弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人榊原正毅、同榊原恭子の上告理由一について
 原審が確定したところによれば、(1) 訴外株式会社D工務店(以下「D工務店」
という。)は、昭和四六年六月九日被上告人からE建売住宅の新築工事を請負つた
(以下「本件建築請負契約」という。)、(2) 上告人は、D工務店に対し四八万
七〇〇〇円の約束手形金債権を有していたところ、これを保全するため、昭和四六
年七月三一日D工務店が被上告人に対して有していた本件建築請負契約に基づく工
事代金債権のうち四八万七〇〇〇円につき債権仮差押決定をえ、右決定は同年八月
二日第三債務者である被上告人に送達された、(3) 当時、被上告人はD工務店に
対し少くとも四八万七〇〇〇円の工事代金債務を負つていた、(4) 次いで、上告
人は、D工務店に対する右約束手形金の請求を認容した確定判決に基づき、右仮差
押中の債権についての債権差押及び取立命令をえ、右命令は同年一〇月三〇日、被
上告人に送達された、(5)ところが、D工務店は、これより先の昭和四六年八月下
旬ごろには建築現場に来なくなり、同年九月一〇日までには全工事を完成すること
を約しながらこれを履行せず、経営困難により工事を完成することができないこと
が明らかとなつたため、被上告人は、右同日、D工務店に対し口頭で本件建築請負
契約を解除する旨の意思表示をした、というのである。
 原審は、右事実関係に基づき、本件建築請負契約がD工務店の債務不履行を理由
に解除されたことにより、D工務店の被上告人に対する工事代金債権も消滅したと
して、上告人の差押にかかる前記四八万七〇〇〇円の工事代金債権についての本件
取立請求を排斥した。
 しかしながら、建物その他土地の工作物の工事請負契約につき、工事全体が未完
成の間に注文者が請負人の債務不履行を理由に右契約を解除する場合において、工
事内容が可分であり、しかも当事者が既施工部分の給付に関し利益を有するときは、
特段の事情のない限り、既施工部分については契約を解除することができず、ただ
未施工部分について契約の一部解除をすることができるにすぎないものと解するの
が相当であるところ(大審院昭和六年(オ)第一七七八号同七年四月三〇日判決・
民集一一巻八号七八〇頁参照)、原判決及び記録によれば、被上告人は、本件建築
請負契約の解除時である昭和四六年九月一〇日現在のD工務店による工事出来高が
工事全体の四九・四パーセント、金額にして六九一万〇五九〇円と主張しているば
かりでなく、右既施工部分を引き取つて工事を続行し、これを完成させたとの事情
も窺えるのであるから、かりにそのとおりであるとすれば、本件建築工事は、その
内容において可分であり、被上告人は既施工部分の給付について利益を有していた
というべきである。原判決が、これらの点について何ら審理判断することなく、被
上告人がした前記解除の意思表示によつて本件建築請負契約の全部が解除されたと
の前提のもとに、既存の四八万七〇〇〇円の工事代金債権もこれに伴つて消滅した
と判示したのは、契約解除に関する法令の解釈適用を誤つたものであり、その誤り
は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄
を免れない。そして、叙上の点についてさらに審理を尽くす必要があるから、本件
を原審に差し戻すのが相当である。
 よつて、その余の上告理由に対する判断を省略し、民訴法四〇七条に従い、裁判
官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    環       昌   一
            裁判官    横   井   大   三
            裁判官    寺   田   治   郎

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