の亡B及び被告と原告らとの関わりなどについては以下のとおりであ
る。
     被告が原告らに対し、亡Bの上記同棲の事実を伝え、引き離した方がよいのでは
ないかと助言したことから、平成11年6月10日、原告Dと亡Bのおじが亡BをMに連れ戻
そうと同棲相手の家にやって来たが、亡Bがヒステリー発作を起こしたことから、連れ出し
は失敗に終わった。
     また、亡Bは、同年8月27日、原告らから電話があると無理して「元気です」と返
事するしかなく、特に原告Eからの電話は嫌だと被告に述べていた。
     さらに、亡Bは、同年11月30日、原告Eから、ゆっくり治れと言われたり早く治せ
と言われたりして困惑すると被告に述べていた。
     原告Eが、平成12年1月9日、被告クリニックに来院し、被告に対し、現在の状態
はどうか、半年間で500万円をかけたがまだ治らないのか、生活保護は亡Bが望んだこと
なのかという質問をした。これに対し被告は、現在は食べ物を受け付けず、点滴で栄養を
補給している状態であることなどを説明した。
     亡Bは、同年3月19日、原告Dの求めにより郡山のNクリニックで受診したが、こ
のときのことについて、亡Bは、同原告が以前亡Bが犯人に捕まった道を亡Bを連れて歩
くことに嫌悪感を持っていることを被告に述べていた。
     もっとも、亡Bは、同月27日には「親ってさあ、憎みきれないよね。憎んでも憎ん
でも愛してる」という気持ちも吐露していた(乙A3)。
   タ 亡Bは、平成12年6月28日に、睡眠薬を多量に服用して救急車でO病院へ入
院したものの、自ら点滴を引き抜き非常口から脱院するという事件を起こしていたところ、
同年7月9日にトリプタノール等を大量服薬して自ら救急車を要請し、O病院救急外科を
受診した。同病院で胃洗浄等の処置を行い、一旦帰宅したが、再びトリプタノール、ドグ
マチール(抗精神病薬)を酒とともに飲み、再び同病院を受診し、入院した。翌10日に同
病院心療内科を受診したときには症状が落ち着いており、同月11日には退院の手続が
とられ、急性薬物中毒、境界性人格障害疑いという傷病名を付された上で被告クリニック
を受診するよう指示された。
     ところが、亡Bは、同月13日、またも大量服薬をし、当時交際中の男性に意識レ
ベルが大幅に低下した状態(血圧は30/10)で被告クリニックに運び込まれた。被告クリ
ニックにおいて応急の処置を行ったが意識レベルが上昇せず、救急車にてO病院へ搬
送された(その際の診療情報提供書には傷病名が急性薬物中毒、境界性人格障害、ア
ルコール依存症と記載されている。)。その数日後、同病院を退院し、従前どおり被告クリ
ニックに通院等するようになった。
     その後も、同年9月7日にはアスピリンを大量服薬して胃洗浄の処置を受けたこと
があった。
     また、同年11月17日には、往診に赴いた被告に対して包丁を向け、被告にこれ
を取り上げられるという事態も起こしていた(乙A3、B16、19、20)。
   チ 平成12年12月2日、亡Bが被告に対し、原告Dが抜き打ちでアパートに来てい
る、これ以上親に気を遣うのは嫌だ、すぐに来てほしいと連絡したため、被告は緊急往診
を実施した。亡Bにはアルコールを無理に飲んでいるような印象もあり、被告は、亡Bに対
し、強力ミノファーゲンシー1アンプル、ホリゾン1アンプル、アナフラニール(抗うつ薬)1
アンプルを注射した。被告は原告Dと面接したところ、原告Dは、①入院は必要ないの
か、②肝臓は大丈夫かと質問したため、被告は、①入院して断酒したいという気持ちが亡
Bにないと難しい、②血液検査のデータからは正常範囲内であると回答した。
     被告は、亡Bについて、平成12年11月ころから、断酒に伴うと推測される幻視・
幻覚が現れるようにもなっていたところであって、亡Bのアルコール依存症が悪化してき
たと考え、入院の必要性が高まったと判断したため、平成12年12月22日にJ病院東京ア
ルコールセンターへ入院させることとし、亡Bも同センターへ向かったが、同女の断酒の
意思があいまいであり、境界性人格障害があると入院は難しいとして、外来での治療を
勧められたために、この入院は実現しなかった(甲B16、乙A3、B16)。
   ツ 被告が、平成13年1月3日に亡Bの居宅へと往診した際、原告Dも同所へ来て
いた。被告が原告Dと話をしたところ、原告Dは、亡Bを入院させることを希望していた。
被告もその方が良いと思っていたことから、亡Bを同月5日にJ病院へ入院させようと考え
た。
     しかしながら、亡Bが、翌4日に入院を拒否し、同月5日に被告クリニックに来院し
なかったことから、上記の入院を実施することはできなかった。すると同日、原告Dから電
話で亡Bを強制入院させてもらいたい旨の依頼があった。
     被告が同月7日に亡Bのアパートへ往診したところ、亡Bは、アルコールの影響
によってアパートの階段から転落したとのことで頭を13針縫い、包帯をぐるぐる巻きにし
ている状態であったため、被告は、早急に措置入院が必要であると判断し、a警察署の
警察官に通報したところ、亡Bは激しく暴れて抵抗し、被告を叩くなどした。亡Bは、多数
の警察官に取り押さえられ、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律24条に基づく
警察官の通報によりP病院に入院し、被告はそのまま措置入院になるものと期待しその
旨を原告らに連絡したが、同病院においては措置入院の必要を認めず、亡Bは同月9日
に退院してアパートへ帰宅した(甲A1、B16、19、乙A3、B16ないし18、原告D本人)。
   テ 被告は、亡Bの入院の必要性を強く感じ、P病院、Q病院、J病院、R病院等へ入
院受入れの要請を行ったが、いずれも拒絶された。さらに被告が、同月12日、以前勤務
したことのある千葉県のC病院へ入院依頼をしたところ、同病院において亡Bの入院を受
け入れるとの回答があったため、被告は、亡BをC病院へ入院させようと考えた。
     被告がGと共に、同日午後8時30分ころ、亡Bのアパートへ赴いたところ、亡Bは
アパートの階段踊り場で幻覚を見ていたようであった。被告は亡Bに対して、強力ミノファ
ーゲンシー、ホリゾン10、セレネース5及びアキネートの混合液を注射し、亡Bが落ち着
いたところで、翌日入院することを伝えたところ、亡Bは入院は嫌だと述べた(甲B16、1
7、乙A3、B16、17)。
   ト 被告は、被告クリニックに戻った後、翌日早朝に亡BをC病院へ搬送することを決
定し、被告、G及びHの3名で、その計画について以下のとおり話し合った。
     被告は、G及びHに対し、交通渋滞を避け搬送時間を短くするために朝一番で
千葉県東金市にあるC病院へ搬送すること、高速道路を利用して2ないし3時間程度か
かること、亡Bについては薬で眠らせて運ぶことなどを告げ、搬送のための道程を教示し
た。これに対してGから、薬の作用の持続時間及びもし薬の作用が切れて亡Bが暴れ出
し、車から飛び出したり、自殺を図るなどの事態が生じたらどうすればよいかとの質問があ
った。被告は、薬の作用の持続時間はせいぜい1時間半程度であること、もし薬の作用
が切れて亡Bが暴れ出すなどすると困るので、手足を縛るなどして身体を抑制の上搬送
することなどを説明した。
     被告は、上記のような抑制を行うため、ガムテープ、ビニールひも、タオル等を準
備し、被告ら3名は、翌日の搬送に備えて被告クリニックに泊まることにした。
     被告は、この段階では亡Bの両親である原告らと連絡が取れていなかったが、上
