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平成21年4月15日判決言渡
平成20年(行ケ)第10300号審決取消請求事件
平成21年2月16日口頭弁論終結
判決
原告横浜ゴム株式会社
訴訟代理人弁理士斎下和彦
被告特許庁長官
指定代理人米山毅
同大河原裕
同小林和男
同紀本孝
主文
1特許庁が不服2006−27558号事件について平成20年6月2
3日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成10年5月28日,発明の名称を「繊維強化成形体」とする発
(。「」。明につき特許出願をした特願平10−146882号以下本願という
出願当初の請求項の数は16であった。甲6。)
原告は,平成17年12月26日付け手続補正書(甲7)による補正をした
が,平成18年10月16日,本願につき拒絶査定を受け,同年12月7日,
これに対する不服の審判を請求した(不服2006−27558号。)
原告は,平成18年12月28日付け手続補正書(甲8)により,明細書全
(。,文を対象とする補正をした同補正後の請求項の数は6であった請求項1は
同補正によっては変更されなかった。同補正後の明細書を図面とともに「本願
明細書」という。。)
特許庁は,平成20年6月23日「本件審判の請求は,成り立たない」,。
との審決(以下「審決」という)をし,その謄本は,同年7月8日,原告に。
送達された。
2特許請求の範囲
,(,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである以下
請求項1記載の発明を「本願発明」という。。)
「内管と外管との間に1層乃至複数層の補強層を配置したホースにおいて,
少なくとも1層の補強層を形成する繊維コードは(1)式にてnとmの関係が
1.05≧(n+m)/n≧1.00となる構造を有する脂肪族ポリケトン繊
維を含むコードからなり,該繊維コードは下記(2)式で表される撚り係数K
,,が150∼800の範囲にあり該繊維コードの強度が10g/d以上であり
かつ前記内管を構成するエラストマー組成物の100℃での50%モジュラス
が3.0MPa以上であるホースからなる繊維強化成形体。
(1)式−(CH−CH−CO)n−(R−CO)m−22
ここでRは炭素数が3以上のアルキレン基
(2)式K=T√D
ここでDはコードの総デニール数,
Tはコードの10cm当たりの上撚り数,Kは撚り係数」
3審決の理由
()別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,特開平6−31
00169号公報(甲1)記載の発明(以下「引用発明」という,及び特。)
開平4−228613号公報(甲2,特開平9−257161号公報(甲)
3,特開平8−127081号公報(甲4,特開平7−68659号公報))
(甲5)記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができた
から,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができ
ないとするものである。
()審決が,本願発明に進歩性がないとの結論を導く過程においてした,引2
用発明,本願発明と引用発明の一致点,相違点に関する認定,相違点4に関
する容易想到性の判断は,次のとおりである。
ア引用発明
「内管層と外面保護層との間に1層以上の繊維補強層を配置したホース
において,繊維補強層を形成する繊維コードは,ヘテロ環含有芳香族ポリ
マーからなる繊維を含むコードからなり,該繊維コードは1500デニー
ルに紡糸したPBO繊維原糸2本を合わせて20回/10cmの撚りをか
けてコードとしたものであり,該繊維の強度が25g/D以上であり,か
つ前記内管層をゴム等で構成したホース」。
イ本願発明と引用発明の一致点
「内管と外管との間に1層乃至複数層の補強層を配置したホースにおい
て,少なくとも1層の補強層を形成する繊維コードは,合成樹脂の繊維を
含むコードからなり,該繊維コードは所定の撚りが形成され,かつ前記内
管をエラストマー組成物で構成したホースからなる繊維強化成形体」で。
ある点。
ウ本願発明と引用発明の相違点
(ア)相違点1
繊維コードを構成する合成樹脂の繊維が,本願発明では「1)式に(
てnとmとの関係が1.05≧(n+m)/n≧1.00となる構造を
有する脂肪族ポリケトン繊維を含む」ものであるのに対し,引用発明で
,「」。はヘテロ環含有芳香族ポリマーからなる繊維を含むものである点
(イ)相違点2
(2)式で表される繊維コードの撚り係数Kが,本願発明では「15
0∼800の範囲」であるのに対し,引用発明ではかかる特定がなされ
ていない点。
(ウ)相違点3
繊維コードの強度が,本願発明では「10g/d以上」に特定されて
いるのに対し,引用発明ではかかる特定がなされていない点。
(エ)相違点4
内管を構成するエラストマー組成物の特性が,本願発明では「100
℃での50%モジュラスが3.0MPa以上」に特定されているのに対
し,引用発明ではかかる特定がなされていない点。
エ相違点4に関する容易想到性の判断
繊維補強層を有するホースの内管を構成するエラストマー組成物とし
て,100℃前後での50%モジュラスを3.0MPa程度以上のものと
することは,例えば特開平8−127081号公報(周知例2,甲4,以
下「甲4」という)に「請求項1】内面樹脂チューブと,その外周面上。【
に設けた内側ゴム層と,その外周面上に複数本の補強糸を引き揃えてスパ
イラル状に巻き付けた第1補強層と,その外周上に複数本の補強糸を引き
揃え前記第1補強層と逆方向にスパイラル状に巻き付けた第2補強層と,
その外周上に設けた外側ゴム層とで構成され,前記内側ゴム層は温度13
5℃における50%モジュラスMが20∼40のゴム材料から50kgf/cm2
なることを特徴とする冷媒用高圧ホース」と記載され,特開平7−68。
659号公報(周知例3,甲5,以下「甲5」という)に「請求項2】。【
前記内側ゴム層及び前記中間ゴム層が,それぞれ,135℃の温度におけ
る50%モジュラスが25∼40であるゴム材料にて形成されてkgf/cm2
いる・・車両用配管ホース」と記載されているように,当該技術分野に。
おいて,普通に採用される範囲のものと認められる(なお,上記周知例。
2(甲4)において「20∼40」を本願発明での単位に換算,kgf/cm2
すると「約2.0∼3.9MPa」となり,同様に,上記周知例3(甲,
5)において「25∼40」は「2.5∼3.9MPa」とな,kgf/cm2
り,いずれも「3.0MPa以上」と重複するものである)。
また,本願発明においては,脂肪族ポリケトン繊維のガラス転移温度が
低いことに起因する,高温使用時の繊維コードの引張り弾性率低下を補強
するために,相違点4に係る構成を採用したものであるが,その採用する
数値範囲は,上記のとおり耐圧性を求められるホースの繊維補強層に普通
に採用される程度のものであって,格別のものとは認められないから,補
強密度や繊維補強層の数を増加させることなく,ホースの耐圧等の特性を
向上させることを目的とする引用発明において,内管の素材に対し相違点
4に係る構成を採用することは,格別の困難性を伴うことなく適宜容易に
なし得る事項にすぎない。
そして,本願発明の全体構成により奏される効果も,引用発明及び上記
周知技術から予測し得る範囲内のものにすぎない。
第3取消事由に係る原告の主張
審決は,次に述べるとおり,相違点1ないし4の各相違点に関する容易想到
性の判断の誤り(取消事由1ないし4,顕著な作用効果を看過した誤り(取)
消事由5)があるから,違法として取り消されるべきである。
1相違点1に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由1)
審決が,相違点1に関し,引用発明の補強層を形成する繊維として甲2に開
示された繊維を採用して本願発明の相違点1に係る構成とすることは,当業者
