弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成14年11月21日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成12年(行ウ)第1号 損害賠償請求事件(甲事件)
平成12年(行ウ)第8号 損害賠償請求事件(乙事件)
(口頭弁論終結日 平成14年9月20日)
判決
主文
 1 原告の請求をいずれも棄却する。
 2 訴訟費用は甲事件,乙事件を通じて原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告の請求
 (甲事件)
  (1) 被告は,六日町に対し,金582万7500円及び平成11年12月11日から支払済み
に至るまで年5分の割合による金員を支払え。
  (2) 訴訟費用は被告の負担とする。
  (3) (1)につき仮執行宣言
 (乙事件)
  (1) 被告は,六日町に対し,金308万5950円及び平成11年12月11日から支払済み
に至るまで年5分の割合による金員を支払え。
  (2) 訴訟費用は被告の負担とする。
  (3) (1)につき仮執行宣言
 2 被告の答弁
 (甲事件)
  (1) 原告の請求を棄却する。
  (2) 訴訟費用は原告の負担とする。
 (乙事件に係る本案前の答弁)
  (1) 本件訴えを却下する。
  (2) 訴訟費用は原告の負担とする。
 (乙事件に係る本案の答弁)
  (1) 原告の請求を棄却する。
  (2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 事案の概要
   新潟県南魚沼郡六日町(以下「六日町」という。)はAとの間でB小学校屋体棟(以
下「本件建物」という。)の解体工事契約(請負代金額764万4000円)を締結した
が,工事に着手した後に本件建物にアスベストが使われている可能性のあること
が原告からの指摘で判明したため,六日町は,Aに対し,解体工事を中断してアス
ベスト粉じんの飛散防止のために解体箇所をシートで覆う措置をとらせ,平成11年
7月1日,同社との間で仮囲い工事及び覆い工事に関する変更契約を増額代金
582万7500円で締結し,同年10月20日に仮囲い破損箇所の復旧費用等を内容と
する再変更契約を増額代金308万5950円で締結した。
   原告は,上記変更契約及び再変更契約は違法であると主張し,六日町町長である
被告に対し,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの。以下同じ。)
242条の2第1項4号前段に基づいてその工事費582万7500円(甲事件)及び308
万5950円(乙事件)の損害賠償を求めている(附帯請求は両工事の代金支出後の
日である平成11年12月11日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延
損害金)。
 1 前提となる事実(以下の事実のうち,証拠等を掲記したもの以外は当事者間に争い
のない事実である。)
  (1) 原告は,六日町の住民であり,被告は,町長である。
  (2) 被告は,六日町を代表して,平成11年5月20日,Aとの間で,本件建物の解体撤
去工事(以下「本件工事」という。)に係る請負契約を代金764万4000円,完成期
限同年6月30日で締結した(以下「本件工事契約」という。)〔請負代金額につき
《証拠略》〕。
    同工事は,同月31日に開始された。
  (3) 原告及び新潟県教育庁の指摘により,本件建物の天井に吹き付けられているロ
ックウールには,アスベスト(石綿)が含まれている可能性があることが判明した
ため,六日町は,平成11年6月3日,Aに指示し,本件工事を一時中止させた。
  (4) 平成11年7月1日,被告は六日町を代表して,Aとの間で,アスベスト粉じんの飛
散を防止するための仮囲い工事及び解体部覆い工事により,本件工事契約の
代金を582万7500円増額するとともに完成期限を同年10月31日に延長した(以
下「本件変更契約」という。)〔《証拠略》〕。
  (5) 平成11年7月19日,六日町は,Cとの間で,本件建物のアスベストを除去する工
事請負契約を締結した〔《証拠略》〕。
  (6) 平成11年10月20日,被告は六日町を代表して,Aとの間で,下記アないしカを
理由として本件工事契約の代金を308万5950円増額する旨の契約を締結した
(以下「本件再変更契約」という。)〔《証拠略》〕。
   ア 風雨による仮囲い(プール脇)及び解体部覆い(切断部・その他)の部分復旧費

   イ 工事中止による待機料(1日分)
   ウ 工事中止時・アスベスト除去前及びアスベスト除去後の重機運搬費用
   エ 解体部覆い部の一部単管パイプ全損費用
   オ 仮囲い(4か月)及び解体部覆い(3か月)の足場損料の追加
   カ アスベスト除去工事で実施した天井仕上材撤去に係る費用の減少
  (7) 六日町は,Aに対し,本件工事契約に係る代金のほか本件変更契約及び本件
再変更契約に係る代金を平成11年12月10日までに支払った〔弁論の全趣旨〕。
  (8) 原告は,平成11年10月20日,本件変更契約締結及びそれによる582万7500円
の支出は違法ないし不当であると主張し,六日町監査委員に対し,監査請求を
した〔《証拠略》〕。これに対し,六日町監査委員は,原告の監査請求を棄却する
旨の決定をし,同年12月16日付けでこれを原告に通知し,原告は,同月17日に
これを受領した〔《証拠略》〕。
    原告は,平成12年1月17日,甲事件に係る訴えを提起した(なお,出訴期間につ
いては,監査の結果の通知があった日から30日目に当たる平成12年1月15日
は土曜日であるから,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法95条3項により,同月17
日に満了することになる。)。
  (9) また,原告は,平成12年4月14日,本件再変更契約締結及びそれによる308万
5950円の支出も違法ないし不当であると主張し,六日町監査委員に対し,監査
請求をした〔《証拠略》〕。これに対し,六日町監査委員は,原告の監査請求を棄
却する旨の決定をし,同年6月9日付けでこれを原告に通知し,原告は同月10日
にこれを受領した〔《証拠略》〕。
    原告は,平成12年7月10日,乙事件に係る訴えを提起した(なお,出訴期間につ
いては,甲事件と同様,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法95条3項により,平成
12年7月10日に満了することになる。)。
 2 争点及び当事者の主張
   原告は,本件変更契約及び本件再変更契約の締結は地方自治法2条14号等に違
反する違法な契約であると主張し,六日町を代表してこれらの契約を締結した被告
に対し,地方自治法242条の2第1項4号前段に基づき,本件変更契約(甲事件)及
び本件再変更契約(乙事件)により増額された代金の六日町への支払を求める。
