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平成15年(行ケ)第54号 特許取消決定取消請求事件(平成16年1月21日
口頭弁論終結)
          判    決
       原   告      日立建機株式会社
       訴訟代理人弁理士   春 日   讓
       同          益 田 博 文
       被   告      特許庁長官 今井康夫
       指定代理人      西 野 健 二
       同          亀 井 孝 志
       同          高 木   進
       同          宮 川 久 成
       同          伊 藤 三 男
          主    文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
   特許庁が異議2002-70787号事件について平成14年12月26日
にした決定を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
原告及びメッツォ・ミネラルズ・ジャパン株式会社(以下「メッツォ・ミネ
ラルズ」という。)は,名称を「自走式破砕機」とする特許第3213716号発
明(平成3年10月29日にした特許出願〔特願平3-347564号,以下「本
件原出願」という。〕の一部につき平成10年10月29日新たな特許出願〔特願
平10-308798号,以下「本件出願」という。〕,平成13年7月27日設
定登録。以下「本件発明」といい,その特許を「本件特許」という。)の特許権者
である。
 本件特許につき特許異議の申立てがされ,異議2002-70787号事件
として特許庁に係属したところ,原告及びメッツォ・ミネラルズは,平成14年1
1月22日付け訂正請求書により,願書に添付した明細書の特許請求の範囲等の訂
正(以下「本件訂正」といい,本件訂正に係る明細書を「本件明細書」という。)
を請求した。
 特許庁は,上記特許異議の申立てについて審理した上,平成14年12月2
6日,「訂正を認める。特許第3213716号の請求項1に係る特許を取り消
す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,その謄本は,平成15年1月
18日,原告及びメッツォ・ミネラルズに送達された。
 2 本件明細書の特許請求の範囲の記載
【請求項1】破砕原料を破砕する自走式破砕機において,
 フレームと,
 このフレームに設けた無限軌道形の走行手段と,
 前記フレームの長手方向のほぼ中心部に設けられ,前記破砕原料を破砕する
固定ジョーとスイングジョーとを有する破砕装置と,
 その内側端が前記走行手段の一方側近傍に,その外側端が前記走行手段の一
方側より突出するように前記フレームの長手方向の一方側に設けたホッパと,
 前記走行手段の他方側より突出するように前記フレームの他方側に配置した
エンジンと,
 前記ホッパの下方と前記破砕装置との間に設けた選別機能付きフィーダと,
 前記破砕装置の下方から前記フレームの長手方向他方側外方に延在するよう
に昇り傾斜させて前記フレームに設けたコンベヤと,
 破砕作業中における前記フレームの長手方向一方側に設けたホッパからフィ
ーダを介して破砕装置,および前記フレームの長手方向他方側外方に延在するコン
ベヤへと至る一連の作業動作を目視確認可能なように前記破砕装置を構成するスイ
ングジョーの上部に設けた踏面とこの踏面上における前記フレームの長手方向及び
短手方向部分に設けた手摺とからなる点検用踊場と,
 この点検用踊場の踏面に通じるように前記破砕装置の側部に設けた階段とを
備えたことを特徴とする自走式破砕機。
 3 本件決定の理由
   本件決定は,別添決定謄本写し記載のとおり,本件発明の構成要件のうち
「破砕作業中における破砕装置の作業動作を目視確認可能」の点は,本件原出願の
願書に最初に添付した明細書又は図面(以下,この明細書及び図面を併せて「原出
願当初明細書」という。)に記載されておらず,かつ,その記載から自明のことと
は認められないから,本件出願の出願日は遡及しないとした上,本件発明は,本件
原出願前に頒布された刊行物であるNordbergNews,1・90表紙,2頁~19頁,裏表
紙(甲7,審判刊行物1,以下「刊行物1」という。)記載の発明(以下「刊行物
1発明」という。),特開昭60-139347号公報(甲8,審判刊行物2,以
下「刊行物2」という。)記載の発明(以下「刊行物2発明」という。)及び特開
平8-57343号公報(甲9,審判刊行物3,以下「刊行物3」という。)記載
の発明(以下「刊行物3発明」という。)又は刊行物2発明,刊行物3発明及び特
開平5-115809号公報(甲4〔本件原出願に係る公開特許公報〕,審判刊行
物4,以下「刊行物4」という。)記載の発明(以下「刊行物4発明」という。)
に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許
は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法113条2号に該
当し,取り消されるべきものであるとした。
第3 原告主張の本件決定取消事由
