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       主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
(原告)
一 被告は原告に対し一二七〇万七四七二円及びこれに対する昭和五二年七月七日
から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 仮執行の宣言
(被告)
 主文同旨
第二 当事者の主張
(原告の請求原因)
一 原告は、明治四三年生まれの朝鮮人であり、昭和二八年項から、月雇労働者及
び失業者を中心に組織されている全日本自由労働組合(以下「全日自労」とい
う。)に加入して失業対策卒業(以下「失対離業」という。)に就労していたが、
その後離職し失業した。原告は、昭利四三年一二月二六日、池袋公共職業安定所
(以下「池袋職安」という。)に求職の申込をし、さらに、昭利四四年五月八日、
原告の当時の住所を管轄する池袋公共職業安定所長(以下「池袋職安所長」とい
う。)に対し職業安定法(ただし昭和四六年法律第六八号による改正前のもの。以
下「旧職安法」という。)第二章の二に定める中高年齢失業者等に対する就職促進
措置の適用に関する認定を申請し、同年六月一一日池袋職安所長から同法二七条一
項に基づき右就職促進措置を受ける必要があるとの認定(以下「措置対象者の認
定」という。)を受け、続いて同年一〇月九日には池袋職安所長から六か月の期間
を定めて就職促進措置の一つである就職指導を受けることを指示され、以後同法二
九条による手当を受給しながら就職指導措置を受けていた。ところが、池袋職安所
長は、同年一一月二九日、原告に自ら進んで速やかに常用雇用の職場に就職しよう
とする意欲が認められないとの理由で同法二七条二項、同法施行規則二〇条四項四
号により原告に対する前記措置対象者の認定を取り消した(以下「本件処分」とい
う)。
二 しかしながら、本件処分は、以下に述べるとおり違法なものである。
1 原告に自ら進んで速やかに常用雇用の職場に就職しようとする意欲がないとし
た認定は誤りである。
 原告は、喘息の持病があり、また、バスに乗ると気持が悪くなるため、池袋職安
に求職申込をするにあたつては、一時間以内の通勤時間、軽作業、月額三万円から
三万五〇〇〇円位の賃金及び朝鮮人であることで差別されることがないといつた条
件を希望した。そして、本件処分を受けるまでの間、原告は、池袋職安から紹介さ
れたいくつかの就職先について就職の意欲をもつて応じたが、条件が折り合わなか
つたり、原告の芳しくない身体状況が原因となつたりして、いずれも採用されるに
至らなかつたものである。このことを本件就職指導措置の指示があつた昭和四四年
一〇月九日以降の事例について詳述すると、次のとおりである。
 まず、同月二七日に雑工として紹介された永田精機株式会社については、原告は
同社に就職する意欲を持つて面接を受け、入社後も全日自労の組合員としてとどま
る旨並びに原告の労働条件について全日自労と労働協約を締結してもらいたい旨希
望を述べたところ、同社の面接担当者は、原告が全日自労と同社の労働組合との間
での協約締結を希望しているものと誤解し、そのようなことは同社と直接の関係が
ないと考えたか、あるいは原告が一見ひ弱に見えたためか、適当な口実で原告を不
採用とした。
 また、同年一一月七日に雑工として紹介された大徳時計工業株式会社について
は、同社の面接担当者は、原告の就職意欲を認めながら、原告が朝鮮総連を支持す
る旨発言したのを「ソ連」支持と聞き違え、原告の右思想を理由として不採用とし
た。
 さらに、同月一七日に清掃婦として紹介された株式会社協力会(デパート内の清
掃作業請負会社)については求人側と複数の求職者とが池袋職安に集まり同職安の
あつせんを受けるという管理選考方式が実施され、その際原告が前記永田精機株式
会社の場合と同じような希望を述べたところ、同社の担当者がその点については上
司と相談して返事をするということであつたので、原告は右希望が容れられれば同
社に就職するつもりで返事を待つていたが、何の連絡もなかつたのである。
 このように、原告は、結果的には紹介先に就職できなかつたものの、就職の意欲
は十分に有していたものである。原告が面接の際に、就職後も原告の全日自労の組
