弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
       事   実
第一、当事者双方の求めた裁判
 原告は、「(1)被告は別紙説明書並に図面に示す芯の製造・販売、販布の行為
をしてはならない。(2)被告は原告に対し金四〇万円及びこれに対する昭和四五
年三月一二日以降右完済まで年五分の割合による金員を支払え。(3)訴訟費用は
被告の負担とする。」との判決並びに第二項につき仮執行の宜言を求め、被告は主
文同旨の判決を求めた。
第二、請求原因
一、海南市<以下略>千代田敷物株式会社(以下更正会社という)は肩書地に本店
を置き、輸出向チユーブマツト及びその芯糸製造業を営むものであるが、昭和四二
年四月二七日午前一〇時和歌山地方裁判所は右会社に対し更正手続開始の決定をな
し、原告を管財入に選任した。
 更生会社は訴外中部日本敷物株式会社、同東洋敷物株式会社と共に左記実用新案
(以下本件実用新案という)について権利を共有している。
 考案の名称 チユーブマツト
出願人 東洋敷物株式会社
出願日 昭和三三年一二月一日
公告日 昭和三六年五月一六日(公告番号 昭三六―一二〇三六)
登録日 昭和四〇年五月三一日(登録番号 第五八九九六一号)
登録請求の範囲 図面に示す通りやや圧縮して丸棒状に形成した綿1の周囲に細い
糸2を螺旋状に巻き付けた綿棒を芯にしてこれに糸類3をコード編して被覆したも
のを渦巻状に縫合せてなるチユーブマツト。
二、本件実用新案出願時、チユーブマツトの芯に糸類をコード編して被覆したもの
を渦巻状に縫合せてなるものは公知であつたから、本件実用新案の要部は、「やや
圧縮して丸棒状に形成した綿の周囲に細い糸を螺旋状に巻き付けた綿棒の芯」の構
造にある。
 このことは、実用新案公報中の登録請求の範囲及び実用新案の説明の項の記載に
徴して極めて明白である。右の要部は、(1)材料にぼろ綿屑(木綿、毛、化学繊
維、人絹等を含む)を用いやや圧縮して丸棒状にすること、(2)右丸棒の周囲に
細い糸をまいてほぐれないようにすること、
(3)これに更に細い糸を螺旋状に巻くことの三つの構成からなる。
 本件実用新案登録請求の範囲にいう、「やや圧縮して丸棒状に形成した綿」の
「綿」とは、組成材料のコットン(綿)そのものを指すものではなく、紡績用語上
のスライバー、すなわち、撚りのない帯状またはロープ状にした繊維の集合体をい
う。つまり、連続したロープのような紐状のもので撚りのかかつていない繊維をゆ
るく集めたもので横断面ではほぼ均一になつたものであり、我が国では篠綿(しの
わた)と言われるものである。
三、従来はガラ紡糸を四〇ないし五〇本集めて芯に使用していたが、ガラ紡糸は太
さが不同であるから集めた芯も太さが一定しない欠点があつた。
 ところが本案品では、綿をやや圧縮して丸棒状に形成したのに細い糸を螺旋状に
巻き付けた綿棒であるから、太さを一定に保つことができ、また一定の固さを与え
ることができる。したがつて従来品に比し、工程が著しく軽減されるから能率もよ
く価格も低廉で且つ弾力性に富み、天日に曝すと膨らんで長年月の使用にも薄くな
らない敷物が得られるという作用効果がある。
四、前記のように解してはじめて、本件実用新案の説明の項の「綿」についての記
載と登録請求の範囲に記載の「綿」の意義を統一的に理解することができるのであ
つて、本件実用新案の権利範囲は前記考案の要部に基づいて決定すべきである(最
高裁判所昭和三七年(オ)第八七一号事件判決)。
五、被告は輸出向チユーブマツトの芯糸の製造販売を業とするものであるが、その
製造にかかるチユーブマツトの芯は、別紙説明書並に図面に示すとおり(以下イ号
物件という)であつて、本件実用新案の要部たる芯とその構造が全く同一である。
 したがつて、被告のイ号物件の製造販売等の行為は本件実用新案権を侵害するも
