弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 本件訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第1 請求
 被告が原告に対して平成13年5月17日付けでなした、原告の同月10日付け
無償旅客自動車運送事業経営届出に対する不受理処分を取り消す。
第2 事案の概要
 本件は、原告が被告に対して無償旅客自動車運送事業経営届出をしたところ、被
告が同届出を不受理として返付したことから、原告がその取消しを求めた抗告訴訟
である。
1 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定可能な事実)
(1)原告は、エムケイタクシーの名称で、京都市域交通圏において一般乗用旅客
自動車運送事業を営む会社であり、被告は、平成12年法律第86号による改正前
の道路運送法(以下「法」という。)88条2項及び同法施行令(以下「施行令」
という。)1条2項によって運輸大臣(現国土交通大臣、以下同じ。)から無償旅
客自動車運送事業に関する所定の権限の委任を受けている。
(2)原告は、平成13年5月10日、被告に対し、予定する事業区域を名古屋交
通圏とし、経営期間を同月21日から平成14年5月20日までとする無償旅客自
動車運送事業経営届出書(甲1、以下「本件届出書」という。)を提出した(以下
「本件届出」という。)。本件届出書には、道路運送法施行規則(以下「施行規
則」という。)34条1項所定の記載事項が漏れなく記載されており、同条2項所
定の必要書類が添付されていた。
(3)被告は、平成13年5月17日、本件届出に係る事業は法44条1項所定の
無償旅客自動車運送事業に該当しないとの理由で、本件届出書及びその添付書類を
原告に返付した(甲2)。
2 争点
(1)被告が本件届出書を原告に返付した被告の行為が、取消訴訟の対象となる処
分その他公権力の行使に当たる行為としての性質を有するか(本案前の争点)。
(2)仮に(1)で公権力の行使としての性質を有するとした場合、被告の上記行
為は違法か。
3 争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(処分性)について
ア 被告の主張
(ア)原告は、被告に対し、平成12年12月14日に名古屋地区における一般乗
用旅客自動車運送事業(ハイヤー及びジャンボタクシー)の免許申請を行った(以
下「別件申請」という。)が、被告は、原告が免許基準の法令遵守要件を満たして
いないことから、平成13年4月27日に同申請を却下した。
原告は、このように、有償で一般乗用旅客自動車運送事業を営むことを希望してい
たが、別件申請が却下されたことから、無償事業が届出制であることを奇貨とし
て、有償事業を営むまでの中継ぎ的事業を営む趣旨で本件届出書を提出したもので
あり、本件届出は一般乗用旅客自動車運送事業を免許制とした法の趣旨を潜脱する
目的の下になされたものである。
 また、法44条2項が他の旅客自動車運送事業の経営及び公衆の利便に配慮する
旨の規定を置いていることに照らすと、同条1項が予定する無償旅客自動車運送事
業とは、事業者が当該運送事業のために種々の経費を負担しながら需要者からは対
価を得ずに無償で運送を行う必要性と合理性のあるもの、すなわち、需要者と事業
者本来の事業との間に特殊な関係が存する旅館やゴルフ場が行う送迎バスのような
事業形態に限定されるというべきである。
 原告が本件届出により実施しようとした事業は、需要者との間に上記のような特
別な関係を伴わないもので、宣伝行為の域を越えた究極のダンピング行為ともいう
べき事業であり、法44条1項が予定する無償事業には該当しないというべきであ
る。仮に、このようなダンピング的事業経営を認めた場合、規模において原告を下
回るタクシー事業者が駆逐され、利用者の自由な選択が阻害され、その利便が害さ
れるおそれも存する。
(イ)このように、本件届出は形式的には法44条1項所定の無償旅客自動車運送
事業に関する届出の形をとってはいるものの、その内容が上記事業の届出に関する
ものであるとは評価できないので、原告が被告に対して同項に基づく届出をしたと
はいえないから、被告が本件届出書及び添付書類を原告に返付した行為は原告の権
利ないし法律上の利益に何ら影響を及ぼすものではなく、上記返付行為は行政事件
訴訟法3条2項にいう処分その他公権力の行使に当たる行為に該当しない。
(ウ)本件届出書には、前記1(2)のとおり、施行規則34条1項所定の記載事
項が漏れなく記載されており、同条2項の必要書類も添付されていたから、行政手
続法37条にいうその他の法令に定められた届出の形式上の要件に適合している。
したがって、原告は、同届出書を法令により当該届出の提出先とされている被告に
提出したことにより、手続上の義務を履行しているものと認められることから、本
件届出書は形式的には届出としての効力を生じたというべきである。
 そして
