弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     被告人A同B同Cの本件各控訴を棄却する。
     原判決中被告人D同Eに関する部分を破棄する。
     被告人Dを罰金五千円に、同Eを罰金四千円に処する。
     被告人等が右罰金を完納することができないときは、金三百円を一日に
換算した期間当該被告人を労役場に留置する。
     原審における訴訟費用中証人F同Gに支給した分の二分の一は被告人D
の負担とし、証人Hに支給した分は被告人Eの負担とし、当審における訴訟費用は
被名人Dの負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は記録に編綴してある弁護人本田熊一名義の控訴趣意書の通りで
あるからここにこれを引用する。
 一、 控訴趣意第一点について、
 論旨は原判決が被告人Eを選挙運動の総括主宰者であり、被告人Aを選挙事務長
であると認定したのは重大なる事実誤認であるというにある。
 よつて記録を精査するに、原判決挙示の証拠を綜合すれば被告人Eが選挙運動を
総括主宰した事実を認めることが出来、この点原判決には何等事実誤認の違法はな
い。又、被告人Aが選挙事務長なりや否やは仮にこの点原判決に誤認があつたにし
ても刑事訴訟法第三八二条に言う判決に影響を及ぼすべき事実誤認に該当しない。
論旨は理由がない。
 一、 しかしながら、職権で調査するに、公職選挙法第二二一条第三項にいう
「公職の候補者」とは同法の規定にもとずく正式の立候補届出または推薦届出によ
り候補者としての地位を有するに至つ者を言い、未だ正式の届出をしないいわゆる
「立候補しようとする特定人」を包含しないものと解すべきところ(最高裁判所昭
和三五年二月二三日第三小法廷判決参照)、被告人Dの本件犯行はいずれも立候補
届出前の犯行であるばかりでなく告示前の犯行ですらあつて当時同被告人が右に言
う公職の候補者でなかつたことが明らかであるから、原判決が被告人Dは昭和三四
年七月二三日施行された香川県仲多度郡a町議会議員選挙に立候補当選したが、被
告人E等と共謀の上自己の当選を得る目的で同選挙の告示前である昭和三四年七月
一一日に原判示の供与をした旨認定し、被告人の右所為につき公職選挙法第二二一
条第三項を適用処断している原判決には法令の解釈適用を誤つた違法があり、右違
法は判決に影響することが明らかである。原判決中被告人Dに関する部分は弁護人
の量刑不当の論旨に対する判断をなす迄もなく破棄を免れ難い。
 一、 又職権を以て調査するに、選挙運動を総括主宰した者が公職選挙法第二二
一条第三項の適用を受けるのは<要旨>同人が総括主宰者たる身分ある場合において
同条第一項の罪を犯した時に限るものと言うべきところ、選挙運動の期間を
定めている公職選挙法第一二九条の趣旨等に鑑みれば同法第二二一条第三項の選挙
運動を総括主宰した者とは同法第一二九条に定められた選挙運動期間中にその選挙
運動を総括主宰した者の謂であつて立候補届出前、況して告示前には同条項に謂う
総括主宰者たる身分がある筈なく原判決が被告人Eの原判示所為につき公職選挙法
第二二一条第三項を適用処断したのは法令の解釈適用を誤つた違法があり判決に影
響を及ぼすことが明らかである。原判決中被告人Eに関する部分は弁護人の量刑不
当の論旨に対する判断をなす迄もなく到底破棄を免れ難い。
 一、 控訴趣意第二点中被告人A同B同Cに関する部分について、
 論旨は原判決の量刑不当を主張するものである。しかしながら本件犯行の罪質、
態様、回数その他被告人の地位経歴等一切の事情を考慮するに、原審が各被告人等
にその情状に応じそれぞれ主文掲記の罰金刑を科したのは相当であつて多額に失す
ると言い難いのみならず、公職選挙法第二五二条第一項を適用しない或はその期間
を短縮するという裁判をしなければ量刑重きに過ぎるということはない、論旨は理
由がない。
 よつて被告人A同B同Cに関する本件控訴は理由がないから刑事訴訟法第三九六
条によりこれを棄却するも、原判決中被告人D同Eに関する部分は同法第三九七条
第一項第三八〇条によりこれを破棄した上同法第四〇〇条但書により当裁判所は更
に判決する。
 原判決の確定した事実に法律を適用するに、被告人D同Eの原判示所為中物品供
与の点は公職選挙法第二二一条第一項第一号罰金等臨時措置法第二条第一項刑法第
六〇条に、事前運動の点は公職選挙法第二三九条第一号第一二九条罰金等臨時措置
法第二条第一項刑法第六〇条に各該当するところ、右供与と事前運動とはそれぞれ
一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、刑法第五四条第一項前段第一〇
条により重い供与の罪の刑に従い処断すべく所定刑中いずれも罰金刑を選択し、以
上は同法第四五条前段の併合罪であるから同法第四八条第二項により所定の罰金の
合算額の範囲内において被告人Dを罰金五、〇〇〇円に被告人Eを罰金四、〇〇〇
円に処し、被告人等が右罰金を完納することができないときは同法第一八条により
金三〇〇円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置すべく訴訟費用の負担
につき刑事訟法第一八一条第一項本文を適用し主文の通り判決する。
 (裁判長裁判官 三野盛一 裁判官 木原繁季 裁判官 伊東正七郎)

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