が容易になし得るものであるとした判断は誤りである。その理由は,以下のと
おりである。
すなわち,甲2(特開平4−228613号公報)には,脂肪族ポリケトン
繊維をタイヤ,コンベヤーベルトのようなゴム製品の補強コードとして使用す
ることは記載されているが(0043,ホースの補強コードに使用するこ【】)
とは記載されていない。ホースの補強コードに対する要求特性は,甲2に記載
されたタイヤ,コンベヤーベルトの補強コードに対する要求特性と全く異なる
から,タイヤ,コンベヤーベルトに使用可能な補強コードがホースにも使用可
能であるとはいえない。
また,本願発明は,ホースの補強層に単に脂肪族ポリケトン繊維を含むコー
ドを使用したことだけではなく,相違点2及び相違点3で挙げられる撚り係数
及び強度が有機的に一体となってホースの補強コードの要求特性を満たすか
ら,撚り係数や強度等について何ら開示のない甲2は,脂肪族ポリケトン繊維
をホースの補強コードに使用することを示唆するものではない。
さらに,甲2(0055)に記載されている繊維の強度は,撚りを施す前【】
の原糸繊維の強度であり,撚りを施したコードの強度ではなく,コードの強度
は,撚り係数が大きいほど低下するから,原糸繊維の強度が記載されているだ
,。けではホースの補強コードの撚り係数及び強度を示唆しているとはいえない
ホースにおいては,強度のみならず柔軟性などの特性も重要であるから,単に
強度のみをもってホースへの素材の使用を論じることはできない。
2相違点2に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由2)
審決が,相違点2に関し,引用発明において,本願発明の相違点2に係る構
,。成とすることは当業者が容易になし得るものであるとした判断は誤りである
その理由は,以下のとおりである。
すなわち,審決が,引用発明の撚り係数Kを本願発明の(2)式に従って計
,,算すると約775となるとしたのは誤りであって1095となるはずであり
引用発明の撚り係数Kは本願発明の(2)式の数値範囲に含まれない。
また,審決は,ホースの補強コードの撚り係数Kを150ないし700の範
()囲にすることを開示する周知例1として甲3特開平9−257161号公報
を引用するが,甲3に記載された繊維コードは,ポリ−P−フェニレンベンズ
ビスオキサゾール繊維コードであって,本願発明の脂肪族ポリケトン繊維コー
ドとは素材が異なり,特性が全く異なる。
さらに,乙1(特開平2−11989号公報,乙2(特開平7−4204)
0号公報)に記載された繊維コードは,本願発明とは素材が異なり,素材が異
なる場合は,撚り係数が同じでも特性が異なるから,乙1,乙2により,本願
発明の繊維コードの撚り係数Kが周知であるということはできない。
3相違点3に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由3)
審決が,相違点3に関し,引用発明の繊維コードの強度の数値は本願発明に
おける繊維コードの強度の数値範囲に含まれるから,引用発明は相違点3に係
る構成を実質的に備えており,相違点3は実質的な相違点ではないとし,仮に
実質的な相違点であるとしても,引用発明において本願発明の相違点3に係る
構成とすることは当業者が容易になし得るものであるとした判断は誤りであ
る。その理由は,以下のとおりである。
すなわち,複数本の繊維束を撚り合わせて繊維コードを形成した場合,各繊
維束はコード軸方向に対して所定の撚り角度で傾斜した状態となり,繊維コー
ドの強度は各繊維が担う張力のコード軸方向に対する分力となるから,個々の
繊維の強度は,原糸繊維の強度よりも小さくなる。そのため「引用発明の繊,
維コードの強度は少なくとも25g/Dよりも高く,その数値は本願発明にお
ける繊維コードの強度の数値範囲に含まれる」との審決の判断は誤りである。
また,本願発明に定められた繊維コードの強度である10g/dは,脂肪族
ポリケトン繊維コードに本願発明に定められた撚り係数150ないし800の
撚りを与えたときに生ずる強度の低下を考慮して,強度の下限値を定めたもの
であり,引用発明に開示された繊維コードの強度とは全く意味が異なる。
さらに,乙2,乙3(特開平8−108492号公報)に記載された繊維コ
ードは,本願発明とは素材が異なるから,異種の繊維コードの強度が記載され
た乙2,乙3により,本願発明に定められた繊維コードの強度に想到すること
が容易であるとはいえない。
4相違点4に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由4)
審決は,相違点4に関し,繊維補強層を有するホースの内管を構成するエラ
ストマー組成物として,100℃前後での50%モジュラスを3.0MPa程
度以上のものとすることが周知であることを示すために,甲4(特開平8−1
27081号公報,周知例2)及び甲5(特開平7−68659号公報,周知
例3)を引用する。
しかし,甲4には,段落【0011【0012】において,従来の冷媒用】,
高圧ホースの内側ゴム層に使用されているゴム材料の135℃での50%モジ
ュラスMが10∼20(0.98∼1.96MPa)程度と低いこ50kgf/cm2
,【】【】,とが記載されているとともに段落0005ないし0008において
内側ゴム層と,複数本の補強糸を引き揃えてスパイラル状に巻き付けた第1補
強層と,複数本の補強糸を引き揃えて第1補強層とは逆方向にスパイラル状に
巻き付けた第2補強層と,外側ゴム層とを備えた冷媒用高圧ホースにおいて,
加硫時に第1補強層の補強糸が内側ゴム層に落ち込む,いわゆる「棚落ち」を
防止するとの課題を提起し,その課題の解決のために「内側ゴム層を,13,
5℃での50%モジュラスMが20∼40のゴム材料から構成す50kgf/cm2
る」ことが記載されている。つまり,甲4には,特別なスパイラル構造を有す
る補強層を設けるに当たって,内側ゴム層のゴム材料として,135℃での5
0%モジュラスMが10∼20程度の従来一般のゴム材料を用いる50kgf/cm2
と,加硫時に「棚落ち」が発生するから,それを防止するために,135℃で
の50%モジュラスMが20∼40のゴム材料を用いることが開示50kgf/cm2
されているのであって,内側ゴム層に135℃での50%モジュラスMが250
0∼40となるような高モジュラスのゴム材料を使用することが,補kgf/cm2
強層の構造如何を問わず一般的であることまで記載されているわけではない。
甲5も,甲4と同じように,内側ゴム層と,複数本の補強糸を引き揃えてス
パイラル状に巻き付けた第1補強層と,中間ゴム層と,複数本の補強糸を引き
揃えて第1補強層とは逆方向にスパイラル状に巻き付けた第2補強層と,外側
ゴム層とを備えた特殊な構造を有する車両用配管ホースに関するものであり,
段落【0005【0006】において,内側ゴム層に135℃での50%モ】,
ジュラスMが15∼24(1.47∼2.35MPa)程度の従50kgf/cm2
来一般のゴム材料を用いると,加硫時に補強層の補強糸が棚落ちしたり,高温
雰囲気下で補強糸間の隙間が広がるという問題があるので,内側ゴム層に13
5℃での50%モジュラスMが25∼40のゴム材料を使用するこ50kgf/cm2
とが記載されている。したがって,甲5は,補強構造の如何を問わない一般的
なホースの内側ゴム層に135℃での50%モジュラスMが25∼4050
のゴム材料を使用することが記載されているわけではない。kgf/cm2
これに対し,本願発明は,補強層に脂肪族ポリケトン繊維コードを使用する
場合,脂肪族ポリケトン繊維コードのガラス転移温度が低いため,ホース温度
の上昇に伴って引張弾性率が低下するという別個の課題を解決するために,高
モジュラス(ホースの内管を構成するエラストマー組成物の100℃での50
.)。%モジュラスを30MPa以上を使用するとの構成を採用したものである
したがって,本願発明において内管に高モジュラスのエラストマー組成物を
使うことと,甲4や甲5において内側ゴム層に高モジュラスのゴム材料を使う
