弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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令和2年6月2日宣告
殺人被告事件
主文
被告人を懲役15年に処する。
未決勾留日数中80日を上記刑に算入する。
理由
(犯罪事実)
被告人は,平成28年6月頃からAと交際するようになり,令和元年5
月,同人と入籍し,その娘を連れて名古屋に駆け落ちしたが,その後,婚
姻関係は破綻し,同年8月頃,Aらが高知県に戻り,被告人との連絡を断
ったため,インスタグラムを介し,シングルマザーになりすまして同人に
接触し,同年11月20日,高知市ab番地c所在のホテルdに同人をおび
き寄せた。
被告人は,Aに復縁を迫ったものの,これを断られたため,同人が他の
男性のものになるくらいなら殺してしまおうと決意し,同日午後5時頃,
上記ホテルにおいて,殺意をもって同人(当時22歳)の頸部を両手で数分
間にわたって絞め続け,その頃,同所において,同人を頸部圧迫による窒
息により死亡させたものである。
(量刑の理由)
被告人は,殺人罪という重大事件を犯したものである。
その犯行態様は,数分間にわたって,被害者の首を強く絞め続け,被害
者が痙攣し,動かなくなっても,なお絞め続けるという,執拗かつ残虐な
ものであり,強固な殺意に基づく高度の危険性を有している。その結果,
被害者は死亡しているところ,その苦痛や若くして命を奪われたという無
念さは,計り知れない。犯行動機についてみても,一旦は婚姻関係にあっ
た被害者との関係が破綻し,被害者が離れて行ってしまうのであれば,殺
害するのもやむなしという短絡的かつ自己中心的なものであり,同情の余
地は全く存しない。この点について弁護人は,被告人は不遇な境遇の中で
成長し,一筋の光明として被害者に出会ったものであり,被害者に対する
思いを断ち切れず,パニックに陥った末の衝動的・突発的犯行である旨主
張するが,殺害するに際して,被害者にじゃれあうように装って布団をか
け,被害者に馬乗りになってその身体の自由を束縛し,犯行に及んでいる
ことなどに照らし,パニックになっていた様子は窺われない。成育歴につ
いてみても,本件が結局のところ,自己中心的な動機に基づくことを考慮
すると,特に汲むべき事情になるとは解し難い。
以上によれば,本件は,男女関係(DVを除く)を動機とする,被害者1
名,凶器不使用などの殺人事件の中では,懲役14年ないし15年の範囲
で処断するのが相当な事案である。
そこでさらに検討するに,被告人は,本件後自首しており,当公判廷に
おいて,反省の弁を述べているものの,被害者やその遺族に対して,慰藉
の措置はとられておらず,これについて,首肯しうる説明もなされていな
いことを考慮すると,被告人が本件を真摯に受け止め,その内省を深めて
いるとは思われない。被害者の母親と兄は,被告人の厳重処罰を望んでい
る。また,弁護人は,被告人が若く,更生の可能性があるとも主張する。被
告人が更生するとは具体的にどのようなことを意味するかを考えてみると,
被害者やその遺族に対する謝罪の気持ちを終生持ち続け,出所後は,まじ
めに稼働し,賠償に努め,他人に迷惑をかけない平穏な生活を送ることな
どを意味すると解されるところ,上記のような被告人の反省状況,父親の
監督がほとんど期待できないことなどに照らし,その途は相当険しいと思
われるものの,被告人がまだ若く,これまで前科前歴を有していないこと
を考慮すると,心がけ次第では更生の途を歩むことを期待することはでき
ると思われる。
そこで,これらの諸事情を考慮し,被告人を主文掲記の刑に処すのが相
当と判断した。
令和2年6月2日
高知地方裁判所刑事部
裁判長裁判官𠮷井広幸
裁判官堀内綾乃
裁判官遠藤裕樹

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