合員としての地位が保障されること並びに労働条件について全日自労との間に労働
協約を締結してもらうことを希望したのは、労働者としての当然の基本的な権利で
あり、このような希望を述べたことをもつて誠実かつ熱心に求職活動をしていない
と評価することは許されない。
2 のみならず、池袋職安所長が本件処分をしたのは、失対事業を縮少廃止し、か
つ、全日自労を破壊するという不当な意図によるものである。
 戦後の失業者の大量発生に対応して緊急失業対策法(以下「失対法」という。)
が制定され、失対事業が行なわれてきたが、昭和三〇年過ぎ頃から企業の生産性が
拡大してきたことに伴い、失業者が失対事業へ流入するのを阻止して民間の低賃金
労働者として再編成しようとする動きが強まる一方、これと並んで、かねてから日
雇労働者及び失業者の労働条件の改善のため活発な運動を展開してきた全日自労の
活動を抑圧しようとする政策がとられるようになつた。昭和三八年に行なわれた失
対法及び職安法の改正はこれに呼応したものであり、この改正により本件で問題と
なつている中高年齢失業者等に対する就職促進措置の制度が設けられ、失業者は右
就職促進措置を受け終わらなければ失対事業に就労できないこととなつた。しか
も、各地の公共職業安定所では、右措置を受けるための前提となる失業者からの求
職申込自体を受理せず、また、右措置の適用に関する認定の申請用紙の交付を拒否
したりしたため、右制度の運用面からも失対事業就労が困難となつた。そのほか右
改正では、失対事業主体に運営管理規程を定めることを義務づけ(失対法一一条)
その中でいくつかの変更できない条項を定めて、従来失対事業で行なわれてきた就
業規則、労働協約及び労使慣行を破棄させ、また、各失対事業主体が独自の予算の
中から失対事業就労者に支出していた上積み賃金を廃止させ、さらに、団体交渉権
の否認、体力検定の強化、監督制の強化、労働大臣が決定権を有する賃金の低額な
定め、所得額による失対事業就労制限が実施され、これによつて失対事業就労者を
失対事業から離脱せしめ、かつ、失対事業から全日自労の影響力を排除しようとし
た。池袋職安においても、このような失対事業への流入阻止及び全日自労に対する
不当な攻撃が行なわれてきたのであり、本件処分はこのような目的のために故意に
なされたものである。
三 原告は、被告の公務員である池袋職安所長のした違法な本件処分により、左の
1及び2の合計一二七〇万七四七二円の損害を被つた。
1 逸失利益 一一七〇万七四七二円
 本件処分がなければ、原告は、就職指導措置を受け終る昭和四五年四月八日まで
旧職安法二九条により就職指導手当の支給を受け得たものであり、仮りに、右措置
期間終了前に常用雇用の職場に就職しても右手当を下回らない賃金を得たはずであ
る。さらに、右期間終了後は当然に失対事業に就労して失対就労賃金を得たはずで
あり、仮りに、常用雇用の職場に就職しても右額を下回らない賃金を得たはずであ
る。本件処分によつてこれらの得べかりし利益がすべて失われた。したがつて、原
告の逸失利益は、原告が七二歳余に達する昭和五八年三月末日まで就労可能として
計算すると、別紙のとおり一一七〇万七四七二円となる。
2 慰謝料 一〇〇万円
 本件処分により原告が被つた精神的苦痛に対する慰謝料である。
四 よつて、原告は、国家賠償法一条に基づき、被告に対し原告が被つた右損害の
賠償とこれに対する不法行為後である昭和五二年七月七日から支払済みに至るまで
年五分の割合による遅延損害金を支払うべきことを求める。
(請求原因に対する被告の認否)
一 請求原因一の事実は認める。
二 同二1のうち、昭和四四年一〇月二七日原告を永田精機株式会社に雑工として
紹介したところ、全日自労の組合員としての地位の保持及び全日自労との労働協約
の締結を求め、不採用となつたこと、同年一一月七日雑工として紹介した大徳時計
工業株式会社も不採用となつたこと、同月一七日株式会社協力会に清掃婦として紹
介し管理選考が行なわれたが、原告において永田精機株式会社の場合と同様の要求
を出し、不採用となつたことは認めるが、原告が右三社を含めた紹介先に就職する
意欲があつたとの点は争う。
 同二2のうち、失対法及び職安法の改正は認めるが、その余は争う。
三 同三は争う。
(被告の主張)
一 本件処分に至るまでの経緯
1 原告は、昭利四三年一二月二六日池袋職安に求職申込をして以来昭和四四年六
月一一日に措置対象者の認定を受けるまでの間、十数回にわたり全日自労の役員ら
