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平成19年12月26日判決言渡
平成19年(行ケ)第10209号審決取消請求事件(第1事件)
平成19年(行ケ)第10210号審決取消請求事件(第2事件)
平成19年10月31日口頭弁論終結
判決
原告小林製薬株式会社
訴訟代理人弁護士深井俊至
同横井康真
訴訟代理人弁理士中田和博
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人関口剛
同岩井芳紀
同大場義則
主文
1特許庁が不服2006−14969号事件について平成19年4月
23日にした審決,及び不服2006−14970号事件について平
成19年4月23日にした審決をいずれも取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文第1項と同旨
第2争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
(1)第1事件
原告は平成17年11月25日別紙審決書(1)の写しの別紙1本願,,「
意匠」記載の意匠(実線で示された部分が部分意匠として登録を受けようと
する部分である以下本願部分意匠というについて意匠に係る物品。「」。),
を「包装用容器」として,意匠登録出願をした(意願2005−34844
号,以下「本願(1)」という)が,平成18年6月7日付けの拒絶査定を受。
けたので,同年7月12日,これを不服として審判請求をした(不服200
)。,,「,6−14969号特許庁は平成19年4月23日本件審判の請求は
成り立たないとの審決以下審決(1)というをしその謄本は同。」(「」。),,
年5月14日,原告に送達された。
(2)第2事件
原告は平成17年11月25日別紙審決書(2)の写しの別紙1本願,,「
意匠記載の意匠以下本願全体意匠というについて意匠に係る物」(「」。),
品を「包装用容器」として,意匠登録出願をした(意願2005−3484
8号,以下「本願(2)」という)が,平成18年6月7日付けの拒絶査定を。
受けたので,同年7月12日,これを不服として審判請求をした(不服20
06−14970号。特許庁は,平成19年4月23日「本件審判の請求),
,。」(「」。),,は成り立たないとの審決以下審決(2)というをしその謄本は
同年5月14日,原告に送達された。
2審決の理由について
(1)第1事件
別紙審決書(1)の写しのとおりである。
,,後記第4の3で述べるとおり審決(1)の理由は必ずしも明らかでないが
審決書(1)には以下の趣旨が記載されたものと解した上で検討する。
ア本願部分意匠は,全体を筒型の容器の口部に塗布具部を設けたものとす
る包装用容器の上約半分の位置及び範囲に係る部分意匠であって,その部
分の形態を容器本体を断面形状の丸い筒体とし同筒体を側面視略,「」,,
直角三角形状で,上方に向けて漸次絞り上げ,その先端に容器本体の径よ
り小径で短円筒形の「口部」を約60度の傾斜角度で形成し,同口部にそ
れよりかなり大径で厚い円盤状の「塗布具部」をはめ込んで設け,同塗布
具部に,底部を開放した円盤状で周側面に滑り止め用ギザを形成し,上面
を緩やかな湾曲面に形成した態様の「キャップ」を被せた構成態様とする
ものである。
イ本願部分意匠は本願(1)の出願前に公然知られた意匠後記(3)ウの意,(「
匠3の上約半分の部分と容器本体口部に対する塗布具部とキャップの」),
径の比率を除いて,共通する。
ウ包装用容器の分野において,容器本体口部よりも塗布具部の径が大きな
包装用容器は,本願(1)の出願前に公然知られた形状(後記(3)アの「意匠
1」及び同イの「意匠2)であり,本願部分意匠は,本願(1)の出願前よ」
り公然知られた意匠3の塗布具部の径をやや大きくして,包装用容器とし
,,て表しその上側約半分すなわち塗布具部から容器本体肩部までの部分を
意匠登録を受けようとする部分とした程度にすぎず,当業者において容易
に創作できるものと認められるから,本願部分意匠は,意匠法3条2項の
規定により意匠登録を受けることができない。
