弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人Aを懲役二年に
     被告人B同Cを各懲役一年に処する。
     被告人三名に対し夫々本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予す
る。
     原審及び当審の訴訟費用は全部被告人三名の連帯負担とする。
     本件公訴事実中往来妨害の点について被告人三名を免訴する。
         理    由
 本件控訴の趣意は記録に編綴してある弁護人岡林靖名義及び弁護人藤井弘名義の
各控訴趣意書並びに弁護人岡林靖同藤井弘名義の補充控訴趣意書に記載の通りであ
るからここにこれを引用する。
 一、 弁護人岡林靖の控訴趣意第一点及び弁護人藤井弘の控訴趣意第一点の一、
二(同上両弁護人の補充控訴趣意書の記載を含む)について、
 論旨はいずれも原判示爆発物取締罰則違反の事実につき先づ、本件「a橋」の取
壊処分の権限は村長にあり被告人Aは村長の地位において而も村議会の協議会の賛
成を得た上でその権限として村有財産たる橋を取壊す手段としてダイナマイトを使
用したのであるから自己の財産を処分したのであり他人の財産を損壊したことに該
らず、又被告人B同Cは村長の意思に従いその補佐として橋の取壊しに従事したの
であるから被告人Aの場合と同様であつて、被告人等には他人の財産を破壊すると
か権利者の意思に反して他人の財産を害するという関係になく、少なくとも被告人
等にはそのような認識がなく、所詮被告人等には爆発物取締罰則第一条所定の目的
がないのにこれありとした原判決は事実を誤認し法令の解釈適用を誤つた違法があ
るというにある。
 よつて記録を精査し当審における事実取調の結果を勘案するに、原判決認定の通
り被告人等がダイナマイトを使用して旧b村村有財産たる「a橋」及び同橋橋台を
損壊したことは明らかであるが、右「a橋」はかねてより腐朽甚だしく車馬の積載
制限次いで車馬の通行禁止等の危険防止の措置も採られ歩行者の通行さえ危険な程
度に至つていたため地元d部落民を始め村民よりその橋架替を痛く要望されていた
ところ、当時b村は財政規模も小さく俄にこれが財源を捻出することが困難であつ
たところから、昭和二九年八月九日頃b村村議会終了後村長及び村議会議員約十六
名(村議会議員の殆ど全員)によつて「a橋」対策についての協議会の開催された
際、被告人Aが台風襲来時に人為的に橋を落下させておいて表面は台風災害による
ものの如く做して国庫補助金を得て改修しようと提案し一同の賛同を得損壊作業は
被告人B等地元出身議員に任されたこと、当時b村では協議会というのは村会議員
理事者議会の事務担当者等略村議会と同様の構成員よりなり言わば村議会に準ずる
ものとして取り扱われていたこと、被告人Aは村民は皆災害で橋が落ちることを期
待し国庫負担金で橋を架け替えたいと望んでいると考えていたこと、されば村長で
ある被告人Aは村の発達村の為という浅慮から国庫負担金を騙取して「a橋」を架
け替えようと決意し、被告人B同Cは地元d部落出身の村議会議員であり前記協議
会にも出席し又村長である被告人Aの指示にも従い、被告人等は三名共謀の上原判
示の如く「a橋」及び同橋橋台を損壊したものであることを各認め<要旨>ることが
出来る。凡そ燥発物取締罰則第一条に言う人の財産を害する目的で爆発物を使用す
るとは爆発物の使用を手段として他人(犯人以外の者)の財産を害するとい
う結果招来を意図して爆発物を使用することを言い、他人の財産を害するとはその
財産の権利者の意思に反して不法にこれを損壊するの意と解すべきところ、村有財
産を処分するには地方自治法や条例に従い適法になさるべきことは言う迄もないと
ころであり、果して当時地方自治法同法施行規程条例或は町村制等の解釈上本件
「a橋」の処分権限がb村長にありやb村議会にありやは暫くおき、そのいずれに
ありとしても少くとも被告人Aの意図においては同人は村長の地位にもあり村議会