と共に池袋職安に来所し、その都度同職安での職業相談、職業指導を受け、いくつ
かの就職先を紹介さされたが、雑役程度の軽労働を希望しながら、当時の平均賃金
以上の賃金を要求してこれに固執し、「賃金が安すぎる」、「勤務時間や作業内容
等の労働条件が自己に適していない」、「通勤に時間がかかりすぎる」、「バスに
酔う」などの理由で紹介を拒否したり、たえず希望条件を変更するなど、通常の就
職希望者と異なる態度が見られた。この間に原告が雑役婦として紹介に応じたのが
丸福運輸倉庫株式会社、東京基準寝具株式会社及び菊地食品株式会社の三社であつ
たが、丸福運輸の場合は、賃金が当時の水準を大幅に上回り原告の希望額に見合う
ものであつたにもかかわらず、一時間程度の通勤が困難であると辞退し、東京基準
寝具の場合は、同社が日給制を採つているのに、原告が月給制を主張したため不採
用となり、また、菊地食品の場合は、原告の体格が劣ること及び労働経験の乏しさ
から採用が実現しなかつた。
 そこで、池袋職安所長は、原告に対し、速やかに常用雇用の職場に就職しようと
するなら自己の希望条件だけに固執せず相手方の立場も考慮して歩みよるようにと
再三にわたり指導したうえ、昭和四四年六月一一日原告について措置対象者の認定
を行ない、原告の就職に一段と力を入れた。
2 右認定の後同年六月二七日に、原告は、株式会社大沢製作所へ掃除婦として紹
介され、同年七月一日右会社から採用通知を受けたが、風邪のため静養していると
して右会社に何の連絡もしないまま放置した。これを知つた池袋職安担当官は、同
月一八日原告に対し、採用決定はまだ変更されていないので右会社と早急に連絡を
とるように指示したが、原告は、同月二三日まで連絡をとらなかつたので、右会社
は、原告が就職を辞退したものとして他の人を採用し、原告の採用を取り消した。
3 同年八月末頃まで、原告は、めまいや皮膚病等に罹つたとして、毎週金曜日と
定められている定期出頭日に池袋職安に出頭しないことが多かつた。健康回復が確
認された後の同年九月九日、池袋職安所長は、原告を中央発送株式会社に包装工と
して紹介したところ、原告は、通勤途上の事故について会社が責任をもつこと並び
に自己の労働条件について全日自労と労働協約を締結することを要求したため、不
採用となつた。
4 同年九月二四日、原告は、宮武工業株式会社へ雑役工として紹介されたが、同
会社での仕事は製品検査などの作業をすることであつたところ、原告が掃除や雑用
などの作業を希望したため、不採用とされた。
5 同月二六日、原告は、日駐不動産株式会社に清掃婦として紹介されたが、労働
条件について全日自労と労働協約を締結してもらいたい旨を主張したため、不採用
とされた。
6 右のように紹介と不採用とが繰り返されている間に、原告が指定された出頭日
に池袋職安へ出頭しなかつたり、その他の指示に従わないこともあつたので、同年
一〇月、池袋職安担当官は原告に対し、(1)出頭日、出頭時間を厳守すること
(2)出頭できない場合には前日に同職安に申し出て指示を受けること(3)自分
自身でも積極的に就職できるように努力することなどを厳しく指導し、池袋職安所
長は同月九日原告に対し就職指導措置を受けるべきことを指示した。したがつて、
原告は、右措置の実施に当たる職員の指導又は指示に従うとともに、自ら進んで速
やかに職業につくことに努めなければならないこととなつた(旧職安法二八条二
項)。
7 同月二七日、原告は、雑工として永田精機株式会社に紹介されたが、労働条件
について全日自労と労働協約を締結してもらいたいとの条件に固執し、同会社に就
職しようとする真摯な態度が認められなかつたため、不採用となつた。
8 同年一一月七日、原告は、雑工として大徳時計工業株式会社に紹介されたが、
面接時の言動に就職しようとする意欲がみられず、発言内容に思想的にも疑問があ
るとの理由で不採用となつた。
9 同月一七日、原告は、清掃婦として株式会社協力会に紹介され、管理選考方式
で採用面接を受けた。その際、原告は、他の求職者と違つて、労働条件の内容につ
いてはあまり関心をみせず、全日自労の組合員としての地位の保持及び全日自労と
の労働協約の締結に強くこだわり、右会社から、就職希望があれば連絡するように
指示されたのに、何らの連絡もしなかつたため、就職希望がないものとして不採用
とされた。