   これに対し,被告は,乙事件の訴えは適法な監査請求の前置を欠く違法な訴えで
あると主張して却下を求め,さらに,本件変更契約及び本件再変更契約の締結に
は違法はないと主張する。
   したがって,本件の争点は,
  (1) 乙事件に係る訴えが適法な監査請求を経た適法な訴えであるか否か(争点1)
  (2) 本件変更契約及び本件再変更契約の締結が違法であるか否か(争点2)
  であり,争点に関する当事者の主張は以下のとおりである。
  (1) 争点1(乙事件に係る訴えが適法な監査請求を経た適法な訴えであるか否か)
について
  (被告の主張)
    原告は乙事件に係る訴えにおいて,本件再変更契約の理由のそれぞれについて
支出すべきでない理由を個々に挙げて支出の違法性を主張する。
    しかし,原告の監査請求は,ほかの契約と重複しているということを理由としてい
たのであるから,原告が主張する違法事由について監査委員の判断は行われ
ていない。
    したがって,乙事件に係る訴えは監査委員の監査を経ないで行われたものであっ
て,不適法な訴えである。
  (原告の主張)
    監査請求の対象とした行為又は怠る事実と住民訴訟において審理の対象となる
行為等との間に同一性があれば適法な監査請求を経た適法な訴えというべきで
あり,個々の違法事由について監査委員の判断を経たことまでは必要とされて
いない。
    本件ではこのような同一性が認められるから,適法な監査請求の前置を経た適
法な訴えである。
  (2) 争点2(本件変更契約及び本件再変更契約の締結が違法であるか否か)につい

  (原告の主張)
    本件工事契約は後記アのとおり違法な契約であり,本件変更契約及び本件再変
更契約の締結は,後記イウの各(ア)(イ)のとおり,(ア)本件工事契約の違法性を
承継し,又は(イ)不必要な工事であって違法である。なお,本件工事契約の違法
性については,その違法性を承継することにより本件変更契約及び本件再変更
契約が違法になるとの限度で主張するものであり,本件工事契約の締結が違法
であることに基づいて本件損害賠償請求をするものではない。
   ア 本件工事契約の違法性
     本件建物にはアスベストが使用されていたのであるから,大気汚染防止法,環
境基本法,労働安全衛生規則等に従い,アスベストに対する管理を行い,こ
れを除去した上で解体工事を行わなければならなかった。
     しかし,被告は,原告や入札関係者からの指摘があったにもかかわらず,本件
建物にアスベストが使用されていることを看過して,アスベストに対する管理・
除去等を欠く本件工事契約を締結したものである。
     地方公共団体は,法令に違反してその事務を処理してはならず,これに違反し
て行った地方公共団体の行為はこれを無効とするとされている(地方自治法2
条16項,17項)から,本件工事契約は違法との評価を免れない。
   イ 本件変更契約の違法
    (ア) 前記アのとおり,本件工事契約は違法であるが,本件工事契約を適法に締
結していれば本件変更契約は不要であった。
      本件変更契約に係る費用は,地方自治法242条1項,243条1項により,被告
が償うべきものであり,違法行為の後始末のための契約であるから,本件
変更契約は違法である。
    (イ) 本件変更契約の内容である仮囲い工事及び解体部覆い工事は,下記のと
おり,いずれも本件工事契約等と重複する不要な工事であり,六日町に不
必要な支出をさせるものであるから,①地方公共団体は,その事務を処理
するに当たっては,最少の経費で最大の効果を挙げなければならないと規
定する地方自治法2条14項,②地方公共団体の経費は,その目的を達成
するための必要かつ最少の限度をこえて支出してはならないと定める地方
財政法4条2項に反する違法な契約である。
     a 仮囲い工事について
       シートフェンスの設置は,本件工事の施行に当たって危険防止,騒音防止等
の観点から当然行わなければならないものであり,本件工事契約自体に
含まれるものである。
     b 解体部覆い工事について
       本件工事契約締結前に本件建物にアスベストが使用されているかどうかの
調査を行い,本件工事に着手する前にアスベスト除去工事を済ませてお
けば不要であった。
       また,六日町がCとの間で締結したアスベストを除去する工事請負契約に含
まれるもので不要なものである。
   ウ 本件再変更契約の違法
    (ア) 前記イ(ア)同様,本件再変更契約に係る費用は,被告が償うべきものであ
り,違法行為の後始末のための契約であるから,本件再変更契約は違法で
ある。
    (イ) 本件再変更契約の内容である仮囲い復旧の工事等は,下記のとおり,いず
れも本件工事契約等と重複する不要な工事であり,その費用を六日町が負
担するとする本件再変更契約は,前記イ(イ)同様,地方自治法2条14項,地
方財政法4条2項に反する違法な契約である。
     a 風雨による仮囲い(プール脇)及び解体部覆い(切断部及びその他)の部分
復旧工事費用,解体部覆い部の一部単管パイプ全損費用,並びに仮囲
い及び解体部覆いの足場損料の追加について
       本件工事の工期が平成11年10月31日までに延長されたのはその間にアス
ベスト除去工事を行うためであり,本件変更契約の時点で,本件工事は
相当期間待機を余儀なくされることや仮囲い等が長期間存置することが
見込まれたはずであるから,その期間耐久する資材を使用すべきであ
り,改めて本件再変更契約により復旧工事や足場損料,単管パイプ全損
について六日町が費用を負担をする必要はない。
     b 工事中止による待機について
       本件変更契約による延長後の工期は平成11年10月31日であるから,その
期間内にある同年6月3日の待機料は本件変更工事契約の増額代金額
に含まれているはずである。
     c 工事中止時・アスベスト除去前及びアスベスト除去後の重機運搬に係る費用
について
       本件工事はCが行うアスベスト除去工事の間を縫って行われることは明白で
あって,これによる重機の搬出入の増加も予想の範囲内であるから再変
更契約でその費用を六日町が負担する必要はない。
  (被告の主張)
   ア 本件工事契約に違法性がないことについて
     本件建物は昭和45年3月に完成し,保温・吸音効果の向上を目的として天井に
吹き付けロックウール(使用した商品の名称は,「スプレーテックス」であっ
た。)を使用した。
     昭和62年7月ころ,本件建物にアスベストが吹き付けられているとの指摘が原
告からなされ,同月10日に教室及び体育館において浮遊物の調査を行った
が,同月24日付けの測定結果報告によるとアスベストは含有されていないと
のことであった。
     また,同月17日,新潟県教育庁財務課長から県内の各市町村教育委員会に宛
て公立学校の建物について吹き付けアスベストが使用されているか否かを報
告するようにとの依頼があったが,その際に添付された書面によると,「スプレ