議員の殆どが出席している協議会の全員の賛同も得ているのであるから前示の如き
事情の下に前記の如き意図を以てする「a橋」の損壊であるならば村民の便宜を思
つたものであつて権利者たる村の意思決定機関たる村議会の真実の意思にも反せず
又村の最終的意思主体である村民全体の意向にも反しないものと信じてなしたもの
と認めるのが相当である。被告人Aが当審法廷において「協議会の了解があれば正
式の議会に諮つたと同じ効力があると思う。もし異議があれは村長としても考えま
すが満場一致ならば効果に変りありません」と述べ又司法警察員に対し「一銭も私
腹するという事でなく悪いことではあるが部落などの為にという感じ信念がその時
強かつた」と述べているのは正に被告人の右認識を露呈しているものと言うべきで
ある。況して被告人B同Cは村会議員として前記協議会に出席し村長たる被告人A
の指示に従つたのであるからその主観において権利者の意思に反して本件「a橋」
を損壊するものであるという認識がなかつたことは言う迄もない。してみれば本件
ダイナマイト使用はこれを手段として結果として村有財産である「a橋」の損壊と
いう結果招来を意図したものであつたにしても被告人等において右損壊は権利者の
意思に反してするという認識はなかつたものと認めるのが相当である。所詮、被告
人等には爆発物取締罰則に言う人の財産を害する目的がなかつたものと言うべきで
あつて、原判決はこの点事実を誤認したに非ずんば法令の解釈適用を誤つたもので
判決に影響を及ぼすこと明らかである。論旨は理由がある。
 一、 弁護人岡林靖の控訴趣意第二点及び弁護人藤井弘の控訴趣意第一点の三に
ついて。
 論旨は原判示往来妨害罪については公訴の時効が完成しているから免訴の判決を
なすべきであるというにある。
 よつて按ずるに、凡そ想像上数罪の公訴時効はその最も重きに従い処断すべき罪
の刑によりその完成を認めるべきであつて、原判決は往来妨害罪と爆発物取締罰則
違反の罪とは刑法第五四条第一項前段の一個の行為で二個の罪名に触れる場合であ
るとしているから其の最も重き爆発物取締罰則違反の罪の刑により時効の完成を認
めるべく算数上公訴の時効が完成していないとしている原判決の見解には違法がな
いけれども、原判決に爆発物取締罰則違反の罪について前示の如き違法があり破棄
さるべき以上往来妨害罪の公訴の時効についても又別途に考察すべきこと言う迄も
ない。
 よつて弁護人等の爾余の控訴趣意につき判断をなす迄もなく原判決は刑事訴訟法
第三九七条第三八二条第三八〇条によつてこれを破棄し同法第四〇〇条但書に則り
当裁判所は更に判決する。
 (罪となるべき事実)
 被告人Aは昭和二二年から昭和二九年一二月末日迄愛媛県周桑郡b村(昭和三〇
年一月一日近隣三村が合併しc町となる)の村長の職に就いていたもの、被告人B
は昭和二一年から被告人Cは昭和二六年からいずれも右合併前日迄旧b村村議会議
員をしていたものであるが、旧b村大字d地内の通称e川(f川の上流)に架設さ
れていた同村所有の木橋「a橋」は、腐朽し被告人等はその架替の為の財源の捻出
に苦慮し、被告人三名は「a橋」を台風襲来時に人為的に損壊落下せしめておいて
右台風災害により落橋したものの如く装つて公共土木施設災害復旧事業費国庫負担
法に基く国庫負担金を騙取することを共謀の上、昭和二九年九月一四日台風一二号
が本土に接近上陸し旧b村地域においても激しい風面に襲われた際右「a橋」及び
同橋台を人為的に損壊した上同日午前九時頃被告人Aにおいて右「a橋」附近にお
いて愛媛県丹原土木事務所長Dに対し口頭を以て前示「a橋」は台風一二号による
通称e川の増水と同橋東岸山際の灌漑用水路の氾濫により同橋石積橋台が洗い流さ
れ崩壊した為落下した旨虚偽の災害報告を為し、同人をしてその旨誤信させて愛媛
県知事に対しその旨申達させ、同県知事を経由して建設大臣に対し情を知らない前
記丹原土木事務所職員らをして所定の書類を作成させた上、手続の順序を前後し同
月二四日に災害復旧事業費国庫負担申請手続を同月二七日に災害報告をなし同年一
一月一六日頃前示現場等における災害査定(災害復旧事業費決定審査)の際、災害