10 以上のとおり、池袋職安所長は原告の希望や身体状況等を勘案して職業紹介
を重ねたが、原告は、雇入先において原告の全日自労の組合員としての地位が保持
されること並びに原告の労働条件について全日自労との間に労働協約を締結するこ
とに固執したことにより、就職することができなかつた。これらの事例のうち原告
が就職指導措置の指示を受けた後の右7、8、9の事例は、前述した就職努力義務
に違反するものである。そこで、右の三事例を基礎として判断すれば、原告には自
ら進んで速やかに常用雇用の職場に就職しようとする意欲が認められないものとい
うべきであるから、本件処分は適法である。
二 原告の損害に関する主張は左のとおり失当である。
1 昭和四五年四月八日までの逸失利益について
 就職指導措置の指示を受けていても、常用雇用の職場に就職すれば、その時点で
旧職安法二九条の就職指導手当の支給は打ち切られるものである。したがつて、本
件処分がなければ右措置期間の終了する昭和四五年四月八日まで就職指導手当が支
給されるはずであつたことを前提とする原告の主張は、失当である。
 原告は、措置期間満了前に常用就職をした場合には少なくとも就職指導手当額を
下回らない賃金を得たはずであると主張するが、原告のように誠実かつ熱心に求職
活動をしていない者が常用就職をすることはあり得ないから、右主張も前提を欠き
失当である。
2 昭和四五年五月一日以降の逸失利益について
 失対事業に就労するには、就職促進措置を受け終わつただけでは足りず、その後
引き続き誠実かつ熱心に求職活動をしていて、職安所長から失対事業紹介対象者と
しての適格を有するとの新たな裁量判断を受けて紹介されることが必要であり(失
対法一〇条一項、二項)、しかも、そのうえで失対事業主体から失対事業就労適格
を有しているとの判断を受けなければならない。しかるに、原告は、常用雇用の職
場に就職しようとする意欲に欠けているから、失対事業に紹介されることはあり得
ない。したがつて、本件処分がなけけば昭和四五年五月一日以降当然に失対事業に
就労できたはずであるとの立論を前提とする原告の主張は失当である。
(被告の主張一に対する原告の認否)
一 被告の主張一1のうち、原告が求職申込以来措置対象者の認定を受けるまでの
間に池袋職安で職業相談をし、就職先を紹介されたこと、右紹介に応じた丸福運輸
倉庫株式会社、東京基準寝具株式会社及び菊地食品株式会社には就職することがで
きなかつたこと、原告が措置対象者の認定を受けたことは認めるが、その余は争
う。
二 同2は認める。
三 同3は認める。
四 同4のうち、不採用の理由は不知、その余は認める。
五 同5は認める。
六 同6のうち、被告主張のとおりの指導及び就職指導措置の指示があつたことは
認める。
七 同7ないし9については請求原因二1に記載したとおりであり、就職しようと
する態度、意欲がみられなかつたとの点は争う。
八 同10は争う。
第三 証拠関係(省略)
       理   由
一 請求原因一の事実は当事者間に争いがない。右事実によれば、原告は、本件就
職指導措置の指示を受けたことにより、自ら進んで速やかに職業につくことに努め
なければならないこととなつたものである(旧職安法二八条二項)。
二 そこで、右指示を受けた後において原告には自ら進んで速やかに常用雇用の職
場に就職しようとする意欲が認められないとした本件処分の認定の当否について検
討する。
1 まず、右認定の根拠とされた右指示後の就職活動の状況は、次のとおりであ
る。
(永田精機株式会社関係)
 原告が昭和四四年一〇月二七日池袋職安から雑工として右会社に紹介されたが、
面接の結果不採用となつたことは、当事者間に争いがない。
 そして、成立に争いのない甲第二三号証の二、証人A(第一回)の証言により真
正に成立したと認められる乙第一号証、官公署作成部分につき成立に争いがなく、
その余の部分につき証人Bの証言により真正に成立したと認められる乙第七号証の
一、二、証人C、同B、同A(第一回)の各証言及び原告本人尋問の結果(後記措
信しない部分を除く。)によれば、採用面接時間は約三〇分程であつたが、原告
は、面接開始早々から、メモを見ながら、採用面接担当者に対し、「自分は朝鮮人
であるが構わないか」、「賃金が他社より低いのではないか」、「生理休暇及び有
給休暇はあるか」、「就業規則はあるか」、「自分は入社後も全日自労の組合員で