ーテックス」は吹き付けアスベストではない旨の記載があった。
     このように,被告ら六日町の関係者はいずれも本件建物に使用されていた「ス
プレーテックス」はアスベストではないと認識していたのであるから,そのような
認識を前提として締結された本件工事契約に何ら違法な点はない。
   イ 本件変更契約及び本件再変更契約に違法性がないことについて
     本件工事契約を締結し,本件工事に着手した後の平成11年6月2日に新潟県教
育庁財務課からの連絡により「スプレーテックス」にアスベストが含まれている
可能性があることを知り,アスベスト除去に必要な本件変更契約及び本件再
変更契約を締結したものであり,これらに違法性はない。
     また,原告の主張するような本件変更契約・本件再変更契約と本件工事契約や
Cが行ったアスベスト除去工事との間に重複する点はない。
第3 当裁判所の判断
 1 争点1(乙事件に係る訴えが適法な監査請求を経た適法な訴えであるか否か)につ
いて
   地方自治法242条の2第1項は,住民訴訟につき,普通地方公共団体の住民が同
法242条1項の規定によって監査請求をした場合において,監査委員の監査の結
果に不服があるときに住民訴訟を提起することができるものとし,監査請求を前置
すべき旨を定める。
   この住民監査請求の制度は,住民訴訟の前置手続として,まず当該普通地方公共
団体の監査委員に住民の請求に係る行為又は怠る事実について監査の機会を与
え,当該行為又は怠る事実の違法,不当を当該普通地方公共団体の自治的,内
部的処理によって予防,是正させることを目的とするものであると解せられ,監査
委員は,監査請求の対象とされた行為又は怠る事実につき違法,不当事由が存す
るか否かを監査するに当たり,住民が主張する事由以外の点にわたって監査する
ことができないとされているものではなく,また,請求内容に拘束されることなく,自
由に必要な措置を講ずべきことを勧告できるものと解される。そして,地方自治法
242条の2第1項は,「普通地方公共団体の住民は,前条第1項の規定による監査
請求をした場合において,・・・裁判所に対し,同条第1項の請求に係る違法な行為
又は怠る事実につき,訴えを持って次の各号に掲げる請求をすることができる。」と
規定し,住民訴訟は監査請求の対象とした違法な行為又は怠る事実についてこれ
を提起すべきものとされているのであって,監査の結果の当否を争うものではない
から,当該行為又は当該怠る事実について監査請求を経た以上,訴訟において,
監査請求の理由として主張した以外の違法事由を主張することは何ら禁止されて
いないものと解される(最高裁昭和62年2月20日第二小法廷判決・民集41巻1号
122頁参照)。
   これを本件についてみるに,《証拠略》によると,原告は,監査請求において,「六
日町町長Dは,平成11年10月20日,B小学校屋体棟解体撤去工事の建設工事変
更契約を請負代金3,085,950円でAと結びました。契約内容について調査した結
果,平成11年5月20日にAと結んだ建設工事請負契約書の内容と重複していると
思われます。」と記載しており,本件再変更契約の違法ないし不当を問題としてい
ることは明らかである。
   そうすると,本件再変更契約について監査請求を経ているのであるから,乙事件に
係る訴えが適法な監査請求を経た適法な訴えであることは明らかであり,被告の
主張には理由がない。
 2 争点2(本件変更契約及び本件再変更契約の締結が違法であるか否か)について
  (1) 地方自治法242条の2の規定に基づく住民訴訟は,普通地方公共団体の執行
機関又は職員による同法242条1項所定の財務会計上の違法な行為又は怠る
事実の予防又は是正を裁判所に請求する権能を住民に与え,もって地方財務
行政の適正な運営を確保することを目的とするものである。そして,同法242条
の2第1項4号の規定に基づく代位請求に係る当該職員に対する損害賠償請求
訴訟は,このような住民訴訟の一類型として,財務会計上の行為を行う権限を有
する当該職員に対し,職務上の義務に違反する財務会計上の行為による当該
職員の個人としての損害賠償義務の履行を求めるものにほかならない。したが
って,当該職員の財務会計上の行為をとらえて同号の損害賠償責任を問うこと
ができるのは,たとえこれに先行する原因行為に違法事由が存在する場合であ
っても,その原因行為を前提としてされた当該職員の行為自体が財務会計法規
上の義務に違反する違法なものであるときに限られると解するのが相当である
(最高裁平成4年12月15日第三小法廷判決・民集46巻9号2753頁参照)。
    原告は,本件工事契約が違法であることを前提として,本件工事契約を締結した
際に本件建物にアスベストが使用されていることを看過していたことから必要と
なった本件変更契約及び本件再変更契約は当然に違法となると主張するようで
ある。しかし,上記のとおり,住民訴訟において地方自治法242条の2第1項4号
前段に基づいて損害賠償請求を行うことができる根拠は,当該職員に財務会計
法規上の義務違反が認められるからであって,本件訴えの成否を検討するに当
たっては,原告が違法な契約の締結であると主張している本件変更契約及び本
件再変更契約を締結するに当たって,被告に財務会計法規上の義務違反が存
在するか否かという観点から検討すべきである。
    この点について,原告は,上記の理が妥当するのは先行行為が地方公共団体の
長から独立した権限を有する行政委員会のような者によってなされた場合に限
られる旨の主張をする。しかし,先行行為がどのような者によって行われたかと
いうことは,財務会計法規上いかなる範囲の義務を負うかにかかわるにすぎな
いというべきであり(例えば,違法な処分を前提とした契約の締結を想定した場
合,①契約の締結を行う当該職員に処分を取り消す権限がなければ,財務会計
法規上,処分を取り消す義務までは認められず,契約の締結に財務会計法規上
の義務違反がないとされるが,②その権限があれば,財務会計法規上,処分を
取り消す義務が認められて,契約の締結に財務会計法規上の義務違反がある
とされることがあり得る。),当該職員が財務会計行為を行う際に直面する財務
会計法規上の義務の違反がないにもかかわらず地方自治法242条の2第1項4
号前段による損害賠償義務を負うとすることは,当該職員に財務会計法規上の
義務以上の義務を課すものであって相当ではない。
    そこで,以下,本件変更契約及び本件再変更契約の締結に当たって,被告に上
記のような財務会計法規上の義務違反があるか否かについて検討する。
  (2) 前記第2の1記載の事実に証拠(《証拠略》及び以下に記載のもの。)及び弁論
の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
   ア アスベストの定義等(《証拠略》)
     アスベスト(石綿)とは,繊維状の鉱物を綿のようにもみほぐしたものであり,工
業的に使われているのは蛇紋岩系のクリソタイル(白石綿),角閃石系のアモ
サイト(茶石綿),及びクロシドライト(青石綿)である。吹き付けアスベストと