、上記のような届出の手続上の義務の履行という観点においては、行政手続法37
条は、行政庁が届出の不受理や返戻といった行為を行うことを予定していないか
ら、被告が本件届出書を返付したことは、法令上付与された権限の行使ではなく、
前記のとおり、本件届出に係る事業が実質的には有償事業と認められるものである
という事情から、この点を指摘したにすぎない。(もっとも、客観的には有償事業
に当たる事業につき、これを無償事業であると称して届出をしたからといって、当
該事業を適法に行うことができることとなるものではなく、原告が行おうとする事
業が客観的にみて有償事業に当たるものであるかどうかは、免許を受けないで有償
事業を経営したとの事由に係る罰則(法96条1号)に関する刑事事件において争
われ、確定されるべき事柄である。)
 よって、本件届出に対する不受理処分という観念は成立し得ず、これを返付した
行為に処分性がないことは明らかである。
イ 原告の主張
(ア)被告は、本件届出に係る事業が法44条1項所定の無償旅客自動車運送事業
に該当しないと主張するが、法が43条7項のような規定を設けることにより無償
旅客自動車運送事業と一般旅客自動車運送事業の経営及び事業計画の維持、公衆の
利便の確保との調整を図っていることからすると、法は本件届出に係る類型の事業
も無償旅客自動車運送事業に含まれることを前提としていると解すべきである。現
に、同事業が許可制から届出制に改正された際、衆議院内閣委員会で政府委員がな
した答弁は、無償か有償かということのみを基準として、無償の事業は届出制とす
る旨の内容であり、無償であっても事業の類型によっては無償旅客自動車運送事業
に含まれないものがあるというような答弁はされていない。
(イ)そして、被告の前記返付行為は、次の点で原告の法律上の地位に影響を及ぼ
すから、処分性を有する。
a 法98条11号は、法44条1項の届出をしないで、又は虚偽の届出をして無
償旅客自動車運送事業を経営した者を100万円以下の罰金に処する旨定めている
ところ、原告は、被告が本件届出書を返付したため、同事業を行った場合、刑事罰
を科されるおそれがあるのか否か不明な状態となっている。
b 無償旅客自動車運送事業を経営するためには、道路運送車両法4条による自動
車の登録をしなければならないところ、同法39条及び自動車登録令14条1項2
号は、登
録の原因について第三者の許可、同意又は承諾を要するときは、これを証する書面
を提出しなければならないとしている。したがって、原告は、自動車の登録に際
し、無償自動車運送事業について届出をした事実を証するために、所轄運輸局長の
受付印のある届出書を上記書面として提出しなければならないにもかかわらず、被
告の前記返付行為により本件届出書に受付印を受けることができず、自動車の登録
ができない状態となっている。
(2)争点(2)(返付の違法性)について
ア 被告の主張
 前記(1)アのとおり、本件届出に係る事業は本来有償で行われるべき実体を有
するものであり、法が予定する無償事業としての形態を具備していないから、この
ような届出に係る本件届出書を返付するのは適法かつ適正な処理である。
イ 原告の主張
 無償旅客自動車運送事業は届出制であり、被告は同事業に関する届出がなされた
場合、届出事項につき形式的審査を行い、不備がなければこれを受理しなければな
らない。本件届出は無償で旅客を運搬する事業に関するものであり、法44条1項
所定の事業に関する届出である。したがって、被告が形式的不備のない本件届出に
つき本件届出書及び添付書類を返付して不受理とした処分は違法である。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1)抗告訴訟である取消訴訟の対象となる「処分その他公権力の行使に当たる行
為」(行政事件訴訟法3条2項)とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行
為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定
することが法律上認められているものをいうと解される(最高裁判所第一小法廷昭
和39年10月29日判決、民集18巻8号1809頁)。したがって、ある行政
庁の行為が公権力の行使であるとされるためには、それが、個人の権利ないし法律
上の利益に直接の影響を及ぼす法的効果を有するものでなければならない。
(2)これを本件についてみるに、法44条1項は、無償旅客自動車運送事業につ
き届出制を採用しており、同事業を経営しようとする者は運輸省(現国土交通省。
以下同じ。)令の定めるところにより運輸大臣に届け出なければならないと定める
が、当該届出につき実質的な審査がなされることを前提とした規定は存在しない。
また、施行規則は、34条等で上記届出に関する具体的方式を定めているが、その
内容としては届出書に記載すべき事項及
び添付を要する書面について規定するのみであって、届出を受理するか否かについ
て一定の審査が行われ、当該審査の結果として受理又は不受理が決定され、そのこ