いるが構わないか」、「会社に労働組合はあるか」、「原告の労働条件について会
社と全日自労との間で労働協約を締結してもらいたい」などの質問や要望を一方的
に続けて発し、右会社の面接担当者がこれに応答する状況であり、面接担当者の方
から原告に質問するいとまがほとんどないまま時間が経過したこと、原告の右質問
に対し面接担当者は「国籍は問わない」、「生理休暇は月に二日、有給休暇は入社
後一年経過後に年間六日、それ以後は一年に一日の割合で増加する」、「就業規則
及び労働組合は会社にある」などと答え、全日自労の組合員であるとの点について
ははつきりした態度を示さず、また、全日自労との労働協約締結の要望に対して
は、会社としてこれを認める考えは全くなかつたので、自分の一存では決めかねる
という表現で消極的返答をしたこと、さらに、賃金に関しては、失業者で常用雇用
の職場に就職した者の当時の賃金は月額二万円から三万円までが最も多いが、右会
社の提示額は月額二万七〇〇〇円前後で相場より低いものではなかつたこと、右の
ような問答の間、原告からは、全日自労との労働協約の締結について強い調子の要
望が出される一方、仕事の内容の詳細や自己の体力でこれをこなせるかといつたた
ぐいの質問は何もなかつたこと、右会社の面接採用担当者は、以上のような状況か
ら、全日自労との間に労働協約を締結することに応じない限り原告は同社へ就職す
る意思はないものと判断し、原告を不採用としたこと、以上の各事実が認められ
(原告が全日自労の組合員の地位の保持及び全日自労との労働協約の締結を求めた
ことは、当事者間に争いがない。)、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は
措信しない。なお、右会社がクローズドシヨツプ制を採用していた旨の証人Dの証
言(第一回)も、証人Bの証言に照らし採用し難い。
(大徳時計工業株式会社関係)
 原告が同年一一月七日池袋職安から雑工として右会社に紹介されたが、面接の結
果不採用となつたことは、当事者間に争いがない。
 そして、成立に争いのない乙第六号証の一、二、証人D(第一回)、同C、同A
(第一回)の各証言及び原告本人尋問の結果によれば、右会社の採用面接担当者
は、原告が面接中に朝鮮の本籍地のことに関連して「総連(朝鮮総連)」か「ソ
連」かを支持するような発言をしたので、原告の思想傾向に疑問を抱き、不採用と
することとしたが、原告に対しては、前日の新聞広告による募集で一人採用し欠員
がないから採用できない旨を告げたことが認められ、右のような思想傾向を不採用
の理由とするはずがない旨の証人Eの証言部分は採用することができない。
(株式会社協力会関係)
 原告が同月一七日池袋職安から清掃婦として右会社に紹介され、採用面接は求人
側と求職側とが同職安に集まり同職安のあつせんのもとで受けるという管理選考方
式で行なわれたが、その結果原告が不採用となつたことは、当事者間に争いがな
い。
 そして、証人A(第一回)の証言により真正に成立したと認められる乙第三号
証、証人D(第一回。後記措信しない部分を除く。)、同F、同C、同A(第一
回)の各証言及び原告本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)によれば、
右面接に参加した求職者は原告を含め八名であつたこと、右会社の採用面接担当者
は、求職者一人ずつと個別に面接し、各人に対し、まず同社の就業規則に基づき、
会社の賃金の内容、勤務時間、有給休暇等について一通りの説明をしたこと、この
説明に対し、他の求職者は多かれ少なかれこまかな労働条件について関心を示し真
剣に質問したりしたが、原告は、そのような態度をあまりみせず、入社するについ
ては自己の全日自労の組合員としての地位を認めてもらいたい旨並びに労働条件に
ついて会社と全日自労との間で労働協約を締結してもらいたい旨を希望したこと、
このようなことから、右会社の面接担当者は、原告に他の求職者と異なる感じを抱
いたものの、全日自労に関する右希望については上司に相談してみるといつて聞き
流すにとどめ、原告を含む求職者全員に対し、就職の希望があれば会社に連絡する
ように話したこと(右会社は右連絡があつた者について採否を決めるつもりであつ
た。)、原告は、全日自労と相談してみると述べて池袋職安から帰つたまま右会社
及び同職安に対し何らの連絡もしなかつたため、就職を希望しないものとされて不