は,アスベストへ結合材を一定量混入し,水を加え,壁・天井等の防耐火・吸
音性能等を確保するために吹き付け施工されたものである。吹き付けアスベ
ストは,昭和50年の特定化学物質等障害予防規則の改正に伴い,それ以降
は施工されていない。昭和50年以前に施工された吹き付けアスベストについ
ては,劣化や損傷のある吹き付けアスベスト層から発生する粉じんによる,建
物使用者等の健康及び環境への影響並びに吹き付けアスベスト層の除去等
の作業時に発生する粉じんによる施工業者等への健康及び環境への影響が
指摘されている。
     ロックウール(岩綿)とは,珪酸質岩石,玄武岩,石灰石,スラグなどを熱溶解さ
せ,これを繊維化したものであり,吹き付けロックウールとはロックウールへ結
合材を一定量混入し,水を加え,壁・天井等の防耐火・吸音性能等を確保する
ために吹き付け施工されたものである。昭和55年以前に生産された吹き付け
ロックウールにはアスベストが含有されているものがあった。ただし,アスベス
トを含有するとされている吹き付けロックウールの商品であっても一部の商品
ではアスベストを含有していないケースもあった。
   イ 本件建物への吹付材について(《証拠略》)
     本件建物は,昭和45年3月に完成したものであるが,その講堂及び体育館の壁
及び天井,並びに控室の天井には,吹き付けロックウール(商品名「スプレー
テックス」)が使用されていた。
   ウ 昭和62年の浮遊調査実施について(《証拠略》)
     六日町教育委員会は,昭和62年7月ころ,原告からB小学校の校舎及び本件建
物の天井にアスベストが吹き付けられているとの指摘を受けたため,Eに依頼
し,同月10日に,校舎内の教室及び本件建物内で調査を行った。この調査
は,作業環境測定基準(昭和51年労働省告示第46号)に従い,サンプリング
(標本採集)を行い,Eにおいて,アスベストの繊維が浮遊しているか否かを測
定,分析する方法で行われた。サンプリングは,校舎の2階,3階,4階に位置
する教室,本件建物(講堂及び体育館)で行われた。
     Eは,採集した標本を測定した結果,いずれからもアスベストが検出されなかっ
た旨を同年7月24日付けで六日町教育委員会に報告した。
   エ 文部省からの依頼により昭和62年7月に行われた公立学校建物仕上げ調査及
び本件建物にアスベストが使用されているかどうかについての六日町の判断
について(《証拠略》)
     新潟県教育庁は,文部省から,昭和51年以前に建設された非木造建物を保有
する公立の小学校等を調査対象として,壁,天井の表面仕上げのうち,「吹き
付け石綿」が使用されていると判断される室数の調査依頼を受けた。そこで,
新潟県教育庁財務課長名の昭和62年7月17日付け「公立学校建物仕上げ調
査について(依頼)」と題する書面により,各市町村教育委員会に宛てて,調
査方法等を指定して調査依頼がなされた。
     上記書面に添付されていた「吹き付け石綿の判定方法」と題する書面では,設
計図書を参照し,特記仕様書,矩形図等により吹き付け石綿が使用されてい
るか判断すべき旨が記載されていたが,さらに,「次の製品は吹き付け石綿で
ないので注意すること」として,「スプレーテックス」が挙げられていた。ここで
は,昭和55年以前に製造された吹き付けロックウールにはアスベストが含ま
れている可能性があるとの注記等はされていなかった。
     六日町は,スプレーテックスが吹き付け石綿ではないとの上記記載および前記
ウの調査結果から,本件建物に使用されているものがアスベストではないと判
断した。
     なお,昭和62年7月23日付けの新潟日報は,アスベストが吹き付けられている
との疑いがもたれていた本件建物に使用されていたのはアスベストではなくて
ロックウールであることが判明した旨の記事を載せ,さらに,「スプレーテックス
はFの商品。同社や業界団体のロックウール工業会(東京)によれば,石綿と
岩綿は外見や用途が似ているのでよく混同されるが,石綿が天然鉱産物で細
い繊維なのに対して,岩綿は工業製品で繊維径も百倍ぐらい太い。このため
危険性もはるかに低く,肺癌などの発生例はないという。」と報じた。
     その後,①同年11月18日付けで,新潟県教育庁財務課長から六日町教育委員
会教育長に宛てて,「アスベスト(石綿)による大気汚染の未然防止等につい
て(通知)」が,②昭和63年7月19日付けで同課長から,同教育長に宛てて,
「吹き付けアスベスト(石綿)粉じん飛散防止処理技術に関する参考資料につ
いて(通知)」が,それぞれ,文部省,環境庁,労働省等の関係行政機関が作
成した関係文書を添付して発出されたが,いずれの文書にもロックウールにア
スベストが含まれている可能性を指摘するものはなかった。
   オ 本件工事契約の締結に至る経過について(《証拠略》)
    (ア) 六日町では,本件建物を解体することとし,平成11年5月10日に請負工事
執行伺が起案された。
      同月14日には,B小学校において本件工事に係る現地説明会が実施された。
その際,Gの担当者から,本件建物に使用されている天井吹付材はアスベ
ストではないかとの質問がされたが,現地説明会に立ち会っていた六日町
教育委員会学校教育課主任のH主任は,前記エの新聞報道により,本件
建物に使用されていたスプレーテックスがロックウールであり,アスベストで
はないと考えていたため,その旨返答した。H主任は,その日の夕方に,念
のため昭和62年当時の資料を確認した。
    (イ) 平成11年5月17日に,再び,Gの担当者から,本件建物に使用されているス
プレーテックスはアスベストではないのかとの問い合わせがされたが,H主
任は,アスベストではなくロックウールであると返答した。
    (ウ) 本件工事について,Aほか4社から六日町に対して見積書が提出された。そ
の業者と見積金額は次のとおりであった。①I株式会社,900万円,②A,
728万円,③株式会社J,1860万円,④有限会社K,1760万円,⑤G,750
万円。いずれの業者も本件建物にはアスベストが使用されていないとの前
提でアスベスト粉じんの飛散防止のための措置は講じない内容の見積書を
提出していた。
      六日町は,平成14年5月20日,見積金額がもっとも低額であったAと本件工事
契約を締結した。
    (エ) Aの見積の内容は,①体育館・鉄骨造(本体),②体育館・コンクリート造(便
所,用具庫),③渡り廊下・コンクリート造,④渡り廊下・木造,⑤中庭倉庫・
ブロック造,⑥付帯構造物・国旗掲揚塔,⑦体育館ステージ下倉庫内不要
備品の解体撤去であり,工事費698万円,諸経費30万円の合計728万円
(消費税を含めて764万4000円)であった。
    (オ) 本件工事契約の仕様書では,バリケード等の設置により工事区域を明確に
することされていた。また,Aが六日町町長に提出した特定建設作業実施届
出書(騒音規制法14条の規定により届け出るもの)では,騒音防止の方法
として,作業部の周囲をシートで囲むとしていた。