 本件決定は,特許法44条1項で規定する分割出願の要件についての認定判
断を誤り(取消事由1),本件出願について出願日は遡及しないとした上,刊行物
1発明の認定を誤った結果,本件発明と刊行物1発明との一致点の認定を誤り(取
消事由2),本件発明と刊行物1発明との相違点についての判断を誤り(取消事由
3),仮に,分割出願の要件についての認定判断に誤りがないとしても,上記取消
事由2又は同3に加え,刊行物2発明及び刊行物3発明の認定を誤った結果,本件
発明と刊行物4発明との相違点についての判断を誤った(取消事由4)ものである
から,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(分割出願の要件についての認定判断の誤り)
(1)本件決定は,「『破砕作業中における破砕装置の作業動作を目視確認可
能』の点(発明の詳細な説明の段落【0008】【0010】【0014】【00
19】~【0021】【0023】等の対応記載箇所も含む。)は,原出願の願書
に最初に添付した明細書又は図面(特開平5-115809号公報〔注,甲4〕参
照。)に記載されておらず,かつ,同明細書又は図面の記載からみて自明のことと
も認められない」(決定謄本5頁(2)の第1段落)と認定したが,誤りである。
(2)原出願当初明細書(甲3添付)には,①「グリズリ付振動フィーダ20の
下流の直近にはクラッシャ30が配設され」(段落【0007】),②「クラッシ
ャ30の上部両側には点検用の踊場92が設置され,階段90を介して作業員が昇
降できるようになっている」(同),③「移動式クラッシャ1の前方先端(図1で
は右側)を採掘現場に向け,ディーゼルエンジン70を始動して各機器の始動を確
認した後,ホッパ10へ採取した岩石をショベルローダ等の運搬機械により供給す
る。ホッパ10へ供給された岩石はグリズリ付振動フィーダ20でクラッシャ30
へ移動されながら,グリズリバー20a間を細粒および土砂分が通過し,振動篩5
0によって細粒と土砂分に選別され,細粒はメインコンベヤ40へ,土砂分はサイ
ドコンベヤ60へ各々移送される。グリズリ付振動フィーダ20によりクラッシャ
30へ入った岩石は,破砕されて規定のサイズにセットされた細粒となってメイン
コンベヤ40により,それ以降の輸送手段,たとえば長尺のベルトコンベヤ等で輸
送される」(段落【0009】)と記載され,④その図1には,踊場92に立った
作業員が破砕機の作業動作を目視確認(点検)している様子,踊場92に立った作
業員の頭部がホッパ10,グリズリ付振動フィーダ20,クラッシャ30,メイン
コンベヤ40より高い位置にある状態,及びメインコンベヤの放出端が作業員から
見える状態が全体側面図で図示され,⑤その図2には,ホッパ10の底部及びグリ
ズリ付振動フィーダ20が上方から見える状態が平面図で図示されている。
(3)上記②の「クラッシャ30の上部両側には点検用の踊場92が設置され」
の文言自体から,「点検用の踊場」は「クラッシャ30」の真上を避けて配置さ
れ,「クラッシャ30」の真上には踊場がないことは明らかである。また,クラッ
シャ30は,硬い岩石を破砕する部分であり,破砕機の要部であって,点検をする
場合にクラッシャ30が最も重要な点検部位であるから,「点検用の踊場」を上記
のような構成にした目的がクラッシャの点検を行えるようにするためであることは
当然であり,「点検用の踊場92」は「クラッシャ30の上部両側」に設けられて
いるのであるから,「クラッシャ30」が点検対象の一つであることは明らかであ
る。また,「点検」の語は,「一つ一つ検査すること」(広辞苑第5版,甲1
8),「一つ一つ,しらべること」(小学館発行「新選国語辞典第6版」,甲1
9)を意味するから,「点検用の踊場」から破砕機を「一つ一つ検査する」あるい
は「一つ一つ,しらべる」場合,その中に最も重要な点検部位であるクラシャ30
が含まれることも明らかである。したがって,上記②の記載を当業者が読めば,
「踊場92」の点検対象の一つが「クラッシャ30」であることは自明というべき
である。
  そして,上記①~⑤の各記載から明らかな,「点検用の踊場」の「点検」
に目視確認の意味があり,クラッシャ30の点検としては破砕作業中におけるクラ
ッシャ30の作業動作の点検が最も重要な点検項目であり,クラッシャ30の作業
動作を点検するためにはその作業動作が見えなければ点検できないこと,作業員の
頭部はホッパ10,グリズリ付振動フィーダ20,クラッシャ30,メインコンベ
ヤ40より高い位置にあること,自走式破砕機がホッパ10による岩石の受入作
業,グリズリ付振動フィーダ20によるホッパ10からクラッシャ30への岩石の
送り込み作業,クラッシャ30による岩石の破砕作業,メインコンベヤ40による
破砕岩石の排出作業といった一連の作業動作を行うものであること及びグリズリ付
振動フィーダ20は上方から見えるようになっており,その下流の直近にはクラッ
シャ30が配設され,踊場92(踏面)から,破砕作業中におけるホッパからフィ
ーダへと至る作業動作及びメインコンベヤの作業動作が目視確認可能であること等
を考慮すれば,当業者にとって,「踊場92」の点検対象の一つが「クラッシャ3
0」であることは自明である以上,破砕作業中におけるクラッシャ30の作業動作
が踊場92から目視確認可能であることも自明というべきである。