採用となつたこと、以上の各事実が認められる(原告が全日自労の組合員の地位の
保持及び全日自労との労働協約の締結を希望したことは、当事者間に争いがな
い。)。証人Dの証言(第一、第二回)及び原告本人尋問の結果のうち、原告が右
会社に連絡をしなかつたのは右会社の面接担当者が全日自労に関する原告の前記希
望について上司と相談した結果を原告に返事すると約束したので、その返事を待つ
ていたものである旨の供述部分は、たやすく措信することができず、他に右連絡を
しなかつたことについてやむを得ない事由があつたことを認めるに足りる証拠はな
い(原告が右会社の所在、電話番号等を知らなかつたとしても、池袋職安にきくな
どの方法によつて容易にわかるはずである。)。
2 ところで、右に認定した三事例のうち、大徳時計工業株式会社の場合は原告の
思想傾向を理由とした不採用であるから、これを判断の基礎とすることはできない
が、他の二事例についてこれをいかに評価すべきかは当該事例だけでなく、それま
での間の経過をも併せ考慮したうえで決定する必要がある。そこで、原告に対する
措置対象者の認定がなされてから就職指導措置の指示が行なわれるまでの間の原告
の就職活動状況についてみると、次のとおりである。
(株式会社大沢製作所関係)
 原告が昭和四四年六月二七日池袋職安から掃除婦として右会社に紹介され、同年
七月一日採用通知を受けたが、風邪のため静養しているとして右会社に何の連絡も
しないまま放置し、同月一八日池袋職安担当官から採用決定はまだ変更されていな
いから右会社に早急に連絡をとるよう指示されたのに、同月二三日まで連絡をとら
なかつたので、就職を辞退したものとして採用を取り消されたことは、当事者間に
争いがない。そして、原告が右のように連絡を遅延した事についてやむを得ない事
由があつたと認めるに足りる証拠はない。
(中央発送株式会社関係)
 原告が同年九月九日池袋職安から包装工として右会社に紹介されたが、通勤途上
の事故について会社が責任をもつこと並びに原告の労働条件について全日自労と労
働協約を締結することを原告が要求したため不採用となつたことは、当事者間に争
いがなく、証人Cの証言によれば、右会社は原告の右二つの要求を受け入れること
ができないとして不採用としたものであることが認められる。なお、証人D(第一
回)は、右会社の賃金が当初の求人条件より低かつた旨供述するが、採用しない。
(宮武工業株式会社関係)
 原告が同月一四日池袋職安から雑用工として右会社に紹介されたが不採用となつ
たことは、当事者間に争いがない。そして、証人D(第一回)及び同Cの各証言に
よれば、右会社の雑用工の仕事はメツキ製品の検査や計量などであつたが、面接の
結果原告は右仕事に向かないと判断されて不採用となつたものであることが認めら
れる。
(日駐不動産株式会社関係)
 原告が同月二六日池袋職安から清掃婦として右会社に紹介されたが、労働条件に
ついて全日自労と労働協約を締結してもらいたいと主張したため不採用とされたこ
とは、当事者間に争いがない。もつとも、証人D(第一回)及び同Cの各証書によ
れば、原告は右会社への通勤が時間がかかり困難であるとしていたようであるが、
弁論の全趣旨により成立を認める乙第五号証の一及び右証人Dの証言(第一回)か
らすると、原告は当時練馬区<以下略>に居住し西武池袋線江古田駅が最寄駅であ
り、右会社は国電新大久保駅から徒歩一五分ないし二〇分のところにあつたという
のであるから、原告の年齢を考慮に入れても、通勤が時間的に困難であつたとは考
えられない。
3 以上1及び2の事実によれば、原告は、措置対象者の認定を受けてから就職指
導措置の指示を受けるまでの間に四か所の就職先を紹介され、うち一か所(宮武工
業株式会社)は作業内容不適による不採用であつたものの、他の一か所(株式会社
大沢製作所)は自らの落度によりせつかくの採用を取り消され、他の二か所(中央
発送株式会社及び日駐不動産株式会社)では全日自労との労働協約の締結などを要
求したため不採用となつたものであり、さらに、就職指導措置の指示を受けた後に
おいても、紹介を受けた三か所のうち二か所(永田精機株式会社及び株式会社協力
会)において全日自労との労働協約の締結を要求していることが明らかである。そ
して、右事実と成立に争いのない乙第九号証、証人Dの証言(第二回)及び原告本
人尋問の結果を尋問の結果を総合すれば、当事全日自労では、旧職安法に基づく就