のである。
六、仮に百歩を譲り、本件にいう「綿」が木綿繊維によるものであると仮定して
も、これを化繊、人絹、スフ等を反毛機にかけてほぐしたイ号物件と取り換えてみ
ても、機能、作用効果は同一であり、しかもそのことが本件実用出願時の繊維事情
ないし技術水準より見て出願人はもちろん、通常の技術家にとつて容易に推考でき
ることであつたから、イ号物件は本件考案の芯と均等である。
七、仮に、イ号物件が本件実用新案の技術的範囲に属しないとしても、イ号物件
は、本件登録実用新案に係る物品の製造にのみ使用する物であるから、被告がイ号
物件を業として製造販売する行為は、実用新案法二八条により本件実用新案権を侵
害するものとみなされる。
 イ号物件の一本芯はチユーブマツトの製造にのみしか用途はなく、今日迄他の用
途に使用された事実がない。
 右法条にいう「のみ」とは、通常は当該考案以外に用途がない部品、使用材料を
いうが、他に用途がある汎用品の場合でも、当該考案に係る物品の製造に使用され
るよう特定の長さ、幅等に造られているときは、その考案に係る物品の製造にのみ
使用する物に該当すると認めるべきである。イ号物件はその太さ等から本件実用新
案のチユーブマツトの製造にのみ使用すべき物というべきである。
八、被告はイ号物件を昭和四三年九月四日以降少くとも一ケ月一万五千キログラム
製造販売している。販売価格は一キログラムにつき平均四〇円を下ることはなく、
材料費、人件費その他の諸経費を控除しても、利益率は一〇%であると認められ
る。原告はそのため、同月以降昭和四五年二月末まで一八ケ月間に少くとも一〇八
万円の得べかりし利潤を喪失した。
 よつて、原告は被告のイ号物件の製造、販売領布の行為の差止めならびに原告の
蒙つた前記損害金の内金四〇万円および本件訴状が被告に送達された日の翌日たる
昭和四五年三月一二日以降右完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求
める。
第三、被告の答弁
一、請求原因一の事実中、千代田敷物株式会社が本件実用新案の権利者の一員であ
ることは認める。
二、同二の事実のうち、本件実用新案出願時、チユーブマツトの芯に糸類をコード
編して被覆したものを渦巻状に縫合せてなるものが公知であつたことは認めるが、
その余の主張事実は否認する。本考案にいう「綿」とは「木綿わた」のみからなる
ものをいう。
三、同三の事実は争わない。
四、同四の事実は争う。
五、同五の事実のうち、
被告がイ号物件の製造販売の行為をしていることは認めるが、その余は争う。
六、同六ないし八の事実は争う。
第四、証拠関係(省略)
       理   由
第一、千代田敷物株成会社が本件実用新案の権利者の一員であること、本件実用新
案の登録請求の範囲の記載が原告主張のとおりであること、被告が別紙イ号物件の
製造販売の行為をしていることは当事者間に争いがない。
 成立に争いない甲第一号証によると、千代田敷物株式会社が原告主張の訴外会社
と本件実用新案権を共有していることが認められ、本件記録に添付の昭和四二年四
月二七日午前一〇時和歌山地方裁判所がなした決定によると千代田敷物株式会社に
対し更生手続が開始され、原告が右会社の管財人に選任せられ、正当な当事者とし
て訴訟を提起しうる権限を有することが認められる。
第二、本件実用新案登録請求の範囲に記載の「綿」の意味について。
 成立に争いない甲第二号証の本件実用新案公報によると、その実用新案の説明の
項に、「従来はガラ紡糸を四〇~五〇本を集めて芯に使用して居るが、ガラ紡糸は
太さが不同であるから集めた芯も太さが一定しない欠点がある」、「本案のチユー
ブマツトは使用により圧縮されて厚みが薄くなつても日光に曝すと芯が綿であるか
ら蒲団を日光に曝した時と同様膨張して再び原状に復する特徴がある。公知の撚糸