(4)以上のとおり,「破砕作業中における破砕装置の作業動作を目視確認可
能」の点は,原出願当初明細書の記載から自明のことというべきである。
2 取消事由2(本件発明と刊行物1発明との一致点の認定の誤り)
(1)本件決定は,刊行物1発明について,「フレームの長手方向のほぼ中心部
に設けられたジョークラッシャ」(決定謄本7頁第1段落)及び「ホッパーからフ
ィーダへと至る作業動作を目視確認可能なようにジョークラッシャを構成するスイ
ングジョーの上部に設けた踏面」(同)を認定した上,本件発明と刊行物1発明
は,「破砕原料を破砕する自走式破砕機において・・・前記フレームの長手方向の
ほぼ中心部に設けられ,前記破砕原料を破砕する固定ジョーとスイングジョーとを
有する破砕装置と・・・ホッパからフィーダへと至る作業動作・・・を目視確認可
能なように前記破砕装置を構成するスイングジョーの上部に設けた踏面・・・を備
えた自走式破砕機」(同10頁(5)《その1》の第2段落~11頁第1段落)で
ある点で一致すると認定したが,誤りである。
(2)刊行物1発明が,「その内側端が前記走行手段の一方側近傍に,その外側
端が前記走行手段の一方側より突出するように前記フレームの長手方向の一方側に
設けたホッパと,前記走行手段の他方側より突出するように前記フレームの他方側
に配置したディーゼルエンジンと,前記ホッパの下方と前記ジョークラッシャとの
間に設けたグリズリフィーダと,前記ジョークラッシャの下方から前記フレームの
長手方向他方側外方に延在するように昇り傾斜させて前記フレームに設けたメイン
ベルトコンベヤ」(決定謄本7頁第1段落)の構成を備えることは争わないが,刊
行物1(甲7)の記載からは「ジョークラッシャ」がフレームの長手方向のどの部
分にあるのか,「ホッパからフィーダヘと至る作業動作」を「踏面」から「目視確
認可能なように」するようになっているのか否か,「踏面」が「前記ジョークラッ
シャを構成するスイングジョーの上部」に設けられているのか否か,「階段」が
「ジョークラッシャの側部」に設けられているのか否かは,いずれも不明である。
3 取消事由3(本件発明と刊行物1発明との相違点についての判断の誤り)
(1)本件決定は,本件発明と刊行物1発明との相違点として認定した,「本件
発明は,破砕作業中における破砕装置の作業動作も(踏面から)目視確認可能なよ
うにするものであり,それ故に,破砕作業中におけるホッパからフィーダを介して
破砕装置,およびコンベヤへと至る一連の作業動作を(踏面から)目視確認可能で
あるのに対し,刊行物1記載の発明(注,刊行物1発明)は,破砕作業中における
破砕装置の作業動作を(踏面から)目視確認可能なようにするのか否か明らかでな
い点」(決定謄本11頁〔相違点〕の第1段落)について,「刊行物1記載の発明
において,刊行物2記載の発明(注,刊行物2発明)の上記の点,または,刊行物
3記載の発明(注,刊行物3発明)の上記の点を勘案して,『破砕作業中における
ホッパからフィーダを介して破砕装置,およびコンベヤへと至る一連の作業動作を
(踏面から)目視確認可能なようにする』ことは,当業者が格別困難なくなし得
る」(同第5段落)と判断したが,誤りである。
(2)刊行物2(甲8)の第1図には,手摺の近傍に手動式のスプレー8′が示
されているが,作業員が踊場に立って洗浄作業をすることは,作業員が,常に,破
砕部6から飛散した被破砕物が当たる危険にさらされることで安全上問題があり,
上記記載から,このような洗浄作業を行うとは考え難く,破砕部6の上部に踊場が
あると断定することはできない。したがって,刊行物2には,「破砕作業中におけ
る破砕部6の洗浄作業を可能なように前記破砕部6を構成する固定受板20と可動
破砕板22の上部に設けた踏面」があるか否かが明らかでなく,また,破砕装置の
上部に設けた踊場から破砕作業中におけるフィーダの作業動作を目視確認可能とす
る構成は記載されていない。仮に,刊行物2に,破砕部6の上部に踊場が存在する
としても,踊場は,その意図を持って設けられるものであるが,刊行物2の踊場
は,破砕部6の洗浄作業(一種のメンテナンス)の作業性を向上させるためのもの
であり,本件発明のような破砕機の作業動作を確認(監視)するためのものではな
く,その機能,作用は全く相違する。
  刊行物2の記載内容は以上のとおりであるから,刊行物1発明において,
刊行物2発明を勘案しても,破砕装置を構成するスイングジョーの上部に設けた踊
場(踏面)から「破砕作業中におけるホッパからフィーダを介して破砕装置,およ
びコンベヤへと至る一連の作業動作を(踏面から)目視確認可能なようにする」構
成に想到することはできない。また,本件発明の「破砕作業中における前記フレー
ムの長手方向一方側に設けたホッパからフィーダを介して破砕装置,および前記フ
レームの長手方向他方側外方に延在するコンベヤへと至る一連の作業動作を目視確
認可能なように上記破砕装置を構成するスイングジョーの上部に設けた踏面
と・・・手摺とからなる点検用踊場」の構成は,①破砕作業中におけるフレームの
長手方向一方側に設けたホッパからフィーダを介して破砕装置及びフレームの長手
方向他方側外方に延在するコンベヤへと至る一連の作業動作を目視確認可能なよう
に設けた踏面(踊場)がある点,②その踏面(踊場)が破砕装置を構成するスイン
グジョーの上部に設けられている点,の2点を内容として含むものであり,上記②