(2)第2事件
別紙審決書(2)の写しのとおりである。
,,後記第4の3で述べるとおり審決(2)の理由は必ずしも明らかでないが
審決書(2)には以下の趣旨が記載されたものと解した上で検討する。
ア本願全体意匠は,全体を筒型の容器の口部に塗布具部を設けたものとす
る包装用容器であって容器本体を断面形状の丸い筒体とし同筒体の,「」,
上約半分の部分を,側面視略直角台形状で,上方に向けて漸次絞り上げつ
つ,その先端に容器本体の径より小径で短円筒形の「口部」を約60度の
傾斜角度で形成し,同口部にそれよりかなり大径で厚い円盤状の「塗布具
部」をはめ込んで設け,同塗布具部に,底部を開放した円盤状で周側面に
滑り止め用ギザを形成し,上面を緩やかな湾曲面に形成した態様の「キャ
ップ」を被せた構成態様とする。
イ本願全体意匠は本願(2)の出願前に公然知られた意匠後記(3)ウの意,(「
」),,匠3と容器本体口部に対する塗布具部とキャップの径の比率を除いて
共通する。
ウ包装用容器の分野において,容器本体口部よりも塗布具部の径が大きな
包装用容器は,本願(2)の出願前に公然知られた形状(後記(3)アの「意匠
1」及び同イの「意匠2)であり,本願全体意匠は,本願(2)の出願前よ」
り公然知られた意匠3の塗布具部の径をやや大きくして,包装用容器とし
て表した程度にすぎず,当業者において容易に創作できるものと認められ
るから,本願全体意匠は,意匠法3条2項の規定により意匠登録を受ける
ことができない。
(3)引用意匠について
審決(1)及び(2)は,それぞれ本願(1)又は(2)の出願前に公然知られた形状
を示すものとして,下記意匠を引用した。
ア意匠1(以下「意匠1」という)。
意匠登録第1014164号公報甲11記載の意匠別紙審決書(1)()(
及び(2)の各写しの「別紙第2意匠1」記載の意匠)
イ意匠2(以下「意匠2」という)。
意匠登録第1142539号公報甲12記載の意匠別紙審決書(1)()(
及び(2)の各写しの「別紙第3意匠2」記載の意匠)
ウ意匠3(以下「意匠3」という)。
特許庁総合情報館が2000年9月22日に受け入れた内国雑誌「DI
ME2000年9月21日19号147頁右上所載包装用容器の」,,,,
意匠(特許庁意匠課公知資料番号第HA12010944号〔甲13の1
及び2参照別紙審決書(1)及び(2)の各写しの別紙第4意匠3記載〕,「」
の意匠)の,模様を除く形状の意匠
,「」,「」,なお審決書(1)の2頁24行の別紙第1同頁26行の別紙第2
同頁29行の「別紙第3」は,それぞれ「別紙第2「別紙第3「別紙第」,」,
4」の誤記と認める。
第3取消事由に係る原告の主張
1審決(2)(本願全体意匠に係る審決)の認定判断の誤り
審決(2)は本願全体意匠の創作の基礎として意匠3を挙げ意匠1及び2に,,
は「口部」の径に比べて径の大きい「塗布具部」が開示されていることから,
意匠3の「塗布具部」及び「キャップ」の径を大きくすることによって,本願
全体意匠は容易に創作できると判断した。
,,,,しかし審決(2)は以下のとおり①本願全体意匠の重要な特徴を看過し
②意匠3の「塗布具部」の径を意匠1及び意匠2に示されるようにやや大きく
,。することにより直ちに本願全体意匠を創作できると判断した点に誤りがある
(1)本願全体意匠は「塗布具部」及び「キャップ」を「口部」に対して径を,
大きくしながらも側面視した場合にキャップが容器本体部から飛び出,,「」
したり,頭部が大きすぎるとの印象を与えないような均整の取れたプロポー
ションを有し優れた美感を与える構成を有する審決(2)はかかる本願全,。,
体意匠の重要な特徴を看過した誤りがある。
(2)意匠1及び2は「口部」の径に比べて「塗布具部」及び「キャップ」が,
大きな容器が存在することを示しているにすぎず,どのような基準で大きく
するかという美的観点を示唆するものでない。また,意匠1はガラス撥水剤
充填用容器,意匠2は窓ガラスの撥水剤等を塗布するための容器であり,い
ずれも被塗布面がガラスであることから「塗布面」を大きくし「口部」の,,
傾斜を緩やかにしたものであってキャップが飛び出さないようにすると,「」