こととは,その解決課題が異なるから,相違点4に係る構成は甲4や甲5から
当業者が容易に想到し得るものではない。
5顕著な作用効果を看過した誤り(取消事由5)
審決には,本願発明の顕著な作用効果を看過した誤りがある。
すなわち,本願発明は,出願当時ホースに採用されていなかった高強度かつ
高弾性率を呈する脂肪族ポリケトン繊維コードをホースの補強層へ初めて適用
するに当たり,特定の分子骨格を有する脂肪族ポリケトン繊維について撚り係
数と強度とを特定した繊維コードを用い,かつ内管を構成するエラストマー組
成物の100℃での50%モジュラスを規定することにより,脂肪族ポリケト
ン繊維の高強度かつ高弾性率の特性を最大限に活かして,軽量で耐久性に優れ
た構造を見出したものであり,本願発明の作用効果は,引用発明及び甲2ない
し甲5記載の周知技術から予測し得る範囲内のものではない。審決には,この
ような本願発明の顕著な作用効果を看過した誤りがある。
第4被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1相違点1に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由1)に対し
,,,,甲2においてタイヤコンベヤーベルトは単なる例示にすぎず甲2には
脂肪族ポリケトン繊維がゴム製品の強化糸の用途に広く適用できることが記載
されている。ホースの補強層もゴム製品の強化糸としての用途の一つであるか
ら,甲2記載の脂肪族ポリケトン繊維コードをホースの補強層に使用すること
に阻害事由はない。
また,引用発明は,補強密度や繊維補強層の数を増加させることなくホース
の耐圧等の特性を向上させることを目的としているから,繊維補強層として優
,,れた特性を有する繊維を採用することには十分な動機付けが存在し甲2には
ゴム製品の補強層に適した強度の高い繊維が記載されているから,甲2に撚り
係数及び強度の数値限定が記載されていないとしても,引用発明の補強層を形
,。成する繊維として甲2に記載された繊維を採用することは容易に想到し得る
2相違点2に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由2)に対し
ホースの補強用の繊維コードの技術分野において,繊維コードの素材の如何
にかかわらず,繊維コードの撚り係数Kとして150ないし800の範囲を含
むものを採用することは,甲3に限らず乙1,乙2にも開示されている周知技
術であり,引用発明において,繊維コードの収束性や接着性,引張強度や引張
弾性率等を考慮することにより,繊維コードの撚り係数Kとして150ないし
800の範囲を採用することは,当事者が適宜選択し得る事項である。
3相違点3に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由3)に対し
本願発明が繊維コードの強度を定めている趣旨は,高強度のコードを用いる
ことにある。繊維コードに高強度の特性が求められることは,素材によらず周
知の課題であり,どの程度の強度を設定するかは,当業者が適宜選択すべき事
項である上,ホースの補強用の繊維コードの技術分野において,繊維コードの
素材の如何にかかわらず,繊維コードの強度を10g/d以上とすることは,
乙2,乙3にも開示されている周知技術である。
4相違点4に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由4)に対し
()原告は,甲4には,特別なスパイラル構造を有する補強層を設けるに当1
たって,内側ゴム層のゴム材料として,従来一般のゴム材料を用いると,加
硫時に「棚落ち」が発生するから,それを防止するために,135℃での50
%モジュラスMが20∼40のゴム材料を用いることが開示され50kgf/cm2
ているにすぎず,内側ゴム層に135℃での50%モジュラスMが20∼50
40となるような高モジュラスのゴム材料を使用することが,補強kgf/cm2
層の構造如何を問わず一般的であることまで記載されているわけではない旨
主張し,甲5にも,補強構造の如何を問わない一般的なホースの内側ゴム層
に135℃での50%モジュラスMが25∼40のゴム材料を使50kgf/cm2
用することが記載されているわけではない旨主張する。
しかし,甲1の【0010】の「本発明において繊維補強層は,上記繊維
を紡織して作製するものであり,繊維補強層の構造例としては,ブレード編
みによるブレード構造又はスパイラル編みによるスパイラル構造が挙げられ
る」との記載及び甲3の【0020】の「また,補強コ−ドから形成され。
る補強層は,ブレ−ド状に構成してもスパイラル状に構成されても良く,図
1はブレ−ド構造で示してある。また,PBO繊維コ−ドからなる補強層は
図1では1層の例を示してあるが,複数層であっても良い。また複数層の場
。」,合に各層間に中間ゴム層を配置しても良いとの記載から明らかなように
補強層の構造としてブレード構造とスパイラル構造があることはよく知られ
た事項であり,スパイラル構造自体は補強層の構造として「特別な」構造で
はなく,また,補強層を複数層設けることも,必要に応じて中間ゴム層を設
,,。けることも普通に用いられている構造でありなんら特殊な構造ではない
したがって,甲4及び甲5に開示された技術は,補強層がスパイラル構造と
いう「特定の」構造であることを前提としたものではあるが,補強層として
「特別な」又は「特殊な」構造を前提としたものではないから,甲4及び甲
5は,ホースの内管を構成するエラストマー組成物の特性(モジュラス)と
して採用される数値範囲の例を示すものとして参照価値を有するものであ
る。したがって,繊維補強層の素材の如何を問わず,ホースの耐久性及び耐
圧性を考慮して,補強層を有するホースの内管を構成するエラストマー組成
物の100℃前後での50%モジュラスを30MPa程度以上とすること.
は,甲4及び甲5に開示されているように,普通に採用される範囲のものに
すぎない。
しかも,本願発明においては,内管を構成するエラストマー組成物の10
0℃での50%モジュラスの数値限定は,下限値を特定しただけであり,上
限値に関しては何らの規定がないところ,ホースの技術分野における一般的
な課題である耐久性,耐圧性を考慮した場合には,内管を構成するエラスト
マー組成物のモジュラスが高い方が望ましいことは技術常識であり,その下
限値をどの程度にするかは,当業者が必要に応じて適宜選択すべき事項であ
る。したがって,補強密度や繊維補強層の数を増加させることなくホースの
耐圧等の特性を向上させることを目的とする引用発明において,内管を構成
するエラストマー組成物のモジュラスの下限値をどの程度にするかは,当業
者が必要に応じて適宜選択すべき事項であり,上記のとおりごくありふれた
数値範囲である100℃前後での50%モジュラス30MPa程度以上の.
数値範囲を採用し,相違点4に係る本願発明の構成とすることは,当業者に
とって容易に想到し得る。
()また,原告は,本願発明において内管に高モジュラスのエラストマー組2
成物を使うことと,甲4や甲5において内側ゴム層に高モジュラスのゴム材
料を使うこととは,その解決課題が異なるから,相違点4に係る構成は甲4
や甲5から当業者が容易に想到し得るものではないと主張する。
しかし,本願発明において内管を構成するエラストマー組成物の100℃
での50%モジュラスを3.0MPa以上とすることの技術的意義は,本願
明細書の【0021】に「ホースにおいて内管を構成するエラストマー組成
物の100℃での50%モジュラスが3.0MPa未満の場合,高温使用時
の該繊維コードの引張り弾性率低下によるホース寸法成長がより増大し耐久
性が低下してしまう」と記載されているように,ホースの耐久性の向上に。
あり,この限りにおいて,本願発明と甲4,甲5記載の技術事項とは課題を
共通にするものといえる。
なお,ホースの耐久性及び耐圧性を考慮して,ホースの内管を構成するエ
ラストマー組成物の100℃前後での50%モジュラスを30MPa程度.