記ツのとおり、元々原告Dが亡Bの措置入院を希望していたことから、翌朝出掛ける前に
連絡をすればよいと考え、C病院に電話して、両親と連絡が取れてC病院へ向かわせる
との旨を伝えた。
     なお、C病院は、千葉県東金市に所在し、同病院への搬送は他県への搬送とな
るため、各自治体管轄の救急車による搬送はできなかった。こういった場合、通常は患者
の家族が警備会社等に依頼して搬送するのであるが、本件の場合、原告らが被告の治
療に対して否定的な評価を有しており、原告らの負担において亡Bの搬送を依頼するこ
とは困難であったこと、入院に緊急性が認められると考えられたことなどから、被告は、自
ら亡Bを搬送することとした(甲B8、9、17ないし19、乙B16、19、20)。
   ナ(ア) Gは、今まで患者宅と被告クリニックの間を搬送したことはあるが、自分だけ
で搬送したことがあるのは患者の同意があるときのみであり、他病院への搬送を医師の
付添なしで行うのは初めてであったことから、本件搬送については、意識のない患者を
運ぶこと、経験のない県外移送であって移動距離が長いこと、千葉県は道が不案内であ
ること、患者が暴れるあるいは自傷・自殺を図るおそれがあることから、不安を持ってお
り、上記トのように被告に対して質問をして指示を仰いだ。それでも不安を完全に解消す
るには至らなかったが、最終的には、眠らせて抑制するのであれば大丈夫だろうと考える
に至った(甲B8、乙B18ないし20)。
    (イ) Hは、以前被告クリニックにおいて神経症性抑うつ状態の治療を受けていた
者であるが、本件搬送当時、被告クリニックにおいては、受付等の事務を担当しており、
医療の経験を持たず、患者のバイタルサインを取るなどの知識も持っていなかった(甲B
8)。
   ニ 被告が平成13年1月13日早朝、原告らの自宅に電話をしたところ、原告Eが電
話に出た。被告は、亡Bの状態が芳しくないこと、東京都内の病院にいくつか当たったが
いずれも入院を断られたこと、被告が以前勤務していたC病院が引き受けてくれるので入
院を承諾してほしいこと、担当医師はS医師という人物であること、親には保護義務者に
なってほしいことを伝えたところ、原告Eはいずれも了解、承諾した(甲B15ないし17、乙
A3、B16、17)。
     なお、原告らは、この時原告Eが被告に対し、被告も搬送に同行するのかを尋ね
たところ、被告が肯定の返事をしたと主張し、この点について、原告ら本人と被告本人の
供述は相反するものとなっているが、この時被告が原告Eに対し、自分が搬送に同行す
ると述べたか否かが被告の過失の有無に直結するものとは考え難いところである。
   ヌ 亡Bに投与されていた薬剤については、当初(平成12年3月ころ)は肝臓庇護の
効果を有する強力ミノファーゲンシーの点滴がされていたが、同年8月ころから鎮静作用
を有するホリゾンの投与もされるようになっていった。なおホリゾンは当初1アンプルの投
与であったが、同年11月ころからは一度に2アンプル投与されることもあった。さらに、同
月ころからはやはり鎮静作用を有するセレネースも投与されるようになった。平成13年1
月4日にはセレネースの副作用止めとしてアキネトンも投与されていた。加えて、平成12
年11月18日には抗精神病薬のハロマンス、同月29日以降は抗うつ剤のトリプタノール
やパシキル等も処方されていた。
     強力ミノファーゲンシー、ホリゾン及びセレネースの混合液は、何度も亡Bに対し
て投与されていたが、それによって特に副作用を生じたという例はなかった(乙A3、B1
6)。
  (2) 本件搬送について
   ア 被告ら3名は、平成13年1月13日午前6時過ぎに亡Bのアパートへ自動車で向
かった。被告が亡Bの居室でノックをすると、やがて亡Bがドアを開けたので、被告らは居
室に入った。亡Bは、昨夜の往診時と同じ衣服を着用し、ぼうっとした様子で、Hに対して
Vサインをして話しかけたりしていたが、被告は、精神保健指定医の証明書を呈示し、母
親の同意を得たのでこれからC病院へ強制的に入院させる旨を通告し、亡Bを奥の部屋
へと連れて行った。すると、亡Bは入院は嫌だと述べ、舌ないし唇を噛んで出血したため
(この時に亡Bが口を噛み出血した事実は、猿轡として噛ませたタオルに血痕様の付着
があったこと(甲B3)から明らかである。)、被告は、直ちに亡Bの自殺企図を食い止める
必要性があると考え、とりあえず側にあったティッシュペーパー(約20センチメートル×約
18センチメートルでごく薄い紙が2枚重ねてあるタイプのもの)6枚を手に取り、一旦被告
の口の中で湿らせ、それを亡Bの口の中に移し、奥歯の辺りに詰め込んだ。その上で、
持参したタオルを鋏で切断し、歯と歯の間に猿轡のように噛ませて自傷・自殺行為に及
ばないようにし、さらにこのタオルをガムテープで固定した。
     また、被告が、まず呼吸促進作用のあるテラプチクを亡Bの左上腕に筋肉注射し
たところ、亡Bは痛がって暴れ、抵抗したため、GとHが亡Bの肩を押さえ、被告は引き続
いて強力ミノファーゲンシー、セレネース5、ホリゾン10及びアキネトンの混合液を注射し
た(以下「本件注射」という。)。
     本件注射の効果によって亡Bがおとなしくなったので、被告は、搬送途中に暴れ
ないよう、亡Bの手足をタオルできつく縛った上、重ねてガムテープとビニールひもでも厳
重に縛り、保温等のため毛布を亡Bの体に巻いて搬送用の自家用普通乗用自動車(フォ
ルクスワーゲン)の後部座席に乗せた。この際被告は、亡Bの呼吸に関して気道を確保
する必要があるとの考えから、亡Bの首の下に枕を置き、頭部後屈おとがい部挙上法(頭
部を後屈させ、おとがい部を挙上させる方法で、二次的に咽頭蓋靱帯が引き上げられて
咽頭蓋が開き、舌根沈下を防ぐ効果があるとされる。)をとって後部座席に寝かせた。
     被告は、亡Bの容態に異常が生じた場合に備えて、Gに対し、被告の携帯電話
を手渡し、もし亡Bの容態が急変したらすぐに被告に連絡するよう指示をしたものの、搬
送中、亡Bのどのような点に注意すべきかというところまでは指示をせず、体温計や血圧
計も携帯させなかった。また、このとき亡Bの居室内のこたつの上には、T薬局等の内用
薬用の袋のほか、トリプタノール錠5錠(8錠一体のシート入りのもののうち、3錠が使用済
みとなっているもの。)を含む数種類の薬品が置かれていたが、被告がこれらを詳しく調
べたり、他に大量の薬剤を服用した形跡がないか否かを調べることはなかった(甲A1、B
1、3ないし5、8、10、16ないし19、乙B15ないし20)。
     なお、被告のGに対する指示内容については、被告はより詳細な指示をしたと主
張しているが、これについては後記3(2)エにおいて判断する。
   イ G及びHは、同日午前7時ころ、亡Bのアパートを出発した。出発直後はGが運
転したが、Gは道に不案内であり、運転も慣れていなかったため、まもなく運転をHに代
わり、Gは助手席に座った。
     高速道路を走行中、Gは助手席から何度か後部座席を振り返り、亡Bの様子を
見ていた。そして、同日午前8時ころ、車が首都高速道路のディズニーランド付近を通過
する辺りで、Gは、そろそろ本件注射の効果が切れるころではないかと考え、被告に連絡
を取ろうとしたが、被告から借りた携帯電話の操作方法が分からず、Hに被告への連絡を
取ってもらったものの、被告の方は留守番電話となっていた。この時点では、亡Bの脈を
取ることができていたが、呼吸については、Hが喫煙のために車の窓を開けていたため、
確認することができなかった。