か,頭部が大きすぎないようにするという美観を示唆するものではなく,む
しろ頭部を大きくするという観点を示唆させる。
このように,プロポーションをいかにするかという美的な観点からの示唆
がないにもかかわらず,意匠3の「塗布具部」及び「キャップ」の径を,意
匠1又は2に示されるように大きくしても,本願全体意匠を創作することは
できない。
2審決(1)(本願部分意匠に係る審決)の認定判断の誤り
審決(1)は,審決(2)と同様に,本願部分意匠の創作の基礎として意匠3を挙
げ,意匠1及び2は「口部」の径に比べて径の大きい「塗布具部」が開示され
ていることから,意匠3の「塗布具部」及び「キャップ」の径を大きくするこ
とによって,本願部分意匠は容易に創作できると判断した。
しかし,審決(1)は,審決(2)と同様に,①本願部分意匠において,側面視し
た場合にキャップが容器本体部から飛び出したり頭部が大きすぎるとの,「」,
印象を与えないような均整の取れたプロポーションを有し,優れた美感を与え
る構成を有する点の重要な特徴を看過した誤りがあり,また②意匠1及び意匠
2はキャップが飛び出さないようにするとか頭部が大きすぎないように,「」,
するという美的観点を示唆するものでないにもかかわらず,意匠3の「塗布具
部」の径を,意匠1又は2に示されるようにやや大きくすることにより,直ち
に本願部分意匠を創作できるというという判断をした点で誤りがある。
第4取消事由に係る被告の反論
審決(1)及び(2)の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理
由がない。
1審決(2)(本願全体意匠に係る審決)の認定判断の誤りに対し
(1)審決(2)の認定した本願全体意匠の特徴は,原告の主張に係る特徴と実質
的に一致するしたがって審決(2)に本願全体意匠の特徴についての認定。,,
上の誤りはない。
(2)意匠1及び2は「口部」の径に比べて「塗布具部」及び「キャップ」が,
大きく,かつ,傾斜して形成されている容器に関する公知の意匠である。こ
れらの公知の意匠によればこの種の物品の分野において口部の径より,,「」
「塗布具部」及び「キャップ」部の径を大きく,かつ,傾斜して形成するこ
と口部の径に比べて塗布具部及びキャップ部を大きくする着想,「」「」「」
ないし手法が存在することは,公知である。
「塗布具部」及び「キャップ」の径を大きくする着想ないし手法が存在す
るのであるから当業者であればこのような着想ないし手法に基づいて塗,,「
布具部」及び「キャップ」を「口部」の径より大きくするに当たり,側面視
した場合に「キャップ」が容器本体部から飛び出したりしない程度に「塗,,
布具部」及び「キャップ」の径を大きくすることは,容易である。
2審決(1)(本願部分意匠に係る審決)の認定判断の誤りに対し
(1)審決(1)の認定した本願部分意匠の特徴は,原告の主張に係る特徴と実質
的に一致するしたがって審決(1)に本願部分意匠の特徴についての認定。,,
上の誤りはない。
(2)審決(1)における創作容易性の判断に誤りがないことは前記1(2)と同様,
である。
第5当裁判所の判断
1審決(2)(本願全体意匠に係る審決)について
(1)本願全体意匠と意匠3との対比
ア本願全体意匠は,全体を筒型の容器の口部に塗布具部を設けたものとす
る包装用容器であって容器本体の断面形状につき前方を狭くし後,「」,,
方を広くした略長円形状の筒体とし,同筒体の上約半分の部分を,側面視
略直角三角形状で,前方は,約60度の傾斜角度で,上方に向けて漸次絞
り上げ,後方頂に丸みを持たせ,同筒体の先端に容器本体の径よりやや小
径で短円筒形の「口部」を約60度の傾斜角度で形成し,同口部にそれよ
りかなり大径で厚い円盤状の「塗布具部」をはめ込んで設け,同「塗布具
部」に,底部を開放した円盤状で,周側面全体にわたり,底部方向から2
分の1部分のみに滑り止め用縦ギザを施し,上面を緩やかな湾曲面に形成
した形状のキャップを被せた形状であるそして容器本体の口部に「」。,「
連続する部分」と「キャップ」との径の比率は,約1対1.7である。ま