以上とすることは,補強層の素材の如何にかかわらず,普通に採用される数
値範囲の選択であるから,補強層としてガラス転移温度が低い脂肪族ポリケ
トン繊維を用いた場合においても,この数値範囲を採用すればホースの耐久
性及び耐圧性を向上できるという効果を奏することは,当業者であれば容易
に予測し得る程度のものである。
そうすると,相違点4に係る構成は,甲4,甲5から当業者が容易に想到
し得るものである。
5顕著な作用効果を看過した誤り(取消事由5)に対し
本願発明において繊維コードの撚り係数Kを150∼800の範囲としたの
は,繊維コードの収束性や接着性,引張強度や引張弾性率等を考慮した上での
ことであるところ,そのような繊維コードの特性等を考慮して撚り係数を選択
することは,甲3,乙1,乙2に開示されており周知である。また,本願発明
において繊維コードの強度を10g/d以上とすることの技術的意義は,高強
度のコードを用いる点にあるところ,高強度のコードを用いること及び10g
/d以上とすることは,乙2及び乙3に開示されており周知である。さらに,
本願発明において内管を構成するエラストマー組成物の100℃での50%モ
ジュラスを3.0MPa以上とすることの技術的意義は,ホースの耐久性の向
上にあるところ,ホースの耐久性を考慮して補強層を有するホースの内管を構
成するエラストマー組成物の100℃前後での50%モジュラスを3.0MP
,。,a程度以上とすることは甲4及び甲5に開示されており周知であるそして
「軽量で耐久性に優れたホースからなる繊維強化成形体を提供する(本願明」
細書【0011)という本願発明の作用効果は,甲1ないし甲5及び乙1な】
いし乙3に開示された技術から予測し得る範囲内のものである。
第5当裁判所の判断
1相違点4に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由4)について
当裁判所は,引用発明及び甲4(周知例2,甲5(周知例3)記載の周知)
技術に基づいて相違点4に係る構成を採用することは当業者が容易になし得る
ものであるとした審決には,誤りがあると判断する。その理由は,以下のとお
りである。
()本願発明について1
ア本願明細書の記載
本願発明の構成は,前記第2,2のとおりであり,本願明細書の発明の
詳細な説明には,以下のとおりの記載がある(甲8。)
「0001【発明の属する技術分野】本発明は,脂肪族ポリケトン繊維【】
を補強コードに用いたホース及びコンベヤベルトからなる繊維強化成形体
に関し,更に詳しくは,脂肪族ポリケトン繊維の分子骨格とコード物性を
特定することにより,軽量な脂肪族ポリケトン繊維を有効利用しながら各
種の繊維強化成形体として優れた特性を発現することを可能にした繊維強
化成形体に関する。
【0002【従来の技術】自動車用ゴムホ−ス,建設機械用ホ−ス,航】
空機用油圧ホ−ス,マリーンホース等の加圧流体用ホ−スは,アクリロニ
トリルブタジエンゴム(NBR,クロロプレンゴム(CR,水素化NB))
R,天然ゴム,SBRゴム等の単独或いはブレンドからなるチュ−ブゴム
より構成される内管と,CR,クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CS
M,塩素化ポリエチレンゴム(CPE,天然ゴム,SBRゴム等の単独))
或いはブレンドからなるカバ−ゴムより構成される外層との間に補強コ−
ドをブレ−ド状やスパイラル状に形成した補強層を配置した構成となって
いる。
【0003】従来,このような補強コ−ドとしてレーヨン繊維,ナイロン
繊維,ポリエステル繊維等の有機繊維が用いられている。しかし,より高
い圧力下で用いられるホ−スの場合には,これら有機繊維では十分な強度
が得られないために多数の補強層を配置する結果,ホースの重量が増大す
るという問題や積層枚数が多いために生産性が悪いという問題がある。補
強層の枚数削減にはスチ−ルワイヤを用いる方法もある。スチールワイヤ
を用いることで積層枚数の削減は図れるが,スチ−ルワイヤはその比重が
大きく,重量低減効果が小さいという欠点がある。また,水分や腐食性ガ
スによって腐食が発生し,ホ−スの寿命が大幅に低下するという欠点があ
る。
【0004】このような問題を解決する補強層としては,強度・弾性率に
優れるアラミド繊維の利用が考えられる。しかしながら,アラミド繊維は
ゴムとの接着性が低いという欠点がある。特に上述のようにホースはその
耐油性や耐熱性の要求から接着がより困難なエラストマー組成物から構成
されており,アラミド繊維の低接着性と相まって単にアラミド繊維を用い
て高い破壊圧力と耐久性を有するホースを製造することは困難である。ま
た,アラミド繊維は耐磨耗性が低く,特にホース補強層としてブレード構
造(編み上げ)にした場合にフィブリル化し易くホースの耐久性低下の原
因となりやすい。また,アラミド繊維は圧縮特性に劣りホースに金具を装
着した時に金具の締め率が高いとコード切断を起こしやすいという欠点が
ある。
【0005】そのため,ホースの補強コードとして強度・弾性率や経済性
に優れる新たな素材の開発が要望されていた・・・」。
「0009】近年,特開平1−124617号公報,特開平2−112【
413号公報,米国特許第5194210号公報,特開平9−32437
7号公報で開示された脂肪族ポリケトン繊維は高強度で高モジュラスな特
性を有し,更にゴムとの接着性も良好であり,また,その原料も一酸化炭
素とオレフィンを用いるために安価であるためゴム補強用コードとしての
可能性が指摘されている。
【0010】しかしながら,上記脂肪族ポリケトン繊維をホース及びコン
ベヤベルトからなる繊維強化成形体に適用するに当たって,その特性を有
効に発揮するための具体的な技術は全く開示されていない。
【0011【発明が解決しようとする課題】本発明の第1目的は,軽量】
で耐久性に優れたホ−スからなる繊維強化成形体を提供することにある。
・・・」
「0013】【
(1)式−(CH−CH−CO)n−(R−CO)m−22
ここでRは炭素数が3以上のアルキレン基
(2)式K=T√D
ここでDはコードの総デニール数,
Tはコードの10cm当たりの上撚り数,Kは撚り係数
本発明者は,新規な脂肪族ポリケトン繊維が持つ高強度,高弾性率とい
,。,う特性に着目しこれをホースの補強層へ適用すべく検討したその結果
特定の分子骨格を有する脂肪族ポリケトン繊維がホース性能を高度にバラ
ンス可能であること,また該繊維を被覆するゴムの特性を適正化すること
によって更に優れた耐久性のあるホース性能を発現可能であることを見出
し本発明をなすに至ったのである」。
「0016【発明の実施の形態】以下,本発明の構成について添付の図【】
面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態からなるホースを例示するものである。図1に
おいて,ホ−ス5はチュ−ブゴムからなる内管1の外周上に補強層2が形
成され,更にその外周上に中間ゴム層4が配置され,更にその外周上に最
外補強層2が形成され,更にその外周上に最外層としてカバーゴムからな
る外管3が配置されている。ここで,図1の補強層はブレード構造で示し
てあるが,補強層はブレ−ド状に構成してもスパイラル状に構成されても
良い。また,図1では補強層が2層の例を示してあるが,1層でも3層以
上であっても良い。また複数層の場合に各層間に中間ゴム層を配置しても
良い。
【0017】そして,本発明では,上述したようなホースにおいて少なく
とも1層の補強層2を形成する繊維コードが(1)式で表される構造を有
し,nとmの関係が1.05≧(n+m)/n≧1.00である脂肪族ポ
リケトン繊維を少なくとも含むコードからなっている。
(1)式−(CH−CH−CO)n−(R−CO)m−22
ここでRは炭素数が3以上のアルキレン基
ここで用いる脂肪族ポリケトン繊維は特開平1−124617号公報,
特開平2−112413号公報,米国特許第5194210号公報,特開
平9−324377号公報などで開示された溶融紡糸や湿式紡糸によって
得ることができるが,上記(1)式で表される構造において,nとmの関
係が1.05≧(n+m)/n≧1.00である脂肪族ポリケトン繊維を
用いることが本発明においては必須である。