     Gは、上記連絡の直後、本件注射の効果が切れてもよい時刻であるのに亡Bが
おとなしかったことから、亡Bの状態を確かめようとして亡Bの首筋に手を当てたところ、脈
が取れたため、まだ本件注射が効いていて亡Bがおとなしいのだと考えた。しかしなが
ら、その後も亡Bの様子に変化が見られなかったため、Gらは不安が募り、車が京葉道路
に入った辺りで、Gがもう一度亡Bの脈を取ったところ、なかなか脈がGの手に伝わらず、
また、Gが亡Bの鼻に手を持っていくと、呼吸している様子がなかった。そのため、GはH
に被告と連絡を取るよう指示し、Hが被告の留守番電話に連絡をくれるよう伝言を残し
た。さらにGが亡Bの額に手を乗せると、冷たい感じを受けたことから、亡Bに異変が起こ
ったのではないかと考え、Hに早くC病院へ向かうよう急かした。
     その後、同日午前8時50分ころ、車が京葉道路から東金有料道路に入った辺り
で、Gが被告から借りた携帯電話に被告から連絡が入った。Gが被告に対し、亡Bの呼吸
が取れないこと、脈が取れにくいことを報告したところ、被告は亡Bの抑制を解くよう指示
した。そこでGは、亡Bの口を塞いでいたガムテープ、タオルを取り除くとともに、ティッシ
ュペーパーを指で挟んで取り出した。このとき、ティッシュペーパーは唾液で濡れている
状態であった。Hも亡Bの異変に気付き、車を路肩に停め、後部座席のドアを開け、亡B
の手足のビニールひも等を取り去った。この時、Gが亡Bの顔を見たところ、亡Bの唇は紫
色をしており、脈や呼吸の確認ができず、Gが亡Bの体を揺すったり叩いたりしても亡Bは
全く反応しなかった。
     Gらは、亡Bに対して人工呼吸等の応急処置を講ずることもなく、ひたすらC病院
へ急行し、同日午前9時30分、同病院へ到着して、亡Bは病院職員へと引き渡された
(甲A1、乙B16、18ないし20)。
     なお、上記の経過につき、Gは刑事事件における証人尋問で、午前8時50分こ
ろの段階では、亡Bの呼吸が取りづらかったものの脈は大丈夫だった旨証言しており(甲
B8、9)、被告も同趣旨の供述をしているが(甲B16)、上記証言自体本件搬送から1年
以上も経過した後にされているものであることに加え、これは本件搬送直後のG自身の供
述調書の内容(乙B18、19)と相反しており、さらに、本件搬送直後に記載されたC病院
の診療録にも「…当院到着の30-40分前に路肩に駐車し、両上肢の抑制を解除した
が、その時点で、患者に自発呼吸があったか、動脈拍動を触知できたかどうかの確認は
できなかった」と記載されているから、上記の点については、乙B18、19の内容の信用性
が高く、これに反する甲B8、9、16は、上記経緯に関しては採用できないというべきであ
る。
   ウ 亡Bは、同日午前9時35分、C病院外来処置室へ搬入されたところ、看護師の
声掛けに反応がなく、血圧も測定できず、動脈も触診できなかった。同日午前9時37分、
医師が心肺停止を確認し、アンビューバッグにてマスク換気を開始し、心臓マッサージを
開始したが、瞳孔対光反射消失、平坦心電図が確認された。その後も人工呼吸、心臓マ
ッサージ、薬物投与等の蘇生措置が行われたが、同日午前10時10分、亡Bの死亡が確
認された(甲A1、B20、乙A3)。
  (3) 解剖所見等
   ア C病院の医師であり、亡Bの蘇生処置も担当したU医師は、本件搬送当日、亡B
の死亡診断書において、直接死因を窒息の疑い、傷害発生時を平成13年1月13日午
前8時50分、傷害が発生したところを千葉県千葉市b区とし、直接には死因に関係しな
いが傷病経過に影響を及ぼした傷病名等として境界性人格障害とアルコール依存症を
挙げていた(甲A1、B13、20)。
   イ 本件搬送当日の午後2時38分から午後4時00分までに実施された死体見分の
結果の要旨は以下のとおりである。
     両眼は軽く閉じ、左右瞳孔は正中正円にして5ミリメートルに散大し、右上眼瞼結
膜下に針頭大の溢血点3個を認め、右下眼瞼結膜下に溢血班を認める。左下眼瞼結膜
下に針先大の溢血点1個、針頭大の溢血点1個を認める。右眼球結膜に針先大2個、針
頭大4個の溢血点、左眼球結膜に針頭大2個の溢血点を認める。
     左口角より左方水平に約4.5センチメートルの乾いた血様液の付着を認める(甲
B1)。
   ウ 平成13年1月15日(本件搬送翌々日)の午前10時35分から午後0時05分まで
にV大学医学部法医学教室教授W(司法解剖経験年数25年、経験事例2400件余り)
によって実施された死体解剖鑑定の結果の要旨は以下のとおりである(甲B2、11)。
    (ア) 両眼はわずかに開き、左右眼瞼は鬱血状を呈する。左右上下眼瞼結膜は鬱
血状(血管の中、臓器等に血液がたくさん溜まっている状態)を呈し、蚤刺大、粟粒大の
溢血点(細い血管が切れた、小さな出血)数個を発現する。左右眼球結膜にも蚤刺大、
粟粒大の溢血点数個を発現する。
    (イ) 心嚢内膜はやや鬱血状を呈する。
      左右心房に粟粒大等の溢血点数個が散在する。
      心臓内には暗赤色流動性血液を入れている。
    (ウ) 左肺の肺門部気管支内には血様粘稠液少量を入れる。内膜は軽度の鬱血
状を呈する。
      右肺の下葉前縁付近に蚤刺大、粟粒大の溢血点状の外膜下出血が散在す
る。葉間部にも溢血点状の外膜下出血が散在する。肺尖部等にも蚤刺大、粟粒大の外
膜下出血が散在する。
      肺門部気管支内には血液を含む赤褐色泡沫液多量を入れ、内膜は軽度の鬱
血状を呈する。
    (エ) その他、頸部器官の内膜、咽頭内膜、食道上下部の内膜、気管内膜、胸壁
肋膜、十二指腸内膜、小腸内膜、大腸内膜、腎盂粘膜、膀胱内膜、左右卵巣表面及び
右卵巣内部はいずれも鬱血状を呈する。
      また、胃噴門部前壁から小弯側にかけて広く蚤刺大の溢血点を発現していた
ほか、腎盂粘膜にも蚤刺大の溢血点数個を発現する。
    (オ) 上記(ア)ないし(エ)のとおり、眼瞼結膜、心臓、肺等に溢血点が発現している
こと、心臓内の血液が流動性であること、各臓器は鬱血状を呈していること等から考え、
解剖を担当したW教授は亡Bの死因を窒息の疑いと判断した。
      W教授が「窒息」と断定せずに「窒息の疑い」としたのは、上記の所見からして
死因として一番考えられるのは窒息であり、100パーセント近く窒息死だろうと思ったが、
確たる窒息に至った原因の痕跡が分からなかったためである。
  (4) 被告は、平成14年3月22日、業務上過失致死罪で千葉地方裁判所へ起訴さ
れ、同刑事事件は現在同裁判所に係属中である(以下「本件刑事事件」という。)(争い
のない事実、弁論の全趣旨)。
 2 証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件に関する医学的知見等について以下のとお
り認められる。
  (1)ア 南山堂発行の「医学大辞典」(18版)は、人格障害について、次のとおり説明し
ている。すなわち、「人は、思考や行動様式、社会的態度、関心や興味等においてそれ
ぞれに一つのまとまりをもった特徴ある型(パターン)を持っている。それは社会生活を送
る上で本人の生活を向上させ、社会へ貢献するものであるが、これが平均的姿からひど
く遊離してくると、逆に本人ないしは社会のいずれかが悩むほどに個人の生活を阻害し
周囲に困難を引き起こすようになる。このようになると人格障害として位置付けられるよう
になる。(中略)類型としては、DSM-Ⅳ(米国精神医学会の診断基準)では、妄想性、