は膨張しない」との記載があり、この事実と証人Aの証言によると、登録請求の範
囲に記載の「綿」とは、綿花より造つた綿はもちろん、屑綿、化学繊維、スフ、人
絹等いわゆる繊維屑を反毛機にかけてほぐした「反毛」と称せられるもので糸に紡
がれてない状態のものも含むと解するのが相当である。
第三、本件実用新案の考案の主要部について。
 本件実用新案出願時、チユーブマツトにおいて、芯に糸類をコード編して被覆し
たものを渦巻状に縫合せたものが公知であつたことは当事者間に争いがないから、
この事実をしんしやくして、本件実用新案公報の登録請求の範囲その他実用新案の
説明の項の記載を総合して検討すると、本件考案において、
「やや圧縮して丸棒状に形成した綿の周囲に細い糸を螺旋状に巻き付けた綿棒を芯
にする」との事項が主要部をなす構造で、その芯の素材に「綿」を使用する点に新
規性がみられる。しかし、本件考案の構成要件は、あくまで登録請求の範囲に記載
のとおり、すなわち同記載の特徴全部具備したものと認めるべく、右認定を左右に
すべき特段の事情はない。
 原告は、最高裁判所昭和三七年(オ)第八七一号事件判決を援用し、本件実用新
案において、右主要部の構成が独立して保護されるべき旨主張する。
 本件実用新案出願時施行の旧実用新案法施行規則(大正一〇年農商務省令第三四
号)二条は、出願者に対し説明書の記載事項の一として、「登録請求の範囲」を記
載せしめることとしているが、これは、出願者自ら当該考案の及ぶ範囲として主張
するところを明らかならしめんとする法意に解される。本件実用新案は旧法時に登
録になつたものであるが、新実用新案法(昭和三四年法律第一二三号)施行の昭和
三五年四月一日現に存するものであつたから、同日新法による実用新案権となつた
ものとみなされる(実用新案法施行法三条)。新実用新案法五条四項は、願書の実
用新案登録請求の範囲には、考案の詳細な説明に記載した考案の構成に欠くことが
できない事項のみを記載しなければならない旨規定し、同法二六条は、特許法七〇
条を準用している。したがつて、本件実用新案も、その考案の技術的範囲は登録請
求の範囲に基いて定めなければならないことになる。尤も、その解釈にあたつて
は、前記最高裁判所が判示する如く、登録請求の範囲の記載の文字のみに拘泥する
ことなく、すべからく、考案の性質、目的まは説明書および添付図面全般の記載を
も勘案して実質的に考案の要旨を認定すべきである。ここで、注意すべきは、右最
高裁判決は、実用新案の登録請求の範囲の記載事項から、その出願時公知の技術に
関する事項を消去し、「実用新案の性質、作用及効果の要領」の項から考案の新規
性のある事項を抽出し、これのみをもつて考案の要旨のすべてであると認定し、も
つて、権利範囲の拡大を計つたのではなく、登録請求の範囲には記載がなく、また
「実用新案の性質、作用効果の要領」の項にも、燃料排出口(6)および案内皿
(5)が廻転しないことをもつて考案の要旨とする旨の記載がないけれども、右の
項ならびに当該実用新案登録第四二八四一四号の出願時における公知事項を勘案
し、右考案の新規性は廻転しない燃料排出口(6)および廻転しない案内皿(5)
にあると認め、右二の事項は、右実用新案の考案の要旨の一部をなす、すなわち、
右二つの事項を登録請求の範囲の記載の事項に加えたものが考案の要旨であると認
定し、もつて、権利範囲を縮少して解釈したものであるということである。つま
り、右最高裁判決は、登録請求の範囲の記載の一部、あるいは考案の主要部が独立
して保護されることを認めたものではない。
第四、イ号物件について
 イ号物件の構成は別紙説明書並に図面に示すとおりであることにつき争いはない
が、それは、「芯に糸類(3)をコード編して被覆し、更にこれを渦巻状に縫合せ
る」という登録請求の範囲に記載の技術が加えられていない。そうすると、イ号物
件の芯の素材を問題とするまでもなく、イ号物件は本件考案の構成要件を具備しな