   カ 本件工事の開始と中止について(《証拠略》)
    (ア) 本件工事の開始
      Aは,平成11年5月20日から準備工事を開始し,同月31日から本件工事(解
体工事)を開始した。
    (イ) 本件工事の中止に至る経緯
      平成11年6月2日,原告は,本件工事が行われていることを知り,午前10時30
分ころにB小学校校長に,午前11時ころには六日町総務課のL課長に対
し,本件建物にはアスベストが使用されていることを指摘した。
      これに対し,L課長は,本件建物に使用されているのはアスベストではなくロッ
クウールである旨の回答をした。
      そこで,原告は,新潟県教育庁に対し,本件建物にはアスベストが使用されて
いることを指摘したところ,同日午後2時ころ,同庁財務課のM主任がH主
任に電話をし,原告から本件建物にアスベストが使用されている指摘があ
ったことを伝え,実態はどうなっているのかを問い合わせた。これに対し,H
主任は,昭和62年の文部省調査の調査要項では,本件建物に使用されて
いる「スプレーテックス」はアスベストではなくロックウールであるとされてい
たことを説明し,M主任は一旦了承した。
      しかし,同日午後5時ころ,再び,M主任はH主任に電話をし,昭和55年以前
の吹き付けロックウールにはアスベストが含まれている場合もあるので調
査を行った方がよい旨の指摘をし,建設省住宅局建築指導課・建設大臣官
房官庁営繕部監督課監修に係る「既存建築物の吹付けアスベスト粉じん飛
散防止処理技術指針・同解説」の抜粋をファックスで送信した。そこには,
「アスベストを含有する吹付けロックウールの商品名」として,「スプレーテッ
クス」が掲げられていた。
      H主任は,M主任からの上記指摘を受け,同日午後5時30分ころから,六日町
総務課長等と協議を行い,町長である被告に経過を説明し,対応について
の最終的な判断を仰ぐために,翌同月3日の早朝に再協議を行うこととし
た。
      同月3日,午前7時30分から,被告,助役,総務課長らが協議を行い,本件工
事を同日から一時中止し,保健所の指示を仰いで対策をとることとした。そ
こで,同日午前9時ころ,H主任が学校教育課長及び同課長補佐と一緒に
六日町保健所へ赴き,経過を説明すると共に,保健所の職員から,スプレ
ーテックスは資料によるとアスベストの含有が疑わしい吹き付け材であり,
メーカーに確認をした方がよいこと,アスベストの含有率1パーセントを超え
るロックウールは現在ではアスベスト製品として取り扱われていること,アス
ベストの含有の有無が明らかになるまでの間は粉じん飛散防止のために周
囲にフェンスを設置し,解体箇所はシートで覆うようにとの指導を受けた。
      そこで,H主任は,Aに対し,即日(平成11年6月3日)工事の中止を命じ,ま
た,本件工事の施工範囲の外周にブルーシートによるフェンスを設置するこ
と(仮囲い工事),解体部をブルーシートで覆い,接合部はガムテープによっ
て目張りすること(覆い工事),これらに係る経費についての見積書を提出
することを指示した。Aは,H主任の指示に応じて,仮囲い工事及び覆い工
事を実施した。
      また,H主任は,スプレーテックスの製造業者であるN株式会社に問い合わせ
たところ,昭和50年4月以前に製造されたスプレーテックスにはアスベスト
が5パーセントから10パーセント程度含まれているとの回答を得た。そして,
同社にサンプル検査を依頼した。
      このサンプル検査の結果,本件建物の吹き付けロックウールにアスベストであ
るクリソタイル(白石綿)6パーセントが含有することが判明し,N株式会社か
ら六日町教育委員会に対し,平成11年6月8日付けの書面で報告され,六
日町教育委員会は,同月12日にこれを受領した。
   キ 本件変更契約の締結について(《証拠略》)
    (ア) Aの見積書の提出等
      Aは,H主任の指示に従い,仮囲い工事及び覆い工事に係る経費の見積書を
提出した。
      仮囲い工事に関する費用については,当初の本件工事契約においても任意
仮設として施工されているため,H主任は,この任意仮設費を算出して,本
件変更契約における仮囲い工事費から控除することとした。そこで,H主任
は,財団法人経済調査会発行の「建築施工単価」を参照して,任意仮設費
用相当額が約45万9000円であると算出した(高さ3メートル,存置期間3か
月のシート張り工事の新潟における単価が1メートルあたり1620円であり,
本件の仮囲いは272メートルに渡って施工されたため,1620円×272メート
ル=44万0640円に,本件工事契約における経費率約4.3%を加えて45万
9000円と算出した。)。そして,この計算に基づき,Aと本件変更契約を締結
する際に,50万4520円を値引きとして控除することとした。
      また,シートフェンスの設置については,本件変更契約の締結時には必要期
間が明確となっていなかったため,足場損料は当面1か月分とし,後に締結
される本件再変更契約で清算することとした。
    (イ) 本件変更契約の締結
      平成11年7月1日,被告は六日町を代表して,Aとの間でアスベスト粉じんの飛
散を防止するため,下記a及びbを内容とする本件変更契約(増額代金額
582万7500円)を締結した。増額代金額は,本件工事契約の直接工事費
698万円に下記a及びbの工事金額を加えた直接工事費合計1224万4800
円から前記(ア)の50万4520円を値引きし,諸経費108万9720円及び消費
税64万1500円を加えた1347万1500円と本件工事契約の請負代金額764
万4000円との差額582万7500円である。
      本件変更契約では,ある程度の余裕をみて,完成期限を同年10月31日とし
た。
     a 仮囲い工事(工事金額218万3800円)
      ・ ブルーシートによる高さ4.5メートルのシートフェンスを設置する。
      ・ 基本的には枠組み足場とし,控柱は単管パイプとする。
     b 解体部覆い工事(工事金額308万1000円)
      ・ 解体部(講堂部分)脇に枠組足場とブルーシートによる高さ4.5メートルのシ
ートフェンスを設置し,上記足場から屋根軒先までを単管パイプ及びブ
ルーシートで覆う。
      ・ 講堂で屋根の残っている部分(中央部間仕切り壁から1スパン)は,単管パ
イプ及びブルーシートで側面を覆う。
      ・ 屋根陥没部は,単管パイプ及びブルーシートで覆う。
      ・ 基本的には枠組み足場とし,控柱は単管パイプとする。
      ・ ブルーシートの接合部はガムテープによる目張りを行う。
   ク アスベスト除去工事契約の締結及び同工事の施工について(《証拠略》)
     六日町は,平成11年6月19日,Cとの間で,本件建物のアスベスト除去工事に
係る工事請負契約を請負代金額4305万円で締結した。
     この工事の完成期限は,同年9月15日であり,Cは,見積書に,養生・清掃費