査定官Eに対し情を知らない前記Dをして前示の趣旨の虚偽の説明をなさしめて同
人をその旨誤信させて同人をして災害復旧事業費を一八二万四、〇〇〇円と査定さ
せ、同年一二月二九日工事に着工、昭和三〇年三月一八日竣工の上、同月三一日こ
れが成効認定検査を得、情を知らない(三村合併後の)c町長Fをして別紙一覧表
のとおり愛媛県知事に対し国庫負担金の交付申請をさせ、支出負担行為担当官であ
る愛媛県土木部長並びに支出官である同県出納長をしてそれぞれ支出負担行為並び
に支出決議をさせ、因つて合計一二七万六、九一三円の公共土木施設災害復旧事業
費国庫負担法に基く国庫負担金をいずれもG銀行H支店I農業協同組合連合会を経
てc町農業協同組合のc町役場収入役J・名義の当座領金もに払込ませてこれを騙
取し
 たものである。
 (証拠の標目)
 一、 被告人Aの検察官に対する昭和三三年五月一五日附供述調書
 一、 被告人Bの検察官に対する供述調書
 一、 被告人Cの検察官に対する供述調書四通
 一、 c町長F作成の回答書
 一、 松山地方気象台長作成の回答書
 一、 司法警察員作成の実況見分調書
 の他原判決(証拠の標目)の部5に掲記した各証拠と同一であるからここにこれ
を引用する。
 (法令の適用)
 被告人三名の判示所為は刑法第二四六条第一項第六〇条に該当するので所定刑期
範囲内において被告人Aを懲役二年に同B同Cを各懲役一年に処し、情状刑の執行
を猶予するのを相当と認め同法第二五条を適用し被告人三名に対しいずれも本裁判
確定の日から三年間右刑の執行を猶予し原審及び当審の訴訟費用につき刑事訴訟法
第一八一条第一項本文第一八二条を適用して全部被告人三名の連帯負担とする。
 被告人三名に対する本件公訴事実中起訴状記載第一の公訴事実の要旨は
 被告人三名が予ねて台風来襲の際「a橋」を人為的に落下させ罹災を装い災害復
旧に名を籍り公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法に基く国庫負担金を騙取して
同橋を改修することを共謀し昭和二九年九月一三日偶々一二号台風が来襲したのを
奇貨とし右計画に基き被告人BにおいてK外五名の人夫を雇い同日午後一一時頃よ
り人力又はウインチ使用による同橋の破壊作業を行つたが、翌一四日払暁に至るも
破壊されなかつたため、村有財産たる同橋を害する目的を以てダイナマイトを使用
して同橋を破壊することを決意し、共謀の上同日午前七時頃被告人CにおいてK外
五名の人夫と共同して同橋東岸石積橋台下方三ケ所に鉄棒を以て穿孔し、各孔に岩
石破壊用ダイアマイト四本(日本火薬製造新桐一本四五瓦)宛を装填し雷管導火線
を使用し爆発させて同橋橋台及橋桁を破壊落下させ、以て往来妨害をなしたもので
ある。
 というにあるが、爆発物取締罰則違反の点については前記説示のとおり人の財産
を害する目的を有していなかつたものと認めるべきであるから刑事訴訟法第三三六
条によりこの点については被告人三名に対し無罪の言渡をなすべきところ、後記免
訴を言渡すべき往来妨害罪と一個の行為にして二個の罪名にふれるものとして起訴
されたものと認められるから特に主文において無罪の言渡をなさず、往来妨害の点
については同所為は刑法第一二四条第一項の二年以下の懲役又は一万円(罰金等臨
時措置法の適用の結果による)以下の罰金に該当する罪であるから右犯罪行為の終
つた日より三年の期間を経過することにより公訴の時効は完成するところ、記録に
よれば被告人等が右所為をなしてより約三年一〇月を経過した昭和三三年八月七日
に検察官から公訴の提起のあつたことが起訴状に明らかであるから右起訴当時には
既に時効が完成したものと言うべく刑事訴訟法第三三七条第四号により被告人等に
対し免訴の言渡をなすべきものとする。
 よつて主文の通り判決する。
 (裁判長裁判官 三野盛一 裁判官 伊東正七郎 裁判官 石井玄)
別紙一覧表
<記載内容は末尾1添付>

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