の点は,破砕機全体の一連の作業動作を踊場から目視確認可能とするための踊場の
最適な位置を規定したものである。このように破砕機全体の一連の作業動作を破砕
装置を構成するスイングジョーの上部に設けた踊場から目視確認可能なようにする
ことにより,作業員は踊場に立って向きを変えたり多少移動するだけでホッパ,フ
ィーダ,破砕装置,コンベヤの一連の作業動作を目視確認することができるように
なり,作業員に大きな負担を掛けずに破砕機の作業状況全般を容易に監視すること
ができ,発生するトラブルを最小限にとどめ,安全かつ効率的な運転が可能とな
り,その効果は極めて大きいものである。刊行物1,2には,踊場からフィーダ及
び破砕装置の作業動作を含む「一連の作業動作」を目視確認可能とするという技術
的思想が何ら示されていないばかりでなく,上記②の点に係る破砕機全体の一連の
作業動作を踊場から目視確認可能とするために踊場を破砕装置を構成するスイング
ジョーの上部に設けるという,踊場の最適な位置についての示唆もない。したがっ
て,刊行物1発明において,刊行物2発明を勘案しても,「破砕作業中におけるホ
ッパからフィーダを介して破砕装置,およびコンベヤへと至る一連の作業動作を
(踏面から)目視確認可能なようにする」構成に容易に想到し得るということはで
きない。
(3)刊行物3発明は,「クラッシャの主軸の上側付近で,左右のフライホイー
ルと大プーリとの間の位置に,メイン車体の後部側上面よりホッパの方向へ向けて
上昇してゆく階段状のステップを形成した」(甲9の特許請求の範囲【請求項
1】)ものであり,「ステップ」に限定された発明であり,その「ステップ」は,
【図1】において,クラシャ7を構成するジョー9の上部にはなく,クラッシャ7
の主軸8の上部に位置しており,本件発明の踊場のように「破砕装置を構成するス
イングジョーの上部に設けた」ものではなく,破砕装置の上部に設けた踊場から破
砕作業中におけるフィーダあるいは破砕装置の作業動作を目視確認可能とする構成
はない。また,刊行物3発明は,踊場でなく,ステップをクラッシャ7の主軸8の
上部に設けるものであり,かつ,コンベア11はホッパ5の下方にあり,コンベア
11の作業状況をステップ1から見ることはできないから,踊場からフィーダ及び
破砕装置の作業動作を含む「一連の作業動作」を目視確認可能とするという技術的
思想が何ら開示されていないばかりでなく,上記②の点に係る破砕機全体の一連の
作業動作を踊場から目視確認可能とするために踊場を破砕装置を構成するスイング
ジョーの上部に設けるという,踊場の最適な位置についての示唆もない。したがっ
て,刊行物1発明において,刊行物3発明を勘案したとしても,「破砕作業中にお
けるホッパからフィーダを介して破砕装置,およびコンベヤへと至る一連の作業動
作を(踏面から)目視確認可能なようにする」構成に容易に想到し得るということ
はできない。
4 取消事由4(本件発明と刊行物4発明との相違点についての判断の誤り)
(1)本件決定は,本件発明と刊行物4発明との相違点として認定した,「本件
発明は,破砕作業中における破砕装置の作業動作も(踏面から)目視確認可能なよ
うにするものであり,それ故に,破砕作業中におけるホッパからフィーダを介して
破砕装置,およびコンベヤへと至る一連の作業動作を(踏面から)目視確認可能で
あるのに対し,刊行物4記載の発明(注,刊行物4発明)は,破砕作業中における
破砕装置の作業動作を(踏面から)目視確認可能なようにしているのか否か不明な
点」(決定謄本12頁〔相違点〕の第1段落)について,「刊行物2記載の発明
(注,刊行物2発明)は,『破砕作業中における破砕部6の洗浄作業を可能なよう
に前記破砕部6を構成する固定受板20と可動破砕板22の上部に設けた踏面と手
摺』の点を備えている。すなわち,刊行物2記載の発明は,破砕作業中における破
砕部6の洗浄作業を,破砕部6を構成する固定受板20と可動破砕板22の上部に
設けた踏面から行うものであるから,『洗浄作業をしながら,破砕作業中における
破砕部6の作業動作を(踏面から)目視確認可能』といえる。また,刊行物3記載
の発明(注,刊行物3発明)は,『破砕作業中におけるクラッシャ7の作業動作を
目視確認可能なように前記クラッシャ7を構成するジョー9の上部に設けたステッ
プ1』の点を備えている。・・・刊行物4記載の発明(注,刊行物4発明)におい
て,刊行物2記載の発明の上記の点,または,刊行物3記載の発明の上記の点を勘
案して,『破砕作業中におけるホッパからフィーダを介して破砕装置,およびコン
ベヤへと至る一連の作業動作を(踏面から)目視確認可能なようにする』ことは,
当業者が格別困難なくなし得る」(同12頁最終段落~13頁第2段落)と判断し
たが,誤りである。
(2)取消事由3(2),(3)のとおり,刊行物2,3(甲8,9)には,踊場から
フィーダ及び破砕装置の作業動作を含む「一連の作業動作」を目視確認可能とする
という技術的思想が何ら示されていないばかりでなく,上記3(2)の②の点に係る破
砕機全体の一連の作業動作を踊場から目視確認可能とするために踊場を破砕装置を
構成するスイングジョーの上部に設けるという踊場の最適な位置についての示唆も
ない。そして,刊行物4(甲4)には,「破砕作業中における破砕装置の作業動作
を(踏面)から目視確認可能なようにしている」点が開示されていないのであるか