(材工共),換気設備費(除塵・負圧・換気),環境測定費,飛散防止剤費,除
去作業費,噴霧機材費,消耗品費,廃棄物運搬,諸経費及び作業のための
準備工事費を計上していた。また,Cは,足場や仕切面をAが設置したブルー
シートを利用して設置することとした。
   ケ 本件再変更契約の締結(《証拠略》)
     平成11年10月20日,被告は六日町を代表して,Aとの間で,下記(ア)ないし(カ)
を理由とする本件再変更契約(増額代金額308万5950円)を締結した。
    (ア) 仮囲い(プール脇)及び解体部覆い(切断部・その他)の復旧工事費用(増加
金額91万7000円)
      アスベスト除去工事の実施により工事期間が延長になったため,風雨により
破損した部分の復旧工事費用である。具体的には,同年9月末の強風によ
り,利用していたプール脇の日よけ用屋根の支柱が倒れたため復旧が必要
となった。また,梅雨の降雨により,水平部分のブルーシートに次第に水が
たまり,その重さにより単管パイプが破損したためその復旧も必要となっ
た。
    (イ) 工事中止による1日分の待機料(増加金額48万7800円)
      同年6月3日の早朝に本件工事の一時中止を決定したため,既に手配済みで
あった従業員6名,大工等作業員7名,重機(ユンボ,つかみ,ブレーカ各1
台,バケット2台),発電機及び箱ダンプ10トンを基準に算出した待機料。
    (ウ) 工事中止時・アスベスト除去前及びアスベスト除去後の重機運搬費用(増加
金額20万8000円)
      搬入・搬出を各1回とする当初契約以外で町の指示により生じた以下の搬入・
搬出に係る費用である。
     a 同月3日,工事中止命令後に,工事中止期間が長期になるための搬出
     b 同年8月上旬ころ,アスベスト除去工事着手のために解体済み部材を撤去す
る際の搬入・搬出
     c 同年10月初旬ころ,アスベスト除去工事完了後,本件工事再開時の搬入
    (エ) 解体部覆い部の一部単管パイプ全損費用(増加金額9万8500円)
      単管パイプがリースであったため,破損した場合には弁償しなければならない
ところ,一部に破損が生じたため,その相当代金額。
    (オ) 仮囲い(4か月)及び解体部覆い(3か月)の足場損料の追加(増加金額91万
7400円)
      本件変更契約では,損料を1か月分としていたため,本件工事完了までの足
場損料を追加した。その内訳は,以下のとおり。
     a 仮囲い工事に係る足場損料
       解体工事完了までの4か月分を追加(7月分から10月分)
     b 解体部覆い工事に係る足場損料
       アスベスト除去工事完了までの3か月分を追加(7月分から9月分)
    (カ) アスベスト除去工事で実施した天井仕上材撤去に係る費用の減少(減少金
額7万2800円)
      本件工事契約に含まれていた屋根下の鉄骨の下に貼ってあった天井仕上材
をアスベスト除去工事で実施したため,不要になった工事相当額を減額し
た。
  (3) 検討
    前記(1)に説示したとおり,当該職員の財務会計上の行為をとらえて地方自治法
242条の2第1項4号の損害賠償責任を問うことができるのは,当該職員の行為
自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られると解
するのが相当である。
    そこで,本件で被告がどのような財務会計法規上の義務を負うのか,また,本件
変更工事契約及び再変更工事契約の締結をしたことが財務会計法規上の義務
違反となるか否かを検討する。
   ア 本件変更契約について
    (ア) 前記(2)に認定したとおり,本件変更契約は,本件工事が開始した後に本件
建物にアスベストが使用されていることが判明したことから,アスベスト粉じ
んの飛散防止対策として,六日町がAに対し工事の中止と仮囲い工事及び
覆い工事を命じたことから発生した増加費用に関する契約であるところ,解
体中の建物にアスベストが使用されていることが判明した場合,その飛散
防止対策をとることは必要不可欠であるから迅速にAに対する仮囲い工事
及び覆い工事を命じたことは適切であったというべきである。
      そこで,上記の措置により発生した費用を六日町が負担することとした本件変
更契約を締結することが財務会計法規上の義務に違反しないかどうか検討
する。
      まず,本件工事契約は,六日町が本件建物にはアスベストが使用されていな
いという前提で締結したものであるから,私法上,Aが自らの費用と責任で
アスベスト粉じんの対策をとる義務を負うということはできない。そうすると,
本件のような場合に,被告がAの費用でアスベスト粉じんの対策を行わせ
る義務を負うものではなく,このような観点から本件変更契約の締結をして
はならないという財務会計法規上の義務を負っていると解することはできな
い。
      次に,原告が主張するように,結果的に本件建物にアスベストが使用されてい
ることを看過して本件工事契約が締結されていることから,被告に自らの費
用で仮囲い工事等のアスベスト対策をすべき財務会計法規上の義務があ
るか否かについて検討する。
     a 本件のように,アスベストの存在を看過してアスベストに対する対策を欠く解
体工事契約を締結したことによりその後にアスベストに対する対策が必
要となった場合に,当初の解体工事契約を締結した職員の費用でその対
策をとるべきであるとの財務会計法規上の義務があるとはいい難い。な
ぜなら,仮に当初からアスベストの存在が明らかであれば,当初の解体
工事契約でその対策のための費用が発生するのであるから,後に当該
有害物質の存在が判明したことによって必要となった費用の全てが損害
ということはできず,当初の解体工事契約をした職員に何らかの落ち度
があったとしてもその対策のために必要となる費用の全額を負担する義
務を負うものとは認められないこと,アスベストの存在が明らかになった
以上,早急にアスベスト粉じんの飛散防止対策をとる必要があり,損害
額の確定や当初の契約をした職員に対する請求等をしていると迅速な行
政事務処理を阻害することになるから,変更契約を締結する者にアスベ
ストの存在が明らかになった場合に,当初の解体工事契約の締結に何ら
かの落ち度があり,それによって地方公共団体に損害が発生したような
場合に別途損害賠償請求をすべき義務が生じうることは格別,当初の解
体工事契約を締結した者にその費用を支出させるべき財務会計上の義
務があるということはできないというべきである。そして,損害額を確定し
難い等の事情は当初の解体工事契約を締結した者と当該職員が同一で
ある場合でも異なることはないのであるから,そのような場合であっても
上記の理が妥当する。
       そうすると,本件でも,被告は仮囲い工事及び覆い工事を自らの費用で行わ
なければならないという財務会計法規上の義務はなく,本件変更契約の
締結について財務会計法規上の義務違反はないというべきである。
     b また,仮に,原告が主張するように本件工事契約の締結が違法である場合