【0018】ここでmの分率(エチレン以外のアルキレンユニット)が増
えると,該繊維の引張り強度が低下し,該繊維からなるコードの強度も低
下するため,軽量性や経済性が低下する。更に,このような繊維をホース
に用いた場合にホース使用時の外径成長が大きくなり,また耐久性も低下
する。これは,紡糸繊維の結晶構造が,mユニットの増加により変化し分
子鎖間の二次結合力が低下するためと考えられる。ここでより好ましくは
m=0である実質的にエチレンと一酸化炭素だけからなる交互共重合ポリ
マーを用いるのが良い。このような繊維を製造するには湿式紡糸を用いる
のが好適である。
【0019】更に,本発明のホースに用いるコードとしては,ホース中で
の該繊維コードの引張強度が10g/d以上である繊維コードを用いるこ
とが必要である。このコードの引張り強度が10g/d未満であるとコー
ドの太さを太くしたり補強層の枚数を増やす必要があるために軽量化が達
成できない。また,コードが太くなり過ぎると特にブレード構造の場合に
繊維コードの編み組み交差部でコードの屈曲が大きくなり耐久性が低下す
る。
【0020】ここで,内管1,外管3及び中間ゴム層4に用いられるエラ
,,,,ストマ−組成物としては特に限定されるものではないがNBRCR
水素化NBR,CSM,NR,SBR等が単独或いはブレンド物として用
いられる。また,熱可塑性エラストマ−や樹脂であっても良い。
更に,本発明においては,ホースにおいて内管を構成するエラストマー
組成物の100℃での50%モジュラスは3.0MPa以上とする。これ
は,本発明で用いる脂肪族ポリケトン繊維はガラス転移温度が低く,常温
域からの温度上昇に伴って引張り弾性率が低下してくる知見に基づくもの
である。また,該繊維はより高温域で圧縮特性の低下やクリープ性が増大
してくるという知見に基づくものである。これら現象が生じるのは,10
0℃強の温度域で該繊維の結晶構造の転移が起こり分子鎖間の二次結合力
が低下するからであると考えられる。
【0021】ホースにおいて内管を構成するエラストマー組成物の100
℃での50%モジュラスが3.0MPa未満の場合,高温使用時の該繊維
コードの引張り弾性率低下によるホース寸法成長がより増大し耐久性が低
下してしまう。但し,エラストマー組成物の100℃での50%モジュラ
スはJIS(1995年度版)のK6301に記載の加硫ゴム物理試験方
法の引張試験に従って測定したものである」。
イ本願発明の技術的意義等
本願発明の構成(前記第2,2)及び前記アの本願明細書の発明の詳細
な説明の記載に照らすと,本願発明において100℃での50%モジュラ
スが3.0MPa以上に特定されたことの意義は,以下のとおり認められ
る。
すなわち,従前は,補強コードとしてレーヨン繊維,ナイロン繊維など
を用いて補強層を配置したホースが知られていたところ,高い圧力下で用
いられるホースの場合は,これら有機繊維では十分な強度が得られないた
め多数の補強層を配置する結果,ホースの重量が増大するという問題があ
り,その解決策として強度・弾性に優れるアラミド繊維の利用が考えられ
たが,アラミド繊維はゴムとの接着性が低く,また耐摩耗性も低いので,
高い破壊圧力と耐久性を有するホースを製造することが困難であるという
欠点があり,そのため,ホースの補強コードとして強度・弾性率や経済性
に優れる新たな素材の開発が要望されていた(0003】ないし【00【
05】など。)
本願発明は,脂肪族ポリケトン繊維が高強度で高モジュラスな特性を有
し,更にゴムとの接着性も良好で安価であるという点に着目し,これをホ
ースの繊維強化成形体に適用して上記要望に対応しようとするものである
が,その適用に当たって脂肪族ポリケトン繊維の特性を有効に発揮するた
めの具体的な技術が従前全く開示されていなかったので,その特性を発揮
するためにホースがもつべき種々の条件,具体的には脂肪族ポリケトン繊
維中のエチレンケトンの割合,繊維コードの撚り係数,強度および内管を
構成するエラストマー組成物の100℃での50%モジュラスの各値を定
めたものである(0009】ないし【0011】など。【)
そして,脂肪族ポリケトン繊維はガラス転移温度が低く,常温域からの
温度上昇に伴って引っ張り強度が低下してくるという知見及び高温域で圧
縮特性が低下しクリープ性が増大してくるという知見に基づき,高温使用
時の引張り弾性率低下によりホース寸法成長が増大し耐久性が低下するこ
とを防止する効果を得るため,内管を構成するエラストマー組成物の10
0℃での50%モジュラスを,3.0MPa以上と規定した。
()引用発明について2
ア甲1の記載
甲1記載の引用発明の構成は,前記第2,3()アのとおりであり,甲2
1の発明の詳細な説明には,以下のとおりの記載がある。
「0001【産業上の利用分野】本発明は,繊維補強層を備えたホース【】
に関し,更に詳しくは,加圧流体用ホースなどに好適なホースに関する。
【0002【従来の技術】従来,加圧流体用ホースなどに用いられるホ】
ースは,数多く案出されており,例えば,ゴムなどの弾性体からなる内管
層と外面保護層と,それらの間に形成されてホースを補強する繊維補強層
とからなる三層構造のホースが知られている。
【0003】繊維補強層には,組立物に良好な機械特性と移送流体の圧力
に対する耐圧を付与するように天然繊維あるいは合成繊維を用いている。
,,,また移送流体の圧力が更に高いものになると耐圧性を付与するために
繊維補強層は更に高密度の紡織繊維を編込んだり,中間保護層を介在させ
て繊維補強層を増大させなければならない。繊維補強層を増加させること
,,,,,はホースの寸法重量製造コストを増大させる問題点を有ししかも
曲げ半径などの性能の低下,取付スペースの拡大を招くなどの不都合を生
じせしめることとなる。
【0004】この問題点及び不都合を若干でも解消するものとしては,例
えば,繊維補強層に用いる繊維に引張強度の高い繊維材料,例えば,アラ
ミド繊維,及び/又は優れた弾性率を有する炭素繊維などを用いてなるホ
ース(特開平2−256989号公報,特開平3−194280号公報)
も知られているが,未だ不十分なものである。
【0005【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,上記従来】
の問題点及び不都合を解決するものであり,補強密度,繊維補強層の数を
,,増加させることなくホースの内径寸法を維持したままホースの外径寸法
ホースの重量,製造コストを低減せしめ,しかも,曲げ半径などの性能の
向上,取付スペースの縮小を図ることができるホースを提供するものであ
り,更に,耐圧性,耐熱性,難燃性を向上させたホースを提供することに
ある。
【0006【課題を解決するための手段】本発明者らは,上記従来の問】
題点及び不都合を解決するために鋭意検討した結果,繊維補強層を特定の
繊維から構成することにより上記目的のホースを得ることに成功し,本発
明を完成するに至ったのである。
【0007】すなわち,本発明は,
(1)内管層と,一層以上の繊維補強層と,外面保護層とを有するホース
において,前記繊維補強層をヘテロ環含有芳香族ポリマーからなる繊維で
構成してなるホースである・・・」。
「0008】以下,本発明の内容を説明する。本発明のホースは,内管【
層と,一層以上の繊維補強層と,外面保護層とを有するホースにおいて,
前記繊維補強層をヘテロ環含有芳香族ポリマーからなる繊維で構成してな
るものである。ヘテロ環含有芳香族ポリマーからなる繊維としては,例え
ば,ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(以下,PBO繊維
という)又はポリパラフェニレンベンゾビスチアゾール繊維(以下,PB
T繊維という)が挙げられる。これらの繊維は,炭素繊維の弾性率とアラ
ミド繊維の強度およびハンドリングの容易さを合わせもつ繊維であり,上
,,,,記従来の炭素繊維アラミド繊維などの有機繊維よりもさらに高強度
,,。,,低伸度耐熱性難燃性に優れた繊維であるすなわちこれらの繊維は
強度が25g/D以上であり,伸度が3.0%以下であり,分解温度が6
JISK00℃以上であり弾性率が1000g/D以上であり酸素指数,,(
により定義され,測定されるものであり,O.I.とも称される)7201