ら,刊行物4発明においても,踊場からフィーダ及び破砕装置の作業動作を含む
「一連の作業動作」を目視確認可能とするという技術的思想が何ら示されていない
ばかりでなく,上記②の点に係る示唆もないことが明らかである。
  したがって,刊行物4発明において,刊行物2発明又は刊行物3発明を勘
案したとしても,上記相違点に係る構成に容易に想到するということはできない。
第4 被告の反論
   本件決定の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がな
い。
1 取消事由1(分割出願の要件についての認定判断の誤り)について
 原出願当初明細書(甲3添付)の段落【0007】の記載は,「クラッシャ
30の上部両側には点検用の踊場92が設置され,階段90を介して作業員が昇降
できるようになっている」というものであり,同記載によると,点検用の踊場92
が何を点検するために設置されるのかについて開示ないし示唆するものでなく,点
検用の踊場92がクラッシャ30の上部両側に設置される理由について開示ないし
示唆するものでなく,破砕作業中におけるクラッシャ30の作業動作を点検用の踊
場92から目視確認可能にするための構成について開示ないし示唆するものでもな
い。目視確認可能であるかどうかは,点検用の踊場92がクラッシャ30の上部両
側に設置されることから直ちに判断されることではなく,クラッシャ30をその上
部両側の間から目視確認可能であるかどうかによるのであり,例えば,透明の遮蔽
物,透かして見える網,あるいは何もないことが判明して初めていえることであ
る。点検用の踊場92がクラッシャ30の上部両側にあるからといって,その両側
の間がどのような状態であるかの開示ないし示唆がない場合には,目視確認可能で
あるとはいえない。また,図面の記載事項を参照しても,上部両側の間からクラッ
シャ30を目視確認可能であることが開示ないし示唆されているものでもない。ま
た,クラッシャ30の点検を行うことが通常のことであったとしても,破砕作業中
におけるクラッシャ30の作業動作の点検を行うことまで通常のことであるとはい
えない。まして,破砕作業中におけるクラッシャ30の作業動作を点検用の踊場9
2から目視確認することによって点検することはない。したがって,「踊場92の
点検対象の1つがクラッシャ30であることは自明である」とはいえず,また,
「破砕作業中におけるクラッシャ30の作業動作が踊場92から目視確認可能であ
ることは自明である」ともいえない。
2 取消事由2(本件発明と刊行物1発明との一致点の認定の誤り)について
 刊行物1発明が,「その内側端が前記走行手段の一方側近傍に,その外側端
が前記走行手段の一方側より突出するように前記フレームの長手方向の一方側に設
けたホッパと,前記走行手段の他方側より突出するように前記フレームの他方側に
配置したディーゼルエンジンと,前記ホッパの下方と前記ジョークラッシャとの間
に設けたグリズリフィーダと,前記ジョークラッシャの下方から前記フレームの長
手方向他方側外方に延在するように昇り傾斜させて前記フレームに設けたメインベ
ルトコンベヤ」(決定謄本7頁第1段落)を備えることは,原告も争わないとこ
ろ,刊行物1発明において,岩石は,ホッパ,グリズリフィーダ,ジョークラッシ
ャ,メインベルトコンベヤへと順次送られるものであり,刊行物1(甲7)の「こ
の生産レベルは,フィーダの2つのグリズリセクションを通りぬけた供給材からの
細粒を受けるバイパスシュートを組み込んだLokotrackの設計により支援されてい
る。細粒はクラッシャを通過する岩石の付加的な緩衝材の役割を果たすようにメイ
ンコンベヤベルトに送られる。ARCの仕様書では,供給ホッパの容量を増やすた
めに側壁が追加され」(訳文1頁「実質的経費節約と1.5倍の処理機能」の項の
第4段落~第5段落),「この機種は水平フィーダ,顎部の開口が120×900
mmのジョークラッシャ,及びベルトコンベヤを備えている」(同2頁下から第2
段落)との記載によれば,岩石は,ホッパ,グリズリフィーダ,ジョークラッシ
ャ,メインベルトコンベヤへと順次送られるのであり,また,グリズリセクション
を通りぬけた細粒は,バイパスシュートを介してメインベルトコンベヤへと送ら
れ,ジョークラッシャを通過する岩石の付加的な緩衝剤の役割を果たす。そうする
と,ジョークラッシャをフレームの長手方向の一方側や他方側に設けることはでき
ず,ほぼ中心部に設けるほかなく,固定ジョーとスイングジョーとを有するジョー
クラッシャは,フレームの長手方向のほぼ中心部に設けられているということがで
きる。そして,刊行物1の19頁の写真を参照すると,踏面がフレームの長手方向
のほぼ中心部に設けられていること及び階段が前記ジョークラッシャの側部に設け
られていることが確認できるから,踏面が前記ジョークラッシャを構成するスイン
グジョーの上部に設けられ,階段がジョークラッシャの側部に設けられていること
も明らかである。刊行物1発明が,「前記ホッパの下方と前記ジョークラッシャと
の間に設けたグリズリフィーダを備える」ことは上記のとおりであり,グリズリフ
ィーダがホッパの下方とジョークラッシャとの間に設けられること,すなわち,ホ
ッパの下方にフィーダが配置され,その下流側にグリズリセクションが配置され,