いものであることが明らかである。
第五、実用新案法二八条に基く原告の主張について。
 実用新案の制度は、権利者に、登録請求の範囲に記載された、物品の形状、構
造、組合せに関する有機的に結合した構成要件たる特徴全部を具えた新規な考案を
一体不可分なものとして保護するのであつて、考案を構成する個々の要件の特徴を
具えた物品をそれぞれ独立に保護するものではない。「実用新案に係る物品の製造
にのみ使用する物」自体は、本来実用新案権により保護される対象ではない。しか
るに、実用新案法二八条は、登録実用新案に係る物品の製造にのみ使用する物を業
として製造し譲渡し貸し渡し譲渡若しくは貸渡しのために展示し又は輸入する行為
は当該実用新案権又は専用実施権を侵害するものとみなすと規定している。これ
は、実用新案に係る物品の製造が権限なき別経営の二ケ所以上において行われ、考
案構成要件全部を具えた物品を完成する業者が多数に亘る等の事情により、その根
源をなす「実用新案に係る物品の製造にのみ使用される物」の製造譲渡を押えるこ
とが許されなければ権利者の権利行使が事実上至難である等の場合に備え、実用新
案の権利者の独占的実施を確保するため、当該実用新案に係る物品の製造にのみ使
用すると認められる物に限り、実用新案権者の権利範囲を拡張して権利行使を許し
たものと解せられる。そうだとすれば、右法条にいう「登録実用新案に係る物品の
製造にのみ使用する物」の意義は厳格に解釈することを要し、これは、現に製造、
譲渡等の行為がなされている物が、その流通に置かれた態様から、当該実用新案に
係る物品の製作にのみ使用されるというだけではなく、およそその物一般が客観的
に侵害と主張される時点において他の用途に供せられることが知られていない物で
あることを要すると解するのが相当である。
 原告はイ号物件は、本件実用新案に係る物品の製造にのみ使用する物であると主
張し、証人Bは右主張にそう証言しているけれども、後記証拠に照らして採用する
ことができないし、他に右主張を肯定しうる証拠はない。
 本件実用新案の新規性は既述の如く、反毛等綿をチユーブマツトの芯の素材に使
用することの着想にあると認められるのであり、被告が現に製造しているイ号物件
であることに争いない検甲第一号証によると、イ号物件は、直径約一三ミリの丸棒
状にやや圧縮した反毛の外周に細い糸を螺旋状に荒く巻き付けてなるもので、右の
形状はチユーブマツトの芯以外の用途に供せられないような特殊なものであるとは
認められず、その外周に施された細い糸で荒く螺旋状に巻きつけた構成は、反毛を
芯に使用するに当り通常用いられる下括りの慣用手段に過ぎないと認められ、証人
Cの証言並に被告本人の供述および同供述により海底において使用されるケーブル
用芯であることが認められる検乙第二号証、市販の学生鞄であることに争いない同
第一号証によると、イ号物件は本件実用新案に係る渦巻状チユーブマツトだけでな
くチユーブマツト一般の芯材として用いられるのは勿論、別の技術分野に属する手
提鞄の提手、蚊帳の吊手、海底において用いるケーブルの中等の芯にも用いられる
ものであることが認められるのである。
 そうすると、イ号物件が本件実用新案に係る物品の製造にのみ使用する物である
ことを前提とする原告の主張は到底採用することはできない。
第六、以上説示により、イ号物件は本件実用新案権を侵害する物であるとは認めら
れないので、その反対の前提に立つ本訴請求は棄却を免れない。よつて、訴訟費用
の負担につき民訴八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 大江健次郎 近藤浩武 庵前重和)
(別紙)
<11700-001>

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