た,キャップの縦(頭頂から底までの長さ)と横(直径)との比率は,約
,。,,「」1対2であり横長の印象を与えるまた側面視においてキャップ
の先端部は,容器本体部前面を結ぶ直線の延長線より前方に突き出してお
らず,ほぼ延長線上に位置する(この点は,当事者間に争いない。。)
イ他方意匠3は審決書(2)の別紙第4審決書(1)の別紙第4及,,「」(「」
び甲13の12の意匠3も同じにおいて側面形状以外の形状が写,「」。)
し出されていないため,その立体形状を把握することは困難であるが,弁
論の全趣旨を総合考慮すると,以下のとおり認められる。意匠3は,全体
を筒型の容器の口部に塗布具部を設けたものとする包装用容器と推認さ
れ容器本体の断面形状については筒体と推認され正確な形状は把,「」,(
握できない,同筒体の上約半分の部分を,側面視略直角三角形状で,前。)
方を約60度の傾斜角度で,上方に向けて漸次絞り上げ,その先端に容器
本体の径より小径で短円筒形の「口部」を約60度の傾斜角度で形成し,
同口部塗布具部が設けられていると推認されるに円盤状で周側面の(。),
ほぼ全体に滑り止め用縦ギザを形成し,上面を全体として平板な印象を与
える湾曲を形成したキャップを被せた形状である容器本体の口部に「」。「
連続する部分」と「キャップ」との径の比率は,約1対1であり,そのた
,「」,。,め容器本体とキャップに至る段差はほとんど看取できないまた
()(),.キャップの縦頭頂から底までの長さと横直径の比率は約1対1
2であり縦長の印象を与えるまた側面視においてキャップの先,。,,「」
端部は,容器本体部前面を結ぶ直線の延長線より前方に突き出している。
ウ本願全体意匠と意匠3とを対比すると,全体を筒型の容器の口部に塗布
,,具部を設けたものとする包装用容器であって同筒体の上約半分の部分を
側面視略直角三角形状であり,前方を約60度の傾斜角度で,上方に向け
て漸次絞り上げ,その先端に容器本体の径よりやや小径で短円筒形の「口
」,,,部を約60度の傾斜角度で形成し同口部に底部を開放した円盤状で
周側面に,滑り止め用ギザを形成させ,上面を緩やかな湾曲面に形成した
態様の「キャップ」を被せた態様である点において共通する。
しかし本願全体意匠と意匠3とは①前者が容器本体の断面形状,,,「」
につき,前方を狭くし,後方を広くした長円形状の丸い筒体としているの
に対して,後者は,筒体であることは推認されるものの,その正確な断面
形状は不明であること,②「キャップ」の形状について,前者が,底部を
開放した円盤状で,周側面全体にわたり,底部方向から2分の1部分のみ
に滑り止め用ギザを形成させ容器本体の口部に連続する部分とキ,,「」「
ャップとの径の比率は約1対17でありキャップの縦頭頂か」,.,「」(
ら底までの長さ)と横(直径)の比率は,約1対2であり,横長の印象を
与えるのに対し,後者が,円盤状で周側面のほぼ全体に滑り止め用ギザを
形成させ容器本体の口部に連続する部分とキャップとの径の比率,「」「」
は,約1対1であり,そのため,容器本体と「キャップ」に至る段差は,
ほとんど看取できずまたキャップの縦頭頂から底までの長さと,,「」()
横(直径)の比率は,約1対1.2であり,縦長の印象を与えること,③
側面視におけるキャップと容器本体の関係について前者はキャッ「」,,「
プ」の先端部において,容器本体部前面の延長線より前方に突き出してい
ないのに対し後者はキャップの先端部は容器本体部前面を結ぶ直,,「」,
線の延長線より前方に突き出している点において,大きく異なる。
(2)意匠1及び意匠2の形状
意匠1は,窓ガラスの撥水剤,せっけん類,つや出し剤,薬剤,化学剤を
対象物に塗布するために使用するための「塗布具付き包装容器」に係る意匠
であるが,円筒状の「容器本体」の上方を約30度の傾斜角度で形成し,そ
の先端に容器本体より小径の円筒状の口部を設け同口部よりも大径約「」,(
1.5倍)の円盤状の「塗布具部」をはめ込んで設け,これとほぼ同径の円
,「」。,盤状のねじ込み式キャップを取り付けた形状である正面視において
「キャップ」の先端部は,容器本体部前面を結ぶ直線の延長線より前方に大
きく突き出している。