さらにジョークラッシャへと至ることは,ホッパへ投入された岩石をジョークラッ
シャへ送るというその機能にかんがみて,技術常識というべきものである。したが
って,刊行物1発明が破砕作業中におけるホッパからフィーダへと至る作業動作を
(踏面から)目視確認可能とする点を備えることは明らかである。なお,刊行物1
発明は,破砕作業中においては,岩石がフィーダ上面に積載されているから,フィ
ーダそのものを目視確認することはできず,また,フィーダ下流端からジョークラ
ッシャへと至る作業動作を目視確認することはできないが,これらの点は本件発明
においても同様である。
3 取消事由3(本件発明と刊行物1発明との相違点についての判断の誤り)に
ついて
(1)刊行物2(甲8)の第1図,第2図を参照すると,ホッパー4の側方に,
踊場を形成する踏面,手摺が設けられていること,破砕部6の上方に,ホッパー4
の側方に設けられた手摺と同様の手摺が設けられていることが明らかである。そし
て,手摺は,そもそも踏面に位置する人がすがって安全を確保するために設けられ
るもので,手摺と踏面とは一対で設けられて踊場を形成することが技術常識である
から,刊行物2発明が,「固定受板20と可動破砕板22の上部に設けた踏面」の
点を備えることは明らかである。
(2)刊行物3(甲9)の「7はクラッシャ,8はクラッシャの主軸,9.は建
設廃材を噛み砕くジョー」(段落【0006】),「本発明(注,刊行物3発明)
のステップ1では,クラッシャ7の主軸8の上側付近で,左右のフライホイール1
2と大プーリ13との間の位置に,メイン車体4の後部側上面よりホッパ5の方向
へ向けて上昇してゆく階段状のステップを形成した」(段落【0008】)との記
載並びに【図1】,【図2】及び【図5】の図示によれば,ステップ1の最上段
が,クラッシャ7を構成するジョー9の下部や側部ではなく,その上部に位置して
いることは明らかである。なお,刊行物3の「ジョー9」は,固定ジョーとスイン
グジョーとで形成され,スイングジョーは主軸8に軸支されていることにかんがみ
れば,スイングジョーの真上部にステップ1の最上段が設けられているといえる。
4 取消事由4(本件発明と刊行物4発明との相違点についての判断の誤り)に
ついて
 本件決定は,刊行物1発明及び刊行物4発明は,「破砕作業中における前記
フレームの長手方向一方側に設けたホッパからフィーダへと至る作業動作,および
前記フレームの長手方向他方側外方に延在するコンベヤの作業動作を目視確認可能
なように前記破砕装置を構成するスイングジョーの上部に設けた踏面とこの踏面上
における前記フレームの長手方向及び短手方向部分に設けた手摺とからなる点検用
踊場」(決定謄本12頁第1段落)を備えていると認定し,このことを前提とし
て,刊行物2発明は,「洗浄作業をしながら,破砕作業中における破砕部6の作業
動作を(踏面から)目視確認可能」(同頁最終段落)とする点を備え,刊行物3発
明は,「破砕作業中におけるクラッシャ7の作業動作を目視確認可能なように前記
クラッシャ7を構成するジョー9の上部に設けたステップ1」(同13頁第1段
落)を備えていると認定し,刊行物1発明,刊行物4発明において,刊行物2発明
の上記の点又は刊行物3発明の上記の点を勘案して,破砕作業中における破砕装置
の作業動作も目視確認可能なようにし,「破砕作業中におけるホッパからフィーダ
を介して破砕装置,およびコンベヤへと至る一連の作業動作を(踏面から)目視確
認可能なようにする」ことは,当業者が容易にし得ることであると判断したもので
あり,刊行物1~4発明が,踊場からフィーダ及び破砕装置の作業動作を含む「一
連の作業動作」を目視確認可能とする点を備えていると認定しているものではな
い。そして,破砕機全体の一連の作業動作を踊場から目視確認可能とするために踊
場を破砕装置を構成するスイングジョーの上部に設けることは,刊行物1発明,刊
行物4発明において,刊行物2発明の上記の点又は刊行物3発明の上記の点を勘案
して,破砕作業中における破砕装置の作業動作も目視確認可能なようにし,「破砕
作業中におけるホッパからフィーダを介して破砕装置,およびコンベヤへと至る一
連の作業動作を(踏面から)目視確認可能なようにする」ために採用すべき必然の
構成である。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(分割出願の要件についての認定判断の誤り)について
(1)原告は,原出願当初明細書(甲3添付)には,①「グリズリ付振動フィー
ダ20の下流の直近にはクラッシャ30が配設され」(段落【0007】),②
「クラッシャ30の上部両側には点検用の踊場92が設置され,階段90を介して
作業員が昇降できるようになっている」(同),③「移動式クラッシャ1の前方先
端(図1では右側)を採掘現場に向け,ディーゼルエンジン70を始動して各機器
の始動を確認した後,ホッパ10へ採取した岩石をショベルローダ等の運搬機械に
より供給する。ホッパ10へ供給された岩石はグリズリ付振動フィーダ20でクラ
ッシャ30へ移動されながら,グリズリバー20a間を細粒および土砂分が通過
し,振動篩50によって細粒と土砂分に選別され,細粒はメインコンベヤ40へ,
土砂分はサイドコンベヤ60へ各々移送される。グリズリ付振動フィーダ20によ
りクラッシャ30へ入った岩石は,破砕されて規定のサイズにセットされた細粒と
