弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
     抗告費用は抗告人の負担とする。
         理    由
 一、 本件抗告の趣旨ならびに理由は別紙記載のとおりである。
 二、 当裁判所の判断。
 (一) 一件記録によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、
 (1) 抗告人は亡Aの長男であるところ、Aは昭和三三年一一月三〇日抗告人
肩書住所て死亡した。
 (2) Aの相続人は、抗告人のほか、その妻であるB、その二女であるC、お
よびその三女であるDの四名であるが、現在、BおよびCは大阪市a区b町c丁目
d番地に、また、Dは鳴門市e町f字g町h番地にそれぞれ居住している。
 (3) 抗告人は、B、C、およびDを相手方として原裁判所に対し、昭和三九
年七月三一日本件遺産分割調停の申立てをしたところ、原裁判所は同年八月二九日
家事審判規則四条一項によりこれをBおよびCの任所地を管轄する大阪家庭裁判所
に移送する旨の審判(原審判)をした。
 (二) ところで、抗告人は、被相続人であるAの住所地ならびに相続開始地は
ともに抗告人肩書任所地と同一であり、本件は家事審判規則九九条、民訴一九条に
より抗告人肩書住所地の家庭裁判所である原裁判所の管轄に属するものであるとこ
ろ、原裁判所が特段の事情もないのに、同規則四条一項但書の規定を適用して、本
件を管轄権のない大阪家庭裁判所に移送したのは不当である旨主張する。しかしな
がら、本件のようないわゆる家事調停事件が相手方の住所地または当事者が合意で
定める家庭裁判所の管轄に属することは同規則一二九条の明定するところであり、
これが、抗告人の主張するように、被相続人の住所地または相続開始地の家庭裁判
所の管轄に属するものでないことは右規定に照らして明白である。したがつて、原
裁判所を管轄家庭裁判所とすることの合意の存在を認めるに足る別段の資料のない
本件においては、その管轄家庭裁判所は、相手方である前記B、同Cの住所地を管
轄する大阪家庭裁判所、もしくは、前記Dの住所地を管轄する徳島家庭裁判所であ
つて、原裁判所はこれにつき管轄権を有しないものといわなければならない。とこ
ろで、管轄権のない家庭裁判所が、事件の申立てを受けた場合、これを管轄家庭裁
判所に移送しなければならないことは同規則四条一項本文の定めるところであるか
ら、原裁判所が本件を管轄権のある大阪家庭裁判所に移送したのはもとより相当で
あるといわなければならない。抗告人の右主張は、家事調停事件の管轄の規定を誤
解したことによるものというべく、採用に由ないものである。
 なお、抗告人は、本件は、抗告人と前記相手方三名間に、前記Aの遺産について
さきに昭和三八年五月二四日成立した遺産分割の調停(原裁判所同年(家イ)第二
〇号事件)に記載もれの残余の分に関するもので、その大部分が兵庫県三原郡南淡
町に存在するのであるから、当然原裁判所において調停手続を進めるべきものであ
るのにかかわらず、原裁判所が右実情を無視し、本件を大阪家庭裁判所に移送した
のは不当である旨主張する。なるほど、同規則四条一項但書によれば、管轄権のな
い家庭裁判所は、事件処理<要旨>のため特に必要があると認めるときはみずから処
理することができる旨定められているけれども、右自庁処理について即時抗
告を認める明文の規定もないことに鑑みると、右必要性の有無の判断は、当該家庭
裁判所の専権に属し、自庁処理は勿論自庁処理をしないことについても不服申立を
許さない趣旨であるというべく、したがつて、事件の申立てを受けた管轄権のない
家庭裁判所が、自庁処理の必要性がないとして右規則四条一項本文に則り、管轄家
庭裁判所に事件を移送する旨の審判をした場合、当事者が、自庁処理の必要性のあ
ることを理由としてなす即時抗告の申立は、それ自体理由がないと解するのが相当
である。
 そうであるから、本件の場合、かりに抗告人主張のような事情があるとしても、
これをもつて原審判に対する不服申立ての事由となし得ないことは上記の通りであ
るから、抗告人の右主張も採用できない(もつとも、移送の審判があつても、それ
が管轄違いを理由とするものである場合、移送を受けた家庭裁判所は、右と別個の
理由、即ち事件の処理上適当であるとの理由により、他の家庭裁判所にさらに移送
することができるものと解すべきであるから、抗告人主張のような事情があれば、
本件の移送を受けた大阪家庭裁判所においてこれを考慮し、将来本件を原裁判所に
再移送することもあり得ようが、このことは、もとより本件と別個の問題であり、
それあるが故に抗告人の主張を正当とすることができないのはいうまでもない。)
 (三) よつて、主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 金田宇佐夫 裁判官 日高敏夫 裁判官 古崎慶長)

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