分裂病質、分裂病型、反社会性、境界性、演技性、自己愛性、回避性、依存性、強迫性
の10型の人格障害に、ほかに分類されない人格障害を加えている。」とされる。
     このように人格障害というのは、精神分裂病(統合失調症)や躁鬱病のような精神
的な疾患ではないが、感情や行動、ものの見方等に偏りがあり、そのために通常の社会
生活を円滑に営めず、自ら悩んだり、対人関係上のトラブルや反社会的行動を起こすよ
うな人格傾向を指す。人格障害を生む原因としては、遺伝的な素因の他に、親のアルコ
ール嗜癖や虐待、友人関係や地域環境等が大きく影響していると言われ、そうしたゆが
んだ環境の中でゆがんだ反応様式が習得され、人格的に発展したものと考えられる(乙
B1、2、22)。
   イ 境界性人格障害は、上記DSM-Ⅳにおいて人格障害の一つとされ、臨床的に
不安定な対人関係・自己像・感情及び著しい衝動性の広範囲な様式とされる。診断的に
は、①現実に又は想像の中で見捨てられることを避けようとするすさまじい努力、②理想
化とこき下ろしとの両極端を揺れ動くことによって特徴付けられる不安定で激しい対人関
係様式、③同一性障害:著明で持続的な不安定な自己像又は自己感、④自己を傷つけ
る可能性のある衝動性で少なくとも2つの領域にわたるもの(浪費・性行為・物質乱用な
ど)、⑤自殺の行動・そぶり・脅し、又は自殺行為の繰り返し、⑥顕著な気分反応性による
感情不安定性、⑦慢性的な空虚感、⑧不適切で激しい怒り、⑨一過性のストレス関連性
の妄想様観念又は重篤な解離症状、のうち5つ以上により示される。成人期早期に始ま
るとされているが、患者の多くに幼時の被虐待体験が見られることが次第に明らかにさ
れ、外傷性精神障害の一つであるとの見方が強まっている。
     治療方法には、精神分析的療法として中立的な態度で分裂を基盤とした防衛機
制を解釈していく方法や集団精神療法が用いられるが、患者の多くは人間に対する基本
的な信頼感が損なわれているため、病棟でも、医療・看護スタッフを分裂させるような行
為がみられ、病棟全体が巻き込まれることがある。患者の主体性を尊重した上での枠組
みの保持、リミット・セッティング(限界設定)とスタッフ・カンファレンス等で看護者が自身
の感情を表現し、チームでかかわっていくことの重要性が指摘されている(甲B3、23、乙
B2、16、22)。
   ウ 欧米では境界性人格障害患者の70パーセント以上が1回以上の自殺企図を行
い、3回以上の自殺を企図するものが57パーセントであって、患者の8ないし10パーセ
ントが自殺で死亡するという報告がある。別の調査によれば、境界性人格障害の患者の
自殺率は4ないし9.5パーセントであるともいわれる。また、境界性人格障害の患者には
自傷行為をしばしば認めるが、従来の指摘のように、必ずしも他者を操作するための自
殺行動だけではなく、実際には致死性の高い自殺企図も認められるという危険を指摘す
る研究もある。また、境界性人格障害の患者で以前にも自殺企図を認める場合は、今後
同様の行動を繰り返し、自殺に至る危険が決して低くない。
     これは境界性人格障害のもつ精神病理がいかに自殺と密に結びついたもので
あるかを示している。
     自殺企図に及ぶ精神病理については、①抑うつ、絶望による真の自殺行為、②
衝動的、虚無的あるいは自罰的な憤怒、③対人関係におけるジェスチャー、④自己不全
感を回避するための自傷あるいは過量服薬というように分類する見解がある。
     境界性人格障害において自殺企図の既往を有するものは再企図の危険性が高
いといわれているが、その時期や状況を正確に予測することは困難である。それは慢性
的に自殺念慮を持っていたり、些細なことで自殺念慮が急激に高まることがあるためであ
る(乙B3、21、22、24)。
   エ 境界性人格障害の患者については、上記イのように、他人を操作してかき回す
ことがあり、医療現場がかく乱されることもあるため、警戒感を示す病院が多く、患者の受
入れをしてもらえないことも珍しくない(甲B14、乙B11、12、16、17)
  (2)ア アルコール・薬物依存症は、ある薬物(アルコール・アヘン・モルヒネ・シンナ
ー・マリファナ・睡眠薬・精神安定剤・コカイン・覚せい剤・鎮痛剤等の依存性物質)を摂
取した効果(快楽等)を繰り返し得たいという欲求から、継続して摂取を続けるうちに耐性
が生じ、量を増やさないと同じ効果が得られなくなり、身体的健康や生活上の他のことよ
りも優先するなどして摂取の仕方を自分でコントロールできなくなってしまう病気である。
身体が薬物(物質)漬けになってしまい、身体の中に薬物が入っているのが当たり前で、
薬物が切れると離脱症状(不眠、振戦、発汗、イライラ、幻覚等)が生じるようになる(乙B
3)。
   イ 「アルコール依存症者には自己破壊行動が認められ、アルコール依存は慢性な
いし部分的自殺である」といわれる。すべてのアルコール依存患者が自殺や直接的自己
破壊行動を行うわけではないが、アルコール依存症の死亡率は極めて高く、平均寿命は
52ないし53歳、診断後の5年生存率は50ないし80パーセントといわれている。
     死因としては、肝硬変28.4パーセント、心不全16.0パーセント、不慮の事故1
2.3パーセント、その他には癌、脳血管障害、自殺、糖尿病、肺炎等であるとする報告が
ある(乙B3、16)。
   ウ 平成10年の人口動態統計における死亡原因をみると、自殺の割合は3.4パー
セントであるのに対し、アルコール依存症患者では7.4パーセントであるとの報告があ
る。
     また、高齢群と低齢群では、自殺率は低齢群の方が高いとの報告がある(乙B
3)。
   エ アルコール依存症の治療はある意味では単純であり、酒を飲まなければ良いの
だが、この単純なことができないことに治療の難しさがある(乙B3)。
  (3) 境界性人格障害とアルコール依存症を併発した場合には、予後はさらに悪くな
る。
    すなわち、境界性人格障害とアルコール依存症との合併は、自殺に直接結びつく
衝動をコントロールする力を失う危険を高めており、このような合併のある患者では、アル
コール依存症のみの患者に比べ、自殺企図を有意に高めるとの報告も存在している(乙
B16、21ないし23)。
  (4) 各薬剤の効能等については以下のとおりである(甲B6、9、13、18、乙B9、16、
弁論の全趣旨)
   ア テラプチクは、呼吸興奮作用(抑制された呼吸を回復する)、循環賦括作用(血
圧上昇、心筋収縮力増強の作用)を有する薬剤である。
   イ 強力ミノファーゲンシーは慢性肝疾患における肝機能異常の改善作用を有する
薬剤である。
   ウ ホリゾンは、神経症における不安・緊張・抑うつの軽減の効能効果がある薬剤で
あり、鎮静及び緊張除去作用、筋弛緩及び抗痙攣作用、自律神経安定化作用を有す
る。副作用として依存性、舌根沈下による気道閉塞・呼吸抑制、刺激興奮、錯乱、循環
性ショックが指摘されており、使用上の注意として眠気、注意力、集中力、反射運動能力
等の低下が起こり得ることが指摘されている。
   エ セレネース(一般名ハロペリドール)は統合失調症、躁病に対する効能効果を有
する薬剤であり、幻覚や妄想を止める作用がある。使用上の注意として眠気、注意力、集
中力、反射運動能力等の低下が起こり得ることが指摘されている。
   オ アキネトンは特発性パーキンソニズム等に対する効能効果(パーキンソン病の改
善)がある薬剤であって、セレネースの副作用止めに用いられる。
   カ トリプタノールは抗うつ薬であり、催眠・鎮静効果が比較的強い薬剤であるとされ