なってメインコンベヤ40により,それ以降の輸送手段,例えば長尺のベルトコン
ベヤ等で輸送される」(段落【0009】)と記載され,④その図1には,踊場9
2に立った作業員が破砕機の作業動作を目視確認(点検)している様子,踊場92
に立った作業員の頭部がホッパ10,グリズリ付振動フィーダ20,クラッシャ3
0,メインコンベヤ40より高い位置にある状態,及びメインコンベヤの放出端が
作業員から見える状態が,⑤その図2には,ホッパ10の底部及びグリズリ付振動
フィーダ20が上方から見える状態が,それぞれ平面図で示されていること,並び
に,「点検」の語の意味から,「踊場92」の点検対象の一つが「クラッシャ3
0」であり,破砕作業中におけるクラッシャ30の作業動作が踊場92から目視確
認可能であることは自明というべきであることから,「破砕作業中における破砕装
置の作業動作を目視確認可能」の点は,原出願当初明細書の記載から自明であると
主張する。
(2)しかしながら,原出願当初明細書(甲3添付)から破砕作業中におけるク
ラッシャ30の作業動作が踊場92から目視確認可能であることが自明のことであ
るといえるためには,少なくとも,原出願当初明細書に破砕作業中におけるクラッ
シャ30の作業動作を点検用の踊場92から目視確認可能とする構成が記載ないし
示唆されていなければならない。そして,上記目視確認可能であるか否かは,点検
用の踊場92がクラッシャ30の上部両側に設置されることから直ちに判断できる
ものではなく,クラッシャ30をその上部両側の間から目視確認可能であるかどう
かによるものであり,例えば,透明の遮へい物,透かして見える網又は遮へい物が
何もないことが判明して初めて判断できることであるから,点検用の踊場92がク
ラッシャ30の上部両側にあるからといって,その両側の間がどのような状態であ
るかの記載ないし示唆がない場合には,目視確認可能であるとはいうことができな
い。ところで,原出願当初明細書の段落【0007】の記載は,「クラッシャ30
の上部両側には点検用の踊場92が設置され,階段90を介して作業員が昇降でき
るようになっている」というものであり,点検用の踊場92が点検する対象や点検
用の踊場92がクラッシャ30の上部両側に設置される理由についての記載はな
く,破砕作業中におけるクラッシャ30の作業動作を点検用の踊場92から目視確
認可能にするための構成について,開示ないし示唆はなく,原告主張に係る上記①
~⑤の記載によっても,クラッシャ30の上部両側の間がどのような状態であるか
が明らかではない。また,原告が主張するように,「点検」の語の意味は,「一つ
一つ検査すること」(広辞苑第5版,甲18),「一つ一つ,しらべること」(小
学館発行「新選国語辞典第6版」,甲19)であるが,クラッシャ30の点検を行
うことが通常のことであったとしても,破砕作業中におけるクラッシャ30の作業
動作の点検を行うことまで通常のことであるとはいえず,まして,破砕作業中にお
けるクラッシャ30の作業動作を点検用の踊場92から目視確認することによって
点検することが通常のことであるとはいえない。したがって,「踊場92の点検対
象の1つがクラッシャ30であることは自明である」ということはできず,また,
「破砕作業中におけるクラッシャ30の作業動作が踊場92から目視確認可能であ
ることは自明である」ということもできないから,「破砕作業中における破砕装置
の作業動作を目視確認可能」の点は,原出願当初明細書に記載されておらず,か
つ,同明細書の記載から自明のこととも認められない(決定謄本5頁(2)の第1
段落)とした本件決定の認定判断に誤りはない。
(3)以上のとおり,本件決定の分割出願の要件についての認定判断に誤りはな
く,本件出願の出願日は遡及しないから,刊行物3発明及び刊行物4発明は,特許
法29条1項3号にいう本件出願前に頒布された刊行物に記載された発明との要件
を満たす。そこで,進んで,刊行物2発明,刊行物3発明及び刊行物4発明に基づ
く容易想到性の判断の誤りをいう取消事由4について検討することとする。
2 取消事由4(本件発明と刊行物4発明との相違点についての判断の誤り)に
ついて
(1)取消事由4は,取消事由3の主張に係る刊行物2発明及び刊行物3発明の
認定の誤りを前提とするので,まず,刊行物2発明の認定の誤りについて検討す
る。
 原告は,刊行物2(甲8)の第1図には,手摺の近傍に手動式のスプレー
8′が示されているが,作業員が踊場に立って洗浄作業をすることは,作業員が,
常に,破砕部6から飛散した被破砕物が当たる危険にさらされることで安全上問題
があり,上記記載から,このような洗浄作業を行うとは考え難く,破砕部6の上部
に踊場があると断定することはできず,刊行物2には,「破砕作業中における破砕
部6の洗浄作業を可能なように前記破砕部6を構成する固定受板20と可動破砕板
22の上部に設けた踏面」があるか否かが明らかでなく,また,破砕装置の上部に
設けた踊場から破砕作業中におけるフィーダの作業動作を目視確認可能とする構成
は記載されていないと主張する。
 刊行物2(甲8)の第1図,第2図の記載を参照すると,ホッパー4の側
方に,踊場を形成する踏面,手摺が設けられていること,破砕部6の上方に,ホッ
パー4の側方に設けられた手摺と同様の手摺が設けられていることが明らかであ
る。そして,手摺は,そもそも踏面に位置する作業者がこれにすがって自己の安全