意匠2は,自動車の窓ガラス等のガラス面に塗布されるガラス撥水剤を充
填するための「ガラス撥水剤充填用容器」に係る意匠であるが,やや丸みを
帯びた底面長方形の「容器本体」の上方を約20度の傾斜角度で形成し,そ
「」,(.の先端に容器本体より小径の円筒形の口部を設け同口部より大径2
3倍)の円盤状の「塗布具部」をはめ込んで設け,これとほぼ同径の円盤状
,「」。「」でねじ込み式円盤状のキャップを取り付けた形状であるキャップ
の先端部は,正面視において,容器本体部前面を結ぶ直線の延長線より前方
に突き出しており,また,側面視においては,容器本体側面を結ぶ延長線よ
り左右に大きく付き出している。
(3)本願全体意匠の特徴及び創作容易性
ア本願全体意匠はキャップの径を口部正確には容器本体の口部に,「」(,
連続する部分)の径に対して1.7倍として,径方向に大きく拡大させ,
またキャップの縦と横の直径の比率を約1対2として径方向に大き,「」,
く拡げて,塗布具部表面の面積を広く確保している点で特徴があるが,そ
のような特徴があるとともにキャップの縦の長さを極力短く抑えてい,「」
ること,滑り止め用縦ギザを「キャップ」の周側面の底部方向から2分の
1部分のみに施していることキャップ上面は緩やかな丸みを帯びた形,「」
状としていることキャップの径を容器本体の前後幅とほぼ同じ長さと,「」
していることなどの点においてキャップを径方向に大きく拡大させた,「」
,,,,ことに由来する欠点すなわち頭部が目立ちすぎて威圧感を与えたり
容器形状として異様な印象を与えたり,容器との調和を乱したりするなど
の欠点を解消させ,均衡を保つための美観上の工夫が様々施されており,
そのような点でも特徴があるといえる。
イ意匠1及び意匠2によれば,包装用容器の分野において,容器本体口部
よりも塗布具部の径が大きな包装用容器が本願(2)の出願前より公然知ら,
れていたことが認められる。
しかし本願全体意匠と意匠3を対比すると前記(1)ウのとおりの美観,,
上の相違があり,また,本願全体意匠は上記アのとおりの各特徴を備えて
いる点に照らすならば,本願全体意匠は,多様なデザイン面での選択肢か
ら,創意工夫を施して創作したものであるから,意匠3を基礎として,意
匠1及び意匠2(容器本体口部よりも塗布具部の径が大きな公知の包装用
容器に係る意匠)を適用することによって,本願全体意匠を容易に創作す
ることができたはいえない。
(4)小括
以上のとおりであるから審決(2)が意匠1及び意匠2から包装用容器,,,
の分野において,容器本体口部よりも塗布具部の径が大きな包装用容器は,
本願(2)の出願前に公然知られた形状であり意匠3を基礎として塗布具部,,
の径をやや大きくして,本願全体意匠とすることは,容易に創作することが
できたと判断したことには誤りがある。
2審決(1)(本願部分意匠に係る審決)について
(1)本願部分意匠は包装用容器の上約半分の部分に係る部分意匠であるほか,
は,本願全体意匠と同様の構成を有する。また,側面視した場合に「キャッ
プ」が容器本体部から飛び出していないという構成を有し,この点が美感に
かかわるものであることは,被告も争わない。
(2)審決(1)についての当裁判所の判断は,前記1と同様である。
すなわち「本願部分意匠と意匠3との対比」については,前記1(1)記載,
のとおりでありただし容器本体の断面形状につき前方を狭くし後(,「」,,
方を広くした略長円形状であるとの認定部分を除く意匠1及び意匠2に。),「
ついては前記1(2)のとおりであり本願部分意匠の特徴及び創作容易性」,,
については,前記1(3)のとおりである(ただし「キャップ」の径を容器本,
体の前後幅とほぼ同じ長さにしているとの認定部分を除く。。)
(3)以上のとおりであるから,審決(1)が,意匠1及び意匠2から,包装用容
,,器の分野において容器本体口部よりも塗布具部の径が大きな包装用容器は
本願(1)の出願前に公然知られた形状であり意匠3を基礎として塗布具部,,
の径をやや大きくして,本願部分意匠とすることは,容易に創作することが
できたと判断したことには誤りがある。
3付言(審判の審理構造及び審理対象に関して)