は40以上である。
【0009】本発明は,上記の特性を有する繊維を用いるものであるが,
これらの繊維のうちPBO繊維を用いることが好ましく,さらに,下記一
般式(I)
【化1】
で表されるシス構造のPBO繊維を用いることが好ましい。シス構造のP
BO繊維は,強度が38g/Dであり,伸度が1.8%であり,分解温度
が630℃であり,弾性率が2100g/Dであり,酸素指数は55であ
る」。
「0026【発明の効果】本発明のホースは,従来の炭素繊維,アラミ【】
ド繊維などの有機繊維よりも,さらに,高強度,低伸度,耐熱性,難燃性
に優れた繊維から構成される繊維補強層を備えたものであるので,補強密
度,繊維補強層の数を増加させることなく,ホースの内径寸法を維持した
まま外径寸法,ホースの重量,製造コストを低減せしめ,しかも,曲げ半
径などの性能の向上,取付スペースの縮小を図ることができ,更に,従来
,,。,のホースよりも耐圧性耐熱性難燃性を向上させることができる特に
繊維補強層は,従来にない低伸度(3%以下)の繊維により構成されるの
で,圧力伝達,応答速度が速いホースが達成でき,しかも,従来にない耐
熱性(分解温度600℃以上)の繊維により構成されるのでホース製造に
おける加硫温度を従来よりもアップすることができるので,生産性の向上
をもたらすことができる。また,ホースの仕様,圧力によっては,従来,
ブレード編み構造でしか構成できなかったものが,スパイラル編み構造に
変更することができ,よって生産性が格段に向上し,トータルコストを低
下させることができる」。
イ引用発明の解決課題等
甲1記載の引用発明の構成(前記第2,3()ア)及び前記アの甲1の2
発明の詳細な説明の記載に照らすと,引用発明の課題,作用効果等は,以
下のとおり認められる。
すなわち,引用発明は,加圧流体用ホースなどに好適なホースに関する
,,,,,ものでありホースの外形寸法重量製造コストを低減せしめ耐圧性
耐熱性,難燃性等を向上させたホースを,繊維補強層をヘテロ環含有芳香
族ポリマーからなる繊維で構成することにより得るものである(000【
1【0005【0007】など。】,】,)
このヘテロ環含有芳香族ポリマーからなる繊維は,強度が25g/D以
上,伸度が3.0%以下,分解温度が600℃以上,弾性率が1000g
/D以上等の特性を有するもので,高強度,低伸度,耐熱性,難燃性に優
れた繊維である(0008【0009。【】,】)
このため,従来のホースよりも耐圧性,耐熱性,難燃性を向上させるこ
とができ,特に,繊維補強層は,従来にない低伸度の繊維により構成され
,,,,るので圧力伝達応答速度が速いホースを製作することができしかも
従来にない耐熱性の繊維により構成されるので,ホース製造における加硫
温度を従来よりもアップすることができ,生産性の向上をもたらすことが
できる等の作用効果を奏する(0026。【】)
()甲4,甲5記載の周知技術3
ア甲4について
(ア)甲4の記載
甲4には,以下のとおりの記載がある。
「0001【産業上の利用分野】本発明は,自動車配管用のフレオン【】
ホース等として使用される冷媒用高圧ホース,特に補強層をスパイラル
状に巻き付けた冷媒用高圧ホースに関する」。
「0004】低圧ホースでは,補強層の編組密度が45%未満と非常【
に低く,使用圧力も低いので,2つの補強層は直接積層されることが多
い。一方,高圧ホースにおいては,補強層の編組密度は約70∼90%
と高く,2つの補強層の結合性を高め,相互の摩耗を防止して耐久性を
高めるために,それらの間に中間ゴム層を介在させることが必須となっ
ている。
【0005】かかる高圧ホースとしては,冷媒用のフレオンホース等が
知られており,その構造は図2に示すように,冷媒に対して安定なポリ
アミド等の合成樹脂からなる内面樹脂チューブ1と,その外周面上に設
けた内側ゴム層2と,その外周面上に複数本の補強糸を引き揃えてスパ
イラル状に巻き付けた第1補強層3と,その外周上に設けた中間ゴム層
4と,外周面上に複数本の補強糸を引き揃え第1補強層3と逆方向にス
パイラル状に巻き付けた第2補強層5と,その外周上に設けた外側ゴム
層6とで構成されている。
【0006】しかし,2つの補強層の間に中間ゴム層が介在すると,図
3に示すように,加硫時の内側ゴム層2の膨張と補強糸3aの収縮によ
って,内側ゴム層2のゴムが第1補強層3の補強糸3aの間から噴き出
して中間ゴム層4に流れ込むため,第1補強層3の補強糸3aが内側ゴ
ム層2の方向に落ち込む,いわゆる棚落ちが生じやすい。この棚落ちに
より補強糸3aの編組が乱れると,その箇所の耐圧性が低下し,そこか
ら破裂することになる。
【0007】棚落ちをなくすために中間ゴム層をなくすことも考えられ
たが,中間ゴム層がなくなると,2つの補強層の結合性が低下して層間
で分離が生じたり,あるは直接積層された2つの補強層がこすれ合うこ
とで摩耗し,結果的に耐久性の低下を招く恐れがあるため,特に冷媒用
高圧ホースでは実用化されていなかった。
【0008【発明が解決しようとする課題】本発明は,かかる従来の】
事情に鑑み,スパイラル巻きした2つの補強層の間の中間ゴム層をなく
した簡単な構造を持ちながら,補強糸の棚落ちがなく,従来の中間ゴム
層と同等の耐圧性及び耐久性を備えた冷媒用高圧ホースを提供すること
を目的とする。
【0009【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため,】
本発明の冷媒用高圧ホースにおいては,内面樹脂チューブと,その外周
面上に設けた内側ゴム層と,その外周面上に複数本の補強糸を引き揃え
てスパイラル状に巻き付けた第1補強層と,その外周上に複数本の補強
糸を引き揃え前記第1補強層と逆方向にスパイラル状に巻き付けた第2
補強層と,その外周上に設けた外側ゴム層とで構成され,前記内側ゴム

層は温度135℃における50%モジュラスMが20∼4050kgf/cm
のゴム材料からなることを特徴とする。
【0010【作用】本発明においては,スパイラル状に巻き付けた2】
つの補強層の間の中間ゴム層をなくすことで,構造を簡単にして低コス
ト化を達成すると同時に,内側ゴム層として50%モジュラスの高いゴ
ム材料を採用することにより,中間ゴム層がなくても優れた耐久性及び
耐圧性が得られるという,予測だにしない結果が得られたものである。
【0011】従来の冷媒用高圧ホースでは,特定フロン冷媒規制への対
策として代替冷媒への切り替えが進んでおり,カーエアコン用等として
はHFC−134aの使用が一般化している。そして,このHFC−1
34aが吸湿性の高いものであるため,これを流通させる内側ゴム層の
,()。材料として耐透湿性に優れるブチルゴムIIRが使用されている
【0012】しかし,IIRは一般的に高温モジュラスが低く,具体的

には温度135℃における50%モジュラスMが10∼2050kgf/cm
程度と低いため,加硫時にIIRからなる内側ゴム層が流れやすく,棚
落ちの大きな原因になっていたと考えられる。
【0013】これに対して本発明においては,内側ゴム層のゴム材料と

して温度135℃における50%モジュラスMが20∼4050kgf/cm
のものを使用しているため,加硫時に内側ゴム層が流れにくく,棚落ち
が効果的に抑えられる」。
(イ)甲4記載の技術の解決課題等
前記(ア)の記載に照らすと,甲4に記載された技術の課題,作用効果
は,以下のとおり認められる。
すなわち,甲4に記載された技術は,補強層をスパイラル状に巻き付
けた冷媒用高圧ホースに関するものであり,従来の冷媒用高圧ホースで
は内側ゴム層としてブチルゴムIIRが使用されていたところ0,()(【
011,ブチルゴムは,一般的に高温モジュラスが低く,具体的には】)
温度135℃における50%モジュラスMが10∼20程度50kgf/cm2
と低いため(0012,加硫時の内側ゴム層の膨張と補強糸の収縮【】)
によって,内側ゴム層のゴムが第1補強層の補強糸の間から噴き出して
中間ゴム層に流れ込むため,第1補強層の補強糸が内側ゴム層の方向に
落ち込む,いわゆる棚落ちが発生しやすく,耐圧性が低下して破裂する
という問題点があった(0006】ないし【0008。甲4に記載【】)
された技術は,この問題を解消するものであり,内側ゴム層のゴム材料