ている。また、アルコールと併用されることにより、作用が増強されることがあり、過量投与
によって心不全等の循環器症状、呼吸抑制、低体温等が現れることがある。
  (5) トルサード・ド・ポアントとは、心電図の基線を中心にねじれた形に見える、発作性
の多形性心室頻拍のことをいう。平成8年に初めて報告された致死性頻拍性心室性不整
脈で、QTc延長、QRS軸の捻転、心室細動への移行を特徴とする。
    抗精神病薬の死に至る重篤な副作用として、悪性症候群、心循環器系の副作
用、特にトルサード・ド・ポアント及び水中毒は臨床上極めて重要な問題となっている。
    すべての抗精神病薬は心循環器系への影響を有している。ハロペリドール等の長
期投与では、高頻度にQTc延長やT波変化等の心電図異常が出現するといわれてい
る。特にトルサード・ド・ポアントは、突然死との関係から注目されている。これまで国内外
で数十例の症例報告のみで、比較的稀な副作用ではあるが、心室細動を惹起して数分
で死に至る重篤な病態である。
    高用量のハロペリドールあるいはクロロプロマジンを投与した場合の発現が多い
が、ジャクソンらは低用量のハロペリドール経口での発現を報告して注意を促している
(乙B4ないし8、B16)。
  (6) 溢血点(細い血管が切れた、小さな出血)は、窒息死の場合に著明に現れ、その
他急性死の場合においても現れることがある。眼瞼結膜の溢血点は首を絞めたときに特
に現れるが、それ以外の窒息死でも現れる。また、心臓や肺の溢血点は、呼吸しようとし
てもなかなかできなかったという呼吸障害の場合に出ることが少なくない。
    また、通常の病死の場合、血液は死亡直後は流動性であるが、その後凝血となる
のに対し、窒息死の場合には凝血が溶けてしまい、流動性になる(甲B11、12、20)。
 3 争点(1)(本件搬送における被告の過失の有無等)について
  (1) 亡Bの死因について
   ア 前記2(6)において認定したとおり、溢血点や鬱血、心臓内の血液が流動性であ
ることは窒息死の著明な特徴であるところ、前記1(3)において認定したとおり、亡Bにはこ
れらの所見がいずれも明確に認められており、また、前記1(2)アにおいて認定したとお
り、本件搬送の方法は、ティッシュペーパー6枚を奥歯の辺りに詰め込み、持参したタオ
ルを鋏で切断し、歯と歯の間に猿轡のように噛ませて自傷・自殺行為に及ばないように
し、さらに、このタオルをガムテープで固定し、呼吸抑制作用のあるセレネース、ホリゾン
(前記2(4)ウ、エ)を含む注射をした混合液を注射した上、搬送途中に暴れないよう、手
足をタオルできつく縛った上、重ねてガムテープとビニールひもでも厳重に縛って、車の
後部座席に寝かせて搬送したというものであって、それ自体窒息死を招く危険性の否定
できない方法であり、被告においても当然このことを予見すべきであったということができ
る(X医師は、ティッシュペーパーを患者の口の中に入れたまま搬送することは、ティッシ
ュペーパーが唾液を含むことによって気道を閉塞する可能性が高いことを指摘している
(甲B14)。また、被告自身、テラプチクを注射しなければという条件付きであるが、このよ
うな搬送方法に窒息死の危険性があることを認めている(甲B17))。C病院のU医師が
亡Bの前記1(3)アの所見から死因を窒息の疑いとしたこと及び亡Bを解剖したW教授が
前記1(3)ウに挙げた各点を指摘の上、亡Bの死因を窒息と判断したのは、いずれも合理
性があり、首肯することができる。
   イ 被告は、亡Bの口内に入れたティッシュペーパーが原因となって窒息したのであ
れば、テイッシュペーパーは塊となって咽頭部奥深くまで落ち込んでいたはずであり、G
が指でこれらを容易に取り出せたわけはないから、亡Bの死因は窒息ではないと主張す
る。
     しかしながら、証拠(甲B11)によれば、気道が不完全に閉塞された場合、窒息ま
でに時間がかかることがあって、そのような窒息死でも溢血点が発現したり心臓の血液が
流動性を有するということは十分あり得、さらに、薬物で鎮静させられている人間の場合、
気道が塞がれても、それほど暴れることなくそのまま窒息する可能性もあるというのであ
り、また、証拠(乙B13)によれば、抗精神病薬で鎮静した患者を搬送する場合、血圧低
下や舌根沈下による呼吸抑制や薬物自体の作用による呼吸抑制が生ずる可能性がある
というのであるから、前記1(2)アにおいて認定したとおり、本件注射によって鎮静させられ
ていた亡Bにつき、注射による呼吸抑制作用と口を塞がれていることによる呼吸の制限が
相まって、あるいは舌根沈下等も生じ、ある程度時間をかけて窒息したという機序も十分
考えられるから(前記1(2)イにおいて認定したとおり亡Bの脈が途中で弱くなり、遂には感
じられなくなったという経緯からすれば、むしろこのような転帰の方が合理的であるとも考
えられる。)、ティッシュペーパーが気道を完全に閉塞して窒息に至ったという因果経過
のみを唯一の前提としてこれを批判する被告の指摘は、採用することができない。
   ウ 被告は、仮に亡Bの死因が窒息であるとしたら、亡Bは死ぬ前に暴れたりもがい
たりしたはずであるのに、そのような形跡がないから、亡Bの死因は窒息ではあり得ないと
も主張する。
     しかしながら、上記イにおいて判示したとおり、薬物で鎮静させられている人間の
場合、気道が塞がれても、それほど暴れることなくそのまま窒息する可能性もあるというの
であるから、本件注射によって鎮静させられていた亡Bが死亡に至った際に、暴れたりも
がいたりしていなからといって、亡Bの死因が窒息であるという判断と積極的に矛盾すると
はいえず、被告の主張は採用できない。
   エ 被告は、亡Bが薬剤の大量服用等により自殺を図った可能性が高いとも主張す
る。
     被告のこの点にかかる主張は、そもそも亡Bの死因が窒息ではないことを前提と
して、そうであるならば考えられる死因としては自殺があり得るとするものにとどまるもので
あるところ、上記ア、イにおいて判示したとおり、亡Bの死因は窒息であると認められるか
ら、被告の主張は前提を欠くものといわなければならない(なお、これは後記オのトルサ
ード・ド・ポアントの可能性についての主張に関しても同様である。)。
     また、被告が亡Bの自殺の可能性を裏付ける事実として指摘するものとして、従
前の薬剤の過量服用、本件搬送当日早朝舌を噛んだことがあるところ、前者について
は、確かにこれまで亡Bは薬を過量服用して救急搬送されたことが何度かあり、その中に
は死の危険を感じさせるような重篤なケースもあったことは事実であるが(前記1(1)コ、
タ)、その事実から本件搬送当日にも薬を大量服用したことを推認することは困難であり、
その他、亡Bが本件搬送前に薬を大量服用していたことを窺わせる具体的根拠も見出せ
ない。その上、被告は、かなり長期にわたって亡Bの診察に当たっており、同女が薬剤を
過量服用した事実を熟知していたのであって、本件搬送前日にも同女を診察し、それら
を踏まえて本件搬送当日の同女の様子を診ているにもかかわらず、同女が薬剤を大量
に服用したことを前提とした措置を採った形跡はなく、居室内の薬剤の残存状況を調べ
ることもなく、予定どおり搬送に踏み切っていることからすると、被告もまた同女に薬剤の
大量服用をうかがわせる所見を認めなかったものといわざるを得ない。また、本件搬送当
日早朝の流血については、それが果たして舌を噛んだものか、唇を噛んだものか必ずし
も判然とせず、明確な自殺企図に基づくものと解する根拠も存しない。