職促進措置が失対事業及び全日自労から失対労働者を離脱せしめる不当な施策であ
るとの立場から、所属組合員が右措置により就職先を紹介された場合の心構えとし
て、全日自労組合員としての地位、活動を保障すべきこと並びに自己の労働条件に
ついて全日自労と労働協約を締結すべきことなどを紹介先会社に要求するよう指導
しており、本件の原告もこれに従つて前記のように面接時に労働協約の締結を要求
したもので、この要求は、原告にとつて相手方しだいでは特に固執しなくてもよい
といつた弾力的なものではなく、是非とも貫徹しなくてはならないものであり、紹
介先会社がこれを受け入れてくれなければその会社には就職しないというのが原告
の考えであつたことが認められる。これを動かすに足りる証拠はない。
 ところで、全日自労が労働組合としての資格要件を具えている限りは、その所属
組合員の就職先会社と労働協約を締結することができるものであり、また、当該組
合員が右会社に対して全日自労との労働協約の締結を求めることも、もとより許さ
れるところである。しかし、他方、右会社が右労働協約の締結に応ずるかどうかは
団体交渉の問題であつて、法律上これが義務づけられているわけではないし、ま
た、わが国の現状において全日自労と各会社との間で労働協約を締結するのが一般
的慣行にまでなつていると認めるべき資料もない。したがつて、本件において、原
告の紹介先会社が原告の労働協約締結の要求を受け入れ難いのもであるとしたこと
をもつて不当であるということはできない。原告としても、少なくと就職指導措置
の指示を受けた段階では、先の中央発送株式会社及び日駐不動産株式会社の事例か
ら、自己の右要求が容易に受け入れられないものであることを知つていたものと認
められる。
 そうであるとすれば、原告が、自己の労働者としての利益を守るために必要であ
るとして紹介先会社に労働協約の締結を要求し、これに応じてもらえない限り右会
社には就職しないとの態度をとること自体は、原告の自由であるが、その自由を行
使することと、そのような態度に対する評価とはおのずから別であり、就職指導措
置の指示を受けたことにより自ら進んで速やかに職業につくよう努めるべき立場に
ある原告が紹介先会社において応諾義務を負わない右のような要求に固執すれば容
易に採用されないであろうことを経験上知りながら、右指示後の紹介先である永田
精機株式会社及び株式会社協力会においてもあえて同じ態度に出たことは、速やか
に進んで就職をしようとする具体的意欲を欠くことの顕著な徴表であると認めざる
を得ない。
 これに加え、原告は、株式会社協力会の面接に際し、就職の希望があれば会社に
連絡するようにいわれながら、何ら連絡することなく放置したため、就職を希望し
ないものとして扱われたことは、前記のとおりであるが、これまた、先に株式会社
大沢製作所の事例があることに徴し原告の就職意欲を疑わせるものというべきであ
る。
 結局、本件においては、前記2で述べた従前の就職活動の経過をも併せ勘案すれ
ば、原告に対して就職指導措置の指示がなされた後の永田精機株式会社及び株式会
社協力会における原告の就職活動状況は、自ら進んで速やかに常用雇用の職場に就
職しようとする意欲が認められないものというほかなく、旧職安法二七条二項所定
の認定取消事由である「誠実かつ熱心に就職活動を行なつていない」場合に当たる
とすべきである。もつとも、同法施行規則二〇条三項は「誠実かつ熱心に就職活動
を行なう意欲を有すると認められること」を措置対象者の認定の要件と定めている
ので、原告も措置対象者の認定を受けた当時は就職意欲を有するものとされていた
ことになるが、このことは何ら以上の判断を妨げるものではない。また、同法の就
職促進措置の制度は、中高年齢の失業者その他就職が特に困難な失業者の就職を容
易ならしめるため、右措置の指示を受けた者に対しては手当を支給しながら職業紹
介や職業訓練などをするという特別の制度であることにかんがみれば、原告の前記
の態度を理由として制度の適用を排除したからといつて、原告に保障された自由な
いし基本権を侵したことになるものでないことは、当然である。
 本件処分に原告主張の事実誤認はない。
三 つぎに、本件処分が失対事業を縮少廃止し全日自労を破壊するという不当な目
的をもつてされたものか否かを検討する。
 いずれも成立に争いのない甲第一ないし第五号証、第一〇号証、第二一号証一、