(エラストマー組成物)として温度135℃における50%モジュラス
Mが20∼40という,従来のゴムと異なる材料を使用する50kgf/cm2
ことにより,加硫時に内側ゴム層が流れにくいようにして,棚落ちを効
果的に抑えるものである(0009【0013。【】,】)
イ甲5について
(ア)甲5の記載
甲5には,以下のとおりの記載がある。
「0001【技術分野】本発明は,車両用配管ホースに係り,特に,【】
ホースの耐圧性と耐久性を高めるために,複数本の補強糸を用いて形成
した補強層がゴム層上に積層された構造の車両用配管ホースに関するも
のである」。
「0005】さらに,スパイラル編組構造の補強層では,補強糸の糸【
間が広いと,内圧により糸間が更に広がって,耐圧性,耐久性が低下す
る問題がある。一方,耐圧性を高めるために,補強糸の糸間を狭めて,
密度を上げると,ホース加硫時に内側ゴム層の膨張と糸の収縮が生じた
,,際に糸間の隙間が広い部分にゴムの吹き出しが集中することによって
第一の補強層を形成する補強糸が部分的に内側ゴム層側に食い込む,所
謂「棚落ち」現象が生じてしまい,結果的に,そこから破裂する原因と
なる問題があった。
【0006】また,一方,近年においては,特定フロン冷媒規制への対
策として,代替冷媒への切替えが進んでおり,カーエアコン用等として
はHFC−134aが使用されると共に,冷凍機油としてはグリコール
系のものが使用されてきている。そして,それら冷媒及び冷凍機油の何
,,れもが吸湿性の高いものであるために冷媒系の車両用配管ホースでは
内側ゴム層,中間ゴム層を形成するゴム材料として,従来のNBRに替
,。えて耐透湿性に優れるブチルゴムが使用されるようになってきている
しかしながら,ブチルゴムは,一般的に高温モジュラスが低く,135
℃の温度における50%モジュラスが15∼24程度であるたkgf/cm2
めに,ブチルゴムを用いた車両用配管ホースでは,高温雰囲気下で,内
圧によって,補強層の糸間が徐々に広がり,破裂圧,耐繰り返し加圧性
が劣化する問題を有していた。
【0007【解決課題】本発明は,上述の如き事情を背景として為さ】
れたものであって,その解決課題とするところは,スパイラル編組構造
の補強層を有する車両用配管ホースにおいて,耐圧性,耐久性を高める
ことにあり,特に高温雰囲気下での耐繰り返し加圧性を改善することに
ある。
【0008【解決手段】そして,そのような課題を解決するために,】
本発明にあっては,内側ゴム層の外周面上に,複数本の補強糸を引き揃
えて一方向にスパイラル状に巻き付けることによって第一の補強層を形
成すると共に,該第一の補強層上に,中間ゴム層を介して,複数本の補
強糸を引き揃えて前記一方向とは逆の方向にスパイラル状に巻き付ける
,,ことによって第二の補強層を形成し更に該第二の補強層の外周面上に
ゴム又は樹脂からなる外側層を設けてなる車両用配管ホースにおいて,
前記第一の補強層が,3000∼5000デニールのポリエステルフィ
ラメント糸からなる補強糸を用いて,密度が表面面積比率で70∼90
%の範囲となるように形成されていると共に,前記第二の補強層の補強
糸本数が,前記第一の補強層の補強糸本数より多くされていることを特
徴とする車両用配管ホースを,その要旨とするものである。
【0009】また,本発明において,有利には,前記内側ゴム層及び前
記中間ゴム層が,それぞれ,135℃の温度における50%モジュラス
が25∼40であるゴム材料にて形成されると共に,該中間ゴkgf/cm2
ム層が,0.05∼0.6の厚さで形成されることとなる」mm。
「0013】また,内側ゴム層及び中間ゴム層が,それぞれ,135【
℃の温度における50%モジュラスが25∼40であるゴム材kgf/cm2
料にて形成されると共に,該中間ゴム層が0.05∼0.6の厚mm
さで形成される場合には,ホース加硫時に補強糸が棚落ちしたり,高温
雰囲気下で補強糸間の隙間が広がったりすることが,より効果的に防止
され得るようになり,車両用配管ホースにおける耐圧性,耐繰り返し加
圧性が,更に有利に向上せしめられ得るのである。なお,中間ゴム層の
厚さが0.6を越えた場合に糸の棚落ちが生じ易くなる理由は明mm
らかではないが,中間ゴム層が厚いと,ホース加硫時の内側ゴム層のゴ
ムの吹き出しが中間ゴム層に溜まり易くなり,また中間ゴム層にて補強
糸を拘束し難くなるため,糸の棚落ちが生じ易くなるものと考えられ
る」。
(イ)甲5記載の技術の解決課題等
前記(ア)の記載に照らすと,甲5に記載された技術の課題,作用効果
は,以下のとおり認められる。
すなわち,甲5に記載された技術は,耐圧性と耐久性を高めるために
補強層がゴム層上に積層された車両配管用ホースに関するものであり
(0001,従来の車両配管用ホースでは,内側ゴム層,中間ゴム【】)
層を形成するゴム材料(エラストマー組成物)としてブチルゴムが使用
されていたところ,ブチルゴムは,一般的に高温モジュラスが低く,1
35℃の温度における50%モジュラスが15∼24程度と低kgf/cm2
いため,ホース加硫時に内側ゴム層の膨張と糸の収縮が生じた際に,糸
間の間隙が広い部分にゴムの吹き出しが集中することによって,第一の
補強層を形成する補強糸が部分的に内側ゴム層側に食い込む,いわゆる
棚落ち現象が生じてしまい,そこが破裂の原因となる等の問題があった
(0005【0006。甲5に記載された技術は,このような問【】,】)
題を解消するものであり,補強糸の太さ(デニール,密度,中間ゴム)
層の厚さ等を特定するとともに,内側ゴム層及び中間ゴム層のゴム材料
として温度135℃における50%モジュラスが25∼40とkgf/cm2
いう,従来のゴムと異なる材料を使用し,棚落ちの発生等を効果的に防
止するものである。
ウ甲4,甲5に記載されたモジュラス値の意義
甲4,甲5の記載(前記ア,イ)に照らすと,繊維補強層を有するホー
スにおいて従来から用いられてきた内管を構成するエラストマー組成物
kgf/cm(),ゴム材料は135℃における50%モジュラスが10∼24
(約0.98∼2.35Mpa)程度のものであったが(甲4【0012
2】によれば10∼20程度,甲5【0006】によれば15∼kgf/cm2
24程度,甲4,甲5に記載された技術は,加硫時に補強糸がkgf/cm2

ゴム層に落ち込む棚落ちを防ぐために,135℃における50%モジュラ
スが20∼40程度(約1.96∼3.92MPa)という,従kgf/cm2
来とは異なる特別な値のエラストマー組成物(ゴム材料)を採用したもの
である。
()相違点4に関する容易想到性4
ア容易想到性について
審決は,繊維補強層を有するホースの内管を構成するエラストマー組成
物として,100℃前後での50%モジュラスを3.0MPa程度以上の
ものとすることは,甲4,甲5に記載されているように,当該技術分野に
おいて,普通に採用される範囲のものであるから,甲1発明において「1
00℃での50%モジュラスが3.0MPa以上」のものを採用して相違
点4に係る構成とすることは,容易想到であるとする。
しかし,前記()ウのとおり,従来から使用されているホースの内管を3
構成するエラストマー組成物の135℃における50%モジュラスは,約
0.98∼2.35MPa程度であり,甲4,甲5記載の技術は,加硫時
に発生する補強糸の棚落ちという特定の課題を解消するために,135℃
における50%モジュラスが約1.96∼3.92MPaという値のエラ
ストマー組成物を採用したものである。そうすると,繊維補強層を有する
ホースの内管を構成するエラストマー組成物を,100℃における50%
モジュラスが3.0MPa程度以上のものとすることは,100℃と13
5℃の温度の差を考慮に入れても,繊維補強層を有するホースに関する技
術分野において,普通に採用される範囲のものであるということはできな
い。しかも,引用発明で繊維補強層に用いられているヘテロ環含有芳香族
ポリマーからなる繊維は,前記()イのとおり,耐熱性,難燃性であり,2
その分解温度は600℃以上であり,伸度も3.0%以下である。そうで
あるとすると,ヘテロ環含有芳香族ポリマーからなる繊維は,600℃を
越えて分解温度に達するまでほとんどその形状を維持し強度を保つことに
なり,100℃程度の温度条件では,ホースの補強に関する性能に特段の