     したがって、亡Bが本件搬送に当たり、薬剤の大量服用等により自殺を図った可
能性を認めることはできない。
   オ 被告は、亡Bがトルサード・ド・ポアントにより死亡した可能性があると主張する。
     この点についても上記エのとおり、亡Bの死因が窒息であると認められる以上、
主張の前提を欠くものというべきであるが、さらに、前記2(5)において認定したとおり、トル
サード・ド・ポアントの特徴として心電図上QTc延長、QRS軸の捻転等があるといわれて
いるところ、本件では亡Bの心電図の記録がなく、また、トルサード・ド・ポアントの原因とし
ては多くは高用量のハロペリドールの服用であるとされているところ、そのような服用がさ
れたという証拠はなく、本件注射中のセレネースの作用によってトルサード・ド・ポアントが
発生したと認めるに足りる証拠もない。
     かえって、前記2(5)において認定したとおり、トルサード・ド・ポアントの場合、心
室細動となり数分で死に至るとされており、それ以前に呼吸が停止することは考えられな
いところ、前記1(2)イにおいて認定したとおり、亡Bについては、まず呼吸が不確かとなっ
たのちに、脈が弱くなり、遂には感じられなくなったのであって、この間、数分という単位と
は比較にならない程度の時間を要しているという経緯からすれば、亡Bがトルサード・ド・
ポアントによって突然死したとは容易に認め難い。
   カ 以上要するに、亡Bの死因については、溢血点や鬱血の存在、心臓内の血液
が流動性であることなど窒息死に著明な所見が認められていること、本件搬送方法自体
が窒息死を招く危険性のあるものであったことからすれば、窒息であったと認めるのが相
当である。被告はティッシュペーパーの位置や亡Bが苦しがって暴れなかったことなどを
挙げて窒息死であることに疑問を投げ掛けるが、ティッシュペーパーを口内に詰め込み、
タオルで猿轡を噛ませたことによる呼吸の制限と、鎮静作用を有する複数の薬剤の投与
によって呼吸が減弱したことが相まって、亡Bの呼吸状態が悪化し、結果として死亡に至
ったと考えれば矛盾はせず、被告らの上記主張はいずれも亡Bの死因が窒息であるとい
う認定を左右しないものである。
     また、被告は、窒息以外の考え得る死因として自殺、トルサード・ド・ポアントを挙
げるが、そもそも上記のとおり、亡Bの死因として最も考えられるのはやはり窒息であり、さ
らに、自殺に関しては何ら具体的裏付けがなく、トルサード・ド・ポアントについてもやはり
何らの具体的裏付けを欠くばかりか、亡Bの死亡に至る経過と整合しない点も見受けられ
るのであって、いずれも採用することはできない。
     よって、亡Bの死因は窒息であったと認められる。
  (2) 本件搬送における被告の過失の有無
   ア 本件搬送において抑制をしたこと自体の過失の有無
     原告は、本件搬送に当たり、薬剤で鎮静させるのであれば、そもそも亡Bを抑制
する必要がなかったと主張するが、前記1(1)ク、コ、タにおいて認定したとおり、亡Bはこ
れまでも自傷行為を行ったり、被告に対して暴力的な行動に出ることがあった上、本件搬
送の前には、アルコール依存症も著明な悪化傾向を見せ、幻覚まで現れるような状態に
なっており、さらに本件搬送当日の朝には被告の入院指示に従わず、自ら口を切るよう
な行為に出て暴れていたのであるところ、本件注射の効力は1時間半程度で切れること
も予想されるものであったのだから、高速道路を利用して2時間以上かかることが予想さ
れる本件搬送において、薬剤の効力が切れ、車内で暴れ運転に危険を及ぼしたり、自
傷・自殺行為に及んだり、自動車から飛び降りたりするといったリスクを防ぐため、亡Bの
身体を抑制の上搬送したという措置自体は妥当なものであって、これを直ちに批判する
ことはできないというべきである。
   イ 本件搬送における抑制方法の過失の有無
     原告は、本件搬送に当たり、亡Bの口内にティッシュペーパーを入れ、タオルで
猿轡を噛ませるなどした上で手足を縛って抑制した方法に過失があったと主張するが、
前記1(2)アにおいて認定したとおり、亡Bは本件搬送当日に自ら口を切るような行為に出
ており、歯で唇や舌を噛む危険性も相当程度存したものと考えられるから、こういった危
険を防ぐため、被告において、これまでも経験がある方法として湿ったティッシュペーパ
ーを患者の奥歯の辺りに入れ(甲B16)、さらに歯を使わないようタオルで猿轡を噛ませ
たという処置が不適切であるとはいえない。また、前記1(2)アにおいて認定したとおり、亡
Bは本件搬送当日、被告の入院指示に従わず、暴れていたのであるから、手足を縛るこ
と自体が亡Bの容態の悪化に結びつくものではないことからすれば、薬剤の効果が切れ
たときのことを慮って手足を縛ったことも、差し当たりは妥当な措置であったと認められる
(エアウェイやバイトブロックの使用については、必ずしも一般の病院に普及しているとは
言えないこと(乙B11、12、16)からしてこれを必ず用いなければならないとまでは認めら
れず、本件のような抑制方法を採用したことを前提として、搬送に当たりいかなる注意義
務が課されるかという点において考慮すれば足りるものと考えられる。)。
   ウ 本件注射を行ったことの過失の有無
     原告は、本件注射に含まれるホリゾン、セレネース、アキネトンはいずれも劇薬で
あって慎重な投与が必要であり、特にホリゾンは舌根沈下による気道閉塞、呼吸抑制の
副作用があることが効能書きにも記載されており、これらの薬剤には呼吸を抑制する作用
がある反面、被告が呼吸改善の目的で投与したテラプチクには呼吸を改善する作用に
疑問があり、仮にそれがあったとしても極めて短時間しか作用しないものであったから、こ
ういった薬剤を注射したことも過失であったと主張する。
     しかしながら、前記1(2)アにおいて認定したとおり、亡Bは本件搬送当日、被告の
入院指示に従わず、暴れる様子を見せていたのであるから、安全に搬送するため、ひと
まず薬剤で鎮静化させて搬送の準備をするという方針を採ることにも合理性が認められ
る。そして、本件注射に含まれるホリゾン、セレネース、アキネトンはいずれも1アンプルに
とどまり、この量では通常直接死に至るような呼吸抑制が起こるとまでは認められず(乙B
16)、他方でホリゾン及びセレネースの鎮静作用の有効性はこれを認めることができ、ア
キネトンもセレネースの副作用防止のために有効であるから(前記2(4)ウ、エ、オ)、これら
を注射したことが過失であるとはいえない。また、被告は本件注射において、呼吸促進を
図るため、テラプチクを加えているところ、前記2(4)アにおいて認定したとおり、確かにテ
ラプチクには呼吸賦活効果があるとされており、被告においても、上記薬剤の鎮静作用
から来る呼吸抑制に一定の配慮をしていたものと認めることができる(W医師はテラプチ
クの効果に疑問があるとするが、自身の直接的な体験ではなく、又聞きによるものにすぎ
ず、一般的に認められている効能(甲B6参照)を否定する根拠にはならない。)。さらに、
前記1(1)ヌにおいて認定したとおり、ホリゾンとセレネースを一緒に投与することはこれま
での診療においても幾度となく行われており、これにさらにアキネトンを加えたこともあっ
たが、いずれも別段の副作用の発現もなかったのであるから、本件注射を行ったこと自体
を過失ということはできない。
   エ 本件搬送方法の過失の有無
     原告らは、被告には、本件搬送に当たり、医師や看護師を同乗させず、適切な
対処を行い得なかった過失があると主張する。