二、第二二号証の一ないし五、第二三号証の一ないし三、第二四ないし第二八号証
(第二四、第二五号証は原本の存在も争いがない。)、第二九号証の一、二、第三
〇号証、第三一号証の一、二、第三二号証の一ないし三、第四一ないし第四三号
証、第四八号証、乙第八ないし第一〇号証、第一一号証、証人Dの証言(第一回)
により真正に成立したと認められる甲第一一ないし第一六号証及び証人G、同H、
同D(第一、第二回)、同Iの各証言によれば、戦後の失業者の大量発生という事
態に対応して失対事業制度が設けられ、大きな役割を営んできたところ、昭和三〇
年以降の高度経済成長期には、総数で見る限り人手不足といつてよい状態が生まれ
てきたものの、中高年齢者層に限定すると就職は必ずしも容易ではなく、この頃の
失対事業は継続在籍期間の長い就労者や高齢者、婦人労働者の占める割合が多くな
つていたこと、このような状況下の昭和三八年に失対法と職安法が改正され、中高
年齢者等の就職困難な失業者の就職を容易にするために就職促進措置の制度が新設
され(旧職安法第二章の二)、また、これとともに、失対事業に就労するには、右
就職促進措置を受け終わり、引き続き誠実かつ熱心に求職活動をしているものでな
ければならないとされた(失対法一〇条二項)こと、右改正法施行後しばらくの間
は、就職促進措置を受けて就職する者も相当あり、制度の目的に沿つた一応の効果
があがつたとみられたが、昭和四二、三年頃からは、就職促進措置制度の運用をめ
ぐつて労働行政当局と全日自労との間の激しい対立が表面化し、全日自労の組合員
又はこれと同道して公共職業安定所に来所した失業者に対し就職促進措置の申請書
が交付されなかつたとか、その申請が受理されなかつたとかの紛争が発生した地域
もあつたこと、この対立は、総数としての求人数が求職数と同程度あるのであるか
ら、失対事業就労者でも就職の意欲がある者であれば就職促進措置の強力な実施を
得て常用雇用の職場に就職することができるはずであるとする労働行政当局と、少
なくとも失対事業より労働条件が良いところでなければ就職をする必要はなく、も
つと自由に失対事業に就労することが許されて然るべきであるとする全日自労との
それぞれの就職促進措置制度についての基本的な考え方の相違や、手当の支給その
他の労働条件の改善がなされてきた失対事業の現実の労働環境と、就職促進措置制
度に基づく紹介により中高年齢者が就職可能な職場の労働環境との比較についての
両者の評価の相違などに由来するもので、全日自労としては、右制度が中高年齢失
業者を失対事業から離脱させ労働条件の劣悪な零細企業に再配置することを図ると
ともに、全日自労の組織の弱体化することを狙つたものであるとして、右制度の骨
抜きを目的とした反対闘争を展開したこと、以上の各事実が認められる。
 本件処分は、時期的にみると、就職促進措置の運用をめぐつて労働行政当局と全
日自労とが右のとおり激しく対立していた昭和四四年になされたものであるが、原
告の場合には、前述のとおり、申請不受理ということはなく、措置対象者の認定、
就職指導措置の指示と順調な経過をたどつていたものである。しかも、証人A(第
一回)の証言により真正に成立したと認められる乙第四号証及び証人A(第一
回)、同D(第一回)、同Cの各証言によれば、池袋職安は、原告から昭和四三年
一二月に求職申込を受けて以来原告に対し十数社の就職先を紹介しており(うち措
置対象者の認定後のものは前記の七社である。)、それらは原告の希望や条件を考
慮したものであることが認められる。これらに照らすと、池袋職安所長が、就職促
進措置制度の運用をめぐる全日自労との対立を背景に、全日自労を破壊し失対事業
制度を縮少廃止しようという不当な目的をもつて本件処分をしたものであるとはた
やすく認め難いところであり、前掲各証拠中右の点に関する原告の主張にそう部分
は採用することができない。他に右原告の主張を認めるに足りる的確な証拠はな
い。
四 そうすると、本件処分に原告主張の違法は認められないから、その余の点に触
れるまでもなく、原告の請求は理由がないというべきである。よつて、これを棄却
し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決す
る。
(別紙)省略

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