には,本件変更契約も違法になると解することができるとしても,以下の
とおり,本件工事契約の締結には違法等が存在しないので,いずれにし
ても本件変更契約に違法性はないというべきである。
      (a) 前記(2)イ,エのとおり,本件建物に使用されていたのは「スプレーテック
ス」であったが,昭和62年に新潟県教育庁財務課長から各市町村教
育委員会に宛てて発出された文書に添付されていた書面に,本件建
物に使用されていた「スプレーテックス」はロックウールであってアスベ
ストではないと記載され,しかも,同文書には,昭和55年以前に製造さ
れた吹き付けロックウールにはアスベストが含有されている可能性が
ある旨の注記等もされていなかったのであるから,六日町としては,そ
の時点で本件建物に使用されていた「スプレーテックス」がアスベスト
ではないと判断することもやむを得ないものである。そして,前記(2)ウ
のとおり,同年7月ころに実施されたサンプリング調査においても,本
件建物内に浮遊するアスベストの存在は検出されなかったことも併せ
て考えてみると,六日町が本件建物にはアスベストが使用されていな
いと判断したことは合理的なものであるというべきである。さらに,前記
(2)エのとおり,その後,新潟県教育庁財務課長から送付された書類及
び添付資料にもロックウールにアスベストが含まれている可能性を指
摘するものはなかったのであるから,このような判断をそのまま維持し
たことにもなんら落ち度はないというべきである。
        そして,上記のような判断を前提として,本件工事契約の締結に当たって
も,本件建物にはアスベストが使用されていないことを前提としたので
あるから,本件工事契約を締結した被告は,財務会計法規上要求され
る注意義務を果たしたものというべきであり,本件建物にアスベストが
使用されていないことを前提として本件工事契約を締結したことが違
法な契約の締結になるということはできない。
      (b) この点について,原告は,本件工事契約の締結に先立って,Gの担当者
が本件建物にアスベストが使用されていることを指摘したことなどを主
張し,被告は本件建物にアスベストが使用されていることを知り得たの
であるから本件工事契約の締結が違法であるなどと主張する。
        しかし,前記(2)(オ)に認定したとおり,Gの担当者は本件建物にアスベスト
が使用されていないのかどうかを確認しただけであり,本件建物にア
スベストが使用されていることまでを指摘したものとは認め難い。仮に
Gの担当者が「スプレーテックス」がアスベストであることを明確に指摘
するのであれば,昭和55年以前に製造された吹き付けロックウールに
はアスベストが含まれている可能性があることを指摘し,また,その旨
の資料等を示すことが考えられるが,そのようなことをしたとの証拠は
なく,あくまでも確認の域を出なかったものと考えざるを得ない。そし
て,H主任においても,前記のとおり,新潟県教育庁から送付された文
書やアスベスト浮遊調査の結果を根拠としてアスベストが使用されて
いないと判断していたものであって,その判断には合理的な根拠があ
るというべきであるから,それらを覆すような資料等(例えば,「スプレ
ーテックス」はロックウールであるが,昭和50年以前に製造されたもの
にはアスベストが含まれている旨記載された文献や製造業者の報告
等)がない以上,これに応じなかったとしても財務会計法規上の注意義
務違反はないというべきである。
        また,原告は,本人尋問及び陳述書(《証拠略》)で昭和62年7月に実施さ
れたサンプリング調査の後,本件建物に使用されているのが「スプレ
ーテックス」であることを教えられ,製造会社に確認したところ,昭和50
年以前に製造された「スプレーテックス」にはアスベストが含まれてい
ることを知り,その結果を六日町教育委員会の教育長とO学校教育課
長に伝えた旨,また,平成9年の夏ころに教育長に「B小学校の天井に
吹き付けられている物質が何であるか分析してきますので,私に吹き
付けられている物質を100グラムください。」との申し入れをした旨を供
述する。原告が昭和62年7月ころ及び本件工事が開始された平成11
年6月2日に本件建物にアスベストが使用されている可能性を指摘した
ことに照らすと,原告が,その間にも本件建物についてアスベストが使
用されている可能性を指摘したことは認められるが,「スプレーテック
ス」にはアスベストが含まれていることを製造会社に問い合わせて確
認したことを教育長らに伝えたことについては,①原告自身はっきりし
ないと供述していること,②原告が平成9年9月22日に教育長に申し入
れたときに提出したとする書面には,「スプレーテックス」にアスベスト
が含まれていることには全くふれられていないこと(《証拠略》)にかん
がみると,原告が,「スプレーテックス」にアスベストが含まれていること
を具体的に指摘したとは認め難いし,そのような指摘を被告が認識し
ていたことを認めるに足りる証拠もない。
        さらに,原告は,六日町教育委員会の教育長がP教育長から引き継がれた
際に,本件建物のアスベスト対策をとるべき旨引き継がれたとの主張
をするが,教育長事務引継書(《証拠略》)にはそのような記載はなく,
この主張も認めることができない。
        その他,原告は,六日町がアスベストに関する参考資料を購入していなか
ったことから必要な注意義務を果たしていないかのような主張をする
が,いったん合理的な根拠をもってアスベストが使用されていないと判
断したのであるから,それ以上に参考資料等を検索する義務があると
するのは,不必要な調査を強いることとなり,地方公共団体の事務の
効率化の観点からも妥当でない。
      以上のとおり,本件変更契約を締結するに際し,被告には,Aや被告自らの費
用で本件変更契約を締結すべきとの財務会計法規上の義務は認められ
ず,本件変更契約の締結が違法であるということはできない。
    (イ) さらに,原告は,本件変更契約の内容をなす仮囲い工事及及び覆い工事は
本件工事契約と重複するなど不必要な工事であるから,本件変更契約は
地方自治法2条14項等に違反する違法な契約であると主張するので,この
点について判断する。
     a まず,原告は,シートフェンスの設置は本件工事の施行に当たって危険防
止,騒音防止等の観点から当然行わなければならないものであり,本件
工事契約自体に含まれるものであるから仮囲い工事は不必要な工事で
あると主張する。
       しかし,前記(2)オ(オ)のとおり,本件工事契約の仕様書には,バリケード等
の設置により工事区域を明確にすることとされているにすぎず,本件変
更契約で必要とされた仮囲いと同等程度のものを設置することが本件工
事契約の内容になっていたと認めることはできない。そして,前記(2)キの
とおり,本件工事契約で予定されていた任意仮設と一部重複することか
ら,仮囲い工事に必要な費用の全額を六日町が負担することは過剰な負
担であるとして,Aの見積額から任意仮設費用相当額を減額した上で本