影響は生じないと解されるから,引用発明において,ホースの内管を構成
するエラストマー組成物の100℃における50%モジュラスを,敢えて
.,普通に採用される値より大きい30MPa程度以上とする必要性はなく
そのようにする契機があるとはいえない。
そうすると,繊維補強層を有するホースの内管を構成するエラストマー
組成物について,100℃における50%モジュラスを3.0MPa程度
以上とすることは,普通に採用される範囲であるとはいえず,更にこれを
引用発明に適用して相違点4に係る構成とすることが,当業者にとって容
易想到であるとはいえない。したがって,繊維補強層を有するホースの内
管を構成するエラストマー組成物について,100℃における50%モジ
ュラスを3.0MPa程度以上とすることが普通に採用される範囲である
ことを前提とし,更にこれを引用発明に採用して相違点4に係る構成とす
ることが,当業者にとって容易想到であるとした審決の判断は,誤りであ
る。
イ被告の主張について
被告の主張は,以下のとおり,採用することができない。
(ア)被告は,甲4,甲5に開示された技術は,補強層がスパイラル構造
という特定の構造であることを前提としたものではあるが,補強層の構
造としてブレード構造とスパイラル構造があることはよく知られてお
り,スパイラル構造自体は補強層の構造として特別な構造ではなく,ま
た,補強層を複数層設け若しくは必要に応じて中間ゴム層を設けること
も,普通に用いられている構造であるから,甲4,甲5は,ホースの内
管を構成するエラストマー組成物の特性(モジュラス)として採用され
る数値範囲の例を示すものとして参照価値を有するものであるとし,繊
,,維補強層の素材の如何を問わずホースの耐久性及び耐圧性を考慮して
補強層を有するホースの内管を構成するエラストマー組成物の100℃
前後での50%モジュラスを3.0MPa程度以上とすることは,甲4
及び甲5に開示されているように,普通に採用される範囲のものにすぎ
ないと主張する(前記第4,4()。1)
しかし,甲4,甲5において,繊維補強層を有するホースの内管を構
成するエラストマー組成物について普通に採用される範囲として開示さ
kgf/cmれている値は135℃における50%モジュラスが10∼24,
(約0.98∼2.35Mpa)程度であり,甲4,甲5記載の技術2
,,はスパイラル構造の補強層において発生する棚落ちを防止するために
135℃における50%モジュラスの値を3.0MPa以上としたもの
である。したがって,スパイラル構造や,補強層を複数層設け若しくは
必要に応じて中間ゴム層を設けることが特殊な構造でないとしても,1
00℃前後での50%モジュラスを30MPa程度以上とすることは.
普通に採用される範囲のものとはいえず,被告の上記主張は,採用する
ことができない。
(イ)また,被告は,本願発明においては,内管を構成するエラストマー
組成物の100℃での50%モジュラスの数値限定は,下限値を特定し
ただけであり,上限値に関しては何らの規定がないところ,ホースの技
,,術分野における一般的な課題である耐久性耐圧性を考慮した場合には
内管を構成するエラストマー組成物のモジュラスが高い方が望ましいこ
とは技術常識であり,その下限値をどの程度にするかは,当業者が必要
に応じて適宜選択すべき事項であり,ホースの内管を構成するエラスト
マー組成物においてごくありふれた数値範囲である100℃前後での5
0%モジュラス30MPa程度以上の数値範囲を採用し,相違点4に.
係る本願発明の構成とすることは当業者にとって容易に想到し得ると主
張する(前記第4,4()。1)
しかし,本願発明において,内管を構成するエラストマー組成物の1
.,00℃での50%モジュラスが30MPa以上と定められているのは
本願発明で用いる脂肪族ポリケトン繊維のガラス転移温度が低く,常温
域からの温度上昇に伴って引っ張り強度が低下し,高温域で圧縮特性の
低下やクリープ性が増大するという問題に対応するためであり,このよ
うな本願発明の課題が,本願出願前に,脂肪族ポリケトン繊維をホース
に適用するに当たって当然に対応すべき課題として当業者に広く知られ
ていたことを認めるに足りる証拠はない。また,引用発明において,繊
維補強層に用いられているヘテロ環含有芳香族ポリマーは,耐熱性,難
燃性の繊維であるから,引用発明のホースの内管を構成するエラストマ
ー組成物の100℃における50%モジュラスを高く設定する必要はな
いものである。そして,繊維補強層を有するホースにおいて,耐久性,
耐圧性を高めるためには,様々なパラメータの設定が想定され,選択さ
れ得るものであり,実際上も,例えば,甲1では補強層繊維の伸度,分
解温度,弾性率が提示され,甲5では,補強糸の太さ,密度,中間ゴム
層の厚さが特定され,また,本願発明でも,補強層を形成する繊維コー
ドの撚り係数,強度が特定されているものであって,耐久性,耐圧性向
上という課題を達成するために,一般的に100℃での50%モジュラ
スを高めることが要求されるものではない。耐久性,耐圧性向上という
課題を達成するために内管を構成するエラストマー組成物の100℃で
の50%モジュラスを3.0MPa以上と設定することは,高温時に上
記の問題点を生ずる脂肪族ポリケトン繊維をホースの繊維補強層に採用
する場合に初めて必要となることであって,しかも,上記のとおり,本
願発明の課題は,本願の出願当時,当業者に広く知られていたとは認め
られず,100℃での50%モジュラスが3.0MPa以上という値自
体も一般的なものではなかった。そうすると,耐久性,耐圧性向上とい
う一般的な課題を解決するために各種のパラメータを性能の良い値に設
定することがあるとしても,当業者が,内管を構成するエラストマー組
成物の100℃での50%モジュラスを3.0MPa以上と設定するこ
。,,とを容易に想到するとは認められないしたがって被告の上記主張は
採用することができない。
(ウ)被告は,本願発明において内管を構成するエラストマー組成物の1
00℃での50%モジュラスを3.0MPa以上とすることの技術的意
義は,ホースの耐久性の向上にあり,この限りにおいては本願発明と甲
4及び甲5の技術との課題は共通しているものといえるから,相違点4
に係る構成は,甲4,甲5から当業者が容易になし得るものである旨主
張する(前記第4,4()。2)
しかし,本願発明が内管を構成するエラストマー組成物の100℃で
の50%モジュラスを3.0MPa以上と設定したのは,脂肪族ポリケ
トン繊維のガラス転移温度が低いこと等の本願発明の課題に対応するた
めであって,ホースの耐久性向上という一般的な課題解決のためにその
ような設定に容易に想到すると認められないことは,前記(イ)のとおり
であるから,被告の上記主張は,採用することができない。
(エ)また,被告は,ホースの耐久性及び耐圧性を考慮して,ホースの内
管を構成するエラストマー組成物の100℃前後での50%モジュラス
を30MPa程度以上とすることは,補強層の素材によらず,普通に.
採用される数値範囲の選択であるから,補強層としてガラス転移温度が
低い脂肪族ポリケトン繊維を用いた場合においても,この数値範囲を採
用すればホースの耐久性及び耐圧性を向上できるという効果を奏するこ
とは当業者であれば容易に予測し得る程度のものであると主張する前,(
記第4,4()。2)
しかし,前記(ア)のとおり,繊維補強層を有するホースの内管を構成
するエラストマー組成物を,100℃における50%モジュラスが3.
0MPa程度以上のものとすることは,繊維補強層を有するホースに関
する技術分野において,普通に採用される範囲のものであるということ
できないから,被告の上記主張を採用することはできない。
ウ小括
以上によれば,引用発明及び甲4(周知例2,甲5(周知例3)記載)
の周知技術に基づいて相違点4に係る構成を採用することは当業者が容易
になし得るものであるとした審決の判断には,誤りがある。
2結論
よって,その余の点につき判断するまでもなく,審決は違法であるから,原
告の請求を認容することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
中平健
裁判官
上田洋幸

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