を確保するために設けられるものであり,手摺と踏面とは一対で設けられて踊場を
形成することが技術常識というべきものであるから,刊行物2発明が,「固定受板
20と可動破砕板22の上部に設けた踏面」の点を備えることは明らかである。刊
行物2には,「前記破砕作業中,被処理物が浸潤していると土や粉状物が固定受板
20と可動破砕板22の板面に付着して破砕性能が著しく低下するので前記手動式
のスプレー8′を持ち,そのコックを開いて上記板面を洗浄し,また,被処理物が
乾燥していると,多量の粉塵が舞い上がるので,この時も上記スプレー8′により
被処理物に水を掛けて塵挨が飛散するのを防止する」(2頁左下欄第3段落)との
記載があるように,破砕部6を構成する固定受板20と可動破砕板22の洗浄作業
を破砕作業中に行うのであり,その際に,原告主張のような危険があれば,開口部
を金網で覆う等の安全策を講じることは,容易に理解し得ることである。したがっ
て,刊行物2発明は,「破砕作業中における破砕部6の洗浄作業を可能なように前
記破砕部6を構成する固定受板20と可動破砕板22の上部に設けた踏面と手摺」
を備えている(決定謄本12頁最終段落)とした本件決定の認定に誤りはない。
(2)次に,刊行物3発明の認定の誤りについてみると,原告は,刊行物3発明
は,「クラッシャの主軸の上側付近で,左右のフライホイールと大プーリとの間の
位置に,メイン車体の後部側上面よりホッパの方向へ向けて上昇してゆく階段状の
ステップを形成した」(甲9の特許請求の範囲【請求項1】)ものであり,「ステ
ップ」に限定された発明であり,その「ステップ」は,【図1】において,クラシ
ャ7を構成するジョー9の上部にはなく,クラッシャ7の主軸8の上部に位置して
おり,本件発明の踊場のように「破砕装置を構成するスイングジョーの上部に設け
た」ものではなく,破砕装置の上部に設けた踊場から破砕作業中におけるフィーダ
あるいは破砕装置の作業動作を目視確認可能とする構成はないと主張する。
 しかしながら,刊行物3(甲9)の「7はクラッシャ,8はクラッシャの
主軸,9は建設廃材6を噛み砕くジョー」(段落【0006】),「本発明(注,
刊行物3発明)のステップ1では,クラッシャ7の主軸8の上側付近で,左右のフ
ライホイール12と大プーリ13との間の位置に,メイン車体4の後部側上面より
ホッパ5の方向へ向けて上昇してゆく階段状のステップを形成した」(段落【00
08】)との記載並びに【図1】,【図2】及び【図5】の図示によれば,ステッ
プ1の最上段が,クラッシャ7を構成するジョー9の下部や側部ではなく,その上
部に位置していることは明らかである。
  原告は,さらに,刊行物3発明は,踊場でなく,ステップをクラッシャ7
の主軸8の上部に設けるものであり,かつ,コンベア11はホッパ5の下方にあ
り,コンベア11の作業状況をステップ1から見ることはできないから,踊場から
フィーダ及び破砕装置の作業動作を含む「一連の作業動作」を目視確認可能とする
という技術的思想が何ら開示されていないとも主張するが,刊行物3(甲9)の段
落【0011】【発明の効果】には,「本発明(注,刊行物3発明)では,メイン
車体の後部側上面よりホッパの方向へ向けて上昇してゆく階段状のステップを形成
したので,作業者がそのステップを昇ることによって,ホッパ下部の排出口におけ
る被破砕材の詰まりを調整する操作や,フィーダの送り込み状況及びクラッシャの
破砕状況の目視確認を容易に行うことができる」と記載され,「ステップ」がクラ
ッシャ部のみならず破砕機の作動状況を広範囲に目視確認することを目的として設
置されたものであることが明らかであって,本件発明の「踊場」と実質上同一の目
的及び機能を果たすものと認められる。したがって,刊行物3発明は,「破砕作業
中におけるクラッシャ7の作業動作を目視確認可能なように前記クラッシャ7を構
成するジョー9の上部に設けたステップ1」を備えている(決定謄本13頁第1段
落)とした本件決定の認定に誤りはない。
(3)以上のとおり,本件決定の刊行物2発明及び刊行物3発明の認定に誤りは
ない。そうすると,刊行物2~4発明は,いずれも「自走式破砕機」という同一の
技術分野に属するものであるから,刊行物4発明において,刊行物2発明又は刊行
物3発明の上記の点を勘案して,「破砕作業中におけるホッパからフィーダを介し
て破砕装置,およびコンベヤへと至る一連の作業動作を(踏面から)目視確認可能
なようにする」ことは,当業者が容易に想到し得るというべきであり,これと同趣
旨の本件決定の判断に誤りはない。
3 以上のとおり,原告主張の取消事由1,4はいずれも理由がないから,その
余の点について判断するまでもなく,本件特許は特許法29条2項の規定に違反し
てされたものであり同法113条2号に該当し取り消されるべきものであるとした
本件決定に誤りはない。
   よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとお
り判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官 篠  原  勝  美
    裁判官 岡  本     岳
    裁判官 早  田  尚  貴

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