     そこで検討するのに、本件搬送に当たっては、亡Bに対し、口にはティッシュペ
ーパーを入れた上でタオルで猿轡を噛ませて手足を縛り、呼吸抑制作用もある注射を行
って鎮静させていたのであるから、亡Bの呼吸については、呼吸自体は鼻からのものに
限られ、呼吸作用も一定程度減弱していたのであって、これは相当程度呼吸が制限され
ていたものと考えられ、場合によっては舌根沈下が生じ、あるいは口内のティッシュペー
パーが咽頭部に落ち込むなどして呼吸が困難になる危険性も十分に考えられたもので
あったというべきである。加えて、亡B自身は上記のように薬剤で眠らされた上、口は塞が
れ、手足も自由を奪われていたのであるから、自ら異常を訴えることは困難であって、搬
送者において、亡Bの状態に注意し、適切な処置を行うことが必要であった。
     したがって、被告としては、本件搬送に当たって、このような亡Bの状態に細心の
注意を払い、わずかな異変も見逃さず、これに適切に対処すべき注意義務があったもの
というべきであるところ、被告の採った措置は、前記1(1)ト、ナ、(2)において認定したとお
り、被告自らは同行せず、当時看護学校の1年生を終了したにすぎず、患者の同意のな
い搬送については経験のなかったGと、事務員であって医学的な判断、知見に乏しいH
の2名に搬送を委ね、連絡体制についても、具体的にどのような点に注意すべきかという
細かい指示はせずに、緊急の事態が発生した場合には連絡するようにと述べて携帯電
話を渡したにとどまるというものである。
     被告は、このときGに対し、5分おきに脈、呼吸、体温及びチアノーゼの有無をチ
ェックし、15分おきに病院に連絡するよう指示したと主張し、被告本人もこれに沿う陳述
(乙B16、17)をするが、被告の陳述自体、本件搬送当日の警察での取調べではGへの
具体的指示について特に言及せず(甲B16)、平成13年2月5日の警察での取調べで
は「彼女の呼吸を診ていろ、何かあったら電話をしろ」と指示をしたと供述し(甲B17)、さ
らに同年12月17日の検察での取調べでは「呼吸に気をつけろ、バイタルチェックを忘れ
るな、何かあったらすぐ携帯で電話をしろ」と指示をしたと供述しており(甲B19)、その供
述が時間を経るごとに詳細になっていくことからすると、上記陳述自体俄には採用し難
く、さらに本件搬送を実際に担当したGは本件搬送の直後の取調べにおいて、そのよう
な指示の存在について言及しておらず、そもそも同人は当初搬送用の自動車を運転し
ていたことからすると、運転しながら実行できないような指示が出されていたとみるのは不
自然であるし(乙B18、19)、その後、検察官からの被告から具体的な指示があったかと
の問いに対し、これを否定しており(乙B20)、さらに、被告の主張するように脈、呼吸、体
温等のバイタルサインをこまめにチェックするよう指示をしたのであれば、当然その前提と
して体温計や血圧計を携帯させるべきであるのに、Gはこれらの器具を持たないまま車に
乗り込み、被告もこういった器具を持つよう指示した形跡が窺われないことを併せ考えれ
ば、被告の主張は採用できず、本件搬送時の指示としては、上記のように、もし容態が急
変した場合には電話連絡するようにという概括的な指示にとどまっていたものと認められ
る。
     そして、実際の搬送経過としても、前記1(1)アにおいて認定したとおり、搬送車に
は体温計や血圧計はなく、Gらが定期的に亡Bのバイタルサインをチェックして被告に連
絡することもなく、脈の減弱、呼吸の消失といった重大な変化が生じて初めて慌てて被告
と連絡を取り合い、C病院へ急行したものの、手遅れであったというものである。
     以上によれば、被告としては、自らが同行するか、少なくとも他の経験豊富な医
師ないし看護師を同行させた上、亡Bの容態を常時監視し、必要に応じて即座に抑制を
解くなどして亡Bの身体状態に配慮すべきであったものというべきであり、被告にはかか
る注意義務に違背した過失があると認められる。この点、本件刑事事件の検察側証人X
医師が経験ある医師ないし看護師の同行の必要性を指摘する(甲B14)ほか、弁護側証
人のY医師及びZ医師も、一般論としては、経験のある医師、看護師等が同行した方が
望ましいことを認めており(乙B11、14)、本件において、被告が亡Bの搬送に同行する
などすべきであったことは、明らかである。
     そして、被告がこのような措置を採っていれば、亡Bの呼吸が減弱した段階で直
ちに抑制を解除し、必要に応じて人工呼吸をしつつ、救急車を呼ぶことなども可能であ
り、亡Bが窒息するという事態が引き起こされることもなかったというべきである。
     すなわち、被告には、自ら本件搬送に同行するなどして亡Bの身体状態に万全
の配慮を尽くして窒息を防止すべき義務があったのにこれを怠った過失があり、この過失
によって亡Bの死亡という結果がもたらされたものと認めるのが相当である。
  (3) 以上のとおり、被告による亡Bの本件搬送に関し、抑制を行ったこと、抑制の方
法、本件注射を行ったことについてはいずれも過失を認めることができないが、本件搬送
に当たって同行するなどして亡Bの身体状態に万全の配慮を尽くすべき義務があったの
にこれを怠った過失が認められる。そして、被告の上記過失と亡Bの死亡との間には、因
果関係が認められる。
 4 争点(2)(損害)について
  (1) 逸失利益の有無について
   ア 本件において、原告らは、亡Bには逸失利益が認められるべきであり、その基準
としては賃金センサスに依拠すべきであると主張するのに対し、被告は、亡Bの病態等に
照らし、亡Bには逸失利益を認めることができないと主張する。
     そこで検討するのに、前記1(1)カ、ク、コ、セ、タないしテにおいて認定したとお
り、亡Bは境界性人格障害と診断され、さらにアルコール依存症も合併し、いずれについ
てもその診療経過は芳しくなく、自殺未遂ないし重大な自傷行為を繰り返し、アルコール
依存症の治療には断酒を励行するため入院治療が欠かせないと考えられるにもかかわ
らず、本件搬送の直前にはP病院への措置入院が実現せず、同病院をはじめQ病院、J
病院、R病院等の入院の要請がいずれも拒絶されるといった状況であったこと、本件搬
送の数日前からは幻覚が出現している様子すら窺われたことに加え、前記2(1)エにおい
て認定したとおり、境界性人格障害はその治療が容易でなく、患者の受け入れ自体を敬
遠する病院も少なくないのであって、さらにその予後が決して良くないことは、本件刑事
事件における多くの証人が指摘するところである(甲B14、乙B11、12)。本件において
もようやく確保した入院先であるC病院においてもはたして継続的な入院が可能であった
か否かは明らかでなく、そして、前記2(2)、(3)において認定したとおり、入院治療ができ
ない場合、アルコール依存症もその予後は楽観できるものではなく、自殺率も大幅に高
めるなどするのであって(しかも低年齢の方が予後は悪い。)、これを併発した場合には、
当然予後に悪い影響を及ぼすとされていることなどを総合考慮すれば、亡Bの回復可能
性にはかなりの程度疑問があり、仮に亡Bが本件搬送前のような生活を維持したとして
も、なお治療に相当の費用がかかることも加味すれば、少なくとも、亡Bが将来的にこれ
らの治療費用や自らの日常生活に最低限要する費用を超えて所得を得ることができた
蓋然性は認め難く、逸失利益を認めることまではできない。
     原告らは、亡Bの逸失利益の算定をするに当たり、民事訴訟法248条によって損