意匠登録出願に係る拒絶査定に対する審判の審理の対象は,意匠法17条所
定の意匠登録を拒絶すべき事由が存在するか否かである。審判の対象は,審査
の過程で審査官が発した「拒絶理由の通知」の当否でもなく,また,拒絶査定
に係る拒絶理由の当否でもなく,さらに,請求人の主張の当否でもない。この
点は,審判体において,自ら意匠登録をすべき旨の審決ができること(意匠法
50条2項拒絶査定の理由と異なる理由で拒絶すべき旨の審決をすることが),
できること(同条3項)等の法条が設けられていることから明らかである。
審判体において,拒絶査定不服審判の請求が成り立たないとの結論を導くた
めには,意匠法17条所定の条項(例えば同法3条1項,2項など)のいずれ
かに該当する理由(該当するとの判断に至った論理の過程)を明示することを
要する。そして,同条項に該当すると判断するに至った論理の過程を明示する
ということは,審判体において,①前提となる法律の解釈に疑義がある場合に
は,当該法条の解釈を示すこと,②法条の要件に該当する事実が存在すること
を明らかにすること,③事実を法条に適用した結果として,意匠法17条所定
の条項(例えば同法3条1項,2項など)に該当するとの論理の過程が成り立
。,,つ点を明示することを含む審判体はこの論理過程を説明する責任を負担し
文書をもって明示することを要する(意匠法52条,特許法157条。)
,,「」,「」ところで審決書(1)及び(2)を見るとその理由には原審の拒絶理由
欄で拒絶査定に係る拒絶理由の要旨が記載され請求人の主張欄で拒絶,,「」,
査定を不服とする請求人の主張が記載され当審の判断欄の請求人の主張,「」「
の採否について」との項目で,請求人の主張の当否が記載され,同欄の「原審
の拒絶理由の妥当性について」との項目で,拒絶理由の当否が記載されてはい
るものの,審判体の判断の論理過程を直接的に示した記載部分はなく,結論と
して同欄の本願意匠の創作の容易性についてとの項目において以上の,「」,「
検討によれば,請求人の主張は採用することができず,原審の拒絶理由は妥当
であるから,本願意匠は,出願前に当業者が公然知られた形状に基づいて容易
に創作をすることができなものであるといわなければならない」との記載がさ
れているのみである。
このような審決書(1)及び(2)の理由記載は,その体裁だけで直ちに審決の違
法を来すとの結論を導くものであるか否かはさておき,審判体が,本願部分意
匠又は本願全体意匠が意匠法3条2項に該当すると判断した論理の過程を的確
に示したものということはできない。すなわち,審決書(1)及び(2)の理由は,
論理付けの根拠とは無関係かつ不要な事項を含み,審判体の判断の基礎となる
論理付けが明りょうでなく,審判の構造に対する誤った認識に基づいた判断で
あるとの疑念を生じさせるという意味において,妥当を欠くものといえる(特
に本件では,少なくとも拒絶理由通知における理由部分は,僅か5行ないし7
行からなるごく簡単で定型的な記載にすぎないから甲13の12審判,〔,〕,
体において,そのような理由が妥当であるとの判断に至ったからといって,当
然に,審判体としての結論に至る論理付けとして十分であるとすることはでき
ない。上記の趣旨は,一般の審決書における理由記載においても,同様に留。)
意を要すべき点であるといえる。
4結論
以上によれば,原告の本訴請求はいずれも理由があるから,主文のとおり判
決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官大鷹一郎
裁判官嶋末和秀
別紙審決書(2)(別紙審決書(1)は掲載を省略)
審決
不服2006−14970
請求人小林製薬株式会社
意願2005−34848包装用容器拒絶査定不服審判事件について次「」、
のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
1.本願意匠
本願意匠は、本意匠の表示を意願2005−34845号とする関連意匠とし
て、平成17年(2005年)11月25日に意匠登録出願されたものであって、
願書及び願書添付図面の記載によれば、意匠に係る物品を「包装用容器」とし、形