とによって届出による法律効果が発生する旨の条項又はこれを前提とした条項は存
しないし、施行令にもそのような規定はない。そして、行政手続法37条は、形式
上の要件に適合した届出が当該届出の提出先とされている機関の事務所に到達した
ときは、当該届出をすべき手続上の義務が履行されたものとする旨定めているとこ
ろ、法、施行令及び施行規則が、前記のとおりいずれも法44条1項の届出の効力
の発生要件について別段の定めを置いていないことからすると、法44条1項に基
づく届出は、施行規則34条の定める形式上の要件に適合するものである限り、行
政手続法37条所定の時期、すなわち、提出先機関の事務所への到達時に効力を生
ずると解すべきであり、提出先機関によって当該届出が受理されるか否かは上記効
力の発生に影響を及ぼさないというべきである。
(3)本件において、本件届出書が施行規則34条の定める形式上の要件に適合す
るものであることは当事者間に争いがないから、無償旅客自動車運送事業に関する
原告の本件届出は、本件届出書が被告の事務所に提出された平成13年5月10日
にその効力を生じていると解すべきである。したがって、それから7日後になされ
た被告による本件届出書の返付行為は単なる事実上の行為にすぎず、原告の権利な
いし法律上の地位に何ら影響を及ぼさないというべきであるから、取消訴訟の対象
となる処分その他公権力の行使に当たる行為に該当しない。
(4)この点につき、原告は、無届営業等の場合に刑事罰を受けるおそれがあるこ
とを根拠に、被告の返付行為は原告の権利ないし法律上の地位に影響を及ぼすと主
張するところ、被告は、原告が本件届出の前に別件申請をしていたことを根拠とし
て、本件届出は無償旅客自動車運送事業に関する届出とは評価し得ないとか、法4
4条1項所定の無償旅客自動車運送事業は需要者と事業者の間に特殊な関係が存在
する類型の事業に限定される旨主張し、原告が現実に本件届出に係る事業を実施し
た場合における刑事事件の立件を示唆する。しかしながら、原告が無届営業等を理
由に訴追された場合、本件届出が有効になされたものか否かを当該刑事手続におい
て争わせるのが法の基本的方針と考えられるのであって、この点をあらかじめ抗告
訴訟において争うことは許されないと解される上、そもそも、被告が無償旅客自動
車運送事業の典型例として挙げる旅館等の送迎バスにかかる無償運送事業は、その
役務の提供が結果として他の事業(宿泊業や飲食業等)に何らかの良好な影響をも
たらすとの経営判断の下になされるものであるから、動機、目的の点では本件届出
に係る事業と何ら異ならないし、当該運送事業以外の事業(他の地域における運送
事業を含む。)の収益によって当該運送事業に必要な経費を捻出するものである点
でも両者に違いはない。そして、無償旅客自動車運送事業の定義規定である法3条
3号は、事業の内容につき被告主張のような限定は全く加えていない上、法40条
1号や43条7項の規定が法44条3項によって無償旅客自動車運送事業に準用さ
れていることからすると、むしろ、法は、一般旅客自動車運送事業の経営を困難な
ものとさせるような形態の旅客自動車運送事業についても、それが無償でなされる
ものである限り、一応無償旅客自動車運送事業に該当するものとして届出により事
業を行うことを許容し、例外的に、当該事業の経営によって法43条7項所定のお
それがあると認められるような場合等に限って、事業の実施方法の変更を命じた
り、これに違反した事業者に対して事業の停止等を命ずる権限を運輸大臣に与えた
ものであると解するのが相当である。したがって、無償旅客自動車運送事業が一定
の類型のものに限定される旨の被告の主張は誤りというほかなく、結局、原告が本
件届出に係る事業を実施しても、法96条1号の構成要件はもちろんのこと、法9
8条11号の構成要件を充足することもないと考えられるから、刑事罰を受けるお
それを理由に処分性を基礎づけることはできないというべきである。
 さらに、原告は、処分性の根拠として自動車登録に関する道路運送車両法39条
及び自動車登録令14条1項2号により自動車登録に際して本件届出の事実を証す
る書面が必要である点を主張するが、このような利益は事実上のものにすぎず、法
律上の利益とはいい難いのであって、自動車登録申請の際に添付された書類が適式
なものであるか否かは、書類が不備であるとして登録申請に対する不受理処分(自
動車登録令21条)又は登録申請却下処分がなされた場合に当該処分を争えば足り
る上、そもそも無償旅客自動車運送事業は届出制とされており、自動車登録
令14条1項2号のいう「登録の原因について第三者の許可、同意又は承諾を要す
るとき」に該当しないから、原告の主張はその前提を欠き、いずれの点からしても
失当である。
2 以上の次第で、本件訴えは不適法であるからこれを却下し、主文のとおり判決
する。
名古屋地方裁判所民事第9部
裁判長裁判官 加藤幸雄
裁判官 橋本都月
裁判官 富岡貴美

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