件再変更契約を締結しているのであるから,本件の仮囲い工事が不必
要な工事であるということはできないし,その費用を六日町が負担するこ
とが不必要な費用負担であるということもできない。
     b 次に,原告は,本件工事契約締結前に本件建物にアスベストが使用されて
いるかどうかの調査を行い,本件工事に着手する前にアスベスト除去工
事を済ませておけば覆い工事は不必要であったと主張する。
       しかし,覆い工事は本件建物にアスベストが使用されていることが判明した
ことにより必要となったものであって,本件工事契約に含まれないことは
明らかであるし,本件工事に着手する前にはアスベスト除去工事は行わ
れていないのであるから,覆い工事が不必要であったということはできな
い。
     c さらに,原告は,覆い工事は六日町がCとの間で締結したアスベストを除去
する工事請負契約に含まれるものであるから不必要であると主張する。
       しかし,アスベスト粉じんの飛散を防止するために緊急に必要となるものであ
るから,Cのアスベスト除去工事の着手を待つのではなく緊急に行う必要
があるし,前記(2)クのとおり,アスベスト除去工事においてもAが設置し
た仮囲い及び覆いが生かされているのであるから,アスベスト除去工事
と重複する不要なものであるということはできない。
   イ 本件再変更契約について
     本件再変更契約は,アスベスト除去のために本件工事の工事期間が延長され
たことによりAに生じた増加費用を六日町が負担することを内容とする契約で
あり,具体的には,前記(2)ケの(ア)ないし(カ)の増加・減少費用についての契
約である。
     本件変更契約において検討したのと同様,被告は,被告自身又はAの費用でア
スベスト除去のために要した費用を負担すべき財務会計法規上の義務を負う
ものではなく,その点で,本件再変更契約に違法はない。
     そうすると,アスベスト除去のために本件工事の工事期間が延長されたことによ
り生じた費用を合理的な範囲内で六日町が負担することもやむを得ないもの
であるが,原告は,本件再変更契約の内容をなす足場損料の負担等が本件
変更契約と重複するなどと主張し,本件再変更契約が違法であると主張する
ので,以下,検討する。
    (ア) 風雨による仮囲い及び覆いの破損復旧工事費用及びその破損に伴う単管
パイプ全損費用について
      原告は,本件変更契約の時点で本件工事が長期間待機を余儀なくされること
や仮囲い等が長期間存置することが見込まれたはずであるから,その期間
耐久する資材を使用すべきであり,破損部分の復旧のための費用を六日
町が負担することは違法であると主張する。
      しかし,弁論の全趣旨によると,①復旧を行った箇所の大部分は,解体部の
覆いの水平部分であって,通常の建設工事の仮設足場のように躯体に隣
接して垂直に設置しているものではなく,しかも,覆いの設置には緊急を要
し,応急的に設置したものであったため,結果として雨水がたまりやすい形
状になってしまったことがやむを得ないと判断されたこと,②復旧箇所は,
地上から見えない場所であり通常の管理の範囲を超えていることなどから
破損部分の復旧に係る費用を六日町が負担することもやむを得ないと判断
したことが認められる。
      このような判断は,地方公共団体の長の合理的な裁量に属するといえ,上記
のような判断も不合理ということはできない。
      また,前記(2)ケ(ア)のとおり,仮囲いの破損は,アスベスト除去工事の実施に
より工事期間が延長になったために風雨により破損したものであるところ,
六日町側の事情で工事期間が延長になったことによる破損であるから,こ
れを六日町が負担するとしたことも不合理ということはできない。
      したがって,上記費用を六日町が負担するとした本件再変更契約が違法とい
うことはできない。
    (イ) 足場損料の追加について
      原告は,本件工事の工期が本件変更契約によって平成11年10月31日まで延
長されたことにより,足場損料も本件変更契約に含まれるため,本件再変
更契約でその追加をする必要はないと主張する。
      しかし,前記(2)キ,ケのとおり本件変更契約では,ある程度の余裕をみて工期
を平成11年10月31日までとしたものの,シートフェンスの設置については
必要期間が明確となっていなかったことから,本件変更契約の段階では,1
か月分だけの足場損料を負担することとし,本件再変更契約で最終的な清
算をすることとしたのであるから,原告が主張するように足場損料は変更契
約に含まれるために本件再変更契約でその追加をする必要がないなどとい
うことはできない。
    (ウ) 工事中止による待機について
      原告は,平成11年6月3日の待機料は本件変更契約の増額代金額に含まれ
るはずであるから,待機料を六日町が負担することは違法であると主張す
る。
      この待機料は,前記(2)カ,ケ(イ)のとおり,原告の指摘等により平成11年6月3
日の早朝に本件工事の中止が急に決定されたため,同日すでに手配して
いた労務及び重機等が無駄になったことに伴うものであるが,六日町が急
遽本件工事の中止を指示したことにより,Aは当初予定していた工事を行う
ことができず,手配済みの重機等に係る費用相当額の損害がAに発生する
のであるから,その分の費用を六日町が負担することも不合理とはいえず,
これを違法ということはできない。
    (エ) 重機運搬費用について
      原告は,本件変更契約によって,本件工事はアスベスト除去工事の間を縫っ
て行われることが明白であり,それに伴う重機の搬出入の増加も予想の範
囲内であるから六日町が重機運搬費用を負担することは違法であると主張
する。
      しかし,前記(2)キのとおり,本件変更契約は,仮囲い工事及び解体部覆い工
事による増加費用分のみを対象としていたにすぎず,アスベスト除去工事
が行われることによる重機の運搬費用の増加分を想定して本件変更契約
を締結しているものとはいえないから,本件変更契約と重複する不必要な
契約であるということはできない。そして,本件契約では予定されていなかっ
た作業により費用が増加したのであるから,これを六日町が負担するとする
ことも不合理とはいえない。
      したがって,重機運搬費用を六日町が負担することとしたことに違法はないと
いうべきである。
     以上のとおり,本件再変更契約にはいずれも違法はないというべきであり,原告
の主張を採用することはできない。
第4 結論
   よって、原告の本件請求は理由がないから、いずれも棄却することとし、訴訟費用
の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して主文のとおり
判決する。
   新潟地方裁判所第2民事部
       裁判長裁判官    犬飼眞二
  裁判官    大野和明
  裁判官    加藤 聡

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