態を、別紙第1(本願意匠)に示す、下記のとおりとするものである。
すなわち本願意匠は全体を筒型の容器の口部に塗布具部を設けたものとする包、、
装用容器であって容器本体を断面形状の丸い筒体とし同筒体の上約半分の部、「」、
分を、側面視略直角台形状で、上方に向けて漸次絞り上げつつ、その先端に容器本
体の径より小径で短円筒形の「口部」を約60度の傾斜角度で形成し、同口部にそ
れよりかなり大径で厚い円盤状の「塗布具部」をはめ込んで設け、同塗布具部に、
底部を開放した円盤状で周側面に滑り止め用ギザを形成し、上面を緩やかな湾曲面
に形成した態様の「キャップ」を被せた構成態様とするものである。
2.原審の拒絶理由
本願意匠に対して原審が行った拒絶査定に係る拒絶理由の要旨は以下のとおり、
である。
(A)包装用容器の分野において容器本体口部よりも塗布具部の径が大きな包装、
用容器は、本願出願前に公然知られた形状(下記の意匠1及び意匠2)であってみ
、、(、れば(B)本願意匠は本願出願前より公然知られた包装用容器下記の意匠3の
模様を除く形状の意匠)の塗布具部の径をやや大きくして、包装用容器として表し
た程度にすぎず、当業者において容易に創作できるものと認められる。
(C)したがって本願意匠は出願前に当業者が公然知られた形状に基づいて容、、
易に創作をすることができたものと認められるから、意匠法第3条第2項の規定に
該当し、意匠登録を受けることができない。
(意匠1)特許庁発行の意匠公報所載、意匠登録第1014164号の意匠・・
・別紙第2
(意匠2)特許庁発行の意匠公報所載、意匠登録第1142539号の意匠・・
・別紙第3
(意匠3)特許庁総合情報館が2000年9月22日に受け入れた内国雑誌「D
IME2000年9月21日19号第147頁右上所載包装用容器の意匠特」、、(
許庁意匠課公知資料番号第HA12010944号・・・別紙第4)
3.請求人の主張
上記拒絶理由に基づく拒絶査定を不服として本件審判を請求した請求人の主張の骨
子は、以下のとおりである。
(ア)原審が引用した意匠1及び2の具体的意匠において塗布具部の径が口部よ、
りも大きいという具体的構成が開示されているものの、これらに見られる具体的形
状は、部分的に対比して見ても、本願意匠に表されたいかなる部分とも同一でもな
ければ、類似しているものでもない。
(イ)意匠1及び2には塗布具部の径の比率を適宜変更するといった手法は開示、
も示唆もされておらず、当該分野においてありふれた手法であるといった事実は、
これら意匠からは何ら具体的に示されていない。
(ウ)意匠3の塗布具部は高さと直径が近似した円筒としての印象を強く与える、
のに対して、本願意匠の当該部分は丸みの強い円盤のような印象を与えるものとな
っている。このプロポーションの差異は、美感の表れとしては別異感を強く与える
ものと言え、意匠3の塗布具部をそのまま本願意匠に転用したものではない。
(エ)したがって本願意匠は意匠12及び3に基づいて当業者が容易に創作、、、
をすることができたものではないので、原査定は取消されるべきである。
4.当審の判断
、、、、そこで請求人の主張の採否ならびに原審の拒絶理由の妥当性について検討し
本願意匠の創作の容易性について判断する。
(1)請求人の主張の採否について
、。、まず前記請求人の主張の骨子(ア)について検討する原審拒絶理由においては
意匠1及び2を包装用容器の容器本体口部よりも塗布具部の径をやや大きくする、「
創作の着想ないし手法が当業者において容易なものである」と考えられることを、
口部より塗布具部の径をやや大きくした形状の出願前公然知られた意匠が存在する
証拠をもって示すために挙げていることがその論旨から明らかであり、本願意匠の
具体的な形状に対する意匠1及び2の形状の同一性又は類似性を何ら問題としてい
るものではない。
したがって請求人の(ア)の主張は主張は当を得ないものであるといわなけれ、、
ばならない。
次に主張(イ)について検討すると意匠1及び2はいずれも包装用容器の容器、、「
本体口部よりも塗布具部の径をやや大きくしたもの」であることが各図面に記載さ