害額を認定すべきであるとも主張するが、本件の場合、そもそも前提となる損害(逸失利
益)の存在を認定すること自体に困難があるから、同条適用の余地はないというべきであ
る。
   イ 原告は、境界性人格障害の患者の予後は必ずしも悪くないと主張するが、ま
ず、論拠として挙げる甲B24(なお、甲B23は甲B24を引用しているものである。)は、海
外のチェストナット病院における追跡調査であって、確かに境界性人格障害の患者につ
いて相当数の社会復帰例があることが窺われ、また、甲B26(甲B23と同一の筆者による
ものである。)も、特定の医師による体験を述べるものであって、これも上記と同様、境界
性人格障害の患者について一定の改善率があることが窺われるが、これらはいずれも調
査例をあげているものであって、これまでに認定説示したような亡Bの病状、特に境界性
人格障害にアルコール依存症を併発し、本件搬送前には急激に病状が悪化していたこ
とを考慮してもなお一般論として適用できるか否かについては疑問があり、亡Bについて
逸失利益を認めるべき論拠としては、いまだ十分なものとはいえない。
   ウ また、原告らは、亡Bの上記病状の悪化を被告の責任であるとし、被告が招いた
病状の悪化を被告の有利に援用すべきでないとも主張するが、前記1(1)において認定し
た亡Bの診療経過において、少なくとも亡Bの病状の悪化が被告の治療に起因するもの
であるというべき確たる根拠は見出し難い。前記2(1)において認定したとおり、境界性人
格障害の治療は必ずしも容易なものではなく、また、アルコール依存症の根本的治療方
法は断酒であるが、これは患者の意思にかかっているところ、現実問題として決して容易
ではないことは前記2(2)において認定したとおりである。
     したがって、原告らの上記主張は、その前提を欠くものであって、失当である。
   エ 以上検討したとおり、亡Bについて、死亡による逸失利益を認めることは困難で
あるというほかはない。もっとも、亡Bにおける将来の回復可能性及びそれによる就労の
可能性を完全に否定し切ることもまたできないのであって、この点は、後記(2)アの亡Bの
慰謝料の算定において、増額要素の1つとして、その限度において考慮することとする。
  (2) 慰謝料額について
   ア 亡Bの慰謝料について
     亡Bの死亡慰謝料については、以下の事情を考慮すべきである。
     まず、亡Bは、本件搬送時31歳であって未だ若年であったこと、上記(1)エにお
いて判示したとおり、将来の回復可能性等も皆無とまでは言い切れないし、ほとんど唯一
人信頼していた被告の過失によって死の結果を招いたことについては、同女自身の慰謝
料を考慮する際には無視し得ない要素と言うべきである。
     他方で、亡Bは、前記1(1)カ、ク、コ、セ、タないしテ、2(3)において認定したとお
り、これまで幾度となく自殺未遂や自傷行為を繰り返しており、重篤な状態に陥り救急搬
送されたこともあったこと、境界性人格障害という治療の難しい病気に罹患していた上、
アルコール依存症も併発しており、予後は悪いことが予想され、しかも本件搬送の直前に
は、P病院を脱院し、P病院、Q病院、J病院、R病院等へ入院受け入れの要請がいずれ
も拒絶されるなどその病状自体も悪いものであったと推測されることなどの事情も存在し
ている。
     さらに、被告に関しては、亡Bに対する従前の治療自体は、頻回に外来診療、往
診、訪問看護等を行い(前記1(1)ク、コ、ス)、それらは丁寧かつ熱心なものと評価するこ
とができ、亡Bの病態の改善に向けて努力していたものと認められること(原告らは、亡B
の病態が改善しなかったことや被告のカルテ記載が判読し難いことから、被告の治療に
は疑問があるとするが、これまで認定説示したとおり、境界性人格障害の患者の治療に
は相応の困難があるから、状態が改善していないから治療が悪かったなどと断定すること
はできず、また、カルテの文字が判読しがたいことと治療内容に有意な関係があるとも考
え難いから、原告らの上記主張は採用できない。)、亡Bが自殺未遂等起こしたときにも
適切な救急活動を行い、最終的には大事に至らず済んでいたこと(前記1(1)タ)、本件搬
送も、県外への移送であるために救急車を利用することができなかったところ、本来であ
れば原告らにおいて警備会社に依頼するなどして多額の経済的負担をした上で搬送し
なければならないところ(前記1(1)ト)、被告クリニックにおいていわば好意で搬送したもの
であることなど、一概に亡Bの死亡に至った経緯について同女の死亡後に第三者が強い
非難を向けるには躊躇される事情も存在する。
     以上のほか、本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、本件における亡Bの
死亡慰謝料としては、1500万円を認めるのが相当である。
   イ 原告ら固有の慰謝料について
     本件においては、乙A1ないし3において記載されている診療経過からも容易に
推測できるように、亡Bの境界性人格障害には、前記1(1)イの被害が大きく影響している
ことが容易に看取されるところ、前記1(1)ク、コ、シ、ソにおいて認定したとおり、亡Bは、こ
のときの原告らの対応に少なからぬ不服を抱いており、さらに、原告らに対してはもちろ
ん肉親としての愛情も感じていたものの、根強い不満も繰り返し述べていたところであっ
て、原告らとの関係については原告らが陳述ないし供述するほど円満であったとは考え
にくいこと、前記1(1)サ、ソにおいて認定したとおり、原告らとしても、一応地元で治療を
受けさせようと試みたことはあったものの、被告クリニックでの治療を希望する亡Bの意思
に強く反対はせず、結局亡Bの面倒を専ら被告に委ねる結果になっていたこと、亡Bは、
平成5年4月に上京して以来、本件搬送によって死亡した平成13年1月まで8年弱の期
間を原告らとは離れて生活していたことなどの事情が存するところであり、このように亡B
と原告らとの関係が通常の親子としての親密な関係というにはやや疑問があることに照ら
すと、原告ら固有の慰謝料を認めるべきかという点にはなお疑問が残り、当裁判所として
は、上記アにおいて認容した亡B自身の慰謝料に加えて原告ら固有の慰謝料を認めるこ
とまではできないものと判断する。
  (3) その他の損害について
   ア 葬儀費用
     亡Bの葬儀費用中、被告の過失と因果関係のあるものとして原告各自につきそ
れぞれ60万円を相当な損害と認め、各2分の1ずつを原告ら各自の損害と認める。
   イ 弁護士費用
     原告らは、原告ら代理人弁護士らに本訴提起及び訴訟追行を委任したが、被告
の過失と因果関係ある弁護士費用は原告各自につきそれぞれ80万円が相当であると認
める。
  (4) 合計
    上記(2)の額を原告らが各2分の1ずつ相続し、これに上記(3)の額を加えると、原
告ら各自についての損害額は、それぞれ890万円となる。
 5 結論
   以上によれば、原告らの請求は、主文の限度で理由があるからその限度でこれらを
認容し、その余は理由がないからいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
    東京地方裁判所民事第34部
           裁判長裁判官藤 山 雅 行
              裁判官 金 光 秀 明
              裁判官 熊 代 雅 音

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