れた意匠から明白に認識することができるものである。そして、両意匠は意匠公報
に掲載されたものであって、意匠公報は特許庁が登録意匠を社会に広く知らしめる
目的で発行・頒布しているものであり、両意匠に係る公報は本願出願よりかなり前
から発行された(平成10年・14年)ものであるから、これらの証拠により、本
願出願前に「包装用容器の容器本体口部よりも塗布具部の径をやや大きくする創作
の着想ないし手法が当業者において容易なものである」と、優に認めることができ
る。
よって、請求人の(イ)における主張を採用することはできない。
次に主張(ウ)について検討すると原審拒絶理由においては意匠3を前記1で、、、
認定した本願意匠の構成態様の内の全体を筒型の容器の口部に塗布具部を設けた、『
ものとする包装用容器であって容器本体を断面形状の丸い筒体とし同筒体の、「」、
上約半分の部分を、側面視略直角台形状で、上方に向けて漸次絞り上げつつ、その
「」、先端に容器本体の径より小径で短円筒形の口部を約60度の傾斜角度で形成し
同口部に「塗布具部」をはめ込んで設け、同塗布具部に、底部を開放し周側面に滑
り止め用ギザを形成し、上面を緩やかな湾曲面に形成した態様の「キャップ」を被
せた構成態様とするもの』としての、本願出願前に公然知られた意匠の証拠として
挙げていることがその論旨から明らかである。端的にいえば、本願意匠の創作のベ
ースといえる意匠の証拠として意匠3を挙げたものである。したがって、請求人が
主張するような、両意匠に係る塗布具部のプロポーションの違いはここでは問題に
(、。)、はならずそのプロポーションの違いは意匠1及び2に関する問題としている
「別異感」に係る類似性の問題でも、また「転用」の問題でもない。
、。よって請求人の(ウ)の主張も当を得ないものであるといわなければならない
以上の検討によれば結論に係る(エ)の主張についてはその前提となる(ア)ない、、
し(ウ)の主張がいずれも当を得ないもの又は採用できないものであるから、採用の
限りではない。
(2)
原審の拒絶理由の妥当性について
まず、前記拒絶理由の(A)の部分で述べる点の妥当性について検討する。
意匠1及び2によれば「包装用容器の分野において、容器本体口部よりも塗布、
具部の径が大きな包装用容器は、本願出願前に公然知られた形状であった」事実を
是認することができる。
よって、(A)で述べる点については妥当である。
次に(B)で述べる点の妥当性については本願意匠は本願出願前に公然知ら、、、
れた意匠3(模様を除く形状の意匠)と、容器本体口部に対する塗布具部とキャッ
、、プの径の比率を除いて前記請求人の主張(ウ)についての検討の項で述べたとおり
共通するものであり、また、本願意匠の塗布具部とキャップの径を口部よりもやや
大きくすることは、(A)で認められる上記事実から、当業者において容易に想到す
ることができる着想ないし手法であると認められる。
そうすると、(B)で述べるとおりの「本願意匠は、本願出願前より公然知られ、
た包装用容器の塗布具部の径をやや大きくして、包装用容器として表した程度にす
ぎず当業者において容易に創作できるものと認められることを是認することが、。」
できる。
よって、(B)で述べる点についても妥当である。
そうすると(A)及び(B)がいずれも妥当であるといえるから結論に係る(C)、、
において、本願意匠に対し、意匠法第3条第2項の規定を適用し、意匠登録を受け
ることができない、としたことも妥当である。
(3)本願意匠の創作の容易性について
以上の検討によれば請求人の主張は採用することができず原審の拒絶理由は、、
妥当であるから、本願意匠は、出願前に当業者が公然知られた形状に基づいて容易
に意匠の創作をすることができたものであるといわなければならない。
5.むすび
したがって本願意匠は意匠法第3条第2項の規定に該当し意匠登録を受け、、、
ることができない。
よって、本件審判の請求は成り立たないものとすべきである。
平成19年4月23日
審判長特許庁審判官
特許庁審判官
特許庁審判官

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